能力は足りているのに、風が足りない・吹出口が濡れる
LDKにダクト形のエアコンを入れる。冷房負荷を計算して能力クラスを決め、ダクトの太さを決め、ユニットの機外静圧を確かめる。どの工程にもツールがあり、それぞれ正しく数字を返す。
それでも、できあがった空調が設計どおりに効くとは限らない。ツールとツールのあいだで値を受け渡すところで間違えるからだ。
- 冷房負荷のツールが出した「推奨 7.1 kW クラス」を、そのまま風量の計算に入れる
- 風量を全熱(顕熱+潜熱)で出して、ダクトもユニットも一回り大きくする
- カタログの風量は m³/min、ダクトのツールは m³/h で、60倍の読み替えを忘れる
- 静圧のツールの初期値に入っているコイルとフィルタの圧損を、ユニットの機外静圧と比べてしまう
- 結露のチェックに、ダクトの表面温度ではなく部屋の温度や吹出温度を入れる
どれも、個々のツールの説明には書きようがない間違いだ。この記事では、1室のLDKを冷房負荷 → 顕熱と潜熱 → 風量 → ダクト → 機外静圧 → 結露の6工程で最後まで通す。工程ごとに、どのツールに何を入れ、何を受け取って次へ渡すのかを数値付きで追う。数値はすべて、このサイトの各ツールの式から出したものだ。
通しの例題を空調で組んだ理由
このサイトには空調・換気設計の計算まとめがあり、熱負荷・空気線図・ダクト・静圧・結露といった12の計算領域を順に並べている。どの領域でどのツールを使えばいいかは、そちらで分かる。
ただ、まとめ記事は領域ごとに入口を用意する形なので、前の領域の出力をどう受け取るかまでは踏み込めない。冷房負荷の画面に出た数字のうち、どれを風量の式に入れるのか。ダクトの画面の Pa/m を、静圧の画面のどの欄に入れるのか。そこは誰の担当でもないまま残っていた。
強度計算で同じ形の例題(強度計算の通し例題|壁付けブラケットを荷重からアンカーまで)を書いたとき、ツールの間違いが2つ見つかった。空調でも同じことが起きた。この例題を組む途中で、ダクトサイズ計算ツールが角ダクトの圧損を実際より小さく出していたことに気づき、記事より先に直した(工程④で触れる)。通しでやってみないと見えないものを、今回も1ページに残しておく。
例題の設定と6つの工程
設定は次のとおり。
部屋 : 戸建てのLDK 18畳(29.16 m²)、天井高 2.4 m
条件 : 断熱等級5、6地域(東京など)、主な窓は南向き・合計 6 m²
在室と家電 : 4人、家電の発熱 300 W
室内の条件 : 26℃・50%
外気の条件 : 32℃・60%(湿り空気線図計算ツールのプリセット「夏外気」)
換気 : 24時間換気 0.5回/h
空調方式 : 天井埋込ダクト形エアコン1台。吹出口3か所、天井の吸込口1か所
天井裏 : 夏は 30℃・60% になるとみる。天井懐が浅く、主ダクトは高さ 250 mm まで
これを6つの工程に分ける。
| 工程 | 使うツール | 受け取る値 | 次に渡す値 |
|---|---|---|---|
| ① 冷房負荷 | エアコン能力選定シミュレーター | 部屋の条件 | 冷房負荷 6,485 W(全熱) |
| ② 顕熱と潜熱 | 湿り空気線図計算ツール | 室内・外気の絶対湿度 | 顕熱 6,086 W、潜熱 400 W |
| ③ 風量 | (手計算) | 顕熱と吹出温度差 | 1,815 m³/h(30.25 m³/min) |
| ④ ダクト | ダクトサイズ計算ツール | 主ダクト・枝ダクトの風量 [m³/h] | 寸法と圧損 [Pa/m] |
| ⑤ 機外静圧 | ファン静圧算定シミュレーター | 経路の長さ・平均の Pa/m・器具の圧損 | ユニットに要る機外静圧 [Pa] |
| ⑥ 結露 | 配管保温厚さ計算ツール、結露・露点温度チェッカー | 給気温度・天井裏と室内の条件 | 保温の厚さ、結露までの余裕 |
風量を決めるのは冷房能力ではなく顕熱、吹出温度差を決めるのは結露になる。どちらも工程を1つずつ見ていると気づきにくい。
①冷房負荷|「負荷」と「推奨クラス」は別の数字
エアコン能力選定シミュレーターに、面積単位「畳」で 18、天井高 2.4、断熱等級5、6地域、主窓の方位は南、窓面積合計 6、在室人数 4、家電発熱 300 を入れる。
冷房負荷 = 外皮 4,957 W + 窓日射 828 W + 内部発熱 700 W = 6,485 W(6.49 kW)
暖房負荷 = 5,832 W
設計負荷 = 大きいほう = 6,485 W(冷房主体)
推奨エアコン能力 = 7.1 kW クラス
最初のつなぎ目がここだ。画面でいちばん大きく出るのは「推奨エアコン能力 7.1 kW クラス」だが、これは負荷 6,485 W を上回る製品の段を選んだ結果で、部屋の負荷そのものではない。次の工程へ渡すのは 6,485 W のほうだ。7.1 kW を渡すと、負荷を9%多く見たことになり、その分だけ風量もダクトも膨らむ。
もう1つ、この 6,485 W は全熱だ。外皮・窓・人・家電の熱をまとめた値で、温度を下げる分(顕熱)と湿気を取る分(潜熱)を分けていない。ツールの解説によると、等級ごとの係数(W/m²)には換気の分も織り込まれている。人の発熱 100 W/人も、体温で空気を温める分と、汗や呼気で湿気を出す分を合わせた値だ。風量を決める前に、これを分ける必要がある。
②顕熱と潜熱に分ける|風量に効くのは顕熱だけ
潜熱の出どころは、この部屋では人と換気の2つだ。家電・窓・外皮の熱は、ほぼ全部が顕熱になる。
まず湿り空気線図計算ツールで、室内と外気の絶対湿度を出す。プリセットの「快適域 26℃/50%」と「夏外気 32℃/60%」がそのまま使える。
室内 26℃・50% : 絶対湿度 10.49 g/kg(DA)、露点 14.8℃、比容積 0.862 m³/kg
外気 32℃・60% : 絶対湿度 18.02 g/kg(DA)
差 : 7.53 g/kg(DA)
換気で入る空気は、1 kg あたり 7.53 g の水分を余計に持ち込む。これを取り除くのが換気の潜熱だ。
換気量 = 0.5回/h × 室容積 69.98 m³ = 35.0 m³/h
換気の潜熱 = 1.2 kg/m³ × 35.0/3600 m³/s × 0.00753 kg/kg × 2,501 kJ/kg
= 0.220 kW(220 W)
人の潜熱 = 45 W/人 × 4人 = 180 W
潜熱の合計 = 400 W
顕熱 = 6,485 − 400 = 6,086 W
顕熱比 SHF = 6,086 / 6,485 = 0.94
人の潜熱 45 W/人は、住宅や事務の軽い座り作業の値として空調の設計資料(ASHRAE Handbook の在室者発熱の表など)によく載っている数字だ。0.5回/h は、建築基準法施行令第20条の8が居室に求める24時間換気の回数になる。
住宅のLDKは人が少ないので、SHF は 0.94 と高い。人が密集する会議室なら 0.7 台まで下がり、全熱と顕熱の差はもっと開く。どちらの部屋でも、風量の式に入れるのは顕熱だ。潜熱は、次の工程で「給気がどれだけ乾いていればいいか」の確認に使う。
③風量を出す|W・kcal/h・m³/h・m³/min・m³/s
給気の温度を室温より何度低くするか(吹出温度差 ΔT)を決めれば、風量が出る。空気が1℃温まるときに吸う熱と、顕熱の釣り合いだ。
Q [m³/h] = 顕熱 [W] / (ρ × cp × ΔT)
= 顕熱 [W] / (1.2 × 1.006 × 1000/3600 × ΔT)
= 顕熱 [W] / (0.335 × ΔT)
ΔT = 10 K(吹出 16℃)で
Q = 6,086 / (0.335 × 10) = 1,815 m³/h
= 30.25 m³/min = 0.504 m³/s
ここは単位のつなぎ目が一番多い工程だ。
- 係数 0.335 は W 用。古い教科書には「Q = 顕熱 / (0.29 × ΔT)」と書かれているが、0.29 は kcal/h 用の係数(1.2 × 0.24)だ。W の値を 0.29 で割ると 2,099 m³/h になり、16% 多く出る
- 全熱で割ると 6,485 / (0.335 × 10) = 1,934 m³/h(+7%)、推奨クラスの 7.1 kW で割ると 2,117 m³/h(+17%)。どちらも、ダクトとユニットを一回り大きくする方向の間違いだ
- カタログの風量は m³/min で載っていることが多い。ダクトサイズ計算ツールの入力は m³/h なので、30.25 をそのまま入れると60分の1の風量でダクトを選ぶことになる
密度の 1.2 kg/m³ は、実は給気の状態にちょうど合っている。湿り空気線図計算ツールで 16℃・露点 14.4℃ を入れると比容積は 0.833 m³/kg で、逆数は 1.20 だ。室内の 26℃ の比容積 0.862 から密度を取ると 1.16 になり、風量は 3% 多めに出る。この差は小さいので、迷ったら給気側の 1.2 でよい。
給気がどれだけ乾いていればいいかも、ここで確かめておく。風量 1,815 m³/h(0.605 kg/s)で潜熱 400 W を運び出すには、給気の絶対湿度を室内より 0.26 g/kg 下げればよい。給気は 10.23 g/kg(16℃ で相対湿度 90%、露点 14.4℃)になる。ユニットのコイルがここまで除湿できていれば、室内は 50% に保たれる。
④ダクトの寸法|角ダクトは「相当径に同じ風量」で圧損を読む
ダクトサイズ計算ツールに風量を m³/h で入れる。主ダクトは用途「主ダクト(給気)」で 1,815、枝ダクトは吹出口3か所に等分して「枝ダクト」で 605 だ。
主ダクト(1,815 m³/h・角ダクト)
推奨候補の先頭 500×250 : 相当径 φ381、風速 4.03 m/s、圧損 0.61 Pa/m [適正]
丸ダクトなら φ350 : 5.24 m/s、0.92 Pa/m [適正]
枝ダクト(605 m³/h・丸ダクト)
φ200 : 5.35 m/s、1.91 Pa/m [騒音注意]
φ250 : 3.42 m/s、0.63 Pa/m [適正] ← これを使う
φ300 : 2.38 m/s、0.26 Pa/m [風速不足]
天井懐が浅く高さ 250 mm までなので、主ダクトは角ダクトの 500×250 にする。丸の φ350 は保温を巻くと 400 mm 近くになり、この天井には入らない。
角ダクトの圧損は、ツールを直してから読む
ここに、この例題を組んでいて見つけた不具合があった。角ダクトの圧損は、Huebscher の式で「相当径の丸ダクト」に置き換えて計算する。相当径は同じ風量を流したときに同じ圧損になる丸ダクトの径なので、相当径の丸ダクトには角ダクトと同じ風量を流して、そのときの風速で圧損を出す。
角ダクト 500×250 の断面積 = 0.125 m² → 実風速 4.03 m/s
相当径 φ381 の断面積 = 0.114 m² → 同じ風量なら 4.43 m/s
圧損(φ381 に 4.43 m/s) = 0.61 Pa/m ← 正しい
圧損(φ381 に 4.03 m/s) = 0.51 Pa/m ← 修正前のツール
修正前のダクトサイズ計算ツールは、角ダクトの実風速をそのまま相当径に当てていた。相当径の断面は角ダクトより小さいので、風速を低く見たぶん圧損が小さく出る。修正前の値は正しい値より、縦横比 1:1 で約11%、この例題の 2:1 で約16%、4:1 では約28%小さく、ファンの静圧を少なく見積もる危険側の誤りだった。2026-09-25 に、相当径に同じ風量を流して計算するように直した。
⑤機外静圧|コイルとフィルタは足さない、継手は割増では足りない
ファン静圧算定シミュレーターは、直管・継手・機器の圧損を積み上げて、ファンに要る静圧を出す。ここでのつなぎ目は3つある。
1. 摩擦損失の欄は1つしかない
静圧のツールの「摩擦損失 (Pa/m)」は1欄だけだが、経路は主ダクト・枝ダクト・還気ダクトで Pa/m が違う。ファンが押し切らなければならないのは、いちばん遠い吹出口までの経路と、吸込口から戻る経路の合計だ。長さで重み付けした平均を入れる。
給気の主ダクト 500×250 : 6 m × 0.61 = 3.66 Pa
給気の枝ダクト φ250 : 4 m × 0.63 = 2.52 Pa
還気ダクト 500×250 : 2 m × 0.61 = 1.22 Pa
合計 12 m で 7.40 Pa → 平均 0.62 Pa/m
還気の 2 m を落とすと、この例題では直管だけで 1.2 Pa、エルボまで含めると 4.0 Pa 少なく出る。還気側の抜けは、ダクトが長い建物ほど大きくなる。
2. 継手割増の30%は、直管が短い系統では足りない
ツールの「継手割増 (%)」は、直管の損失に対する割合で継手の損失を足す欄だ。プリセットの 30% は直管の長い一般的な系統を想定した値で、この例題のように直管が 12 m しかないと、エルボ数個で直管と同じくらいの損失になる。
90°エルボ1個を直管の約12D(ダクト径の12倍)とみなして、経路上のエルボを数える。
主ダクトのエルボ 1個 : 12 × 0.381 m = 4.57 m → 4.57 × 0.61 = 2.79 Pa
枝ダクトのエルボ 2個 : 12 × 0.25 m × 2 = 6.00 m → 6.00 × 0.63 = 3.78 Pa
還気ダクトのエルボ 1個 : 4.57 m → 2.79 Pa
継手の合計 9.36 Pa ÷ 直管 7.40 Pa = 126%
継手割増に 126% を入れる。30% のままだと継手は 2.2 Pa しか見込まれない。
3. コイルとフィルタは、ユニットの中にある
静圧のツールの初期値は「一般AHU」のプリセットで、フィルタ 150 Pa・コイル 200 Pa・サイレンサ 80 Pa・ダンパ 50 Pa が入っている。空調機(AHU)のファンを選ぶなら、コイルやフィルタを通す分もファンが受け持つので、これで正しい。
ところがダクト形エアコンのカタログに載っているのは機外静圧、つまりユニットの外のダクトと器具に使える静圧だ。コイルとフィルタはユニットの中にあり、その圧損はメーカーがすでに差し引いている。初期値のまま直管と継手だけ書き換えると、必要な静圧は 539 Pa と出る。一般的なダクト形エアコンの機外静圧を大きく超え、「中静圧・一般AHU範囲」のファンが要るように見えてしまう。
機外静圧と比べるなら、フィルタ・コイル・サイレンサを 0 にして、ユニットの外にあるものだけを入れる。
直管長さ 12 m、摩擦損失 0.62 Pa/m → 直管損失 7.44 Pa
継手割増 126% → 継手損失 9.37 Pa
ダンパ 10 Pa、その他 30 Pa(吹出口 20 Pa + 吸込口 10 Pa)→ 機器損失 40 Pa
小計 56.81 Pa × (1 + 安全率 10%) = 62.5 Pa(6.4 mmAq)
吹出口・吸込口・ダンパの圧損は、実際には選んだ器具の技術資料から、この風量での値を拾って入れる。ここでは例題として置いた値だ。
住宅規模のダクトでは、静圧の大半はダクトではなく吹出口・吸込口で決まる。62.5 Pa のうち直管は 7 Pa あまりにすぎない。④で直した角ダクトの圧損も、この例題では修正前の値(主ダクト 0.51 Pa/m)で同じ手順を踏むと 60.6 Pa で、差は約 2 Pa だった。ダクトが長い系統ほど、この差は大きくなる。
ユニットは、冷房能力が 6.49 kW 以上で、風量 30.25 m³/min のときに機外静圧 62.5 Pa 以上を出せるものを選ぶ。古いカタログや海外の資料では静圧が mmAq(1 mmAq = 9.80665 Pa)で載っていることもある。
⑥結露|ツールに入れるのは空気の温度ではなく表面の温度
16℃ の給気が、30℃・60% の天井裏を通る。結露・露点温度チェッカーに室温 30、相対湿度 60 を入れると露点は 21.4℃ だ。このツールの「表面温度」の欄に入れるのは、天井裏の空気の温度でも給気の温度でもなく、ダクトの外側の表面温度になる。
保温を巻かない鋼板ダクトは薄く、表面は中の空気とほぼ同じ 16℃ 前後になる。表面温度 16 を入れると、結露までの余裕は −5.4℃ で「結露発生」だ。
保温の厚さは配管保温厚さ計算ツールで出せる。配管のツールだが、配管サイズで「カスタム入力」を選べば外径を直接入れられるので、枝ダクトの φ250 を円筒として扱える。モード「防露」、配管外径 250 mm、グラスウール保温筒、管内流体温度 16、周囲温度 30、湿度 60 を入れる。
必要保温厚さ 5.2 mm → 規格厚さ 20 mm
20 mm での表面温度 27.5℃
(角ダクト 500×250 を相当径 φ381 の円筒とみなしても 27.4℃)
ここにも小さなつなぎ目がある。保温厚さのツールの「防露」は、表面温度を**露点+2℃**にする厚さを探す。一方、結露・露点温度チェッカーは余裕が 5℃ を超えて初めて「安全」、2〜5℃ は「注意」、2℃ 以下は「警告」と表示する。計算上ぴったりの 5.2 mm で施工すると、チェッカーでは余裕 2.0℃ の「注意」で、「安全」には届かない。規格厚さ 20 mm の表面温度 27.5 を入れれば、余裕は 6.1℃ で「安全」だ。
吹出温度差の上限を決めるのは、吹出口の結露
もう1か所、見落としやすい結露の場所がある。部屋の中の吹出口だ。吹出口の面は給気に冷やされ、給気温度に近くなる。こちらは天井裏ではなく、室内の露点と比べる。
吹出温度差をいくつにするかで、風量・ダクト・吹出口の余裕がまとめて動く。
| 吹出温度差 | 給気 | 風量 | 主ダクト(角の候補の先頭) | 枝ダクト | 吹出口の余裕(室内 26℃・50%) |
|---|---|---|---|---|---|
| 8 K | 18℃ | 2,269 m³/h(37.8 m³/min) | 450×350 | φ300 | 3.2℃(注意) |
| 10 K | 16℃ | 1,815 m³/h(30.25 m³/min) | 500×250 | φ250 | 1.2℃(警告) |
| 12 K | 14℃ | 1,512 m³/h(25.2 m³/min) | 350×300 | φ250 | −0.8℃(結露発生) |
温度差を広げれば風量が減り、ダクトは細くなる。だが 12 K では給気 14℃ が室内の露点 14.8℃ を下回り、吹出口に露がつく。8 K にすると吹出口には余裕が出るが、風量は 25% 増える。候補の先頭は高さ 350 mm で、高さ 250 mm に収めるなら 600×250 まで幅が広がり、ユニットにも 37.8 m³/min の風量が要る。温度差の上限は吹出口の結露で決まり、そこから下げるほど風量・ダクト・ユニットが大きくなる。この例題では、結露の手前でいちばん風量の小さい 10 K を選ぶ。
10 K でも余裕は 1.2℃ しかない。梅雨どきに室内が 55% まで上がると露点は 16.3℃ になり、16℃ の吹出口は結露しはじめる。実際には吹出口のまわりで室内の空気が混ざるので、面の温度は給気より少し高く、この比較は安全側だ。それでも、湿度が上がりやすい部屋では結露しにくい構造の吹出口を選ぶか、除湿運転で室内を 50% に保つことが前提になる。②で潜熱を分けたのは、この前提を数字で確かめるためでもある。
もう1つ、ユニットの定格風量がこの 30.25 m³/min より少ない機種を選ぶと、同じ顕熱を少ない風量で運ぶことになり、吹出温度は 16℃ より下がる。ユニットの風量が足りないことは、吹出口の結露として表に出る。
取り違えたときの値と並べる
各工程のつなぎ目で取り違えると、どの値がどれだけずれるかを並べる。
| 工程 | 取り違えた受け渡し | その値 | 正しい受け渡し | 正しい値 |
|---|---|---|---|---|
| ①→③ | 推奨クラス 7.1 kW で風量を出す | 2,117 m³/h | 顕熱 6,086 W で出す | 1,815 m³/h |
| ②→③ | 全熱 6,485 W で風量を出す | 1,934 m³/h | 顕熱で出す | 1,815 m³/h |
| ③ | W の値を kcal/h 用の係数 0.29 で割る | 2,099 m³/h | W 用の係数 0.335 で割る | 1,815 m³/h |
| ④ | 角ダクトの実風速を相当径に当てる | 0.51 Pa/m | 相当径に同じ風量を流す | 0.61 Pa/m |
| ⑤ | 継手割増をプリセットの 30% のまま | 54.6 Pa | 直管換算長から 126% | 62.5 Pa |
| ⑤ | AHU の初期値(コイル・フィルタ等)を残す | 539 Pa | ユニット外の器具だけ | 62.5 Pa |
| ⑥ | 吹出温度差を 12 K に広げる | 吹出口が結露 | 10 K | 余裕 1.2℃ |
| ⑥ | 天井裏のダクトを保温なし | 余裕 −5.4℃ | グラスウール 20 mm | 余裕 6.1℃ |
風量の取り違えは、どれも大きく出る側の間違いだ。部屋は冷えるが、ダクトとユニットが一回り大きくなり、風切り音が増え、除湿が弱くなる。静圧と結露の取り違えは、足りない側や濡れる側に出る。やっかいなのは後者で、施工してから天井のシミとして見つかる。
この例題で扱っていないものもある。外気を直接ユニットに取り込む場合の外気負荷、暖房時の風量と吹出温度、ダクトの騒音と消音、吹出口の到達距離と気流分布。どれも、この6工程を通したあとに確かめる項目として残る。
通し設計のチェックリスト
- 冷房負荷のツールから受け取ったのは、推奨クラスではなく負荷の値か
- 負荷を顕熱と潜熱に分けたか。潜熱の出どころ(人・換気・調理)を数えたか
- 風量の式に入れたのは顕熱か。係数は W 用(0.335)か
- 風量の単位を、次のツールに合わせて読み替えたか(m³/h・m³/min・m³/s)
- 給気の絶対湿度で、潜熱を運び出せることを確かめたか
- 角ダクトの圧損を、相当径に同じ風量を流して読んだか
- 静圧は、最遠の吹出口までと還気側の経路の合計で積み上げたか
- 直管が短い系統で、継手の損失を直管換算長から見積もったか
- ユニットの機外静圧と比べるときに、ユニット内のコイル・フィルタを足していないか
- 天井裏のダクトの表面温度で結露を判定したか
- 吹出口の温度を室内の露点と比べたか
- ユニットの定格風量が計算の風量を下回っていないか
豆知識|0.29 と 0.335、mmAq と Pa
風量の式の係数が2つあるのは、空調の単位が途中で入れ替わったからだ。日本の空調設計は長く、熱量を kcal/h、圧力を mmAq(水柱ミリメートル)で扱ってきた。空気の比熱は 0.24 kcal/(kg·K)、密度が 1.2 kg/m³ なので、1 m³ の空気を 1℃ 上げる熱は 0.288 kcal、丸めて 0.29 になる。これが「顕熱 ÷ (0.29 × ΔT)」の出どころだ。
1990年代に計量法が改正され、取引や証明に使う単位が SI に一本化された。熱量は W(J/s)、圧力は Pa に移り、同じ式は 1.2 × 1.006 kJ/(kg·K) ÷ 3.6 = 0.335 で書かれるようになった。1 kW = 860 kcal/h なので、0.29 と 0.335 の比 1.16 はそのまま kcal/h と W の換算に対応している。
圧力の mmAq は、U字管の水面の高さの差をそのまま読んだ単位だ。1 mmAq は水 1 mm の重さが掛ける圧力で、9.80665 Pa になる。送風機の静圧が「何ミリ」と呼ばれていたのはこのためで、現場ではいまも「機外静圧 5 ミリ」のような言い方を耳にする。この例題の 62.5 Pa は 6.4 ミリだ。
空調の単位の古い呼び名には、冷凍能力の「冷凍トン」もある。由来は空調・換気設計の計算まとめの豆知識で触れている。
通しで使うときのTips
- 工程ごとに、渡す値を単位つきでメモする。「顕熱 6,086 W」「風量 1,815 m³/h(30.25 m³/min)」のように、次のツールの単位を併記しておくと読み替えを忘れない
- 吹出温度差は最初に仮決めし、⑥で確かめてから戻る。ΔT を変えると風量・ダクト・静圧がすべて変わるので、変えたら③から流し直す
- 静圧のツールはプリセットを選んでから、使わない欄を 0 にする。初期値の AHU の値を1つでも残すと、それだけで数百 Pa ずれる
- 経路の Pa/m は、ダクトサイズ計算ツールの表示値(小数2桁)で平均する。どの値を使ったかを残しておけば、あとで寸法を変えたときに差し替えやすい
よくある質問
Q: 全熱で風量を出すと、なぜいけない? 大きめなら安全では?
部屋の温度を下げる点では安全側だが、ダクト・吹出口・ユニットが一回り大きくなり、風切り音が増える。もう1つの問題は除湿だ。同じ潜熱を多い風量で運ぶと、給気の絶対湿度を下げる幅が小さくてよくなり、コイルが除湿しにくい運転になりやすい。温度は下がっているのに湿度が高い「ジメっとした冷房」は、風量の過大が原因のことがある。風量は顕熱で決め、ユニットの冷房能力は全熱で確かめる、と役割を分けて考える。
Q: カタログの風量が、計算の 30.25 m³/min より少ない。どうすればいい?
そのままでは、同じ顕熱を少ない風量で運ぶことになり、吹出温度が下がる。たとえば 25.2 m³/min なら、吹出温度差は 12 K(給気 14℃)になり、この例題では吹出口が結露する側に入る。風量の多い機種や能力の一段上の機種を選ぶか、結露しにくい構造の吹出口にするかを検討する。風量の単位(m³/min と m³/h)を取り違えていないかも、最初に確かめてほしい。
Q: ファン静圧算定シミュレーターの「継手割増」は、何%を入れればいい?
直管の長さと継手の数で変わるので、決まった値はない。直管が長く継手が少ない幹線なら 30〜50% 程度でも足りるが、この例題のように直管が短い系統では、継手の損失が直管を上回ることもある。迷ったら、エルボや分岐を直管換算長(90°エルボで約12D)に置き換えて損失を出し、直管の損失との比を割増に入れる。直管長さに換算長を足して、割増を 0% にしても同じ結果になる。
Q: この例題の数値は、自分の設計にそのまま使える?
使えない。冷房負荷のツールは断熱等級ごとの係数を使う簡易計算で、窓の性能や方位、日射の遮り方、調理の発熱が変われば負荷は変わる。吹出口・吸込口・ダンパの圧損も、例題として置いた値だ。この記事は工程のつなぎ方と値の受け渡し方を示すための例題で、外気の直接導入や暖房時の検討は扱っていない。実際の設計では、自分の条件で各ツールを通し直し、器具とユニットはメーカーの技術資料で確かめてほしい。
Q: 各ツールに入れた値は、どこかに送られる?
送られない。この記事で使った各ツールの計算は、すべてブラウザの中で完結していて、入力した面積・温湿度・風量をサーバーに送ることはない。施主の住まいの間取りや、設計中の建物の条件をそのまま入れても差し支えない。
まとめ|風量は顕熱で、吹出温度差は結露で決まる
1室のLDKを通して設計すると、個々のツールは正しく動いていても、値の受け渡しで落とし穴がいくつもあった。負荷と推奨クラスの取り違え、全熱と顕熱、W と kcal/h、m³/h と m³/min、ユニットの内と外、空気の温度と表面の温度だ。そして、風量を最後に決めたのは冷房能力ではなく吹出口の結露で、ダクトの形を決めたのは天井懐だった。
この記事で使ったツール:
空調の計算領域の全体像は空調・換気設計の計算まとめに、同じ形の例題は、強度計算の強度計算の通し例題|壁付けブラケットを荷重からアンカーまでと、配管のポンプ選定の通し例題|流量・管径から揚程・運転点・NPSH・水撃までにある。
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Mahiro
Mahiro Appの開発者。この例題を組むまで、ダクトサイズ計算ツールの角ダクトの圧損が小さく出ていることに気づかなかった。丸ダクトでは正しく、角ダクトだけが相当径の使い方を誤っていた。住宅のダクトでは静圧の差が2 Pa ほどで表に出にくく、だからこそ長い間残っていたのだと思う。
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