潤滑油の粘度グレード換算ブリッジ

cSt(mm²/s)⇔ cP(mPa·s)と、ISO VG ⇔ SAE を双方向に。温度換算と粘度指数も1画面で。

動粘度 cSt(mm²/s)と粘度 cP(mPa·s)を密度で相互換算し、ISO VG(40℃基準)と SAE エンジン油・ギヤ油(100℃基準)を双方向に対応づける。温度換算は ASTM D341、粘度指数は ASTM D2270。

手元の粘度の値から引くか、グレード名から引くか

動粘度と粘度のどちらで測った値か。cP を選ぶと密度が必須になる

油分析レポートや製品データシートの値。単位は上のボタンで切り替える

その粘度を測ったときの油温。データシートの値なら 40℃ が普通

cP ⇔ cSt の換算にだけ使う。空でも動粘度側の結果は出る(mPa·s の欄だけ出なくなる)

データシートなら 100℃

空にすると下の仮定VIから温度線を引く

第2点は動粘度(mm²/s)で入れてほしい。2点入れると粘度指数と温度換算が実測ベースになる。

鉱油系の工業用潤滑油は 95〜105、高粘度指数(HV)タイプの作動油は 140 以上、マルチグレードのエンジン油は 150〜170 が目安

いまは2点の実測から VI を計算しているので、この欄の値は結果に使われない。

運転温度など。40℃・100℃ の結果は常に出るので、それ以外の温度を入れてほしい

SAE 20 の 100℃動粘度の下限は、2013年4月の J300 改訂で 5.6 から 6.9 に引き上げられた(同時に SAE 16 が新設された)。ネット上の対応表には 5.6 のままのものが残っているので、古い表と数字が合わないときはこれが原因のことが多い。

密度は入力された1つの値を全温度で使っている。実際の油は温度が上がると密度が下がるので、高温側の粘度[mPa·s]はやや大きめに出る(鉱油なら 60℃ 違うと数%)。動粘度[mm²/s]の側はこの影響を受けない。

該当 ISO VG(40℃基準)VG 4640℃ 46.00 mm²/s
該当あり
該当 SAE エンジン油(100℃基準)SAE 12・SAE 16100℃ 6.80 mm²/s
該当あり

SAE J300 の非Wグレードは 100℃動粘度に加えて、150℃・せん断速度10⁶ s⁻¹ での HTHS 粘度の下限も規定している。HTHS は動粘度から計算できないので、このツールは判定していない。100℃動粘度で複数のグレードに該当したときに、実際にどれになるかは HTHS で決まる。

測定点の動粘度

46.000 mm²/s

40℃ での値

測定点の粘度

40.020 mPa·s

μ = ν × ρ

40℃動粘度

46.00 mm²/s

100℃動粘度

6.80 mm²/s

40℃の粘度

40.02 mPa·s

100℃の粘度

5.92 mPa·s

粘度指数 VI

101.6

40℃と100℃の実測2点から計算

該当 SAE(ギヤ油)

SAE 75

J306 の帯は重ならないので通常は1つ

60℃ の動粘度

20.62 mm²/s

60℃ の粘度

17.94 mPa·s

温度線(ASTM D341): log10(log10(ν+0.7)) = 9.4180 3.6844·log10(T[K])。傾き B が大きいほど温度で粘度が急に変わる=粘度指数が低い。

粘度‑温度線図(ASTM D341 の座標では直線になる)

25102050020406080100120150温度 [℃]mm²/s40℃ 46.00100℃ 6.80SAE 12・SAE 1660℃ 20.62 mm²/s
この油の温度線測定点ISO VG の許容帯SAE(エンジン油)の帯知りたい温度

40℃動粘度の位置(ISO VG の階段と水の基準点)

25102246100220460100040℃動粘度 [mm²/s]・対数目盛水 20℃46.00

SAE の W グレード(0W・5W・75W・80W など)は、低温でのクランキング粘度(CCS)とポンピング粘度(MRV)、ギヤ油ならブルックフィールド粘度 150,000 mPa·s に達する温度で決まる規定で、100℃の動粘度だけでは判定できない。このツールが判定するのはハイフンの右側(8・20・30・90 など)だけ。W 側は選んだグレードの規定値を情報として並べるに留めている。

グレードが一致することと、その油をその機械に使ってよいことは別の話。潤滑油には粘度以外に添加剤の種類・シールとの相性・清浄性の要求があり、機械メーカーの指定を上書きするものではない。粘度の換算・対応づけの道具として使ってほしい。また、ここで扱うのはニュートン流体としての粘度で、実際のマルチグレード油は高いせん断速度で見かけの粘度が下がる(せん断減粘)。エンジン内部のような条件での粘度は HTHS のような別の試験で測るもので、ここでの計算値とは別物になる。

いま出ているギヤ油の判定(SAE 75)は2019年2月版の帯によるもの

ギヤ油の判定に使っているのは SAE J306 の2019年2月版。2025年2月の改訂で、電動車の駆動系向けに 62W〜65W と 62〜70 の低粘度グレードが追加されている。追加分の帯の数値は公開情報で確認できなかったため、このツールには入れていない。エンジン油は SAE J300(2021年版)、ISO VG は ISO 3448(JIS K 2001)に従っている。

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関連ツール

棚の VG 46 が切れている。隣にあるのは 5W-30 のペール缶

金曜の夕方、油圧ユニットに油を足そうとして棚を開けたら ISO VG 46 の缶が空だった。代わりに積んであるのは自動車用の SAE 5W-30。ラベルを裏返しても書いてあるのは「SAE 5W-30」だけで、40℃の動粘度はどこにも無い。これは VG でいうと何番なのか。月曜の入荷まで機械を止めるのか、それとも手元の缶で凌ぐのか。決めるには、まず数字が要る。

ところが「粘度 換算」で検索して出てくるのは、mm²/s に密度を掛けて mPa·s にするだけのページばかりだ。単位の換算は掛け算ひとつで終わる。本当に困るのはその先——グレードどうしの対応のほうだよね。仕方なく PDF の対応表を探し始めると、今度は別の壁にぶつかる。ある表は「5W-30 ≒ VG 46」と書き、別の表は「VG 68」と書いている。どちらが正しいのか、表のどこにも根拠が書かれていない。

この食い違いは誤植ではない。ISO VG と SAE はそもそも基準にしている温度が違うので、片方からもう片方へ渡るには「温度が変わると粘度がどう変わるか」をどこかで決めるしかない。表が違えば決めも違う。それだけの話だ。

このツールは、その行き来を1画面で完結させるために作った。cSt(mm²/s)と cP(mPa·s)の換算、ISO VG ⇔ SAE(エンジン油・ギヤ油)の双方向の対応、ASTM D341 による任意温度への換算、ASTM D2270 による粘度指数の計算。そして何より、対応表が黙っている「粘度指数をいくつと仮定したか」を入力欄として表に出した。

なぜ作ったのか — 対応表が黙っている仮定を、入力欄に引きずり出す

作る前に既存のツールをひととおり触った。keisan・PISCO・キッツといった国内でよく使われている粘度計算ページは、いずれも動粘度と粘度の単位換算だけだ。密度を掛けるか割るか、それで終わる。ISO VG や SAE のグレード対応も、温度換算も、粘度指数も無い。「粘度 換算」という検索面はこの手のページで埋まっていて、グレードの話に辿り着けない。

もう一方の情報源が、潤滑油メーカーや商社が配っている ISO VG ⇔ SAE の対応表 PDF だ。対応関係そのものは載っている。ただし決定的な問題がひとつある——その表がどの粘度指数を仮定して作られたのかが、表のどこにも書かれていない

これは細かい話ではない。同じ SAE 5W-30 を、粘度指数 95 の油だと思って引くか、150 の油だと思って引くかで、40℃の動粘度は 1.4 倍以上ずれる。ISO VG の階段は隣どうしが約1.5倍刻みなので、この差はまるまる1グレード分だ。仮定を変えるだけで答えが VG 68 にも VG 100 にもなる(実際の数値は使用例のケース6で確かめられる)。鉱油系の作動油なら VI 95〜105、高粘度指数タイプなら 140 以上、マルチグレードのエンジン油なら 150〜170 と、実在する油の VI はそれくらい広く散らばっている。つまり**「5W-30 は VG 何番か」という問いには、前提を決めない限り一意の答えが無い**。

だから独自性の核は2つに絞った。ひとつめは、隠れていた粘度指数の仮定を入力欄として画面に出したこと。データシートに VI が書いてあるならその値を入れればいい。40℃と100℃の両方の実測値があるなら2点入れれば仮定そのものが消えて、VI は計算値になる。何も分からないなら仮定値を動かして、答えがどれだけ揺れるかを自分の目で見られる。表を疑う手段をユーザーに渡す、というのがこのツールの立ち位置だ。

ふたつめは、SAE の W グレードを判定しないと明言したこと。0W・5W・75W・80W といった W 側は、100℃の動粘度ではなく低温側の別の試験で決まる。エンジン油なら低温クランキング粘度(CCS)とポンピング粘度(MRV)、ギヤ油ならブルックフィールド粘度が 150,000 mPa·s に達する温度だ。5W なら「−30℃ の CCS が 6,600 mPa·s 以下、−35℃ の MRV が 60,000 mPa·s 以下」という規定であって、100℃の動粘度をいくら眺めても出てこない。英語圏のツールには 100℃動粘度から W を出してしまっている実装があり、規格の読み違いがそのまま出力になっている。判定できないものを判定しない、と書くほうが道具としては誠実だと判断した。

動粘度・粘度・粘度グレードとは何か

動粘度 粘度 換算 — 違いは密度ひとつだけ

粘度 μ[mPa·s] は「液体をずらすのに要る力」だ。上下2枚の板の間に液体を挟んで上の板を横に滑らせるとき、どれだけ手応えがあるか。これが粘度で、SI では Pa·s、現場では mPa·s(= cP、センチポアズ)で書く。

動粘度 ν[mm²/s] は「その液体が自分の重さでどれだけ速く流れるか」だ。同じ粘り気の液体でも、重ければ重力に押されて速く流れ、軽ければゆっくり流れる。だから粘度を密度で割る。

同じ粘り気のシロップと軽いオイルを、それぞれ細い管に入れて落としてみると分かりやすい。手でかき混ぜた感触(粘度)が同じでも、重いシロップのほうが速く落ちてくる。落ちる速さのほうを測っているのが動粘度だ。

μ[mPa·s] = ν[mm²/s] × ρ[g/cm³]
ν[mm²/s] = μ[mPa·s] ÷ ρ[g/cm³]

1 cSt = 1 mm²/s、1 cP = 1 mPa·s(それぞれ同じ量の別名)

ここで気持ちがいいのは、mPa·s と g/cm³ と mm²/s の組み合わせだと換算係数が 1 で閉じることだ。単位を変換する係数を覚える必要がない。密度 0.87 g/cm³ の油が 40 mPa·s なら、動粘度は 40 ÷ 0.87 = 45.98 mm²/s。それだけ。

潤滑油の世界で主役が動粘度になっているのは、測り方が動粘度そのものだからだ。工業的な標準試験である毛細管粘度計法(ASTM D445 / JIS K 2283)は、恒温槽に沈めたガラス管の中を油が自重で落ちていく時間を測って、管ごとの定数を掛ける。出てくるのは動粘度で、粘度が欲しければ後から密度を掛ける。データシートの粘度欄が mm²/s なのはこのためだ(動粘度 - Wikipedia)。

ISO VG とは — 40℃の動粘度で呼ぶ18段の階段

工業用の潤滑油は ISO 3448(日本では JIS K 2001)の粘度分類で呼ぶ。ルールは単純で、40℃の動粘度の中心値をそのままグレードの名前にする。VG 46 なら 40℃で 46 mm²/s、VG 220 なら 220 mm²/s。帯は中心値の ±10% で、両端を含む。VG 46 なら 41.4〜50.6 mm²/s に入っていれば VG 46 と名乗れる。

グレードは VG 2 / 3 / 5 / 7 / 10 / 15 / 22 / 32 / 46 / 68 / 100 / 150 / 220 / 320 / 460 / 680 / 1000 / 1500 の18段。ここで低粘度側の4つだけ、呼び名と中心値が一致しないという落とし穴がある。VG 2 の中心値は 2.2、VG 3 は 3.2、VG 5 は 4.6、VG 7 は 6.8 mm²/s だ。VG 10 以上は呼び名がそのまま中心値になるので、この例外はうっかり見落とす。VG 7 の帯は 6.8 の ±10% で 6.12〜7.48 であって、7 の ±10% ではない。

日本語の一次的な受け皿は JIS K 2001:1993「工業用潤滑油—ISO粘度分類」で、対応国際規格は ISO 3448:1992(MOD)にあたる(JIS K 2001:1993 規格票ページ(日本規格協会))。

SAE J300・J306 は 100℃で呼ぶ — 基準温度そのものが違う

自動車のエンジン油は SAE J300、ギヤ油は SAE J306 の分類で呼ぶ。こちらの基準温度は **100℃**だ。5W-30 のハイフンの右側「30」が 100℃の動粘度の帯を指している。

エンジン油(SAE J300・2021年版)の非Wグレードは次の8種。

SAE グレード100℃動粘度の下限(以上)上限(未満)
84.0 mm²/s6.1 mm²/s
125.0 mm²/s7.1 mm²/s
166.1 mm²/s8.2 mm²/s
206.9 mm²/s9.3 mm²/s
309.3 mm²/s12.5 mm²/s
4012.5 mm²/s16.3 mm²/s
5016.3 mm²/s21.9 mm²/s
6021.9 mm²/s26.1 mm²/s

表をよく見ると、帯どうしが重なっているのが分かる。100℃で 5.5 mm²/s の油は SAE 8 にも SAE 12 にも入る。動粘度だけでは1つに絞れない、という設計になっている。実際にどちらになるかは 150℃・せん断速度 10⁶ s⁻¹ で測る HTHS 粘度の下限で決まるのだが、HTHS は動粘度から計算できる量ではない。だからこのツールは動粘度で該当するグレードを全部並べる(SAE J300 - Wikipedia)。

ギヤ油(SAE J306・2019年2月版)の非Wグレードは 65 / 70 / 75 / 80 / 85 / 90 / 110 / 140 / 190 / 250 の10種で、こちらは帯が重なっていない。SAE 250 だけは下限 41.0 mm²/s があるだけで上限が無い。

そして W 側。0W・5W・10W……や 75W・80W は、前述のとおり低温側の試験で決まる規定なので、この分類は 100℃の動粘度とは別の軸で動いている。「5W-30」という表記は、低温の規定と 100℃の規定という別々の試験を両方満たす油という意味であって、粘度の値2つが並んでいるわけではない。

粘度指数 とは — 温度で粘度がどれだけ動きにくいか

ここまでで、ISO VG は 40℃、SAE は 100℃という別々の物差しだと分かった。橋を架けるのに要るのが粘度指数(VI)だ。

VI は「温度が変わったときに粘度がどれだけ動きにくいか」を表す無次元の数で、40℃と100℃の動粘度2つから決まる。値が大きいほど、温度が変わっても粘度が変わりにくい。計算の骨格は ASTM D2270 に決められている。

U = 40℃の動粘度、Y = 100℃の動粘度
L = 同じ Y を持つ「粘度指数 0 の油」の 40℃動粘度
H = 同じ Y を持つ「粘度指数 100 の油」の 40℃動粘度
(L と H は Y から規格の表を引いて求める)

U ≧ H のとき(手順A)  VI = (L − U) / (L − H) × 100
U < H のとき(手順B)   N  = (log10 H − log10 U) / log10 Y
                        VI = (10^N − 1) / 0.00715 + 100

つまり VI は「同じ 100℃動粘度を持つ2つの基準油のあいだで、この油はどのあたりにいるか」という位置を表す物差しだ。基準油そのものに乗っていれば VI は 0 か 100 になり、基準より温度に強ければ 100 を超える。手順が2つに分かれているのは、100 を超える領域では単純な内分では目盛が足りなくなるからで、U = H の点はどちらの式でも VI = 100 になるので分岐の取り違えは起きない。

規格には制限もある。100℃動粘度が 2.0 mm²/s 未満の油については、粘度指数を定義しないし報告してもいけないとはっきり書かれている。また VI は 40℃と100℃で定義された量なので、別の温度で測った2点から換算して求めた VI は附属書X1 で「情報用としては使えるが規格の合否判定には望ましくない」とされている。このツールも同じ線引きをしていて、非標準温度の2点から出した VI には参考値である旨の注記が添えられる。

粘度を1グレード間違えると何が起きるか

粘度は「多ければ安心」でも「少なければ軽くて得」でもない。両側に失敗がある。

薄すぎれば油膜が保たない。すべり軸受や歯面は、相手面との間に油の膜を作って金属どうしの接触を避けている。膜が薄くなれば凸部が当たり始めて摩耗が進み、行き着く先は焼き付きだ。逆に濃すぎると、油をかき回すこと自体が損失になって油温が上がる。ポンプは吸い込みきれずにキャビテーションを起こし、冬の朝は始動でうなる。油圧機器のメーカーが上限側の粘度も指定しているのはこのためだ。

厄介なのは、同じグレードの油でも運転温度では別物になりうることだ。ISO VG 46 は 40℃で 46 mm²/s と決まっているが、40℃から離れた温度でどうなるかは規格の縛りの外にある。VI 100 の VG 46 と VI 140 の VG 46 を比べると、80℃では 11.05 mm²/s に対して 12.43 mm²/s で +12.5%。0℃まで下げると 585 mm²/s に対して 428 mm²/s と、今度は −27% で高粘度指数の油のほうが薄い。同じ「VG 46」というラベルの下で、低温側ほど差が開いていく。40℃の値だけを見て2つを同じ油だと思うと、冬の始動性でも高温での油膜でも読み違えることになる。

寒冷地や屋外の建設機械で HV タイプ(ISO 6743-4 / ISO 11158 の分類で粘度指数 140 以上)の作動油が指定されるのは、まさにこの差を買っているからだ。夏場の高温でも油膜を保ちつつ、冬の朝に配管の中で固まらない。粘度グレードだけを合わせて VI の低い油を入れると、指定の意図をまるごと落とす。

もうひとつ、油分析の現場で「新油から ν40 が ±10% 動いたら注意」と言われる理由もここにある。この ±10% は経験則の数字ではなく、ISO VG の許容帯そのものだ。中心値の ±10% を外れた時点で、その油はもう名乗っていたグレードの範囲にいない。上に外れていれば酸化や煤の混入で増粘した疑い、下に外れていれば燃料希釈や異種油の混入の疑い、という読み方になる。定期分析の値をこのツールに入れて、どのグレードの帯に落ちているかを見れば、劣化がどちら向きに進んでいるかが一目で分かる。

現場でこのツールを開く場面

油分析レポートを読むとき。 分析結果に並んだ ν40・ν100・VI を入力すれば、その油がいまどのグレードの帯にいるかが返ってくる。新油のデータシート値と並べれば、増粘か希釈かの向きが分かる。

在庫の別グレードで代用できるか検討するとき。 「VG 68 が切れた。VG 46 と VG 100 のどちらが近いか」は、運転温度での粘度を見れば判断材料が揃う。40℃の値だけの比較より現実に近い。

海外製の機械を扱うとき。 マニュアルが SAE 表記で、手元の油は ISO VG 表記という組み合わせは珍しくない。どちらの向きにも引けるので、翻訳の手間なく突き合わせられる。

冬の始動性が気になるとき。 知りたい温度を下げていくと、低温側で粘度がどれだけ跳ね上がるかが数字と線図で見える。屋外の建設機械や寒冷地の設備で、朝いちばんの油がどんな状態かを掴むのに使える。ただし低温側は外挿になるので、その旨の注記も一緒に出る。

基本の使い方

1. 引き方を選ぶ。 「測定値から」か「グレードから」かを切り替える。手元にあるのが数値なら前者、缶のラベルの表記なら後者。

2. 値を入れる。 測定値からなら、40℃と100℃の2点を入れるのがいちばん強い。2点あれば粘度指数が実測値になり、仮定が消える。1点しか無い場合はその1点と仮定する粘度指数から温度線を引く。単位を cP(mPa·s)にしたときだけ密度が必須になる——粘度から動粘度へ渡るのに密度が要るからだ。cSt(mm²/s)で入れるなら密度は空でもよく、その場合は mPa·s の欄だけ出なくなる。グレードから引く場合は、5W-30 や 80W-90 といった缶に書いてある表記のまま選べばいい。判定に使われるのはハイフンの右側だけで、W 側は規定値が情報として表示される。

3. 結果を読む。 該当する ISO VG グレードと SAE グレード、40℃・100℃の動粘度、粘度指数、そして「知りたい温度」での動粘度と粘度が並ぶ。ASTM D341 の座標で描いた粘度‑温度線図には、油の温度線・測定点・該当グレードの帯が重なって表示されるので、帯のどのあたりにいるかが目で確かめられる。仮定した粘度指数を使っている場合は、その旨の注記が結果に添えられる。

具体的な使用例(7ケース)

以下はすべて、実際にツールに入力して得られた出力そのものだ。

ケース1: データシートに2点そろっている油(40℃ 46.0 / 100℃ 6.8 mm²/s)

入力: 40℃ 46.0 mm²/s、100℃ 6.8 mm²/s、密度 0.87 g/cm³、知りたい温度 60℃ 結果: 粘度指数 101.6、ISO VG 46、SAE エンジン油は SAE 12 と SAE 16 の両方、ギヤ油なら SAE 75。60℃での動粘度 20.62 mm²/s(17.94 mPa·s) 解釈: いちばん素直なケース。2点そろっているので粘度指数は仮定ではなく計算値になる。エンジン油側で2つ出ているのは J300 の帯が重なっているからで、絞り込みには HTHS が要る。40℃の 46.0 mm²/s は VG 46 の帯(41.4〜50.6)のど真ん中だ。

ケース2: ASTM D2270 の計算例A(40℃ 73.30 / 100℃ 8.86 mm²/s)

入力: 40℃ 73.30 mm²/s、100℃ 8.86 mm²/s 結果: 粘度指数 92.43、ISO VG 68、SAE 20、ギヤ油なら SAE 80 解釈: 規格本文に印刷されている計算例そのもので、規格の答え(VI 92)と一致する。鉱油系の VG 68 として典型的な数値だ。40℃の 73.30 は VG 68 の帯(61.2〜74.8)の上寄りにいる。

ケース3: 帯が重なる実例(ASTM D2270 計算例B1・40℃ 22.83 / 100℃ 5.05 mm²/s)

入力: 40℃ 22.83 mm²/s、100℃ 5.05 mm²/s 結果: 粘度指数 156.4、ISO VG 22、SAE エンジン油は SAE 8 と SAE 12 の両方、ギヤ油なら SAE 70 解釈: VI 156 は合成油の域。100℃の 5.05 mm²/s は SAE 8(4.0以上6.1未満)にも SAE 12(5.0以上7.1未満)にも入る。「動粘度からは1つに決まらない」ことが、規格の計算例の数字でそのまま起きる。

ケース4: ISO VG の帯に入らない油(40℃ 53.47 / 100℃ 7.80 mm²/s)

入力: 40℃ 53.47 mm²/s、100℃ 7.80 mm²/s 結果: 粘度指数 111.3、該当する ISO VG グレードなし(最寄りは VG 46 で +16.2%)、SAE エンジン油は SAE 16 と SAE 20、ギヤ油なら SAE 75 解釈: これも ASTM D2270 の計算例(B2)だが、40℃の 53.47 mm²/s は VG 46 の帯(41.4〜50.6)と VG 68 の帯(61.2〜74.8)のあいだに落ちる。ISO VG の階段は隣どうしが約1.5倍刻みなので、帯と帯のあいだには隙間があり、そこに落ちる油は普通にある。該当なしのときは最寄りグレードと中心値からの乖離率が出るので、「VG 46 寄りだが 16% 濃い」という読み方ができる。

ケース5: cP で測った値から引く(40℃ 40.0 mPa·s・密度 0.87 g/cm³)

入力: 単位を cP に切り替えて 40.0 mPa·s、測定温度 40℃、密度 0.87 g/cm³、仮定する粘度指数 95 結果: 動粘度 45.98 mm²/s、ISO VG 46、100℃動粘度は 6.643 mm²/s(仮定した VI 95 から算出) 解釈: 回転粘度計の値のように mPa·s でしか手元に無いときの入口。密度で割って動粘度に直したうえで、いつもどおりグレードに突き合わせる。2点目が無いので 100℃側は仮定した VI から引いた値であり、結果にもその旨が注記される。

ケース6: 同じ 5W-30 が、仮定次第で VG 68 にも VG 100 にもなる

入力: グレードから引く → SAE エンジン油 → 5W-30。仮定する粘度指数を 95 と 150 で切り替える 結果: VI 95 なら 40℃ 97.78 mm²/s = ISO VG 100 相当、VI 150 なら 40℃ 68.40 mm²/s = ISO VG 68 相当。100℃側はどちらも SAE 30 の帯(9.3以上12.5未満・中心 10.9 mm²/s)で変わらない 解釈: このツールを作った理由がそのまま出る例。同じ 5W-30 という表記で、仮定した粘度指数が違うだけで対応する ISO VG が1グレード以上動く。ネット上の対応表が「5W-30 ≒ VG 46」と書いたり「VG 68」と書いたりするのは、表を作った人が置いた仮定が違うからだ。手元の缶のデータシートに VI が載っているなら、その値を入れれば自分の油についての答えになる。

ケース7: 1点しか無い油を、仮定した粘度指数で両端まで伸ばす

入力: 60℃で 35 mm²/s、仮定する粘度指数 100、知りたい温度 40℃ 結果: 40℃ 85.37 mm²/s、100℃ 10.21 mm²/s、該当する ISO VG グレードなし(最寄りは VG 100 で −14.6%)、SAE エンジン油なら SAE 30 解釈: 運転中の油を運転温度で測った、というような1点だけの状況。仮定した VI を満たす(40℃, 100℃)の組を逆算して温度線を引くので、40℃と100℃の値まで届く。ただし VI が仮定である以上、答えも仮定に乗っている。この場合は VG 68 と VG 100 のあいだに落ちていて、「VG 100 よりやや薄い」という読み方になる。

仕組み・アルゴリズム

なぜ ASTM D341 の温度線を採ったか

ISO VG(40℃基準)と SAE(100℃基準)を橋渡しする方法は、大きく3つある。

(A) ASTM D341 の温度線を引く。 2点あれば決まり、規格本文に式が印刷されている。粘度指数の定義(ASTM D2270)と同じ 40℃/100℃ の座標系で閉じているのも都合がいい。

(B) 世に出回っている ISO VG ⇔ SAE の静的な対応表をそのまま持つ。 実装はいちばん軽い。だが表の中身は暗黙に「VI 95 前後の鉱油」を仮定して作られていることが多く、VI 150 の合成油に当てはめると1グレード分ずれる。しかも表自身に仮定が書かれていないので、ユーザーには検証しようがない。

(C) Vogel 式や Andrade 式のような3定数モデルを使う。 精度は上げられるが、定数が3つあるので2点の測定値からは決まらない。データシートに 40℃と100℃しか載っていないという現場の条件と噛み合わない。

採ったのは (A) だ。そのうえで、(B) が隠している VI の仮定を入力欄として表に出すのをこのツールの立ち位置にした。VI が実測で分かっているなら2点入力で仮定は消え、分からないなら値を動かして感度を確かめられる。

計算の流れ

入力(測定値 または グレード)
  ↓
ASTM D341 の温度線を1本決める
  log10(log10(ν + 0.7)) = A − B × log10(T + 273.15)
  ※ T は絶対温度[K]。℃ のまま log を取ると 0℃ で発散する
  ↓
その線の 40℃ と 100℃ の値を読む → ν40, ν100
  ↓
ν40  → ISO 3448 の帯 [中心×0.9, 中心×1.1](両端を含む閉区間)と照合
ν100 → SAE J300 / J306 の帯 [下限, 上限)(下限以上・上限未満)と照合
  ↓
ν40 と ν100 → ASTM D2270 で粘度指数 VI

動粘度に 0.7 を足してから log を2回取る、という一見奇妙な変換が D341 の核心で、この座標系に移すと油の粘度‑温度関係が直線になる。線図がそのまま直線で描けるのはこの性質のおかげだ。なお 0.7 を足すだけで済むのは動粘度が 2 mm²/s 以上のときで、それより薄い領域では補正項が要る。潤滑油の実務でその領域を扱うことはまず無いので、このツールは 2 mm²/s 未満では温度線を引かない仕様にして回避した。偶然だが ASTM D2270 も「100℃動粘度 2 mm²/s 未満では粘度指数を定義しない」としており、両者の下限が一致する。ひとつの閾値で両方を仕切れる。

L・H は表と式を切り替える

粘度指数の計算に要る L と H は、100℃動粘度 Y から引く。

Y < 2.0        → 粘度指数は定義しない(ASTM D2270 の規定)
2.0 ≦ Y ≦ 70.0 → Table 1(311行)を線形補間して L, H を得る
Y > 70.0       → L = 0.8353·Y² + 14.67·Y − 216
                 H = 0.1684·Y² + 11.85·Y − 97

表のほうは規格本文の Table 1 をそのまま持っている。311行あり、刻みが Y = 2.00〜20.0 で 0.1、20.0〜30.0 で 0.2、30.0〜70.0 で 0.5 と途中2回変わるので、行間隔を固定と決めつけた添字計算はできない。実装は「Y 以上になる最初の行」を探して前後2行で内挿している。

この311行をどう検証したかが、このツールでいちばん神経を使ったところだ。 表は規格の PDF から機械抽出したもので、抽出時に行がずれたり数字を取り違えたりすれば、粘度指数の計算は静かに間違った値を返し続ける。そこで規格本文に印刷されている計算例3件を、抽出した表で最後まで計算し直した(ASTM D2270 / IP 226 / BS 4459 の規格本文 PDF)。結果は計算例A が VI 92.43、B1 が 156.42、B2 が 111.31 で、規格の報告値(92 / 156 / 111)と3件とも一致した。計算例の Y はそれぞれ 8.86 / 5.05 / 7.80 と表の別々の場所を引くので、行がずれていれば必ずどれかで落ちる。311行の機械抽出に対する実質的な全数検査として機能している。

同じ考え方で、ISO VG の帯も「中心値 ±10%」の計算だけで持ち、表そのものは持っていない。独立した粘度分類表と全17行を突き合わせて、VG 2 の 1.98/2.42、VG 32 の 28.8/35.2、VG 1500 の 1350/1650 まで完全に一致することを確認したうえでの判断だ。SAE の帯は資料によって SAE 20 の下限が 5.6 だったり 6.9 だったりして食い違ったので、版を特定したうえで J300 の 2021年版(下限 6.9)と J306 の 2019年2月版を採用した。どの版を実装しているかは画面にも明記してある。

計算例を手で追う

ケース2で使った ASTM D2270 の計算例Aを、そのまま追いかけるとこうなる。

ν40 = 73.30 mm²/s、ν100 = 8.86 mm²/s

Table 1 を Y = 8.86 で補間 → L = 119.94、H = 69.48
U = 73.30 ≧ H = 69.48 なので手順A

VI = (L − U) / (L − H) × 100
   = (119.94 − 73.30) / (119.94 − 69.48) × 100
   = 46.64 / 50.46 × 100
   = 92.43

なお規格は粘度指数を整数に丸めて報告するよう指示しているが、このツールは小数第1位まで表示している。油分析でトレンドを追うときは、丸める前の値のほうが変化の向きを読み取りやすいからだ。報告書に転記するときは整数に丸めればいい。

逆方向は二分法で解く

グレードから引くとき、たとえば「SAE 30 の中心 10.9 mm²/s と VI 150 から 40℃の動粘度を出す」向きは、L と H が Y だけで決まるので式を変形すれば直接解ける。厄介なのは逆で、「40℃の 46 mm²/s と VI 95 から 100℃の動粘度を出す」向きだ。L と H は 100℃動粘度の関数なので、求めたい値が両辺に入ってしまって式として解けない。

ここは単調性を使った。40℃の動粘度を固定したまま 100℃の動粘度を増やすと、粘度指数は単調に増える。だから区間を半分に割り続ければ必ず目的の VI に届く。区間は [2.0 mm²/s, 40℃動粘度の 0.999 倍] に取る(100℃のほうが 40℃より濃い油は存在しないので、上端はこれで足りる)。200回割れば浮動小数の精度で頭打ちになるので、収束は実質完全だ。

区間の端で目的の VI を挟めない場合は「その 40℃動粘度で、その粘度指数を満たす油は存在しない」ということになる。実際 ISO VG 2 を選ぶと、100℃側が D2270 の下限 2 mm²/s を割ってしまって橋を渡れない。このとき結果全体をエラーにすると、ユーザーが自分で選んだ VG 2 の 40℃の情報まで消えてしまうので、渡れなかった理由を1行出したうえで 40℃側の結果はそのまま返すようにした。第2測定点が使えないとき(第1点と同じ温度になっている、範囲外の値が入っている、など)も同じ考え方で、仮定した VI に切り替えたうえで切り替えた理由を表示する。

帯の照合は「閉区間と半開区間」を区別する

最後の照合でひとつ落とし穴がある。ISO VG の帯は両端を含む閉区間、SAE の帯は下限以上・上限未満の半開区間で、開閉の扱いが違う。100℃動粘度がちょうど 9.3 mm²/s の油は、SAE 30(9.3 以上)に該当して SAE 20(9.3 未満)には該当しない。境界の1点で答えが変わる。

さらに、ISO VG の帯は中心値 × 0.9 と × 1.1 を計算で出しているので、40℃動粘度がちょうど 28.8 mm²/s(= 32 × 0.9)のような値だと、IEEE754 の丸め誤差で帯からわずかに外れることがある。実装では 1e-9 の許容誤差を入れた比較にして、境界ちょうどの入力が取りこぼされないようにしてある。区間の重なり判定は関数をひとつだけ書いて ISO VG・SAE エンジン油・SAE ギヤ油の3系から呼ぶ形にした。同じ判定を3箇所に書くと、許容誤差と開閉の扱いがいずれ食い違うからだ。

単位換算ツールとも、メーカーの対応表とも違うところ

前半で触れたとおり、この分野の既存情報は「単位換算だけで終わるツール」と「仮定を書かない静的な対応表」の2つに割れている。数値を入れて確かめられる側にはグレードが無く、グレードが載っている側は数値を動かせない。この2つの空白を1画面で埋めるのが狙いだ。

違いは3点に絞れる。

(a) 仮定を入力欄として表に出した。 40℃と100℃を橋渡しする以上、粘度指数の仮定は必ずどこかに存在する。表の形で配ると仮定は紙の裏に隠れるが、入力欄にすれば読者が自分で振れる。95 と 150 を入れ替えたときに答えが動くなら、その対応はもともと仮定に強く依存していたということだ。

(b) SAE の W グレードを判定しない。 判定できない理由そのものは前半で扱ったとおりだ。ここで言いたいのは姿勢のほうで、出せないものを出さないと画面に明記したことがこのツールの2つ目の軸になっている。100℃動粘度から W 側まで出してしまう実装は英語圏のツールに実在する。

(c) 使った規格の版を書いている。 エンジン油は SAE J300 の2021年版、ギヤ油は SAE J306 の2019年2月版、工業用は ISO 3448(JIS K 2001)、温度換算は ASTM D341、粘度指数は ASTM D2270。J306 は2025年2月にさらに改訂されているが、追加された低粘度グレードの帯の数値が公開情報で確認できないため、このツールは2019年版のまま実装し、その事実を画面にも書いてある。

役割分担も書いておく。このツールの出口は「運転温度での粘度[mPa·s]」で、そこから先は配管圧力損失計算、オリフィス板流量計設計、撹拌機 動力計算シミュレーターの入力欄がそのまま受け取れる形になっている。すべり軸受 PV値・寿命設計ツールは油膜そのものを計算するわけではないが、「どの粘度の油を入れるか」を考える場面が地続きなので導線として繋いである。規格の違うスケールを相互変換するという意味では硬さ換算ツールと同じ形をしているが、硬さは換算表そのものが規格で定義されているのに対し、粘度グレードは基準温度が違うぶん必ず仮定が挟まる。同じ「換算」でも性格がまるで違う。

粘度グレードの数字にまつわる四つの話

40℃と100℃という温度は、もとは華氏だった。 粘度指数の古い体系は 100°F と 210°F の2点で定義されていた。摂氏に直すと 37.78℃ と 98.89℃ という半端な数字になる。SI 化のときに切りのよい 40℃・100℃ へ移されたのだが、ASTM D2270 の脚注には、旧体系の 37.78℃/98.89℃ から求めた粘度指数と現行の 40℃/100℃ から求めたものはほぼ同じ値になる、と書かれている。データシートに 40℃ と 100℃ が並んでいる理由は物理的な必然ではなく、華氏の時代から連続して使われてきた指標の名残に近い。

粘度指数が0〜100の物差しなのは、両端に実在の原油を置いたから。 粘度指数は1929年に Dean と Davis が考案したもので、ナフテン系を多く含むガルフ・コーストの原油から作った油を 0、パラフィン系のペンシルバニア原油から作った油を 100 として目盛を切った(粘度指数 - Wikipedia)。つまり100点満点の点数ではなく、当時手に入った2種類の原油を基準にした相対尺度でしかない。だから後から出てきた合成油は平気で 100 を超えるし、逆に 0 を下回る油も存在する。このツールが仮定できる粘度指数の下限を負の値まで開けてあるのはそのためだ。

ISO VG の階段が「次は約1.5倍」なのは、10倍を6等分したから。 18グレードの中心値の隣接比を並べると 1.4545 / 1.4375 / 1.4783 / 1.4706 / 1.5 / 1.4667 の6つの値が、そのままの順で繰り返し現れる(18グレードなので3周目の途中で表が尽きる)。この6値の幾何平均は 10 の6乗根、つまり 1.4678 だ。1桁(10倍)あたり6グレードの等比階段を、現場で扱いやすい切りのよい数字に丸めたものが ISO VG の並びということになる。「1つ上のグレードは1.5倍ちょっと濃い」という現場の経験則は、規格の設計思想そのものを言い当てていたことになる。

SAE の分類は、いまも中身が動いている生き物だ。 エンジン油側では2013年4月の改訂で SAE 16 が新設され、同時に SAE 20 の100℃動粘度の下限が 5.6 から 6.9 に引き上げられた。2015年には SAE 8 と SAE 12 が追加されている。ギヤ油側の SAE J306 は2019年2月の改訂で 65/70/75 を新設し、それまで1本だった SAE 90 を 90 と 110 に、SAE 140 を 140 と 190 に分割した。さらに2025年2月の改訂では電動車の駆動系向けに 62W〜65W が追加されている(SAE J306 の解説)。粘度の細分化はそのまま省燃費・電動化の圧力の記録になっていて、規格の改訂履歴を追うだけで、この20年の駆動系がどこへ向かったかが読める。

使うときの小さなコツ

  • データシートに 40℃ と 100℃ の両方があるなら、必ず2点とも入れる。 2点入れた瞬間に粘度指数は仮定値から実測値に切り替わり、温度線も実測ベースになる。片方だけ入れて済ませると、いちばん効く前提を機械任せにすることになる。

  • 1点しかないときは、仮定する粘度指数を 95 と 150 で振ってみる。 答えが同じグレードに留まるなら、その結論は仮定に依存していないと分かる。逆にグレードが動いたら、その油の粘度指数を調べるところからやり直したほうが早い。判断の前に「この答えは仮定にどれだけ寄りかかっているか」を測っておく、という使い方をしてほしい。

  • 「知りたい温度」は、40℃のままにせず実際の油温に合わせる。 油圧なら 50〜60℃、エンジンなら 100℃前後が普通だ。データシートの 40℃値だけを見ていると、現場で実際に効いている粘度を見誤る。温度を動かすと粘度がどれくらいの速さで落ちるかも同時に見えるので、スライダーは一度端から端まで動かしてみるといい。

  • 油分析レポートの値と、新油のデータシート値を続けて入れてみる。 1回の入力で終わらせず、2回引いて並べるのがこのツールのいちばん実用的な使い方だ。同じ帯に留まっているのか、片方だけ外れているのかは、前半の実務の節で扱った ±10% の見方がそのまま当てはまる。

  • コピー用のテキストには、粘度指数が実測か仮定かも入る。 報告書やメールに貼っても前提が消えないようにしてあるので、結果だけを手で写すより、コピーしたテキストごと渡したほうが誤読が減る。

よくある質問

結局、5W-30 は ISO VG でいうと何番なのか

一意には決まらない。5W-30 の「30」は100℃動粘度の帯で定義されていて、ISO VG は40℃動粘度で定義されている。基準温度が違う2つを繋ぐには、その油が温度に対してどれだけ粘度を変えるか、つまり粘度指数を仮定するしかない。同じ 5W-30 でも、鉱油系のつもりで粘度指数を低めに仮定するか、マルチグレードらしく高めに仮定するかで、対応する ISO VG は1グレード以上動く。具体的にどこまで動くかは、前半の使用例の最後のケース(同じ 5W-30 を2つの仮定で引いた例)を見てほしい。数字を1つだけ言い切っているページを見かけたら、その裏でどんな仮定が置かれているかを疑ったほうがいい。

W グレード(5W や 80W の側)の判定はなぜ出ないのか

W 側は100℃動粘度では決まらないからだ。エンジン油の W は低温クランキング粘度(CCS)とポンピング粘度(MRV)という別の低温試験で、ギヤ油の W はブルックフィールド粘度が 150,000 mPa·s に達する温度で規定されている。いずれもこのツールが扱っている動粘度とは別の測定量なので、原理的に計算では出せない。出せないものを推定して出すと、規格の読み違いがそのまま結果になってしまう。理由の詳しい中身は前半で扱っている。W 側を確かめたいときは、製品のデータシートに書かれている W グレードをそのまま信じるのが正しい。

ひとつの100℃動粘度で SAE 8 と SAE 12 の両方が出ることがあるのはなぜか

SAE J300 の非Wグレードは帯どうしが重なっているからで、その事情と HTHS 粘度の役割は前半の解説で扱っている。ツール側の振る舞いとしては、該当したグレードを勝手に1つへ絞らず全部並べる。複数出たときは「動粘度の条件だけで見ればこれらの候補が残る」という意味に読んでほしい。手元の油が実際にどちらを名乗るかは、製品データシートの表記を見るのが確実だ。

粘度指数の計算に使っている L・H の値はどこから来ているのか

前半の仕組みの節で説明したとおり、ASTM D2270 の表からそのまま取っている。ここではツール側の振る舞いだけ補足する。表は100℃動粘度が 2〜20 で 0.1 刻み、20〜30 で 0.2 刻み、30〜70 で 0.5 刻みと途中2回粗くなるので、入力がその刻みからずれた値のときは規格の指示どおり線形補間している。表の上限である 70 mm²/s を超えたら、規格が用意している2次式に自動で切り替わる。逆に100℃動粘度が 2 mm²/s を下回ると、規格が「粘度指数を定義せず報告してはならない」としている領域に入るので、このツールも値を出さず、理由を添えて空欄にする。

粘度指数に「参考値」と注記が付くことがあるのは何か

40℃と100℃以外の温度で測った2点から粘度指数を求めたときに付く。規格上の位置づけは前半の解説で触れたとおりなので、ここではツールの扱いだけ書いておく。非標準温度の2点を入れても計算は止めず、温度線から40℃と100℃の値を求めたうえで粘度指数を出すが、結果には参考値である旨を添える。20℃と60℃で測ったデータしかない、といった現場でよくある状況をそのまま扱えるようにしつつ、規格上の扱いは曖昧にしない、という切り分けだ。報告書に「粘度指数」として載せるなら、40℃と100℃で測り直した値を使ってほしい。

メーカーの対応表と数字が合わないことがある

原因はだいたい2つある。1つは規格の版の混在だ。たとえば SAE 20 の100℃動粘度の下限は、2013年4月の改訂で 5.6 から 6.9 へ引き上げられている。改訂前の表と改訂後の表が両方ネット上に残っているうえ、SAE 8・12 のような新しいグレードを載せながら SAE 20 の下限だけ古い値のままになっている資料も実在する。もう1つは仮定した粘度指数の違いで、こちらは対応表側に書かれていないことがほとんどだ。数字が合わないときは、まず相手の表が何年版か、どんな油を想定して作られたかを確かめてほしい。このツールが使っている版は結果のコピー用テキストにも入れてある。

入力した粘度や温度はどこかに送信されるのか

送信していない。計算はすべてブラウザの中で完結していて、入力値がサーバーに送られることも、保存されることもない。油分析レポートの実測値や、社外に出せない製品データシートの数値をそのまま入れても問題ない。ページを閉じれば入力内容は残らないので、続きから使いたいときは結果をコピーして手元に控えておくといい。

まとめ

粘度の値とグレードは行き来できる。ただしその橋には、必ず粘度指数の仮定が架かっている。ISO VG は40℃、SAE は100℃という別の温度で定義されている以上、この仮定を抜きにした対応表は存在しない。答えを1つ受け取って終わりにせず、仮定を振って答えがどれだけ動くかまで見てほしい。

運転温度での粘度が出たら、そのまま配管圧力損失計算オリフィス板流量計設計撹拌機 動力計算シミュレーターの入力に使える。潤滑まわりを続けて詰めるならすべり軸受 PV値・寿命設計ツール、規格スケール間の換算という同じ形の道具としては硬さ換算ツールもある。

使ってみて気になった点や、手元の資料と合わない箇所があればお問い合わせページから教えてほしい。

M

Mahiro

Mahiro Appの開発者。棚の ISO VG 46 が切れた金曜の夕方に、隣の 5W-30 のペール缶を裏返しながら「これは VG でいうと何番なんだ」と30分悩んだのが、このツールの出発点になっている。

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