AHUの心臓、冷却コイルを"数字"で掴む
AHU(エアハンドリングユニット)の図面を描いていて、毎回ひっかかるのがコイル容量だ。建物負荷の計算は済んだ。空気の温湿度も決まった。なのにメーカーの選定ソフトを開くと、型式と列数とフィンピッチが絡み合って「結局このコイルで足りるのか、水量は何L/min回せばいいのか」がパッと出てこない。
AHU冷却コイル 能力・面積チェッカーは、その"狭間の計算"だけを切り出したツール。風量・入口空気の温湿度・出口温度・冷水の入出口温度を入れると、処理すべき全熱量・必要冷水量・伝熱面積の概算をその場で返す。メーカー選定の前段、コンセプト設計で「コイルが収まる物理スペースあるか?」「冷水ヘッダの口径は?」を判断する土台になる数字だ。入力は5つだけ。湿り空気線図を片手に何分も悩まずに済む。
なぜ作ったのか
空調設計の現場では、負荷計算ツール(/cooling-load-calc)で建物の冷房負荷を出し、湿り空気計算ツール(/psychrometric-calc)でエンタルピーを拾い、そこから手計算でコイル能力に落とし込む、という流れが長年の習慣だった。自分も新人の頃はExcelの自作シートで、Magnus式とLMTD式をこねくり回していた。
困るのは、途中のステップが多すぎて入力の一貫性がすぐ崩れること。「あ、大気圧を変えた気配があるからエンタルピー計算のセルも直さなきゃ」「冷水ΔTを5Kから6Kに変えたら水量だけじゃなくLMTDも動く」。ひとつ数字を動かすたびに、連鎖的に再計算が必要になる。メーカーの選定ソフトは正確だが、型式を指定しないと動かず、コンセプト段階では重すぎる。
「負荷→空気→コイル」を一気通貫で、しかもプロジェクト初期の粗い精度でいいから即答してくれるツールが欲しかった。それがこのツールを作った動機。Magnus式のエンタルピー、対向流LMTD、U値プリセットの3つを組み合わせ、入力5つに絞り込んで、他の設備系ツール(/duct-sizing、/pump-head-calc、/dew-point-checker)と同じUIで動かせるようにしている。詳細設計はメーカー性能表で、概算はこのツールで。役割分担を明確にしたかった。
冷却コイルの基礎 — 顕熱・潜熱・全熱とSHFの話
冷却コイルで何が起きているか
冷却コイルは、フィン付き銅管の束に空気を通し、管内を流れる冷水(または冷媒)と熱交換させる装置。入ってくる湿り空気は温度が下がり、さらに管表面で露点以下に達すれば水蒸気が凝縮する。前者が顕熱処理、後者が潜熱処理。両方を足した全熱処理量こそが、コイルが空気から奪うエネルギーの総量になる。
直感的には、アイスコーヒーのグラスを思い浮かべるといい。グラスの表面は冷たくて、まず周りの空気を冷やす(顕熱)。やがて表面に水滴がびっしり付く(潜熱)。コイルの中では、この"グラス表面"が何千本ものフィン管の形で並び、空気を1回通過させるだけで両方が同時に起きている。
空気の持つエネルギーはエンタルピーで測る
温度だけでは空気の熱量は測れない。湿度によって含まれる水蒸気の潜熱が違うからだ。そこで比エンタルピー h [kJ/kg(DA)] という指標を使う。乾き空気1kgあたりが持つ総熱量で、下式で表す。
h = 1.006·T + W·(2501 + 1.86·T)
// W: 絶対湿度 [kg/kg(DA)]
// 2501: 0℃での水蒸気蒸発潜熱 [kJ/kg]
27℃ 50%RH の室内空気はh≒55.6 kJ/kg、15℃飽和の出口空気はh≒42.0 kJ/kg。差は13.6 kJ/kg。この差に乾き空気質量流量をかけたものが、コイルが処理する全熱量だ。湿り空気線図(Wikipedia: 湿り空気線図)はこのエンタルピーを縦軸・横軸と斜めの等エンタルピー線で表した図面。コイル処理はその上で「右上から左下への斜めの線」として描かれる。
SHFとバイパスファクタ
顕熱処理量を全熱処理量で割った値がSHF(Sensible Heat Factor、顕熱比)。オフィスならSHF≒0.8前後、飲食店の厨房では0.5を切ることもある。SHFが低いほど「湿気を取るのが主仕事」のコイルになり、出口温度を深く下げる必要が出てくる。
一方、現実のコイルは空気の100%がフィン表面に触れるわけではなく、素通りする空気が一定割合ある。これがバイパスファクタ BF。BF=0.1なら10%は温度も湿度も変わらず通過する。BFが大きいコイル(列数が少ない・風速が速い)は、見かけの出口温度が下がりきらず、除湿も甘くなる。空調ハンドブックの標準値は4列フィンでBF≒0.15〜0.20、6列で0.05〜0.10程度。
本ツールでは、実用上の近似として**出口空気がコイル面で飽和(RH2=100%)**と置いている。これはBF=0の極限に相当する仮定で、空調設計の概算計算として広く使われる方法。細かいBF補正は詳細設計フェーズでメーカー性能表にかけてほしい。
実務での重要性 — 過不足どちらも痛い
コイル容量を適当に決めると、後工程で必ずしっぺ返しが来る。
過大設計の罠: 負荷の1.5倍のコイルを入れてしまうと、通常運転時は弁開度が小さく、弁のハンチング(開閉繰り返し)で制御が荒れる。低負荷時に冷水が少ししか流れず、管内流速が下がってフィルム熱伝達率が落ち、ますます効きが悪くなる悪循環。電動弁の寿命も縮む。さらにコイル前後の圧損が増え、ファン動力も無駄に食う。
過小設計の罠: こちらはもっと怖い。夏のピーク時に出口温度が想定より2〜3℃高止まりし、室内の相対湿度が70%を超える。食品工場なら衛生基準を割り、倉庫ならカビ・錆、オフィスなら不快指数が跳ね上がってクレームの雨。対策は「冷水温度を下げる」「風量を絞る」しかないが、どちらも副作用が大きい。リプレイスで既設配管を使いたいのに容量が足りず、配管径からやり直す事例も珍しくない。
設備設計では建築基準法施行令第129条の2の5や空気調和・衛生工学会「空気調和設備計画設計実務の知識」が設計水準の根拠になる。ここで要求される室内温湿度(夏期26℃50%RH程度)を満たすには、エンタルピー差を確実に取れるコイルが必要で、そのためには処理熱量と伝熱面積の整合が取れていなければならない。
コイル容量は、建物負荷計算と機器選定の"橋渡し"。その橋の計算精度が、結局プロジェクト全体の品質を決める。
活躍する場面
新築AHU計画の初期フェーズ: 負荷計算が上がってきた直後、AHUを収める機械室の寸法検討に入る前。コイル面積からだいたいのAHUサイズを見積もる。
リプレイス検討: 既設AHUの図面から風量と温度条件を読み取り、今の冷水温度・ΔTで容量が足りるかを確認。既設配管を生かせるか、更新が必要かを判断する材料になる。
既設トラブル診断: 「夏場の湿度が下がらない」クレームが出たとき、現状の運転条件を入れて、そもそもコイルスペックで届く話なのか、制御側の問題かを切り分ける。
概算見積・提案書作成: 設計事務所やゼネコンから「ざっくりでいいから熱量と水量教えて」と言われたとき、5分で数字を返せる。
学習・勉強会: 設備系の新人教育で、湿り空気線図とLMTDの意味を実感してもらうのにちょうどいい。数字を変えると何がどう動くか、手を動かしながら掴める。
基本の使い方(3ステップ)
- 空気条件を入れる: 風量 Qa、入口のDB温度 T1 と相対湿度 RH1、出口のDB温度 T2 の4つ。出口はコイル面飽和を前提にしている。
- 冷水条件を入れる: 冷水入口 Tw1、出口 Tw2。それからコイル種別(標準フィン / 高密度フィン / 親水フィン)を選ぶとU値が自動セット。
- 結果を読む: 全熱処理能力 Q [kW]、必要冷水量 Gw [L/min]、必要伝熱面積 A [m²]、LMTD、入出口エンタルピーが並ぶ。コピー機能でそのままメモや見積書に貼れる。
不整合(例: 出口温度が入口以上、冷水出口が空気出口を超える等)は赤バナーで止まる。
具体的な使用例(6ケース)
ケース1: オフィス標準AHU(10,000 m³/h)
入力: 風量10000 m³/h、入口27℃50%RH、出口15℃、冷水7→12℃、標準プレートフィン。 結果: h1=55.6 / h2=42.0 kJ/kg、Q=45.3 kW、Gw=130 L/min、LMTD=11.14K、A=90.4 m²。 解釈: 中規模オフィス1フロアの典型値。冷水ΔT=5Kは内線規程・学会推奨値の中央。面積90m²はおおむね4列フィン・面風速2.5 m/s で幅0.8m×高さ0.5m×列数4相当に収まる。
ケース2: 中型高負荷AHU(5,000 m³/h、高湿度入口)
入力: 5000 m³/h、入口30℃60%RH(熱帯夜想定)、出口14℃、冷水7→12℃、高密度フィン6列。 結果: h1=71.2 / h2=39.3、Q=53.2 kW、Gw=153 L/min、LMTD=11.65K、A=83.1 m²。 解釈: 風量は半分なのに、入口エンタルピーが高くてQが大きい。除湿比率(潜熱分)が全熱の約4割を占める。高密度フィンを選んだのでU値55でA値が抑えられた。熱帯夜のリプレイスでよく見る条件。
ケース3: 大型ホールAHU(20,000 m³/h、広ΔT運用)
入力: 20000 m³/h、入口28℃55%RH、出口16℃、冷水6→14℃(ΔT=8K)、標準フィン。 結果: h1=61.4 / h2=44.8、Q=110.7 kW、Gw=198 L/min、LMTD=11.89K、A=206.9 m²。 解釈: 冷水ΔTを広く取ったので水量は約200L/minに抑制。配管口径が1サイズ小さくて済むメリット。ただしA=207m²とコイル面が巨大、機械室の配置に余裕がないと収まらない。
ケース4: 小型パッケージAHU(3,000 m³/h)
入力: 3000 m³/h、入口25℃50%RH、出口13℃、冷水7→12℃、標準フィン。 結果: h1=50.3 / h2=36.6、Q=13.7 kW、Gw=39 L/min、LMTD=9.05K、A=33.6 m²。 解釈: 店舗や小型オフィス向け。LMTD=9.05はやや小さめで、伝熱温度差に余裕がない。これ以上冷水Tw1を上げるとコイル面積がさらに増える領域。
ケース5: クリーンルーム系MAU(8,000 m³/h、深冷・低SHF)
入力: 8000 m³/h、入口32℃60%RH(外気導入MAU想定)、出口13℃、冷水6→11℃、高密度フィン。 結果: h1≒78.4 / h2≒36.6、Q=111.3 kW、Gw=319 L/min、LMTD=12.74K、A=158.8 m²。 解釈: 外気を深冷除湿するMAU(Make-up Air Unit)。エンタルピー差が42 kJ/kgと極めて大きく、顕熱の2倍近い潜熱を奪う。水量も300L/minオーバー、冷水配管は100A以上を想定すべき規模。
ケース6: リプレイス・省エネ改修(15,000 m³/h、親水フィン低風速)
入力: 15000 m³/h、入口26℃45%RH、出口14℃、冷水7→13℃(ΔT=6K)、親水フィン低風速(U=40)。 結果: h1≒50.2 / h2≒39.3、Q=54.5 kW、Gw=130 L/min、LMTD=9.69K、A=140.6 m²。 解釈: 乾燥気味の事務所で、更新時に風速を落とした省エネ仕様。U値が40と低いぶん面積は増えるが、ファン動力と騒音で戻せる。冷水ΔTを6Kに広げて水量を抑え、既設ポンプ流用を狙う条件。
仕組み・アルゴリズム
採用手法と候補比較
湿り空気の飽和水蒸気圧を求める式は複数ある。代表的なのがAntoine式とMagnus式、そしてより精密なASHRAE(Hyland-Wexler)式。本ツールは Magnus式(Tetens/Bolton版)を採用した。理由は、0〜50℃の空調範囲で誤差0.1%以下、かつ1行で書ける軽さ。ASHRAE式は精度で勝るが係数が多く、コンセプト段階では過剰精度になる。
伝熱面積の算出はNTU-ε法とLMTD法の二択。NTU法は入口側だけ条件が決まっている場合に便利だが、本ツールは出入口4点が揃う設計ケースを想定しているため、対向流LMTD法がシンプルで相性がいい。実機のコイルは完全な対向流ではなくクロスフローに近いが、補正係数Fはフィンコイルで0.95〜1.0であり、概算には対向流仮定で差し支えない。
計算フロー
// 1. 飽和水蒸気圧 (Magnus)
psat(T) = 611.2 * exp(17.67 * T / (T + 243.5)) // [Pa]
// 2. 絶対湿度
W1 = 0.622 * pv1 / (P - pv1), pv1 = RH1/100 * psat(T1)
W2 = 0.622 * psat(T2) / (P - psat(T2)) // 出口は飽和仮定
// 3. エンタルピー
h(T, W) = 1.006 * T + W * (2501 + 1.86 * T) // [kJ/kg(DA)]
// 4. 質量流量と処理熱量
m_a = 1.2 * Qa / 3600 // [kg/s]
Q = m_a * (h1 - h2) // [kW]
// 5. 冷水量
Gw = Q / (4.186 * (Tw2 - Tw1)) * 60 // [L/min]
// 6. 対向流LMTD
ΔT1 = T1 - Tw2
ΔT2 = T2 - Tw1
LMTD = (ΔT1 - ΔT2) / ln(ΔT1 / ΔT2)
// 7. 伝熱面積
A = Q * 1000 / (U * LMTD) // [m²]
計算例ウォークスルー(ケース1)
Qa=10000 m³/h、T1=27℃ RH1=50%、T2=15℃、Tw1=7℃ Tw2=12℃、U=45の場合。
- psat(27)=611.2·exp(17.67·27/270.5)=3565.6 Pa、pv1=1782.8、W1=0.622·1782.8/99542.2=0.01114
- psat(15)=1704.1、W2=0.622·1704.1/99620.9=0.01064
- h1=1.006·27+0.01114·(2501+50.22)=27.16+28.42=55.58 kJ/kg
- h2=1.006·15+0.01064·(2501+27.9)=15.09+26.91=42.00 kJ/kg
- m_a=1.2·10000/3600=3.333 kg/s、Q=3.333·13.58=45.3 kW
- Gw=45.3/(4.186·5)·60=45.3/20.93·60=129.8 L/min
- ΔT1=27-12=15、ΔT2=15-7=8、LMTD=(15-8)/ln(15/8)=7/0.6286=11.14 K
- A=45300/(45·11.14)=90.4 m²
小数点以下の丸めはUI側で行うが、内部は倍精度で計算している。手計算で検算したい場合、上のステップ通りに電卓を叩けば同じ数字が出る。U値の物理的意味は「コイル1m²あたり、空気-水の温度差1Kで伝わる熱量」。フィン表面の空気側フィルム、フィン金属、管内の水側フィルム、3つの熱抵抗の合成値であり、標準フィン45 W/(m²·K)という値は空気調和・衛生工学便覧のメーカー代表値を採用している。
他ツールとの違い
メーカー選定ソフト(ダイキン、三菱電機、木村工機ほか)は自社型式のコイル列数・フィンピッチ・チューブ本数が固定され、製品ラインナップの中から最適解を探す設計になっている。精度は高い反面、「そもそもどのメーカーを呼ぶか」を決める前段階の概算検討には重すぎる。型式コードを指定しないと動かないソフトも多く、基本設計の初動には向かない。
本ツールは逆で、型式を一切持たない。風量・温湿度・冷水条件という物理量だけを入力すれば、熱量・水量・必要伝熱面積の3点が瞬時に返る。概念検討、相見積前のざっくり試算、既設AHUの能力チェック、リプレイス時の比較検討といった場面で力を発揮する。
市販の湿り空気線図アプリ(WebPsychro、ASHRAE Psych等)は空気側の物性までは出せるが、コイル側の水量・面積までは踏み込まない。Excelの社内シートで繋いでいる設計者も多いが、Magnus式の入力ミスやLMTDの対向流/並流の取り違えで痛い目を見がちだ。このツールはその「繋ぎ」をブラウザ上で一枚にまとめた。
また、入力値・結果とも端末に一切保存されない。社外秘の物件条件を打っても安心できる点は、クラウド型の商用ソフトには真似しづらい。無料・登録不要・ダークテーマで目も疲れにくい。コンセプト段階の道具として、気軽に何度でも叩いてほしい。
豆知識・読み物
バイパスファクタ(BF)という概念の由来
冷却コイルを通過する空気のすべてがフィン表面に触れて飽和するわけではない。ごく一部はフィンの隙間を素通りし、入口状態のまま出ていく。この「素通り率」をバイパスファクタと呼ぶ。4列コイルで BF≈0.15、6列で 0.08、8列で 0.05 程度が代表値だ。出典は ASHRAE Handbook - HVAC Systems and Equipment のコイル章。
本ツールは「出口空気はコイル面で飽和(BF=0)」と仮定している。これは設計側の安全側(やや能力を大きめに見積もる)近似で、概算段階では広く採用されている。厳密に BF を考えたい場合は、出口エンタルピー h2 を h2' = BF·h1 + (1-BF)·h_saturation に置き換えれば補正できる。
水側フィルム抵抗の正体
U値の大小を決めるのは、実はフィン側よりチューブ内側の水膜であることが多い。乱流域(レイノルズ数 10000 以上)では水側熱伝達率が 3000〜5000 W/(m²·K) に達するが、層流に落ちると 500 まで激減する。低流速で設計すると、見かけの流量は足りていてもU値が半分になり、面積が倍増する事故が起きる。冷水管内流速は 0.6〜2.0 m/s が設計上の安全帯とされる所以だ。
フィンピッチと凍結防止
外気処理AHU(MAU)では冬季の凍結破裂が怖い。フィンピッチを詰めると伝熱面積は稼げるが、0℃以下の外気が直撃するとフィン谷に霜が張り、一気に閉塞する。外気導入コイルは**ピッチを粗く(3.0〜4.0 mm)**取り、前段に予熱コイルやグリコール液を入れるのが定番。冷却コイルだけ設計していると見落としがちなポイントだ。
Tips
- 冷水ΔTは 5K を基準に、負荷変動が激しい物件は 6〜7K 。ΔTを大きく取ると循環流量が減ってポンプ動力が下がるが、コイル深さ(列数)が増えて本体コストが上がる。総コスト最適は ΔT=5〜6K 付近に落ちることが多い。
- 面風速は 2.5 m/s を目安。これを超えるとドレン水の飛散(キャリーオーバー)が起きやすく、下流ダクトが結露する。超える場合はエリミネーター追加を検討。
- LMTD が 3K を切ったら要注意。本ツールでも警告が出るが、冷水温度を下げる・空気入口条件を見直すなどで温度差を確保しないと面積が発散する。
- 既設診断では実測ΔT を入れる。カタログ値ではなく現場で測った冷水入出口温度・空気入口条件を打ち込むと、経年劣化後の実能力が見える。汚れ係数で U 値を 10〜20% ディレーティングするとさらに現実的。
- 結果コピーを議事録に貼る癖をつけると、後日の型式選定で「なぜこの条件で始めたか」が追える。概算のトレーサビリティは設計品質に直結する。
よくある質問
直膨コイル(DXコイル)にも使える?
空気側の熱量計算(h1-h2 ベース)と面積計算の考え方は共通なので、**全熱処理能力と必要面積までは流用できる**。ただし冷媒は相変化するため「冷水流量」の欄は意味を持たない。DX の場合は冷媒循環量ではなく圧縮機能力で決まる。また冷媒の蒸発温度は一定(例えば 5℃)なので、LMTDの冷水出口温度欄に同じ値を入れれば代用できる。本格的な DX 選定にはメーカーの選定ソフトを併用してほしい。出口空気がコイル面で飽和(RH2=100%)という仮定は妥当?
概算段階ではきわめて一般的な仮定だ。実機では BF 分だけ出口RHが 90〜95% に落ちるが、エンタルピー差で見ると誤差 3〜8% 程度に収まることが多い。安全側(やや大きめ)に出るので、基本設計・概算見積にはこれで十分。詳細設計ではメーカー性能表で出口状態を確認すること。なお、出口が飽和を下回ると h2 が大きくなり能力は過小評価になるため、本ツールは「安全側の概算」と覚えておくとよい。冬季の凍結防止はどう考える?
本ツールは冷却コイルの能力計算に特化しているため、凍結防止ロジックは持たない。ただし**冷水入口温度 Tw1 を低く設定するほど LMTD は大きくなり面積は減る**が、0℃付近まで下げるとチューブ内凍結リスクが一気に上がる。実務ではブライン(プロピレングリコール 30% 等)を使うか、予熱コイルを前置するか、低負荷時のバイパス運転を組むかで対処する。本ツールの結果はあくまで「水を使う前提」での理論値として扱ってほしい。バイパスファクタ(BF)を考慮したい場合は?
現在の実装では BF=0(完全飽和)。どうしても補正したい場合は、求まった h2 に対し h2' = BF·h1 + (1-BF)·h2 で**加重平均**を取り、この h2' で Q を再計算する方法が簡便だ。例えば 4列コイルで BF=0.15 なら、能力は 85% 程度に下がる。詳細設計では ASHRAE の NTU-ε 法や bypass factor 法でメーカー性能表と突き合わせる。冷水ΔT を 5K より大きく設計するメリットは?
同じ熱量に対し循環水量が ΔT に反比例して減るので、**ポンプ動力と配管口径が下がる**。10K 設計(大温度差空調)にすると水量は半分になり、年間搬送動力で 15〜25% の省エネになる事例もある。ただし LMTD が小さくなり必要面積が増える(本ツールで実感できる)ので、コイル本体コストが上がる。ZEB案件や大型物件で総コスト最適を狙うときの定番手法だ。なぜ「標準フィン 45 W/(m²·K)」なのか?
空気調和・衛生工学便覧およびメーカー代表値から採った中央値だ。実機では列数・フィンピッチ・風速・水速で 30〜70 W/(m²·K) の幅を持つ。高密度フィン 55、親水低風速 40 もあくまで代表値であり、±20% 程度の振れ幅を見込んで面積を比較検討してほしい。実機選定時はメーカー性能表のU値に差し替えること。まとめ
AHU冷却コイルの能力検討は、空気側のエンタルピー差・水側の温度差・伝熱側のLMTDという3つの視点を同時に扱う必要がある。Excelで繋ぐと式のミスや単位ミスが忍び込みやすいが、本ツールなら風量と温湿度と冷水温度を打ち込むだけで、処理熱量・必要水量・必要伝熱面積が一度に出る。概念設計・リプレイス検討・既設診断の相棒として使い倒してほしい。
関連ツールもあわせて活用を。建物全体の冷房負荷から風量を決めるなら /cooling-load-calc 、空気状態の遷移を線図で確認したいなら /psychrometric-calc 、送風機側のダクト径を決めるなら /duct-sizing 、外気導入時の結露リスクを見るなら /dew-point-checker 、冷水循環系のポンプ選定は /pump-head-calc が便利だ。
不具合や改善要望があれば お問い合わせ まで気軽に連絡してほしい。現場のフィードバックが次のアップデートにつながる。