「あとポンプ何m必要?」と「背圧はいくつ?」を同じ画面で
設備設計の見積もり段階で、配管ルートを決めて圧力損失を概算し、ポンプの仕様を詰める。この流れは何度やっても手間がかかる。Excelの計算シートを引っ張り出し、摩擦係数を手で引き当て、エルボーやバルブを一つずつ数えて局所損失を足していく。途中で口径が1サイズ変わる区間があると、そこから先を別の行で計算し直し、レデューサーの損失をどう見るかで手が止まる。
配管圧力損失計算ツールは、配管を「口径が変わる所」で区間に分けて上流から並べ、区間ごとに長さと継手を入れるだけで、直管・継手・径の変化の損失を足し上げる。高低差と出口の先の圧力を入れれば、ポンプに要る差圧だけでなく、安全弁やスチームトラップの出口側に生まれる背圧もそのまま出る。
なぜ配管圧力損失計算ツールを作ったのか
既存ツールへの不満
プラント設備の基本設計をしていると、配管の圧力損失計算は避けて通れない。ところが現場で使える道具は意外と限られている。
Excelテンプレートの問題: 社内で代々受け継がれる計算シートは、マクロの互換性が怪しく、計算式がロックされていて中身が検証できない。新しいPCに移すと動かないこともあるし、スマホでは開けない。
PDF早見表の限界: メーカーが配布する摩擦損失線図は特定の条件(水・20℃・SGP管など)に限られていて、空気配管や高温水には使えない。継手の損失を足すには別の資料が要る。
汎用CAEの大げさ感: 配管解析ソフトは高機能だが、概算段階で起動するには重すぎる。
背圧を「配管から」出す道具が無かった
もう一つの動機が背圧だ。安全弁の口径計算やスチームトラップの選定をすると、入力欄に必ず「背圧」がある。ところが、その値をどう出すかはどの計算ツールも教えてくれない。手入力で受け取るだけだ。実際の背圧は出口側の配管で決まる。吹出し管が細くて長ければ、流れたとたんに圧力が積み上がる。ドレンを高い位置の回収タンクへ持ち上げれば、その高さの分だけトラップの出口が押し返される。
日本語の無料ツールを探した範囲では、複数区間の圧力損失を足せるものはほとんど無く、口径の違う区間をつなげるものは確認できなかった。そこで、区間リストで異径の配管を組み、損失に高低差と出口の先の圧力を足して背圧として出すところまでを1画面にまとめた。
配管 圧力損失 計算の基礎 — 直管・継手・径の変化
圧力損失とは
配管の中を流体が流れると、管壁との摩擦や流れの向きの変化でエネルギーが失われる。このエネルギーの損失を圧力に換算したものが圧力損失(pressure loss / pressure drop)だ。
庭の水撒きホースを思い浮かべてほしい。ホースが短ければ蛇口を少し開くだけで勢いよく水が出る。ところが30m、50mと伸ばしていくと、同じ開度でも勢いが落ちる。途中にねじれや急カーブがあれば、さらに落ちる。これが圧力損失の体感だ。
直管損失 局所損失 違い
圧力損失は大きく2つに分けられる。
- 直管損失(摩擦損失): まっすぐな管を流れるときの壁面摩擦による損失。管の長さ・内径・流速・管内面の粗さで決まる
- 局所損失(形状損失): エルボー・ティー・バルブ・径の変わり目など、流れの断面や向きが変わる箇所で生まれる損失
どちらが支配的かは配管の性格で変わる。
| 配管系の特徴 | 直管損失の割合 | 局所損失の割合 |
|---|---|---|
| 長距離の直線配管(プラント間) | 70〜90% | 10〜30% |
| ビル内配管(曲がりが多い) | 40〜60% | 40〜60% |
| 短距離+バルブ多数 | 20〜40% | 60〜80% |
グローブ弁1つの損失が直管十数m分に相当することもある。バルブの種類の選び方が全体の損失を大きく動かす点は見落とされがちだ。
ダルシー・ワイスバッハ式
直管損失の計算にいちばん広く使われるのがダルシー・ワイスバッハ式だ。
ΔP = f × (L/d) × (ρv²/2)
ΔP : 圧力損失 [Pa]
f : ダルシー摩擦係数(管摩擦係数)[-]
L : 管長 [m]
d : 管内径 [m]
ρ : 流体密度 [kg/m³]
v : 流速 [m/s]
局所損失は、継手ごとの損失係数 K を動圧に掛けて出す。
ΔP_local = ΣK × ρv²/2
どちらも流速の2乗に比例する。同じ流量で内径を一回り細くすると流速は内径の2乗に反比例して上がるので、損失は一気に増える。
配管 粗度 材質 一覧
摩擦係数 f はレイノルズ数(流れの乱れの度合い)と、管内面の粗さ ε を内径で割った相対粗度で決まる。粗さは材質と経年で変わる。
| 配管材質 | 粗さ ε (mm) | 特徴 |
|---|---|---|
| 銅管 | 0.0015 | 給湯・冷媒配管に多い |
| 塩ビ管(VP・VU) | 0.007 | 給水・排水 |
| ステンレス鋼管 | 0.015 | 食品・製薬・給水 |
| 炭素鋼鋼管(SGP・STPG)新管 | 0.05 | 最も一般的な鋼管 |
| 鋼管(10年経過) | 0.3〜1.0 | スケール・錆の付着で粗さが増す |
| ダクタイル鋳鉄管 | 0.25 | 水道本管 |
異径 配管 圧力損失 — 径が変わる所の損失
口径が変わる所では、流れが絞られたり広がったりして渦ができ、そこでもエネルギーが失われる。たとえるなら、広い道から狭い道へ車線が減る所と、狭い道から広場へ出る所。どちらも流れが乱れて渋滞(損失)が起きるが、起き方が違う。
- 縮小(太い管→細い管): 細い管の入口で流れが一度くびれ(縮流)、そこから広がる所で損失が出る
- 拡大(細い管→太い管): 速い流れが太い管の中で減速しきれず、渦になって運動エネルギーを捨てる。同じ径比なら縮小より損失が大きい
角が立った急な変化として扱うと、損失係数は径比 β(細い側の内径 ÷ 太い側の内径)だけで決まる。
急縮小: K = 0.5 × (1 − β²)
急拡大: K = (1 − β²)² (どちらも細い側の流速で ΔP = K × ρv²/2)
急拡大の式は、ボルダ=カルノーの式として知られる運動量の収支から出てくる。
背圧 計算 — 出口側の配管で決まる3つの中身
背圧(はいあつ、back pressure)は、弁やトラップの出口側にかかっている圧力のことだ。満員の電車から降りようとして、ホームにも人がいて押し返される状況に近い。降りる側(入口側)の圧力がいくら高くても、押し返す力(背圧)が大きいほど、出ていける量は減る。
出口側の配管で生まれる背圧は、3つの足し算になる。
背圧 = 出口の先の圧力 + 持ち上げる高さの静水頭 ρgΔz + 配管の抵抗(圧力損失)
- 出口の先の圧力: 大気に放出するなら0、回収タンクやヘッダーにつなぐならその圧力。流れていなくても常にかかっているので「重畳背圧」と呼ばれる
- 高低差: 出口より高い所へ液体を持ち上げるなら、その高さの液柱の重さ。水なら1mでおよそ9.8 kPa
- 配管の抵抗: 流れたときにだけ生まれる圧力損失。2と合わせて、流れて初めて積み上がる「累積背圧」になる
なぜ圧力損失の計算が設備設計で重要か
ポンプ選定の基礎
ポンプは「流量」と「揚程」で仕様が決まる。揚程の中には、持ち上げる高さに加えて配管系の圧力損失が含まれる。圧力損失を正しく見積もらないと、ポンプが選べない。
- 過小見積もり → 吐出圧が足りず末端で流量不足。空調が効かない、上階で水圧が出ないといったトラブルに直結する
- 過大見積もり → 必要以上に大きなポンプを選び、設備費と電気代の両方を無駄にする
給排水設備では空気調和・衛生工学会の SHASE-S 206(給排水衛生設備規準)が配管設計の拠り所になり、空調配管では推奨流速(一般に1.0〜2.5 m/s程度)の範囲で口径を決めて、損失が許容範囲に収まるかを確かめる手順が標準になっている。
安全弁で背圧が問題になる理由
安全弁は、設定圧に達したら開いて圧力を逃がす最後の砦だ。その出口側(吹出し管)が細くて長いと、吹き出した瞬間に背圧が積み上がり、弁を押し戻す力として働く。通常のばね式(従来形・コンベンショナル)安全弁は、背圧が上がると吹出し量が落ち、弁体がばたつく(チャタリング)原因にもなる。
そのため石油・化学プラントで広く参照される API 520(安全弁のサイジングと据付けの推奨規格)では、従来形安全弁の吹出し管で生まれる累積背圧を設定圧の10%以内に収めるのが目安とされる。超えるなら吹出し管の口径を上げるか、背圧の影響を受けにくいバランス形(ベローズ形)を選ぶ。背圧の値がそのまま弁の形式選定と吹出し管の口径を決めるわけだ。
スチームトラップで背圧が問題になる理由
スチームトラップは、蒸気配管にたまったドレン(凝縮水)を、入口の蒸気圧と出口の背圧の差圧で押し出す。背圧が上がれば差圧が減り、同じトラップでも排出できる量が落ちる。ドレンを高い位置の回収タンクへ持ち上げる配管では、高さ1mごとにおよそ0.01 MPa(約10 kPa)の背圧が加わるのが現場の目安だ。
形式によって耐えられる背圧も違う。ディスク式(サーモダイナミック)は入口圧に対する背圧の比が大きくなると作動できなくなるため、背圧の見積もりがそのまま形式選定を左右する。
流速の目安
| 用途 | 推奨流速 [m/s] |
|---|---|
| 給水(一般) | 1.0〜2.0 |
| 冷温水(空調) | 1.0〜2.5 |
| 圧縮空気 | 5〜10 |
| 蒸気(低圧) | 15〜25 |
流速が高すぎると騒音・振動・エロージョン(壁面の侵食)が起きやすい。低すぎると口径が過大になり設備費がかさむ。その兼ね合いを数値で判断するのが圧力損失の計算だ。
配管の圧力損失計算が活躍する場面
空調・給排水のポンプ揚程
ビルや工場の冷温水配管、マンションの給水配管。主管は太く、枝に入ると細くなる配管を、口径ごとの区間に分けて並べれば、末端までの損失と高低差をまとめて足し上げられる。
安全弁の吹出し管の検討
プラントの設計担当が、逃し弁・安全弁のメーカーに仕様を出す前に吹出し管のルートを決める場面。弁の出口口径で出て、途中から一回り太くする配管を、そのまま区間に分けて入れられる。
スチームトラップの出口配管
工場の保全担当が、ドレン回収の配管を引き直したり回収タンクの位置を変えたりするとき、トラップの能力が足りるかを先に確かめる場面。
既設配管の能力チェック
増設で流量が増えたとき、既設の配管で損失がどれだけ増え、今のポンプで足りるかを確かめる場面。
基本の使い方 — 3ステップで圧力損失と背圧を出す
Step 1: 計算式・流体・流量と管種を選ぶ
計算式(ダルシー・ワイスバッハ/ヘーゼン・ウィリアムズ)と流体、流量を入れ、管種を選ぶ。管種を選ぶとその規格の呼び径と内径の表に切り替わり、粗さも新管の値が入る。粗さは欄に数値を入れれば上書きできる。
Step 2: 区間を上流から並べる
口径が変わる所で区切って、区間ごとに呼び径・長さ・継手を入れる。区間を追加して径が変わると、境目の縮小・拡大の損失が自動で足される。表に無い内径は呼び径の選択肢で「直接入力」を選ぶ。
Step 3: 高低差・出口の先の圧力を入れて結果を見る
出口が入口より高ければ高低差に正の値を入れる。放出先がタンクやヘッダーなら、その圧力を入れる。結果には区間ごとの流速・損失と、全圧力損失・損失水頭・出口側の背圧が並ぶ。背圧の「MPa値をコピー」を押せば、安全弁やスチームトラップの計算の背圧欄にそのまま貼れる。
具体的な使用例 — 圧力損失と背圧の検証データ
数値はすべてこのツールに同じ条件を入れて出した値だ。
ケース1: 給水配管 50A × 30m
- 条件: 水(20℃)、SGP 50A(内径52.9mm)、30m、100 L/min、90°エルボー×4、ゲート弁×1
- 結果: 流速0.76 m/s、Re ≈ 39,963(乱流)、直管4.04 kPa+継手1.08 kPa = 全圧力損失5.12 kPa(損失水頭0.52 m)
- 解釈: 流速は低めで、損失の8割が直管。ポンプ揚程に足す配管抵抗は1m未満で済む
ケース2: 冷却水配管 ステンレス100A × 100m
- 条件: 水(20℃)、ステンレス Sch10S 100A(内径108.3mm)、100m、500 L/min、90°エルボー×8、ティー分岐×2、グローブ弁×1、逆止弁×1
- 結果: 流速0.91 m/s、直管7.07 kPa+継手9.27 kPa = 16.34 kPa
- 解釈: 継手の損失が直管を上回る。グローブ弁をボール弁に替えると12.28 kPaまで下がる。なお同じ100AでもSGPの内径(105.3mm)で計算すると18.48 kPaになり、内径3mmの差で損失が1割強変わる。管種は実物に合わせて選びたい
ケース3: 圧縮空気配管 25A × 50m
- 条件: 空気(20℃, 1atm)、SGP 25A(内径27.6mm)、50m、200 L/min、90°エルボー×6、ボール弁×2
- 結果: 流速5.57 m/s、Re ≈ 10,229、全圧力損失1.25 kPa
- 解釈: 空気は密度が水の約800分の1なので損失の絶対値は小さい。これは大気圧の空気として計算した値で、圧縮空気の配管なら運転圧での密度と、運転圧での体積流量(圧縮機の吐出量 ÷ 絶対圧の比)に直して入れる。密度だけ直して流量を吐出量のまま入れると、損失は圧力比の分だけ過大に出る
ケース4: 口径を一つずつ上げると — 32A・40A・50A × 20m
- 条件: 水(20℃)、SGP、20m、200 L/min、90°エルボー×2
- 結果: 32A(流速3.33 m/s)82.4 kPa → 40A(2.45 m/s)38.6 kPa → 50A(1.52 m/s)11.9 kPa
- 解釈: 32Aは流速が3 m/sを超え、20mで8.4m分の揚程を食う。1サイズ上げるだけで損失は半分以下、2サイズで7分の1になる。損失が流速の2乗で効くことが数字ではっきり出るケースだ
ケース5: 給湯配管 銅管20A × 15m(温度の影響)
- 条件: 温水(60℃)、銅管 Mタイプ 20A(内径20.6mm)、15m、20 L/min、90°エルボー×5、ボール弁×1
- 結果: 流速1.00 m/s、Re ≈ 43,469、f = 0.02171、全圧力損失10.01 kPa
- 解釈: 同じ条件を20℃の水にすると、Re ≈ 20,524、f = 0.02583で11.66 kPa。60℃の水は粘度が半分以下なのでレイノルズ数が倍になり、摩擦係数が下がって損失は約14%減る。温度を取り違えても桁は変わらないが、ポンプ選定の余裕を食う程度には効く
ケース6: グローブ弁 vs ボール弁
- 条件: 水(20℃)、SGP 50A、50m、150 L/min、90°エルボー×4に、パターンA=グローブ弁×2、パターンB=ボール弁×2
- 結果: A 29.55 kPa(継手15.24 kPa)/ B 16.70 kPa(継手2.39 kPa)
- 解釈: 弁を替えるだけで全損失が43%減る。グローブ弁は流量を絞る箇所でしか使う理由が無く、開閉だけならボール弁やバタフライ弁で十分。口径を上げるよりはるかに安い改善策だ
ケース7: 異径の2区間+揚程 — 65A→50A で5m持ち上げる
- 条件: 水(20℃)、300 L/min。区間1=SGP 65A×20m(エルボー×2)、区間2=50A×15m(エルボー×3、ゲート弁×1)、高低差+5m
- 結果: 直管21.99+継手9.07+径の変化0.51 = 全圧力損失31.58 kPa。静水頭48.94 kPaを足して、入口〜出口に要る差圧80.52 kPa(損失水頭3.23 m+高さ5 m)
- 解釈: 65Aでは流速1.38 m/s、50Aに入ると2.27 m/sに上がり、損失の7割強が50Aの区間で出ている。全部を65Aにすると損失は14.99 kPa、全部を50Aにすると49.24 kPa。細い区間を短くするのが効く。縮小の損失(K = 0.197)は全体の2%弱で、径の変化そのものより、細い管で流速が上がることのほうがずっと重い
ケース8: 逃し弁の吹出し管 — 40Aのまま引くか、50Aへ広げるか
- 条件: 水(20℃)、吹出し量300 L/min、設定圧1.0 MPa(G)、放出先は大気。弁出口40A×3m(エルボー×1)→ 50A×12m(エルボー×3、管出口)、高低差+4m
- 結果: 配管の抵抗40.25 kPa(うち拡大の損失0.98 kPa)+静水頭39.16 kPa = 背圧79.41 kPa(G) = 0.079 MPa(G)。設定圧に対して**7.9%**で、従来形の目安10%以内
- 解釈: 拡大せず40Aのまま15m引くと、抵抗が85.40 kPaに増えて背圧は124.55 kPa、12.5%で目安を超える。弁の直後で一回り太くするのが定石なのはこのためだ。ただし設定圧が0.5 MPaなら、50Aへ広げても15.9%、65Aへ広げても13.2%で収まらない。4m持ち上げる静水頭だけで7.8%を占めるからで、高さは口径を上げても減らない。放出先を下げるか、バランス形の弁を選ぶ判断になる
ケース9: ヘーゼン・ウィリアムズ式との比べ方
- 条件: ケース1と同じ配管を、ヘーゼン・ウィリアムズ式で計算する
- 結果: C = 100で9.14 kPa、C = 130で5.62 kPa(ダルシー・ワイスバッハ式の新管では5.12 kPa)
- 解釈: C = 100は経年した鋼管を想定した値なので、新管の粗さで計算したダルシー・ワイスバッハ式より8割近く大きく出る。新しい管なら C = 120〜130が近い。C値の選び方ひとつで損失が1.6倍変わるので、どの状態の管を想定したかを計算書に書いておきたい
ケース10: スチームトラップからドレンを5m持ち上げる
- 条件: 温水(60℃)を排出時の流量20 L/minとして、SGP 25A×30m(エルボー×6、逆止弁×1)、回収タンク(大気開放)は5m上
- 結果: 配管の抵抗5.80 kPa+静水頭48.21 kPa = 背圧54.01 kPa(G) = 0.054 MPa(G)
- 解釈: 背圧の9割が持ち上げる高さで、「1mで約0.01 MPa」の目安どおりになる。蒸気圧0.3 MPaのラインなら背圧比は18%。実際のドレンは出口でフラッシュ蒸気が混ざって体積が増えるので、配管の抵抗はこれより大きくなる。液体として出した値は下限と見て、余裕を持たせてトラップを選びたい
仕組みとアルゴリズム — 摩擦係数と区間の足し上げ
候補手法の比較
| 手法 | 適用流体 | 特徴 |
|---|---|---|
| ダルシー・ワイスバッハ式 | 液体・気体 | 粗さとレイノルズ数から摩擦係数を出す。温度・流体を問わない |
| ヘーゼン・ウィリアムズ式 | 水 | C値1つで簡便。水道・消火配管の実務で根強い |
既定はダルシー・ワイスバッハ式にした。空気や高温水、不凍液にも同じ式で対応でき、粗さという物理量で管の状態を表せるからだ。ヘーゼン・ウィリアムズ式は水道の資料と照合する用途のために残している。この式が直接返すのは損失水頭 [m] なので、ツールでは ρg を掛けて kPa に直してから他の損失と足している。
摩擦係数 f の算出
層流(Re < 2300): ハーゲン・ポアズイユ流れの解析解。
f = 64 / Re
乱流(Re ≥ 4000): コールブルック式が基準だが陰関数で反復計算が要る。本ツールはスワミー・ジェイン近似で1ステップで求める。コールブルック式との差は概ね1%程度に収まる。
f = 0.25 / [log₁₀(ε/(3.7d) + 5.74/Re^0.9)]²
遷移域(2300 ≤ Re < 4000): 流れが不安定で式が定まらない領域なので、層流値と Re = 4000 の乱流値を線形補間している。
継手と径の変化の損失
継手・バルブは損失係数法(K値法)で計算し、等価管長(直管何m分に当たるか)は参考として区間ごとに表示している。K値法は口径によらず同じ係数が使えるので、異径の区間でも扱いがぶれない。
径の変化は、区間の境目ごとに前の区間と内径を比べ、縮小なら急縮小、拡大なら急拡大の式を使う(Crane Technical Paper No. 410「Flow of Fluids」の扱い)。実際の同心レデューサーは角度がついていて損失はこれより小さいので、出てくる値は上限側になる。背圧の評価では大きめに出るほうが安全側だ。
計算フロー
1. 管種の寸法表から各区間の内径を決める(内径 = 外径 − 2 × 肉厚)
2. 区間ごとに v = Q / A、Re = ρvd / μ、f を求める
3. 区間ごとに 直管損失 + 継手の損失 + 前の区間からの径の変化の損失
4. 全区間を合計 → 全圧力損失
5. 静水頭 ρgΔz を足す → 入口〜出口に要る差圧
6. 出口の先の圧力を足す → 出口側の背圧
7. 設定圧があれば (静水頭 + 損失)÷ 設定圧 を出す
計算例: 50A SGP × 30m、水(20℃)100 L/min(ケース1)
1. Q = 100 / 60000 = 0.0016667 m³/s
2. d = 0.0529 m、A = π × 0.0529² / 4 = 0.0021979 m²
3. v = 0.0016667 / 0.0021979 = 0.7583 m/s
4. Re = 998.2 × 0.7583 × 0.0529 / 0.001002 = 39,963(乱流)
5. ε/(3.7d) = 0.00005 / (3.7 × 0.0529) = 0.0002555
5.74 / Re^0.9 = 0.0004142
f = 0.25 / [log₁₀(0.0006697)]² = 0.02482
6. 動圧 = 998.2 × 0.7583² / 2 = 287.0 Pa
7. 直管 = 0.02482 × (30 / 0.0529) × 287.0 = 4,039 Pa
8. 継手 = (0.9 × 4 + 0.15) × 287.0 = 1,076 Pa
9. 合計 = 5,115 Pa ≒ 5.12 kPa
径の変化の例として、ケース7の65A→50A(縮小)は β² = (52.9/67.9)² = 0.607 で K = 0.5 × (1 − 0.607) = 0.197。50A側の動圧2,583 Pa に掛けて 508 Pa になる。
気体を扱うときの割り切り
気体は圧力が下がると膨らみ、下流ほど流速が上がる。本ツールは密度一定で計算するので、損失が入口の絶対圧に比べて小さいうちは十分な精度だが、大きくなると損失を小さく見積もる。損失が入口の絶対圧の10%を超えたら警告を出すようにした。区間ごとに密度を更新していく圧縮性の計算は、概算ツールの範囲を超えるので入れていない。
他ツールとの違い
前半で触れたとおり、Excel・早見表・解析ソフトにはそれぞれ不便がある。ここではこのツールが何を引き受け、何を他に任せているかを書いておく。
- 異径の区間をそのまま並べられる: 1本の口径と長さだけを入れる計算機では、径が変わる配管を区間ごとに計算して手で足すことになる。ここでは区間を追加するだけで、境目の損失まで含めて合計が出る。管種と粗さは全区間で共通なので、鋼管から銅管へ替わるような材質の混在は、内径を直接入力して近似する
- 管種ごとの内径表を持っている: SGP・STPG・ステンレス(Su・Sch10S)・銅管・塩ビVPの内径を、規格の外径と肉厚から出している。「呼び径50Aの内径」を別の表で引く手間が無い
- 損失の先まで出す: 全損失だけで終わらず、高低差を足した差圧と、出口の先の圧力を足した背圧まで並べる。背圧はそのまま安全弁 吹出量・口径計算やスチームトラップ選定ガイドの入力に使える
役割分担としては、流量と口径をまだ決めていない段階なら流体設計マスターで推奨流速から口径を絞り、決まった口径をここで損失に直す。ポンプの吸込み側まで含めて揚程とNPSHを詰めるならポンプ揚程・選定計算ツールへ渡す流れになる。
豆知識 — 配管の損失をめぐる歴史
ムーディ線図の誕生
1944年、ルイス・ムーディが発表した論文で、レイノルズ数と相対粗度から摩擦係数を読み取れる線図が広まった。それまでに積み上がっていたニクラーゼの砂粒実験やコールブルックの式を1枚にまとめたもので、80年以上たった今も配管設計の教科書に載っている。電卓で計算できる時代になっても、結果の桁の確認に線図を見るエンジニアは多い。
レイノルズの染料実験
1883年、オズボーン・レイノルズはガラス管に染料を流し込み、流速がある値を超えると染料の筋が乱れて広がることを示した。流れの状態が速さ・管径・粘度の組み合わせ1つで決まることを見抜いた実験で、その無次元数に彼の名前が残った。
ボルダとカルノー
急拡大の損失の式に名前が残るジャン=シャルル・ド・ボルダは18世紀フランスの海軍技術者で、メートル法の制定に関わった測量家としても知られる。式を整理したラザール・カルノーは数学者で政治家、熱力学の父サディ・カルノーの父親だ。管の太さが変わる所の損失という地味な問題に、当時の一流の科学者が取り組んでいた。
背圧という言葉
背圧は英語の back pressure の訳語で、エンジンの排気系でも使われる。マフラーが詰まると排気が押し戻されて出力が落ちるのは、安全弁の吹出し量が背圧で落ちるのと同じ理屈だ。分野が違っても「出口が詰まれば出ていく量が減る」という話は共通している。
Tips — 配管の圧力損失を手早く読むコツ
1サイズで損失はおよそ2〜3倍変わる
同じ流量なら、呼び径を1サイズ変えると損失はざっと2〜3倍変わる。結果を見て「あと少し」なら継手やバルブの見直し、「倍以上」なら口径を疑う、という切り分けが早い。
既設配管は粗さを上げて2回計算する
古い鋼管は粗さの欄に0.3と1.0を入れて2回計算し、その幅を損失の見込みとする。実測の圧力が分かっているなら、合う粗さを探すと配管の状態の目安にもなる。
継手の数は図面から多めに拾う
アイソメ図から継手を拾うと、溶接エルボーやフランジ付き弁の数え漏れが出やすい。迷った継手は入れておくほうが、実測の圧力と合わせたときのずれが小さい。
FAQ — よくある質問
管種ごとの内径はどこから来ているのか。手元の管と違う場合は?
各管種の呼び径ごとの外径と肉厚を、JIS(G 3452・G 3454・G 3448・G 3459・H 3300・K 6741)の規格値から持ち、外径から肉厚の2倍を引いて内径にしている。寸法表は配管サイズ換算ツール(呼び径A・B・外径・内径)と共通だ。ライニング鋼管のように内面に被覆があって内径が小さくなる管や、表に無いサイズは、区間の呼び径で「直接入力」を選んで実測の内径を入れてほしい。
損失係数Kはどの文献の値を使っているのか?
Crane Technical Paper No. 410 をはじめとする一般的な設備設計資料に載っている代表値を使っている。実際の K は同じ種類の継手でもメーカー・口径・ねじ込みか溶接かで変わり、特に小口径のねじ込み継手は大きめになる。メーカーの技術資料に損失係数や Cv 値があるなら、そちらを優先してほしい。
遷移域(Re=2300〜4000)の結果はどこまで信用できるか?
この領域は流れが層流と乱流を行き来していて、摩擦係数そのものが定まらない。ツールは補間値を出しているが、参考値として扱い、設計では乱流側の大きめの値で見ておくのが安全だ。区間表のレイノルズ数に「遷移域」と出たら、流量か口径を変えてこの領域を外せないかも検討したい。
圧縮空気や蒸気の配管にも使えるか?
使える。考え方は使用例のケース3のとおりで、0.7 MPa(G)・20℃の圧縮空気なら「密度・粘度を直接入力」で密度約9.5 kg/m³を入れ、流量は吐出量(大気圧換算)を絶対圧の比 約7.9で割った値にする。吐出量1,000 L/minなら約126 L/minだ。損失が大きくなったときの扱いは前半の仕組みの節で触れたとおり。蒸気のドレンのように液とフラッシュ蒸気が混ざる流れ(二相流)は扱えない。
背圧の値を安全弁やトラップの計算に入れるとき、単位は?
どちらの背圧欄もゲージ圧(大気圧を0とする値)の MPa なので、結果の MPa(G) の値をそのまま使う。絶対圧で背圧を求める資料と照合するときは、0.101 MPa を足して読み替えてほしい。出口の先の圧力をタンクの絶対圧で知っている場合も、同じく大気圧を引いてから入力する。
入力した条件は外部に送信されるか?
送信されない。計算はすべてブラウザの中で行い、入力値をサーバーに送ったり保存したりはしていない。社内の配管ルートや設備の条件を入れても外に出ることは無い。
まとめ
配管圧力損失計算ツールは、口径の違う区間をつないだ配管の損失を、直管・継手・径の変化に分けて足し上げる。高低差と出口の先の圧力を足せば、ポンプに要る差圧と、安全弁やスチームトラップの出口側の背圧まで1画面で出る。
口径選びは流体設計マスター、背圧を使う先は安全弁 吹出量・口径計算とスチームトラップ選定ガイド、配管内の水の量は配管の保有水量計算へ。流れが層流か乱流かだけ先に確かめたいならレイノルズ数 計算・層流/乱流 判定ツールも使える。
計算が手元の資料と合わない、この継手も入れてほしい、といった声はお問い合わせページから気軽に送ってほしい。