電気設備公開 2026-09-26

モーター分岐回路の通し例題|始動電流からブレーカー・電線・電圧降下・電線管・ラックまで

盤の中では正しく、現場で落ちる・載らない

ポンプ用のモーター1台に、動力盤から配線を引く。定格電流を出し、ブレーカーを決め、電線の太さを決め、電圧降下を確かめ、電線管とケーブルラックを選ぶ。どの工程にもツールがあり、それぞれの画面は正しく数字を返す。

それでも、できあがった回路がそのまま使えるとは限らない。ツールとツールのあいだで値を受け渡すところで間違えるからだ。

  • 定格電流を効率・力率の代表値から出し、内線規程の表が使う規約電流より1割小さい値を次へ渡す
  • 2つのツールがそれぞれ出したブレーカーの値(60Aと175A)の、どちらかをそのまま採る
  • 電圧降下の判定が「正常」なので、内線規程の2%を超えていることに気づかない
  • 許容電流のツールの「条数」に、ラックに載っているケーブルの本数を入れる

どれも、個々のツールの説明には書きようがない間違いだ。この記事では、三相200V・15kWのモーター1台の分岐回路を定格・始動電流 → ブレーカー → 電線(許容電流) → 電圧降下 → 電線管 → ケーブルラックの6工程で最後まで通す。工程ごとに、どのツールに何を入れ、何を受け取って次へ渡すのかを数値付きで追う。数値はすべて、このサイトの各ツールの式から出したものだ。

通しの例題をモーター回路で組んだ理由

このサイトには電気配線設計まとめ|ブレーカー・電圧降下・電線管・ケーブルラックがあり、ブレーカー・電圧降下・許容電流・電線管・ラックといった計算領域を順に並べている。どの領域でどのツールを使えばいいかは、そちらで分かる。ただ、まとめ記事は領域ごとに入口を用意する形なので、前の領域の出力をどう受け取るかまでは踏み込めない。電流はどの値を渡すのか、1.1倍はどこで掛けるのか、ラックの条数は許容電流の条数と同じ意味なのか。そこは誰の担当でもないまま残っていた。

強度計算・空調・ポンプで同じ形の例題を書いてきた。今回のモーター回路では、組んでいる途中でツールの不具合がまとめて見つかり、記事より先に直した。

  • ケーブルラック幅選定シミュレーターが、電力ケーブルにも通信・制御ケーブル用の式を当てていて、必要幅を約半分に見積もっていた(危険側)
  • 電線管サイズ判定シミュレーターなど3つのツールが、電線管の内径に呼び径をそのまま使っていた。E51の内径は51mmではなく48.0mmで、占有率が甘く出ていた(危険側)
  • CVTケーブルの外径が、メーカーのカタログ値より1〜2サイズ分大きかった(安全側だが、管もラックも過大になる)
  • 電動機始動電流シミュレーターの「推奨ブレーカー」は、3倍則の上限寄りの値だった。表示を「ブレーカー上限の目安」に改めた
  • 電圧降下・配線太さチェッカーは単相の式だけだったので、三相3線式を選べるようにした

以下の数値は、すべて修正後のツールで出している。

例題の設定と6つの工程

設定は次のとおり。

用途     : 工場の機械室にある冷却水ポンプ
電動機   : 三相誘導電動機 15kW・4極・200V・全電圧直入始動
経路     : 動力盤 →(ケーブルラック 50m)→(立下り・電線管 10m)→ 電動機
          こう長 60m、分岐回路に割り当てる電圧降下は 2%
周囲温度 : 40℃
ケーブル : CVT(600V CVトリプレックス)
ラック   : 既設 CVT 22sq × 2・CVT 14sq × 4・CVT 60sq × 2 が載っている

これを6つの工程に分ける。

工程使うツール受け取る値次に渡す値
① 定格・始動電流電動機始動電流シミュレーター15kW・200V・4極・始動倍率6定格 57.9A → 規約電流 65A に置き換え、始動 347A
② ブレーカーブレーカー・電線サイズ一括選定(+①の目安)15kW・モーター60A と 175A → 内線規程の表の 125A
③ 電線(許容電流)ケーブル許容電流 早見・計算ツール1.1 × 65 = 71.5A・ラック・40℃許容電流で決まる太さ 22sq
④ 電圧降下電圧降下・配線太さチェッカー65A・60m・三相3線式22sq は 2.65% で不足 → 38sq(1.53%)
⑤ 電線管電線管サイズ判定シミュレーターCVT 38sq(φ28mm)× 1本E51(1.5倍則)/E63(占有率32%)
⑥ ケーブルラックケーブルラック幅選定シミュレーター既設8本+CVT 38sq500mm

電線の太さを最後に決めたのは許容電流ではなく電圧降下で、ブレーカーはどちらのツールの値でもなく内線規程の表の値になる。どちらも工程を1つずつ見ていると気づきにくい。

①定格・始動電流|ツールの定格電流は1割小さい

電動機始動電流シミュレーターに 15kW・200V・4極・始動電流倍率6 を入れる。

定格電流(概算) = 15,000 / (√3 × 200 × 効率 0.88 × 力率 0.85) = 57.9 A
全電圧始動電流   = 57.9 × 6 = 347 A
スターデルタ始動 = 347 / 3 = 116 A

ここで受け渡しの1つ目の落とし穴がある。このツールの定格電流は、4極の代表的な効率・力率から出した概算値だ。内線規程が電線やブレーカーの表を作るときに使う規約電流は、三相200V・15kWで 65A。ツールの値はその 0.89 倍で、約11%小さい。

この差は、次の工程で太さを1段変える。電線の許容電流は定格電流の1.1倍以上が必要で(50Aを超える電動機の場合。50A以下なら1.25倍)、57.9Aなら 63.7A、65Aなら 71.5A になる。③で見るとおり、ラック上のCVTでは 14sq(64A)と 22sq(83A)の境目をちょうどまたぐ。銘板の定格電流か規約電流が手元にあるなら、ツールの概算値ではなくそちらを次へ渡す。この例題では65Aを使う。

始動電流は、定格の6倍前後が数秒流れる。直入始動の 347〜390A は、次のブレーカーの工程で「落ちない」ことを確かめる相手になる。

②ブレーカー|2つのツールが 60A と 175A を返す

ブレーカー・電線サイズ一括選定に「モーター・15kW・三相200V」を入れると、次の値が返る。

定格電流   = 15,000 / (1.732 × 200 × 力率 0.85) = 50.9 A   ← 効率が入っていない
ブレーカー = 50.9A 以上の最小の定格 → 60 AT
電線       = 3心ケーブルで許容電流 60A 以上 → 14sq(64A)
電線管     = 外径 19.0mm → 必要内径 33.6mm → E39

一方、①の電動機始動電流シミュレーターは、直入始動の「ブレーカー上限の目安」として 57.9 × 3.0 → 175A を出している。同じモーターで、ブレーカーの値が3倍近く違う。

どちらも、そのまま採ってはいけない。

  • 60A は定格電流の直上で、始動電流を見ていない。347Aは60Aの約6倍で、配線用遮断器の熱動引外しが動く領域に入る。ポンプの始動に数秒かかれば、試運転のたびに落ちる
  • 175A は「電動機の定格電流の3倍」という上限寄りの値だ。3倍という数字は、電気設備技術基準の解釈で電動機を含む幹線の過電流遮断器に認められている上限に由来する。上限を選定値として使うと、電線の保護が甘くなる。内線規程は、電動機の分岐回路の遮断器の定格を電線の許容電流の2.5倍以下に収めるよう求めている。175Aを②の14sq(64A)に組み合わせると、2.5 × 64 = 160A を超える

実際の選定値は、内線規程 3705節の「200V三相誘導電動機1台の場合の分岐回路」の表で引く。15kW・直入の配線用遮断器は 125A だ(同じ表の電線は14mm²で、最大こう長は28m)。この例題では125Aを採る。過負荷の保護は、ブレーカーではなく電磁開閉器の熱動継電器(または電子式の保護継電器)を定格電流に合わせて整定して受け持たせる。

ブレーカー・電線サイズ一括選定の画面にも、モーターを選ぶと「ATは始動電流に耐える値で選ぶ」旨の注意が出るようにした。

③電線(許容電流)|1.1倍はこの工程で掛け、条数はラックの本数ではない

ケーブル許容電流 早見・計算ツールの逆引きモードに、必要電流 71.5A(= 65A × 1.1)を入れる。1.1倍はこのツールの外で掛けてから入れる。ツールは入力した電流をそのまま許容電流と比べるので、65Aを入れると1段細い太さが返る。

ケーブル: CVT 布設: ケーブルラック 周囲温度: 40℃ 条数: 1
→ 14sq(64A)では不足、22sq(83A)で適合

受け渡しの落とし穴は「条数」の欄だ。ラックには既設の8本と合わせて9本のCVTが載るので、9を入れたくなる。入れると減少係数 0.57 が掛かり、必要な基本許容電流は 71.5 / 0.57 = 125A、答えは 60sq まで太くなる。

この係数は、ケーブルを束ねたり密着させたりした場合を想定した安全側の値だ。ラックの上では、⑥の幅の算定式どおりケーブルどうしの間隔を10mm空けて1段に並べる。日本電線工業会規格 JCS 0168-1 は、水平に1段で並べたケーブルの低減率を中心間隔Sで分けていて、4〜6条なら S = d(隙間なし)で 0.70、S = 2d で 0.90 だ。外径28mmのCVTを10mm間隔で並べると S は約1.36d なので、その間にある。9条はこの1段の表の範囲を超えるので、実際にはメーカーの技術資料で確かめる。仮に6条の S = d の値 0.70 を当てると、必要な基本許容電流は 71.5 / 0.70 = 102A になり、このツールのラックの値でも 38sq(110A)で足りる。

もう1つ、このツールのCVTの許容電流はメーカーのカタログ値より15〜20%低めに作ってある(22sqでツール 96A・フジクラ・ダイヤのカタログ 110A、いずれも気中・40℃・1条)。安全側の差なので、この記事ではツールの値のまま進める。

ここまでで、許容電流から決まる太さは 22sq。ただし、次の工程で変わる。

④電圧降下|「正常」表示のまま、内線規程の2%を超える

電圧降下・配線太さチェッカーの配電方式を「三相3線式(動力)」にし、供給電圧 200V、ケーブルはカスタムで断面積 22mm²、片道 60m、電流 65A、機器種別「モーター」を入れる。

1条あたりの抵抗 r = 0.017241 / 22 × 60 = 0.0470 Ω
電圧降下 e = √3 × 65 × 0.0470 = 5.29 V → 2.65%

判定は「正常」と出る。モーターの注意の閾値が3%だからだ。ところが内線規程 1310節は、分岐回路の電圧降下を標準電圧の2%以下(こう長60m以下の場合)としている。この例題の分岐回路には2%を割り当てたので、22sqでは足りない。ツールの閾値は機器が動くかどうかの目安で、内線規程の配分ではない。

断面積を 38mm² にすると次のとおり。

r = 0.017241 / 38 × 60 = 0.0272 Ω
e = √3 × 65 × 0.0272 = 3.06 V → 1.53%   ← 2% 以下

電線は 38sq に上がる。②で見た内線規程の表の「14mm²・最大こう長28m」は、こう長28mまでならこの太さで2%に収まるという意味で、60mの回路にはそのまま使えない。22sqでも収まるのは約44mまでだ。

計算の前提によって値は少し動くが、結論は変わらない。

計算の前提22sq38sq
このツール・三相3線式(銅の抵抗率 0.017241)2.65%1.53%
内線規程の簡略式 e = 30.8 × L × I / (1000 × A)2.73%1.58%
カタログの導体抵抗(20℃)を使う2.87%1.66%
このツール・単相2線式のまま計算した場合3.06%1.77%

単相の式のまま三相回路を計算すると、係数が2と√3で違うぶん約15%大きく出る。以前のこのツールは単相の式しか持っていなかったので、三相3線式の切り替えを足した。

なお、始動の瞬間には定格の6倍前後の電流が流れるので、定常で2%の回路でも電圧は一時的に大きく下がる。同じ盤から照明や制御電源を取っている場合は、始動時のちらつきや電磁開閉器の保持にも目を配りたい。

⑤電線管|呼び径は内径ではない

ラックから立ち下げて電動機までの10mは、電線管で保護する。電線管サイズ判定シミュレーターで CVT 38sq(外径28mm)を1本、屈曲あり(32%基準)で選ぶ。

ケーブルの断面積 = π × 14² = 615.8 mm²
32% 基準の必要内径 = 28 / √0.32 = 49.5 mm
E51(内径 48.0mm)→ 占有率 34.0%  ✗
E63(内径 60.3mm)→ 占有率 21.6%  ○

ここで、今回直した不具合がそのまま効いている。以前のツールはE51の内径を呼び径どおり51mmとしていたので、占有率は30.1%になり「E51で合格」と判定していた。JIS C 8305の外径50.8mmから肉厚1.4mmを引いた実際の内径は48.0mmで、判定は不合格に変わる。同じ誤りが電線束径計算機とブレーカー・電線サイズ一括選定にもあり、3つとも直した。

もう1つの受け渡しの論点は、ケーブル1本だけを通すときの基準だ。内線規程には、ケーブルを1本だけ管に通す場合に「管の内径をケーブル外径の1.5倍以上」とする規定もある。28 × 1.5 = 42mm なので、E51(48.0mm)で足りる。占有率32%の基準は複数本を通す前提の数字で、1本なら1.5倍則のほうが緩い。ツールは占有率で推奨を出すのでE63を示すが、1本のときは画面にこの1.5倍則の目安も出るようにした。この例題では E51 を採る。曲がりが多く引き込みがきつい経路なら、E63にしておく判断もある。

⑥ケーブルラック|電力ケーブルの式は通信用のほぼ2倍の幅

最後に、既設のラックに新しいCVT 38sqを1本足して、幅が足りるかをケーブルラック幅選定シミュレーターで確かめる。ケーブル種別は「電力ケーブル(1段並べ)」だ。

Σ(D+10) = 2 × (24+10) + 4 × (21+10) + 2 × (33+10) + 1 × (28+10)
        = 68 + 124 + 86 + 38 = 316 mm
W ≧ 1.2 × (316 + 60) = 451.2 mm → 500mm(占有率 90.2%)

官庁営繕の算定式には、電力ケーブル用の W ≧ 1.2 × {Σ(D+10) + 60} と、通信・制御ケーブル用の W ≧ 0.6 × {Σ(D+10) + 120} の2本がある。電力ケーブルは積み重ねると熱がこもって許容電流が下がるので1段に並べ、通信・制御ケーブルは2段積みまで許す。係数が倍違うのはそのためだ。

以前のこのツールは、電力ケーブルにも通信用の0.6の式を当てていた。しかもCVTの外径が1〜2サイズ分大きかった。その組み合わせでは 0.6 × (389 + 120) = 305mm → 400mm と出る。外径だけ正しくして式を取り違えたままだと 0.6 × (316 + 120) = 262mm → 300mm で、10mm間隔で並べた316mmのケーブルがそもそも1段に収まらない。③で見たとおり、ケーブルの許容電流は1段に間隔を空けて並べる前提で出しているので、その前提ごと崩れる。

500mmの占有率90.2%は、式の1.2に将来分が含まれたうえでの値なので基準は満たしている。ただし余りは50mm弱なので、このルートに今後もケーブルが増えるなら600mmにするか、ルートを分けることを考えておきたい。ラックの支持間隔と耐荷重は、幅とは別にケーブルラック耐荷重・支持間隔チェッカーで確かめる。

取り違えたときの値と並べる

各工程のつなぎ目で取り違えると、どの値がどれだけずれるかを並べる。

工程取り違えた受け渡しその値正しい受け渡し正しい値
①ツールの概算の定格電流を渡す57.9A → 必要 63.7A → 14sq規約電流(銘板)を渡す65A → 必要 71.5A → 22sq
②一括選定のATを採る60A(始動で落ちる)内線規程の表125A
②始動電流シミュレーターの目安を採る175A(14sqと組むと2.5倍則超過)内線規程の表125A
③1.1倍せずに入れる65A → 22sq1.1倍してから入れる71.5A → 22sq
③条数にラックの本数(9)を入れる60sq並べ方の低減率(6条 S=d の0.70を仮に当てる)38sq 以下で足りる
④ツールの「正常」で判断する22sq(2.65%)内線規程の2%と比べる38sq(1.53%)
⑤呼び径を内径として計算E51・30.1%(合格)JISの内径 48.0mmE51・34.0%(占有率では不合格、1.5倍則で可)
⑥電力ケーブルに通信用の式300〜400mm電力用の式500mm

③の1.1倍は、この例題では結果が変わらなかった(65Aでも71.5Aでも22sq)。電流がもう少し大きいモーターでは境目をまたぐので、掛け忘れていい理由にはならない。

目立つのは、ツールの判定が「正常」「合格」を示していても、工程をまたぐと成り立たないケースだ。電圧降下の判定は「正常」、以前の電線管の判定は「合格」だった。

この例題で扱っていないものもある。漏電遮断器の要否(水気のある場所のポンプなら必要になる)、短絡電流と遮断容量、電動機の過負荷保護の整定、インバータ駆動時の高調波とサージ、力率改善コンデンサ。漏電遮断器は電気配線設計まとめ、短絡電流と保護協調は受変電・保護協調設計まとめ|短絡電流・OCR整定・接地・非常電源で扱っている。

通し設計のチェックリスト

  • 定格電流に、ツールの概算値ではなく銘板の値か規約電流を使ったか
  • ブレーカーを内線規程の表の値で選び、始動電流で落ちないことを確かめたか
  • ブレーカーの定格が、電線の許容電流の2.5倍以下に収まっているか
  • 電線の許容電流の条件(1.25倍/1.1倍)をツールの外で掛けてから入れたか
  • 許容電流の減少係数を、ラックの並べ方(間隔)に合わせて選んだか
  • 電圧降下を三相3線式の式で計算したか
  • 電圧降下を、ツールの判定ではなく内線規程の配分(この例題では2%)と比べたか
  • 許容電流と電圧降下で決まる太さのうち、太いほうを採ったか
  • 電線管の内径に、呼び径ではなくJISの内径を使ったか
  • ケーブル1本だけを通す区間で、1.5倍則と占有率の基準を使い分けたか
  • ケーブルラックの幅を、電力ケーブル用の式で計算したか
  • ラックの支持間隔と耐荷重を、幅とは別に確かめたか

豆知識|電圧降下の簡略式の「30.8」はどこから来たか

電気設備の設計でよく使う電圧降下の簡略式は、配電方式ごとに係数が決まっている。

単相2線式 : e = 35.6 × L × I / (1000 × A)
三相3線式 : e = 30.8 × L × I / (1000 × A)
単相3線式 : e = 17.8 × L × I / (1000 × A)   (外側線と中性線の間)

元になっているのは 17.8 という数字だ。標準軟銅(導電率100%)の抵抗率は 20℃で 1/58 Ω·mm²/m。実際の電線の導電率を97%と見込むと、1/(58 × 0.97) = 0.01778 Ω·mm²/m、1km あたりに直して 17.8 になる。単相2線式は往復2本分なので 2 × 17.8 = 35.6、三相3線式は線間電圧で見るので √3 × 17.8 = 30.8 だ。

この例題の④で、電圧降下・配線太さチェッカーの値(2.65%)が簡略式(2.73%)より少し小さかったのは、ツールが導電率100%の 0.017241 を使っているからだ。差は3%ほどで、97%という見込みがそのまま表に出ている。導電率の基準になっている「100%」は、1913年に国際電気標準会議(IEC)が定めた焼きなまし銅の値で、今の高純度の銅は100%を少し上回る。基準は100年以上前の銅のまま据え置かれている。

もう1つ、簡略式は抵抗だけの式で、リアクタンスを入れていない。細い電線ではリアクタンスの影響は小さいが、太い幹線で力率が低いと、抵抗だけの計算とのずれが大きくなる。

通しで使うときのTips

  • ブレーカーを決める前に、内線規程の表の「最大こう長」を見る。この例題の14mm²は28mまで。実際のこう長がそれより長ければ、電線は電圧降下で太くなると最初から分かる
  • 電圧降下のツールには、許容電流で決まった太さから入れて、2%を超えたら1段ずつ上げる。38sqのように、1段で収まるかどうかがすぐ分かる
  • ラックの既設ケーブルは、外径をカタログの値で拾い直す。竣工図の外径は、古い資料の値が残っていることがある
  • 電線管の区間が短くても、立下りの曲がりの数は数えておく。1.5倍則でE51を選べても、曲がりが多ければ引き込めない

よくある質問

Q: 電動機始動電流シミュレーターのブレーカーの値は、何に使えばいい?

始動方式を比べるときの目安として使う。値は定格電流に方式ごとの倍率(直入3.0・スターデルタ2.5など)を掛けた直上の定格で、始動電流で落ちにくい側に寄せた上限寄りの値だ。この記事の工程②のとおり、実際の選定値は内線規程 3705節の表で引き、電線の許容電流の2.5倍以下に収まるかを確かめる。以前は「推奨ブレーカー」と表示していたが、選定値と誤解されやすいので表示を改めた。

Q: 電線管サイズ判定シミュレーターの結果が、以前より大きくなったのはなぜ?

電線管の内径を、呼び径の数字から JIS の実際の内径に直したからだ。E管・C管は呼び径より内径が小さく、E19は16.7mm、E51は48.0mmしかない。以前は呼び径を内径として計算していたので、占有率が13〜30%甘く出ていた。PF管は呼び径がほぼ内径なので結果はほとんど変わらない。VE管は逆に呼び径より内径が大きいサイズがあり(VE16は18mm)、推奨が小さくなることもある。

Q: ケーブルラックの幅が、以前の計算より大きく出るようになったのはなぜ?

電力ケーブルに、電力用の算定式 W ≧ 1.2 × {Σ(D+10) + 60} を当てるように直したからだ。以前は通信・制御ケーブル用の W ≧ 0.6 × {Σ(D+10) + 120} を当てていて、電力ケーブルのラック幅をほぼ半分に見積もっていた。以前の結果で電力ケーブルのラックを選んだ場合は、計算し直してほしい。通信・制御ケーブルだけのラックなら、画面で種別を切り替えれば従来の式で計算できる。

Q: この例題の数値は、自分の設計にそのまま使える?

使えない。電動機の定格電流と始動電流は機種ごとに違い、内線規程の表の値も版によって改められている。ケーブルの外径と許容電流はメーカーのカタログで、電線管の内径は使う管の規格で確かめる。この記事は工程のつなぎ方と値の受け渡し方を示すための例題で、漏電遮断器・短絡電流・過負荷保護の整定は扱っていない。実際の設計では、自分の条件で各ツールを通し直し、最新の内線規程と照らしてほしい。

Q: 各ツールに入れた値は、どこかに送られる?

送られない。この記事で使った各ツールの計算は、すべてブラウザの中で完結していて、入力した電流・こう長・ケーブルの構成をサーバーに送ることはない。電線管サイズ判定シミュレーターの「保存」はブラウザの保存領域(localStorage)に残すが、これも自分の端末の中だけで、外には出ない。

まとめ|電線は電圧降下で、ブレーカーは表で決まる

モーター1台の分岐回路を通して設計すると、個々のツールは正しく動いていても、値の受け渡しで落とし穴がいくつもあった。定格電流の概算と規約電流、2つのツールのブレーカーの値、1.1倍を掛ける場所、条数の意味、電圧降下の判定と内線規程の配分、呼び径と内径、ラックの2本の式だ。組んでいる途中で、電線管の内径とラックの式という危険側の不具合も見つかり、先に直した。

この記事で使ったツール:

電気配線の計算領域の全体像は電気配線設計まとめ|ブレーカー・電圧降下・電線管・ケーブルラックに、同じ形の例題は強度計算の通し例題|壁付けブラケットを荷重からアンカーまで、空調設計の通し例題|冷房負荷から風量・ダクト・機外静圧・結露まで、ポンプ選定の通し例題|流量・管径から揚程・運転点・NPSH・水撃まで、ベルトコンベヤ駆動軸の通し例題|搬送量から減速機・軸径・キー・軸受までにある。

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M

Mahiro

Mahiro Appの開発者。電線管もケーブルラックも、ツールを1本ずつ作っていたときは画面の数字を疑わなかった。モーター1台を盤から現場まで通して初めて、E51の内径が51mmではないこと、ラックの式を電力と通信で取り違えていたことに気づいた。どちらも「合格」と表示していたのが、いちばん怖いところだった。

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