「PV値の許容範囲って、結局どの材質ならOKなの?」
すべり軸受の設計で最初にぶつかる壁がこれだよね。カタログを何冊も開いて、POM、ナイロン、焼結青銅……それぞれの許容PV値を見比べて、自分の条件で使えるかどうかを一つずつ確認する。Excelで計算式を組んでも、材質を変えるたびにセルを書き換えて、またイチから比較し直し。
このツールは、軸径・荷重・回転数を入力するだけで面圧P・周速V・PV値を一発算出し、10種類の材質の許容値と瞬時に比較する。摩耗量と発熱量の推定もセットで出るから、「この材質で何時間もつか」まで一画面で判断できる。すべり軸受の選定作業を、カタログめくりから解放するツールだ。
なぜこのすべり軸受PV値ツールを作ったのか
きっかけは、ある搬送装置のブッシュ選定で痛い目を見たことだった。
POMブッシュで十分だろうと高をくくり、面圧だけ確認して採用した。ところが実際に回してみると、数百時間で異音が発生。原因は周速の見落とし——面圧は許容内でも、PV値が許容の80%を超えていた。摩擦熱で樹脂が軟化し、偏摩耗が進行していたのだ。結局、焼結含油青銅に変更して作り直し。部品代より停止期間のロスのほうがずっと大きかった。
この失敗のあと、メーカーのオンラインツールをいくつか試した。しかし、どれも自社製品のラインナップに限定されている。A社のツールでは焼結青銅しか選べない、B社のツールでは樹脂系だけ。「今の条件で、樹脂から金属まで横断的に比較したい」という当たり前のニーズに応えるツールが見当たらなかった。
もう一つの不満は、摩耗量と発熱量の推定が別計算になること。PV値の判定だけで終わるツールが大半で、「じゃあ何時間もつの?」「放熱は足りるの?」という次の問いには自分でExcelを組むしかなかった。
このツールでは、PV値の算出・材質比較・摩耗推定・発熱推定を一画面に統合した。材質を10種類プリセットし、ワンクリックで切り替えられる。PV使用率をパーセンテージで表示するから、「許容値に対してどれだけ余裕があるか」が直感的に分かる。あの搬送装置の失敗を、もう誰にもさせたくないという思いで作った。
すべり軸受とPV値の基礎知識
すべり軸受とは——転がり軸受との違い
軸受(ベアリング)は回転する軸を支える部品だ。大きく分けて「転がり軸受」と「すべり軸受」の2種類がある。
転がり軸受は、内輪と外輪の間にボールやころを挟んで、転がり接触で摩擦を減らす。一方、すべり軸受は軸と軸受面が直接すべり接触する。構造がシンプルで安価、衝撃に強く、油膜が形成されれば非常に長寿命になるのが特徴だ。
日常的なたとえでいえば、引き出しのレールが「転がり」、障子の敷居が「すべり」に近い。障子は木と木が直接こすれるから、ロウを塗って滑りをよくする——これがすべり軸受の潤滑と同じ原理だ。
すべり軸受は「ブッシュ」「ジャーナルベアリング」「プレーンベアリング」とも呼ばれ、産業機械・自動車・船舶・建設機械など幅広い分野で使われている。
PV値 とは——面圧と周速の積
PV値は、すべり軸受の設計で最も重要な指標だ。P(面圧: Pressure)とV(周速: Velocity)の積で表される。
P = W / (d × L) [MPa]
V = π × d × n / 60000 [m/s]
PV = P × V [MPa·m/s]
- W: ラジアル荷重 [N]
- d: 軸径 [mm]
- L: 軸受長さ [mm]
- n: 回転数 [rpm]
面圧Pは「単位面積あたりの荷重」で、投影面積(d×L)で割って求める。周速Vは「軸表面の移動速度」で、軸の外周×回転数から算出する。
PV値の物理的な意味は「単位面積あたりの摩擦仕事率」——つまり、摺動面でどれだけのエネルギーが摩擦熱に変換されるかを表す。PV値が大きいほど発熱が激しく、摩耗が進みやすい。
PV値 計算で押さえるべきポイント
各材質には「許容PV値」が設定されている。これを超えると、摩擦熱の蓄積で材料が軟化・変形し、最悪の場合は焼き付きに至る。
| 材質 | 許容PV値 [MPa·m/s] |
|---|---|
| POM(ポリアセタール) | 3.5 |
| ナイロン | 2.5 |
| PTFE(テフロン) | 0.35 |
| PTFE充填(ガラス+MoS2) | 4.0 |
| フェノール樹脂 | 17.5 |
| カーボングラファイト | 5.3 |
| 焼結含油青銅 | 10.5 |
| 焼結含油鉄 | 10.5 |
| 銅合金(リン青銅) | 21.0 |
| バビットメタル | 17.5 |
PV値だけでなく、面圧P単独の上限と周速V単独の上限も存在する。3つすべてが許容範囲内であることが選定の最低条件になる。
すべり軸受 材質の選び方
材質選定の基本は「PV値が許容内で、使用環境に合うもの」を選ぶことだ。
- コスト優先・軽荷重: POM、ナイロン(樹脂系)
- 無潤滑・低摩擦: PTFE系(ただし摩耗が大きい)
- 中荷重・無給油: 焼結含油青銅(内部に潤滑油を含浸)
- 高荷重・油潤滑: 銅合金、バビットメタル
- 高温環境: カーボングラファイト(400℃まで対応)
- 水中: フェノール樹脂(水潤滑の実績が豊富)
PV値設計がすべり軸受の寿命を左右する理由
PV値を軽視すると何が起きるか
PV値の超過は、すべり軸受における最大の故障原因だ。
面圧が許容内でも周速が高い、あるいはその逆——片方だけ見て「大丈夫だろう」と判断した結果、PV値が許容を超えていた、というのは実務で頻繁に起きるミスだ。PV値超過が引き起こす典型的な破損モードは以下の通り。
- 焼き付き(Seizure): 摩擦熱で軸受材が軟化・溶融し、軸と一体化する。一度発生すると軸も損傷するため、軸ごと交換になることが多い
- 異常摩耗: PV値が許容値の80%を超えるあたりから摩耗速度が急上昇し、設計寿命を大幅に下回る
- 熱変形: 樹脂系軸受では、摩擦熱によるクリープ変形でクリアランスが変化し、振動や騒音の原因になる
規格と設計基準
すべり軸受の設計に関連する規格として、JIS B 1581(すべり軸受—用語、定義、分類及び記号)がある。また、材質ごとの許容PV値はASTM規格やメーカー技術資料に基づく値が広く参照されている。
実務では、許容PV値に対して安全率1.5〜2.0倍の余裕を持たせるのが一般的だ。つまり、PV使用率50〜67%以下を目標にする。起動・停止時の瞬間荷重や、温度上昇による許容値低下も考慮すると、カタログ値の額面通りに使うのは危険だ。
面圧P・周速Vの実務感覚
数値の「大きい・小さい」を感覚的に掴んでおくと、選定が速くなる。
- P = 1 MPa以下: 軽荷重。樹脂系で十分対応可能
- P = 1〜5 MPa: 中荷重。材質選定が重要になるゾーン
- P = 10 MPa超: 高荷重。金属系が必須
- V = 0.5 m/s以下: 低速。ほぼすべての材質で対応可能
- V = 1〜3 m/s: 中速。発熱管理が設計のポイントになる
- V = 5 m/s超: 高速。油膜形成(流体潤滑)の設計が必要
同じPV値でも、高P低Vと低P高Vでは破損モードが異なる。高P低Vでは圧縮変形が支配的、低P高Vでは摩擦熱が支配的になるため、PV値だけでなくP・Vそれぞれの許容値も確認する必要がある。
すべり軸受PV値ツールが力を発揮する場面
産業機械の軸受選定
コンベヤ、撹拌機、印刷機などの産業機械では、すべり軸受がコスト・メンテナンス面で有利な場面が多い。荷重と回転数から材質を一括比較し、最適な候補を素早く絞り込める。
食品・医療機械の無給油設計
食品機械や医療機器では、潤滑油の使用が制限されることがある。PTFE系やカーボングラファイトなど無潤滑で使える材質の中から、PV値が許容内のものを選ぶ必要がある。材質横断の比較がここで活きる。
メンテナンス時の寿命予測
既存設備のブッシュ交換タイミングを見積もるとき、現行の運転条件を入力すれば推定摩耗量が分かる。「あと何時間もつか」をクリアランスと照らし合わせて判断できる。
機械設計の教育・演習
大学や高専の機械設計演習で、すべり軸受の基礎計算を体験するのに適している。数値を変えながら「面圧・周速・PV値がどう変化するか」を直感的に学べる。
すべり軸受PV値ツールの使い方
ステップ1: 材質を選ぶ
プルダウンから軸受材質を選択する。POM、焼結含油青銅、バビットメタルなど10種類のプリセットから選べる。特殊な材質を使う場合は「カスタム」を選んで許容PV値を手入力。
ステップ2: 寸法と条件を入力
軸径d [mm]、軸受長さL [mm]、ラジアル荷重W [N]、回転数n [rpm]を入力する。摩耗推定が必要なら使用時間 [h]も入れる。
ステップ3: PV値と判定を確認
入力と同時にPV値が自動算出され、選択材質の許容値に対するPV使用率がパーセント表示される。50%以下なら「余裕あり」、80〜100%なら「上限付近」、100%超なら「許容超過」と色分けで判定。推定摩耗量・発熱量・適合材質リストもまとめて表示されるので、材質変更の判断もその場でできる。
すべり軸受PV値の計算例——6つの設計ケース
ケース1: 焼結含油青銅・搬送装置のガイドローラ軸受
条件: 焼結含油青銅、軸径φ30mm、軸受長さ30mm、荷重500N、回転数1000rpm、使用時間8000h
- 面圧 P = 500 / (30 × 30) = 0.556 MPa
- 周速 V = π × 30 × 1000 / 60000 = 1.571 m/s
- PV値 = 0.556 × 1.571 = 0.873 MPa·m/s
- PV使用率 = 0.873 / 10.5 × 100 = 8.31%(余裕あり)
- L/d比 = 30 / 30 = 1.00(適正範囲)
- 推定摩耗量 = 0.251 mm
- 摩擦発熱量 = 78.54 W
解釈: PV使用率8.31%と大幅に余裕がある。焼結含油青銅の無給油特性を活かしつつ、8000時間の運転でも摩耗は0.25mm程度に収まる。典型的な軽荷重・中速の好条件ケースだ。
ケース2: POM・小型モータのスリーブ軸受
条件: POM、軸径φ10mm、軸受長さ15mm、荷重200N、回転数3000rpm、使用時間2000h
- 面圧 P = 200 / (10 × 15) = 1.333 MPa
- 周速 V = π × 10 × 3000 / 60000 = 1.571 m/s
- PV値 = 1.333 × 1.571 = 2.094 MPa·m/s
- PV使用率 = 2.094 / 3.5 × 100 = 59.83%(適正)
- L/d比 = 15 / 10 = 1.50(適正範囲)
- 推定摩耗量 = 3.016 mm
- 摩擦発熱量 = 109.96 W
解釈: PV使用率は約60%で許容範囲内だが、推定摩耗量が3mmを超えている。2000時間で軸受クリアランスを大幅に超過する可能性が高い。摩耗の観点からは、PTFE充填材やより摩耗に強い材質への変更を検討すべきケースだ。POMの比摩耗量(200×10⁻⁹)の大きさがここに表れている。
ケース3: ナイロン・低速揺動部のヒンジブッシュ
条件: ナイロン(PA66)、軸径φ20mm、軸受長さ25mm、荷重300N、回転数500rpm、使用時間5000h
- 面圧 P = 300 / (20 × 25) = 0.600 MPa
- 周速 V = π × 20 × 500 / 60000 = 0.524 m/s
- PV値 = 0.600 × 0.524 = 0.314 MPa·m/s
- PV使用率 = 0.314 / 2.5 × 100 = 12.57%(余裕あり)
- L/d比 = 25 / 20 = 1.25(適正範囲)
- 推定摩耗量 = 0.170 mm
- 摩擦発熱量 = 62.88 W
解釈: 低速・軽荷重の条件ではナイロンでも余裕十分。PV使用率12.6%で、5000時間でも摩耗は0.17mmに収まる。ナイロンの耐衝撃性の高さも活きる用途だ。ただし吸水環境では膨潤に注意が必要。
ケース4: 銅合金・高荷重ポンプのジャーナル軸受
条件: 銅合金(リン青銅)、軸径φ40mm、軸受長さ60mm、荷重5000N、回転数1500rpm、使用時間10000h
- 面圧 P = 5000 / (40 × 60) = 2.083 MPa
- 周速 V = π × 40 × 1500 / 60000 = 3.142 m/s
- PV値 = 2.083 × 3.142 = 6.543 MPa·m/s
- PV使用率 = 6.543 / 21.0 × 100 = 31.16%(余裕あり)
- L/d比 = 60 / 40 = 1.50(適正範囲)
- 推定摩耗量 = 1.178 mm
- 摩擦発熱量 = 3140.6 W
解釈: 銅合金の許容PV値21.0に対して使用率31%と余裕がある。ただし発熱量が3140Wと大きく、十分な油潤滑と放熱設計が不可欠だ。銅合金は油潤滑前提の材質であり、強制給油システムとの組み合わせが前提になる。
ケース5: カーボングラファイト・高温炉内のガイド軸受
条件: カーボングラファイト、軸径φ25mm、軸受長さ30mm、荷重400N、回転数2000rpm、使用時間5000h
- 面圧 P = 400 / (25 × 30) = 0.533 MPa
- 周速 V = π × 25 × 2000 / 60000 = 2.618 m/s
- PV値 = 0.533 × 2.618 = 1.395 MPa·m/s
- PV使用率 = 1.395 / 5.3 × 100 = 26.33%(余裕あり)
- L/d比 = 30 / 25 = 1.20(適正範囲)
- 推定摩耗量 = 1.256 mm
- 摩擦発熱量 = 156.9 W
解釈: カーボングラファイトの最大の強みは耐熱性(400℃まで対応)と無潤滑運転だ。PV使用率26%で余裕があり、高温環境で潤滑油が使えない場面に最適。摩耗量1.26mmはやや大きいが、5000時間の高温連続運転としては許容範囲だろう。
ケース6: バビットメタル・大型回転機のジャーナル軸受
条件: バビットメタル、軸径φ80mm、軸受長さ100mm、荷重15000N、回転数600rpm、使用時間20000h
- 面圧 P = 15000 / (80 × 100) = 1.875 MPa
- 周速 V = π × 80 × 600 / 60000 = 2.513 m/s
- PV値 = 1.875 × 2.513 = 4.712 MPa·m/s
- PV使用率 = 4.712 / 17.5 × 100 = 26.93%(余裕あり)
- L/d比 = 100 / 80 = 1.25(適正範囲)
- 推定摩耗量 = 1.018 mm
- 摩擦発熱量 = 3015.7 W
解釈: 大型回転機の典型的な条件。バビットメタルの「なじみ性」の良さが活きる場面で、軸の微小な偏心やたわみを吸収しながら安定した油膜を形成する。PV使用率27%で十分な余裕がある。発熱量3000W超のため、強制循環給油で冷却するのが標準的な運用だ。比摩耗量が3×10⁻⁹と非常に小さいため、20000時間でも摩耗は約1mmに収まる。
すべり軸受PV値計算の仕組みとアルゴリズム
候補手法の比較——PV値法 vs ゾンマーフェルト数法
すべり軸受の設計評価には、大きく2つのアプローチがある。
PV値法は、面圧Pと周速Vの積で軸受の負荷レベルを評価する簡易手法だ。境界潤滑・混合潤滑領域(低〜中速)のすべり軸受に広く適用される。材質カタログに許容PV値が記載されているため、設計者が直接比較しやすい。
ゾンマーフェルト数法(Sommerfeld number) は、流体潤滑理論に基づく精密手法だ。潤滑油の粘度、軸受すきま、偏心率を考慮して油膜厚さを算出する。高速・油潤滑のジャーナル軸受(タービン、大型モータなど)に用いられる。
| 比較項目 | PV値法 | ゾンマーフェルト数法 |
|---|---|---|
| 対象領域 | 境界・混合潤滑 | 流体潤滑 |
| 必要パラメータ | 荷重・寸法・回転数 | +粘度・すきま・偏心率 |
| 材質比較 | 容易(カタログ値で直接比較) | 困難(油膜計算が必要) |
| 精度 | 簡易(安全側の設計) | 高精度 |
| 適用範囲 | 樹脂・焼結金属・ドライ軸受 | 油潤滑ジャーナル軸受 |
本ツールではPV値法を採用した。理由は以下の通り。
- 樹脂から金属まで10種類の材質を横断比較する目的に合致する
- カタログ記載の許容PV値と直接比較でき、設計判断がしやすい
- 入力パラメータが少なく(荷重・寸法・回転数のみ)、初期設計段階で使いやすい
ゾンマーフェルト数法は将来の拡張機能として検討中だ。
実装の計算フロー
本ツールの計算は3段階で構成される。
【Step 1: 基本算出】
P = W / (d × L) [MPa]
V = π × d × n / 60000 [m/s]
PV = P × V [MPa·m/s]
pvRatio = PV / maxPV × 100 [%]
L/d = L / d [無次元]
【Step 2: 摩耗量推定(アーチャードの摩耗則・簡易版)】
wearDepth = k × P × V × t × 3600 [mm]
k: 比摩耗量 [×10⁻⁹ mm³/(N·m)]
t: 使用時間 [h]
【Step 3: 発熱量推定】
Q = μ × P × V × A [W]
μ: 摩擦係数
A = d × L [mm²](投影面積)
摩耗量の推定にはアーチャードの摩耗則(Archard's wear equation)の簡易版を使用している。比摩耗量k(単位荷重・単位すべり距離あたりの摩耗体積)に、面圧・周速・時間を掛けることで摩耗深さを推定する。実際の摩耗は、なじみ期間の初期摩耗、温度上昇による加速、潤滑状態の変化などで変動するため、この値はあくまで目安だ。
発熱量Qは摩擦仕事率そのもので、μ×P×V×Aで算出する。単位を追うと、N/mm² × m/s × mm² = N·m/s = W となり、ワット単位の発熱量が得られる。この値が放熱能力を上回ると温度上昇が止まらず、焼き付きに至る。
計算例: ステップバイステップ
焼結含油青銅、軸径φ30mm、軸受長さ30mm、荷重500N、1000rpmの条件で計算してみよう。
Step 1: 基本算出
P = 500 / (30 × 30) = 500 / 900 = 0.556 MPa
V = π × 30 × 1000 / 60000 = 94248 / 60000 = 1.571 m/s
PV = 0.556 × 1.571 = 0.873 MPa·m/s
pvRatio = 0.873 / 10.5 × 100 = 8.31%
L/d = 30 / 30 = 1.00
Step 2: 摩耗量(8000時間)
k = 10 × 10⁻⁹ = 1.0 × 10⁻⁸
wearDepth = 1.0×10⁻⁸ × 0.556 × 1.571 × 8000 × 3600
= 1.0×10⁻⁸ × 0.556 × 1.571 × 28800000
= 0.251 mm
Step 3: 発熱量
μ = 0.10(焼結含油青銅)
Q = 0.10 × 0.556 × 1.571 × 30 × 30
= 0.10 × 0.556 × 1.571 × 900
= 78.54 W
PV使用率8.31%——焼結含油青銅の許容値に対して大幅に余裕がある。このような条件では長寿命・低メンテナンスの運転が期待できる。
参考: Archard equation - Wikipedia
メーカー製ツールとの違い——すべり軸受 PV値計算の独自性
すべり軸受の選定ツールは、軸受メーカー各社がWebカタログの一部として提供している。ただし、それらは自社製品の型番選定が目的であり、材質を横断して比較する機能がない。例えばオイレス工業のツールで焼結含油青銅の許容PV値を確認しても、「同じ条件でPOMに変えたらどうなるか」をワンクリックで切り替えることはできない。
本ツールの特徴は以下の3点。
- 材質横断比較: POM・ナイロン・PTFE・焼結含油青銅・バビットメタルなど10種以上をプリセット化。材質を切り替えるだけでPV使用率が即座に再計算される
- 摩耗量・発熱量の同時出力: PV値の合否判定だけでなく、比摩耗量法による摩耗深さ推定と摩擦発熱量まで一画面で確認できる。メーカーツールでは別々のカタログページを参照する必要がある場面が多い
- カスタム材質対応: プリセットにない材質でも、許容PV値・摩擦係数・比摩耗量を手動入力すれば同じ計算フローに載せられる
Excelでの自作シートと比べても、材質プリセットの切り替えと適合材質の自動リストアップがある分、試行錯誤の回転が速い。「条件を変えて何パターンも回す」設計初期段階の検討に向いている。
すべり軸受の豆知識——古代エジプトから宇宙まで
人類最古の軸受
すべり軸受の歴史は驚くほど古い。紀元前2400年頃のエジプト壁画には、巨石を運ぶソリの下に丸太を並べて摩擦を減らす様子が描かれている。これは厳密には「ころがり」に近いが、軸と穴の組み合わせによるすべり軸受の原理は古代ローマの水車にも見られる。産業革命期には蒸気機関のクランクシャフト支持にバビットメタル(ホワイトメタル)が採用され、1839年にアイザック・バビットが特許を取得。この合金は180年以上経った現在も大型タービンや船舶用ディーゼルエンジンの主軸受として現役だ(Wikipedia - Babbitt metal)。
宇宙空間でのすべり軸受
真空環境ではグリースや油が蒸発してしまうため、転がり軸受の潤滑が極めて難しい。そこで活躍するのが固体潤滑すべり軸受。NASAの火星探査機では、MoS2(二硫化モリブデン)を充填したPTFE系ブッシュが関節部に採用されている。PV値が低い揺動運動であれば、固体潤滑だけで数年間の無給油運転が成立する。
「PV値」が生まれた背景
PV値という評価指標が普及したのは1950年代。プラスチック軸受の登場により、金属軸受のように油膜理論(Sommerfeld数)だけでは設計できないケースが増えた。DuPont社がデルリン(POM)の摺動特性を整理する際に「面圧×周速」の積で限界を示したのが広まったとされる。シンプルだが実用的な指標として、現在もJIS B 1581やASTM D3702などの規格で摩耗試験の基準条件として使われている(JIS検索 - 日本産業標準調査会)。
すべり軸受 選定のTips
1. L/d比は0.5〜2.0を基本にする
軸受長さLと軸径dの比が大きすぎると、軸のたわみで片当たりが発生し、局所的にPV値が許容値を超える。逆に小さすぎると面圧が高くなりすぎる。迷ったらまず L/d = 1.0 で計算し、PV使用率を見ながら調整するのが効率的。
2. 潤滑条件で許容PV値は激変する
カタログの許容PV値は多くの場合「無潤滑・乾燥摩擦」条件。油潤滑やグリース潤滑を適用すると、POMで2〜3倍、焼結含油青銅で5倍以上に許容値が上がることがある。逆に水中や薬液中では摩擦係数が変動するため、メーカーの環境別データを必ず確認してほしい。
3. 摩耗量と軸受すきまを必ずセットで見る
PV使用率が80%以下で「安全」に見えても、8000時間運転後の推定摩耗量が軸受すきまを超えていれば実質寿命切れ。本ツールでは摩耗量と軸受すきまを同時に入力できるので、すきまを超過する場合は警告が表示される。設計段階で見落としがちなポイント。
4. 起動・停止時が最も危険
すべり軸受の焼き付きは定常運転中よりも起動・停止時に起きやすい。油膜が形成されていない低速域では金属同士が直接接触するためだ。頻繁に起動停止を繰り返す用途(コンベアの間欠運転など)では、カタログのPV値に余裕を持たせるか、自己潤滑性の高い材質を選ぶこと。
すべり軸受 PV値のよくある質問
PV値が許容値をわずかに超えている場合、すぐに焼き付くのか?
即座に焼き付くわけではない。許容PV値はメーカーが定める「連続運転で安定した摩耗状態を維持できる上限」であり、短時間の超過なら問題にならないことも多い。ただし、超過率が大きいほど摩耗が加速的に進行し、発熱→軟化→焼き付きの連鎖に入るリスクが高まる。設計段階では許容値の80%以下に収めるのが安全な目安だ。
比摩耗量法で算出した摩耗量はどの程度信頼できる?
比摩耗量法(Archardの簡易式)はオーダー推定(桁の見積もり)に適した手法であり、精度は実条件によって大きく変動する。なじみ期間の初期摩耗、温度上昇による材料軟化、潤滑膜の変化などは考慮されていないため、計算値の2〜5倍の幅を見込んでおくのが実務的な使い方。重要な設計では実機試験またはメーカーの摩耗データとの照合を推奨する。
転がり軸受とすべり軸受、どちらを選ぶべきか?
一概には言えないが、判断基準は明確。高速・長寿命・高精度が求められるなら転がり軸受。**低速・高荷重・コンパクト・耐環境性(水中・薬液・高温)**が求められるならすべり軸受が有利。コスト面では、すべり軸受はブッシュ1個で済むため部品点数が少なく、交換も容易。本ツールでPV値を確認し、許容範囲内であればすべり軸受を第一候補にするのが合理的だ。転がり軸受の寿命計算には転がり軸受 寿命計算ツールも活用してみて。
入力したデータがサーバーに送信されることはあるか?
すべての計算はブラウザ上のJavaScriptで完結しており、入力値がサーバーに送信されることは一切ない。設計データの機密性を気にせず利用できる。
カスタム材質で入力すべき「比摩耗量」の値はどこで調べられるか?
材質メーカーのカタログ(テクニカルデータシート)に「specific wear rate」または「比摩耗量」として記載されていることが多い。単位は一般に ×10⁻⁶ mm³/(N·m) で、本ツールでは ×10⁻⁹ 換算で入力する。ASTM D3702 に準拠した摩耗試験データであれば比較的信頼性が高い。
まとめ
すべり軸受の設計は、PV値・摩耗量・発熱量の3つを同時に把握することで初めて成立する。本ツールでは材質10種のプリセット切り替えと適合材質の自動リストアップにより、設計初期の検討を高速に回せる。
軸径の強度設計が必要なら軸径計算ツール、転がり軸受との比較検討には転がり軸受 寿命計算ツールもあわせて使ってみてほしい。
不具合の報告や機能の要望はX (@MahiroMemo)から気軽に教えて。