モーターは大きめ、軸は太め、キーは足りない
砂利を運ぶベルトコンベヤを1台つくる。搬送量からベルト幅と動力を出し、減速機を選び、ヘッドプーリの駆動軸の太さを決め、キーを選び、軸受の寿命を確かめる。どの工程にもツールがあり、それぞれの画面は数字を返す。
それでも、組み上げた駆動部が釣り合っているとは限らない。ツールとツールのあいだで値を受け渡すところで、余裕を重ねたり、逆に見落としたりするからだ。
- コンベヤの計算で15%の余裕を見たモーターに、減速機のサービスファクタをもう一度掛けてモーターを選び直す
- 駆動軸の曲げを、有効張力(張り側と緩み側の差)から計算してしまう
- 許容応力にすでに安全率が入っているのに、軸径の計算でさらに安全率2を掛ける
- キーの面圧を、軸側の溝の深さで確かめて「注意」で済ませる
どれも、個々のツールの説明には書きようがない間違いだ。この記事では、ベルトコンベヤ1台の駆動部をコンベヤ → 減速機 → 軸径 → キー → 軸受の5工程で最後まで通す。工程ごとに、どのツールに何を入れ、何を受け取って次へ渡すのかを数値付きで追う。数値はすべて、このサイトの各ツールの式から出したものだ。
通しの例題をコンベヤの駆動軸で組んだ理由
このサイトには動力伝達設計まとめ|歯車・減速機・ベルト・モーター選定を一括があり、歯車・減速機・ベルト・軸・キー・軸受といった計算領域を順に並べている。どの領域でどのツールを使えばいいかは、そちらで分かる。ただ、まとめ記事は領域ごとに入口を用意する形なので、前の領域の出力をどう受け取るかまでは踏み込めない。軸を曲げるのはどの張力か。サービスファクタはどこに掛けるのか。軸の設計トルクは何にするのか。そこは誰の担当でもないまま残っていた。
強度計算・空調・ポンプ・電気で同じ形の例題を書いてきた。今回は、組んでいる途中で危険側の不具合がいちばん多く見つかった。どれも記事より先に直した。
- ベルトコンベヤ設計計算ツールが、運搬物の質量(kg/m)を1/60に計算していた。ベルト速度を m/s に直し忘れていたためで、所要動力が1桁小さく出ていた。あわせて、ベルト幅を実際の速度で決めるようにし、抵抗の式を JIS B 8805 にそろえ、張力 F1・F2 を出すようにした
- キー溝強度チェッカーが、面圧を軸側の溝深さで計算していた。弱いハブ側で見るように直した
- 減速機選定計算ツールが、サービスファクタをモーター出力にまで掛けていた。モーターと減速機の選定を分けた
- 軸径選定シミュレーターは、許容応力に上乗せする安全率 S が1.5未満だと「危険」と表示していた。キー溝強度チェッカーへ軸径を渡すボタンも、軸径ツール側が値を保存しておらず動いていなかった
以下の数値は、すべて修正後のツールで出している。
例題の設定と5つの工程
設定は次のとおり。
搬送物 : 砂利(見掛け比重 1.6 t/m³)
搬送量 : 150 t/h
経路 : 水平距離 100 m、傾斜 5°(上り)、トラフ角 30°
運転 : 1日24時間
駆動 : ヘッドプーリに減速機付きモーターを直結(4極・50Hz・1500 min⁻¹)
プーリ : 軸受間隔 1,100 mm、プーリのハブは軸受中心から 150 mm 内側に2か所
プーリの質量 150 kg(仮定)
材料 : 軸・キーとも S45C(調質)
これを5つの工程に分ける。
| 工程 | 使うツール | 受け取る値 | 次に渡す値 |
|---|---|---|---|
| ① コンベヤ | ベルトコンベヤ設計計算ツール | 搬送量・距離・傾斜 | ベルト幅750mm、プーリ φ500・47.7 min⁻¹・負荷トルク 1,283 N·m、F1+F2 = 10.25 kN、モーター11 kW |
| ② 減速機 | 減速機選定計算ツール | 負荷トルク・回転数 | 減速比31.4、減速機の許容出力トルク 2,405 N·m以上 |
| ③ 軸径 | 軸径選定シミュレーター | ねじり 2,405 N·m・曲げ 879 N·m | φ70(S=1)、軸受部はφ65 |
| ④ キー | キー溝強度チェッカー | φ70・2,405 N·m | 20×12、ハブ側の面圧で 長さ200mm が要る |
| ⑤ 軸受 | ベアリング寿命計算・ベアリング呼び番号ファインダー | 5.86 kN・47.7 min⁻¹ | 6213(65×120×23)、荷重係数1.5で L10h 約9.8万時間 |
軸を曲げるのは有効張力ではなく F1+F2、サービスファクタはモーターではなく減速機に掛ける。どちらも工程を1つずつ見ていると気づきにくい。
①コンベヤ|運搬物の質量と、軸へ渡す張力
ベルトコンベヤ設計計算ツールに、砂利・1.6 t/m³・150 t/h・水平100 m・傾斜5°・トラフ30°・単一駆動(巻付180°)を入れる。
ベルト幅 : 650mm では 65 m/min で 140 t/h しか運べない → 750mm(75 m/min、最大220 t/h)
運搬物の質量 qG = 150 / (3.6 × 1.25) = 33.3 kg/m
主抵抗 FH = 0.02 × 100.38 × 9.807 × (9.0 + 2×11.25 + 33.3) = 1,276 N
傾斜抵抗 FST = 33.3 × 8.75 × 9.807 = 2,860 N
有効張力 FU = C × FH + FST = 1.778 × 1,276 + 2,860 = 5,130 N
所要動力 P = 5,130 × 1.25 / (1000 × 0.90) = 7.13 kW → 余裕15%で 11 kW
駆動プーリ : φ500、47.7 min⁻¹、負荷トルク 5,130 × 0.25 = 1,283 N·m
張力 F2 = 5,130 / (e^(0.35π) − 1) = 2,561 N、F1 = 7,691 N
以前のこのツールは、運搬物の質量を 150 / (3.6 × 75) = 0.56 kg/m と計算していた。75 は m/min の値で、m/s に直すと1.25だ。運搬物の摩擦も持ち上げる力もほぼ消え、同じ条件で「ベルト幅600mm・0.62 kW・モーター0.75 kW」を返していた。600mm幅では、このツールの断面の式で109 t/hしか運べない。所要動力は約11分の1、ベルト幅は1サイズ不足だった。
次の工程へ渡す値で気をつけたいのは、軸を曲げる力だ。有効張力 FU は、張り側 F1 と緩み側 F2 の差として現れる力で、駆動プーリを回すトルクを決める。一方、プーリを軸ごと引っ張るのは F1 と F2 の和だ。巻付角180°で両方の張力が同じ向きに引くなら、プーリに掛かる力は 7,691 + 2,561 = 10,253 N で、FU の2倍になる。修正前のツールは FU しか出していなかったので、F1 と F2 も出すようにした。
②減速機|サービスファクタはモーターに掛けない
減速機選定計算ツールの「負荷→モーター」に、負荷トルク 1,283 N·m・負荷回転数 47.7 min⁻¹・モーター 1500 min⁻¹・中衝撃・重稼働(10〜24時間/日)・2段・効率0.97を入れる。
減速比 i = 1500 / 47.75 = 31.4
全段効率 η = 0.97² = 0.941
必要モーター出力 = 1,283 × 5.00 rad/s / 0.941 = 6.82 kW → 7.5 kW
サービスファクタ SF = 1.5 × 1.25 = 1.875
減速機の許容出力トルク ≧ 1,283 × 1.875 = 2,405 N·m
受け渡しの落とし穴は、余裕をどこに何回掛けるかだ。
以前のこのツールは、負荷トルクに SF を掛けてからモーター出力を出していた。この例題なら 6.82 × 1.875 = 12.8 kW → 15 kW になる。①のコンベヤのツールも、所要動力に15%の余裕を掛けて11 kWを推奨している。つまり同じ負荷に対して、モーターの候補が 7.5 kW・11 kW・15 kW と3つ並ぶ。
減速機メーカーの選定手順(住友重機械の用語の説明など)では、SF は「減速機が、使うモーター容量の何倍の許容入力容量を持っているか」を表す数値で、負荷係数以上の SF を持つ減速機を選ぶ。SF は減速機の強さに掛けるもので、モーター容量には掛けない。モーターは負荷動力を効率で割った値で選び、余裕は1回(ここでは①の15%)にとどめる。この例題では 11 kW を採る。
もう1つ、モーターを大きくすると減速機も大きくなる。カタログの SF はモーター容量が基準なので、11 kW モーターの出力軸トルク 2,070 N·m に対して SF 1.875 を満たすと、減速機の許容出力トルクは 3,881 N·m が要る。負荷トルク基準の 2,405 N·m より6割大きい。15 kW を選んでいれば、さらに大きくなる。モーターの余裕は、減速機・軸・キーへそのまま波及する。
③軸径|曲げは F1+F2 から、安全率は1回
軸径選定シミュレーターに、トルクと曲げモーメントを入れる。
ねじり: 軸の設計トルクには、②で減速機を選んだのと同じ「負荷トルク × SF」= 2,405 N·m を使う。
曲げ: ①の F1+F2 にプーリの自重を足し、2つのハブに半分ずつ掛かるとして、軸受からハブまでの距離 150 mm を掛ける。
ハブ1か所の荷重 = (7,691 + 2,561 + 150 × 9.807) / 2 = 5,862 N
曲げモーメント M = 5,862 × 0.150 = 879 N·m
相当ねじりモーメント Te = √(879² + 2,405²) = 2,560 N·m
材料 S45C(調質)・τa = 59 MPa・キー溝あり(τa × 0.75)・曲げ+ねじりで計算すると、次のとおり。
| 安全率 S | 必要軸径 | 選ぶ軸径 |
|---|---|---|
| 1.0 | 66.5 mm | φ70 |
| 2.0(ツールの初期値) | 83.8 mm | φ85 |
ここに受け渡しの落とし穴が2つある。
1つ目は曲げに FU を使ってしまうこと。FU(5,130 N)で計算すると、ハブ1か所の荷重は 3,301 N、曲げは 495 N·m と半分近くになる。この例題ではねじりが大きいので軸径は 65.6 mm とあまり変わらないが、プーリ径が大きくトルクの小さいコンベヤでは曲げが支配的になり、差がそのまま軸径に出る。軸受の荷重では、⑤で見るように寿命が5倍以上違ってくる。
2つ目は安全率の二重掛けだ。プリセットの τa = 59 MPa は、S45C(調質)の降伏点490 MPaから見たせん断の降伏応力(約245〜283 MPa)のおよそ1/4〜1/5で、すでに安全率が入っている。そこへ S=2 を掛けると、降伏に対しては8〜10倍の余裕になる。以前のツールは S が1.5未満だと「危険」と表示していたので、S=1 を選びにくかった。いまは S=1 で「許容応力内」と表示する。この例題では、トルクに SF 1.875 をすでに掛けているので、S=1 で φ70 とする。
軸受の部分は曲げがほぼゼロになるので、ねじりだけで必要径は 59.2 mm(キー溝なし)。φ65 に段付けして、⑤の軸受につなぐ。危険速度は φ70・軸受間隔1,100 mm で約6,980 min⁻¹ で、47.7 min⁻¹ に対して十分離れている。
なお、直入始動のモーターは定格の2倍前後のトルクで起動する。11 kW なら出力軸で約4,140 N·m が一瞬掛かる。φ70 でのせん断応力は 62.8 MPa で τa' = 44.3 MPa を超えるが、キー溝を見込んだ降伏せん断応力(約212 MPa)に対しては3倍以上の余裕がある。起動のたびに繰り返す力なので、疲労まで見るなら疲労寿命シミュレーターで確かめたい。
④キー|面圧はハブ側で決まる
キー溝強度チェッカーで「軸径をインポート」を押すと、③の軸径(必要軸径を1mm単位で切り上げた値)と伝達トルクが入る。軸径を選んだ φ70 に直し、キー長さ100 mm・S45C で計算する。
JIS B 1301 のキー: b × h = 20 × 12、軸溝深さ t1 = 7.5 mm
接線力 F = 2,405 × 1000 / 35 = 68,706 N
せん断応力 τ = 68,706 / (20 × 100) = 34.4 MPa → 安全率 3.49
面圧(ハブ側)σ = 68,706 / ((12 − 7.5) × 100) = 152.7 MPa → 安全率 0.98
せん断は余裕があるのに、面圧が許容値(150 MPa)を超える。キーは高さ12 mm のうち7.5 mm を軸の溝に入れていて、ハブに掛かるのは残りの4.5 mm しかない。
以前のツールは面圧を軸側の溝深さ 7.5 mm で割っていて、91.6 MPa・安全率1.64(注意)と出していた。ハブ側で見ると面圧は1.67倍になり、判定は「危険」に変わる。
キー長さを延ばすと次のようになる。
| キー長さ | 面圧(ハブ側) | 安全率 |
|---|---|---|
| 100 mm | 152.7 MPa | 0.98 |
| 150 mm | 101.8 MPa | 1.47 |
| 200 mm | 76.3 MPa | 1.96 |
安全率2近くを取るには、キー長さ200 mm(軸径の約2.9倍)が要る。プーリのハブがそこまで長く取れなければ、キーを2本にするか、摩擦で伝える締結具(キーレスの摩擦締結具)に変えるのがコンベヤのプーリでは一般的だ。起動時の約4,140 N·m でも、長さ200 mm ならハブ側の面圧は131 MPa で許容値に収まる。
⑤軸受|軸径で決まった軸受は寿命が余る
軸受部は φ65 なので、ベアリング呼び番号ファインダー(型番⇔寸法・補助記号の意味)で内径65 mm の 62系を引くと 6213(65 × 120 × 23 mm) になる。コンベヤのプーリでは、6213と同じ系列の玉軸受を収めた軸受ユニット(UC213 など)を使うことも多い。基本動定格荷重 Cr はメーカーのカタログで 57.5 kN(NTN)〜63.0 kN(NSK)と幅があるので、小さいほうを使う。
ベアリング寿命計算に入れる荷重は、③で求めたハブ1か所の荷重 5.86 kN に、荷重係数 fw を掛けた値にする。fw は軸受メーカーのカタログ(NTN の表4.1)で「軽い衝撃のある場合 1.2〜1.5」とされていて、砂利の搬送では 1.5 を採る。
Pr = 5.86 × 1.5 = 8.79 kN、n = 47.7 min⁻¹、玉軸受(指数3)
L10 = (57.5 / 8.79)³ = 280 × 10⁶ 回転
L10h = 280 × 10⁶ / (60 × 47.7) = 97,600 時間(24時間運転で約11年)
ここでの受け渡しの落とし穴は2つ。
- 荷重係数 fw はツールの外で掛ける。このツールは入れた荷重をそのまま使うので、fw を忘れると寿命は約33万時間と3.4倍に出る
- F1+F2 ではなく FU で荷重を出すと、寿命は約55万時間と、正しい値の5倍以上になる
とはいえ、この例題の軸受は寿命が大きく余っている。軸受の内径は、ねじりと曲げで決まった軸径から決まるからだ。ツールの判定は2万時間以上を「長寿命」とするが、24時間運転なら2万時間は2年3か月にすぎない。寿命は時間ではなく、運転パターンに直して読むと見誤らない。
取り違えたときの値と並べる
各工程のつなぎ目で取り違えると、どの値がどれだけずれるかを並べる。
| 工程 | 取り違えた受け渡し | その値 | 正しい受け渡し | 正しい値 |
|---|---|---|---|---|
| ① | 旧ツール(qG を m/min で計算) | 600mm・0.62 kW・0.75 kW | m/s で計算 | 750mm・7.13 kW・11 kW |
| ② | SF をモーターに掛ける | 12.8 kW → 15 kW | SF は減速機に | 6.82 kW(余裕込みで11 kW) |
| ② | 11 kW モーター基準で減速機を選ぶ | 3,881 N·m 以上 | 負荷トルク基準 | 2,405 N·m 以上 |
| ③ | 曲げに FU を使う | 495 N·m | F1+F2 を使う | 879 N·m |
| ③ | τa にさらに S=2 | φ84 → φ85 | S=1 | φ66.5 → φ70 |
| ④ | 面圧を軸側 t1 で見る | 91.6 MPa・安全率1.64 | ハブ側 h − t1 | 152.7 MPa・安全率0.98 |
| ⑤ | fw を掛けない | 約33万時間 | fw = 1.5 | 約9.8万時間 |
| ⑤ | 荷重に FU を使う | 約55万時間 | F1+F2 | 約9.8万時間 |
余裕の方向にも注意したい。②③は余裕を重ねる方向の取り違えで、モーター・減速機・軸が太る。①④⑤は見落とす方向の取り違えで、壊れる側に振れる。重ねた余裕が、見落とした不足を打ち消してくれる保証はない。この例題でも、軸は太めに振れていたのに、キーは足りていなかった。
この例題で扱っていないものもある。ベルトの心体の強さ(ベルト等級)とテークアップ、始動時の加速トルクと慣性、減速機の熱容量、プーリの溶接やシェルの強度、軸のたわみと軸受の傾き。どれも、この5工程を通したあとに確かめる項目として残る。
通し設計のチェックリスト
- 運搬物の質量を、ベルト速度 m/s で計算したか
- ベルト幅を、実際に使うベルト速度で搬送量が満たせるかで決めたか
- 駆動軸と軸受の荷重に、有効張力 FU ではなく F1+F2 を使ったか
- モーターの余裕を1回だけ掛けたか(コンベヤの余裕と SF を重ねていないか)
- サービスファクタを、減速機の許容トルクに掛けたか
- モーターを大きくした分、減速機の必要容量も上がることを確かめたか
- 軸の設計トルクを、減速機と同じ基準(負荷トルク × SF)で決めたか
- 許容応力にすでに安全率が入っていることを踏まえ、S を決めたか
- 直入始動の起動トルク(定格の2倍前後)で、軸とキーが降伏しないか確かめたか
- キーの面圧をハブ側(h − t1)で確かめたか
- 軸受の荷重に、荷重係数 fw をツールの外で掛けたか
- 軸受寿命を、運転時間(年数)に直して読んだか
豆知識|ベルトコンベヤの摩擦係数 0.02 の意味
JIS B 8805 の主抵抗の式に出てくる複合摩擦係数 f = 0.02 は、ベルトとローラの間の摩擦係数そのものではない。ローラの軸受の回転抵抗、ベルトがローラを乗り越えるときにゴムが変形して戻る損失(押し込み抵抗)、ベルトと運搬物のたわみの繰り返し。これらをまとめて、「運ぶものとベルトとローラの重さの2%が、走らせる抵抗になる」と見る係数だ。
2%と聞くと小さく見えるが、水平のコンベヤではこれがほぼすべての抵抗になる。この例題の主抵抗 1,276 N のうち、運搬物の分は約660 N、ベルトとローラの分が約620 N だ。低温でゴムが硬くなると押し込み抵抗が増えるので、寒冷地では f を大きく見る。ドイツの規格 DIN 22101 は、f ≈ 0.020 を「ベルトの張りが十分で、周囲温度15〜25℃」といった標準的な条件の値としていて、JIS B 8805 も条件が悪いときは0.02より大きい値を使うとしている。
2次抵抗の係数 C も同じ発想の数字だ。投入部で運搬物をベルトの速さまで加速する力、スカートとの摩擦、プーリにベルトが巻き付くときの抵抗。これらは機長にほとんど関係なく一定なので、短いコンベヤほど全体に占める割合が大きくなる。80 m で1.92、1,000 m で1.09と、長くなるほど1に近づくのはそのためだ。
通しで使うときのTips
- ベルトコンベヤ設計計算ツールの「駆動プーリ」の行を、そのまま減速機ツールへ写す。回転数とトルクが並んでいるので、単位を換算し直す必要がない
- 軸径ツールで計算したら、キーのツールで「軸径をインポート」を押す。軸径とトルクが一度に入る。軸径は必要径を1 mm単位で切り上げた値なので、実際に選んだ標準径に直してから判定を見る
- キーの面圧が足りないときは、キーを長くする前にハブの長さを確かめる。プーリのハブは長くできないことが多く、最初から摩擦締結の締結具を前提にしたほうが早いこともある
- 軸受寿命は「8,760時間 = 1年(24時間運転)」で割って読む。9.8万時間なら約11年だ
よくある質問
Q: ベルトコンベヤ設計計算ツールの結果が、以前より大きくなったのはなぜ?
主に、運搬物の質量の計算を直したからだ。以前は搬送量をベルト速度 m/min で割っていて、運搬物の質量を1/60に見ていた。そのぶん運搬物の摩擦と持ち上げる力がほとんど入らず、所要動力が1桁小さく出ていた。あわせて、ベルト幅を実際のベルト速度で搬送量が満たせる幅にし、抵抗の式を JIS B 8805 の簡易式(2次抵抗の係数 C、ベルト質量はキャリヤ側とリターン側の2本分)にそろえた。以前の結果でモーターやベルト幅を決めた場合は、計算し直してほしい。
Q: 軸の設計トルクは、負荷トルクと SF 込みのトルク、モーターの定格トルクのどれを使えばいい?
この例題では、減速機を選んだのと同じ「負荷トルク × SF」を使った。負荷トルクそのままでは衝撃や運転時間の余裕が入らず、モーターの定格トルクを減速比で換算した値を使うと、モーターの余裕の分だけ軸が太る。ただし直入始動では、モーターは定格の2倍前後のトルクで起動する。設計トルクで軸径を決めたあと、起動時のトルクで降伏しないかを確かめる、という2段構えにしておくと、太りすぎも見落としも避けやすい。
Q: キーの面圧が足りないとき、キー長さをいくらでも延ばしていい?
延ばせるのはハブの長さまでで、キーが長くなるほど荷重は両端に偏りやすくなる。目安として軸径の1.5倍程度を超えるなら、キーを2本(180°対向)にする、軸径を上げてキーを1サイズ大きくする、摩擦締結の締結具に変える、のいずれかを考える。2本キーにすると1本あたりの面圧は半分になるが、軸の強度低下(キー溝強度チェッカーの Moore 係数)は大きくなるので、軸径のほうも確かめ直す。
Q: この例題の数値は、自分の設計にそのまま使える?
使えない。ベルトとローラの質量はベルト幅からの概算で、プーリの寸法・質量、ハブの位置、軸受の Cr も例題として置いた値だ。実際のコンベヤでは、スカートやクリーナの抵抗、ベルト等級、テークアップ、始動の加速も確かめる必要がある。この記事は工程のつなぎ方と値の受け渡し方を示すための例題で、実際の設計では自分の条件で各ツールを通し直し、コンベヤ・減速機・軸受の各メーカーの資料で確かめてほしい。
Q: 各ツールに入れた値は、どこかに送られる?
送られない。この記事で使った各ツールの計算は、すべてブラウザの中で完結していて、入力した搬送量・トルク・寸法をサーバーに送ることはない。軸径選定シミュレーターは、キー溝強度チェッカーへ渡すために軸径とトルクをブラウザの保存領域(localStorage)に残すが、これも自分の端末の中だけで、外には出ない。
まとめ|軸は F1+F2 で曲がり、余裕は1回だけ
ベルトコンベヤ1台の駆動部を通して設計すると、個々のツールは正しく動いていても、値の受け渡しで余裕を重ねたり、見落としたりする場面がいくつもあった。運搬物の質量の単位、有効張力と F1+F2、サービスファクタの掛け先、許容応力の安全率、キーのハブ側の面圧、軸受の荷重係数だ。組んでいる途中で、コンベヤの動力を1桁小さく出す不具合とキーの面圧を甘く出す不具合も見つかり、先に直した。
この記事で使ったツール:
- ベルトコンベヤ設計計算ツール
- 減速機選定計算ツール
- 軸径選定シミュレーター
- キー溝強度チェッカー
- ベアリング寿命計算
- ベアリング呼び番号ファインダー(型番⇔寸法・補助記号の意味)
- 疲労寿命シミュレーター
動力伝達の計算領域の全体像は動力伝達設計まとめ|歯車・減速機・ベルト・モーター選定を一括に、同じ形の例題は強度計算の通し例題|壁付けブラケットを荷重からアンカーまで、空調設計の通し例題|冷房負荷から風量・ダクト・機外静圧・結露まで、ポンプ選定の通し例題|流量・管径から揚程・運転点・NPSH・水撃まで、モーター分岐回路の通し例題|始動電流からブレーカー・電線・電圧降下・電線管・ラックまでにある。
不具合の報告や機能リクエストはお問い合わせページから。
Mahiro
Mahiro Appの開発者。コンベヤも減速機も軸もキーも、ツールを1本ずつ作っていたときは画面の判定を信じていた。1台の駆動部を通して初めて、動力が1桁小さく出ていたこと、モーターと軸には余裕が二重に乗り、キーだけが足りていなかったことに気づいた。余裕は重ねれば安全になるわけではない、と数字で思い知った。
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