天井裏のダクト、勘と経験で決めてない?
空調設備の設計で避けて通れないダクトサイズの選定。「だいたいこのくらいの径でいいだろう」——そんな勘頼みの選定が、竣工後の騒音クレームやエネルギーロスにつながっているケースは少なくない。
風量に対してダクトが細すぎれば風速が上がって騒音が発生し、太すぎれば天井裏のスペースを圧迫してコストが跳ね上がる。このツールは、必要風量と用途を入力するだけで、JIS規格に基づく推奨ダクトサイズを瞬時に算出する。丸ダクト・角ダクトの両方に対応し、圧力損失まで自動計算。設計の初期検討から現場での妥当性チェックまで、ブラウザ1つで完結する。
なぜダクトサイズ選定ツールを作ったのか
開発のきっかけ
設備設計の実務でダクトサイズを決めるとき、手元にあるのは紙の線図か、Excelで組んだ自作シートか、有料のCADツール。紙の線図は読み取り精度が低いし、Excelシートは作った人しか使えない属人化の塊になりがち。有料ツールは機能過多で、ちょっとした概算には重すぎる。
「風量を入れたら、JIS規格の候補径がパッと出てくるだけのツール」——それがほしかった。iOSアプリにはいくつか存在するが、現場でAndroidを使っている人やPCで設計書を書きながら使いたい人にはブラウザ完結が理想だ。
こだわった設計判断
Colebrook-White式は反復計算が必要だが、Swamee-Jain近似式を採用して直接解を得るようにした。乱流域での誤差は1%以下で、実務上十分な精度を確保している。
角ダクトの相当径にはHuebscherの式を使い、丸ダクトと角ダクトの比較を同一基準で行えるようにした。推奨候補は「適正風速のものを優先、次に風速順」でソートしており、設計者が直感的に最適サイズを判断できる。
ダクトサイズ選定の基礎知識——等摩擦損失法とは
ダクト設計の3つの手法
ダクトのサイズを決める方法は大きく3つある。
- 風速法: 許容風速を決めて断面積を逆算する。最もシンプルだが、系統全体の圧力バランスが取りにくい
- 等摩擦損失法: 単位長さあたりの圧力損失(Pa/m)を一定にしてサイズを決定する。住宅から中規模ビルまで最も広く使われる
- 静圧再取得法: 分岐点で動圧を静圧に変換し、各吹出口の風量を均一化する。大規模システム向け
このツールは、最も汎用的な等摩擦損失法をベースにしている。
圧力損失の計算——Darcy-Weisbachの式
ダクト内の空気が流れるとき、管壁との摩擦で圧力が失われる。この単位長さあたりの圧力損失ΔP/Lは、Darcy-Weisbachの式で求まる。
ΔP/L = f × (ρ × v²) / (2 × D)
f : 摩擦係数(Colebrook式 or Swamee-Jain近似式で算出)
ρ : 空気密度(1.2 kg/m³ @ 20℃)
v : 風速 [m/s]
D : ダクト内径 [m]
相当丸ダクト径とは
角ダクトの圧力損失を丸ダクトの式で計算するには、「同じ風量・同じ摩擦損失を持つ丸ダクトの径」に換算する必要がある。これが相当丸ダクト径(equivalent diameter)だ。
Huebscherの式で求まる:
De = 1.3 × (W × H)^0.625 / (W + H)^0.25
W : ダクト幅 [m]
H : ダクト高さ [m]
たとえば、400mm×300mmの角ダクトは相当径約378mmの丸ダクトと同等の摩擦損失になる。角から丸への変換、丸から角への変換、どちらの方向にもこの式が使える。
参考: 空気調和・衛生工学会 SHASE-S(空調設計基準)
ダクト サイズ 計算の基本フロー
- 必要風量(m³/h)を確定する
- 用途に応じた許容風速を決める
- 風量と風速から必要断面積を算出
- JIS規格の標準寸法に丸める
- 圧力損失を計算して妥当性を確認
このツールはステップ3〜5を自動化している。
なぜダクトサイズの選定が設計を左右するのか
過大設計のリスク
ダクトが太すぎると、天井裏のスペースが足りなくなる。他の配管(給排水・電気・ガス)との干渉が増え、施工の難易度と工期が跳ね上がる。材料費も断面積にほぼ比例して増加する。直径が1.5倍になると断面積は2.25倍、重量もそれに近い比率で増える。
過小設計のリスク
逆にダクトが細いと、風速が上がって騒音が発生する。主ダクトで8 m/sを超えると「ゴー」という風切り音が天井から聞こえてくる。居室の場合、NC値(Noise Criteria)で35以下を要求されることが多く、風速超過は致命的だ。
さらに風速が上がると圧力損失が急増する。圧力損失は風速の2乗に比例するため、風速が2倍になると損失は4倍。ファンの消費電力もそれに追従して増え、ランニングコストを直撃する。
空調設計基準(SHASE-S)の推奨値
空気調和・衛生工学会の基準では、用途別に推奨風速が示されている:
| 用途 | 推奨風速 | 許容範囲 |
|---|---|---|
| 主ダクト(給気) | 6 m/s | 4〜8 m/s |
| 主ダクト(還気) | 5 m/s | 3.5〜7 m/s |
| 枝ダクト | 3.5 m/s | 2.5〜5 m/s |
| 排気ダクト | 7 m/s | 5〜10 m/s |
このツールはこの基準に基づいて候補サイズの適否を判定する。
設備設計の現場ではこう使う
新築ビルの空調ダクト設計
設計初期に各階の必要風量が決まったら、まずこのツールで概算ダクト径を出す。天井高や梁の位置からダクトスペースの制約がわかれば、丸ダクト・角ダクトの選択判断も容易になる。
リノベーション物件の換気設計
テナントが変わって必要風量が増減したとき、既存ダクトでまかなえるかをチェック。現在の径と新しい風量を入力すれば、風速が許容範囲内かどうかがすぐわかる。
工場・厨房の排気ダクト検討
排気ダクトは許容風速が高い分、騒音と圧損のバランスがシビアだ。候補を3つ並べて比較できるので、コスト・スペース・騒音の三方良しのサイズを見つけやすい。
基本の使い方
操作はシンプル。3ステップで推奨サイズが出てくる。
Step 1: 風量を入力する
必要風量をm³/hで入力。換気計算で算出した値をそのまま入れればOK。1000 m³/hなら「1000」と打つだけ。
Step 2: 用途を選ぶ
主ダクト(給気・還気)、枝ダクト、排気ダクトの4択から選択。用途によって許容風速の範囲が自動で切り替わる。丸ダクトか角ダクトかも選んでおく。
Step 3: 推奨サイズを確認する
JIS規格に基づく推奨候補が、風速・圧力損失とともにテーブル表示される。「適正」「騒音注意」「風速不足」のバッジで一目瞭然。角ダクトの場合は手動でW×Hを指定して個別計算もできる。
具体的な使用例——6つの設計シーンで検証
ケース1: 事務所ビルの主ダクト(給気)
入力値:
- 風量: 3,000 m³/h
- 用途: 主ダクト(給気)
- 形状: 丸ダクト
計算結果:
- φ400mm: 6.6 m/s, 0.96 Pa/m [適正]
- φ450mm: 5.2 m/s, 0.54 Pa/m [適正]
- φ500mm: 4.2 m/s, 0.33 Pa/m [適正]
→ 解釈: 3候補とも適正範囲。天井裏スペースに余裕があればφ450mmが推奨風速に最も近い。スペース制約があればφ400mmでも許容範囲内。
ケース2: トイレの排気ダクト
入力値:
- 風量: 500 m³/h
- 用途: 排気ダクト
- 形状: 丸ダクト
計算結果:
- φ150mm: 7.9 m/s, 3.50 Pa/m [適正]
- φ175mm: 5.8 m/s, 1.66 Pa/m [適正]
- φ200mm: 4.4 m/s, 0.84 Pa/m [風速不足]
→ 解釈: 排気ダクトは許容風速が高め(5〜10 m/s)。φ150mmでも適正だが、騒音を抑えたいならφ175mmが好バランス。
ケース3: 厨房排気の大風量
入力値:
- 風量: 8,000 m³/h
- 用途: 排気ダクト
- 形状: 丸ダクト
計算結果:
- φ500mm: 11.3 m/s [騒音注意]
- φ550mm: 9.4 m/s [適正]
- φ600mm: 7.9 m/s [適正]
→ 解釈: φ500mmでは風速が高く騒音リスクあり。φ550〜600mmが適切。ただし厨房排気はグリスフィルター後の油煙があるため、清掃しやすいφ600mmの方が保守面で有利。
ケース4: 居室の枝ダクト
入力値:
- 風量: 200 m³/h
- 用途: 枝ダクト
- 形状: 丸ダクト
計算結果:
- φ125mm: 4.5 m/s, 2.12 Pa/m [適正]
- φ150mm: 3.1 m/s, 0.97 Pa/m [適正]
- φ175mm: 2.3 m/s, 0.47 Pa/m [風速不足]
→ 解釈: 枝ダクトは許容範囲が狭い(2.5〜5 m/s)。φ125〜150mmが適正。φ175mmは風速不足で、ホコリ堆積のリスクがある。
ケース5: 角ダクトの手動指定
入力値:
- 風量: 5,000 m³/h
- 用途: 主ダクト(給気)
- 形状: 角ダクト(500×400mm)
計算結果:
- 相当丸ダクト径: φ487mm
- 風速: 6.9 m/s [適正]
- 圧力損失: 0.88 Pa/m
→ 解釈: 500×400mmで風速6.9 m/sは推奨風速6 m/sに近く良好。天井高に制約がある場合、600×300mmにすると風速は同等だがアスペクト比が2:1で施工性も問題ない。
ケース6: 角ダクト推奨候補の活用
入力値:
- 風量: 2,000 m³/h
- 用途: 主ダクト(還気)
- 形状: 角ダクト
推奨候補(抜粋):
- 400×300mm: 4.6 m/s [適正]
- 350×350mm: 4.5 m/s [適正]
- 500×250mm: 4.4 m/s [適正]
→ 解釈: 正方形に近い350×350mmが最も圧力損失が小さい。ただし角ダクトは短辺で天井懐を使うため、高さ制約がある場合は500×250mmを選ぶ判断もあり。
仕組み・アルゴリズム——計算の裏側
Colebrook-White式 vs Swamee-Jain近似式
管内流れの摩擦係数を求めるColebrook-White式は暗黙式(fが左辺と右辺の両方に出てくる)で、反復計算が必要だ。
Colebrook-White式(暗黙式):
1/√f = -2 × log10(ε/(3.7×D) + 2.51/(Re×√f))
このツールでは、同等の精度で直接解が得られるSwamee-Jain近似式を採用している。
Swamee-Jain近似式(陽解式):
f = 0.25 / [log10(ε/(3.7×D) + 5.74/Re^0.9)]²
乱流域(Re > 4000)での理論値との誤差は1%以下。ダクト設計では十分な精度だ。
参考: Darcy-Weisbach方程式 - Wikipedia
計算例: φ400mmダクト, 3000 m³/h
1. 風速: v = Q / A = (3000/3600) / (π×0.4²/4) = 6.63 m/s
2. レイノルズ数: Re = v×D/ν = 6.63×0.4/1.5×10⁻⁵ = 176,800
3. 摩擦係数: f = 0.25/[log10(0.00015/(3.7×0.4) + 5.74/176800^0.9)]²
≈ 0.0174
4. 圧力損失: ΔP/L = 0.0174×1.2×6.63²/(2×0.4) ≈ 1.15 Pa/m
JIS規格への丸め処理
計算で得られる「理論的な最適径」はJIS規格の標準径とは一致しない。たとえば必要径が380mmと出ても、JIS規格では350mmか400mmのどちらかになる。このツールは計算上の最適径に最も近い規格径とその前後1サイズの合計3候補を提示することで、設計者の判断材料を提供する。
なぜ等摩擦損失法を選んだか
風速法はシンプルだがダクト系統が長くなると末端で風量不足が生じやすい。静圧再取得法は精度が高いが局部損失係数のデータが必要で、概算ツールには向かない。等摩擦損失法は「概算段階で実用的な精度が出る」最もバランスの良い手法だ。
Excelシートや有料ツールとの違い
ブラウザ完結・インストール不要
DUCTable(iOS)のようなアプリはスマホには便利だが、設計事務所のPCで使いたいときに不便。このツールはURL1つでアクセスでき、OSを選ばない。
JIS規格自動丸め+3候補比較
Excelシートでは計算式を組んでも「じゃあ規格で何径にするか」は自分で調べる必要がある。このツールはJIS標準径への丸めと前後サイズの3候補表示を自動で行う。
丸⇔角ダクトの相互比較
同じ風量で丸ダクトの候補と角ダクトの候補を並べて比較できる。相当丸ダクト径の換算も自動なので、形状変更の検討がスムーズ。
ダクト設計にまつわる豆知識
丸ダクトと角ダクト、コストの差はどのくらい?
同じ断面積なら、丸ダクトの方が周長が短い(円が最も効率的な形状)。そのため材料費は丸ダクトが有利で、一般に角ダクトより20〜30%安くなる。しかし角ダクトは天井懐に収まりやすく、梁をかわすレイアウトの自由度が高い。結果として「スペース優先なら角」「コスト優先なら丸」という選択になることが多い。
参考: ダクト - Wikipedia
等摩擦損失法の歴史
等摩擦損失法は1940年代にアメリカのASHRAE(暖房冷凍空調学会)が体系化した手法。もともとは手計算用の線図(ダクトチャート)として発展し、縦軸に風量、横軸にダクト径を取って摩擦損失の等高線を引いたグラフが設計者の必携ツールだった。デジタル化でこの線図をブラウザ上の計算に置き換えたのが、このツールのルーツでもある。
設計時に知っておきたい実践Tips
アスペクト比は4:1以下に抑える
角ダクトのW:H比が4:1を超えると、ダクトの剛性が不足して振動や変形のリスクが高まる。補強リブが必要になり、かえってコスト増になるケースもある。可能な限り正方形に近い断面を選ぶのが鉄則。
保温厚みを考慮した天井懐の確保
ダクトサイズだけでなく、保温材の厚み(通常25〜50mm)も天井懐の計算に含めること。φ400mmのダクトに50mm保温を巻くと外径は500mmになる。支持金物のクリアランスも含めると、実質の必要高さはダクト径の1.3〜1.5倍が目安だ。
消音チャンバーとの組合せ
ファン直後のダクトは風速が高く騒音源になりやすい。消音チャンバーやサイレンサーを挟む場合、チャンバー前後でダクトサイズが変わることがある。上流側(ファン直後)と下流側(居室側)で別々にサイズ検討するのが正確。
よくある質問
Q: グラスウールダクトの場合、計算結果は変わる?
変わる。グラスウールダクトは内面の粗さが亜鉛鉄板の約6倍(0.9mm vs 0.15mm)あるため、同じ風速でも摩擦損失が大きくなる。本ツールは亜鉛鉄板を前提としているため、グラスウールダクトの場合は圧力損失を1.5〜2倍程度多めに見積もるのが安全側の目安だ。
Q: 局部損失(エルボ・分岐)はどう考える?
本ツールは直管部の摩擦損失のみを計算する。エルボ(曲がり)や分岐の局部損失は、一般に直管換算長さで加算する方法が使われる。たとえば90°エルボは直管約12D(ダクト径の12倍)相当。系統全体の圧損計算には、直管長+局部損失換算長の合計に対してPa/m値を掛ければ概算できる。
Q: 計算に使っている空気密度は変更できる?
現時点では標準空気密度(20℃, 1atm, 1.2 kg/m³)で固定している。高温排気(200℃以上)や高地(標高1000m以上)では密度が変わるため、計算結果に数%〜20%程度の誤差が生じる。そのような条件では専用ソフトでの検討を推奨する。
Q: 入力データが外部に送信されることはある?
ない。風量や寸法の入力データはすべてブラウザ内で計算処理され、外部サーバーへの送信は一切行っていない。通信環境がなくても、ページを一度読み込めばオフラインで利用可能だ。
まとめ
ダクトサイズの選定は、風量・風速・圧力損失の3つのバランスで決まる。このツールは等摩擦損失法に基づいてJIS規格の推奨サイズを瞬時に算出し、設計の初期検討を加速させる。
丸ダクト・角ダクトの両方に対応し、複数候補を風速判定付きで比較できるのが最大のメリットだ。
換気計算がまだなら換気量計算ツールも試してみて。空調負荷の概算には空調負荷概算ツールが便利。
不具合や要望があれば、X (@MahiroMemo)から気軽に教えて。