機械室の送風機音、隣の会議室まで届いていないか
機械室に隣接する会議室で打ち合わせをしていると、「ゴォーッ」という低い唸りがずっと背景で鳴り続ける。話している最中は気にならないが、沈黙した瞬間にふっと耳につく。天井裏を覗けばダクトが走っていて、その先には大型の空調機。典型的な「送風機音のダクト伝搬」だ。
この問題に効くのがスプリッター型のダクト消音器(サイレンサー)。ただ、いざ設計の初期検討をしようとすると途端に困る。カタログを開けばメーカーごとに品番・寸法・性能グラフがバラバラで、「長さ1.5m、吸音材100mmのとき125Hzで何dB落ちるのか」をサクッと知りたいだけなのに、横断比較ができない。そこでASHRAE Handbookの実測データをもとに、長さと吸音材厚、スプリッター間隔を入れれば6バンドの挿入損失が一発で出る計算機を作った。初期検討でメーカーに問い合わせる前の「当たり」を付けるための道具だ。
なぜ作ったのか
設備設計をしていると、騒音計算のフェーズで必ず詰まる。機械室の送風機Lwが90dBA、隣室の許容レベルは45dB、途中のダクト減衰と消音器で何dB落とす必要があるか──ここまでは教科書通り進む。問題は「ではどの消音器をどれだけの長さで入れるか」という段階。
メーカーAの消音器はサイレンサー長1000mmで500Hzに20dB、メーカーBは1200mmで18dB。吸音材厚もバラバラ、スプリッター間隔(ギャップ)の表記すらない製品もある。カタログを3社分並べて比較しようとすると、測定条件(ISO 7235準拠か否か、フランジ含む寸法か、風速何m/sか)も微妙に違って頭を抱える。
結局「メーカーに図面を投げて回答待ち」になるが、初期検討の段階で性能オーダーが見えていないと、そもそも機械室のスペース確保すらできない。サイレンサー長1mで足りるのか、2m必要なのかで、機械室面積が数平米変わる。建築側との調整のために、概算でいいから今すぐ数字が欲しい。
既存のフリーツールを探しても、NC値換算や部屋音響ばかりで、「ダクト単体の挿入損失を6バンド別に出す」ものが見当たらなかった。海外にはいくつかあるが単位系がインチ・フィートで、吸音材厚が2inch/4inchのまま。日本の設計でよく使う50/100/200mmのメトリック表で引けるものが欲しい。
そこで ASHRAE Handbook (HVAC Applications) 2019 Chapter 49 のスプリッター型サイレンサーの実測値を、日本で流通している寸法系に換算して吸音材厚×スプリッター間隔の9通りのマトリクスに整理した。線形補間で長さをかけるだけ、という思い切った単純化を許容する代わりに、ブラウザで3秒で答えが出る。初期検討用の「概算電卓」に特化したツールだ。
ダクト消音器 とは — スプリッター型サイレンサーの基礎
ダクト消音器とは、ダクト内を伝搬する空気伝搬音を減衰させるために吸音材や共鳴空洞を組み込んだ部品のこと。一般的には次の3種に分類される。
吸音型(スプリッター型)消音器
もっとも普及しているタイプ。ダクト内に吸音材(グラスウールやロックウールを繊維方向を整えてパンチングメタルで保護したもの)を板状に並べ、空気が通る隙間(ギャップ=スプリッター間隔)を作る構造。音は吸音材の表面と内部で粘性損失と熱損失を起こして減衰する。
身近なたとえで言うと、カラオケボックスの壁に貼られた穴あきボードの中に詰まっているグラスウール、あれをダクト内に立てた衝立のように並べていると考えればいい。音波が衝立の間を通り抜けるあいだに、衝立の表面で少しずつエネルギーを吸われる。隙間が狭いほど音波は壁近傍を通るので吸われやすく、吸音材が厚いほど低音まで深く入れるので低域が効く。
共鳴型(リアクティブ型)消音器
自動車のマフラーのように、ヘルムホルツ共鳴器や膨張室を利用して特定周波数を反射で打ち消すタイプ。ピンポイントで低域に効くが、広帯域には向かない。ディーゼル発電機の排気側などで使われる。
アクティブ型消音器
マイクで拾った音を逆位相で打ち消すANC(能動騒音制御)。大型ダクトの低周波対策に研究レベルでは効果があるが、空調では実用例はまだ少ない。
スプリッター型の性能は ISO 7235(Acoustics — Laboratory measurement procedures for ducted silencers)で標準化されており、無響室接続のリバーブチャンバー法で挿入損失(Insertion Loss: IL)が測定される。カタログ値はこの規格準拠で出ていることが多いが、実際の現場では気流騒音の再生、流速による性能低下、接続ダクトの形状などで10〜20%は変動する。
単位長さあたり挿入損失 k [dB/m]
スプリッター型の重要な特性は「ある程度の長さまでは挿入損失が長さに比例する」点だ。吸音材厚 t とスプリッター間隔 s を決めれば、周波数 f ごとに単位長さあたりの減衰係数 k_f(t, s) [dB/m] が実測で求まる。総挿入損失は次式で近似できる。
IL_f [dB] = k_f(t, s) × L [m]
ここで L は消音器の有効長(吸音材を貼ってある区間)。この比例関係は L ≤ 3m 程度までは実測と良く合うが、それ以上では波動が飽和して伸び悩む。詳しくは §8 で述べる。
実務での重要性
ダクト消音器の選定をしくじると、どんな実害が出るのか。具体例を挙げる。
事務所衛生基準規則 第5条 では、事務室の気積と換気量に関する規定があり、騒音そのものの数値規制はないが、労働安全衛生規則 第588条および関連ガイドラインでは85dB(A)以上の職場に対して聴力保護措置が求められる。オフィス空調の機械室隣接部屋で60dBを超えると、電話会議のマイクがうるさい音を拾い、相手から「そちら、何の音ですか?」と聞かれる事態になる。
住宅・病院・劇場では 騒音規制法施行規則 に基づき、敷地境界での規制値(工業地域55dB、第一種低層住居地域40dB等)が定められている。病室(NC-30相当、約35dB)や劇場(NC-20相当、約25dB)では要求値が極めて厳しく、送風機Lwから50〜60dBも落とす必要がある。
仮に必要な消音量を5dB見誤ると何が起きるか。5dBの差は人の聴感上「はっきりうるさい/静か」と感じる差で、音のエネルギーでは約3倍。消音器を追加・交換するには天井を壊し、ダクトを切断し、工事中は建物機能が停止する。竣工後の手戻りは数百万〜数千万円単位。
逆に過剰設計も無駄が出る。長さ3mの消音器と長さ1.5mの消音器では機械室スペースの専有面積が変わり、圧力損失も倍近く違って送風機動力(電力コスト)が増える。100Pa の圧損増は年間電気代にして数万円〜十数万円の差になる設備もある。
適正な長さ・吸音材厚を引き当てるには「周波数ごとの必要減衰量」と「消音器の周波数特性」を照合する必要がある。送風機音は一般に低域(125〜500Hz)にピークがあり、ここで落とし切れないと全体のA特性音圧が下がらない。低域に効かせるには吸音材を厚くするかスプリッター間隔を狭めるのが定石で、そのトレードオフを数字で見られるのが本ツールの肝だ。
活躍する場面
機械室隣接の会議室・執務室 もっとも定番の用途。送風機室から延びるダクトに1〜2mのスプリッター型を挟んで、居室側の暗騒音を下げる。必要IL量を6バンド別に概算したいときに使う。
劇場・ホール・スタジオ NC-15〜NC-25レベルの厳しい要求。消音器だけでは足りず、ダクトライニング(内貼り)や曲がりの反射減衰と組み合わせるが、まず消音器単体の性能を把握するところから設計が始まる。
病院・学校 診察室・病室の静音性、教室の語音明瞭度確保。天井チャンバー経由で吸い込むケースも多いが、送風機側の元栓として消音器を置く。
工場・工業施設の事務所ゾーン 工場棟の空調機から事務棟へダクトが長く走り、途中で消音器を噛ませる。往々にして低周波(125Hz以下)が問題になり、200mm吸音材クラスが必要になる。
基本の使い方
- 消音器長さを入力 — 有効長(吸音材施工区間)をメートルで入れる。接続フランジやテーパー部は含めない
- 吸音材厚とスプリッター間隔を選ぶ — 50/100/200mm × 100/150/200mm の組み合わせから選択。迷ったら
100mm厚 × 100mm間隔が標準的 - 音源Lwを入力 — 送風機の全体音響パワーレベル(dBA)。メーカーカタログに記載のPWL値を使う
結果として6オクターブバンドの挿入損失(dB)、A特性換算の平均IL(dB)、消音器出口のLw(dBA)が表示される。判定バッジで効果の目安(高消音/中消音/低消音/効果不足)も確認できる。
具体的な使用例 — 6ケースで性能オーダーを掴む
各ケースで「入力値 → 6バンドIL → 平均IL → 出口Lw → 解釈」の流れで示す。
ケース1: 標準スペック — 1.5m × 100mm厚 × 100mm間隔 × 85dBA
一般的なオフィス空調の初期検討。
- 入力: 長さ1.5m、吸音材100mm、間隔100mm、音源85dBA
- IL: 125Hz=3.0, 250Hz=7.5, 500Hz=15.0, 1kHz=22.5, 2kHz=18.0, 4kHz=12.0 dB
- 平均IL: 約8.8 dB、出口Lw: 約76.2 dBA
- 解釈: 中高域はしっかり効くが125Hzが3dBしか落ちていない。送風機音のピークが低域にある場合は吸音材厚を200mmに上げる必要がある
ケース2: 薄型省スペース — 2m × 50mm厚 × 150mm間隔 × 80dBA
天井内の高さ制約でスリムな消音器を長めに入れるケース。
- 入力: 長さ2m、吸音材50mm、間隔150mm、音源80dBA
- IL: 125Hz=1.4, 250Hz=4.4, 500Hz=10.0, 1kHz=17.0, 2kHz=14.4, 4kHz=8.6 dB
- 平均IL: 約6.4 dB、出口Lw: 約73.6 dBA
- 解釈: 長さで稼ごうとしても、吸音材が薄いと125Hzは1.4dBしか取れない。低周波対策には長さより厚みが効く典型例
ケース3: 高性能コンパクト — 1m × 200mm厚 × 100mm間隔 × 90dBA
大型送風機に厚物吸音材で挑むケース。
- 入力: 長さ1m、吸音材200mm、間隔100mm、音源90dBA
- IL: 125Hz=4.0, 250Hz=8.0, 500Hz=12.0, 1kHz=15.0, 2kHz=14.0, 4kHz=10.0 dB
- 平均IL: 約8.8 dB、出口Lw: 約81.2 dBA
- 解釈: 1mの短尺でも200mm厚にすれば125Hzで4dB取れる。ケース1(1.5m×100mm厚)と平均ILは同等だが、低域特性はケース3のほうが優秀。長さで削るか厚みで攻めるかの判断材料になる
ケース4: バランス型 — 2m × 100mm厚 × 150mm間隔 × 85dBA
標準的な中規模空調機向け。圧損も抑えたい条件。
- 入力: 長さ2m、吸音材100mm、間隔150mm、音源85dBA
- IL: 125Hz=2.8, 250Hz=7.2, 500Hz=14.4, 1kHz=21.6, 2kHz=17.2, 4kHz=11.6 dB
- 平均IL: 約8.5 dB、出口Lw: 約76.5 dBA
- 解釈: ケース1と比べてスプリッター間隔を150mmに広げた分だけ各周波数で係数が下がるが、長さを2mに伸ばして補っている。通風抵抗はケース1より小さく、圧損と消音のバランス型
ケース5: ハイグレード — 3m × 200mm厚 × 150mm間隔 × 88dBA
劇場・スタジオなど厳しい静音要求向けの高級仕様。
- 入力: 長さ3m、吸音材200mm、間隔150mm、音源88dBA
- IL: 125Hz=8.7, 250Hz=17.4, 500Hz=25.8, 1kHz=32.4, 2kHz=30.0, 4kHz=21.6 dB
- 平均IL: 約15.6 dB、出口Lw: 約72.4 dBA
- 解釈: 全帯域で2桁減衰を叩き出すプレミアム仕様。ただし長さ3mはスペースを食う上に、本ツールの線形近似の上限に近く、実測ではここからIL/m効率が落ち始める可能性がある点に注意
ケース6: エントリー — 1.2m × 50mm厚 × 100mm間隔 × 78dBA
小型空調機+短尺ダクトの最小構成。
- 入力: 長さ1.2m、吸音材50mm、間隔100mm、音源78dBA
- IL: 125Hz=1.2, 250Hz=3.6, 500Hz=8.4, 1kHz=14.4, 2kHz=12.0, 4kHz=7.2 dB
- 平均IL: 約5.7 dB、出口Lw: 約72.3 dBA
- 解釈: 平均5.7dBは「低消音」判定の境目。住宅設備レベルならこれでも十分なケースがあるが、居室要求がNC-30以下ならもう一段強化が必要
6ケースを並べると、吸音材厚と長さの組み合わせで同じ平均ILでも低域特性が別物になることが一目で分かる。これが本ツールで伝えたい最大のポイントだ。
仕組み・アルゴリズム
候補手法の比較 — なぜルックアップテーブル方式か
ダクト消音器の挿入損失を理論式で求める方法は大別して3つある。
- Sabine式の応用(吸音率ベース) — 吸音材の吸音率
αからIL ∝ α × P × L / A(P: 周長、L: 長さ、A: 断面積)で近似する方法。シンプルだが、スプリッター間隔や波動性の影響を十分に反映できず、低域で誤差が大きい - 波動方程式の数値解(FEM/BEM) — COMSOL等で吸音材の複素音響インピーダンスをモデル化し、モード解析で伝達損失を求める。精度は高いが設計初期の概算には重すぎる
- 実測データテーブル+線形外挿 — メーカー試験値やASHRAE掲載の実測マトリクスを補間する方法。精度は Sabine式を上回り、計算は軽い
本ツールは選択肢3を採用した。理由は設計初期の「スペース確保のための当たり」を3秒で出すことに特化しているから。精度が要求される最終決定段階ではメーカー試験成績書(ISO 7235準拠)を使うべきであり、それは本ツールの役割ではない。
実装詳細
吸音材厚 t ∈ {50, 100, 200} [mm] とスプリッター間隔 s ∈ {100, 150, 200} [mm] の9通りに対して、6オクターブバンド(125/250/500/1k/2k/4kHz)の単位長さあたり挿入損失 k_f [dB/m] を AttenuationCoef[] 配列で保持する。ASHRAE Handbook HVAC Applications 2019 Chapter 49 Table 39相当のデータを基にしている。
// 吸音材100mm、間隔100mmの係数例 [dB/m]
{ thickness: 100, spacing: 100,
k125: 2.0, k250: 5.0, k500: 10.0,
k1k: 15.0, k2k: 12.0, k4k: 8.0 }
各バンドの総挿入損失は単純に長さとの積で求める。
const coef = attenuationTable.find(
c => c.thickness === thickness && c.spacing === spacing
);
const il125 = coef.k125 * length;
const il250 = coef.k250 * length;
// ... 他バンドも同様
6バンドの平均ILは、単純算術平均ではなく逆対数平均(band-power mean)で求める。これはエネルギーベースで平均を取るための正しい方法で、大きなIL値を過大評価しない。
const ilAvg = -10 * Math.log10(
(Math.pow(10, -il125/10) +
Math.pow(10, -il250/10) +
Math.pow(10, -il500/10) +
Math.pow(10, -il1k/10) +
Math.pow(10, -il2k/10) +
Math.pow(10, -il4k/10)) / 6
);
const outputLw = sourceLw - ilAvg;
なぜ逆対数平均なのか。各バンドの 10^(-IL/10) は「通過する音響パワー比」を表す。6バンドのパワー比を平均し、それを再びdBに戻すことで「エネルギー的に平均された総合消音量」が得られる。算術平均を使うと大きな値に引っ張られて過大評価になる。
計算例 — ケース1を手計算で追う
入力: thickness=100, spacing=100, length=1.5, sourceLw=85
ステップ1 — 係数テーブルから該当行をルックアップ: {k125:2.0, k250:5.0, k500:10.0, k1k:15.0, k2k:12.0, k4k:8.0}
ステップ2 — 長さをかけて各バンドIL: IL125=3.0, IL250=7.5, IL500=15.0, IL1k=22.5, IL2k=18.0, IL4k=12.0
ステップ3 — 各バンドのパワー比:
10^(-3.0/10) = 0.5012
10^(-7.5/10) = 0.1778
10^(-15.0/10) = 0.03162
10^(-22.5/10) = 0.005623
10^(-18.0/10) = 0.01585
10^(-12.0/10) = 0.0631
sum = 0.7952, /6 = 0.1325
ステップ4 — 対数に戻す: ilAvg = -10 * log10(0.1325) ≈ 8.78 dB
ステップ5 — 出口Lw: 85 - 8.8 ≈ 76.2 dBA
線形外挿の限界
IL = k × L の線形関係は L ≤ 3m 程度までは実測と良く一致するが、それ以上になると波動の多重反射が飽和し、長さを伸ばしてもILが伸びなくなる。本ツールは length > 3m で警告を出す仕様にしている。また気流騒音(再生音)は本計算に含まれていないため、高風速(> 15 m/s)では別途評価が必要だ。
他ツールとの違い
メーカーのカタログ性能表は、自社製品を前提に風量・圧損・挿入損失が詳細に載っている。精度は高い反面、設計初期の「そもそもどの厚み・どの間隔・何mの消音器が必要か」という当たりを付けたいフェーズでは、各社のPDFを横断して読み比べる作業が発生する。型番と対応機種を突き合わせるだけで半日溶けるのはよくある話だ。
本ツールはその前段を埋める位置付けにある。ASHRAE Handbook の実測ベースの係数テーブルを採用し、吸音材厚・スプリッター間隔・長さの3軸だけで6オクターブバンドの挿入損失を算出する。特定メーカーに依らないので、基本設計の段階で「100mm厚で1.5mあれば平均15dB前後落とせる」といった感覚を先に掴める。
汎用の騒音計算ツールとの違いは、ダクトサイレンサーに特化している点だ。音響透過損失(TL)や屋外伝搬の減衰を扱う汎用ツールでは、消音器の帯域別特性までは踏み込めない。逆に本ツールは消音器単体の性能に絞っているので、吸音型の選定判断にそのまま使える。
実施設計フェーズに入ったら必ずメーカー試験値(ISO 7235準拠)に差し替えてほしい。本ツールはあくまで「仕様を決めるための物差し」であり、最終性能の保証書ではない。
豆知識・読み物
グラスウールは10年で性能が落ちるのか
吸音材の主役であるグラスウール(32K〜48K密度)は、化学的には安定で本来は半永久的に吸音性能を保つ。ただし現場では、気流で繊維が飛散したり、結露水を吸ってマット内部が湿ったり、油煙が表面に堆積したりして、実効的な吸音率がじわじわ低下していく。目安として厨房排気ダクトなら5-7年、一般空調の給気側なら15-20年で性能が半減するケースも報告されている(日本建築学会 音環境運営委員会資料 参照)。
対策として、グラスウールの表面にガラスクロスや不織布を巻いて繊維飛散を防ぐ「表面処理付き吸音材」が主流になっている。表面処理があると高域(2-4kHz)の吸音率が数%落ちるが、長期の信頼性を取る設計が一般的だ。
気流騒音(再生音)という落とし穴
消音器を通すと必ず音が減るとは限らない。風速が速すぎると、スプリッター後縁の渦によって新たな騒音が発生する。これを「再生音」または「気流騒音」と呼ぶ。スプリッター消音器の限界風速は一般に10-15m/s程度とされ、これを超えると500Hz以上の帯域で挿入損失がゼロに、場合によってはプラス(音が増える)になる。
設計では、消音器通過風速を8-10m/s以下に抑えるのがセオリー。断面を広げる「サイレンサーボックス」方式が使われるのはこのためだ。本ツールは再生音を含まないので、風速チェックは別途 /duct-sizing や /ventilation-calc で併用してほしい。
曲がり併用で追加5dB稼ぐ
ダクトの90度エルボは、内側に吸音ライニングを貼ると「ラインド・エルボ」として500Hz以上で5-10dBの追加減衰を稼げる。消音器本体だけで足りないとき、曲がり部分を吸音化するのは省スペースの常套手段だ。ASHRAEでもラインド・ダクトの単位長あたりIL表が別途用意されており、消音器 + 吸音ダクト + ラインドエルボを直列に組む構成はコストと性能のバランスがいい。
Tips
- 風量制限を先に決める: 消音器の性能は静的な吸音で決まるが、実運用では風速が性能を左右する。目安は断面風速10m/s以下。風量が先に決まっているなら、必要な消音器断面積 = 風量 / 10 で最低寸法を押さえてから吸音材厚を決めるとスムーズだ。
- 圧損とのバランスを取る: 吸音材厚を増やすと挿入損失は稼げるが、有効断面が狭くなり圧損が増える。スプリッター間隔100mmは性能最優先、200mmは圧損優先、150mmはその中間、と覚えておくと判断が速い。
- 点検口を必ず近傍に: グラスウールの経年劣化・吸湿・油汚れは目視確認が基本。消音器の前後1m以内に点検口を設けておくと、交換時期の判断が楽になる。設計図面で忘れがちな項目なのでチェックリストに入れておこう。
- 低域が足りないときは長さではなく厚みで: 125Hzや250Hzの減衰は吸音材厚に強く依存する。長さを倍にしても低域はあまり伸びないので、低周波が問題なら先に200mm厚への変更を検討する。
- ダクト内張りとの合わせ技: 消音器単体で20dB稼ごうとすると2m以上必要になることが多い。消音器1m + 吸音ライニングダクト3m のような分散配置の方が、圧損・スペース・コストのバランスが取れる。
FAQ
円筒型サイレンサーの計算にも使える?
使えない。本ツールはスプリッター(矩形・吸音板並列)型の実測係数テーブルを前提にしている。円筒型は吸音材がダクト外周を一周するため、同じ吸音材厚でも減衰特性が異なり、特に低域の性能が相対的に落ちる。円筒型の概算には別途メーカー資料を参照してほしい。将来的に円筒型プリセットの追加を検討している。
水濡れや高湿度環境で使えるグラスウールはある?
一般的なグラスウールは吸湿すると吸音率が大きく落ちる。厨房排気・屋外機械室・地下ピット近傍など湿気が多い場所では、撥水処理グラスウール(シリコン系撥水剤を含浸したもの)や、ロックウール、ポリエステル系吸音材が選ばれる。ただし本ツールの係数テーブルは標準グラスウール想定なので、撥水品・代替材では性能がやや変わる点に注意。
消音器は洗浄できる?
スプリッター本体の吸音材部分は基本的に水洗浄できない。グラスウール表面に油汚れが付いた場合は、カセット式スプリッターごと交換するのが一般的だ。厨房系では最初からステンレスケース+ガラスクロス包装のカセット構造を選び、5-7年周期で丸ごと差し替える運用が多い。点検口設計が活きる場面だ。
気流騒音(再生音)はどのくらい影響する?
スプリッター消音器の通過風速が10m/s以下なら再生音はほぼ無視できるが、15m/sを超えると500Hz以上で数dBの再生音が発生する。本ツールは再生音を含まない純粋な吸音挿入損失のみを計算しているため、高風速条件では結果が楽観的に出る。送風機直近に消音器を置く場合は特に、断面を広げて風速を抑える設計にしてほしい。
平均挿入損失が20dBを超えるケースはどう読めばいい?
平均20dBは「高消音」クラスで、劇場・スタジオ・病院手術室など厳しい要求に応える水準だ。ただし実務では、ダクトの曲がり・吹出口・境界条件からの騒音リークが支配的になり、消音器単体で20dB落ちていても室内で期待通りに下がらないことがある。消音器の性能を使い切るには、ダクト経路全体の遮音バランスを /sound-insulation で合わせて確認するのが確実だ。
6バンドの平均挿入損失はどう計算している?
単純な算術平均ではなく、逆対数平均(バンドパワーの対数平均)を使っている。計算式は ILavg = -10 * log10(Σ 10^(-IL_f/10) / N) で、デシベルの物理的な意味(エネルギー比の対数)を保ったまま平均化できる手法だ。算術平均だと低域の小さい値に引っ張られすぎて実感と合わないため、騒音工学では逆対数平均が標準的に使われる。
まとめ
ダクト消音器は空調設備の騒音対策で最もコストパフォーマンスが高い部材のひとつだが、メーカー横断で初期検討するツールが意外と少ない。本ツールはASHRAEベースの係数テーブルで吸音材厚・スプリッター間隔・長さから6バンドの挿入損失を瞬時に出す。設計初期の当たり付けに使い、実施設計ではメーカー試験値へ差し替えるのが王道だ。
騒音全体の評価には /noise-level を、壁・床の遮音性能を見るには /sound-insulation を、ダクトサイジング自体は /duct-sizing、換気風量の前段計算は /ventilation-calc を合わせて使ってほしい。疑問や改善要望があれば お問い合わせ から気軽に送ってもらえると嬉しい。
Mahiro
Mahiro Appの開発者。スプリッター型ダクト消音器を指定するたびメーカー横断比較で半日溶けてきた設備設計者が、ASHRAEの実測データを手元で即引けるように組んだ初期検討電卓だ。
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