「設計図は完璧、なのに組み立てたら入らない」
3つの部品を図面通りに加工して、いざ組み立てたらガタガタ。あるいは逆に、隙間があるはずの箇所が干渉して組めない——機械設計の現場で、こんな経験をしたことがある人は多いだろう。
原因の多くは公差の積み上げだ。1つひとつの部品は公差内に収まっていても、複数の部品を重ねると公差が累積し、想定外の隙間や干渉が発生する。この「積み上げ効果」を事前に計算するのが公差積み上げ(トレランス・スタックアップ)解析だ。
公差積み上げシミュレーターは、部品の公称寸法と公差を入力するだけで、ワーストケース法・RSS法の2手法で累積公差を算出し、干渉判定まで即座に完了するツール。SVGスタック図で部品構成を視覚的に確認できるのもポイントだ。
なぜ公差積み上げシミュレーターを作ったのか
Excelで毎回表を組む苦行
公差積み上げ計算そのものは難しくない。部品ごとの寸法と公差を表にまとめ、合算するだけ。しかし実務では、この「表を組む」作業が地味に面倒だ。
新しい設計案が出るたびにExcelの公差表をコピーして、部品数を増減させて、数式を修正して、上限公差と下限公差を入れ替えて……。部品構成が変わるたびに手直しが必要で、検討の度にファイルが増殖していく。しかもExcel表では「ワーストケースとRSSの比較」が一目でできない。シートを2枚作って見比べるか、セルに条件分岐を組むか。いずれにしても手間がかかる。
こだわった設計判断
- ワーストケース法とRSS法のワンタップ切替: 2手法の結果を瞬時に比較できる。量産品ならRSS、安全クリティカルならワーストケースという判断がその場で可能
- 部品の動的追加・削除: Excelのように行を挿入する手間がない。ボタン1つで部品を追加し、不要な行はワンタップで削除
- SVGスタック図: 数値だけでは部品構成の全体像がつかみにくい。横方向のブロック図で、どの部品がどの方向に寄与しているかを直感的に把握できる
- 方向(+/-)の明示: 寸法チェーンで最も間違えやすいのが符号の向き。+方向(隙間が増える)と-方向(隙間が減る)をボタンで切り替え、色分けで可視化
寸法チェーンと公差積み上げの基礎 — 公差積み上げ 計算とは
公差積み上げ とは
公差とは、加工や製造のばらつきを許容する寸法の幅のこと。たとえば「10.0 ±0.05 mm」と図面に書いてあれば、9.95mmから10.05mmまでの範囲なら合格という意味だ。
では、こうした部品が3つ、4つと重なったらどうなるか。たとえるなら、積み木遊びを想像してみて。1つの積み木の高さが「だいたい3cm」だとしても、10個積むと「だいたい30cm」にはならない。1個1個の微妙なズレが蓄積して、最終的に予想より高くなったり低くなったりする。
これが公差の積み上げだ。部品ごとの製造ばらつきが、組立後の全体寸法に累積的に影響する現象。そして、この累積効果を定量的に予測する手法が「公差積み上げ計算」あるいは「寸法チェーン解析」と呼ばれる。
公差の種類 — 寸法公差・幾何公差・一般公差の違い
公差にはいくつかの種類がある。それぞれの適用範囲を理解しておくことが、正しい公差積み上げの前提になる。
| 種類 | 対象 | 規格 | 図面指示例 | 公差積み上げでの扱い |
|---|---|---|---|---|
| 寸法公差 | 長さ・直径 | JIS B 0401 | φ50 H7(+0.025/0) | 直接計算対象 |
| 幾何公差(GD&T) | 形状・姿勢・位置 | JIS B 0021 | 位置度 φ0.05 | 1D計算では考慮困難 |
| 一般公差 | 個別指示のない寸法 | JIS B 0405 | 図面枠に「JIS B 0405 中級」 | 見落としやすいが累積する |
本ツールが扱うのは「寸法公差」の1D積み上げ。幾何公差(真円度、位置度など)は3D CADの公差解析モジュール(CETOL、3DCSなど)が必要になるが、実務では寸法公差の1D解析だけで多くの干渉問題を事前に検出できる。
IT等級 とは — 公差の「ものさし」
ISO/JISの公差等級(IT: International Tolerance)は、基本寸法に応じた公差幅を等級ごとに規定したものだ。IT01が最も厳密で、IT18が最も緩い。一般的な機械加工ではIT6〜IT11が使われる。
以下に、基本寸法50mmでの各IT等級の公差幅を示す:
| IT等級 | 公差幅(μm) | 加工方法の目安 | コスト感 |
|---|---|---|---|
| IT5 | 11 | 精密研削 | ★★★★★ |
| IT6 | 16 | 研削 | ★★★★ |
| IT7 | 25 | 旋削(精密) | ★★★ |
| IT8 | 39 | 旋削(標準) | ★★ |
| IT9 | 62 | フライス加工 | ★★ |
| IT10 | 100 | ドリル加工 | ★ |
| IT11 | 160 | 荒加工・鋳造 | ★ |
IT7の25μmとIT11の160μmでは6倍以上の差がある。IT11相当の部品が5個積み重なると、ワーストケースで最大0.8mmの累積公差が発生しうる。「個々の部品は検査に合格しているのに、組立で干渉する」現象はここに原因がある。
はめあい方式 とは — 穴基準と軸基準
公差積み上げで特に重要なのが「はめあい」の概念だ。穴と軸の組み合わせには、穴基準はめあいと軸基準はめあいの2方式がある。
- 穴基準はめあい: 穴の公差を固定(H公差 = 下限差0)し、軸の公差で隙間・締め代を調整する方式。穴加工のリーマは高価なので、穴を標準化して軸で調整するのが経済的
- 軸基準はめあい: 軸の公差を固定(h公差 = 上限差0)し、穴の公差で調整する方式。同一軸に複数の穴部品が嵌まる場合に有利
実務では穴基準はめあい(H7/g6、H7/h6、H7/p6など)が圧倒的に多い。公差積み上げ計算で穴-軸の嵌合を扱うときは、この「基準側が片側公差(0〜+)」という特性を正しく入力することが重要だ。
寸法チェーン とは
寸法チェーンとは、組立体の中で複数の部品寸法が直列に連なり、最終的な隙間(ギャップ)や締め代を決定する一連の寸法のこと。JIS B 0401(寸法公差及びはめあいの方式)で定義される公差の概念をベースに、個々の部品公差がどう累積するかを解析する。
計算の基本構造はシンプル:
全体寸法 = 部品1の寸法 + 部品2の寸法 + ... + 部品Nの寸法
ギャップ = 目標寸法 − 全体寸法
各部品には「方向」がある。隙間を広げる方向(+)と狭める方向(-)。部品の配置向きに応じて符号を正しく設定することが、公差積み上げ計算の第一歩だ。
累積公差を甘く見ると何が起きるか
干渉事故の典型パターン
公差積み上げを軽視した結果、組立段階で干渉が発覚するケースは珍しくない。たとえば自動車のトランスミッション内部で、歯車の軸間距離が設計値より詰まってしまい、歯当たり不良から異音やギヤ抜けが発生する。個々の部品は検査に合格しているのに、組み合わせた途端に不具合が出る——これが公差積み上げの怖さだ。
IT等級と累積の関係
JISの寸法公差体系では、IT5からIT12までの等級で公差幅が段階的に大きくなる。IT7(精密加工)の公差幅は0.02mm程度だが、IT11(一般加工)では0.1mm以上になる。
ここで重要なのは、IT11相当の部品が5個積み重なると、ワーストケースでは0.5mm以上の累積公差が発生しうるということ。0.5mmの隙間差は、精密機器では致命的だ。
量産品の歩留まりへの影響
試作段階では問題なくても、量産で不良率が跳ね上がることがある。試作品は「たまたま」公差の中央付近で加工されていただけで、量産ではばらつきの端まで使い切る部品が混在するため。公差積み上げを事前に計算しておけば、量産移行時のリスクを大幅に低減できる。
公差積み上げが活躍する4つの場面
- 嵌合設計: 軸と穴の隙間管理。すきまばめ・しまりばめの判定で累積公差を考慮しないと、組立不良や回転不良の原因になる
- 多部品アセンブリ: ギヤボックスやシリンダブロックなど、5部品以上が直列に並ぶ構造では公差積み上げが顕著に効いてくる
- 量産前の設計検証: 試作OKでも量産で不良が出るパターンを事前に予測。ワーストケースとRSSの差を見て、量産リスクを定量的に評価
- VE(バリューエンジニアリング)検討: 公差を緩和してコストダウンできないか、あるいは公差を厳しくすべき部品はどれかを判断する材料に
基本の使い方 — 3ステップで完了
- 部品を追加: 「+部品を追加」ボタンで部品行を追加し、公称寸法・上限公差・下限公差を入力。方向(+/-)ボタンで隙間が増える向きか減る向きかを設定する
- 目標ギャップを設定: 組立後に確保したい隙間の公称値を入力。この値から部品寸法の合計を差し引いたものが公称ギャップになる
- 結果を確認: ワーストケース法とRSS法をタブ切替で比較。干渉判定(余裕あり/ギリギリ/干渉あり)がカラーで即表示される。SVGスタック図で部品構成を視覚的に確認
具体的な使用例で確かめる — 公差積み上げ 計算例
ケース1: 軸穴はめあい(2部品)
入力: 目標ギャップ=0、部品1(穴)=50mm +0.025/0(+方向)、部品2(軸)=50mm 0/-0.025(-方向)
→ 公称ギャップ = 0 - (50×1 + 50×(-1)) = 0 mm → ワーストケース: tolPlus = 0.025+0.025 = 0.050, tolMinus = 0+0 = 0 → 最大隙間 = 0.050 mm、最小隙間 = 0.000 mm → 干渉判定: ギリギリ(最小隙間が0に近い)
解釈: H7/g6相当のすきまばめ。最悪条件でもギリギリ干渉しないが、余裕は極めて少ない。
注意: はめあい記号だけで安心せず、実際の公差値を入力して確認すること。同じH7でも基本寸法によって公差幅が変わる(φ30のH7は+0.021、φ80のH7は+0.030)。
ケース2: 3段歯車の軸間距離
入力: 目標ギャップ=100mm、部品1=30mm ±0.05(+方向)、部品2=35mm ±0.05(+方向)、部品3=30mm ±0.05(+方向)
→ 公称ギャップ = 100 - 95 = 5 mm → ワーストケース: tolPlus = 0.15, tolMinus = 0.15 → 最大隙間 = 5.15 mm、最小隙間 = 4.85 mm → RSS法: tolPlus = √(0.05²×3) = 0.087, tolMinus = 0.087 → RSS最大隙間 = 5.087 mm、RSS最小隙間 = 4.913 mm
解釈: ワーストケースでは±0.15mmのばらつきだが、RSSでは±0.087mmに収まる。量産品であればRSSで判断して問題ない。
注意: 歯車の軸間距離がばらつくとバックラッシュが変動し、騒音や振動の原因になる。ギヤ設計では累積公差だけでなく、バックラッシュの許容範囲との照合が必要。
ケース3: 樹脂成形品の嵌合(公差大)
入力: 目標ギャップ=0.3mm、部品1=15mm +0.2/-0.1(+方向)、部品2=14mm +0.15/-0.1(-方向)
→ 公称ギャップ = 0.3 - (15 - 14) = -0.7 mm ← 公称ですでにマイナス
解釈: 部品の公称寸法だけで干渉している。設計の見直しが必要。このように入力間違いや設計ミスも即座に検出できる。
注意: 樹脂成形品は金属部品より公差が大きい(一般に±0.1〜±0.3mm)。さらに成形後の収縮(0.4〜2.0%)や吸湿膨張を考慮する必要がある。公称寸法の段階で十分なギャップを確保しないと、温度変化で干渉するリスクが高い。
ケース4: 板金積層(5部品)
入力: 目標ギャップ=10mm、部品1〜5すべて2mm ±0.1(+方向)
→ 公称ギャップ = 10 - 10 = 0 mm → ワーストケース: tolPlus = 0.5, tolMinus = 0.5 → 最大隙間 = 0.5 mm、最小隙間 = -0.5 mm → 干渉あり → RSS法: tolPlus = √(5×0.01) = 0.224, tolMinus = 0.224 → RSS最小隙間 = -0.224 mm → RSSでも干渉
解釈: 公称値ではぴったりだが、公差の積み上げで干渉が発生する典型例。部品公差を±0.05に厳格化するか、目標ギャップを0.5mm以上に設定し直す必要がある。
注意: 板金のプレス加工は曲げRやスプリングバックの影響で寸法が安定しにくい。±0.1は楽観的な場合もあり、実測データに基づいて工程能力を確認してから公差値を設定するのが望ましい。
ケース5: 自動車エンジンのピストン-シリンダ
入力: 目標ギャップ=0、部品1(シリンダ内径)=86mm +0.015/0(+方向)、部品2(ピストン外径)=86mm -0.020/-0.040(-方向)
→ 公称ギャップ = 0 - (86 - 86) = 0 mm → ワーストケース: tolPlus = 0.015+0.040 = 0.055, tolMinus = 0+0.020 = 0.020 → 最大隙間 = 0.055 mm、最小隙間 = -0.020 mm → 干渉リスクあり
解釈: ワーストケースでは最小隙間が-0.020mmで干渉する。ただしこれは冷間時の計算値。エンジン運転時にはアルミ製ピストンが熱膨張して隙間が詰まる設計になっている。冷間で0.02〜0.05mmの隙間が確保される条件でクリアランスを管理する。
よくある間違い: 常温での寸法だけで判定すること。ピストン-シリンダ間のクリアランスは運転温度での熱膨張を見込んだ設計なので、冷間の公差積み上げだけでは不十分。材質の線膨張係数(アルミ: 23×10⁻⁶/K、鋳鉄: 11×10⁻⁶/K)を考慮した温度補正が必須。
ケース6: 電子機器の筐体組立(基板-カバー間ギャップ)
入力: 目標ギャップ=20mm(筐体内高さ)、部品1(底板厚さ)=1.5mm ±0.1(+方向)、部品2(基板+部品高さ)=12mm ±0.3(+方向)、部品3(スペーサ)=2mm ±0.05(+方向)、部品4(コネクタ高さ)=3mm ±0.2(+方向)
→ 公称ギャップ = 20 - 18.5 = 1.5 mm → ワーストケース: tolPlus = 0.1+0.3+0.05+0.2 = 0.65, tolMinus = 0.65 → 最小隙間 = 1.5 - 0.65 = 0.85 mm → RSS法: tolMinus = √(0.01+0.09+0.0025+0.04) = √0.1425 = 0.378 → RSS最小隙間 = 1.5 - 0.378 = 1.122 mm
解釈: ワーストケースでも0.85mmの隙間が残るので干渉しない。ただし電子機器ではEMC対策のシールドガスケットやケーブルの取り回しで実効的な空間が狭くなることがある。
よくある間違い: 基板上の部品高さを公称値だけで見積もること。電解コンデンサやコネクタはメーカー公差が±0.3〜±0.5mmと大きい部品が多く、データシートの最大高さ寸法を使って安全側で計算すべき。
アルゴリズム解説 — ワーストケース法 vs RSS法
2つの手法の比較
公差積み上げには主に3つの手法がある。
| 手法 | 原理 | 適用場面 | カバー率 |
|---|---|---|---|
| ワーストケース法 | 全公差を単純加算 | 安全クリティカル、少量生産 | 100% |
| RSS法(二乗和平方根) | 統計的に二乗和の平方根を取る | 量産品、コスト最適化 | 99.73%(3σ) |
| モンテカルロ法 | 乱数シミュレーション | 非正規分布、複雑な系 | 任意 |
本ツールではワーストケース法とRSS法を採用した。モンテカルロ法は将来のアップデートで追加予定。
ワーストケース法の計算フロー
全ての部品が最悪の方向にばらついた場合を想定する。全公差を単純に加算するため、結果は最も保守的になる。
累積公差(+側) = Σ |upper_i| (各部品の上限公差の絶対値の合計)
累積公差(−側) = Σ |lower_i| (各部品の下限公差の絶対値の合計)
最大隙間 = 公称ギャップ + 累積公差(+側)
最小隙間 = 公称ギャップ − 累積公差(−側)
ただし、+方向と-方向の部品では公差の寄与が逆転する:
- +方向部品: upperが隙間増加に、lowerが隙間減少に寄与
- -方向部品: lowerが隙間増加に、upperが隙間減少に寄与
RSS法の計算フロー
各公差の二乗和の平方根を取ることで、統計的な累積公差を求める。正規分布を仮定し、3σ(99.73%)の信頼区間で評価する。
累積公差(+側) = √(Σ upper_i²)
累積公差(−側) = √(Σ lower_i²)
計算例: ステップバイステップ
条件: 目標=50mm、部品A=20mm +0.1/-0.05(+方向)、部品B=25mm +0.08/-0.03(-方向)
Step 1: 公称ギャップ = 50 - (20×(+1) + 25×(-1)) = 50 - (-5) = 55 mm
Step 2(ワーストケース):
tolPlus = |0.1|(Aのupper)+ |0.03|(Bのlower)= 0.13
tolMinus = |0.05|(Aのlower)+ |0.08|(Bのupper)= 0.13
Step 3(RSS):
tolPlus = √(0.1² + 0.03²) = √(0.0109) = 0.104
tolMinus = √(0.05² + 0.08²) = √(0.0089) = 0.094
Step 4: 最大/最小隙間
ワーストケース: max=55.13, min=54.87
RSS: max=55.104, min=54.906
RSS法はワーストケースより公差幅が約20%小さくなる。部品数が増えるほどこの差は大きくなり、5部品以上ではRSSが50%以上小さくなることも珍しくない。
Excel手作りやCAD公差解析との違い
| 比較項目 | 本ツール | Excel手作り | CAD公差解析 |
|---|---|---|---|
| セットアップ | 即座に開始 | テンプレート作成が必要 | CADモデルが必要 |
| 部品追加・削除 | ボタン1つ | 行の挿入・数式修正 | フィーチャ再定義 |
| 手法切替 | ワンタップ | シート複製 or IF関数 | ソフト依存 |
| 可視化 | SVGスタック図 | 手作り or なし | 3Dモデル上に表示 |
| コスト | 無料 | Excel必要 | 高額ライセンス |
| モバイル | 対応 | 非対応 | 非対応 |
| 精度 | 1D線形解析 | 同左 | 3D GD&T対応 |
本ツールは「サッと計算して判断する」用途に特化している。CADの公差解析モジュール(CETOL、3DCSなど)は幾何公差や3次元的な効果まで考慮できるが、ライセンス費用が年間数百万円と高額で、操作の習得にも時間がかかる。設計の初期段階で「そもそも干渉するか?」を素早くチェックしたい場面では、本ツールのようなシンプルなスタックアップ計算で十分だ。
公差の豆知識
IT等級の由来
ISO/JISで定義される「IT」は International Tolerance の略。IT1が最も厳密で、IT18が最も緩い。一般的な機械加工ではIT6〜IT11が使われる。IT等級は基本寸法によって公差値が変わり、たとえばφ50mmのIT7は25μm、IT11は160μmだ。
6σと工程能力指数Cpk
RSS法の「3σ」は正規分布の標準偏差3つ分で、理論上99.73%の部品がこの範囲に収まる。一方、製造業で有名な「シックスシグマ」は6σの範囲(99.99966%)を目指す品質管理手法。
工程能力指数Cpk = min((USL-μ)/(3σ), (μ-LSL)/(3σ)) は、公差に対して実際のばらつきがどれだけ余裕があるかを示す指標。Cpk ≥ 1.33(4σ相当)が一般的な合格基準だ。
互換性の歴史
公差の概念が体系化されたのは産業革命期のイギリス。それ以前は職人が1つずつ部品を擦り合わせて組み立てていた。ホイットニーが1798年にマスケット銃の部品互換性を実証したのが、公差に基づく製造の原点と言われている。
Tips — 精度を上げるための注意点
- RSS法の適用条件: 各部品の公差が独立で正規分布に従うことが前提。同一ロットから取った部品(相関あり)や、偏りのある工程にはRSSを安易に適用しないこと
- 片側公差の扱い: +0.1/0 のような片側公差は、中心がシフトしている。本ツールではそのまま入力可能だが、RSS法の精度は両側対称公差のほうが高い
- 温度変化の影響: 線膨張係数の異なる材料(アルミとスチールなど)を組み合わせる場合、温度変化で寸法が変わる。常温での公差積み上げだけでは不十分な場合がある
- 幾何公差は別途考慮: 本ツールは寸法公差のみを扱う。真円度・平行度・位置度などの幾何公差(GD&T)は含まれないため、必要に応じてCADの公差解析を併用すること
FAQ
寸法公差と幾何公差(GD&T)は何が違うの?
寸法公差は「長さ」に対するばらつきの許容範囲で、本ツールが扱う対象。幾何公差は形状(真円度、平面度)や姿勢(平行度、直角度)、位置(位置度、同軸度)に対する許容範囲で、より高度な解析が必要。実際の設計では両方を考慮するが、寸法チェーンの1D解析だけでも多くの問題を事前に検出できる。
非対称公差(例: +0.1/-0.02)はどう入力するの?
上限公差と下限公差をそれぞれ別の値で入力すればよい。上限公差に「0.1」、下限公差に「0.02」と入力する。ワーストケース法ではそのまま加算され、RSS法でもそれぞれ独立に二乗和が計算される。
モンテカルロ法は使えないの?
現在はワーストケース法とRSS法の2手法に対応している。モンテカルロ法(乱数シミュレーション)は将来のアップデートで追加予定。正規分布以外のばらつき(一様分布、ベータ分布など)を考慮したい場合に有効な手法だ。
入力データはどこに保存されるの?
全ての計算はブラウザ内で完結しており、入力データはサーバーに送信されない。ページを閉じるとデータは消える。設計データの機密性を心配する必要はない。
部品数の上限はあるの?
最大20部品まで追加できる。実務上、1つの寸法チェーンで20部品を超えることは稀だが、もし超える場合はサブアセンブリに分割して段階的に計算することを推奨する。
まとめ
公差積み上げ計算は、設計の妥当性を検証する上で欠かせないプロセスだ。本ツールを使えば、部品を追加して公差を入力するだけで、ワーストケース法とRSS法の結果を即座に比較できる。
機械設計で使える関連ツールも用意している。ボルト強度・破断モード診断ではボルト接合部の安全率を、梁の安全審判員では梁のたわみと応力を即計算できるので、合わせて活用してみて。
開発者より: 産業機械の設計で公差表を何十回と作り直した経験から、「もっと早く検討を回したい」という思いで開発した。
不具合報告・機能要望はX (@MahiroMemo)から。