「畳数で選ぶ」の先にある計算
エアコンのカタログには畳数が書いてある。10畳の部屋なら10畳用を買えばいい——家庭ならそれで概ね正しい。だが最上階の南西角部屋で、窓が大きく、日中ずっと日が当たる部屋に10畳用を入れると、真夏の午後だけ室温が下がりきらない。逆に断熱等級の高い新築で同じ計算をすると、能力が余って除湿が効かず、じめっとした冷たい部屋になる。
畳数表は「標準的な断熱・標準的な方位・標準的な内部発熱」を前提にした平均値だ。平均から外れた部屋では、平均値の表は使えない。ここから先は計算の領域になる。
そして空調設計は、負荷を出したら終わりではない。熱源の容量を決め、その空気をダクトで運び、外気を入れ、湿度を整え、結露させない——これらは全部つながっていて、どれか1つが抜けると「計算どおりのはずなのに効かない」設備ができあがる。
この記事では、空調・換気設計で必要な計算を12の領域に整理し、それぞれの勘どころと無料ツールへのリンクをまとめた。設備設計1〜5年目の人が「次に何を計算すべきか」を確認するリファレンスとして使ってほしい。
なぜこの記事を書いたのか
空調の計算情報は、検索するとバラバラに出てくる。「冷房負荷 計算」で調べれば負荷の話だけ、「ダクトサイズ」で調べればダクトの話だけ。個々の解説は良質なのに、それらがどうつながっているかを示すページがない。
実務で起きるトラブルは、たいてい「つなぎ目」で起きる。負荷計算は正しいのに、外気負荷を足し忘れて熱源が足りない。ダクト径は適正なのに、機器の圧損を積み忘れてファンの静圧が足りず風量が出ない。冷房は効くのに、湿度が下がらず不快なまま。単体の計算が正しくても、順序と依存関係を外すと使えない設備になる。
もうひとつの動機は、負荷計算と機器選定の距離だ。「1kWあたり何畳」のような早見に頼ると、断熱・方位・内部発熱・換気量といった設計で動かせる変数が全部見えなくなる。窓を良くすれば機器を1ランク落とせるかもしれない、という判断ができるのは、負荷を分解して見たときだけだ。
この記事は、その分解の順番を示すために書いた。
空調・換気設計の全体像|12の計算領域
| # | 計算領域 | 主な検討内容 | 対応ツール |
|---|---|---|---|
| 1 | 熱負荷 | 冷暖房負荷、外皮性能、窓の影響 | エアコン能力選定シミュレーター/熱伝導シミュレーター/窓断熱リフォーム省エネ効果計算 |
| 2 | 熱源容量 | 必要容量・台数分割・冷却水量 | 熱源容量・台数分割計算ツール/冷却塔能力計算・選定ツール |
| 3 | 空気の状態 | 湿り空気線図での状態変化 | 湿り空気線図計算ツール |
| 4 | コイル能力 | 顕熱・潜熱の分担、水量、面積 | AHU冷却コイル 能力・面積チェッカー |
| 5 | 搬送(ダクト) | ダクト径・風速・圧力損失・必要静圧 | ダクトサイズ計算ツール/ファン静圧算定シミュレーター |
| 6 | 騒音 | ダクト消音器の挿入損失 | ダクト消音器 挿入損失計算 |
| 7 | 換気量 | 換気回数法・人員密度法・CO2基準 | 必要換気量計算シミュレーター/必要外気量・換気量計算ツール |
| 8 | 熱回収 | 全熱交換器の機種選定と回収量 | 全熱交換器(HRV/ERV)選定ツール |
| 9 | 湿度 | 必要加湿量・必要除湿量 | 必要加湿量計算・加湿器容量選定ツール/除湿機の必要能力・除湿量計算 |
| 10 | 結露 | 表面結露・壁体内結露の判定 | 結露・露点温度チェッカー/内部結露シミュレーター |
| 11 | 冷媒・サイクル | 冷媒配管径・追加充填量・COP | 冷媒配管サイジング計算/冷凍サイクルの成績係数COP・冷凍能力 計算(p-h線図) |
| 12 | 付帯設備 | 膨張タンク・制御盤の発熱 | 密閉配管 膨張タンク容量計算/制御盤 熱計算・冷却選定 |
設計フローと依存関係
空調設計は上流の負荷が下流のすべてを支配する。順序を外すと手戻りになる。
外皮・方位・内部発熱 ─→ ①熱負荷
↓
⑦換気量(外気負荷として①に戻る)
↓
②熱源容量 ─→ ④コイル能力
↓ ↓
⑤ダクト径 ─→ 必要静圧 ─→ ファン選定
↓
⑥騒音 ⑨湿度 ⑩結露 で成立を確認
特に注意すべき依存関係は3つ。
- 換気量(⑦)は負荷(①)の一部。外気を入れる以上、その空気を冷やす・暖める熱量が要る。換気量を後から増やすと熱源容量が足りなくなる
- ダクト径(⑤)と静圧はトレードオフ。ダクトを細くすれば天井懐は稼げるが、圧損が増えてファンの静圧と騒音(⑥)が上がる
- 能力が過大だと湿度(⑨)が悪化する。冷房は「冷やすついでに除湿する」機器なので、能力が余ると短時間で温度だけ下がって運転が止まり、湿気が残る
だから「負荷だけ計算した」「ダクトだけ引いた」では足りない。領域をセットで回すのが空調設計の基本になる。
①熱負荷計算|すべての出発点
冷房負荷 計算 とは
冷房負荷とは、室内を設定温度に保つために取り除く必要のある熱量[W]のこと。発生源は大きく分けて4つある。
- 外皮からの熱 — 壁・屋根・床を通って伝わる熱。外気温と室温の差 × 面積 ÷ 熱抵抗
- 窓からの日射 — ガラスを透過して直接入る熱。方位と時刻で大きく変わるうえ、外皮の伝導熱よりずっと大きくなることが多い
- 内部発熱 — 人体・照明・OA機器。会議室やサーバー室では支配的になる
- 外気負荷 — 換気で入ってくる外気を室内条件まで処理する熱。⑦の換気量がそのまま効く
たとえ話をするなら、冷房負荷は「浴槽の穴から漏れる水の量」だ。エアコンは蛇口で、穴(=負荷)より多く注げば水位(=室温)は保てる。断熱を良くするのは穴を小さくする作業で、機器を大きくするのは蛇口を太くする作業になる。穴が大きいまま蛇口だけ太くすると、電気代という水道代がずっとかかり続ける。
畳数表と負荷計算はどう違うか
エアコンの畳数表示は1964年ごろの住宅を基準にしている、という話は業界では有名だ。真偽はともかく、表示畳数が現代の断熱水準を反映していないのは確かで、断熱等級の高い住宅では表示より広い面積をまかなえる。一方、最上階・角部屋・大きな西窓といった条件では表示畳数でも足りない。
つまり畳数表は「平均的な部屋」の答えであって、目の前の部屋の答えではない。方位・断熱等級・窓面積・階の位置を入れて計算すると、同じ広さでも必要能力が1.5倍違うことは珍しくない。
→ エアコン能力選定シミュレーターは畳数・断熱等級・方位から必要能力を出す。「なぜその能力になるか」を負荷の内訳で確認できる
断熱を上げるか、機器を上げるか
負荷を分解すると、設計の選択肢が見えてくる。窓からの熱が全体の半分を占めているなら、機器を1ランク上げるより窓を改善するほうが根本的だ。窓のU値(熱貫流率)を下げれば冬の負荷も同時に下がり、結露リスク(⑩)まで改善する。
もちろん費用対効果の問題はある。内窓・窓交換・ガラス交換で費用も効果も違うので、年間の光熱費削減額と投資回収年数で比較するのが実務的だ。
→ 壁の層構成からU値と温度分布を見るなら熱伝導シミュレーター、窓の改善効果を金額で見るなら窓断熱リフォーム省エネ効果計算
②熱源容量と台数分割|1台で持つか、割るか
負荷が出たら熱源(チラー・ボイラー・ヒートポンプ)の容量を決める。ここで単純に「合計負荷=熱源容量」としないのが実務だ。
理由は部分負荷にある。空調が定格能力を必要とするのは、年間でごく短い時間だけ。ほとんどの時間は50%以下の負荷で運転している。1台の大型機で組むと、低負荷域で効率が落ちるうえ、その1台が故障したら全面停止になる。
だから同じ容量でも「1台×100%」ではなく「2台×60%」「3台×40%」のような台数分割を検討する。台数を増やすほど部分負荷効率と冗長性は上がるが、機器費・設置面積・制御の複雑さが増える。
冷却塔を使う系なら、冷却水量と湿球温度が容量を左右する。冷却塔の能力は乾球温度ではなく湿球温度で決まる——ここは空調設計で最初につまずくポイントだ。夏の設計湿球温度を1℃読み違えると、必要な冷却塔容量が変わる。
→ 熱源容量・台数分割計算ツールで必要容量と台数分割案、冷水・冷却水流量を出し、冷却塔能力計算・選定ツールで湿球温度から公称冷却トンを確認できる
③湿り空気線図|温度だけでは空調は決まらない
空調が扱うのは「空気」ではなく「湿り空気」だ。同じ26℃でも、湿度が50%か70%かで快適さも必要な熱量もまったく違う。
湿り空気の状態は、乾球温度・湿球温度・相対湿度・絶対湿度・エンタルピ・露点温度などで表される。このうち2つが決まれば残りが全部決まる——これが湿り空気線図の本質だ。
空調で扱う代表的な状態変化
顕熱冷却 : 温度だけ下げる(絶対湿度は変わらない)
冷却減湿 : 露点以下まで冷やして水分を落とす(除湿はここで起きる)
加熱 : 温度を上げる(相対湿度は下がる)
加湿 : 水分を加える(気化式なら温度も下がる)
混合 : 外気と還気を混ぜる(線図上では2点を結ぶ線上に来る)
実務でいちばん効くのは「冷却減湿は露点以下でしか起きない」という事実だ。コイルの表面温度が室内空気の露点より高ければ、いくら風を通しても除湿はされない。梅雨時に「冷房を弱めにしたら蒸し暑くなった」のは、これが原因になっている。
→ 湿り空気線図計算ツールは2つの値から全状態量を出す。混合や冷却減湿の前後を数字で追える
④コイル能力|顕熱と潜熱をどう分担するか
空調機(AHU)の冷却コイルで処理する熱量は、顕熱(温度を下げる分)と潜熱(水分を落とす分)に分かれる。この比率が顕熱比(SHF)で、部屋の性格によって変わる。人が多い会議室は潜熱の比率が高く、サーバー室はほぼ全部が顕熱だ。
コイルの選定で決めるのは、処理熱量・冷水量・伝熱面積・列数。ここで**入口水温と出口水温の差(温度差)**の取り方が効いてくる。温度差を大きく取れば同じ熱量を少ない水量で運べるのでポンプ動力は減るが、コイルの列数が増えて空気側の圧損(=⑤の静圧)が上がる。
→ AHU冷却コイル 能力・面積チェッカーで処理熱量・水量・必要面積を確認できる
⑤搬送(ダクト)|運べなければ効かない
ダクト径は「風速」で決まる
必要な風量が決まったら、ダクトの寸法を決める。基準になるのは風速だ。細くすれば場所を取らないが、風速が上がって圧損と騒音が増える。太くすれば静かで省エネだが、天井懐に収まらない。
風速の目安は、住宅なら主ダクト3〜5m/s、業務用なら6〜10m/s程度。静かにしたい室(寝室・会議室・スタジオ)はこれより低く抑える。
角ダクトと丸ダクトの換算(等価直径)も頻出する。同じ断面積でも、角ダクトはアスペクト比が大きくなるほど摩擦が増えるので、単純な面積の等価ではない点に注意が要る。
必要静圧は「積み上げ」でしか出ない
ダクト径が決まったら、ファンの必要静圧を積み上げる。ここでの典型的な失敗は、ダクトの直管損失だけ数えて機器の圧損を忘れることだ。
必要静圧 = 直管の摩擦損失
+ 局部損失(曲がり・分岐・拡大縮小)
+ 機器の圧損(フィルタ・コイル・全熱交換器・消音器・ダンパ)
+ 吹出口・吸込口の圧損
フィルタは目詰まりで圧損が2倍以上になる。初期圧損で選ぶと、半年後に風量が出なくなるので、終期圧損(交換直前の値)で見るのが定石だ。
→ ダクトサイズ計算ツールで風量から丸・角ダクトの寸法と圧損Pa/mを、ファン静圧算定シミュレーターで機器を含めた必要静圧を積み上げられる
⑥ダクトの騒音|静かにするのも設計のうち
風量と静圧が成立しても、うるさければ使ってもらえない。空調騒音の主な経路は、ファンの発生音がダクトを伝わってくる伝搬音と、ダクト内の風速そのものが立てる気流音だ。
対策の基本は、まず風速を落とすこと。それでも足りなければ**消音器(サイレンサー)**をダクトに挿入する。消音器の効き(挿入損失)は、長さ・吸音材の厚み・気流通路の幅で決まり、低い周波数ほど効かせにくいという性質がある。ファンの回転数由来の低音は、消音器を長くしても落ちにくい。
そして消音器自体が圧損になる。⑤の静圧計算に必ず含めること——ここを忘れると、静かにした結果として風が出ない設備になる。
→ ダクト消音器 挿入損失計算で長さと吸音材厚から挿入損失を算出できる
⑦換気量|3つの決め方が併存している
換気量の決め方は1つではない。同じ部屋に対して複数の基準が同時にかかり、いちばん大きい値を採るのが原則になる。
| 決め方 | 考え方 | 主な根拠 |
|---|---|---|
| 換気回数法 | 室容積 × 回数/h | 住宅の居室は0.5回/h(シックハウス対策) |
| 人員密度法 | 人数 × 1人あたり必要量 | 居室の必要換気量は概ね20m³/h・人 |
| CO2基準 | CO2濃度を基準値以下に保つ | 建築物衛生法で1,000ppm以下 |
住宅の居室で0.5回/hが要求されるのは、建築基準法のシックハウス対策によるもの。一方、人が多い会議室では人員密度法やCO2基準が支配的になり、換気回数法の値では全然足りなくなる。
外気を入れれば入れるほど①の負荷が増えるという緊張関係もある。夏に35℃の外気を26℃まで冷やす熱量は、その空気量に比例してかかる。だから換気量は「多ければいい」のではなく、必要量を根拠を持って決める対象になる。
ASHRAE 62.1のように「人数あたり+床面積あたり」を足し合わせる考え方を使うと、在室者由来の汚染と建材由来の汚染を分けて扱える。
→ 必要換気量計算シミュレーターは換気回数法と人員密度法を同時比較して法令基準もチェックする。CO2基準やASHRAE 62.1で見たいときは必要外気量・換気量計算ツール
⑧全熱交換器|換気で捨てる熱を拾い直す
⑦で「外気を入れると負荷が増える」と書いた。その熱を捨てずに回収するのが全熱交換器(ロスナイ等のHRV/ERV)だ。排気と給気を交差させ、温度(顕熱)と湿度(潜熱)の両方を移して、外気を室内条件に近づけてから取り込む。
温度交換効率は機種にもよるが70%前後が目安。冬に外気0℃・室内20℃なら、給気は14℃前後まで温まった状態で入ってくる。外気負荷の7割が消えると考えれば、熱源容量への効き方が想像できる。
注意点は3つ。給気と排気の2系統ぶんダクトが要るので天井懐を食うこと、フィルタと熱交換素子の圧損が⑤の静圧に乗ること、そして外気が極端に低温の地域では素子の凍結対策が要ることだ。
→ 全熱交換器(HRV/ERV)選定ツールで必要換気量から機種と熱回収量を出せる
⑨加湿・除湿|湿度は温度より難しい
温度は熱を出し入れすれば動くが、湿度は水を出し入れしないと動かない。しかも人が快適と感じる範囲は40〜60%程度と狭い。
冬の加湿でやりがちなのが、加湿器の能力を部屋の広さだけで選ぶこと。実際に必要な加湿量は、換気で逃げていく水分量で決まる。換気量が多いほど乾き、加湿器はその分を補い続けることになる。
必要加湿量 [kg/h] ≒ 換気量[m³/h] × 空気の密度 × (目標絶対湿度 − 外気の絶対湿度)
外気が乾いている真冬ほど必要量は増える。加湿方式でも話が変わり、気化式は加湿しながら空気の温度を下げる(潜熱を奪う)ので、暖房負荷にも影響する。
夏の除湿は逆に、冷房能力との兼ね合いになる。③で書いたとおり、除湿はコイルを露点以下にして初めて起きる。機器の能力が過大だと短時間で設定温度に達して停止し、除湿する時間そのものが足りなくなる。「冷房が効きすぎるのに蒸し暑い」の正体はこれだ。
→ 必要加湿量計算・加湿器容量選定ツールで必要加湿量と方式別の所要能力を、除湿機の必要能力・除湿量計算で部屋条件から必要除湿量と電気代を確認できる
⑩結露|設計ミスがいちばん目に見える場所
結露は、空気がその露点温度以下の面に触れたときに起きる。室温20℃・相対湿度60%なら露点は約12℃なので、表面温度が12℃を下回る窓や壁の隅で水滴になる。
厄介なのは、目に見える表面結露より、壁の中で起きる内部結露のほうだ。断熱材の中や外壁側の面材で結露すると、乾く経路がないまま木部の腐朽やカビにつながる。しかも数年経ってから発覚する。
内部結露は「壁の断面で、各層の温度分布と露点分布を比べる」ことで判定できる。温度分布は各層の熱抵抗から、露点分布は透湿抵抗から決まるので、断熱材を厚くするだけでは解決しないどころか、位置によっては悪化する(防湿層の位置が間違っていると顕著)。
→ 室内側の結露リスクは結露・露点温度チェッカー、壁の中の判定は内部結露シミュレーターで断面の温度・露点分布から確認できる
⑪冷媒とサイクル|配管長がそのまま能力を削る
ビル用マルチや業務用パッケージでは、室外機と室内機を冷媒配管でつなぐ。ここで見落とされるのが、配管長と高低差による能力低下だ。
配管が長いほど冷媒の圧力損失が増え、実際に室内機で使える能力は下がる。メーカーのカタログには配管長・高低差ごとの補正係数が載っており、長い配管では能力が2割以上落ちることもある。設計時にカタログ値そのままで台数を決めると、竣工後に「能力が足りない」となる。
配管径の選定も、液管とガス管で考え方が違う。ガス管は圧損を抑えるために太くしたいが、太すぎると冷媒の流速が落ちて油戻りが悪くなる。さらに配管長に応じた冷媒の追加充填量の計算も要る。
もう一段深く「なぜこの効率になるのか」を理解したいなら、冷凍サイクルそのものをp-h線図で見るのが早い。圧縮・凝縮・膨張・蒸発の4行程と、蒸発温度・凝縮温度がCOPをどう決めるかが目で分かる。凝縮温度が10℃下がればCOPは大きく改善する——室外機まわりの風通しを確保する意味がここにある。
→ 冷媒配管サイジング計算で液管・ガス管径と追加冷媒量を、冷凍サイクルの成績係数COP・冷凍能力 計算(p-h線図)でサイクルの成績を確認できる
⑫付帯設備|膨張タンクと盤の発熱
最後に、忘れられがちだが止まると全部止まる2つ。
膨張タンクは、冷温水の密閉配管系で水温変化による体積膨張を吸収する。容量が足りなければ安全弁が吹き、プレチャージ圧が合っていなければダイヤフラムが張り付いて容量を使い切れない。系の保有水量と温度変化幅から決まる計算だ。
制御盤の発熱も空調の対象になる。インバータや電源が入った盤は密閉すると内部温度が上がり、機器の寿命を縮める。盤内温度上昇から必要冷却能力を出し、換気ファンで足りるのか盤用クーラーが要るのかを判断する。空調機を制御している盤が熱で落ちるのは笑えない話だ。
空調・換気設計チェックリスト
- 冷暖房負荷を外皮・日射・内部発熱・外気に分解して算出したか → エアコン能力選定シミュレーター
- 窓・外皮の改善で負荷を落とす選択肢を検討したか → 熱伝導シミュレーター/窓断熱リフォーム省エネ効果計算
- 換気量を負荷計算に外気負荷として織り込んだか → 必要換気量計算シミュレーター
- 熱源は部分負荷効率と冗長性を踏まえて台数分割を検討したか → 熱源容量・台数分割計算ツール
- 冷却塔の容量を湿球温度基準で確認したか → 冷却塔能力計算・選定ツール
- 顕熱・潜熱の分担(SHF)を湿り空気線図で確認したか → 湿り空気線図計算ツール
- コイルの処理熱量・水量・面積は成立しているか → AHU冷却コイル 能力・面積チェッカー
- ダクト風速は室の用途に対して静かな範囲か → ダクトサイズ計算ツール
- 必要静圧に機器圧損(フィルタは終期値)を含めたか → ファン静圧算定シミュレーター
- 消音器の挿入損失と、その圧損の両方を見たか → ダクト消音器 挿入損失計算
- CO2基準・人員密度でも換気量を確認したか → 必要外気量・換気量計算ツール
- 全熱交換器で回収できる外気負荷を熱源容量に反映したか → 全熱交換器(HRV/ERV)選定ツール
- 冬の必要加湿量を換気量から算出したか → 必要加湿量計算・加湿器容量選定ツール
- 夏の除湿は能力過大による短時間運転になっていないか → 除湿機の必要能力・除湿量計算
- 表面結露・内部結露の判定をしたか → 結露・露点温度チェッカー/内部結露シミュレーター
- 冷媒配管長・高低差による能力低下を織り込んだか → 冷媒配管サイジング計算
- 膨張タンク容量と制御盤の発熱を確認したか → 密閉配管 膨張タンク容量計算/制御盤 熱計算・冷却選定
豆知識|空調設計まわりの小ネタ
「冷凍トン」はなぜトンなのか
冷凍能力の単位に使われる冷凍トンは、「1日に1トンの氷を作る能力」に由来する。製氷が冷凍機の主用途だった時代の名残で、日本冷凍トン(1RT ≒ 3.86kW)と米国冷凍トン(1USRT ≒ 3.52kW)で値が違う。カタログを読むときにどちらのトンかを確認しないと、1割の差がそのまま容量の差になる。
湿球温度は「濡れた温度計」の温度
湿球温度は、温度計の球部を濡らしたガーゼで包んだときに示す温度だ。水が蒸発するときに熱を奪うので、乾球温度より低くなる。乾燥した空気ほど蒸発が進んで差が大きくなり、湿度100%では乾球=湿球になる。冷却塔がこの温度を基準にするのは、まさに水の蒸発で冷やす機器だからだ。
「エアコンの畳数」は昔の家の基準という話
エアコンの能力表示に使われる畳数は、断熱がほとんどない木造住宅を想定した時代の基準がベースになっている、と言われる。現代の高断熱住宅では表示畳数より広い範囲をカバーできる一方、最上階・西日・大開口といった条件では逆に足りない。表示は「平均的な部屋の目安」であって上限でも下限でもない、と理解しておくのがちょうどいい。
CO2は汚染そのものではなく「指標」
換気の基準にCO2が使われるのは、CO2そのものが1,000ppm程度で有害だからではない。人がいれば必ず出るので、在室者由来の汚染全体の代理指標として使いやすいからだ。だから建材由来のホルムアルデヒドなどは、CO2が基準内でも別に対策が要る。
Tips|空調設計で失敗しないために
- 負荷は必ず内訳で持つ — 合計だけ見ていると「どこを改善すれば効くか」が分からない。窓・外皮・内部発熱・外気の4分類で持っておくと、機器を上げるか外皮を良くするかの判断が数字でできる
- フィルタ圧損は終期値で — 初期値で静圧を決めると、目詰まりが進んだ半年後に風量が足りなくなる
- 能力の余裕は「見込み過ぎない」 — 温度は下がっても湿度が下がらない設備になる。余裕は台数分割や制御で持たせるほうが筋がいい
- 湿球温度と露点温度を混同しない — どちらも乾球より低い温度だが、湿球は「蒸発で冷える温度」、露点は「結露が始まる温度」。冷却塔は湿球、結露判定は露点
- 室外機の周囲は設計要素 — 吹き出した熱風を吸い直す(ショートサーキット)と凝縮温度が上がり、COPが落ちて能力も下がる。カタログ値は「ちゃんと風が抜ける設置」の値だ
FAQ
Q. 負荷計算と畳数表、どちらを信じればいい?
条件が平均的な部屋なら畳数表で十分だ。ただし最上階・角部屋・西向きの大きな窓・高断熱住宅のいずれかに当てはまるなら、平均から外れているので計算したほうがいい。同じ広さでも必要能力が1.5倍違うことは珍しくない。負荷の内訳が見えると、機器を上げるか窓を改善するかの判断もできる。
Q. 換気量は3つの決め方のどれを使えばいい?
原則はすべてを計算していちばん大きい値を採る。住宅の居室ならシックハウス対策の0.5回/hが下限になるし、人が集まる会議室では人員密度法やCO2基準のほうが大きくなる。片方だけで決めると、法令は満たしているのに実際は足りない(あるいは過剰で無駄な負荷を背負う)状態になる。
Q. 冷房は効くのに蒸し暑いのはなぜ?
除湿はコイルの表面温度が室内空気の露点を下回ったときにだけ起きる。能力が過大な機器は短時間で設定温度に達して停止するので、除湿している時間そのものが足りない。設定温度を少し下げるより、風量を絞る・除湿運転を使う・そもそも能力過大にしない、といった対処のほうが効く。
Q. ダクトを細くしたいが、どこまで許容される?
判断基準は風速だ。細くすると圧損(=ファン動力と電気代)と騒音が増える。住宅の主ダクトなら3〜5m/s、業務用で6〜10m/s程度が目安で、寝室や会議室のように静かにしたい室はさらに落とす。天井懐が足りないときは、丸ダクトを扁平な角ダクトに変えるより、経路を見直して圧損の大きい曲がりを減らすほうが効くことが多い。
Q. 入力したデータはどこかに保存される?
紹介しているツールはすべてブラウザ内で計算が完結しており、入力値や結果がサーバーに送信されることはない。物件名や実際の負荷条件を入れても外部に出ないので、実務のデータをそのまま使える。
まとめ|負荷から順に、依存関係をたどる
空調・換気設計は、熱負荷 → 換気量 → 熱源 → コイル → ダクト → 騒音 → 湿度 → 結露 → 冷媒 → 付帯という連鎖でできている。どれか1つの計算が正しくても、つなぎ目を外せば「計算どおりのはずなのに効かない」設備になる。
負荷を出す
- エアコン能力選定シミュレーター — 畳数・断熱等級・方位から必要能力
- 熱伝導シミュレーター — 壁のU値と温度分布
- 窓断熱リフォーム省エネ効果計算 — 窓改善の費用対効果
機器を決める
- 熱源容量・台数分割計算ツール — 必要容量と台数分割案
- 冷却塔能力計算・選定ツール — 湿球温度基準の冷却トン
- AHU冷却コイル 能力・面積チェッカー — 処理熱量・水量・面積
- 湿り空気線図計算ツール — 状態変化を数字で追う
運ぶ
- ダクトサイズ計算ツール — 風量からダクト寸法と圧損
- ファン静圧算定シミュレーター — 機器込みの必要静圧
- ダクト消音器 挿入損失計算 — 騒音対策と圧損
外気と湿度を整える
壊さない
- 結露・露点温度チェッカー / 内部結露シミュレーター
- 冷媒配管サイジング計算 / 冷凍サイクルの成績係数COP・冷凍能力 計算(p-h線図)
- 密閉配管 膨張タンク容量計算 / 制御盤 熱計算・冷却選定
配管側の計算(流量・圧損・ポンプ・保温)とは地続きなので、水搬送まで含めて設計するなら 配管設計の計算まとめ も併せて確認してほしい。電源・盤まわりは 受変電・保護協調設計まとめ にまとめている。
不具合の報告や機能リクエストはお問い合わせページから。