ポンプを回したら「想定の半分しか流れない」事件
新設の冷却水ラインに中型遠心ポンプを据え付けて、いざ通水。手元の流量計を見たら、定格 50 m³/h のはずなのに 32 m³/h しか出ていない——。配管設計の現場では、わりとよく起きる事故だ。原因は決まって「ポンプ単体の H-Q 曲線だけ見て選定した」ことにある。
ポンプ本体の性能は、メーカー曲線通りなら問題なく出ている。だが実際の流量を決めるのは、ポンプ曲線と「系の抵抗曲線」が交わる運転点だ。配管の長さ・口径・継手の数で系曲線は急になり、運転点は曲線の左側、つまり低流量側に移動する。これを見落とすと、口径ひとつ細いだけで流量が半減する。
このツールは、ポンプの3点(シャットオフ揚程・定格点・最大流量)と系の抵抗(静揚程・損失係数 Kf)を入れるだけで、運転点 Q* と H*、軸動力、そしてインバーター周波数比を変えたときの運転点移動まで一括算出する。メーカー曲線をプリンタで出して定規を当てる作業を、スマホで完結させたかった。
なぜポンプ運転点シミュレーターを作ったのか
メーカー曲線の手計算は時間泥棒
ポンプ選定の基本フローは「全揚程を計算する → メーカーカタログを開く → H-Q 曲線にプロットして交点を読む」。地道だが、配管条件が変わるたびにグラフ用紙に系曲線を描き直す必要があり、検討案を3案も並べると半日が消える。インバーター運転を前提にすると、回転数比ごとに H-Q 曲線を縮尺し直さなければならず、さらに手間が増える。
設備設計の打ち合わせで「Kf を 0.005 から 0.008 に上げたら運転点はどう動く?」「インバーターを 80% に絞ったときの軸動力は?」と聞かれて、Excel を立ち上げて関数を組み直す——という時間ロスを何度も経験した。
こだわった設計判断
2次近似 H = A - B·Q² を採用 — ポンプ曲線は厳密には3次以上の多項式だが、シャットオフ点と定格点の間では2次でほぼ十分の精度が出る。最大流量 Qmax を「フィット誤差」として表示し、誤差15%を超えたらユーザーに警告する設計にした。
インバーター線4本同時描画 — f/f_r = 0.6, 0.8, 1.0, 1.2 の運転点を同時にプロットする。カタログ上で1本ずつ補間する作業は不要。相似則(A は回転比の2乗で縮尺、B は不変)を裏で自動適用している。
/pump-head-calc との連携 — 全揚程計算ツールで算出した Hs と Kf をワンタップで取込めるようにした。配管設計から運転点検討までを途切れずに繋げる。
ポンプ H-Q 曲線と系曲線とは何か
H-Q 曲線 とは
ポンプの吐出側に絞り弁を付け、徐々に閉じていったときに流量 Q と揚程 H がどう変化するかを描いた曲線が H-Q 曲線だ。横軸が流量、縦軸が揚程で、左上のシャットオフ点(Q=0, H=H0)から右下の最大流量点(H≈0, Q=Qmax)まで右肩下がりに伸びる。
遠心ポンプの場合、この曲線は物理的にほぼ放物線になる。インペラの回転で得られる理論揚程は流量に比例して下がる成分と、内部損失で流量の2乗に比例して下がる成分の合成だからだ。これを単純化して以下の2次式で表す。
H = A - B·Q²
A : シャットオフ揚程(流量ゼロでの揚程)= H0
B : 曲線の急峻さ(B = (H0 - Hr) / Qr²)
定格点 (Qr, Hr) を通すように B を決めれば、3点(H0, Qr/Hr, Qmax)のうち2点で曲線が確定し、3点目は近似誤差の確認に使える。
系曲線(管路抵抗曲線) とは
「水を流すために必要な揚程」を流量の関数として描いたのが系曲線だ。式はシンプルだ。
H_sys = Hs + Kf·Q²
Hs : 静揚程(流量ゼロでも必要な高さ+背圧)
Kf : 管路損失係数(直管摩擦+継手損失をまとめた値)
例えるなら、Hs は「最低でもこの坂は登る」高さ、Kf·Q² は「速く流すほど風の抵抗が増える」分。流量がゼロでも Hs だけのエネルギーが必要で、流量を増やすと2乗で抵抗が増えていく、右肩上がりの放物線になる。
運転点 とは
ポンプが供給できる揚程(H-Q 曲線)と、配管が要求する揚程(系曲線)が一致する点でしか定常運転は成立しない。この交点が運転点 (Q*, H*) だ。連立方程式を解くと:
A - B·Q² = Hs + Kf·Q²
Q* = sqrt((A - Hs) / (B + Kf))
H* = Hs + Kf·Q*²
ポンプ(Wikipedia)で基本構造を確認しておきたい。運転点が定格点 (Qr, Hr) の近くに来るようにポンプと配管をマッチングするのが、設計の腕の見せどころだ。
インバーター運転と相似則
回転数を変えると H-Q 曲線も移動する。相似則(アフィニティ則)によれば、回転比 f/f_r に対して流量は1乗、揚程は2乗、軸動力は3乗で縮尺する。ポンプ曲線の式に当てはめると、A は (f/f_r)² 倍、B は不変。系曲線の Hs と Kf はポンプ側の話ではないので変わらない。
運転点を外すとどんな実害が起きるか
流量不足と熱処理工程の停止
冷却水循環でポンプ運転点が定格の70%を割ると、下流の熱交換器で十分な熱交換ができず、プロセス温度が上昇する。射出成形機の冷却ラインで運転点を外して、金型温度が安定せず製品の寸法不良が連発した事例を見たことがある。原因は配管更新時にバルブを玉形弁に変えて Kf が想定の3倍になっていたことだった。
過流量によるキャビテーションと軸破損
逆に運転点が定格の115%を超える「右側運転」では、吸込側の圧力低下でキャビテーションが起きやすい。インペラ表面の侵食が進み、半年でメカニカルシールが破損する事故も珍しくない。さらに大流量域では軸スラスト荷重が増え、ベアリング寿命が半分以下になる。
過大選定によるエネルギー浪費
「とりあえず1ランク大きいポンプを」という選定は、エネルギーコストで跳ね返る。ポンプの軸動力は流量×揚程×密度に比例し、過大選定で運転点が右側に張り付くと年間電力量は想定の1.5倍になる。省エネ法(エネルギーの使用の合理化等に関する法律)では、ポンプを含む産業用モーターの効率規制が年々強化されており、過大選定は法令観点でも避けたい。
インバーター運転の落とし穴
VFD(可変周波数ドライブ)で省エネを狙う場合、相似則で流量は周波数比に比例して下がるが、必要揚程(Hs)は変わらない。f/f_r を0.7まで絞ると A は0.49倍に縮み、もし A_eff < Hs になればポンプは静揚程に届かず吐出ゼロになる。インバーター化提案で「省エネ40%」と言ったあとに「夜間運転で水が止まりました」は最悪のシナリオだ。
活躍する場面
新規ポンプの選定検討
メーカー曲線を見て口径とポンプ型式を絞る前段階で、想定する配管条件で運転点がどこに来るかを試算する。複数候補を並べて比較できる。
既設ポンプの更新検討
老朽化したポンプを更新するとき、現在の配管条件で必要な能力を逆算する。同等品でいいのか、ワンサイズ下げてもいいのかを定量化できる。
インバーター化の効果検証
定速運転からインバーター運転に切り替える前に、想定する周波数範囲(例: 0.6〜1.0)で運転点と軸動力がどう変わるかを試算する。A_eff < Hs で吐出が止まる下限周波数も事前に把握できる。
配管リニューアル前後の影響評価
配管口径を変える、バルブを交換する、配管ルートを延長する——こうした改修で Kf が変化したとき、運転点がどこに移動するかを事前に確認する。流量が定格の±15%以内に収まるかを評価できる。
基本の使い方
Step 1: ポンプ仕様を入力
「3点入力」を選び、メーカー曲線から読み取った H0(シャットオフ揚程)、定格点 (Qr, Hr)、最大流量 Qmax を入力する。プリセットからポンプ種類(小型渦流・中型遠心・大型遠心・水中・インライン)を選ぶ方法もある。
Step 2: 系の抵抗を入力
静揚程 Hs と管路損失係数 Kf を入力する。Kf の値が分からない場合は、/pump-head-calc で全揚程を計算してから「取込」ボタンで連携できる。
Step 3: 運転条件を入力
インバーター周波数比 f/f_r(定速運転なら 1.0)、ポンプ効率 η、流体密度 ρ を入力する。Q*・H*・軸動力・能力判定がリアルタイムで表示され、インバーター比4本(0.6/0.8/1.0/1.2)の運転点も同時にプロットされる。
具体的な使用例と検証データ
ケース1: 中型遠心ポンプ・標準条件(定速)
入力値:
- ポンプ:
H0=30m,Qr=50 m³/h @Hr=20m,Qmax=86 m³/h - 系:
Hs=10m,Kf=0.005 m/(m³/h)² - 運転:
f/f_r=1.0, η=60%, ρ=1000 kg/m³
計算結果:
- A=30, B=0.004
Q*=47.14 m³/h,H*=21.11 m- 軸動力 P=4.52 kW
- 能力判定: 適正(Q*/Qr = 0.94)
→ 解釈: 運転点が定格点(50 m³/h, 20m)のすぐ近くに来ており、ポンプは効率の良い領域で動いている。軸動力 4.5 kW なので 5.5 kW モーターで十分対応できる。理想的な選定例。
ケース2: 同条件でインバーター 80% 減速
入力値: ケース1の f/f_r を 0.8 に変更
計算結果:
- A_eff = 30 × 0.64 = 19.2
Q*=31.97 m³/h,H*=15.11 m- 能力判定: 能力不足(Q*/Qr = 0.64)
→ 解釈: 周波数を80%に絞っただけで運転点が大きく左下に移動し、流量が定格の64%まで落ちた。A_eff(19.2) が Hs(10) との差が小さくなり、利用可能な揚程が圧迫されたためだ。インバーター省エネを狙うなら 0.85〜1.0 の範囲に留めるのが現実的。
ケース3: 静揚程超過で吐出ゼロ(能力不足)
入力値:
- ポンプ:
H0=10m,Qr=30 m³/h @Hr=7m,Qmax=50 m³/h - 系:
Hs=15m(シャットオフ揚程より高い) - 運転:
f/f_r=1.0, η=55%
計算結果:
Q*=0 m³/h(A_eff=10 < Hs=15)- 能力判定: 能力不足
→ 解釈: ポンプのシャットオフ揚程10mに対して静揚程が15mあるため、ポンプは水を持ち上げられず吐出ゼロ。揚程の足りないポンプを選んだ典型的失敗例。最低でも H0 > Hs + 安全率 を満たすポンプを選ぶ必要がある。
ケース4: 水中ポンプで地下水4m揚水
入力値:
- ポンプ:
H0=12m,Qr=30 m³/h @Hr=8m,Qmax=50 m³/h - 系:
Hs=4m,Kf=0.003 m/(m³/h)² - 運転:
f/f_r=1.0, η=55%
計算結果:
- A=12, B=(12-8)/900=0.00444, totalK=0.00744
Q*=sqrt((12-4)/0.00744)=32.8 m³/hH*=4 + 0.003×32.8²=7.23 m- 能力判定: 適正(Q*/Qr = 1.09)
→ 解釈: 浅井戸からの揚水で、Hsが小さく系曲線がフラットなため運転点が定格付近に着地。水中ポンプは静揚程が小さい用途に向いており、本ケースはまさに適正運転の典型例。
ケース5: インライン循環ポンプ(静揚程ゼロの密閉系)
入力値:
- ポンプ:
H0=8m,Qr=20 m³/h @Hr=5m,Qmax=35 m³/h - 系:
Hs=0m(密閉ループ),Kf=0.008 m/(m³/h)² - 運転:
f/f_r=1.0, η=65%
計算結果:
- A=8, B=(8-5)/400=0.0075, totalK=0.0155
Q*=sqrt(8/0.0155)=22.7 m³/hH*=0.008×22.7²=4.12 m- 能力判定: 適正(Q*/Qr = 1.14)
→ 解釈: 冷温水循環など密閉ループでは Hs=0 になり、揚程はすべて配管摩擦で消費される。系曲線の急峻さ(Kf)だけが運転点を決めるシンプルなケース。Q*/Qr が1.14でギリギリ「適正」枠の上限、これ以上 Kf を下げると過流量側に振れる。
ケース6: 系抵抗増大後(バルブ追加・配管延長で Kf 上昇)
入力値: ケース1から Kf を 0.005 → 0.012 に変更(他は同じ)
計算結果:
- totalK = 0.004 + 0.012 = 0.016
Q*=sqrt((30-10)/0.016)=35.4 m³/hH*=10 + 0.012×35.4²=25.0 m- 能力判定: 能力不足(Q*/Qr = 0.71、ぎりぎり閾値)
→ 解釈: 配管延長や継手追加で Kf が2.4倍になると、運転点流量は 47.1 → 35.4 m³/h(25%減)まで落ちた。揚程は逆に 21.1 → 25.0 m に上がっている(系曲線が急になり交点が左上に移動)。同じポンプでも配管が変われば運転点が大きく動く好例で、改修工事前にこのシミュレーションをするのが本ツールの想定用途だ。
仕組み・アルゴリズム
候補手法の比較: 2次近似 vs 3次以上 vs 数表補間
ポンプ曲線をデジタルで扱う方法は3つある。
| 手法 | 入力点数 | 精度 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2次近似 H=A-B·Q² | 2点 | 定格点付近で±5%以内 | 計算が単純、相似則も適用しやすい |
| 3次以上の多項式 | 4点以上 | ±2%以内 | 過適合リスク、両端の振動 |
| 数表線形補間 | 5〜10点 | データ点間で直線化 | 微分不連続、相似則の縮尺が複雑 |
本ツールは2次近似を採用した。理由は3つ。(1) ユーザー入力が3点で済み、メーカー曲線の主要点だけ読めばいい。(2) 相似則を A 係数の (f/f_r)² 倍だけで実装できる。(3) 運転点は H-Q 曲線の中央付近に来ることが多く、2次近似の誤差が最小になる領域で計算できる。
2次フィットの導出
2点 (0, H0) と (Qr, Hr) を通す H = A - B·Q² を求める。
H0 = A - B·0² = A → A = H0
Hr = A - B·Qr² → B = (A - Hr) / Qr² = (H0 - Hr) / Qr²
3点目の最大流量 Qmax は H≈0 になるはずなので、フィット誤差は:
Qmax_fit = sqrt(A / B)
fitError = |Qmax - Qmax_fit| / Qmax
このフィット誤差が15%を超える場合、メーカー曲線の読み取り精度が低いか、曲線の形状が2次から大きくずれている可能性がある。本ツールでは黄色バッジで警告する。
運転点の幾何学的意味
ポンプ曲線 H = A - B·Q² と系曲線 H_sys = Hs + Kf·Q² を等値:
A - B·Q² = Hs + Kf·Q²
A - Hs = (B + Kf)·Q²
Q* = sqrt((A - Hs) / (B + Kf))
H* = Hs + Kf·Q*²
A < Hs(シャットオフ揚程が静揚程に届かない)ならば右辺がマイナスになり、解なし。これは「ポンプは水を持ち上げられない」状態で、Q*=0 とする。
相似則(アフィニティ則)の適用
回転比 f/f_r = r のとき、ポンプ曲線は次のように縮尺する:
A → A_eff = A · r² (シャットオフ揚程は2乗)
B → B(不変) (曲線形状は相似)
Qr → Qr_eff = Qr · r (定格流量は1乗)
系曲線の Hs と Kf は配管側の特性なので変わらない。インバーター運転点は:
Q* = sqrt((A·r² - Hs) / (B + Kf))
軸動力の計算
運転点で必要な軸動力は、流体仕事率をポンプ効率で割ったもの:
P [W] = ρ × g × (Q*/3600) × H* / η
ρ : 流体密度 [kg/m³](水なら1000)
g : 重力加速度 9.81 [m/s²]
Q*: 運転点流量 [m³/h] → /3600 で [m³/s] に変換
H*: 運転点揚程 [m]
η : ポンプ効率 [小数]
ケース1で検算してみる:
P = 1000 × 9.81 × (47.14/3600) × 21.11 / 0.60
= 1000 × 9.81 × 0.01310 × 21.11 / 0.60
= 4520 W ≈ 4.52 kW
検算結果が一致した。モーター容量は1ランク上の5.5 kW を選定するのが実務的だ。
能力判定のしきい値
定格点との比 Q*/Qr で3段階に分類している。
| 比 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| < 0.7 | 能力不足 | 効率低下、低流量域での軸スラスト不安定 |
| 0.7〜1.15 | 適正 | ベスト効率点(BEP)周辺 |
| > 1.15 | オーバー | キャビテーション、軸動力過大、効率低下 |
このしきい値はANSI/HI 9.6.3 Pump Operating Region 規格で示される「許容運転域(POR)」の典型値に基づいている。重要ポンプでは0.85〜1.10のさらに狭い「優先運転域(PPOR)」を狙うのが望ましい。
メーカー曲線スキャンや汎用CAEとの違い
H-Q曲線と系曲線を1枚に重ね描き
メーカー配布のExcelやPDFカタログでは、ポンプのH-Q曲線は載っていても、自分の現場の系抵抗曲線を重ねた図はほぼ存在しない。本ツールは入力と同時に2本のグラフを同じ座標系に描き、交点(運転点)を赤丸で示す。「カタログのこの数値で本当に必要流量が出るか」を視覚で確認できる。
インバーター比4本を同時プロット
汎用のポンプ選定ソフトでは、回転数を変えるたびに再計算→再描画が必要なものが多い。本ツールは f/f_r = 0.6 / 0.8 / 1.0 / 1.2 の4本を常時破線で表示する。インバーター減速時に運転点がどう滑るか、流量が足りなくなる周波数の境目はどこか、を一目で把握できる。
pump-head-calc・pipe-flow-calc との連携
「Kf係数 0.005 ってどう決めるの?」という疑問に応えるため、/pipe-flow-calc で計算した管路損失曲線から Kf を推定する手順を Tips に明記した。さらに /pump-head-calc の計算結果(実揚程・管路損失)を取り込みボタンから読み込める。3ツールを組み合わせれば、配管設計→揚程算定→運転点シミュレーションが1本のラインでつながる。
高価な選定支援ソフトを使わずに済む
メーカーの選定支援ソフトは高機能だが、ライセンス費用や対応OS、Webアクセス制限など導入ハードルが高い。本ツールは無料・ブラウザ完結・スマホ対応で、現場の打ち合わせ中に概算の運転点を即出せる。一次選定はこれで済ませ、最終確認だけメーカーソフトに任せる、という使い分けがおすすめだ。
ポンプにまつわる読み物
相似則(アフィニティ則)の発見と省エネ革命
ポンプの相似則は、流量が回転数に比例し(Q ∝ N)、揚程が回転数の2乗(H ∝ N²)、軸動力が回転数の3乗(P ∝ N³)に比例する、という法則だ。19世紀末にレイノルズらが流体力学の相似性を体系化した時代に確立された。
この「動力が回転数の3乗」という性質が、現代のインバーター省エネの根拠になっている。回転数を80%に落とせば動力は0.8³=0.512、つまり約半分。空調・給水・冷却水ポンプにインバーターを導入するだけで、年間電気代が30〜50%削減される事例も珍しくない。法則を体系化した先人たちが、100年以上のちの省エネ革命を生んだといえる。アフィニティ則(Wikipedia)で歴史的経緯を確認できる。
ベストエフィシェンシーポイント(BEP)と寿命
ポンプの効率はH-Q曲線上の1点で最大になり、これを BEP(Best Efficiency Point)と呼ぶ。BEP より右(過流量側)で運転すると、軸スラストが増大しベアリング寿命が縮む。BEP より左(過小流量側)では、内部循環による発熱と振動でメカニカルシールが劣化する。
経験則として、BEP の±10%以内(広くても±25%)で運転するのが望ましいとされる。本ツールの「能力判定」ロジック(70%未満→能力不足、115%超→オーバー)は、この BEP 周辺ゾーンを外していないかの一次スクリーニングだ。本格選定ではメーカーの効率曲線も照らし合わせてほしい。
サージング現象——ポンプが吠える瞬間
低流量域で運転を続けると、流体がポンプ内を行きつ戻りつする「サージング」が発生することがある。配管が周期的に揺さぶられ、「ドン、ドン」という低周波の打撃音が建屋に響く。原因はH-Q曲線の左肩にある不安定領域に運転点が入ってしまうこと。インバーター減速で流量を絞りすぎたときに起きやすい。本ツールで f/f_r を変えたときの運転点が、定格 Qr の50%を切るような場合は要注意ゾーンと考えるといい。
運転点の精度を上げるTips
メーカー曲線は3点を慎重に拾う
3点入力の精度はカタロググラフの読み取り精度で決まる。H₀(シャットオフ揚程:Q=0 の縦軸切片)、Qr/Hr(定格点:効率最大付近)、Qmax(H≈0 となる最大流量)の3点を、定規を当てて0.5m刻みで読むだけでフィット誤差は5%以内に収まる。誤差が15%を超えたら警告が出るので、その時はもう一度カタログを見直してほしい。
Kf 係数は pipe-flow-calc から逆算する
「管路損失係数 Kf って何?」と戸惑う人が多い。Kf は系曲線 H = Hs + Kf·Q² の2次項係数で、ある流量での管路損失 hf が分かれば Kf = hf / Q² で求まる。/pipe-flow-calc で定格流量時の損失を計算し、Q²で割ればよい。例: Q=50 m³/h で hf=12.5 m なら Kf = 12.5/2500 = 0.005。
BEP 付近を狙うサイズ選定
運転点が「適正」と判定されても、Qr に近いほど効率が良い。Q*/Qr が0.9〜1.05 のレンジに入るようなポンプ・口径の組み合わせを選ぶと、長期的な電気代と寿命の両方で得をする。本ツールでサイズ候補を3つほど並列比較してみるといい。
並列・直列運転の試算
2台並列なら同じ運転点で流量2倍(系曲線が許す範囲で)、2台直列なら同じ流量で揚程2倍。ツールでは1台分の係数 A・B を入力するが、並列なら B を1/4 に、直列なら A を2倍にすれば概算が出せる。本格設計はメーカー協議が必要だが、スクリーニングには十分使える。
インバーター下限は 0.5 が目安
f/f_r が0.5 未満になると、回転数が低下しすぎてベアリング潤滑(油膜形成)やモーター冷却(自冷ファン能力)に問題が出やすい。本ツールも0.5 未満で警告を出す。連続運転で0.5 を割るならインバーター対応モーター(強制冷却ファン付き)を選ぶか、台数制御に切り替えるべきだ。
よくある質問
Q: 2次近似 H = A - B·Q² で本当に十分なのか
遠心ポンプの実曲線は、定格点付近では2次曲線で良く近似できる。BEP の±30%程度なら誤差5%以内に収まることが多い。一方で、シャットオフ近辺の不安定領域や、最大流量を超える領域では実曲線が複雑な形状になり、2次近似は外れる。本ツールは「定格点周辺で運転する一次選定」を想定しており、運転点が Qmax を超える場合は警告を出す。重要案件では必ずメーカー曲線で再確認してほしい。
Q: ポンプ効率 η は固定値で良いの?実際は流量で変化するはず
その通りで、実際の効率はBEP で最大、両端で低下する山型の曲線だ。本ツールでは効率を入力値(固定)として扱い、軸動力の概算に使う。これは「運転点が BEP 付近にあれば効率はほぼ一定とみなしてよい」という工学的近似による。Q*/Qr が0.7〜1.15 の「適正」レンジに収まっていれば、入力した η での誤差は10%以内に収まることが多い。BEP から大きく外れる場合は、メーカー曲線の効率値を読み取り直して再入力するといい。
Q: 運転点が分かってもキャビテーションが起きないかは別問題なのか
その通り。運転点(流量・揚程)が適正でも、吸込側の有効NPSH(NPSHa)がポンプの必要NPSH(NPSHr)を下回ればキャビテーションが起きる。特に Hs が大きい吸い上げ運転、温水の搬送、低圧ライン接続では要注意だ。本ツールで運転点を確定したあと、必ず /npsh-checker で NPSHa ≥ NPSHr + 0.5m 以上の余裕があるかを確認してほしい。
Q: インバーター運転で本当に省エネになる根拠は
相似則により、回転数を r 倍にすると流量も r 倍、揚程は r² 倍、軸動力は r³ 倍になる(同じ系曲線上で運転する場合)。例えば f/f_r=0.8 にすれば、軸動力は 0.8³ = 0.512、つまり約半分の電力で済む。流量を絞り弁で半減させるとポンプ自体の動力はほぼ変わらないため、電気代は変わらないが、インバーター減速なら半減できる。これがインバーター省エネの数学的根拠だ。本ツールでも f/f_r を変えると軸動力 P が大きく変動することを確認できる。
Q: 並列運転や直列運転にも対応できるか
現バージョンは1台運転を前提にしている。並列運転(同型2台)の概算なら、入力する Kf を1/4 に変更(同じ流量を2台で分担すると損失曲線の見え方が変わるため)、または出力された Q* を2倍する、といった手計算で対応できる。直列運転(同型2台)なら H₀ を2倍に変えればよい。厳密な並列・直列の運転点シミュレーションは、メーカーの選定支援ソフトを併用してほしい。
Q: フィット誤差はなぜ表示されるのか
3点入力では H₀・Qr/Hr の3つの値から係数 A・B を決定する。一方で Qmax は別途入力する値で、A・B から計算される理論上の Qmax_fit = √(A/B) と入力値が一致するとは限らない。両者の乖離率が「フィット誤差」だ。誤差15%以下なら2次近似が妥当と判断できる。15%を超える場合は、(a) メーカー曲線の読み取り誤り、(b) 多段ポンプなど2次近似が苦手な特性、のいずれかを疑い、3点を再確認してほしい。
まとめ
ポンプ選定の核心は、カタログの定格点ではなく「自分の系曲線とポンプ曲線の交点=運転点」で評価すること。本ツールはH-Q曲線と系曲線を重ねて運転点を即可視化し、インバーター減速時の挙動まで4本の破線で示す。
配管側の損失計算は/pipe-flow-calc、必要揚程の積み上げは/pump-head-calc、運転点が決まったら吸込側の余裕は/npsh-checkerで確認——この4本立てで配管設計の一次検討は完結する。
不具合や要望があれば、お問い合わせページから気軽に教えて。
Mahiro
Mahiro Appの開発者。ポンプ選定で流量が定格の64%しか出ず、インバーター減速の読み違えを痛感したことから、運転点とインバーター4本同時描画を一画面で完結させる本ツールに結実させた。
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