密閉配管 膨張タンク容量計算

冷温水・床暖房・ボイラー系のダイヤフラム式膨張タンク容量とプレチャージ圧を算出

密閉配管系(冷温水・床暖房・ボイラー)の膨張タンク必要容量とプレチャージ圧を、ASHRAE標準式で算出します。

シナリオプリセット

系統条件

温度条件

圧力条件

算出結果

推奨タンクサイズ24L(最小 22.8 L)

膨張量

14.35 L

膨張率 2.87 %

受入率

63 %

ダイヤフラム有効容積比

プレチャージ圧

69 kPa

ゲージ圧 (空タンク時)

最高許容圧

360 kPa

ゲージ圧 (逃し弁×0.9)

※ 標準式に基づく目安値。実選定はメーカー仕様書とHASS 206/SHASE-S 010を確認のこと。

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床暖房の施工検査で「このタンク、容量足りてる?」と聞かれて止まった話

床暖房の試運転中、現場監督に「この24Lタンクで容量足りてるんだよね?」と聞かれて一瞬固まった経験がある。系統水量・温度差・静水頭・逃し弁設定——頭の中では式が回っているのに、紙とペンだと水密度の値を思い出せない。結局その場ではメーカーのPDFカタログをスマホで開いて、早見表から逆算する羽目になった。

密閉配管の膨張タンクは、容量が足りなければ逃し弁がブシュッと作動して床が濡れ、容量が余りすぎるとコストが跳ね上がる。計算自体は中学物理レベルなのに、現場で即答できるツールが日本語圏にほとんど存在しない。だから作った。系統水量と温度範囲、静水頭と逃し弁の4項目を入力するだけで、最小容量・推奨サイズ・プレチャージ圧まで一気に出る。床暖房でもボイラーでもチラーでも、密閉系なら式は同じだ。

なぜこのツールを作ったのか

膨張タンク容量の計算は、本来は設備設計の基本中の基本。でも実務で困るのは「どこにも独立した計算ツールがない」という一点に尽きる。

メーカーカタログにはそれぞれ独自のExcelシートやPDF早見表がある。ただしA社のシートはグリコール前提、B社のシートは逃し弁設定が固定、C社は一次圧の単位がbar表示——現場で機材を混在させて使うと、毎回頭を切り替えなければならない。英語圏ではASHRAEハンドブックや海外HVACメーカーのWeb計算機がそれなりに整備されているが、日本語で入力単位(L・℃・kPa・m)が揃っていて、HASS 206やSHASE-S 010を意識した計算機はほとんど見当たらない。

個人的なきっかけは、2年前の小規模ボイラー更新工事だった。既設の開放式タンクを密閉式ダイヤフラムに置き換える提案を作るとき、系統水量1200Lに対して何Lのタンクが必要かをその場で答えられなかった。事務所に戻ってExcelを叩いたら、計算は10分で終わった。でも現場では10分が命取りだ。

そこで、ブラウザさえあれば動いて、水密度テーブルを内蔵し、プレチャージ圧と受入率まで自動で出すツールを作ることにした。メーカー選定ソフトの代わりではなく、その前段——「だいたい何Lクラスが必要か」を秒で掴むためのツールとして設計している。

膨張タンクとは何か

密閉配管に必須の「水の逃げ場」

膨張タンクは、温度変化で膨張する水の体積変化を吸収するための機器だ。水は10℃から80℃に上がるだけで約2.9%体積が増える。500Lの系統なら14L以上の水が行き場を失うことになり、このまま密閉系に閉じ込めれば圧力は数MPaまで跳ね上がって配管や機器を破壊する。膨張タンクはその逃げ場を提供する役割を担う。

日常のたとえでいえば、炭酸ペットボトルを冷凍庫に入れたときの膨張を想像してほしい。あれは液体と気体の両方が膨張するが、密閉された容器だとキャップが飛ぶか底が抜ける。膨張タンクは「キャップが飛ぶ前に風船が膨らむ側室」を用意してやる装置だ。

開放式と密閉式

昔のアパート屋上によく置かれていた四角い水タンクは「開放式膨張タンク」。系統最高点より高い位置に置き、大気に開放した水槽で膨張を吸収する。構造はシンプルだが、水が空気に触れて酸素を吸収するため配管が錆びやすく、蒸発ロスで補給水が必要になる。

現代の主流は「密閉式膨張タンク」、特にダイヤフラム式。金属容器の内部をゴム膜(ダイヤフラム)で二室に分け、片側に水、反対側に窒素ガスを封入する。水が膨張するとゴム膜が押されて窒素が圧縮され、気体の圧縮性で体積変化を吸収する。空気に触れないので腐食リスクが低く、設置位置の自由度も高い。

ボイル・シャルル則とダイヤフラム

ダイヤフラムタンクの動作原理はボイルの法則 P1V1 = P2V2 そのものだ。運転前(プレチャージ状態)の窒素体積と圧力が、運転中に水で押し込まれて別の体積と圧力に変化する。この関係から「どれだけの膨張水量を受け入れられるか」が決まり、ASHRAE標準式が導かれる。より詳しくはWikipediaの膨張タンクの項目や、温度による水の密度変化はNIST水物性データが参考になる。

水の密度は4℃で最大(約1000 kg/m3)になり、そこから温度が上がるほど直線的ではなく緩やかに低下する。10℃で999.7、40℃で992.2、80℃で971.8、100℃で958.4。温度差が大きいほど膨張率は非線形に大きくなるため、線形近似ではなく実測値ベースの密度表で補間するのが標準的な扱いだ。

実務での重要性

容量不足は即「事故」に直結する

膨張タンク容量が不足すると、運転温度が上がった瞬間に系統圧が急上昇する。逃し弁が設定圧に達して作動すれば、床下や機械室に温水がぶちまけられる。逃し弁が作動しなかった場合はもっと怖い——最も弱い継手・ガスケット・銅管の曲げ部から漏れ、最悪のケースでは配管が破断する。床暖房で温水漏れが起きれば、フローリングの張り替え・断熱材交換・下階への水損補償まで含めて数百万円コースの手戻りになる。

給湯配管のSHASE-S 010や、空調配管のHASS 206(空気調和・衛生工学会規格)は、密閉式膨張タンク容量について「温度変化による水の体積増加を吸収し、かつ運転時圧力が逃し弁設定の90%を超えないこと」という主旨の基準を示している。このツールの安全率0.9はこの考え方に沿っている。

逆に過大容量もダメな理由

「大きい分には問題ないだろう」と思いがちだが、過大なタンクはコスト増だけでなく、プレチャージ圧管理が甘くなるとダイヤフラムが水で満充填されて機能しなくなる。適正サイズの選定には「最小容量」と「次に大きい標準サイズ」を示すことが重要で、このツールもその二段構えで結果を出す。

現場感覚としての目安

温水暖房系統なら、**経験則として系統水量の5〜10%**程度のタンク容量が必要になることが多い。500Lの床暖房なら25〜50Lクラス。ただしこれは逃し弁設定と静水頭に大きく依存するので、必ず式で確認すること。経験則だけで選ぶと、高層マンションの最上階系統などで痛い目に遭う。

活躍する場面

床暖房新設工事。住宅〜小規模施設の床暖房は系統水量100〜500L、温度10→50℃程度が多い。膨張率は1〜1.5%前後になり、8〜18Lクラスの小型ダイヤフラムタンクで足りることが多いが、静水頭次第で一段階上げる判断が必要になる。

ボイラー更新・リプレース。既設の開放式を密閉式に切り替える案件。系統水量を推定しつつ、既存の逃し弁設定をそのまま使えるか、変更が必要かを検討する場面で役立つ。

冷水・チラー系統。冷却専用でも、停止時の温度上昇(夏場の機械室で常温化)を想定した膨張計算が必要だ。温度差は小さいがゼロではなく、系統水量が大きい大型空調では無視できない。

パネルヒーター・ファンコイル系統。中規模ビルで複数系統をまとめる場合、系統ごとにタンクを分けるか共用するかの判断にも使える。系統を分けたほうがメンテナンスは楽だが、コストは上がる。

改修時の再サイジング。配管更新や増設で系統水量が変わったとき、既存タンクが流用できるかの即答用としても使える。

基本の使い方

ステップ1:系統種別と水量を入力。床暖房・暖房・冷水・ボイラーから系統を選び、配管と機器内容積を合計した水量をL単位で入力する。配管体積は口径×長さ、機器はカタログ値を参照。

ステップ2:温度範囲を入力。運転温度の下限(通常は停止時の外気or冷水温度)と上限(設計最高温度)を入力する。冷水系でも停止時の常温までを想定する。

ステップ3:圧力条件を入力。静水頭(タンク設置位置から系統最高点までの高さ)と、逃し弁設定圧を入力する。結果欄に膨張量・最小タンク容量・推奨標準サイズ・プレチャージ圧・最高許容圧・受入率が即表示される。

具体的な使用例

ケース1:住宅床暖房500L 10→80℃ 静水頭5m 逃し弁400kPa

入力:系統水量500L、初期10℃、最高80℃、静水頭5m、逃し弁400kPa。 計算:ρ(10)=999.7、ρ(80)=971.8、膨張率 e = 999.7/971.8 − 1 = 0.02871(2.87%)。膨張量 = 500 × 0.02871 = 14.36L。P1abs = 5×9.81 + 20 + 101.3 = 170.4 kPa、P2abs = 400×0.9 + 101.3 = 461.3 kPa。最小タンク = 14.36 × 461.3 / (461.3 − 170.4) = 22.76L。 結果:推奨24L、プレチャージ69kPa(ゲージ)、最高360kPa、受入率63%。 解釈:戸建て床暖房で最もよくある構成。24Lクラスなら現場在庫も豊富で迷いがない。

ケース2:小規模給湯200L 20→60℃ 静水頭3m 逃し弁300kPa

入力:200L、20→60℃、静水頭3m、逃し弁300kPa。 計算:ρ(20)=998.2、ρ(60)=983.2、e = 0.01526(1.53%)。膨張量 = 3.05L。P1abs = 150.7、P2abs = 371.3、最小 = 5.14L。 結果:推奨8L、プレチャージ49kPa、最高270kPa、受入率59%。 解釈:給湯系の温度差40℃は膨張率1.5%程度。小容量系は8Lでほぼ足りる。

ケース3:大型暖房2000L 10→70℃ 静水頭10m 逃し弁500kPa

入力:2000L、10→70℃、静水頭10m、逃し弁500kPa。 計算:ρ(10)=999.7、ρ(70)=977.8、e = 0.02240(2.24%)。膨張量 = 44.79L。P1abs = 219.4、P2abs = 551.3、最小 = 74.4L。 結果:推奨80L、プレチャージ118kPa、最高450kPa、受入率60%。 解釈:高層化で静水頭が増えると同じ膨張量でも必要タンクが大きくなる。プレチャージ圧の現場調整が重要。

ケース4:チラー冷水1000L 7→35℃ 静水頭8m 逃し弁350kPa

入力:1000L、7→35℃、静水頭8m、逃し弁350kPa。 計算:ρ(7)≈999.85(4℃と10℃を補間)、ρ(35)≈993.9(30℃と40℃を補間)、e = 0.00599(0.60%)。膨張量 = 5.99L。P1abs = 199.8、P2abs = 416.3、最小 = 11.5L。 結果:推奨12L、プレチャージ98kPa、最高315kPa、受入率52%。 解釈:冷水系は温度差が小さく膨張量は少ないが、停止時昇温まで見込むとタンクはゼロにできない。

ケース5:大規模暖房5000L 15→85℃ 静水頭15m 逃し弁600kPa

入力:5000L、15→85℃、静水頭15m、逃し弁600kPa。 計算:ρ(15)=998.95、ρ(85)=968.55、e = 0.03139(3.14%)。膨張量 = 156.95L。P1abs = 268.5、P2abs = 641.3、最小 = 270.0L。 結果:推奨300L、プレチャージ167kPa、最高540kPa、受入率58%。 解釈:中規模ビルの集中暖房クラス。300Lクラスとなると据付スペースの確保も設計段階で必要になる。

ケース6:小規模パネルヒーター80L 15→70℃ 静水頭2m 逃し弁250kPa

入力:80L、15→70℃、静水頭2m、逃し弁250kPa。 計算:ρ(15)=998.95、ρ(70)=977.8、e = 0.02163(2.16%)。膨張量 = 1.73L。P1abs = 140.9、P2abs = 326.3、最小 = 3.05L。 結果:推奨8L、プレチャージ40kPa、最高225kPa、受入率57%。 解釈:最小8Lサイズで十分余裕がある。逃し弁設定が低めなのでプレチャージ圧を欲張らないのがコツ。

ケース7:ボイラー給湯1500L 20→90℃ 静水頭6m 逃し弁450kPa

入力:1500L、20→90℃、静水頭6m、逃し弁450kPa。 計算:ρ(20)=998.2、ρ(90)=965.3、e = 0.03409(3.41%)。膨張量 = 51.14L。P1abs = 180.2、P2abs = 506.3、最小 = 79.4L。 結果:推奨80L、プレチャージ79kPa、最高405kPa、受入率64%。 解釈:高温給湯は膨張率が3%を超える。80L→次サイズ100Lの選択は、安全率と在庫事情で判断する。

仕組み・アルゴリズム

候補手法:ASHRAE標準式 vs 簡易ボイル式

密閉式膨張タンクの容量計算には大きく2系統のアプローチがある。ひとつは簡易ボイル式で、窒素の初期体積と運転中体積をボイルの法則で直接解く方法。もうひとつはASHRAE標準式(HASS 206もほぼ同じ形)で、膨張水量・プレチャージ絶対圧・最高許容絶対圧の3要素からタンク必要容量を一発で出す式だ。

このツールは後者を採用した。理由は2つ。①設計実務で使う入力パラメータ(静水頭・逃し弁設定)との対応が直感的で、現場で式を逆算しやすいこと。②ボイル式はタンク内気室体積を明示的に扱う必要があるが、標準式なら膨張水量とタンク必要容量を一対一で結べること。

実装の中心式

// 膨張率(水密度比から導出)
const expansionRatio = rhoInit / rhoMax - 1;

// 膨張水量
const expansionVolume = systemVolume * expansionRatio;

// 絶対圧換算
const P1abs = staticHead * 9.81 + 20 + 101.3;  // プレチャージ
const P2abs = relief * 0.9 + 101.3;             // 最高許容

// ASHRAE標準式
const minTank = expansionVolume * P2abs / (P2abs - P1abs);

// 受入率(タンク効率の目安)
const acceptance = 1 - P1abs / P2abs;

水密度は4〜100℃の11点テーブルを持ち、入力温度は隣接2点の線形補間で求める。100℃超は蒸気圧の影響が無視できなくなるためサポート外とし、警告を出す仕様にしている。

計算例:ケース1をステップバイステップ

  1. 水密度補間:ρ(10)=999.7、ρ(80)=971.8(テーブル直値)。
  2. 膨張率:999.7 / 971.8 − 1 = 0.02871、百分率で2.87%。
  3. 膨張水量:500L × 0.02871 = 14.36L。この量が「系統から追い出される水」。
  4. P1abs:静水頭5m × 9.81 + 20(マージン)+ 101.3(大気圧)= 170.4 kPa。
  5. P2abs:逃し弁400 × 0.9(安全率)+ 101.3 = 461.3 kPa。
  6. 最小タンク:14.36 × 461.3 / (461.3 − 170.4) = 14.36 × 1.586 = 22.76L。
  7. 標準サイズ:22.76Lに対して8/12/18/24/35/50…の中から24Lを選択。
  8. 受入率:1 − 170.4/461.3 = 0.631、63%。ダイヤフラム全容量のうち63%まで水を受け入れられる余裕がある。

プレチャージ圧の決定ロジック

静水頭に一律20kPaのマージンを加算している。この20kPaは「ポンプ停止時でも系統最高点に正圧が残り、空気吸い込みを防ぐ」ための安全代。HASS 206も同様の考え方を採っている。現場での窒素充填は加圧ゲージで確認しながら行うが、このツールが出すゲージ圧がそのまま充填目標値になる。

他ツールとの違い:メーカー選定ソフトや個別Excelとの使い分け

膨張タンクの容量選定には、大きく分けて三つの手段がある。メーカーの選定ソフト、社内に蓄積された個別Excelシート、そしてこの計算ツールだ。それぞれ得意分野が違うので、使い分けを整理しておきたい。

メーカー選定ソフトは、型式決定の最終段階で強い。ブラダー材質、接続口径、最高使用圧、耐熱温度まで機種ごとに絞り込める。ただし初期段階の「そもそも何L必要か」を知りたいだけの場面では、会員登録やインストール、型番選定フローを踏む必要があり重い。また1メーカーに縛られるので、複数社で相見積を取る案件では不便だ。

個別Excelシートは自由度が高いが、作成者が退職すると更新が止まるという設備業界あるあるに直面する。水密度表がハードコードされ、ASHRAE式とボイル式が混在し、プレチャージ圧マージンが誰も根拠を説明できない値で固定されている、というケースを現場で何度も見てきた。

本ツールは初期検討フェーズと現場での再確認に特化した。系統水量・温度・静水頭・逃し弁設定を入れるだけで膨張量、最小タンク容量、推奨サイズ、プレチャージ圧、受入率がワンタップで出る。メーカーをまたいだ比較や、施主説明用の根拠資料作成にちょうどいい。最終的な型式決定はメーカーソフトで、日々の概算と検算はこちらで、という二段構えが現実的だ。

豆知識:膨張タンク設計の裏側

なぜ還り側低圧部に付けるのか

膨張タンクの設置位置は、原則として**循環ポンプの吸込側(還り側)**が鉄則だ。ポンプの吐出側に付けると、運転時にタンク内圧が一気に上がってダイヤフラムが破損したり、受入容量が実質的に減ってしまう。吸込側であれば系統内で最も圧力が低く安定しており、膨張水をスムーズに吸収できる。SHASE-S 010(空気調和・衛生工学会規準)にもこの配置が明記されている。古い建物で時々「ポンプの吐出側に付いている」物件に遭遇するが、ほぼ例外なく逃し弁が頻繁に吹いていたり、タンク寿命が極端に短い。

窒素充填の意義

ダイヤフラムタンクの気室側には、空気ではなく窒素ガスを充填するのが一般的だ。理由は二つある。一つはダイヤフラムゴムの酸化劣化を防ぐため。空気中の酸素はブチルゴムやEPDMを徐々に硬化させ、数年で亀裂を生じさせる。もう一つは水蒸気透過による圧力低下を抑えるため。窒素分子は空気よりやや大きく、ダイヤフラム越しに抜けにくい。結果としてプレチャージ圧の保持期間が伸び、メンテナンスサイクルが長くなる。新品タンクは工場で窒素充填済みなので、開封後に空気入りコンプレッサーで補充しないよう注意したい。

膨張管の口径は流速で決めない

膨張タンクと系統をつなぐ「膨張管」の口径は、水量から求めるのではなく系統容量に応じた最小口径で決まる。HASS 206では系統容積500L以下で20A、500〜1000Lで25A、それ以上は32A以上を推奨している。ここを細くすると膨張・収縮時の水の出入りで圧損が発生し、タンクが追従できなくなる。意外と見落としがちなポイントだ。

Tips:現場で効く実務テクニック

  • プレチャージ圧は据付前に必ず実測する: 新品タンクでも輸送中や在庫期間中にガスが抜けていることがある。据付前に空気入れ用のシュレーダーバルブにタイヤゲージを当てて実圧を確認し、不足していればフットポンプで追加窒素を注入する。設計値との差が20kPa以内なら許容範囲だ。
  • 空気抜きは「高→低→高」の順で: 系統最高点のエア抜き弁を開き、循環ポンプを短時間運転して気泡を巻き込み、再び最高点で抜く、を3周ほど繰り返す。最初の1回で終わらせるとダイヤフラム内に気泡が残り、タンク効率が落ちる。
  • 年1回の圧力チェックを点検項目に組み込む: プレチャージ圧は年に10〜30kPa程度自然減するのが普通だ。法定点検のタイミングで実圧を記録しておくと、漏れの兆候を早期に掴める。急激な低下はダイヤフラム破損のサインだ。
  • 横置きタンクは脚を固定する: 80L以上の横置きタイプは満水時に100kg近くなる。地震時の転倒防止アンカーを忘れずに。縦置きタイプでも天井高に余裕がない場合は横置きを選ぶが、その場合は設置面積が倍近く必要になる。
  • 逃し弁の作動履歴を記録する: 年1回以上作動しているようなら容量不足か設定圧ミスを疑う。本ツールで設計値を再計算し、実配管容積と照合するとズレの原因が見えてくる。

FAQ

グリコール混合液を使っている系統でも同じ式で計算できる?

厳密には計算できない。プロピレングリコール30%水溶液の場合、膨張率は純水より約15〜20%大きくなる。本ツールは水密度表ベースなので、グリコール系は結果に1.2倍程度の安全率を掛けて参考値として扱うのが無難だ。正確な計算にはグリコール濃度別の密度表が必要で、将来的な機能追加として検討している。寒冷地の不凍液配管や地中熱ヒートポンプでは必ずメーカー仕様書と照合してほしい。

ダイヤフラムタンクの寿命はどれくらい?

一般的には7〜15年が交換目安だ。ダイヤフラムゴムの劣化、プレチャージ窒素の自然減、溶接部の腐食が主な寿命要因となる。使用温度が高いほど寿命は短くなり、常時80℃以上の高温系では5年程度で交換するケースもある。冷水系や床暖房の低温系では15年以上持つこともある。タンク上部を指で押して「ペコッ」と凹む場合はダイヤフラム破損のサインなので即交換したい。

計算した最小タンク容量にどれくらいの安全率を掛けるべき?

本ツールが出す値はASHRAE標準式による理論最小値なので、実選定では1.2〜1.5倍を掛けるのが現場のセオリーだ。推奨サイズ欄は最小値以上の規格サイズを自動で選んでいるが、これはまだ安全側とは言えない。理由は、実配管容積が設計値より10〜20%大きくなることが多いこと、将来的な系統増設の余地を残したいこと、受入率が低下したときのマージンが必要なこと、の3点だ。特に床暖房は後からパネル追加のリクエストが来やすいので、1クラス上のサイズを選んでおくと安心だ。

開放式膨張タンクと密閉式、どちらを選ぶべき?

既存ビルの更新案件では密閉式への置換が主流だ。開放式は系統最高点より上に設置する必要があり、屋上スペースの確保や凍結対策、酸素溶け込みによる配管腐食という課題がある。密閉式(ダイヤフラムタンク)は任意の場所に設置でき、酸素との遮断で配管寿命が伸びる。一方、開放式はシンプルで圧力管理が不要、故障してもすぐ気付ける利点がある。新設は原則密閉式、既設で開放式が問題なく機能している場合は維持、という判断が一般的だ。本ツールは密閉式専用の計算となる。

受入率が30%未満と警告が出たらどう対処すればいい?

受入率はダイヤフラムタンクのうち実際に膨張水を受け入れられる体積割合で、1 - P1abs/P2abs で求まる。これが低いとタンクの「見かけ容量」と「実効容量」が乖離し、表示上は100Lタンクでも実質20Lしか機能しないといった事態になる。対処法は二つ。一つはプレチャージ圧を下げる(静水頭+20kPaを確保できる範囲で)、もう一つは逃し弁設定圧を上げることだ。多くの場合、後者の方が実務的に影響が少ない。ただし配管・機器の最高使用圧を超えないよう注意する。

まとめ

密閉配管系の膨張タンク容量選定は、水密度表の補間・ASHRAE式・プレチャージ圧決定・受入率チェックという複数の計算を要する地味だが重要な作業だ。本ツールを使えば、系統水量と温度・圧力条件を入れるだけで推奨タンクサイズまで一気に出る。設計の初期検討から現場での再確認、施主説明まで幅広く活用してほしい。

関連ツールも併せて使うと設計精度が上がる。配管の熱伸び量は配管熱膨張量計算、伸縮を吸収するループ寸法は伸縮ループ計算、循環ポンプの選定はポンプ揚程計算、配管径の決定は配管サイズ計算を参照。ご意見・ご要望はお問い合わせまで気軽に送ってほしい。

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Mahiro

Mahiro Appの開発者。床暖房とボイラー更新の現場で膨張タンク容量選定に何度も困った経験から、水密度表とASHRAE式を内蔵した即答ツールとして開発した。

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