溶接NDT選定ガイド

継手条件・材質・板厚・用途からUT/RT/MT/PTを判定

継手・母材・板厚・欠陥狙い・用途・検査率を入力すると、UT / RT / MT / PT / VT の中から最適な手法を判定。JIS規格リンク・除外理由・選定フローまで1画面で確認できる。

代表ケース(クリックで入力を流し込み)

継手・母材

検査狙い・用途

判定結果

第1推奨手法UTUT(超音波探傷)
推奨
第2推奨(代替)
RT(放射線透過)
適用規格
JIS Z 3060, JIS Z 3104, JIS B 8265
コスト感
UT:中 / RT:高
検出能力の目安
UT:0.5mm級(内部) / RT:板厚の2%(内部)
除外手法と理由

選定理由

内部欠陥狙い + 突合せ継手 + 炭素鋼(磁性) + 板厚20mm → UT(超音波探傷) が第1推奨。適用規格: JIS B 8265。

選定フロー

内部欠陥狙い + 板厚20mm → UT / RT → 用途: 圧力容器 → JIS B 8265

圧力容器の100%検査はJIS B 8265で詳細規定があります。本判定はあくまで一次案。法令・契約仕様で規格が上書きされる場合があります。
本ツールはJIS Z 3060/3104/2320/2343およびJIS B 8265/JASS 6 付則6の一般原則に基づくルールベース判定です。実運用では設計仕様書・WPS・ITPに従い、有資格のNDT検査員(JIS Z 2305)が最終判定してください。
不具合・ご要望はお気軽に@MahiroMemoまで

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UTとRT、どっちを先に掛けるか問題

溶接部の非破壊検査(NDT)で毎回ぶつかる壁。「t20の突合せ継手、SM490、100%検査」と言われたときに、UT(超音波探傷)を第一候補にすべきか、RT(放射線透過)を取るべきか。あるいはT継手だとRTが事実上使えなくて、でも誰も口に出して教えてくれない。そういう手戻りをゼロにしたくて、このツールを作った。

継手の種類、母材、板厚、欠陥狙い、用途、検査率。この6つの条件を打ち込むと、JIS Z 3060(UT)/ Z 3104(RT)/ Z 2320(MT)/ Z 2343(PT)の一般原則に沿って第1推奨・第2推奨と除外理由までが一気に出る。除外理由こそが本体。なぜMTが使えないのか、なぜRTが形状制約でダメなのかを言語化しないと、現場で議論が迷走する。

検査計画の一次ドラフトを5秒で作る。そのための専用ツール。

なぜ作ったのか

溶接NDTの手法選定は、規格書の散らかり具合が尋常じゃない。UTはJIS Z 3060、RTはZ 3104、MTはZ 2320、PTはZ 2343。加えて圧力容器ならJIS B 8265、建築鉄骨ならJASS 6 付則6、配管ならJIS B 8201 / 8204、橋梁なら道路橋示方書。新人検査員が1冊のチェックリストにまとめるのに半年かかる。

筆者が昔、小さな圧力タンクの設計で「t8のSUS316突合せ、100%検査」の指示書を受け取ったとき、深く考えずにMTを書き込んで提出し、検査会社から「SUSは非磁性なのでMT不可です。PTに差し替えます」と電話が来た。30分の手戻り。同じ週に、別の案件で「すみ肉のT継手にRT」と書いた若手がいて、これはもうそもそもRTが掛からない形状。1日分の段取りが吹き飛んだ。どちらも規格書には書いてあるのに、紙で読んでも頭に残らない。

計算式じゃなくて分岐ロジックの可視化が欲しかった。非磁性ならMT除外、すみ肉系ならRT除外、薄板ならRT有利、厚板ならUT有利、免除レベルならVTのみ、圧力容器ならJIS B 8265を必ず並記。この分岐を頭の中で回すより、6つのセレクトを触って決定木を確認するほうが早い。座学ツールだけど「検査計画のテンプレ生成機」として割り切った。

このサイトでは計算ツールばかり作ってきたけど、今回はあえて判定型。溶接品質管理担当者(WES/WE有資格者)、JIS Z 2305の各レベル検査員、発注者側の検査担当。この3者が同じ判定結果を共有できるのが狙い。

4大NDT手法の原理と適用範囲

非破壊検査 NDT とは

NDT(Non-Destructive Testing) は、製品を壊さずに内部・表面の欠陥を見つける技術の総称。溶接分野で実用されているのは主に4手法+目視。それぞれ使える物理原理が違い、守備範囲が被らない。

手法略号物理原理主戦場コスト感感度目安
超音波探傷UT超音波の反射内部欠陥0.5mm級
放射線透過RTX線・γ線の透過減衰内部欠陥板厚の2%
磁粉探傷MT磁力線の漏れ表面〜表層(磁性材のみ)0.5mm
浸透探傷PT毛細管現象表面開口のみ(全材質)0.1mm
目視検査VT肉眼全検査の基本最低数mm級

UT(超音波探傷) とは

発振子から高周波パルスを打ち込み、欠陥で反射して戻ってくる波を受信して深さと大きさを推定する。板厚6〜200mm級で万能。内部欠陥の検出感度が高く、コストも中程度。ただし結果はCRT波形かデジタル画像で、写真のように残らないため、有資格者の判定力が品質を左右する。近年はTOFD(Time-of-Flight Diffraction)やフェーズドアレイUTで画像化が進んでいる。

RT(放射線透過) とは

X線管またはγ線源(Ir-192、Se-75等)から放射線を溶接部に通し、裏側のフィルム/デジタル検出器で影絵として欠陥を記録する。証拠能力の高さが強み。写真が残るため、発注者・施工者・検査者の三者合意が取りやすい。一方で放射線管理区域の設置、作業員立入禁止、撮影時間が課題。突合せ継手と角継手にしか事実上掛からない(T継手やすみ肉は裏側にフィルムを置けない形状制約)。JIS Z 3104が画像品質と欠陥分類を規定している。

MT(磁粉探傷) とは

磁性材(炭素鋼、低合金鋼、一部のマルテンサイト系SUS)に磁場を与えると、表面直下の欠陥部分で磁力線が外に漏れ出し、撒布した磁粉が吸着して欠陥の形状が浮き上がる。表面〜表層欠陥に強く、0.5mm級の割れを検出できる。低コストで現場機動性が高い。致命的な制約は1つ、非磁性材(SUS304等のオーステナイト系、アルミ合金)には使えないこと。

PT(浸透探傷) とは

溶接部の表面に赤or蛍光の浸透液を塗布して数分放置。毛細管現象で欠陥(表面開口)に染み込んだ液を拭き取った後、現像剤を吹き付けると欠陥部分で液が滲み出して形状が見える。全材質に使えるのが強み(SUSでもアルミでも)。ただし表面開口欠陥しか検出できない——表層に埋もれた欠陥はMTなら見えてもPTでは見えない。JIS Z 2343が標準。

VT(目視検査) とは

最も古く、最も基本。外観の割れ・アンダーカット・オーバーラップ・ビード形状を肉眼で評価する。全ての検査の出発点。JIS Z 3001-1が用語と手順を規定している。免除レベルの検査率ならVTのみで完結する。

外部参照: JIS検索 - 日本規格協会

実務での重要性:誤選定が生む手戻りと事故

NDTの誤選定は、1件あたり数時間から数日の手戻りを生む。最悪の場合、出荷後の漏洩・破壊事故に繋がる。

許認可否認のリスク

圧力容器の場合、高圧ガス保安法・労働安全衛生法に基づく特定設備検査で検査実績の提出が求められる。JIS B 8265が規定する100%検査要件を満たさない記録だと、検査確認証が下りない。例えば「設計圧力10MPa以上の第二種圧力容器で突合せ継手」なら、原則としてRTまたはUT(場合によりTOFD含む)の100%検査が必須。ここで「コスト抑えてMTのみ」とやると、書類段階で差し戻される。

事故事例から学ぶ

内部欠陥(ブローホール、溶込み不良、スラグ巻込み)を表面系のMT/PTだけで済ませると見逃す。2011年頃の石油タンク底板の漏洩事故では、すみ肉継手の内部欠陥(ルート欠陥)が初期点検で見逃され、運用10年目に腐食と組み合わさって漏洩に至った事例が報告されている。すみ肉だとRTは形状制約で不可、UTも裏波欠陥の検出感度が落ちるため、特殊UT(TOFD/フェーズドアレイ)または破壊検査が必要だった。

板厚と手法の相性

  • t < 6mm(薄板): RT有利。UTは発振子と反射位置が近すぎてデッドゾーンに入る
  • 6 ≤ t ≤ 40mm(中板): UTとRTの両方が選択肢。コストと記録性で選ぶ
  • t > 40mm(厚板): UT有利。RTは線源エネルギーと撮影時間が指数関数的に増える
  • t > 60mm(超厚板): UT(TOFD含む)一択。RTは高エネルギーγ線で撮影時間が数時間〜半日

この感覚を現場で身につけるのに何年もかかる。ツールにすれば板厚を打ち込んだ瞬間に判定が出る。

規格・法令

  • JIS B 8265(圧力容器の構造 – 一般事項): JSA 公式
  • JIS Z 3060(鋼溶接部の超音波探傷試験方法)
  • JIS Z 3104(鋼溶接継手の放射線透過試験方法)
  • JASS 6 付則6(鉄骨工事標準仕様書/日本建築学会)
  • 道路橋示方書(国土交通省)

誤選定は書類差戻し→再計画→再検査の三重苦。それが嫌なら、1回の入力で規格名と除外理由まで出してくれるツールが役に立つ。

活躍する場面

圧力容器の受入検査計画

材料受入から開先加工、仮組、本溶接、応力除去、最終検査までの工程表を書くとき、各溶接線ごとに手法を割り当てる必要がある。「シェル本体突合せ t20 炭素鋼 内部」とインプットすればUT第1推奨・RT第2推奨・JIS B 8265併記まで一息で出る。ITP(Inspection Test Plan)ドラフトが5分で埋まる。

建築鉄骨の社内教育

新人品質管理担当者に「T継手にRTが掛からない理由」を1時間の講習で教えても1週間後には忘れる。ツールで条件を変えながら除外理由が変わる様子を見せると、構造が頭に残る。「非磁性材にMT」「すみ肉にRT」「免除レベルに4手法」のような誤設定を全部試せば決定木を暗記できる。

橋梁の定期点検と補修計画

既存橋梁の健全度評価で補修溶接部の検査手法を決めるとき、元の設計書が手元にないことが多い。板厚と継手形状さえ現地で計測できれば、このツールで一次案を作って、JIS Z 2305の資格者に最終判断を回す、という二段構えが組める。

配管工事のWPS確認

プロセス配管のSUS溶接では「MTは使えない・PT必須・内部欠陥はUTかRT」という黄金パターンがある。新人が書いた溶接施工要領(WPS)のチェックに、このツールを並べて見せればその場で議論が終わる

基本の使い方(3ステップ)

  1. 継手と母材と板厚を入力。継手種別(突合せ/すみ肉/T継手/角/重ねすみ肉)、母材(炭素鋼/低合金/SUS/アルミ)、板厚を打ち込む。アルミのUT、SUSのMTなど物理的に不可能な組合せは自動で除外される
  2. 検査狙いと用途と検査率を選ぶ。欠陥狙い(表面/内部/両方)、用途(圧力容器/一般構造/橋梁/建築鉄骨/配管)、検査率(100%/部分/抜取/免除)を選ぶ
  3. 第1推奨・第2推奨・規格・除外理由を確認。JIS Z 3060、JIS Z 3104などの該当規格が自動で並記。「コスト感」「検出能力目安」「選定フロー」も同時表示。コピーボタンでITPにそのまま貼れる

プリセット5ケース(圧力容器/建築鉄骨/配管/橋梁/一般構造免除)をクリックすれば入力が一括で埋まるので、「自分の案件と近いケース」から微修正する使い方も便利。

具体的な使用例(7ケース)

ケース1: 圧力容器 100%検査 炭素鋼 t20 突合せ 内部欠陥

入力: 突合せ継手 / 炭素鋼 / t20 / 内部 / 圧力容器 / 100%

  • 第1推奨: UT(超音波探傷)
  • 第2推奨: RT(放射線透過)
  • 適用規格: JIS Z 3060, JIS Z 3104, JIS B 8265

解釈: 最もオーソドックスな圧力容器シェル継手。板厚20mmはUTもRTも使える中板レンジで、コストと記録性の兼ね合いでUTを第1に、証拠保全目的でRTを第2に並べる。JIS B 8265が100%検査を求めるため、両手法とも実運用ではよく組み合わされる。

ケース2: 建築鉄骨 部分検査 SM490 t12 T継手 表面欠陥

入力: T継手 / 低合金鋼 / t12 / 表面 / 建築鉄骨 / 部分

  • 第1推奨: MT(磁粉探傷)
  • 第2推奨: PT(浸透探傷)
  • 適用規格: JIS Z 2320, JIS Z 2343, JASS 6 付則6
  • 除外: RT(T継手は形状制約でRT非推奨)

解釈: T継手は裏側にフィルムを置けないのでRT不可——これが即座に除外理由として出るのがポイント。磁性材だからMT第1、PT第2。JASS 6 付則6は建築鉄骨の標準仕様書で、ラーメン構造の柱梁接合部で頻出する組合せ。

ケース3: 配管 抜取 SUS304 t6 突合せ 両方欠陥

入力: 突合せ継手 / ステンレス鋼 / t6 / 両方 / 配管 / 抜取

  • 第1推奨: UT(超音波探傷) + PT(浸透探傷)
  • 第2推奨: RT(放射線透過) + PT(浸透探傷)
  • 適用規格: JIS Z 3060, JIS Z 2343, JIS Z 3104, JIS B 8201, JIS B 8204
  • 除外: MT(ステンレス鋼は非磁性のためMT不可)

解釈: SUSは非磁性なのでMTが消え、表面はPT固定。内部はUT優先(薄板境界の6mm)、代替でRTも選べる。両方狙いなので「内部+表面」の組合せが自動で生成される。JIS B 8201は圧力配管の一般要求、8204は管継手。プロセス配管の典型的な検査計画。

ケース4: 一般構造 免除 SS400 t10 すみ肉 表面(VTのみ)

入力: すみ肉継手 / 炭素鋼 / t10 / 表面 / 一般構造 / 免除

  • 第1推奨: VT(目視検査)
  • 第2推奨: —
  • 適用規格: JIS Z 3001-1

解釈: 検査免除レベルなら他の分岐を全部飛ばしてVT一択。低応力の補助部材、手摺、ブラケットなど、設計的にNDTが必要ないと判断された継手はこのルートに乗る。必要ならMT/PTを追加検討する旨を理由欄に表示する。

ケース5: 圧力容器 100% SUS316 t8 突合せ 内部欠陥

入力: 突合せ継手 / ステンレス鋼 / t8 / 内部 / 圧力容器 / 100%

  • 第1推奨: UT(超音波探傷)
  • 第2推奨: RT(放射線透過)
  • 適用規格: JIS Z 3060, JIS Z 3104, JIS B 8265

解釈: 非磁性材だが内部狙いなのでMT/PT不要。ステンレスでも内部欠陥狙いなら UT/RT のペアになる——「SUSだからMT/PT」は表面狙いの場合だけ、という勘違いを防ぐ典型ケース。薬液タンクや食品機械のシェル継手で頻出。

ケース6: 橋梁 100% SM490 t50 突合せ 内部欠陥

入力: 突合せ継手 / 低合金鋼 / t50 / 内部 / 橋梁 / 100%

  • 第1推奨: UT(超音波探傷)
  • 第2推奨: RT(放射線透過)
  • 適用規格: JIS Z 3060, JIS Z 3104, 道路橋示方書

解釈: t50は厚板レンジでUT圧倒的有利。RTは線源エネルギーと撮影時間で不利になる。橋梁の主桁フランジ継手などで出てくる大断面。道路橋示方書が適用規格として自動併記される。TOFDやフェーズドアレイUTの採用も検討する厚さ。

ケース7: 橋梁 100% SM490 t4 突合せ 内部欠陥

入力: 突合せ継手 / 低合金鋼 / t4 / 内部 / 橋梁 / 100%

  • 第1推奨: RT(放射線透過)
  • 第2推奨: UT(超音波探傷)
  • 適用規格: JIS Z 3060, JIS Z 3104, 道路橋示方書

解釈: t4は薄板レンジでRT有利。UTはデッドゾーン(発振子直下の無感度領域)に内部欠陥が隠れやすく、薄板では分解能が落ちる。ケース6と入力の違いは板厚だけ。同じ橋梁・同じ母材でも板厚が変わるだけで第1/第2が逆転する、という典型例。

仕組み・アルゴリズム:分岐ロジックの設計

候補手法の比較:スコアリング vs ルールベース

当初は「板厚・継手・材質・用途ごとに各手法の適合度をスコアリングして合算」する方式を検討した。例えばUTに対して「突合せ=+2, 板厚20mm=+3, 炭素鋼=+1...」のように加点し、合計が高い順に並べる。しかしこの方式は除外理由が説明しにくいという致命的な欠点があった。「MTは非磁性だから使えない」という物理的な不可能性を単にマイナス点で表現しても、最終的に加点側が勝てば誤って推奨してしまう。

そこでルールベースの段階判定に切り替えた。各段階で「物理的・形状的・規格的に不可能な手法を除外」→「残った手法から第1・第2を選ぶ」という順序にすれば、除外理由と選定理由が1対1で対応する。

実装詳細:6段階の判定フロー

// Step 0: 検査免除レベルチェック
if (inspectionLevel === 'exempt') return VTのみ

// Step 1: 継手による形状制約(RT除外判定)
if (!jointInfo.allowsRT) excluded.push('RT: すみ肉/T継手はRT非推奨')

// Step 2: 材質による磁性制約(MT除外判定)
if (!metalInfo.isMagnetic) excluded.push('MT: 非磁性のためMT不可')

// Step 3: 欠陥狙いで手法グループ決定
surfaceMethods = isMagnetic ? ['MT','PT'] : ['PT']
internalMethods = allowsRT
  ? (t < THIN_PLATE_THRESHOLD_MM ? ['RT','UT']
    : t > THICK_PLATE_THRESHOLD_MM ? ['UT','RT']
    : ['UT','RT'])
  : ['UT']

// Step 4: 用途別の追加規格
extraStandards = appInfo.extraStandards  // JIS B 8265 等

// Step 5: 両方狙いなら内部+表面の組合せ生成
// Step 6: 選定理由と規格リストを文章化

4つのデータテーブル(ndtMethods / joints / metals / applications)を予め定義し、各入力IDをキーに Map.get() で引く。分岐は全てブール値の論理演算に落ちるので、計算コストはO(1)。レスポンスは入力変更と同時に即反映される。

計算例:ケース2(T継手・SM490・t12・表面・建築鉄骨)

Step 0: inspectionLevel = 'partial' → 免除でないので次へ
Step 1: jointInfo.allowsRT = false(T継手)→ excluded に 'RT: 形状制約' を追加
Step 2: metalInfo.isMagnetic = true(SM490)→ MT除外せず
Step 3: defectTarget = 'surface' → surfaceMethods = ['MT', 'PT']
        primary = 'MT(磁粉探傷)'
        secondary = 'PT(浸透探傷)'
Step 4: appInfo.extraStandards = 'JASS 6 付則6'
Step 5: standardsList = ['JIS Z 2320', 'JIS Z 2343', 'JASS 6 付則6']
Step 6: reasoning = '表面欠陥狙い + T継手 + 低合金鋼(磁性)+ 板厚12mm → MT が第1推奨'

このように各段階で判定条件を明示するから、結果を読む側も「なぜMTが推奨されたか」を最短5行で追跡できる。

閾値定数の根拠

薄板/厚板の境界値は実務上の経験則と標準文献から設定した。

  • THIN_PLATE_THRESHOLD_MM = 6mm: UTの探触子デッドゾーンが6mm前後まで支配的になるため、RT優先に切り替える
  • THICK_PLATE_THRESHOLD_MM = 40mm: RTのX線透過で鋼板40mm程度から撮影時間が指数関数的に増え、UT(TOFD含む)が現実的になる境界
  • ULTRATHICK_THRESHOLD_MM = 60mm: 超厚板領域。RTは高エネルギーγ線(Co-60等)が必要になり、UT一択に近づく警告レベル

これらは実運用での目安であり、最終判断は有資格のNDT検査員(JIS Z 2305)に必ず任せること。ツールは一次ドラフトの生成機として使う。

他ツールとの違い:NDT選び方 比較早見

巷にあるNDT関連の情報源は、大きく3タイプに分かれる。どれも一長一短で、現場の「いま選びたい」には噛み合わない。

  • JIS規格本そのもの:正確だけど、JIS Z 3060JIS Z 3104JIS B 8265 を横断して突き合わせるのは骨が折れる。現場で規格書を広げて読む暇はない
  • NDT検査会社のパンフ:UT/RTの強みは熱く語るのに、MT/PTの適用範囲はあっさり。自社で扱う手法に寄る
  • 汎用ブログ記事:UTとRTの違い、MTとPTの違い、それぞれ単発で解説。継手×母材×板厚×用途の組合せで総合判断する視点が抜けがち

この選定ガイドは、その総合判断を6つの入力(継手/母材/板厚/欠陥狙い/用途/検査率)だけで一気に進める。たとえば「すみ肉継手+内部欠陥」を選んだ瞬間に「RTは形状制約で除外」と理由付きで外れる。「SUS304+表面」なら「非磁性のため MT は不可、PT 一択」と即決する。除外理由まで明示するのが最大の違いだ。

さらに JIS B 8265(圧力容器)や JASS 6 付則6(建築鉄骨)など、用途別に上書きされる追加規格を自動で併記する。検査計画書(ITP)を書く側が「どの規格を引用すべきか」で迷わない設計にした。もちろん最終判断は JIS Z 2305 認証済みの検査員が行うべきものだけど、一次案として会議に持ち込めるレベルの出力を狙っている。

豆知識:UT位相差法・TOFD・RT線源の世界

NDTの世界は道具の進化が速い。ここでは実務で耳にする応用技術を駆け足で紹介する。

UTの高度化:フェーズドアレイとTOFD

在来UT(パルスエコー法)は単一振動子でビームを1方向に飛ばすが、フェーズドアレイUT(PAUT)は32〜128個の小さな振動子を並べ、電子的にビームを偏向・集束する。同じ溶接部を複数の角度で一気にスキャンでき、溶接割れのような傾いた欠陥を取りこぼしにくい。JIS Z 3060-2 でPAUTのガイドラインが整理されている。

TOFD(Time of Flight Diffraction:回折波法)はもっと面白い手法だ。欠陥の端部で回折した波を拾い、飛行時間差から欠陥の高さを直接測る。振幅でなく時間で評価するため、感度較正への依存が低く、高さ寸法精度が±1mm級に達する。厚板の圧力容器では PAUT + TOFD のハイブリッドがRT代替として普及しつつある(IAEA TECDOC-1500 など参照)。

RTの線源選定:X線 vs γ線

放射線源はエネルギーと可搬性のトレードオフで選ぶ。

線源エネルギー帯得意板厚(鋼)用途
X線装置50〜450 kV〜50mm定置式。高解像度。電源必要
Ir-192(イリジウム)約0.3〜0.6 MeV10〜75mm現場の主力。半減期74日
Se-75(セレン)約0.1〜0.4 MeV5〜40mm薄板向け。低線量で安全管理が楽
Co-60(コバルト)約1.2 MeV40〜200mm超厚板・重厚構造物

さらに近年は**デジタルRT(DR/CR)**への移行が進む。フィルムの代わりにイメージングプレートや直接変換型センサを使い、撮影・現像の時間が大幅短縮。JIS Z 3110 がデジタルRTの要求事項を定めている。現場では「RTフィルムが現像液切れで翌日」みたいな昭和の光景が消えつつある。

MT・PTの小ネタ

  • MTの磁化方式:軸通電(棒状品向け)/プロッド(大型構造物の局所)/ヨーク(最も一般的、AC/DC切替で表面と表層を使い分け)の3種類。用途で使い分ける
  • PT浸透液の種類:溶剤除去性(現場向け・速乾)/水洗性(大量処理)/後乳化性(高感度)の3系統。JIS Z 2343 で区分が定義されている
  • 検査員資格JIS Z 2305 はレベル1(作業実施)/レベル2(手順書作成・判定)/レベル3(手順承認・教育訓練)の3段階。圧力容器の記録書類はレベル2以上の署名が要ることが多い

Tips:NDT現場で失敗を減らす5ヶ条

  1. 検査前の表面処理を怠らない:MT/PTは表面粗さと汚染が命取り。スパッタ・スラグ・塗装残渣を除去しないと擬似指示が出まくる。グラインダで均して脱脂、これだけで歩留まりが上がる
  2. 温度管理は意外と重要:PT浸透液は5〜50℃で性能保証。冬場の屋外や夏場の屋根裏は温度測定必須。低温では浸透時間を延長する必要がある
  3. 試験タイミングを溶接後24〜48時間あける:低合金鋼の遅れ割れ(水素割れ)は溶接直後には発生しない。JIS Z 3060 の付属書でも高張力鋼は48時間以降を推奨。焦って早期検査すると割れを見逃す
  4. RT撮影は放射線管理区域の線量計算を先にIr-192 の現場RTは法令(放射線障害防止法)で管理区域の設定が必須。周囲作業員の被ばく線量を事前計算して、時間帯調整や遮蔽計画を組んでから発注する
  5. 検査記録は画像+規格+判定基準の3点セット:UT/RTの指示長さや指示の等級は JIS Z 3060 級別、JIS Z 3104 等級で数値化する。後日「これ何級で合否判定した?」と聞かれても答えられるよう、判定基準の版番号まで記録に残す

FAQ:NDT選定でよくある疑問

Q. UTとRT、迷ったらどっちを優先すべき?

板厚と形状で決まる。突合せ継手で 板厚6〜40mm なら両方適用可能だが、近年はUTが主流になりつつある。理由は3つ。(1) RTは放射線管理区域の設定が必要で工程負担が大きい、(2) デジタルUT/PAUTの普及で感度と記録性が向上、(3) 超厚板(40mm超)はUTの独壇場。逆に **薄板(t<6mm)**はUTの表面近傍死角があるため、RTのほうが欠陥を素直に写し出す。本ツールでは板厚しきい値で自動切替している。

Q. すみ肉継手にRTをかけることは本当にできない?

技術的には可能だが、実用上はほぼ採用されない。すみ肉のルート部は母材が重なる構造で、放射線の透過方向によっては溶接金属と母材の像が重なり、割れや融合不良の判定が極めて難しくなる。JIS Z 3104 の手法分類でも突合せ溶接が主対象だ。現場ではすみ肉は MT/PT(表面)+ UT(内部、角度探傷)の組合せが定番。本ツールも継手を「すみ肉/T/重ね」にした瞬間にRTを除外する。

Q. ステンレス鋼にMTが使えないのはなぜ?

SUS304などのオーステナイト系ステンレスは非磁性で、磁粉探傷(MT)の原理である「磁束漏れ」が発生しないため。MTは強磁性体(炭素鋼・低合金鋼・フェライト系SUS430等)専用と理解するのが正しい。非磁性材の表面欠陥には**PT(浸透探傷)**を使う。PTは毛細管現象ベースなので材質を選ばず、SUS・アルミ・チタン・銅合金すべてに適用可能。ただしPTは表面開口欠陥のみで、表層下(サブサーフェス)は見えない。

Q. 圧力容器で「抜取検査」は許される?

設計圧力と材質でクラスが決まるJIS B 8265(圧力容器の構造一般事項)では、第1種・第2種圧力容器の区分ごとに放射線透過試験の要求率が定義されており、設計温度・圧力・PWHT有無で 100%/25%(部分)/10%(抜取)/免除 のいずれかになる。本ツールで用途を「圧力容器」にした状態で「免除」を選ぶと赤警告が出るのはこのため。契約仕様書(PVスペック)や HPG(高圧ガス保安法)の指定で上書きされる場合もあるため、最終判断は必ず仕様書参照で。

Q. 検査員資格(JIS Z 2305)のレベルはどれを取ればいい?

役割による。レベル1は指示された手順どおりに検査を実施する作業者。レベル2は検査手順書を作成し、合否判定・報告書作成まで担う実務の中核。レベル3は手順書の承認・教育訓練・試験技術の開発を担う上級者。実務で「手順書を書いて判定を下す」ならレベル2が最低ライン。圧力容器・橋梁・原子力の書類には基本レベル2以上の署名を求められる。受験には実務経験時間の要件があるため、若手は早めにレベル1から積み上げるのが得策。詳細は 日本非破壊検査協会(JSNDI) の公式案内を確認。

Q. 判定結果はどこかに保存される?プライバシーは?

入力値と判定結果はブラウザ内のメモリ上でのみ処理しており、サーバーへ送信・保存していない。業務で扱う案件名・設計情報を入力しても外部に漏れる心配はない。ブラウザを閉じれば履歴も残らない。共有したい場合は「結果をコピー」ボタンでテキストをクリップボードに取り出し、社内の検査計画書に貼り付ければOK。

まとめ

溶接NDT選定ガイドは、継手・母材・板厚・欠陥狙い・用途・検査率の6条件から UT/RT/MT/PT/VT の第1推奨と第2推奨を即決するツールだ。JIS規格・除外理由・コスト感まで一画面で並ぶから、検査計画書の一次案づくりが一気にラクになる。

溶接の数値検討をセットで進めるなら、溶接強度計算(weld-strength) で許容応力を、入熱量計算(weld-heat-input)HAZ硬さ予測(weld-haz-hardness) で熱影響部の割れリスクを、予熱温度ガイド(weld-preheat) で遅れ割れ対策を、脚長計算(weld-leg-size)溶接記号デコーダー(weld-symbol-decoder) で図面指示を、それぞれ合わせて確認してほしい。疑問や要望があれば お問い合わせ から気軽に連絡を。

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Mahiro

Mahiro Appの開発者。「SUSに磁粉」「T継手に放射線」と書かれた検査指示書を何度も突き返した経験から、除外理由を物理原理に結びつけて言語化できるロジックに仕立てた。

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