JIS B 8265 継手効率・板厚計算

溶接継手形式と放射線検査率から継手効率ηを判定し必要板厚を算出

JIS B 8265 の継手効率 η を溶接継手形式と放射線検査率から判定し、円筒胴の必要板厚 t = PD/(2ση-1.2P) を算出する。腐食代は計算後に加算する。
シナリオプリセット
継手条件
設計条件
計算結果

継手効率 η

1.00

許容応力 σ

100 MPa

必要板厚(腐食代除く)

5.03 mm

t = PD/(2ση-1.2P)

設計板厚(腐食代込み)

6.03 mm

tCalc + c=1mm

本ツールは JIS B 8265 一般事項の基本式による概算。腐食代・成形代・ミル公差・ノズル開口補強は別途計算が必要。実設計は JIS B 8265/B 8266、高圧ガス保安法の適用がある場合は KHK 技術基準等に従い、有資格者の承認を受けること。

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放射線検査を全線にするか、板厚を1mm盛るか

圧力容器の設計レビューで、必ずと言っていいほど揉める論点がある。「この継手、RT全線で η=1.00 を取りにいくか、それとも検査を部分にしてしまって板厚で逃げるか」という二択だ。全線検査は費用も工期も食う。部分検査は η=0.95 に落ちて板厚が数%増える。隅肉継手+検査無しまで落とせば η=0.55、必要板厚はほぼ倍だ。

この選択は、現場で即答できる人ほど少ない。JIS B 8265 の継手効率表を都度めくって、薄肉円筒の式 t = PD/(2ση - 1.2P) に電卓で入れて、材料別の許容応力を引っ張ってきて、ようやく「この条件なら3.2mm差ですね」と言える。会議中にその時間は無い。

このツールは、継手形式・検査率・材料・圧力・内径を1画面で入れるだけで、η と必要板厚、腐食代込みの設計板厚を即座に返す。JIS の継手効率表はすべて内蔵済み。ExcelもPDFも開く必要はない。

なぜ作ったのか

前職で小型貯槽の設計を担当していた頃、継手効率の扱いで一度痛い目に遭った。客先要求で「RT全線」と図面に書いてあったのに、製造現場が工期優先で「部分検査」に変更してしまい、検査記録のレビュー段階で発覚。η が 1.00 から 0.95 に落ちると、その胴板は 0.3mm だけ必要板厚を下回っていた。結果、胴板を外して作り直し。材料費より工程遅延のダメージのほうが遥かに大きかった。

それ以来、継手効率と板厚の感度を「頭の中で」即座に評価できる道具がずっと欲しかった。Excel シートは社内に何種類もあったが、それぞれ材料データベースやバージョンが違い、担当者が異動するたびに誰も信じなくなる。市販の圧力容器ソフトは高価で、しかも ASME Section VIII 前提のものが多い。JIS B 8265 一般事項 第1種圧力容器の、あの「計算例の頭ひとつ」だけを切り出したツールが、どこにも無かった。

作ってみて改めて分かったのは、このツールは計算するためではなく「会議中に即断するため」にあるということだ。RT率を一段上げたときの板厚削減効果、材料を SS400 から SUS304 に変えたときのゲイン、D を少しだけ絞る設計変更の寄与。これらを数秒で比較できる状態にしておくと、議論が一気に具体化する。

継手効率とは何か — 溶接欠陥の確率と応力集中

圧力容器の胴板は、丸めた鋼板を縦溶接(長手継手)でつないで円筒にする。この溶接線は、母材と全く同じ強度を持つとは限らない。ビード内部のブローホール、融合不良、アンダーカットなどの欠陥が残れば、そこから疲労亀裂や延性破壊が始まる。JIS B 8265 で言う継手効率 η は、この「溶接線の強度が母材の何割に相当するか」を表す安全側の低減係数だ。

継手効率 とは — 母材強度に対する割合

式の上では単純で、必要板厚の分母に現れる許容応力 σ に η を掛ける。η=1.00 なら母材と同じ、η=0.55 なら母材の55%しか使えないとみなす。ここで面白いのは、η が「溶接が実際にどれくらい弱いか」ではなく、「どれだけ検査で裏付けが取れているか」で決まる点だ。両側から突合せ溶接して、放射線透過試験(RT)で全線をチェックすれば、欠陥が残っている確率はほぼゼロに近いとみなして η=1.00。同じ継手形式でも検査を省略すれば、欠陥の存在可能性を見込んで η=0.70 まで落とす。

たとえるなら、料理人の腕前と、厨房の監視カメラの話に近い。同じシェフが同じ工程で作っても、完成品を一品ずつ検品する店と、抜き取り検査だけの店では、客に出せる「品質保証の強さ」が違う。溶接も同じで、腕の良し悪し以前に「どこまで確認したか」が契約上の品質になる。

JIS B 8265 継手効率表 の構造

JIS B 8265 の付表では、継手形式(両側突合せ / 片側突合せ裏当て有 / 片側裏当て無 / 完全溶込み隅肉)と検査率(全線 / 部分 / 無し)の組み合わせで η が決まる。数値は以下の通り。

継手形式RT全線RT部分RT無し
両側突合せ1.000.950.70
片側突合せ(裏当て有)0.900.850.65
片側突合せ(裏当て無)0.60
完全溶込み隅肉0.55

両側突合せが最も信頼でき、隅肉は一番低い。片側裏当て無しと完全隅肉は、そもそも RT が意味を成さないので検査無しのみが用意されている。この表は JIS B 8265 圧力容器の構造(Wikipedia: 圧力容器) および高圧ガス保安協会の技術基準に基づく。

欠陥確率の観点では、RT全線は「長手継手の端から端までフィルム撮影して読影者が確認している」状態を意味する。部分検査(抜き取り)は統計的に一部の欠陥を見逃す可能性が残る。検査無しは、溶接士の技量とWPS遵守だけが品質の担保になる。η の段差はこの「保証強度の段差」を定量化したものだ。

設計への影響 — η 1段で板厚も予算も動く

継手効率は机上の係数ではない。直接、材料費・加工費・工期に跳ね返る。

両側突合せで P=1.0MPa、D=1000mm、SS400(σ=100MPa)の胴板を考える。η=1.00 なら必要板厚は 5.03mm。η=0.95 なら 5.30mm、η=0.70 なら 7.20mm。つまり検査を部分にするだけで 0.27mm、検査無しなら 2.17mm 厚くなる。

胴板1枚の重量差は、D=1000mm、長さ 2000mm として、2.17mm × π × 1000 × 2000 × 7.85 × 10⁻⁶ ≒ 107kg。鋼材単価 150円/kg なら材料費だけで約1.6万円。小型容器 1 基なら誤差の範囲かもしれないが、熱交換器を年間 50 基製造する工場なら 80 万円の差が毎年出る。曲げ加工の工数、溶接パス数の増加、運搬費も加算される。

逆方向の話もある。RT全線検査は、1m あたり数万円のコストが掛かる。小径タンクで継手長が短ければ、板厚を盛ったほうが安いこともある。これは「RT費用」と「板厚増分の材料費+加工費」を天秤にかける最適化問題だ。

法令・規格上の重み

JIS B 8265 は第1種圧力容器(大気圧を超える圧力を受け、一定の大きさを超える容器)の設計基準として広く参照されている。高圧ガス保安法の適用対象となる容器では、KHK(高圧ガス保安協会)の技術基準が上位にあり、継手効率の扱いもほぼ同等だ。板厚不足は設計変更届・再検査・納期遅延に直結し、監督官庁への報告事案にもなりうる。継手効率と板厚の計算は、単なる設計工数ではなく、コンプライアンス上のチェックポイントでもある。

同じ SS400 でも、鏡板(エンドキャップ)やノズル開口補強は別の式が必要で、η の扱いも異なる場面がある。本ツールは胴板(長手継手)の計算に特化している。鏡板やノズル部は 圧力容器ツールノズル補強 を併用してほしい。

活躍する場面

熱交換器の胴側設計レビュー: シェル側 1.0MPa、内径 600mm、両側突合せで部分検査という仕様で、板厚 5mm で足りるかを会議中に即断したい。入力5秒で答えが出る。

配管サイズの貯槽(STPT410): 高温蒸気を一時貯める中継タンク。許容応力 110MPa で D=800、P=1.5MPa の条件で、検査をどこまでやるかをコストと天秤にかける。

既存容器の再評価: 手元に昔の図面があり、「RT部分検査、板厚 6mm」と書いてあるが、今の使用圧力に耐えるか確認したい。逆算的に必要板厚を出し、マージンを確認する。

材料変更の影響試算: 腐食対策で SS400 から SUS304 へ材料を変更する提案が出たとき、許容応力が上がる分、板厚を減らせるのか検討する。

見積もり段階の概算: RFQ 対応で「この仕様なら胴板は何 mm 必要か」を数時間以内に返さなければならない。Excel を立ち上げる前に数値を固める。

基本の使い方(3ステップ)

  1. 継手条件を選ぶ: 継手形式(両側突合せ / 片側裏当て有 / 片側裏当て無 / 完全隅肉)と放射線検査率(全線 / 部分 / 無し)をタップ。継手効率 η が自動判定される。
  2. 設計条件を入れる: 材料プリセット(SS400 / SM400B / SUS304 / STPT410)を選び、設計圧力 P [MPa]、胴内径 D [mm]、必要なら腐食代 c [mm] を入力。
  3. 板厚を読む: 「必要板厚(腐食代除く)」と「設計板厚(腐食代込み)」がその場で表示される。結果コピーボタンで設計書にそのまま貼れる。

使用例 — 6ケースで感度を掴む

ケース1: SS400 両側突合せ + RT全線(ベースライン)

入力: P=1.0MPa, D=1000mm, SS400(σ=100), 両側突合せ + RT全線, c=0。継手効率表から η=1.00。

計算: t = 1.0 × 1000 / (2 × 100 × 1.00 − 1.2 × 1.0) = 1000 / 198.8 = 5.03mm。設計板厚も 5.03mm。

解釈: 標準的な低圧タンクの最小ケース。市販の 6mm 鋼板で余裕を持ってカバーできる。η が最大のため、これ以上板厚を減らす余地は無い。

ケース2: 同条件で RT を省略(η=0.70)

入力: ケース1から検査率のみ「無し」に変更。

計算: t = 1.0 × 1000 / (2 × 100 × 0.70 − 1.2 × 1.0) = 1000 / 138.8 = 7.20mm

解釈: 同じ容器でも検査を省くと板厚が 2.17mm 増える。ケース1との差は、ほぼ溶接検査費と板厚差のトレードオフになる。継手長が短い小型容器なら検査無しで板厚増、長ければ全線検査のほうが総コスト安という判断軸になる。

ケース3: STPT410 高温配管容器 + 裏当て有 + RT部分

入力: P=2.0MPa, D=600mm, STPT410(σ=110), 片側突合せ裏当て有 + RT部分, c=1mm。η=0.85。

計算: t = 2.0 × 600 / (2 × 110 × 0.85 − 1.2 × 2.0) = 1200 / 184.6 = 6.50mm。設計板厚 = 6.50 + 1.0 = 7.50mm。

解釈: 高温配管では裏当て有の片側突合せが現実的。RT部分検査で η=0.85 を確保し、腐食代 1mm を加算して 7.50mm。市販の 8mm 厚 STPT410 で対応可能。

ケース4: SUS304 中圧タンク + 両側突合せ + RT全線

入力: P=1.6MPa, D=800mm, SUS304(σ=115), 両側突合せ + RT全線, c=0。η=1.00。

計算: t = 1.6 × 800 / (2 × 115 × 1.00 − 1.2 × 1.6) = 1280 / 228.08 = 5.61mm

解釈: ステンレスの許容応力が効いて、圧力が 60% 上がっても板厚は SS400 のベースライン(5.03mm)から 0.58mm 増に留まる。耐食性と強度の両取りができる条件。

ケース5: SM400B 大径タンク + 片側裏当て + RT全線 + 腐食代 2mm

入力: P=1.2MPa, D=1200mm, SM400B(σ=105), 片側突合せ裏当て有 + RT全線, c=2mm。η=0.90。

計算: t = 1.2 × 1200 / (2 × 105 × 0.90 − 1.2 × 1.2) = 1440 / 187.56 = 7.68mm。設計板厚 = 7.68 + 2.0 = 9.68mm。

解釈: 大径 + 中圧 + 内容物腐食性ありの代表ケース。RT全線で η=0.90 を取り、腐食代 2mm を加えると 9.68mm。10mm 鋼板を選定し、0.32mm のマージンを設計余裕として持たせる。

ケース6: SS400 小径 + 片側裏当て無 + RT無し(最低効率級)

入力: P=0.8MPa, D=500mm, SS400(σ=100), 片側突合せ裏当て無 + RT無し, c=1mm。η=0.60。

計算: t = 0.8 × 500 / (2 × 100 × 0.60 − 1.2 × 0.8) = 400 / 119.04 = 3.36mm。設計板厚 = 3.36 + 1.0 = 4.36mm。

解釈: 最低クラスの継手効率でも、小径・低圧なら板厚は 5mm 以下で収まる。片側裏当て無しの場合は RT が施工困難なので、そもそも検査無しが既定値になる点に注意。

ケース7: SS400 大径低圧タンク + 両側突合せ + RT部分

入力: P=0.5MPa, D=2000mm, SS400(σ=100), 両側突合せ + RT部分, c=0。η=0.95。

計算: t = 0.5 × 2000 / (2 × 100 × 0.95 − 1.2 × 0.5) = 1000 / 189.4 = 5.28mm

解釈: 貯水タンクや低圧プロセスタンクのような大径・低圧ケース。D が大きい分、圧力が低くても板厚は 5mm 超を要する。RT部分検査で十分な信頼性を確保しつつ、全線検査のコストを節約できる。

仕組み・アルゴリズム — JIS B 8265 薄肉円筒理論

候補手法の比較: 薄肉式 vs Lame 厚肉式

円筒胴の応力計算には大きく2通りある。薄肉式(Barlow 式系、Mean Diameter 式)は、板厚が直径に対して十分小さいとき(目安 t/D < 0.1)に、周方向応力 σθ = PD/(2t) と近似する手法。Lame 厚肉式は、厚肉円筒で内外径の応力勾配を厳密に解く式で、σθ(r) = P(r²ᵢ+r²ₒ)/(r²ₒ−r²ᵢ) などで与える。

JIS B 8265 は第1種圧力容器の大半が薄肉範囲に収まることを前提に、薄肉式をベースに安全側補正項を加えた形を採用している。具体的には分母に − 1.2P の項を加えることで、板厚が少し厚くなった場合の応力分布の偏りを補正する。この補正項は ASME Section VIII Div.1 の UG-27(c)(1) の式と形が似ており、国際的にも受け入れられている近似だ。

t/D > 0.1 となるような厚肉領域では、薄肉式は非安全側の誤差を持つ。そのため本ツールでは tCalc > 0.5D 相当の極端な厚肉は警告を出す設計にしている(実用上、この警告が出る容器は高圧専用で、ASME Sec.VIII Div.2 などの厚肉規格へ行くべき対象)。

薄肉式を選んだ理由は明快で、JIS B 8265 一般事項の式がそのまま薄肉式 + 継手効率補正の形だからだ。Lame 式を使うと JIS 準拠にならず、現場の設計書に貼り付けられない。

実装詳細 — 計算フロー

// 1. 継手効率 η の判定
const etaRow = efficiencyTable.find(r => r.joint === joint && r.rt === rt);
const eta = etaRow?.eta;

// 2. 許容応力 σ の取得
const sigma = materialTable.find(m => m.id === material)?.allowStress;

// 3. 必要板厚 tCalc の計算
const denom = 2 * sigma * eta - 1.2 * P;
if (denom <= 0) return { error: "圧力が許容応力に対し過大" };
const tCalc = (P * D) / denom;

// 4. 設計板厚 = 必要板厚 + 腐食代
const tTotal = tCalc + corrosion;

判定ロジックはこれだけ。継手形式と検査率の組合せで η が決まらないケース(例: 片側裏当て無し + RT全線)はテーブルから候補が返らないので、UI 側でセグメントを非活性化する想定だ。

計算例 — ケース3 を手計算でトレース

STPT410(σ=110MPa)、片側突合せ裏当て有、RT部分、P=2.0MPa、D=600mm、c=1mm。

手順1: 継手効率表を検索。joint="butt-backing", rt="partial" → η=0.85。

手順2: 材料テーブルから σ = 110 MPa。

手順3: 分母 = 2 × 110 × 0.85 − 1.2 × 2.0 = 187.0 − 2.4 = 184.6 MPa。正なので計算可。

手順4: tCalc = 2.0 × 600 / 184.6 = 1200 / 184.6 = 6.4995... → 6.50mm。

手順5: tTotal = 6.50 + 1.0 = 7.50mm。

この流れをツールはすべて内部で実行し、結果欄に η・σ・tCalc・tTotal を並べて表示する。ユーザーが目にするのは最終4値と警告表示だけだが、裏では継手効率表の逆引きと分母の安全チェックが走っている。

他ツールとの違い

継手効率から板厚を出すツールは世の中に少なくない。ただ、JIS B 8265 に正面から向き合ったWeb計算機はほとんど見かけない。海外製の SkyCiv Pressure Vessel や COMPRESS は ASME Sec. VIII Div.1 の E 値(joint efficiency)をベースにしていて、単位も psi・inch がデフォルト。日本国内の高圧ガス保安法・労働安全衛生法の枠組みで使う第一種圧力容器には、ASME の E をそのまま流用できない。

国内メーカーが社内Excelで持っているη表は確かに正確だが、属人化していて新人には触らせにくい。表の転記ミスで η=0.85 が 0.95 になった瞬間、板厚は 10% 過小評価される。このツールは JIS B 8265 の継手形式4種 × RT率3段階の組み合わせを全てハードコードしているから、選択ミスがあっても表からはみ出ない。

さらに、薄肉円筒の式 t = PD/(2ση - 1.2P) に 1.2P の補正項をそのまま入れている点も重要。ネット上の「ざっくり計算」では 1.2P を省いて t = PD/(2ση) で済ませているものが散見されるが、これだと高圧領域で板厚が 5% 以上過小になる。JIS 準拠をうたうなら 1.2P は落とせない。

豆知識・読み物

第一種圧力容器と第二種圧力容器の境界線

日本の圧力容器は労働安全衛生法施行令で4つに区分される。ゲージ圧と内容積、取扱物の温度で線引きされていて、設計に使う規格が変わる。

  • 第一種圧力容器: ゲージ圧 0.1MPa 超、かつ (温度100℃超 or 大気圧沸点超の液体 or 気体) を入れるもの。JIS B 8265/B 8266 が適用される。溶接構造の場合は製造時検査が必須
  • 第二種圧力容器: ゲージ圧 0.2MPa 以上のガスを内容積 40L 以上で保有するもの。簡易な規則だが、有資格者による定期自主検査は必要
  • 小型圧力容器: さらに小さい区分。届出のみ
  • 簡易容器: ゲージ圧 0.1MPa 未満 or 内容積 0.004m³ 未満。規制外

このツールは第一種圧力容器の胴体を想定している。第二種や簡易容器であれば、そもそも JIS B 8265 の継手効率を厳密に求める必要はない。ただ、実務では「念のため第一種扱いで設計する」ことも多く、その場合もこの計算は役立つ。

ηが 0.55 という数字の背景

完全溶込み隅肉継手+検査無しの η=0.55 は、裏を返せば「半分ちょっとしか強度を信用しない」という意味だ。これは歴史的に、昭和期のボイラー溶接で実際に破断した事故データを元に設定された安全率に近い。放射線検査の技術が未熟だった時代は、内部の溶込み不足・スラグ巻込みが高確率で残存していた。統計的に欠陥残存率を逆算すると、継手断面の 45% 程度は信用ならないという結論になる。

今の技術でも、この係数が大きく見直されることはない。溶接欠陥の検出限界は RT でも 100% ではなく、フェーズドアレイUTを併用してようやく 90% 台に乗るからだ。参考: 日本溶接協会

薄肉/厚肉の境目

JIS B 8265 の式は薄肉円筒理論(外径/内径比 < 1.5 程度)を前提にしている。内径 500mm で板厚 30mm なら外径/内径 = 1.12 で問題ないが、内径 200mm で板厚 60mm 必要となると Lamé の式を使う厚肉設計に切り替える。このツールは tCalc > 0.5*D で警告を出すが、実務的には tCalc > 0.1*D 付近で既に考えた方がいい。

Tips

  • 検査率は「全線」が結果的に安い場合が多い: 全線 RT はコスト増に感じるが、η が 1.00 にできれば板厚を 30% 以上減らせるケースも。鋼材単価と検査費用を比べると、大型容器ほど全線 RT が有利になる
  • 継手形式は溶接士の技能と相談する: 突合せ片側裏当て無しは高い施工技能が要求される。η=0.60 でも現場で確実に溶接できる形式を選ぶ方が結果的に安全
  • 腐食代は用途で決める: 水道水・蒸気なら 1-2mm、海水・薬液なら 3mm 以上、クリーン流体なら 0mm も可。デフォルト 0 のまま設計して腐食代の存在を忘れるのが最悪パターン
  • η < 0.70 の警告が出たら一度立ち止まる: 板厚が大きくなるだけでなく、溶接変形・PWHT 時間・開先加工時間も増える。設計全体のコストに跳ね返る
  • 板厚 30mm 超は別の壁がある: 予熱温度の指定、PWHT(溶接後熱処理)、衝撃試験(シャルピー)の追加要件が出てくる。tCalc > 30mm の黄色警告が出たら材料変更か容器分割を検討

FAQ

継手効率 η はなぜ溶接形式と検査率の両方で決まるのか?

溶接形式は「理論上どこまで母材強度を再現できるか」の上限、検査率は「実際にその上限に達しているか確認できる範囲」を表すため。突合せ両側は形状的に完全溶込みが可能だが、非破壊検査をしなければ欠陥があっても気づけない。両方の積み上げで最終的な信頼係数 η が決まる仕組み。

放射線検査「部分」とは具体的にどの範囲を指すのか?

JIS B 8265 では長手継手・周継手の交差部を含む全継手長の一定割合(一般に 20% 以上)を抜き取り検査することを「部分検査」と呼ぶ。このツールでは η 値のみを参照するので、検査計画の詳細は別途 JIS B 8265 本文と品質計画書で定めてほしい。

計算結果の板厚をそのまま発注に使ってよいか?

使えない。ツールの結果は胴体の必要最小板厚のみを示すもので、実際の発注ではミル公差(一般に -0.25mm 程度)、成形公差、腐食代、将来の補修代を上乗せして市販板厚(6, 8, 9, 12, 16, 19, 22, 25mm…)に切り上げる必要がある。鏡板・ノズル補強部は別途計算が必要。

SUS304 の許容応力 115MPa はどの温度基準か?

このツールは常温(約40℃以下)の値をデフォルトとして採用している。SUS304 は温度上昇で許容応力が大きく下がる材料で、200℃ で約 105MPa、400℃ で 90MPa 程度まで落ちる。高温用途では JIS B 8265 附属書の温度別許容応力表を参照して、手動でσ値を調整するか、温度補正対応版(開発中)を待ってほしい。

「2ση - 1.2P ≦ 0」の赤警告が出たらどうすればよい?

分母がゼロ以下になるのは、設計圧力に対して許容応力×継手効率が不足している状態。対処は3つ: (1) 材料をより高強度なものに変える、(2) 継手形式と検査率を上げて η を大きくする、(3) そもそも圧力容器として薄肉式では無理な領域なので ASME Sec.VIII Div.2 など厚肉設計規格に切り替える。無理に式を回しても意味のない数字になる。

まとめ

JIS B 8265 の継手効率は、溶接形式と検査率で決まる4×3マトリクスを覚えておくだけで、板厚計算の 8 割は片付く。残り 2 割は腐食代・温度補正・ノズル補強だ。このツールを使えば η の取り違えや 1.2P 項の省略ミスを防げる。

圧力容器設計のワークフローとしては /pressure-vessel で胴板厚を概算し、本ツールで継手効率を含めた精密値に落とし込み、/nozzle-reinforcement で開口補強を確認、ボルト締結部は /bolt-failure で破断モードを診断、という流れが組める。気になる点や改善要望があれば /contact から気軽に連絡してほしい。

M

Mahiro

Mahiro Appの開発者。前職で η を 1.00 のつもりが 0.95 に落ちて胴板を作り直した苦い経験がある。同じ事故を繰り返さないために、継手効率表を手元から消して、このツールにすべて押し込んだ。

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