モーターを決めた。じゃあ軸は何ミリにする?
3.7kWのモーターを選定して、減速比も決まった。あとは軸を設計するだけ——と思ったら、必要な軸径をどう求めるかで手が止まる。教科書を引っ張り出してトルク換算し、許容応力を調べ、キー溝の補正を加えて……と手計算すると30分は消える。しかも途中で数字を間違えると最初からやり直しだ。
軸径選定シミュレーターは、伝達動力と回転数を入れるだけで必要軸径を一発で算出するツール。キー溝補正も危険速度チェックも全自動。スマホでもサッと使える。
なぜこの軸径選定ツールを作ったのか
開発のきっかけ
以前、コンベヤ駆動軸の設計で痛い目にあった。手計算で軸径を決めて図面を出したのに、キー溝の強度低減を反映し忘れていた。検図で指摘されて事なきを得たが、もし量産に流れていたら——と思うとぞっとした。
既存のWeb計算ツールを探すと、トルク計算だけ・軸径計算だけ・キー溝はまた別のサイトという具合にバラバラ。動力からキー寸法まで一気通貫で確認できるツールが見当たらなかった。
こだわった設計判断
1つ目はキー溝補正の自動化。キー溝があると許容応力が25%下がるという事実は教科書に書いてあるが、実務では忘れがちだ。チェックボックス1つで自動反映される仕組みにした。
2つ目は危険速度の同時チェック。軸径だけ決めても、その軸が共振域で使われるなら意味がない。軸受間距離を入れるだけで危険速度を概算し、使用回転数との比率を色分け表示する。
3つ目はSVG断面図。数値だけでは「この軸径にこのキー溝が入るとどう見えるか」がピンとこない。断面図で応力分布とキー溝位置をビジュアル化して、直感的に把握できるようにした。
軸設計の基礎知識——ねじり応力と必要軸径
ねじり応力とは
回転軸には動力を伝達するためのトルク(ねじりモーメント)がかかる。このトルクによって軸断面に生じるせん断応力が「ねじり応力」だ。
日常のたとえでいえば、雑巾を絞る動作がねじり。絞る力が強いほど布にかかる応力は大きくなり、細い布巾ほど千切れやすい。軸も同じで、トルクが大きいほど、軸径が細いほど応力は上がる。
円形断面のねじり応力は次の式で求まる:
τ = 16T / (π × d³)
τ : せん断応力 [MPa]
T : トルク [N·mm]
d : 軸径 [mm]
曲げとねじりの複合荷重——ASME楕円式
実際の軸には、歯車やプーリーからの荷重で曲げモーメントも加わることが多い。曲げとねじりが同時に作用する場合、ASME(アメリカ機械学会)の楕円式で等価トルクを求める:
Te = √(M² + T²)
Te : 等価トルク [N·m]
M : 曲げモーメント [N·m]
T : ねじりトルク [N·m]
等価トルクを使って純ねじりと同じ式で軸径を計算する。これが組み合わせ荷重の基本的な処理方法だ。
必要軸径 求め方
必要軸径dは、安全率Sを考慮して次のように求める:
d = (16 × S × Te / (π × τa))^(1/3) × 1000 [mm]
S : 安全率(通常2.0)
τa : 許容せん断応力 [MPa]
軸径が重要な理由——小さすぎても大きすぎても困る
軸折損は致命的な事故につながる
軸が破断すると、回転体が暴走する。ポンプ軸の折損でインペラが飛散した事故、コンベヤ軸の破断でベルトが横転した事故——いずれも人身事故につながりうる。軸径の選定は安全の最前線だ。
はめあいとの整合が必要
JIS B 0401に規定される「はめあい」は、軸径が基準寸法の標準列(6, 8, 10, 12, 15, 17, 20, 25, 30, 35, 40, 45, 50 mm……)に乗っていることを前提にしている。計算上25.3mmと出ても、実際には25mmか28mmを選び、ベアリングやカップリングとの嵌合を考慮する。必要軸径を知った上で、標準列から選ぶという流れが大切だ。
キー溝 強度低下の影響を見逃さない
キー溝は軸の断面を削り取る加工。JIS B 1301に基づくキー溝は、軸の許容応力を約25%下げる。計算で「ギリギリ安全」と出た軸にキー溝を切ると、一気に安全率が不足するケースがある。このツールでは、キー溝ありを選択するだけで低減率が自動反映される。
危険速度と共振のリスク
すべての回転軸には危険速度がある。使用回転数が危険速度に近づくと共振が起き、軸がたわみ振動で破壊される。高速回転機械ではとくに注意が必要で、使用回転数を危険速度の60%以下に抑えるのが一般的な設計指針だ。
回転機械の設計で使える場面
モーター出力軸の設計
モーター銘板の出力(kW)と回転数(min⁻¹)から直結軸の必要径を即座に把握。カップリングやカプラのサイズ選定にも直結する。
減速機出力軸の設計
減速比をかけた後の低速・高トルク条件で軸径を再計算。減速機出力側はトルクが跳ね上がるため、入力側より太い軸が必要になるケースがほとんど。
ポンプ・ファン駆動軸
インペラの重量による曲げモーメントとトルクの複合荷重をASME式で処理。耐食材料(SUS304/SUS403)の選択にも対応している。
コンベヤ・攪拌機の主軸
衝撃荷重がかかる用途では安全率を3.0以上に設定。キー溝補正込みで確実な径を割り出せる。
基本の使い方
操作は3ステップで完結する。
Step 1: トルクを決める
「動力→トルク」モードで伝達動力(kW)と回転数(min⁻¹)を入力すればトルクが自動計算される。トルクが分かっている場合は「トルク直接」モードで入力してOK。
Step 2: 材料・条件を設定する
材料プリセットから選ぶと許容せん断応力が自動入力される。キー溝の有無と安全率も指定。曲げ荷重がある場合は「曲げ+ねじり」を選択して曲げモーメントを入れる。
Step 3: 結果を確認する
必要軸径・推奨キー寸法・安全率・危険速度が一覧表示される。安全率と速度比は色分けで判定結果がひと目でわかる。「結果をコピー」ボタンでテキスト化もできる。
具体的な使用例
ケース1: 3.7kWモーター直結軸
標準的な三相モーター直結の場合。
入力値:
- 伝達動力: 3.7 kW
- 回転数: 1500 min⁻¹
- 材料: S45C(調質)、τa = 59 MPa
- キー溝: あり、安全率: 2.0
計算結果:
- トルク T = 3.7 × 9549 / 1500 = 23.6 N·m
- 必要軸径 d ≈ 22.4 mm
→ 解釈: JIS標準列から25mm軸を選定し、6×6のキーを使用する。余裕のある設計。
ケース2: 減速機出力軸(高トルク)
減速比10の減速機出力。
入力値:
- 伝達動力: 3.7 kW
- 回転数: 150 min⁻¹
- 材料: SCM440(調質)、τa = 100 MPa
- キー溝: あり、安全率: 2.0
計算結果:
- トルク T = 3.7 × 9549 / 150 = 235.5 N·m
- 必要軸径 d ≈ 29.8 mm
→ 解釈: 30mm軸を選定。減速比10倍でトルクも10倍になるが、SCM440の高強度材を使えば30mm程度に収まる。S45Cなら約36mmが必要になる。
ケース3: ポンプ軸(曲げ+ねじり複合)
インペラの重量で曲げモーメントが発生するケース。
入力値:
- 伝達動力: 5.5 kW、回転数: 3000 min⁻¹
- 曲げモーメント: 30 N·m
- 材料: SUS403、τa = 53 MPa
- キー溝: あり、安全率: 2.0
計算結果:
- トルク T = 5.5 × 9549 / 3000 = 17.5 N·m
- 等価トルク Te = √(30² + 17.5²) = 34.7 N·m
- 必要軸径 d ≈ 23.8 mm
→ 解釈: 曲げモーメントがトルクを上回るケース。純ねじりなら約19mmで済むが、曲げを加味すると約24mm必要。25mm軸を選定する。
ケース4: コンベヤ駆動軸(衝撃荷重)
衝撃が加わるベルトコンベヤ駆動軸。
入力値:
- トルク直接入力: 500 N·m
- 材料: S45C(調質)、τa = 59 MPa
- キー溝: あり、安全率: 3.0(衝撃考慮)
計算結果:
- 必要軸径 d ≈ 56.7 mm
→ 解釈: 安全率3.0と高めに設定した衝撃荷重設計。60mm軸を選定し、16×10のキーを使用。安全率2.0なら約49mmまで下げられるが、衝撃を考慮して余裕を持たせるべきだ。
ケース5: 中空軸による軽量化検討
大型撹拌機の主軸で、重量制限があるため中空軸を検討するケース。まず中実軸で必要径を把握し、中空化の余地を評価する。
入力値:
- 伝達動力: 15 kW
- 回転数: 200 min⁻¹
- 材料: SCM440(調質)、τa = 100 MPa
- キー溝: あり、安全率: 2.5(撹拌負荷変動を考慮)
計算結果:
- トルク T = 15 × 9549 / 200 = 716.2 N·m
- 必要軸径 d ≈ 56.1 mm
→ 解釈: 中実軸なら60mm軸を選定する。ここで内径/外径比0.5の中空軸(外径60mm / 内径30mm)に置き換えると、断面係数は中実軸の約93%を維持しながら断面積は25%減。つまり軸重量を約25%カットできる。ただし中空軸は加工コストが高く、キー溝加工時の肉厚確保にも注意が必要。重量制約が厳しいファン駆動軸やロボットアーム関節軸で有効な選択肢だ。
ケース6: 歯車軸の曲げ+ねじり複合評価
平歯車を介して動力を伝達する中間軸。歯車の噛み合い反力による曲げモーメントが大きく、純ねじりでの設計では不十分なケース。
入力値:
- 伝達動力: 7.5 kW、回転数: 600 min⁻¹
- 曲げモーメント: 180 N·m(歯車接線力×軸受間距離÷4で算出)
- 材料: S45C(調質)、τa = 59 MPa
- キー溝: あり、安全率: 2.0
計算結果:
- トルク T = 7.5 × 9549 / 600 = 119.4 N·m
- 等価トルク Te = √(180² + 119.4²) = 216.0 N·m
- 必要軸径 d ≈ 43.5 mm
→ 解釈: 純ねじりだけなら必要径は約35.6mmで40mm軸を選べば済む。しかし曲げモーメント180 N·mを加味するとTeが1.8倍に膨らみ、必要径は約44mmに跳ね上がる。45mm軸を選定し、12×8のキーを使用する。歯車軸では接線力だけでなくラジアル力やスラスト力も曲げモーメントに寄与するため、荷重の見落としに注意が必要だ。材料をSCM440に変更すれば35mm軸まで細くでき、ギヤボックスのコンパクト化に貢献する。
仕組み・アルゴリズム——純ねじり vs ASME複合式
2つのアプローチ
軸径の計算には主に2つの方法がある:
- 純ねじり式 — トルクだけを考慮する最もシンプルな方法。曲げ荷重がないか無視できる場合に使う
- ASME楕円式 — 曲げとねじりの複合荷重を等価トルクに変換して処理する。より汎用的
このツールでは両方に対応し、荷重条件に応じて使い分けられるようにした。ASME式を採用した理由は、歯車軸やポンプ軸など実務で多い「曲げ+ねじり」のケースをカバーするため。
参考: ASME - American Society of Mechanical Engineers
計算フロー
1. トルク計算: T = P × 9549 / N [N·m]
2. 等価トルク: Te = √(M² + T²) [N·m](複合荷重の場合)
3. キー溝補正: τa' = τa × 0.75 [MPa](キー溝ありの場合)
4. 軸径算出: d = (16ST/(πτa'))^(1/3) × 1000 [mm]
5. 危険速度: Nc = 60/(2π)×(π/L)²×√(EI/ρA) [min⁻¹]
計算例(ステップバイステップ)
3.7kW / 1500min⁻¹ / S45C / キー溝あり / 安全率2.0 の場合:
Step 1: T = 3.7 × 9549 / 1500 = 23.55 N·m
Step 2: 純ねじりなので Te = T = 23.55 N·m
Step 3: τa' = 59 × 0.75 = 44.25 MPa
Step 4: d³ = 16 × 2.0 × 23.55 × 1000 / (π × 44.25)
= 753,600 / 139.0
= 5,422.3 mm³
d = 5422.3^(1/3) ≈ 17.6 mm
ここで得られる17.6mmは最低限の径。実務ではJIS標準列から20mmまたは22mmを選定し、ベアリングとの嵌合やキー溝加工の余裕を確保する。
危険速度 計算の仕組み
両端単純支持の1次危険速度は、オイラーの梁理論に基づく:
Nc = 60/(2π) × (π/L)² × √(EI/(ρA))
E : ヤング率 [Pa]
I : 断面二次モーメント [m⁴]
ρ : 密度 [kg/m³]
A : 断面積 [m²]
L : 軸受間距離 [m]
手計算や他の計算方法との違い
動力→キー寸法まで一気通貫
多くのWebツールは「トルク計算」「軸径計算」「キー選定」がバラバラ。このツールは動力入力からキー寸法の推奨まで1画面で完結。入力し直す手間がない。
キー溝補正が自動
キー溝による25%の強度低下は、手計算では忘れやすいポイント。ワンタップでON/OFFするだけで自動補正される。補正後の許容応力値も明示する。
危険速度の同時判定
軸径を決めた瞬間に、その径での危険速度を概算し、使用回転数との比率を色分けで警告。「径は足りるが共振する」という見落としを防ぐ。
回転軸の設計にまつわる豆知識
JIS標準軸径の列
JIS B 0401(寸法公差)では、軸径に推奨標準寸法列がある。6, 8, 10, 12, 15, 17, 20, 25, 30, 35, 40, 45, 50, 55, 60, 65, 70, 75, 80, 90, 100mm……と並ぶ。ベアリング内径もこの列に対応しているため、中間の値(たとえば27mm)を選ぶと部品調達で困ることになる。計算で出た値を標準列に丸めるのが実務の基本。
キー溝の歴史
キーによる軸と歯車の固定方法は産業革命の初期から使われている。当初は職人が手作業で削っていたが、キー溝フライスの登場で標準化が進んだ。現在のJIS B 1301は1970年代に制定されたもので、半世紀以上にわたって回転機械設計の基盤になっている。
スプラインとの比較
大トルク伝達にはスプラインやセレーションが使われる場合もある。キーに比べて応力集中が少なく、軸方向のスライドにも対応できるが、加工コストが高い。一般的な産業機械ではキー+キー溝が圧倒的に多い。
軸径計算で押さえたいTips
安全率の目安を使い分ける
一般的な回転機械では安全率2.0が標準。衝撃荷重がかかるクラッシャーやプレス機では3.0〜4.0に上げる。逆にスペースが限られる場合は1.5まで下げることもあるが、疲労評価とセットで判断すべきだ。
材料選定で軸径は大きく変わる
同じトルクでも、S45C(τa=59MPa)とSCM440(τa=100MPa)では必要軸径が約20%違う。重量やコストとのバランスで材料を選ぶのが現実的。高強度材は硬いぶん加工費も上がる。
段付き軸の応力集中に注意
このツールは一様断面を前提にしている。段付き部(径が変わる部分)では応力集中係数(通常1.2〜3.0)がかかるため、断面変化部の径はさらに太くする必要がある。段付き軸の詳細設計には専用の解析ツールや有限要素法が必要だ。
軸径選定でよくある質問
Q: 曲げモーメントの値がわからない場合はどうすればいい?
曲げモーメントが不明な場合は「純ねじり」モードで計算し、結果の軸径に余裕を持たせる方法が実務的。簡易的に曲げを見積もるには、歯車やプーリーにかかるラジアル荷重×軸受間距離÷4(中央集中荷重・単純支持の場合)で概算できる。
Q: 中空軸の場合はこのツールで計算できる?
現時点では中実軸(ソリッドシャフト)のみ対応している。中空軸は断面係数の計算式が変わるため、別途手計算が必要。内径/外径比が0.5程度なら、同等の実軸径より10〜15%軽量化できる。
Q: 計算データはサーバーに送られる?
一切送られない。すべての計算はブラウザ内(JavaScript)で完結する。入力値はサーバーに送信されず、ブラウザを閉じれば消える。安心して社内データの概算にも使ってほしい。
Q: 疲労強度は考慮されている?
このツールは静的強度(降伏応力ベース)に基づく簡易計算だ。繰返し荷重がかかる軸の疲労寿命評価には、S-N曲線や応力集中係数を用いた別途の解析が必要になる。静的強度で十分な安全率を確保しつつ、重要な軸は疲労評価を別途行うのが推奨ルート。
まとめ
軸径選定シミュレーターは、伝達動力と回転数から必要軸径を一発で算出し、キー溝補正・危険速度チェックまでを1画面で完結するツール。
手計算では30分かかる軸設計の初期検討を、数秒で完了できる。安全率の色分け判定で「この設計で大丈夫か」を直感的に確認してみて。
鋼材の断面性能が気になった人は鋼材断面のコンシェルジュも試してみて。梁の強度設計には梁の安全審判員が使える。
不具合や要望があれば、X (@MahiroMemo)から気軽に教えて。