揚程は足りているのに、ポンプが鳴る・配管が叩かれる
地下のピットから屋上の水槽へ水を上げるポンプを1台選ぶ。流量から管径を決め、揚程を積み上げ、カタログから機種を選ぶ。どの工程にもツールがあり、それぞれ正しく数字を返す。
それでも、据え付けたポンプが設計どおりに動くとは限らない。ツールとツールのあいだで値を受け渡すところで間違えるからだ。
- 揚程のツールは口径を1つしか選べないので、吸込も吐出も同じ口径で1回に計算してしまう
- 揚程のツールが出した「継手・弁の損失」を、そのまま NPSH の摩擦損失に入れる
- 余裕を見て揚程の大きいポンプを選び、実際には設計より多く流れていることに気づかない
- 水撃のツールに、揚程の「m」をそのまま入れる。あるいは設計流量の流速を入れる
どれも、個々のツールの説明には書きようがない間違いだ。この記事では、揚水ポンプ1台を流量 → 管径 → 内径と外径 → 全揚程 → 運転点 → NPSH → 水撃の7工程で最後まで通す。工程ごとに、どのツールに何を入れ、何を受け取って次へ渡すのかを数値付きで追う。数値はすべて、このサイトの各ツールの式から出したものだ。
通しの例題をポンプで組んだ理由
このサイトには配管設計の計算まとめ|圧損・管径・サポート・熱膨張・ポンプ揚程があり、流量・管径・圧力損失・揚程・NPSH・水撃といった計算領域を順に並べている。どの領域でどのツールを使えばいいかは、そちらで分かる。
ただ、まとめ記事は領域ごとに入口を用意する形なので、前の領域の出力をどう受け取るかまでは踏み込めない。揚程の画面に並ぶ損失のうち、どれを NPSH に渡すのか。運転点の画面の流量で、何を計算し直すのか。そこは誰の担当でもないまま残っていた。
強度計算(強度計算の通し例題|壁付けブラケットを荷重からアンカーまで)と空調(空調設計の通し例題|冷房負荷から風量・ダクト・機外静圧・結露まで)で同じ形の例題を書いたとき、どちらでもツールの不具合が見つかった。今回のポンプの工程では、判定を危険側に出す不具合は見つからなかった。そのかわり、ツールごとの前提の違いがそのまま落とし穴になっていた。口径の数、損失のまとめ方、流量の単位、「適正流速」の範囲だ。
例題の設定と7つの工程
設定は次のとおり。
用途 : 工場の地下ピット(工業用水)から、屋上の高置水槽へ揚水する
流量 : 200 L/min
水温 : 夏 30℃、大気圧 101.325 kPa
吸込 : ピットの低水位(LWL)がポンプ中心の 4.5 m 下(高水位は 2.5 m 下)
吸込管 6 m、フート弁、90°エルボ 1個
吐出 : ポンプ中心から高置水槽の流入口まで 25 m 上(水槽は大気開放)
吐出管 40 m、90°エルボ 6個、仕切弁・逆止弁 各1個
配管 : 配管用炭素鋼鋼管(SGP)
ポンプ : 候補機のカタログ値を次のとおりとする
締切揚程 42 m、12 m³/h で揚程 35 m、最大流量 29.4 m³/h
必要NPSH(NPSHr)は 12 m³/h で 3.5 m、13.3 m³/h で 4.0 m
これを7つの工程に分ける。
| 工程 | 使うツール | 受け取る値 | 次に渡す値 |
|---|---|---|---|
| ① 流量 | (単位の換算) | 200 L/min | 12 m³/h・0.2 m³/min |
| ② 管径 | 流体設計マスター | 流量と推奨流速 | 吸込 65A、吐出 50A |
| ③ 内径と外径 | 配管サイズ換算ツール | 呼び径と管種 | 内径(揚程用)、外径と肉厚(水撃用) |
| ④ 全揚程 | ポンプ揚程・選定計算ツール(2回) | 吸込側・吐出側の配管 | 全揚程 32.6 m、吸込側の損失 0.36 m |
| ⑤ 運転点 | ポンプ運転点シミュレーター | 静揚程・管路損失係数・ポンプ曲線 | 実際に流れる流量 |
| ⑥ NPSH | NPSH余裕度チェッカー | 吸込側の損失と運転点の NPSHr | NPSHa と余裕度 |
| ⑦ 水撃 | ウォーターハンマー圧力計算ツール | 外径・肉厚・流速・定常圧力 [MPa] | 水撃圧と安全率 |
NPSH を決めるのは設計流量ではなく運転点、**水撃のツールに渡すのは「m」ではなく「MPa」**になる。どちらも工程を1つずつ見ていると気づきにくい。
①流量|同じ 200 L/min が、ツールごとに違う単位で入る
最初のつなぎ目は単位だ。この例題の7工程で、流量の単位はツールごとに違う。
200 L/min = 12 m³/h = 0.2 m³/min = 3.33 L/s = 0.00333 m³/s
流体設計マスター : m³/h・m³/s・L/s・gpm(L/min の欄は無い)
ポンプ揚程・選定計算ツール : L/min か m³/h を選ぶ
ポンプ運転点シミュレーター : m³/h
ポンプのカタログ : m³/min で載っていることが多い
L/min と m³/h は 60 分の 1000、つまり 16.7 倍違う。m³/min と m³/h は 60 倍だ。ポンプのカタログで「0.2」とあるのを m³/h の欄に入れると、流量を 60 分の 1 に見たことになる。この記事では、次の工程へ渡す値を毎回「どの単位で入れるか」まで書いておく。
②管径|「適正流速」はツールによって違う
流体設計マスターで、流量 12 m³/h を入れて口径を出す。流体プリセットの「水(吸引側)」は推奨流速 1.0 m/s(範囲 0.5〜1.5)、「水(吐出側)」は 2.0 m/s(範囲 1.5〜3.0)が入る。結果には計算上の口径と、その前後の SGP 管に流したときの流速が出る。
吸込側(1.0 m/s): 必要口径 65.1 mm
50A(内径 52.9)→ 1.52 m/s(吸引側の範囲 1.5 を超える)
65A(内径 67.9)→ 0.92 m/s ← これを使う
吐出側(2.0 m/s): 必要口径 46.1 mm
40A(内径 41.6)→ 2.45 m/s(吐出側の範囲 1.5〜3.0 に入る)
50A(内径 52.9)→ 1.52 m/s ← これを使う
吐出側は 40A でも流体設計マスターの範囲には入る。ところが同じ 40A をポンプ揚程・選定計算ツールに入れると、流速 2.45 m/s は「やや速い:騒音注意」と出る。揚程のツールは 0.5〜2.0 m/s を「適正流速」としているからだ。
どちらかが間違っているわけではない。3.0 m/s まで許すのはプラント配管でよく使う目安で、建物の設備配管は騒音や水撃を嫌って 2.0 m/s 前後に抑えることが多い。「適正」の範囲はツールの前提で変わるので、判定の色ではなく流速の値そのもので決める。この例題では、吐出管は 50A にして 2.0 m/s 以下に収める。
吐出側に合わせて吸込側も 50A にそろえたくなるが、それは工程⑥で困ることになる。
③内径と外径|呼び径の先にある2つの寸法
「50A」は呼び径で、実際の寸法ではない。後の工程は、それぞれ違う寸法を使う。揚程と NPSH は流速を出すために内径を、水撃は管の伸び縮みを出すために外径と肉厚を使う。
配管サイズ換算ツール(呼び径A・B・外径・内径)で、管種ごとの寸法を並べる。
50A SGP : 外径 60.5、肉厚 3.8、内径 52.9 mm
50A SUS Sch10S : 外径 60.5、肉厚 2.8、内径 54.9 mm
50 塩ビ VP : 外径 60.0、肉厚 4.5、内径 51.0 mm
65A SGP : 外径 76.3、肉厚 4.2、内径 67.9 mm
同じ「50」でも、内径は管種で 4 mm 違う。流速は内径の2乗に反比例するので、SUS と VP では流速が 16% 違う。流体設計マスターの前後の管は SGP の内径で出ているので、SUS や塩ビで組むなら、ここで内径を確かめてから流速を読み直す。
水撃のツールには外径と肉厚を入れる。内径 52.9 を外径の欄に入れてもエラーにはならず、それらしい数字が出る。どの欄にどの寸法を入れるかを、ここで書き出しておく。
④全揚程|口径が1つしか選べないツールは2回に分けて使う
ポンプ揚程・選定計算ツールは、配管材質と呼び径を1つだけ選び、吸込側と吐出側の直管長さ、継手の数を入れて全揚程を出す。この例題は吸込 65A・吐出 50A なので、1回では入らない。吸込側と吐出側を別々に計算して足す。
1回目(吸込側): SGP 65A、200 L/min、吸込実揚程 4.5、吐出実揚程 0
吸込側 6 m、90°エルボ 1、逆止弁 1、ストレーナー 1
→ 実揚程 4.5 m、吸込側摩擦損失 0.09 m、継手・弁の損失 0.27 m
→ 全揚程 4.9 m(流速 0.92 m/s)
2回目(吐出側): SGP 50A、200 L/min、吸込実揚程 0、吐出実揚程 25
吐出側 40 m、90°エルボ 6、仕切弁 1、逆止弁 1
→ 実揚程 25.0 m、吐出側摩擦損失 2.00 m、継手・弁の損失 0.76 m
→ 全揚程 27.8 m(流速 1.52 m/s)
全揚程 = 4.5 + 0.09 + 0.27 + 25.0 + 2.00 + 0.76 = 32.6 m
フート弁は継手のプリセットに無いので、逆止弁とストレーナーの組み合わせで近似した。実際のフート弁はメーカーの損失係数で確かめてほしい。吸込実揚程は低水位で読む。ピットの水位が下がったときがいちばん揚程が大きく、工程⑥の NPSH もいちばん厳しいからだ。
1回にまとめてしまうとどうなるか。
全部 50A で1回 : 33.3 m(吸込側の損失を多めに見る。安全側)
全部 65A で1回 : 30.7 m(吐出側の損失を 1.9 m 少なく見る。危険側)
吸込側の太い管で全体を計算すると、長い吐出管の損失が抜け落ちる。口径が違う区間は、区間ごとに計算して足すのが原則だ。
2回に分けることには、もう1つの意味がある。揚程のツールの「継手・弁の損失」は、選んだ継手をすべてまとめた値で、吸込側と吐出側に分かれていない。1回目を吸込側だけで回しておけば、吸込側の損失 0.09 + 0.27 = 0.36 m がそのまま取り出せる。これが工程⑥で要る。
なお、揚程のツールの全揚程には、吐出口から水槽へ出るときの速度水頭(50A・1.52 m/s で 0.12 m)は入っていない。この例題では全揚程の 0.4% で、ポンプ選定の余裕に埋もれる大きさだ。
⑤運転点|余裕を見たポンプは、設計より多く流す
全揚程 32.6 m に対して、候補機は 12 m³/h で 35 m 出る。「7% の余裕がある」と読んで決めたくなるが、ポンプは揚程が余った分だけ多く流す。どこで釣り合うかをポンプ運転点シミュレーターで確かめる。
このツールは、配管の損失を「静揚程 + Kf × Q²」の系曲線で表す。Kf は工程④の損失から逆算する。
静揚程 Hs = 4.5 + 25 = 29.5 m(低水位)
損失 = 32.6 − 29.5 = 3.115 m(12 m³/h のとき)
Kf = 3.115 / 12² = 0.0216 m/(m³/h)²
ここが単位のつなぎ目だ。Kf は流量を m³/h で2乗した値で割る。工程④で使った 200 L/min で割ると 7.8 × 10⁻⁵ になり、(200/12)² で約280 倍小さく出る。カタログの 0.2 m³/min で割れば 77.9 で、今度は約3,600 倍大きい。
ポンプ入力方法を「3点入力」にして、締切揚程 42、定格流量 12、定格揚程 35、最大流量 29.4 を入れる。静揚程 29.5、Kf 0.0216、f/f_r 1.0、効率 60%、密度 1000 とする。
運転点 Q* = 13.34 m³/h(222 L/min)
運転点 H* = 33.35 m
Q*/Qr = 1.11(ポンプ能力の判定は「適正」)
軸動力 P = 2.02 kW
設計の 12 m³/h より 11% 多く流れる。ツールの判定は「適正」だが、これは流量が足りているかどうかの判定で、吸込側が持つかどうかは別の話だ。流量が増えれば吸込管の損失が増え、ポンプが要求する NPSHr も上がる。NPSH は設計流量ではなく、この運転点の流量で確かめる。
ピットの水位が上がると静揚程が下がり、運転点はさらに右へ動く(高水位で 14.4 m³/h)。水位の範囲の両端で運転点を見ておく。
⑥NPSH|吸込側の損失だけを、運転点の流量で
NPSH余裕度チェッカーは、大気圧から蒸気圧・吸込実揚程・摩擦損失・速度水頭を差し引いて有効吸込ヘッド NPSHa を出し、ポンプの NPSHr と比べる。まず設計流量 12 m³/h で入れる。
流体 水、液温 30℃(蒸気圧 4.243 kPa)、大気圧 101.325 kPa
吸込実揚程 hs = 4.5 m(低水位)
摩擦損失 hf = 0.36 m(工程④の1回目、吸込側だけ)
速度水頭 hv = 0.04 m(65A・0.92 m/s)
NPSHr = 3.5 m(12 m³/h のカタログ値)
有効大気圧水頭 = 9.90 m
NPSHa = 9.90 − 4.5 − 0.36 − 0.04 = 5.00 m
NPSHa / NPSHr = 1.43(安全)
設計流量では、余裕度 1.3 の基準を超える。ところが運転点の 13.34 m³/h では、吸込側の損失も NPSHr も変わる。揚程のツールの1回目を 222 L/min で回し直すと、吸込側の損失は 0.11 + 0.33 = 0.44 m、流速は 1.02 m/s になる。
hf = 0.44 m、hv = 0.05 m、NPSHr = 4.0 m(13.3 m³/h のカタログ値)
NPSHa = 9.90 − 4.5 − 0.44 − 0.05 = 4.91 m
NPSHa / NPSHr = 1.23(余裕不足)
設計流量で「安全」だったポンプが、実際に流れる流量では余裕不足になる。対策は2つある。吐出弁で絞って運転点を 12 m³/h に戻すか、インバーターで回転数を落とすかだ。運転点シミュレーターで確かめると、吐出弁で絞って Kf を 0.0382 にすれば 12.00 m³/h・35.0 m に戻り、f/f_r を 0.971(60 Hz 機で約 58.3 Hz)にしても 12 m³/h になる。軸動力は、絞りで 1.91 kW、インバーターで 1.78 kW だ。どちらでも運転点が 12 m³/h に戻り、NPSH の余裕度は 1.43 に戻る。
NPSH に渡す値で起きる取り違え
NPSH の入力は4つしかないが、どれも取り違えやすい。
吸込も 50A にそろえた : hf 1.04、hv 0.12 → NPSHa 4.24、余裕度 1.21(余裕不足)
hf に揚程の損失を全部入れた : hf 3.12 → NPSHa 2.24、余裕度 0.64(誤ってキャビテーション判定)
hs を高水位(2.5 m)で読んだ : NPSHa 7.00、余裕度 2.00(楽観側)
吸込側の管は、吐出側より一回り太くするのが定石だ。吸込側の流速を落とすことは、NPSHa を稼ぐいちばん安い手段になる。
もう1つ、このツールの式は速度水頭 hv も差し引いている。NPSHa を吸込口の全ヘッドで定義すると、水面から吸込口までのエネルギーの式で速度水頭は打ち消し合い、本来は引かなくてよい項だ。引く分だけ NPSHa は小さく出るので、この扱いは安全側になる。この例題では 0.04 m で、判定は変わらない。
⑦水撃|m を MPa に、流速は運転点の値で
最後に、停電などでポンプが急に止まったときの水撃をウォーターハンマー圧力計算ツールで確かめる。このツールは Joukowsky の式 ΔP = ρ·c·v で、流れが瞬時に止まったときの圧力上昇を出す。
ここでは3つの値を読み替えて渡す。
外径と肉厚 : 工程③の 50A SGP、外径 60.5・肉厚 3.8 mm(管サイズ「50A (SGP)」を選べば入る)
流速 : 運転点の流速。絞って 12 m³/h なら 1.52 m/s
定常圧力 : ポンプ吐出側の圧力を m から MPa に換算する
全揚程 35.0 − 吸込側 (4.5 + 0.36) = 30.1 m
30.1 m × 998 kg/m³ × 9.80665 m/s² = 0.295 MPa
揚程は「m」、水撃のツールは「MPa」で受け取る。1 MPa は水柱で約 102 m なので、30 m をそのまま入れると 100 倍の圧力になる。
管材質は炭素鋼、管長 40 m、流体は水、閉鎖条件は「瞬時閉鎖」、配管許容圧力は 1.0 MPa とする。SGP は使用圧力の比較的低い配管向けで、1.0 MPa 程度までを目安にすることが多い。
圧力波伝播速度 c = 1,380 m/s
臨界時間 Tc = 2 × 40 / 1,380 = 0.058 s
水撃圧 ΔP = 998 × 1,380 × 1.52 = 2.09 MPa(水柱で約 213 m)
最大圧力 = 0.295 + 2.09 = 2.38 MPa
安全率 = 1.0 / 2.38 = 0.42(耐圧超過)
絞らずに運転点 13.34 m³/h(1.69 m/s)のまま止まると、水撃圧は 2.32 MPa になる。水撃に渡す流速も、設計流量ではなく運転点の値だ。
この数字には、ツールの画面に出ないもう1つの意味がある。ポンプが止まった直後、吐出側ではまず圧力が下がる。流れが一気に止まれば、その下がり幅は最大で ρ·c·v と同じ大きさになり、定常圧力 0.295 MPa を大きく上回る。圧力は蒸気圧まで落ち、管の中で水が切れて空洞ができる(水柱分離)。切れた水柱が戻ってぶつかるときの衝撃は、瞬時閉鎖の計算より大きくなることがある。水撃圧が定常圧力を上回る系統は、停止時の負圧まで疑う。
対策は、停止の仕方で分かれる。通常の停止では、吐出弁を臨界時間より十分長く、たとえば 2 秒かけて閉じてから止める。緩閉鎖・閉鎖時間 2 秒で計算すると水撃圧は 0.061 MPa、最大 0.356 MPa、安全率 2.81 に収まる。停電のように弁の操作が間に合わない停止には、閉じるときの衝撃を和らげる逆止弁(衝撃吸収式)、ポンプの慣性を増すフライホイール、圧力の落ち込みを埋める空気室などを検討する。どれが効くかは管路の形で変わるので、水柱分離が疑われる系統は過渡解析まで進める。
取り違えたときの値と並べる
各工程のつなぎ目で取り違えると、どの値がどれだけずれるかを並べる。
| 工程 | 取り違えた受け渡し | その値 | 正しい受け渡し | 正しい値 |
|---|---|---|---|---|
| ① | カタログの 0.2 m³/min を m³/h の欄へ | 流量が 1/60 | 12 m³/h に換算 | 12 m³/h |
| ② | 吐出を 40A(流体設計マスターの範囲内) | 2.45 m/s・騒音注意 | 50A | 1.52 m/s |
| ④ | 全体を 65A で1回に計算 | 30.7 m | 区間ごとに計算して足す | 32.6 m |
| ⑤ | Kf を L/min で計算 | 7.8 × 10⁻⁵ | m³/h で計算 | 0.0216 |
| ⑤ | 揚程の余裕を「余裕」と読む | 12 m³/h のつもり | 運転点を確かめる | 13.34 m³/h |
| ⑥ | 吸込も 50A にそろえる | 余裕度 1.21 | 吸込 65A | 1.43 |
| ⑥ | NPSH を設計流量で確かめる | 1.43(安全) | 運転点で確かめる | 1.23(余裕不足) |
| ⑥ | hf に揚程の損失を全部入れる | 0.64 | 吸込側だけ | 1.43 |
| ⑦ | 定常圧力に m の値を入れる | 100 倍 | MPa に換算 | 0.295 MPa |
| ⑦ | 流速を設計流量で入れる(絞らない場合) | 2.09 MPa | 運転点の流速 | 2.32 MPa |
目立つのは、ツールの判定がすべて「正常」を示していても、工程をまたぐと成り立たないケースだ。運転点の判定は「適正」、設計流量での NPSH は「安全」だった。組み合わせて初めて、余裕不足が見える。
この例題で扱っていないものもある。ポンプの効率曲線と電動機の容量、吸込管の空気だまり、ピットの吸込口まわりの渦(水面から吸込口までの深さ)、並列運転や複数台の交互運転。どれも、この7工程を通したあとに確かめる項目として残る。
通し設計のチェックリスト
- 流量の単位を、次のツールに合わせて読み替えたか(L/min・m³/h・m³/min)
- 「適正流速」の範囲がツールで違うことを踏まえ、流速の値で管径を決めたか
- 管種ごとの内径で流速を読み直したか。水撃には外径と肉厚を渡したか
- 口径の違う区間を、区間ごとに計算して足したか
- 吸込側の損失を、揚程の計算から分けて取り出したか
- 吸込実揚程と静揚程を低水位で読んだか
- ポンプの揚程の余裕が、運転点をどれだけ右へ動かすかを確かめたか
- Kf を m³/h 基準で計算したか
- NPSH を運転点の流量と、その流量の NPSHr で確かめたか
- 夏の水温で蒸気圧を読んだか
- 水撃の定常圧力を MPa で入れたか。流速は運転点の値か
- 水撃圧が定常圧力を上回るなら、停止時の負圧と水柱分離を疑ったか
豆知識|吸い上げは10 mで止まる
ポンプで水を吸い上げられる高さには上限がある。ポンプが吸っているように見えるが、実際には大気が水面を押して、水を管の中へ押し込んでいる。ポンプにできるのは、管の中の圧力を下げることだけだ。管の中を真空にしきっても、大気が水を持ち上げられる高さは 101,325 Pa ÷ (1,000 kg/m³ × 9.80665 m/s²) = 10.33 m で止まる。
この限界は17世紀にはすでに知られていた。井戸のポンプが約10 mより深い水を吸えないことを、ガリレオは『新科学対話』で書き残している。弟子のトリチェリは水の代わりに13.6倍重い水銀を使って、ガラス管の中の水銀柱が約76 cmで止まることを確かめた(トリチェリの真空)。水の10.33 mと水銀の76 cmは、同じ大気圧を別の液体で測った値だ。
NPSHa の式の最初の項「有効大気圧水頭」は、この 10.33 m から水の蒸気圧の分を引いた値になる。30℃ で 9.90 m、60℃ では 8.30 m まで下がる。温かい水ほど低い圧力で沸くので、吸い上げられる高さが縮む。実務で吸上げを 6 m 程度までに抑えるのは、この 10 m から摩擦損失・蒸気圧・NPSHr を差し引くと、それくらいしか残らないからだ。
カタログの NPSHr も、「これ以上あればキャビテーションが起きない」値ではない。多くのメーカーは、キャビテーションで揚程が 3% 下がったときの NPSH を NPSHr として載せている。NPSHr ちょうどでは、すでに気泡は出ている。余裕度 1.3 などの基準を置くのはこのためだ。
通しで使うときのTips
- 揚程のツールは、最初から吸込側と吐出側の2回に分けて回す。口径が同じでも分けておけば、吸込側の損失を NPSH にそのまま渡せる
- Kf を出したら、仮のポンプで検算する。締切揚程 42 はそのまま、定格流量 12・定格揚程に工程④の全揚程 32.6 を入れた仮のポンプで運転点を出す。12 m³/h に来れば、静揚程と Kf を正しく渡せている
- 温水や夏場の高い水温は、液温の欄だけで NPSH が変わる。この例題の吸込条件は 40℃ で余裕度 1.34、60℃ では 0.97 まで落ちる
- 水撃は「ΔP と定常圧力の比」を先に見る。ΔP が定常圧力を上回るなら、安全率の数字より先に負圧を疑う
よくある質問
Q: ポンプ揚程・選定計算ツールで吸込側と吐出側の口径を分けられないのはなぜ?
ツールは1本の管路として摩擦損失を計算する作りで、口径を1つだけ選ぶ。口径の違う区間があるときは、この記事の工程④のように区間ごとに回して足す。1回目は吸込実揚程と吸込側の配管だけ、2回目は吐出実揚程と吐出側の配管だけを入れ、他の欄を 0 にする。継手の損失も区間ごとに分かれるので、吸込側だけの損失を NPSH に渡せる。流量の単位は2回とも同じにしておく。
Q: 運転点シミュレーターの Kf は、どう求めればいい?
揚程の計算で出した損失(全揚程から静揚程を引いた値)を、設計流量の2乗で割る。このツールの流量は m³/h なので、m³/h の値で2乗する。この例題なら 3.115 m ÷ 12² = 0.0216 だ。L/min や m³/min で割ると桁が大きくずれる。求めた Kf で、ポンプ曲線がちょうど設計点を通るポンプを仮に入れると、運転点が設計流量に来ることで検算できる。
Q: NPSH の余裕度は、1.3 あれば十分?
一般的な目安として、このツールは 1.3 以上を「安全」、2.0 以上を「十分な余裕」としている。NPSHr は揚程が 3% 下がる点で測られることが多く、ちょうどの値ではすでにキャビテーションが始まっているので、余裕を持たせる。温水、吸込配管が長い、流量が大きく振れる、といった条件では、もっと大きな余裕を求めるメーカーもある。この記事の工程⑥のように、判定は運転点の流量と、その流量の NPSHr で行う。
Q: この例題の数値は、自分の設計にそのまま使える?
使えない。ポンプの性能曲線と NPSHr は例題として置いた値で、実際の機種ごとに大きく違う。フート弁の損失、配管の粗さ、ピットの水位の範囲も現場で変わる。この記事は工程のつなぎ方と値の受け渡し方を示すための例題で、効率曲線や電動機の選定、過渡解析は扱っていない。実際の選定では、自分の条件で各ツールを通し直し、ポンプはメーカーの性能曲線で確かめてほしい。
Q: 各ツールに入れた値は、どこかに送られる?
送られない。この記事で使った各ツールの計算は、すべてブラウザの中で完結していて、入力した流量・揚程・配管の寸法をサーバーに送ることはない。流体設計マスターは入力の一部をブラウザの保存領域(localStorage)に残すが、これも自分の端末の中だけで、外には出ない。
まとめ|NPSH は運転点で、水撃は MPa で
揚水ポンプ1台を通して設計すると、個々のツールは正しく動いていても、値の受け渡しで落とし穴がいくつもあった。流量の単位、「適正流速」の前提、内径と外径、口径ごとの区間計算、Kf の単位、m と MPa だ。そして、いちばん大きな落とし穴は、揚程の余裕が運転点を動かし、設計流量で「安全」だった NPSH を余裕不足に変えることだった。
この記事で使ったツール:
配管の計算領域の全体像は配管設計の計算まとめ|圧損・管径・サポート・熱膨張・ポンプ揚程に、同じ形の例題は強度計算の通し例題|壁付けブラケットを荷重からアンカーまでと空調設計の通し例題|冷房負荷から風量・ダクト・機外静圧・結露までにある。
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Mahiro
Mahiro Appの開発者。揚程も運転点も NPSH も、ツールを1本ずつ検証していたときはどれも正しく判定していた。通しで組んで初めて、揚程の余裕が運転点を動かし、そのせいで NPSH が足りなくなる流れに気づいた。「適正」「安全」の表示を工程をまたいで読むことの難しさを、作った本人が思い知った。
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