必要外気量コンシェルジュ

在室人数・用途・CO2濃度から必要換気量を3方式で同時計算

ASHRAE 62.1・CO2物質収支・建築物衛生法の3方式で必要外気量を同時計算。推奨値は最大値を採用する。

シナリオプリセット

Rp = 2.5 L/s·人 / Ra = 0.3 L/s·m²

CO2発生量 = 0.018 m³/h·人

ppm
ppm
推奨換気量300 m³/h人あたり 8.3 L/s
CO2支配

ASHRAE 62.1

144 m³/h

40.0 L/s

CO2基準

300 m³/h

0.018×N÷Δppm

建築物衛生法

300 m³/h

30×N

概算値。実設計では在室パターン・熱負荷・外気汚染・熱回収効率等を含む詳細検討が必要。
不具合・ご要望はお気軽に@MahiroMemoまで

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「窓を開けろ」では設計できない時代

コロナ禍を境に、換気量はビル管理者や設計者だけの話題ではなくなった。会議室の天井にCO2センサがぶら下がり、ランチタイムの飲食店で警告ランプが赤く光る光景はもう珍しくない。それでも、いざ「この部屋に何m³/hの外気を入れればいいのか」と問われると、現場の答えはバラつく。ASHRAE 62.1を持ち出す人、建築物衛生法の30 m³/h·人を即答する人、CO2濃度から逆算する人。全員正しいが、全員バラバラの数字を出す。

このツールは、その三つ巴の計算を一画面で同時に走らせ、最大値を推奨値として提示する「必要外気量コンシェルジュ」だ。用途プリセットを選び、人数・面積・活動強度・CO2上限を入れるだけで、3基準の数字が並ぶ。設計初期の当たり付けから、既存建物の改修判断まで、秒単位で意思決定を進めるための道具である。

なぜ作ったのか

きっかけは、ある飲食店の改修案件だった。建築物衛生法に従えば30席×30 m³/h=900 m³/h。既存の空調設備で十分まかなえる数字だ。しかし店主から「お客様にCO2計を見られるのが嫌だ。1000ppmを超えたくない」と要望が出た。立ち仕事と軽作業が混在するダイニングでCO2を落とすには、物質収支式でざっくり計算すると1500 m³/h以上。法令値の1.6倍。既存機器では足りない。

当時は Excel シートに3つの計算式を貼り付けて、プリセット定数を参照しながら手で入れ替えていた。ASHRAE 62.1-2019 Table 6.2.2.1 のRp・Raを毎回PDFから拾い、活動強度別のCO2発生量はまた別の資料を開く。人数や面積を変えるたびに式を再計算し、どの基準が支配的なのか見失う。既存のオンライン換気計算ツールは「ASHRAE単体」か「法令単体」ばかりで、3方式を同時に比較できるものがなかった。

それなら自分で作ろう、と書き始めたのがこのツールの原型だ。設計者が本当に知りたいのは「どの基準で決まるか」であり、「最大値はいくつか」である。プリセットの定数はASHRAE 62.1-2019 の値をそのまま持ち、CO2発生量は静穏0.018・軽作業0.030・中程度0.046 m³/h·人という実測ベースの値を採用。法令は30 m³/h·人固定。結果は m³/h と L/s·人 の両単位で即座に並べる。改修現場で店主にiPadを見せながら「法令OK、でもCO2基準だと足りない」と説明する未来を想像して、UIは意図的にコンパクトにまとめた。

換気量計算の基礎 — 必要外気量とは何か

必要外気量 とは

必要外気量とは、室内の空気質を許容範囲に保つために、屋外から導入しなければならない空気の流量のことだ。単位は m³/h もしくは L/s。似た言葉に「換気量」や「給気量」があるが、換気量は循環空気を含む総風量、必要外気量は「新鮮な外気」に限定した量を指す。全熱交換器や外気処理空調機(OAHU)で扱うのがまさにこの数字だ。

例えるなら、水族館の水槽に注ぐ真水だ。水槽の中では循環ポンプが水を回しているが、魚が排出するアンモニアを薄めるには定期的に新しい水を足さなければならない。循環量をいくら増やしても、アンモニア濃度は下がらない。同じように、空気を天井内でグルグル回す循環ファンだけでは、CO2・臭気・揮発性有機化合物(VOC)は希釈できない。外から新しい空気を入れる量こそが、室内空気質(IAQ: Indoor Air Quality)を決める。

ASHRAE 62.1 Ventilation Rate Procedure

米国冷凍空調学会(ASHRAE)の基準ASHRAE 62.1は、世界中の商業建築で参照される。Ventilation Rate Procedure(VRP)と呼ばれる方式では、必要外気量を「人体由来の汚染」と「建材・内装由来の汚染」に分解する。

Vbz = Rp × Pz + Ra × Az  (L/s)
// Rp: 人あたり外気量 (L/s·人)
// Pz: 在室人数
// Ra: 面積あたり外気量 (L/s·m²)
// Az: 床面積 (m²)

Rp・Raは用途別に Table 6.2.2.1 で規定される。オフィスなら Rp=2.5, Ra=0.3、教室なら Rp=5.0, Ra=0.6 といった具合。人が増えればRp項が伸び、広い部屋では Ra項が効く。この分解は、無人の倉庫でも内装材からのVOCを考慮すべき、という思想に基づく。

CO2物質収支法

人間が呼気で排出するCO2は、在室時間が定常状態に達したとき、室内濃度を一意に決める。単純な物質収支式は以下のとおり。

Q = N × G × 1e6 / (Ci - Co)  (m³/h)
// N: 在室人数
// G: 一人あたりCO2発生量 (m³/h·人)
// Ci: 室内CO2上限 (ppm)
// Co: 屋外CO2濃度 (ppm、標準400)

Gは活動強度で決まり、座学や執務の「静穏」で0.018、軽作業(接客・軽い立ち仕事)で0.030、中程度作業で0.046 m³/h·人が目安。Ci-Coが小さいほど必要換気量は大きく跳ね上がる。屋外CO2は都市部で実測420ppm前後、2050年には450ppmに迫るとされ、将来の補正も考える必要がある。

建築物衛生法

日本の建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行令(ビル管法)第2条は、CO2濃度1000ppm以下を求め、結果として「30 m³/h·人以上の外気導入」が実務的な最低ラインとされている。延べ面積3000m²以上の特定建築物では測定義務があり、違反すれば是正命令の対象になる。

実務での重要性 — 足りない換気は見えない損失

必要換気量が足りない部屋では、二酸化炭素濃度が1500ppmを超えた頃から認知機能の低下が観察される。ハーバード大学公衆衛生大学院の2016年の実験(COGfx Study)では、CO2を1400ppmに上げると意思決定能力が約50%低下したと報告された。オフィスの生産性低下は、電気代の比ではない経済損失になる。

飲食店では、満席ピーク時の換気不足が臭気クレームや「空気が重い」という口コミに直結する。既存店の改修依頼の多くは、実は冷暖房の不調ではなく外気不足が原因、というケースも少なくない。学校では、文科省の学校環境衛生基準でCO2 1500ppm以下が求められるが、冬場に窓を閉め切った教室では容易に超過する。集団感染リスクの観点から、2020年以降は各自治体の指導も厳格化した。

逆に過剰換気も問題だ。外気を大量に取り入れれば、熱負荷は直線的に増える。東京の夏、外気32℃・湿球26℃を25℃・50%まで冷却するには1m³あたり約15kJ。1000 m³/hの換気が2000 m³/hになれば、顕熱・潜熱合わせて約4kWの追加負荷が発生し、電気代で年間10万円級の差になる。だからこそ「法令ギリギリではなく、必要量ちょうど」を見極める意義が大きい。熱回収型換気(HRV/ERV)を併用する場合でも、そもそもの設計外気量がズレていれば回収効果は計算できない。

活躍する場面

新築オフィスの基本設計: 階ごとの在室想定と面積から、空調機のOA流量を仮決めする。3基準比較で過不足のない風量に絞り込める。

学校・学習塾の改修: 教室は面積あたり人数が多く、ASHRAE と CO2 の両方で支配的になりやすい。既存ファンの能力を増強すべきか、デマンド制御を追加すべきかを即断できる。

飲食店の開業準備: 座席数と厨房面積からダイニングの必要風量を割り出し、保健所申請や排気バランス設計の前段階で数字を握る。

ビル管理の定期点検: CO2ロガーの実測値と計算上の必要量を照合し、実際の稼働風量が妥当か検証する。エネルギー診断の入口にも使える。

基本の使い方

Step 1 部屋用途をプリセットから選ぶ(オフィス/会議室/教室/飲食店/講堂/物販店)。ASHRAE 62.1 の Rp・Ra が自動でセットされる。

Step 2 在室人数と床面積を入れる。満席・最大利用を想定した値で入力する。活動強度は執務・授業なら「静穏」、接客や立ち仕事は「軽作業」を選ぶ。

Step 3 室内CO2上限(既定1000ppm)と屋外CO2(既定400ppm)を確認。結果カードにASHRAE・CO2基準・建築物衛生法の3方式と、最大値=推奨換気量、人あたりL/s·人が並ぶ。どの基準で決まったかひと目で分かる。

具体的な使用例

ケース1: オフィス10人・50m²・静穏・上限1000ppm

  • 入力: usage=office, 人数10, 面積50, 活動=静穏, Ci=1000, Co=400
  • ASHRAE: (2.5×10 + 0.3×50)×3.6 = 40×3.6 = 144 m³/h
  • CO2: 10×0.018×1e6 / 600 = 300 m³/h
  • 法令: 30×10 = 300 m³/h
  • 推奨: 300 m³/h / 8.3 L/s·人
  • 解釈: 小規模オフィスでは法令とCO2基準が一致し、ASHRAEより2倍厳しい。日本設計では法令が支配的という典型例。

ケース2: 会議室8人・20m²・静穏・上限1000ppm

  • 入力: usage=meeting, 人数8, 面積20, 活動=静穏
  • ASHRAE: (2.5×8 + 0.3×20)×3.6 = 26×3.6 = 94 m³/h
  • CO2: 8×0.018×1e6 / 600 = 240 m³/h
  • 法令: 30×8 = 240 m³/h
  • 推奨: 240 m³/h / 8.3 L/s·人
  • 解釈: 会議室は高密度だが短時間利用。CO2と法令が240で一致し、ASHRAEの2.5倍。既存空調のダンパーで外気率を上げるだけでは足りず、外気ファンの追加検討が要るラインだ。

ケース3: 教室40人・70m²・静穏・上限1000ppm

  • 入力: usage=classroom, 人数40, 面積70, 活動=静穏
  • ASHRAE: (5.0×40 + 0.6×70)×3.6 = 242×3.6 = 871 m³/h
  • CO2: 40×0.018×1e6 / 600 = 1200 m³/h
  • 法令: 30×40 = 1200 m³/h
  • 推奨: 1200 m³/h / 8.3 L/s·人
  • 解釈: 教室は Rp=5.0 と高いのにCO2・法令がさらに上回る。小中学校の冬場、窓閉めで1500ppm超が頻発する理由がこの数字に表れる。全熱交換換気の追加が現実解。

ケース4: 飲食店30席・60m²・軽作業・上限1000ppm

  • 入力: usage=restaurant, 人数30, 面積60, 活動=軽作業
  • ASHRAE: (3.8×30 + 0.9×60)×3.6 = 168×3.6 = 605 m³/h
  • CO2: 30×0.030×1e6 / 600 = 1500 m³/h
  • 法令: 30×30 = 900 m³/h
  • 推奨: 1500 m³/h / 13.9 L/s·人
  • 解釈: 活動強度「軽作業」でG=0.030に跳ね上がり、CO2基準が支配的。法令の1.67倍、ASHRAEの2.5倍。改修案件では機器増強が必須になる典型パターンで、冒頭の飲食店ケースそのものだ。

ケース5: 講堂100人・150m²・静穏・上限1000ppm

  • 入力: usage=lecture, 人数100, 面積150, 活動=静穏
  • ASHRAE: (3.8×100 + 0.3×150)×3.6 = 425×3.6 = 1530 m³/h
  • CO2: 100×0.018×1e6 / 600 = 3000 m³/h
  • 法令: 30×100 = 3000 m³/h
  • 推奨: 3000 m³/h / 8.3 L/s·人
  • 解釈: 大空間・高密度の講堂は絶対量が大きい。3000 m³/h の外気導入は天井内ダクトサイズで600φ級。ダクトルートと機械室スペースを早期に確保すべき規模だ。

ケース6: 物販店20人・120m²・軽作業・上限1000ppm

  • 入力: usage=retail, 人数20, 面積120, 活動=軽作業
  • ASHRAE: (3.8×20 + 0.6×120)×3.6 = 148×3.6 = 533 m³/h
  • CO2: 20×0.030×1e6 / 600 = 1000 m³/h
  • 法令: 30×20 = 600 m³/h
  • 推奨: 1000 m³/h / 13.9 L/s·人
  • 解釈: 物販店は人員密度が低く床面積が広い。ASHRAEのRa項が効きつつも、軽作業のCO2発生量で最終的にCO2基準が勝つ。接客業態では活動強度選択を誤ると見積もりが半分になるので注意。

ケース7: オフィス20人・100m²・静穏・上限800ppm(厳しめ設定)

  • 入力: usage=office, 人数20, 面積100, 活動=静穏, Ci=800, Co=400
  • ASHRAE: (2.5×20 + 0.3×100)×3.6 = 80×3.6 = 288 m³/h
  • CO2: 20×0.018×1e6 / 400 = 900 m³/h
  • 法令: 30×20 = 600 m³/h
  • 推奨: 900 m³/h / 12.5 L/s·人
  • 解釈: ウェルネス認証(WELL Building Standard)では室内CO2 800ppm 以下が推奨される。上限を200ppm下げただけで、CO2基準が法令の1.5倍に跳ね上がる。「健康ビル」を謳うテナントでの追加要求にいち早く応えるための感度分析に使える。

仕組み・アルゴリズム

候補手法の比較

必要換気量を求める計算方式は大別して3系統ある。

  1. ASHRAE 62.1 Ventilation Rate Procedure(VRP) — 用途別のRp・Ra定数を掛け算する決定論的手法。表を引くだけで計算でき、再現性が高い。
  2. CO2物質収支法 — 定常状態の質量保存則から逆算する物理モデル。活動強度と目標濃度を自由に設定できる反面、非定常(ピーク時のCO2上昇)は扱えない。
  3. 建築物衛生法(30 m³/h·人) — 日本の法令ベース、固定値。面積・活動強度に依存せず、シンプルだが粗い。

本ツールは「どれか1つ」ではなく3方式を並列実行して最大値を採る。理由は明快で、現場の意思決定に必要なのは最も厳しい制約だからだ。設計値が法令を下回れば違法、ASHRAE を下回れば国際基準違反、CO2基準を下回れば快適性クレーム。最大値を満たせば三方とも自動的にクリアできる。

候補として「IAQ Procedure(汚染物質個別計算)」や「Natural Ventilation Procedure」もあるが、前者は臭気・VOCの発生源データベースが必要でMVPには重すぎ、後者は窓開放前提で機械換気設計には直接使えない。MVP段階では3方式同時比較が実務価値と実装コストのバランスで最適と判断した。

実装フロー

// 1. プリセット参照
const preset = usagePresets.find(p => p.id === usageType);
// 2. CO2発生量(活動強度)
const co2Gen = activityLevel === "sedentary" ? 0.018
             : activityLevel === "light"     ? 0.030
             : 0.046; // moderate
// 3. ASHRAE VRP
const vAshraeLs  = preset.rpLs * occupancy + preset.raLs * floorArea;
const vAshraeM3h = vAshraeLs * 3.6;
// 4. CO2物質収支
const vCo2M3h = occupancy * co2Gen * 1e6 / (co2Limit - co2Outdoor);
// 5. 建築物衛生法
const vLawM3h = occupancy * 30;
// 6. 推奨値 = 3方式の最大
const vRecommended = Math.max(vAshraeM3h, vCo2M3h, vLawM3h);
// 7. 人あたり L/s·人
const perPersonLs = vRecommended / occupancy / 3.6;

エッジケースとして co2Limit <= co2Outdoor の場合はCO2物質収支式が発散するため計算を停止し、エラーバナーで「室内上限は屋外濃度より大きく」を案内。occupancy=0 または floorArea=0 では全式が0になるため結果セクションはプレースホルダー表示にする。

計算例ステップバイステップ(会議室8人・20m²)

  1. プリセット参照: meeting → Rp=2.5, Ra=0.3
  2. CO2発生量: 静穏 → G=0.018
  3. ASHRAE: Vbz = 2.5×8 + 0.3×20 = 20 + 6 = 26 L/s → 26×3.6 = 93.6 m³/h → 表示は四捨五入で 94
  4. CO2: 8×0.018 = 0.144 m³/h·人合計 → 0.144×1e6 / (1000-400) = 144000/600 = 240 m³/h
  5. 法令: 30×8 = 240 m³/h
  6. max(94, 240, 240) = 240 m³/h
  7. 人あたり: 240 / 8 / 3.6 = 8.33 L/s·人

結果カードには 240 m³/h・8.3 L/s·人 が強調表示され、内訳として3方式の数字が並ぶ。この「どれが勝ったか」が一目で分かる構造が、本ツールのコアバリューだ。

他ツールとの違い

必要換気量を出すWebツールや設計資料は世の中に数多くある。ただ、そのほとんどは「ASHRAE 62.1だけ」「建築物衛生法 30 m³/h・人だけ」「CO2濃度からの簡易式だけ」と、どれか一つの基準しか扱っていない。結果、設計者は同じ部屋のために電卓を3回叩き直し、Excelシートを3枚開き、最後に手作業で最大値を選ぶことになる。

このツールの軸は「3方式を同じ入力で同時に回し、最大値を推奨値として自動で採用する」こと。用途プリセットを選んで人数と面積を入れれば、ASHRAE 62.1 VRP、CO2物質収支、建築物衛生法の3系統が並ぶので、どの基準が支配しているかが一目で分かる。オフィスだと法令値が効くのに、飲食店の軽作業ではCO2基準が跳ね上がる、という「基準の交代ポイント」が見えるのが面白いところ。

もう一つの差別化は「活動強度でCO2発生量が変わる」点を正面から扱ったこと。多くのツールは 0.02 m³/h·人で固定だが、実際には立ち仕事の飲食店員は 0.030、運搬作業では 0.046 まで増える。この違いが必要換気量を1.5倍にすることもある。現場に近い数字を出すために、活動強度は必ず選べる設計にした。

有償の設備設計ソフトとは競合しない。あくまで企画段階・概算検討・既存建物のヒアリング用の「早見表」としての位置づけだ。

豆知識・読み物

1000ppmの起源はドイツ人衛生学者Pettenkofer

室内CO2の基準としてよく聞く「1000ppm」。この数字は日本の建築物衛生法が決めたものだと思われがちだが、ルーツは19世紀ドイツの衛生学者 Max von Pettenkofer にまで遡る。Pettenkoferは1858年頃の実測から、室内の空気が「よどんで不快」と感じ始めるCO2濃度を 0.1%(=1000ppm)と報告した。この経験則がドイツの換気基準に採用され、欧州・日本の法令へと輸出されていった。

面白いのは、1000ppm自体はCO2そのものが有害になるラインではなく、「人間から出る匂い物質や生体排出物の代替指標」としての値だという点。CO2は臭わないし、2000ppm程度では健康被害はほとんど報告されていない。しかしCO2が増えるときは他の不快要因も比例して増えるので、「空気のよどみ計」としては便利な指標だ、という理屈で今も生き続けている。

CO2警報器の落とし穴

コロナ禍以降、NDIR方式の安価なCO2センサが普及した。ただ、格安品の中にはNDIRを名乗りながら実際はeCO2(VOCから推定する擬似CO2)を出す製品がある。eCO2はアルコール消毒や芳香剤、揚げ物の匂いに反応して勝手に数値が上がるので、厨房では「換気しているのに3000ppm」と誤警報が連発する。設計の初期検討で現地実測するときは、センサの検出方式(NDIRか否か)と校正履歴を必ず確認したい。

「法令30 m³/h·人」はどこから来たか

建築物衛生法の30 m³/h·人は、成人が 0.018 m³/h のCO2を出すという仮定で、室内1000ppm・外気400ppmの物質収支を逆算すると約30 m³/h·人になる、という素朴な導出から来ている。つまり建築物衛生法の値は、本質的には静穏活動のCO2物質収支と同じ式の「既製品」だ。このツールで静穏条件を計算すると、法令値とCO2値が同一になることが多いのはそのため。

Tips

  • 在室率を考慮する: プリセットのdefaultDensityは「ピーク人数」前提。実際の平均在室率が50%程度のオフィスなら、熱負荷計算では平均を使いつつ、換気量はピーク値で算定する(人が増えた瞬間にCO2が跳ね上がるため)。
  • 熱交換換気と併用するときは有効換気量で: 全熱交換器の交換効率が70%でも、換気量自体は外気導入量そのままで算定する。効率は温湿度の熱交換に効く値であり、CO2希釈能力ではない。
  • デマンド制御換気(DCV)の下限: CO2センサで外気量を可変制御する場合でも、建築物衛生法の30 m³/h·人は「在室時の最低下限」として扱うのが安全。ゼロにはできない。
  • 給気と排気のバランス: 計算した外気量は「給気側」の必要量。トイレ・厨房の局所排気が別途必要な部屋では、室圧バランスを取るために給気を上積みする。
  • 外気汚染地域の補正: PM2.5・NOx濃度が高い都市中心部では、フィルタ圧損の劣化を見込んで設計風量に10〜20%の余裕を持たせるとよい。

FAQ

オフィスで「法令値300 m³/h」と出たが、ASHRAEは144 m³/hしかない。どちらを信じればいい?

両方正しく、支配している基準が違うだけ。日本国内の特定建築物では建築物衛生法の30 m³/h·人が最低ラインとして法的に要求されるので、オフィスのように人の密度が低く床面積の広い部屋ではほぼ常に法令値が効く。ツールは自動的に最大値を推奨値としている。ASHRAEの方が小さいのは、ASHRAE 62.1が「許容可能な空気質」を最小化する思想で組まれているため。日本で実設計するなら法令値を下回れない。

CO2上限を800ppmに下げると換気量が急増する。下げる価値はある?

学術的には「CO2濃度と認知能力の低下」を示した研究(ハーバード公衆衛生大学院の COGfx Study 等)があり、800ppm以下に保つと意思決定能力が大きく向上したと報告されている。集中作業を伴うオフィスや会議室では800ppm設計も十分に合理的。ただし換気量は(Ci-Co)の差で決まるため、1000→800にすると換気量は1.5倍、600ppm目標なら3倍になる。熱負荷とランニングコストを天秤にかけて判断する。

活動強度の「軽作業」「中程度」はどう選べばいい?

本ツールでは成人の代謝量を基準に、静穏(着席作業・授業・会議)=0.018 m³/h·人、軽作業(接客・立ち歩き・軽い調理)=0.030、中程度(配膳・運搬・フィットネス)=0.046 を採用している。迷ったら一段高い方を選ぶと安全側。スポーツジムや工場はここに収まらないので、別途ASHRAE 62.1の該当用途を参照してほしい。

家庭の換気設計にも使える?

住宅は建築基準法の24時間換気(0.5回/h)が別建てで規定されているため、本ツールの「建築物衛生法」欄は直接適用できない。ただしASHRAEとCO2基準の計算は家庭でも有効で、特に「寝室に2人で寝るとCO2がどこまで上がるか」を逆算するのには便利。寝室面積×2人×静穏で試算すると、多くの住宅が就寝中に1500ppmを超える実態が見えてくる。

ASHRAEと日本の空調衛生工学会(SHASE)の基準では値が違うと聞いた。どちらが正しい?

どちらも「正しい」が用途が違う。SHASE-S 102(空気調和・衛生工学会規格)は日本の気候と労働慣行を反映した日本独自の規格で、設計実務ではこちらが参照されることも多い。本ツールはまずASHRAE 62.1をベースにした国際比較可能な値を出し、法令値で下限を押さえる構成にしている。より厳密にSHASE準拠で進めたい案件では、本ツールの結果を概算として使い、最終値はSHASE-S 102の表で再照合するのが現実的な使い方。

まとめ

部屋の用途・人数・面積を入れるだけで、ASHRAE 62.1・CO2物質収支・建築物衛生法の3方式を同時に比較し、推奨外気量を自動で最大値採用する。どの基準が支配しているかが一目で分かるので、企画段階の概算や既存建物のヒアリングに効く。

外気量が決まったら、次は熱負荷と機器選定に進みたい。冷暖房の負荷計算は 冷房負荷計算ツール、熱交換換気の機種選びは 熱交換換気(HRV)セレクタ、基本的な機械換気量の算定は 換気計算ツール が便利。風量が決まったらダクト径を ダクトサイズ計算 で、温湿度条件の詰めは 湿り空気線図計算 で仕上げるのが一連の流れになる。

疑問や用途追加のリクエストがあれば、お気軽にお問い合わせから連絡してほしい。

M

Mahiro

Mahiro Appの開発者。飲食店改修で『法令はOKなのにCO2基準で機器増強が必要』と判明した経験から、3基準を並べて支配要因を一目で把握できるよう設計した。

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