分電盤の前で電卓を叩き続ける日々を終わらせたい
「3.7kWのポンプ、三相200Vだからえーっと……定格電流は何アンペアだっけ? ブレーカーは30ATでいいのか40ATか? じゃあケーブルはCVTの何スケ? あ、管も選ばないと……」
分電盤や制御盤を設計するたびに、この一連の手計算を繰り返してはいないだろうか。1回路だけならまだしも、負荷が10も20もあると、カタログと電卓を往復する時間が地味にかさむ。ブレーカー・電線サイズ一括選定ツールは、負荷の種別と容量を入力するだけで、ブレーカーAT・電線サイズ・電線管サイズまで一括で選定結果を返すツールだ。
なぜブレーカー・電線一括選定ツールを作ったのか
カタログと電卓のルーチンワークが非効率だった
制御盤設計の仕事をしていると、負荷リストをもらった瞬間から始まるルーチンがある。電圧と力率から定格電流を出して、AT系列表を引いて、許容電流表でケーブルを決めて、管を選ぶ。手順自体はシンプルなのに、負荷の数が多いとスプレッドシートのセルを埋めるだけで半日が溶ける。
既存のWebツールも探した。ブレーカーだけ選定するもの、ケーブルだけ選定するものはあったが、「負荷リストを投げたら全部出てくる」ツールが見つからない。結局エクセルに独自の数式を組むのだが、新しい案件のたびにシートを使い回して、力率の初期値を間違えて手戻り……という経験を何度もした。
こだわった設計判断
- 負荷種別プリセット: モーター・ヒーター・照明・空調・コンセント・その他。種別を選ぶだけで力率と始動電流倍率が自動設定される。もちろん手動で上書きもできる
- 一括選定: ブレーカーAT→電線サイズ→電線管サイズの3ステップを1回の入力で完結
- 警告表示: 600AT超過、250sq超過、モーターの始動電流トリップリスクなど、実務で見落としがちなポイントを自動で警告
- ブラウザ完結: データは外部に送信しない。オフライン環境の現場事務所でも使える
過電流保護の仕組み — ブレーカー 選定 計算の基本
ブレーカー選定と電線選定は、過電流保護という同じ目的のために表裏一体で行われる。初学者にも分かるよう、基本から解説する。
ブレーカー 選定 とは
配線用遮断器(MCCB)は、電線に流れる電流が許容値を超えたときに回路を自動で切る安全装置。家庭のブレーカーが落ちる現象は、まさにこの過電流保護が働いた結果だ。
ブレーカーの定格電流(AT: アンペアトリップ)は、JIS C 8201で定められた標準系列から選ぶ。たとえば 5, 10, 15, 20, 30, 40, 50, 60, 75, 100, 125…… というように飛び飛びの値が並んでいて、負荷の定格電流以上で最も近い値を選定する。
たとえるなら、水道管の太さを選ぶのと同じ感覚。流したい水量(定格電流)に対して、少なくともそれ以上の口径(ブレーカーAT)のパイプを選ばないと、水圧で管が破裂する(過電流で電線が焼ける)。
電線サイズ 選定 の考え方
ブレーカーATが決まったら、次はそのAT値以上の許容電流を持つ電線を選ぶ。電線の許容電流は断面積・絶縁体の耐熱温度・配線方式(気中敷設か管路引入れか)によって変わる。本ツールでは、VVFケーブル(600V ビニル絶縁ビニルシースケーブル平形)の気中敷設での許容電流を基準にしている。
重要なのは「許容電流 ≧ ブレーカーAT」という不等式。これが成り立たないと、電線が限界に達してもブレーカーが落ちず、電線の被覆が溶けて火災につながる。
選定の順序:
1. 定格電流 I = P × 1000 / (V × PF × √3) ← 三相の場合
2. ブレーカーAT ≧ I (JIS標準AT系列から選定)
3. 電線の許容電流 ≧ ブレーカーAT (電線サイズ決定)
4. 電線管 → ケーブル外径から占有率32%以下で選定
電線管サイズ 選定
ケーブルを電線管に通す場合、内線規程で占有率の上限が定められている。ケーブル1本を管に通す場合は、管内断面積の32%以下が基準。ケーブル外径から必要な管内径を逆算し、PF管やE管の標準サイズから選定する。
ブレーカーと電線の選定ミスは火災に直結する
なぜこの選定が実務で重要なのか
電気火災の原因のうち、配線関係は常に上位を占めている。ブレーカーATを小さく選定しすぎれば頻繁にトリップして稼働に支障をきたし、大きすぎれば過電流時に電線が焼損する前にブレーカーが動作しない。
電気設備に関する技術基準を定める省令の第56条では、低圧電路に施設する過電流遮断器の定格電流は、当該電路の許容電流以下でなければならないと規定している。つまり「ブレーカーAT ≦ 電線の許容電流」は法令上の要件だ。
力率とブレーカーサイズの関係
同じ3.7kWのモーターでも、力率0.85と0.95では定格電流が約12%変わる。AT系列の刻みが粗いため、この差でブレーカーのサイズが1ランク上がることもある。力率を適切に設定しないと、過剰設計でコストが上がるか、過小設計で安全性が下がるか、どちらかに偏る。
| 負荷 | 力率 | 三相200V 定格電流 | ブレーカーAT |
|---|---|---|---|
| 3.7kW モーター | 0.85 | 12.6 A | 15 A |
| 3.7kW モーター | 0.95 | 11.2 A | 15 A |
| 5.5kW モーター | 0.85 | 18.7 A | 20 A |
| 5.5kW モーター | 0.95 | 16.7 A | 20 A |
分電盤設計や制御盤の配線選定で活躍する
分電盤の回路設計
新築ビルや工場の分電盤設計では、数十回路分のブレーカーと電線を選定する必要がある。負荷リストを入力すれば一括で結果が出るので、回路表の作成作業が大幅に短縮される。
制御盤の内部配線
制御盤の盤内配線では、インバータやPLCの補助電源、操作回路など細かい回路が多い。小容量の負荷でもブレーカーと電線の組み合わせを間違えると、盤内で過熱事故が起きる。
既設設備の改修・容量確認
既存の分電盤に負荷を追加する場合、「既設のブレーカーで足りるか? ケーブルは?」という確認が必要。本ツールで現在の負荷構成を入力すれば、余裕度がすぐに分かる。
電験三種の配線設計問題
電験三種の「電力」科目では、定格電流の算出やブレーカー選定が出題される。本ツールで計算結果を検算しながら学習すると理解が深まる。
使い方は3ステップ — ブレーカー・電線を一括選定
ステップ1: 電圧・相線式を選ぶ
画面上部のボタンで「単相100V」「単相200V」「三相200V」を選択する。これにより定格電流の計算式と、2心/3心ケーブルの許容電流テーブルが自動で切り替わる。
ステップ2: 負荷を追加して容量を入力
「+ 負荷を追加」ボタンを押して、負荷種別(モーター・ヒーター・照明等)と容量(kW)を入力する。種別を選ぶと力率と始動電流倍率が自動設定される。必要に応じて手動で変更も可能。
ステップ3: 選定結果を確認
入力と同時に、各負荷のブレーカーAT・電線サイズ・電線管サイズが一覧表で表示される。警告がある場合は黄色い注意バナーが出る。
具体的な選定例 — 6ケースで検証
ケース1: 3.7kW 三相モーター(三相200V)
- 入力: 負荷種別=モーター、容量=3.7kW、力率=0.85、始動倍率=3.0
- 定格電流: 3700 / (1.732 × 200 × 0.85) = 12.6 A
- ブレーカーAT: 15 A(12.6A以上の最小AT)
- 電線サイズ: 2.6mm(3心許容電流29A ≧ 15A)
- 電線管: E19
- 解釈: 汎用ポンプやファンに多い定番の組み合わせ。始動電流12.6×3=37.8AだがMCCBの瞬時引外し(15×13=195A以下)なので問題ない
ケース2: 5kW ヒーター(三相200V)
- 入力: 負荷種別=ヒーター、容量=5kW、力率=1.0、始動倍率=1.0
- 定格電流: 5000 / (1.732 × 200 × 1.0) = 14.4 A
- ブレーカーAT: 15 A
- 電線サイズ: 2.6mm(3心29A ≧ 15A)
- 電線管: E19
- 解釈: ヒーターは力率1.0なので計算がシンプル。始動電流もないためブレーカーのトリップリスクは低い
ケース3: 2kW 照明回路(単相100V)
- 入力: 負荷種別=照明、容量=2kW、力率=0.95、始動倍率=1.0
- 定格電流: 2000 / (100 × 0.95) = 21.1 A
- ブレーカーAT: 30 A
- 電線サイズ: 2.6mm(2心許容電流33A ≧ 30A)
- 電線管: E19
- 解釈: 単相100Vは電流が大きくなりやすい。2kWの照明回路で30ATが必要になる点に注意
ケース4: 1.5kW エアコン(単相200V)
- 入力: 負荷種別=空調、容量=1.5kW、力率=0.9、始動倍率=2.0
- 定格電流: 1500 / (200 × 0.9) = 8.3 A
- ブレーカーAT: 10 A
- 電線サイズ: 1.6mm(2心許容電流19A ≧ 10A)
- 電線管: E19
- 解釈: 家庭用エアコンの典型例。インバータ機は始動電流が抑えられるため、2.0倍で十分
ケース5: 15kW 三相モーター・長距離配線(三相200V)
- 入力: 負荷種別=モーター、容量=15kW、力率=0.85、始動倍率=5.0
- 定格電流: 15000 / (1.732 × 200 × 0.85) = 50.9 A
- ブレーカーAT: 60 A(50.9A以上の最小AT)
- 電線サイズ: 14sq(3心許容電流61A ≧ 60A)
- 電線管: E31
- 解釈: ツール上の選定はこれで正しいが、仮に配線長が100mを超える場合は電圧降下が無視できなくなる。三相200V・14sq・100mで50.9Aを流すと電圧降下は約7V(約3.5%)に達し、内線規程の推奨値2%を超過する。この場合は22sqへのサイズアップが実務上の判断となる。長距離配線では「過電流保護で決まるサイズ」と「電圧降下で決まるサイズ」の大きい方を採用するのが鉄則だ
ケース6: 22kW 三相モーター・直入れ始動(三相200V)
- 入力: 負荷種別=モーター、容量=22kW、力率=0.85、始動倍率=6.0
- 定格電流: 22000 / (1.732 × 200 × 0.85) = 74.7 A
- ブレーカーAT: 75 A(74.7A以上の最小AT)
- 電線サイズ: 22sq(3心許容電流80A ≧ 75A)
- 電線管: E39
- 解釈: 大型モーターの直入れ始動では始動電流が74.7×6=448.2Aに達する。MCCBの瞬時引外し特性は一般的にAT×13倍(75×13=975A)なので始動時トリップはしないが、始動時間が長い(重負荷起動で5秒以上)場合は熱動引外しで落ちるリスクがある。対策としてはブレーカーATを100Aに上げる、スターデルタ始動やインバータ始動に変更する、あるいは始動時限延長型MCCBを採用する方法がある。22kW以上のモーターでは始動方式の検討がブレーカー選定と不可分になる
選定アルゴリズムの仕組み — ブレーカー 電線 選定ロジック
候補手法の比較
ブレーカーと電線の選定には、大きく2つのアプローチがある。
- ルックアップテーブル方式: 負荷容量→ブレーカー→電線を対応表で引く。JECAやメーカーのカタログに掲載されている方式。簡便だが、力率やケーブル種別が固定される
- 計算+系列照合方式: 定格電流を数式で算出し、AT系列や許容電流テーブルと照合する。力率や配線条件を柔軟に変更できる
本ツールは方式2を採用した。力率を負荷ごとに変更でき、単相/三相の切替にも対応するには、数式ベースの計算が必要だったからだ。
実装の計算フロー
入力: kW, 電圧(V), 力率(PF), 相線式
1. 定格電流の算出
三相: I = kW × 1000 / (√3 × V × PF)
単相: I = kW × 1000 / (V × PF)
2. ブレーカーAT選定
AT = BREAKER_AT_SERIES.find(at => at >= I)
※ 系列: [5, 10, 15, 20, 30, 40, 50, 60, 75, 100, ...]
3. 電線サイズ選定
- 単相 → 2心ケーブルの許容電流テーブルを使用
- 三相 → 3心ケーブルの許容電流テーブルを使用
wire = WIRE_SPECS.find(w => w.allowableA >= breakerAT)
4. 電線管選定
- 占有率32%以下: d_inner >= d_cable / √0.32
conduit = CONDUIT_SIZES.find(c => c.innerDiam >= required)
計算例: 3.7kW三相モーター
I = 3.7 × 1000 / (1.732 × 200 × 0.85)
= 3700 / 294.44
= 12.57 A
ブレーカーAT: 15A(系列で12.57以上の最小値)
電線: 3心許容電流テーブル
1.6mm → 17A(17 ≧ 15 → OK)
→ 1.6mm を選定
電線管: ケーブル外径10.5mm
必要内径 = 10.5 / √0.32 = 18.6mm
E19(内径18.9mm)≧ 18.6mm → E19を選定
既存ツールとの違い — 一括選定の強み
個別選定ツールとの比較
多くのWebツールは「ブレーカー選定」「ケーブル選定」「電線管選定」が別々のページになっている。負荷ごとに3つのツールを行き来するのは非効率だ。本ツールは1つの負荷入力で3つの結果を同時に返す。
スプレッドシートとの比較
エクセルの自作シートは柔軟だが、新案件のたびにテンプレートを準備する手間がある。本ツールはブラウザで開くだけで使えて、スマホからもアクセス可能。計算ロジックの検証も不要だ。
本ツールの差別化ポイント
- 負荷種別プリセットで力率・始動倍率を自動設定
- 複数負荷を一覧で比較できるテーブル表示
- 実務上の注意点を自動で警告表示
- 電線管サイズ判定シミュレーターとの連携(管内の占有率を詳しく検証したい場合)
豆知識 — MCCBとELCBの使い分け
配線用遮断器(MCCB)と漏電遮断器(ELCB)
MCCBは過電流保護のみ、ELCBは過電流保護+漏電保護の機能を持つ。水回りの機器や屋外設備では漏電遮断器が必須。電気設備技術基準の解釈でも、特定の条件下で漏電遮断器の施設が義務付けられている。
ケーブルの耐熱温度と許容電流の関係
一般的なVVFケーブルの絶縁体はビニル(PVC)で、耐熱温度は60℃。耐熱ビニル(HIV)は75℃、架橋ポリエチレン(CV)は90℃。耐熱温度が高いほど許容電流も大きくなるため、同じ断面積でもCV線のほうがVVFより多くの電流を流せる。
JIS標準AT系列の考え方
なぜブレーカーの定格電流は10, 15, 20, 30…と飛び飛びなのか。これはJIS C 8201で定められた標準数列に基づいている。R10系列(10のn乗根で生成される等比数列)をベースに、実用上のキリのよい値に丸めたもの。この系列があるからこそ、世界中で互換性のあるブレーカーが生産・流通している。
Tips — ブレーカー・電線選定の実務ポイント
モーターの始動方式とブレーカー
直入れ始動のモーターは定格電流の5〜7倍の始動電流が流れる。スターデルタ始動なら1/3、インバータ始動なら定格電流程度まで抑えられる。本ツールの始動電流倍率はプリセットで3.0(直入れ想定)だが、始動方式に応じて変更してほしい。
周囲温度と許容電流の補正
本ツールの許容電流は周囲温度30℃を前提としている。高温環境(ボイラー室・厨房など)では許容電流が低下するため、1ランク上のケーブルを選定するのが安全側の判断。内線規程の温度補正係数表を参照。
ブレーカーの遮断容量
AT選定とは別に、ブレーカーの遮断容量(短絡電流を安全に遮断できる能力)も確認が必要。変圧器容量が大きい場合、短絡電流が大きくなるため、遮断容量不足のブレーカーでは短絡事故時に爆発的な故障が起きる。
FAQ — よくある質問
力率が分からない場合はどうすればいい?
負荷種別のプリセットを選べば、一般的な力率が自動設定される。モーター=0.85、ヒーター=1.0、照明=0.95、コンセント=0.9。正確な値はメーカーのカタログや銘板に記載されている。不明な場合はプリセット値のまま使えば実務上ほぼ問題ない。
CVケーブルやIV線の許容電流にも対応している?
現時点ではVVFケーブル(600V ビニル絶縁ビニルシースケーブル)の気中敷設を基準にしている。CVケーブルは許容電流が大きいため、本ツールの結果は安全側(太めのケーブル)になる。将来的にケーブル種別の選択機能を追加予定。
選定結果のデータは外部に送信される?
一切送信されない。すべての計算はブラウザ内(JavaScript)で完結しており、サーバーとの通信は発生しない。入力データはブラウザを閉じれば消える。
電圧降下は考慮されている?
本ツールは過電流保護の観点からのブレーカー・電線選定に特化しており、電圧降下の検討は含んでいない。長距離配線では電圧降下によりケーブルサイズがアップする場合がある。電圧降下の検証は今後連携ツールとして開発予定。
三相4線式や単相3線式には対応している?
現在は「単相2線100V」「単相2線200V」「三相3線200V」の3パターンに対応。三相4線式(415V等)や単相3線式の中性線選定には今後対応予定。
まとめ
ブレーカー・電線サイズ一括選定ツールは、負荷リストから定格電流→ブレーカーAT→電線サイズ→電線管サイズを一括で選定する計算ツール。分電盤設計、制御盤配線、既設改修の容量確認など、電気設備の実務で繰り返し発生するルーチン作業を効率化する。
電線管の占有率をさらに詳しく検証したい場合は電線管サイズ判定シミュレーター、構造計算が必要な場面には鋼材断面のコンシェルジュも合わせてどうぞ。
不具合や要望があれば、X (@MahiroMemo)から気軽に教えてほしい。