NPSH余裕度チェッカー

ポンプ吸込配管のNPSHa(有効吸込ヘッド)を算出し、キャビテーション防止の余裕度を判定

ポンプ吸込配管のNPSHa(有効吸込ヘッド)を算出し、NPSHrとの比率でキャビテーション防止の余裕度を判定。水・メタノール等6流体の蒸気圧を自動補間。

流体条件

吸込条件

標高が高い場合は低下する

吸い上げ=正、押し込み=負

配管・弁・継手の損失水頭合計

v²/2g(通常0.1〜0.5m)

ポンプ条件

ポンプメーカーのカタログ値

計算結果

NPSHa / NPSHr1.80NPSHa 5.39 m ÷ NPSHr 3.00 m
安全

NPSHa(有効吸込ヘッド)

5.39 m

NPSHr(必要NPSH)

3.00 m

有効大気圧水頭 (Pa-Pv)/ρg

10.09 m

蒸気圧(補間値)

2.338 kPa

吸込実揚程 hs

3.00 m

摩擦損失 hf

1.50 m

速度水頭 hv

0.20 m

NPSHa = (Pa−Pv)/(ρg) − hs − hf − hv = 10.093.001.500.20 = 5.39 m

本ツールの計算結果は参考値です。実際のポンプ選定・配管設計には、ポンプメーカーのカタログ・技術資料を参照し、専門家の判断を仰いでください。

不具合・ご要望はお気軽に@MahiroMemoまで

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ポンプが悲鳴を上げる前に ― 吸込側の「見えない圧力」を数値で捉える

プラントや工場でポンプを回していると、ある日突然ガラガラという異音が響く。振動が増え、吐出圧が安定しない。分解してみるとインペラの羽根がボロボロに壊食されている――これがキャビテーションの典型的な末路だ。

原因はほぼ一つ。吸込側の圧力が液体の蒸気圧を下回り、配管内で気泡が生まれること。つまり NPSH(有効吸込ヘッド)の不足 だ。この数値を設計段階で正しく見積もっておけば、トラブルの大半は未然に防げる。

ところが実務ではどうか。蒸気圧テーブルを引き、温度で補間し、配管損失を足し引きして――とExcelで手計算するたびに、転記ミスや単位換算の罠が待ち構えている。「NPSH余裕度チェッカー」は、その面倒な工程をワンステップに圧縮するために作った。

蒸気圧テーブルを引く手間をゼロにしたかった

NPSHの計算自体は難しくない。公式は教科書にも載っているし、Excelで組むのも造作ない。しかし 実務で厄介なのは計算そのものではなく、入力データの準備 だ。

まず蒸気圧。水ならまだしも、メタノールやトルエンになると温度ごとの蒸気圧データを手元に持っていない人も多い。化学便覧を引いたり、安全データシート(SDS)を漁ったりして、該当温度の値を線形補間する。ここで補間計算を間違えたり、kPaとmmHgを取り違えたりする事故が起きる。

次に吸込高さの符号。吸い上げと押し込みで正負が反転するが、どちらが正かを毎回確認する手間がある。間違えるとNPSHaが実際の2倍にも半分にもなり得る。

既存のオンラインツールを探しても、水専用だったり、入力欄が多すぎて逆に混乱したり、結果の判定基準(1.3倍ルール)を示してくれなかったりと、帯に短し襷に長しだった。

だから作った。流体をプルダウンで選べば蒸気圧は自動補間。吸込条件を入れればNPSHaが即算出され、NPSHrとの比率で余裕度を色分け判定する。プラントの検討打合せでタブレットを開いてサッと確認できる、そういうツールが欲しかった。

NPSH(有効吸込ヘッド)とは何か

ポンプ吸込側の「余裕圧力」を長さで表す

NPSH(Net Positive Suction Head)は、ポンプの吸込口における液体の圧力が蒸気圧をどれだけ上回っているかを「水頭(m)」で表した指標だ。

日常のたとえで言えば、ストローでジュースを吸う場面を思い浮かべてほしい。ストローの中を口で吸うと、大気圧がコップの液面を押し下げて液体が上がってくる。しかしストローがどんどん長くなると、ある長さで液体が途切れる。液体内部の圧力が蒸気圧を下回り、沸騰(気化)が始まるからだ。ポンプの吸込側で起きているのは、まさにこの現象のスケールアップ版。

NPSHa と NPSHr ― 「ある」と「いる」

NPSHには2つの値がある。

  • NPSHa(available): 配管系の条件から決まる「実際に確保できている余裕ヘッド」。設計者が計算で求める
  • NPSHr(required): ポンプ側が「最低限これだけは欲しい」と要求するヘッド。メーカーがカタログで公表する

キャビテーションを防ぐ条件はシンプル。NPSHa > NPSHr であること。実務上は過渡変動(液面低下、温度上昇、配管の経年劣化)を考慮して NPSHa >= 1.3 x NPSHr を安全基準とするのが一般的だ。

NPSHaの計算式

NPSHaは次の式で求める。

NPSHa = (Pa - Pv) / (rho x g) - hs - hf - hv

記号意味単位
Pa液面にかかる圧力(通常は大気圧)kPa
Pv液温における蒸気圧kPa
rho液体の密度kg/m3
g重力加速度(9.80665)m/s2
hs吸込実揚程(吸い上げ=正、押し込み=負)m
hf吸込配管の摩擦損失水頭m
hv吸込口の速度水頭 v2/2gm

第1項 (Pa - Pv) / (rho x g) は「大気圧と蒸気圧の差を水頭に換算したもの」で、これがNPSHaの基本的な原資になる。ここから吸込高さ・配管損失・速度水頭を差し引いた残りが、ポンプ入口で実際に使える余裕圧力だ。

水の場合、20度ならPv = 2.338 kPaなので第1項は約10.09 m。しかし80度ではPv = 47.36 kPaに跳ね上がり、第1項はわずか5.50 mまで減る。高温液の移送でNPSH問題が頻発するのはこのためだ。

参考: JIS B 8301 遠心ポンプ・斜流ポンプ及び軸流ポンプ-試験方法

なぜNPSH計算が設備の寿命を左右するのか

キャビテーション損傷は「静かに」進行する

キャビテーションが厄介なのは、軽度のうちは目立った症状が出ないことだ。わずかな気泡の発生と崩壊はポンプの性能低下として現れるが、振動や異音が明確になる頃にはインペラ表面の壊食がかなり進行している。壊食が進めばポンプの交換や分解整備が必要になり、プラントの計画外停止(非定常停止)につながる。化学プラントで1日の計画外停止が発生すると、数百万円から数千万円の損失になるケースも珍しくない。

設計基準が求めるNPSH余裕

JIS B 8301:2000では、ポンプの3%NPSH(揚程が3%低下するNPSH)を試験で確認することが規定されている。この値がカタログに記載されるNPSHrの基礎になる。

しかしカタログ値は「キャビテーションが始まる限界」であって、「安全に運転できる値」ではない。実際の運転ではポンプの経年劣化、液温の変動、液面レベルの変化など不確定要素が重なる。だから実務では NPSHa / NPSHr >= 1.3 という安全率を確保するのが標準的な設計慣行になっている。プロセス変動が大きいケース(バッチ運転、高温液)では1.5以上を推奨するメーカーもある。

高温液と高地 ― NPSHaが削られる2大要因

NPSHaを削る最大の要因は 液温の上昇(蒸気圧の増大)と 設置標高(大気圧の低下)だ。水を例にとると、20度では蒸気圧2.3 kPaに対し、80度では47.4 kPa。大気圧水頭は10.09 mから5.50 mへ半減する。標高1,500 mの高地では大気圧が約85 kPaに低下し、水頭がさらに1.5 m以上削られる。これらが複合すると、地上・常温なら問題ないポンプが突然キャビテーションを起こすことになる。

NPSHチェッカーが活躍する3つの場面

1. プラント新設・増設の配管設計

新しいポンプを選定するとき、カタログからNPSHrを読み取ったらすぐに配管側のNPSHaと突き合わせる必要がある。流体の種類と温度、タンク液面からポンプまでの高さ、配管損失を入力すれば、その場で余裕度が判定できる。「この配管ルートだとギリギリだから、もう少し配管径を太くしよう」といった判断が打合せの場で即座にできる。

2. 既設ポンプの運転条件変更

プラントの生産増強や品種変更で、既設ポンプの運転温度や流量が変わることがある。「液温を60度から80度に上げたいが、今のポンプで大丈夫か?」という問いに対して、蒸気圧の変化を反映したNPSHaを算出し、既存のNPSHrと比較すれば即座に回答できる。

3. トラブルシューティング

現場でポンプの異音や振動が発生したとき、まずキャビテーションを疑うのが定石だ。実際の運転条件(液温、液面レベル、配管損失の推定値)を入力して、NPSHaがNPSHrを下回っていないかを検証する。原因の切り分けにかかる時間を大幅に短縮できる。

3ステップで余裕度を判定

ステップ1: 流体を選択

プルダウンから流体の種類(水・メタノール・エタノール・アセトン・トルエンなど)を選び、液温を入力する。蒸気圧は内蔵テーブルから自動で線形補間される。プリセットにない流体は「カスタム」を選んで密度と蒸気圧を直接入力すればよい。

ステップ2: 吸込条件を入力

大気圧(標高が高い場合は補正値)、吸込実揚程(吸い上げなら正、押し込みなら負)、吸込配管の摩擦損失、速度水頭の4項目を入力する。摩擦損失は配管計算ツールや設計図面から読み取った値をそのまま入れればよい。

ステップ3: 判定を確認

NPSHa、NPSHa/NPSHr比率、安全性の判定が即座に表示される。比率1.3以上なら緑(安全)、1.0〜1.3は黄(余裕不足)、1.0未満は赤(キャビテーション危険)。不足している場合は改善の方向性も示される。

6つの具体的な使用例で理解する NPSH計算

ケース1: 常温水・標準的な吸い上げ条件

冷却水ポンプで20度の水を3m吸い上げる、最も基本的なケース。

項目
流体水 20℃
大気圧101.325 kPa
蒸気圧(自動補間)2.338 kPa
吸込実揚程 hs3.0 m
摩擦損失 hf1.5 m
速度水頭 hv0.2 m
NPSHr3.0 m

結果: 大気圧水頭 = 10.09 m、NPSHa = 5.39 m、NPSHa/NPSHr = 1.80

判定は「安全」。1.3倍基準をクリアしており、通常運転で問題ない。ただし夏場に液温が上昇する環境では、温度変化を見込んだ再確認が望ましい。

ケース2: 高温水80℃ ― キャビテーション危険域

ボイラー給水ポンプや温水循環ポンプで頻出する高温水の吸い上げケース。

項目
流体水 80℃
大気圧101.325 kPa
蒸気圧(自動補間)47.36 kPa
吸込実揚程 hs2.0 m
摩擦損失 hf1.0 m
速度水頭 hv0.15 m
NPSHr3.5 m

結果: 大気圧水頭 = 5.50 m、NPSHa = 2.35 m、NPSHa/NPSHr = 0.67

判定は「キャビテーション危険」。NPSHaがNPSHrを大きく下回っている。80度の水は蒸気圧が47.36 kPaと高く、大気圧水頭がわずか5.50 mしか確保できないことが原因だ。対策としては、タンクを上方に配置して押し込みヘッドにする(hsを負にする)か、吸込配管を太くして摩擦損失を低減する必要がある。

ケース3: メタノール30℃・押し込みヘッド

化学プラントでのメタノール移送。タンクをポンプより1m高い位置に設置(押し込みヘッド)したケース。

項目
流体メタノール 30℃(密度 791 kg/m3)
大気圧101.325 kPa
蒸気圧(自動補間)21.7 kPa
吸込実揚程 hs-1.0 m(押し込み)
摩擦損失 hf0.8 m
速度水頭 hv0.1 m
NPSHr2.5 m

結果: 大気圧水頭 = 10.26 m、NPSHa = 10.36 m、NPSHa/NPSHr = 4.14

判定は「十分な余裕」。押し込みヘッド(hs が負)の効果でNPSHaが大幅に増える。メタノールは水より密度が低い(791 kg/m3)ため大気圧水頭が水より大きくなる点も有利に働いている。

ケース4: 高地設置(標高1,500m)の冷却水ポンプ

山間部のプラントや高地の工場でポンプを使う場合、大気圧が低下する影響を無視できない。

項目
流体水 25℃
大気圧85.0 kPa(標高約1,500m相当)
蒸気圧(自動補間)3.29 kPa
吸込実揚程 hs2.0 m
摩擦損失 hf1.2 m
速度水頭 hv0.15 m
NPSHr3.0 m

結果: 大気圧水頭 = 8.33 m、NPSHa = 4.98 m、NPSHa/NPSHr = 1.66

判定は「安全」だが、海面レベル(101.325 kPa)で同じ条件なら大気圧水頭は9.99 mとなりNPSHa = 6.64 m。高地設置により NPSHa が約1.7 m削られていることがわかる。大気圧の低下はポンプ選定で見落としやすいポイントだ。

ケース5: アセトン20℃の移送

アセトンは常温でも蒸気圧が24.6 kPaと高い溶剤。密度も790 kg/m3と軽い。

項目
流体アセトン 20℃(密度 790 kg/m3)
大気圧101.325 kPa
蒸気圧24.6 kPa
吸込実揚程 hs1.5 m
摩擦損失 hf0.5 m
速度水頭 hv0.1 m
NPSHr2.0 m

結果: 大気圧水頭 = 9.90 m、NPSHa = 7.80 m、NPSHa/NPSHr = 3.90

判定は「十分な余裕」。アセトンは蒸気圧が高いものの密度が低いため、大気圧水頭の減少幅が水ほど大きくならない。ただし40度では蒸気圧が55.9 kPaまで上がるため、夏場の屋外配管では温度管理に注意が必要だ。

ケース6: トルエン60℃ ― 大口径ポンプでのギリギリNG

石油化学プラントでトルエンを60度で移送するケース。大口径ポンプでNPSHrが大きい場合を想定。

項目
流体トルエン 60℃(密度 867 kg/m3)
大気圧101.325 kPa
蒸気圧24.9 kPa
吸込実揚程 hs4.0 m
摩擦損失 hf2.0 m
速度水頭 hv0.3 m
NPSHr4.0 m

結果: 大気圧水頭 = 8.99 m、NPSHa = 2.69 m、NPSHa/NPSHr = 0.67

判定は「キャビテーション危険」。吸い上げ高さ4 mと摩擦損失2 mの合計6 mが大きく、大気圧水頭8.99 mの大部分を食いつぶしている。吸込配管を短縮してhsを下げるか、タンク液面をポンプに近づける配置変更が必要だ。

仕組みとアルゴリズム ― ベルヌーイの定理から蒸気圧補間まで

なぜベルヌーイの定理を使うのか

NPSHaの算出にはいくつかのアプローチがある。

  1. ベルヌーイの定理(エネルギー保存則)による直接計算 ― タンク液面からポンプ吸込口までのエネルギーバランスから導出。最も基本的で教科書に載っている手法
  2. CFD(数値流体力学)シミュレーション ― 配管内の圧力分布を3次元で解析。高精度だが計算コストが大きく、日常の設計判定には不向き
  3. 実測値ベースの経験式 ― 特定のポンプ・配管構成で実測した相関式。汎用性に欠ける

本ツールは手法1を採用した。手法2はシミュレーションソフトと計算時間が必要で、ブラウザ上の即時計算には適さない。手法3は限定的な条件でしか使えない。ベルヌーイの定理は物理的に正確で、かつ入力パラメータが明確なため、幅広い条件に適用できる。

蒸気圧の線形補間

蒸気圧は温度に対して指数関数的に変化するため、厳密にはAntoine式(3定数の経験式)で表現される。

Antoine式: log10(P) = A - B / (C + T)

しかしAntoine式は流体ごとに定数A, B, Cが異なり、温度範囲によっては精度が低下する問題がある。本ツールでは実測データに基づく温度-蒸気圧テーブルを内蔵し、隣接する2点間を線形補間する方式を採用した。

Pv = P_low + (T - T_low) / (T_high - T_low) x (P_high - P_low)

テーブルのデータ間隔が10度刻みであれば、線形補間の誤差は実用上無視できるレベル(Antoine式との差は通常1%以内)に収まる。テーブル範囲外の温度が入力された場合は外挿せず、最寄りの端点値を使用して警告を表示する。

計算例:ステップバイステップ

ケース1(水20℃、吸い上げ3m)の計算を手順で追う。

Step 1: 蒸気圧テーブルから20℃の値を取得。20℃はテーブルの格子点なのでそのまま Pv = 2.338 kPa。

Step 2: 大気圧水頭を計算。

atmosphericHead = (Pa - Pv) x 1000 / (rho x g) = (101.325 - 2.338) x 1000 / (1000 x 9.80665) = 98987 / 9806.65 = 10.09 m

Step 3: NPSHaを算出。

NPSHa = atmosphericHead - hs - hf - hv = 10.09 - 3.0 - 1.5 - 0.2 = 5.39 m

Step 4: 余裕度を判定。

ratio = NPSHa / NPSHr = 5.39 / 3.0 = 1.80

1.80 >= 1.3 なので「安全」判定。NPSHaにはNPSHrの80%分の余裕がある。

判定基準

NPSHa / NPSHr判定意味
2.0以上十分な余裕過渡変動があっても安心
1.3〜2.0安全標準的な設計基準をクリア
1.0〜1.3余裕不足過渡変動でキャビテーションの可能性
1.0未満キャビテーション危険定常状態でも気泡が発生する条件

安全率1.3は一般的な設計慣行に基づく値だ。プロセス変動が大きい系(バッチ運転、大きな液面変動)では1.5以上を推奨するケースもある。

メーカーExcelや手計算とどこが違うのか

NPSH計算そのものは単純な引き算だ。にもかかわらず、実務では意外と手間がかかる。その原因は「蒸気圧の取得」と「条件変更時の再計算」にある。

メーカー配布Excelシート — ポンプメーカーが選定資料として配布するExcelは、そのメーカーの機種に最適化されている。NPSHrがシート内にハードコードされていて、他社ポンプとの比較には向かない。また、流体が水以外(メタノール、アセトン等)になると蒸気圧テーブルが入っていないケースも多い。

教科書的な手計算 — 蒸気圧を蒸気表やAntoine式で求め、電卓で足し引きする方法。1条件なら問題ないが、「液温を50℃→60℃→70℃と変えたらどうなる?」というパラメトリック検討には不向きだ。温度を変えるたびに蒸気圧を引き直す手間が発生する。

このツールの強みは3点に集約される。

  1. 蒸気圧の自動補間 — 水・メタノール・エタノール・アセトン・トルエン・アンモニア水溶液の6流体をプリセットで搭載。液温を変えるだけで蒸気圧が線形補間で即座に反映される
  2. リアルタイム再計算 — 入力値を変更した瞬間に結果が更新される。吸込高さを1m刻みで変えたときの余裕度変化を、体感的に把握できる
  3. 安全率1.3倍の自動判定 — JIS B 8301の推奨に基づくNPSHa/NPSHr比をStatusCardで色分け表示。数値を眺めて「これ大丈夫かな」と悩む時間がゼロになる

要するに、計算の正確さは手計算と同じだが、条件変更のスピードと判定の明確さが段違いということだ。

キャビテーションにまつわる豆知識

あの「ジャリジャリ音」の正体

ポンプから砂利を吸い込んだような異音が聞こえたら、それはキャビテーションのサインだ。液体中に生じた気泡が高圧領域で一気に崩壊するとき、局所的に数百MPaもの衝撃圧が発生する。この衝撃波がインペラ表面を叩き続けると、金属表面に蜂の巣状の壊食(エロージョン)が進行する。ステンレス鋼でも数ヶ月で穴が開くことがある。

船舶プロペラとキャビテーション

キャビテーションはポンプだけの問題ではない。船舶のスクリュープロペラでも深刻な課題だ。プロペラの翼端付近では流速が極端に高くなり、圧力が蒸気圧を下回って気泡が発生する。これにより推進効率の低下、振動・騒音の増大、プロペラ表面の壊食が起きる。特に潜水艦では、キャビテーション音が敵のソナーに探知されるリスクがあるため、キャビテーション回避は軍事的にも重要な技術だ。

宇宙でもNPSHは必要

ロケットエンジンのターボポンプは、極低温の液体水素や液体酸素を毎秒数百リットル送り込む。重力が小さい環境では液面からの押し込みヘッドが稼げないため、メインポンプの上流に低速の「インデューサ」と呼ばれる予圧ポンプを置いてNPSHaを確保する設計が一般的だ。NASAのSpace Shuttle Main Engineでもこの構造が採用されていた。

蒸気圧は指数的に上がる

水の蒸気圧は20℃で約2.3 kPa、60℃で約19.9 kPa、100℃で101.3 kPa。温度が上がると指数関数的に蒸気圧が急上昇する。これがNPSHa計算で液温の影響が大きい理由だ。「たかが10℃上がっただけ」と油断すると、NPSHaが数メートル単位で減ることがある。

NPSH計算で押さえたい5つのTips

  1. NPSHr曲線は流量によって変わる — メーカーカタログのNPSHr値は定格流量での値。流量が増えるとNPSHrも上昇するため、最大流量での値で余裕度を確認するのが安全だ

  2. 安全率は1.3倍が最低ライン — JIS B 8301ではNPSHa ≥ 1.3 × NPSHrを推奨している。高温液や変動の大きいプロセスでは1.5〜2.0倍を確保する設計者も多い

  3. 高温液は「押し込みヘッド」が基本 — 液温が60℃を超えるあたりから蒸気圧が急激に上がる。吸い上げ配管ではNPSHaが確保できなくなるため、タンクをポンプより高い位置に置く「押し込みヘッド」配置を検討しよう

  4. 標高が高い現場は大気圧補正を忘れずに — 標高1,000mで大気圧は約89.9 kPa(海面比 -11.4 kPa)。NPSHaにして約1.2m分の低下になる。高地のプラントでは地味に効いてくる

  5. 吸込配管はできるだけ短く・太く — 摩擦損失hfを減らすのがNPSHa確保の王道。エルボや弁の数を最小限にし、配管径を1サイズ上げるだけでhfが大幅に減る。特にストレーナは損失が大きいので、目詰まり時の損失も考慮すること

よくある質問

NPSHaとNPSHrの違いは何?

NPSHa(Available NPSH)は配管系の条件から決まる「ポンプが受け取れる有効吸込ヘッド」。大気圧・液温・吸込高さ・配管損失で算出される。一方、NPSHr(Required NPSH)はポンプ固有の値で、「キャビテーションを起こさないために最低限必要な吸込ヘッド」。メーカーがポンプごとにカタログに記載している。NPSHa > NPSHr(推奨は1.3倍以上)が成り立てばキャビテーションは発生しない。

蒸気圧テーブルにない温度を入力したらどうなる?

プリセット流体の蒸気圧はテーブル値を線形補間して算出する。テーブルの最低温度〜最高温度の範囲内であれば、任意の温度で正確に補間される。範囲外の温度を入力した場合は、外挿は行わず最寄りの端点値を採用し、その旨の警告が表示される。精度が必要な場合は「カスタム」を選択して蒸気圧を直接入力するとよい。

吸込実揚程にマイナス値を入れるのはどんなとき?

液面がポンプの中心より高い位置にある場合、つまり「押し込みヘッド」の配置のとき、吸込実揚程hsにマイナス値を入力する。hsが負になるとNPSHaは増加方向に働くため、キャビテーション対策として有効だ。高温液の移送やNPSHrが大きいポンプを使うとき、タンクをポンプより上に設置して押し込みヘッドを確保する設計は実務で頻繁に使われる。

計算結果のデータはサーバーに送信される?

入力値・計算結果はすべてブラウザ内で処理されており、サーバーへの送信は一切行っていない。ページを閉じればデータは消える。機密性の高いプラント設計データでも安心して利用できる。

安全率1.3倍を満たしているのにキャビテーションが起きるのはなぜ?

いくつかの原因が考えられる。まず、NPSHrはカタログの定格流量での値であり、実運転で流量が増えるとNPSHrも上昇する。次に、ストレーナの目詰まりや配管内のスケール堆積で摩擦損失hfが設計値より大きくなっているケース。また、液温が設計値より高い場合も蒸気圧が上昇してNPSHaが低下する。定期的に実運転条件で再計算し、余裕度を確認することが重要だ。

まとめ — ポンプの「吸えるか?」を数秒で判定

NPSH余裕度チェッカーは、ポンプ吸込配管のキャビテーションリスクを即座に判定するツールだ。流体を選んで吸込条件を入力するだけで、NPSHaの算出からNPSHr比の安全率判定まで一気に完了する。

ポンプの揚程計算とあわせて使うならポンプ揚程計算ツール、吸込配管の流量・流速を事前に確認するなら配管流量計算ツールも活用してみてほしい。3つを組み合わせれば、ポンプ選定に必要な数値がひと通り揃う。


不具合や要望があれば、X (@MahiroMemo)から気軽に教えて。

M

Mahiro

Mahiro Appの開発者。学生時代にポンプの実験でキャビテーション音を初めて聞いたときの衝撃が忘れられない。あのガラガラ音を予防できるツールを作りたかった。

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