撹拌機 動力計算シミュレーター

タンク寸法・流体粘度・翼型・回転数から必要動力を算出。層流〜乱流の自動判定とスケールアップ計算に対応

💡 翼の種類と槽サイズを入力すると、必要動力・レイノルズ数・先端速度を即計算。流体プリセットから選ぶだけですぐ結果が出る。

翼型・流体条件

汎用。6枚ディスク付き。強い放射流

タンク・翼寸法

一般的にd/D = 1/3(タービン翼)

計算結果

流動域乱流Re = 368,891
乱流
翼先端速度3.49 m/s
標準

動力数 Np

5.000

軸動力

756.8 W

モータ出力

0.890 kW

d/D 比

0.333

レイノルズ数

368,891

スケールアップ計算

本ツールは Nagata の撹拌動力推算法に基づく概算値です。邪魔板(バッフル)効果・非ニュートン流体・多段翼の干渉は考慮されていません。実機設計には撹拌機メーカーへの確認を推奨します。

不具合・ご要望はお気軽に@MahiroMemoまで

PR

📘 撹拌・化学工学の参考書籍

「モータ出力1.5kWで足りるはず」が招いた手戻り

撹拌機の選定で、こんな経験はないだろうか。メーカーのカタログを眺めて「このタンクサイズなら1.5kWで十分だろう」と見積もったのに、実機で回してみたら液面が全然動かない。あるいは逆に、安全マージンを取りすぎて3.7kWのモータを載せたら、設備コストもランニングコストも跳ね上がった。

撹拌動力の見積もりは、流体の粘度・翼の形状・タンク寸法・回転数が複雑に絡み合う。Excel で Np-Re 曲線を手打ちするのも面倒だし、メーカーの選定ソフトは自社製品しか対応していない。翼型を横断的に比較したいのに、タービン翼はA社、アンカー翼はB社と、ツールがバラバラ。

この撹拌機動力計算シミュレーターは、翼型5種(パドル・タービン・プロペラ・アンカー・MIG)を1画面で切り替えながら、レイノルズ数・動力数・必要モータ出力を即座に算出する。スケールアップ計算にも対応しているから、ラボ機から実機への展開もスムーズに検討できる。

翼型を横断比較できるツールがなかった

撹拌機の動力計算ツールを作ろうと思ったきっかけは、プラント設計で翼型選定に悩んだ経験だ。

あるプロジェクトで、中粘度のスラリーを撹拌する装置を設計していた。タービン翼で計算すると動力が大きすぎ、プロペラ翼だと混合が不十分になりそう。パドル翼やMIG翼も候補に入るが、それぞれの Np 値を調べて Excel に手入力し、条件を変えるたびにセルを修正する作業が延々と続いた。

メーカーの選定ソフトを使えば楽だが、当然ながら自社のラインナップしか出てこない。A社のタービン翼とB社のアンカー翼を同じ条件で比較する、ということが簡単にはできない。海外の無料ツールもいくつか試したが、翼型の選択肢が少なかったり、遷移域の補間が雑だったり、スケールアップ機能がなかったりと、帯に短し襷に長し。

結局、Nagata の撹拌動力推算法をベースに、5種類の翼型を同一条件で比較でき、層流から乱流まで流動域を自動判定し、スケールアップ計算も一体化したツールを自分で作ることにした。Excel のシートを何度も作り直した経験があるからこそ、「翼型を変えたら即座に結果が変わる」というインタラクティブ性にこだわった。

撹拌動力とは — レイノルズ数と動力数で決まる物理

撹拌レイノルズ数 とは

まず「撹拌レイノルズ数」から始めよう。コーヒーカップでスプーンを回す場面を想像してみて。水のように軽い液体なら、スプーンを少し動かしただけで渦ができて全体が混ざる。一方、蜂蜜のようにドロドロした液体だと、スプーンの周りだけがゆっくり動いて、離れた場所はほとんど動かない。

この「流れやすさ」を定量化するのが撹拌レイノルズ数 Re だ。

Re = ρ × n × d² / μ

ρ: 流体密度 [kg/m³]
n: 回転数 [rps](rpm ÷ 60)
d: 翼径 [m]
μ: 粘度 [Pa·s]

Re が大きいほど慣性力が支配的(乱流)、小さいほど粘性力が支配的(層流)になる。撹拌の世界では、おおむね以下のように分類される。

  • Re < 10: 層流 — 粘性力が圧倒的に強く、流体は翼の近傍でしか動かない
  • 10 ≦ Re < 10,000: 遷移域 — 層流と乱流の中間。Np が Re に依存して変化する
  • Re ≧ 10,000: 乱流 — 渦が発達し、タンク全体に流れが広がる

配管流れの臨界 Re が約2,300なのに対し、撹拌の乱流域は Re = 10,000 以上と桁が違う。これは撹拌のレイノルズ数が翼径 d を代表長さに使っているためで、流れの定義が異なるからだ。

動力数 Np とは

動力数 Np(Power Number)は、撹拌翼が流体に与えるエネルギーの効率を示す無次元数。翼の形状ごとに固有の値を持つ。

Np = P / (ρ × n³ × d⁵)

P: 軸動力 [W]
ρ: 流体密度 [kg/m³]
n: 回転数 [rps]
d: 翼径 [m]

この式を変形すれば、必要な軸動力 P が求まる。

P = Np × ρ × n³ × d⁵

Np の値は流動域によって変わる。層流域では Np = K / Re(K は翼型固有の定数)となり、Re に反比例する。乱流域では Np は一定値に収束する。この関係を図示したのが「Np-Re 曲線」で、撹拌設計の教科書には必ず登場するグラフだ。

代表的な翼型の乱流域 Np 値を比較すると、タービン翼(ラシュトン)が Np = 5.0 と最も大きく、プロペラ翼は Np = 0.35 と小さい。Np が大きいほど同じ回転数・翼径で大きな動力を消費する——つまり流体に強いせん断力を与える。混合の目的に応じて翼型を使い分ける理由がここにある。

参考: 撹拌 - Wikipedia

モータ出力の求め方

軸動力 P が分かったら、モータ・減速機の総合効率 η(一般的に 0.85 程度)で割って必要モータ出力を求める。

モータ出力 = P / η [W]

実際の選定では、この計算値以上の標準モータ(0.75kW, 1.5kW, 2.2kW...)を選ぶことになる。

撹拌機 動力計算を怠ると何が起きるか

過小設計 — 混合不良と品質事故

撹拌動力が不足すると、タンク内に「死水域」(液が動かない領域)が生まれる。化学反応槽なら反応ムラが発生し、製品の品質がロット間でばらつく。食品製造では温度が不均一になり、殺菌不足による衛生リスクに直結する。

実際に、粘度が想定より高い原料に切り替えた際、既存の撹拌機では Re が層流域に落ちてしまい、タンク底部にスラリーが沈殿。配管閉塞を起こして数日間のライン停止に至った事例がある。設備の入れ替えには数百万円単位のコストがかかり、生産計画への影響は甚大だった。

過大設計 — エネルギー浪費と設備コスト増

逆に、安全マージンを取りすぎて必要以上に大きなモータを載せるケースも多い。撹拌動力は翼径の5乗、回転数の3乗に比例するため、「少し大きめ」のつもりが動力で2倍、3倍に膨れ上がることがある。

たとえば翼径を1.2倍にするだけで、動力は 1.2⁵ = 2.49 倍。年間の電力コストに換算すると無視できない差になる。JIS B 8609(撹拌機)では、撹拌所要動力の算出方法が規定されており、適正な設計根拠を持つことが求められている。

スケールアップの落とし穴

ラボ機(数リットル)でうまくいった条件を、そのまま実機(数千リットル)に適用すると失敗する。「同じ回転数で回せばいい」という単純なスケールアップでは、翼先端速度が過大になってキャビテーションを起こしたり、逆にレイノルズ数が変わって流動域が遷移域に落ちたりする。等動力数・等翼先端速度・等 Re 数のどの基準でスケールアップするかによって、必要な回転数と動力は大きく異なる。

化学プラントから食品工場まで — 撹拌動力計算が活きる現場

化学プラントのプロセス設計

反応槽・溶解槽・晶析槽の設計初期段階で、翼型と動力の概算を行う場面。複数の翼型候補を同一条件で比較し、プロセス要求(せん断力 vs 循環流量)に合った選択が短時間でできる。

食品・医薬品の製造設備

乳化・分散・溶解工程で、粘度の異なる原料を扱うライン。原料変更時に既存モータで対応できるかの判断や、CIP(定置洗浄)時の流動条件確認にも使える。

塗料・接着剤の分散工程

高粘度流体をアンカー翼やMIG翼で撹拌するケース。層流域の動力特性は翼型によって大きく異なるため、Np-Re 曲線に基づく比較が特に重要になる。

水処理・環境設備

凝集槽やpH調整槽でプロペラ翼を低動力で運転する場面。Re が十分に乱流域にあるか、翼先端速度がフロック破壊を起こさない範囲に収まっているかを確認する用途。

撹拌機 動力計算の使い方 — 3ステップで完了

ステップ1: 翼型と流体を選ぶ

翼型をセレクトボックスから選択する。タービン翼(ラシュトン)・パドル翼・プロペラ翼・アンカー翼・MIG翼の5種から選べる。流体はプリセット(水・食用油・グリセリン・蜂蜜)を選ぶか、「カスタム」で密度と粘度を直接入力する。

ステップ2: タンク・翼の寸法を入力

タンク内径 D [mm]、翼径 d [mm]、回転数 n [rpm] の3つを入力する。d/D 比が自動表示されるので、翼型の一般的な範囲(タービン翼なら d/D ≒ 1/3)に収まっているか確認しよう。

ステップ3: 結果を確認する

レイノルズ数・流動域判定・動力数・軸動力・必要モータ出力・翼先端速度が一覧表示される。スケールアップが必要なら、トグルをONにしてスケール倍率と基準(等動力数 / 等翼先端速度 / 等Re数)を選択すれば、大型機の動力も算出される。

翼型別・流体別の撹拌動力計算 — 6つのケースで検証

実際にツールに値を入力して得られる結果を、6つの代表的なケースで紹介する。

ケース1: 水 × タービン翼(乱流域の典型)

項目
翼型タービン翼(ラシュトン)
流体密度 ρ998 kg/m³
粘度 μ0.001 Pa·s
タンク内径 D1000 mm
翼径 d333 mm
回転数 n200 rpm

結果: Re = 368,891(乱流)、Np = 5.0、軸動力 = 756.6 W、必要モータ出力 = 0.890 kW、翼先端速度 = 3.49 m/s

水のような低粘度流体をタービン翼で撹拌する標準的なケース。Re が 36 万を超え、完全な乱流域。Np は翼型固有の定数 5.0 がそのまま適用される。モータ出力は 0.89kW なので、標準品の 1.5kW モータを選定すれば十分な余裕がある。翼先端速度 3.49 m/s は標準域で問題ない。

ケース2: 高粘度ポリマー × アンカー翼(層流域)

項目
翼型アンカー翼
流体密度 ρ1300 kg/m³
粘度 μ50 Pa·s
タンク内径 D1000 mm
翼径 d900 mm
回転数 n10 rpm

結果: Re = 3.51(層流)、Np = 85.47、軸動力 = 303.8 W、必要モータ出力 = 0.357 kW、翼先端速度 = 0.471 m/s

高粘度ポリマーをアンカー翼でゆっくり掻き取る典型的なケース。Re = 3.51 と完全な層流域で、Np は 85.47 と大きな値になる。層流域では Np = K/Re の関係から、粘度が上がるほど Np が増大するが、動力自体は回転数の2乗に比例し、d の3乗に比例する(乱流とは異なる依存関係)。アンカー翼の大きな d/D 比(0.90)が壁面近傍の流体を確実に動かしている。

ケース3: 食用油 × パドル翼(遷移域)

項目
翼型パドル翼(平板)
流体密度 ρ910 kg/m³
粘度 μ0.065 Pa·s
タンク内径 D800 mm
翼径 d480 mm
回転数 n120 rpm

結果: Re = 6,451(遷移域)、Np = 1.96、軸動力 = 363.8 W、必要モータ出力 = 0.428 kW、翼先端速度 = 3.02 m/s

食用油のように「水よりは粘度が高いが、蜂蜜ほどではない」流体では、Re が遷移域に入ることが多い。この領域では Np が Re に依存して変化するため、対数補間で算出される。パドル翼の乱流 Np = 1.8 に対し、遷移域では Np = 1.96 とやや高くなっている。食品工場の油脂撹拌では、0.75kW クラスのモータで十分対応可能な動力レベルだ。

ケース4: 水 × プロペラ翼(大流量・低動力)

項目
翼型プロペラ翼
流体密度 ρ998 kg/m³
粘度 μ0.001 Pa·s
タンク内径 D1500 mm
翼径 d500 mm
回転数 n300 rpm

結果: Re = 1,247,500(乱流)、Np = 0.35、軸動力 = 1,364 W、必要モータ出力 = 1.605 kW、翼先端速度 = 7.85 m/s

プロペラ翼は Np = 0.35 と低いが、軸流(上下方向の循環流)を効率的に発生させる翼型だ。大型タンクの水を高速回転で撹拌するケースで、Re は 124 万と完全な乱流域。翼先端速度 7.85 m/s はやや高めだが標準域の範囲内。モータ出力 1.6kW なので 2.2kW のモータを選定する。同じ条件でタービン翼(Np = 5.0)なら動力は約 14 倍の 19.5kW になるから、翼型選定が動力に与える影響の大きさがよく分かる。

ケース5: グリセリン × MIG翼(遷移域)

項目
翼型MIG翼
流体密度 ρ1261 kg/m³
粘度 μ0.95 Pa·s
タンク内径 D1200 mm
翼径 d600 mm
回転数 n60 rpm

結果: Re = 478(遷移域)、Np = 1.87、軸動力 = 183.3 W、必要モータ出力 = 0.216 kW、翼先端速度 = 1.88 m/s

グリセリンのような中粘度流体をMIG翼で撹拌するケース。MIG翼は多段翼構造で、軸流と放射流の両方を発生させる。Re = 478 で遷移域に位置し、Np は対数補間で 1.87 と算出される。動力は 183W と小さく、0.4kW クラスのモータで足りる。翼先端速度も 1.88 m/s と低速で、せん断に弱い材料の撹拌に適した条件だ。

ケース6: 高粘度塗料 × MIG翼(層流域ギリギリ)

項目
翼型MIG翼
流体密度 ρ1200 kg/m³
粘度 μ20 Pa·s
タンク内径 D1000 mm
翼径 d700 mm
回転数 n20 rpm

結果: Re = 9.80(層流)、Np = 10.20、軸動力 = 76.2 W、必要モータ出力 = 0.090 kW、翼先端速度 = 0.73 m/s

高粘度塗料を低速で撹拌するケース。Re = 9.80 で層流域のほぼ上限に位置する。あと少し回転数を上げるか粘度が下がれば遷移域に入る、境界的な条件だ。層流域では Np = K/Re で算出され、Np = 10.20 となる。動力は 76W と小さいが、これは低速回転の恩恵。もし回転数を 60rpm に上げると Re は約 29 で遷移域に入り、動力は大幅に増加する。層流か遷移かの判定が設計のカギになるケースだ。

撹拌動力の計算手法 — Nagata 法を採用した理由

候補手法の比較

撹拌動力を推算する方法は大きく2つある。

Nagata の相関式法: 翼型ごとに実験で得られた Np-Re 相関を数式化したもの。永田進治の著書『撹拌―混合の理論と応用』(1960年代)に体系化されており、化学工学の標準的な手法として広く使われている。層流域では Np = K/Re、乱流域では Np = 一定値という明快な関係式で、翼型ごとの係数(K 値と乱流 Np)が文献で豊富に整理されている。

CFD(数値流体力学): 3次元のナビエ・ストークス方程式を数値的に解き、撹拌槽内の流動場と動力を算出する方法。翼の詳細形状やバッフルの影響まで考慮でき、精度は高い。ただし専用ソフト(Fluent, STAR-CCM+等)が必要で、計算時間も数時間〜数日かかる。

本ツールでは Nagata の相関式法 を採用した。理由は明確で、(1) Webブラウザ上で瞬時に計算でき、(2) 翼型の比較が容易で、(3) 設計初期の概算としての精度が実用上十分だからだ。CFD は詳細設計フェーズで使うものであり、「この翼型・この条件ならモータは何kW必要か」を素早く把握する目的には Nagata 法が最適だ。

参考: Power number - Wikipedia (英語)

計算フローの実装詳細

本ツールの計算は以下の手順で行われる。

1. 入力値の単位変換
   d [m] = d_mm / 1000
   n [rps] = n_rpm / 60

2. 撹拌レイノルズ数の算出
   Re = ρ × n_rps × d² / μ

3. 流動域の判定
   Re < 10       → 層流
   10 ≦ Re < 10000 → 遷移域
   Re ≧ 10000    → 乱流

4. 動力数 Np の算出
   層流:   Np = K / Re (K = 翼型固有の層流係数)
   乱流:   Np = NpTurb (翼型固有の乱流定数)
   遷移域: 対数補間
     NpLam = K / 10 (Re=10 での層流 Np)
     log(Np) = log(NpLam) + (log(Re)-log(10)) / (log(10000)-log(10))
               × (log(NpTurb) - log(NpLam))

5. 軸動力・モータ出力
   P = Np × ρ × n_rps³ × d⁵ [W]
   Motor = P / 0.85 / 1000 [kW]

6. 翼先端速度
   v_tip = π × d × n_rps [m/s]

計算例: 水 × タービン翼(ケース1の再現)

具体的な数値で追ってみよう。

入力: タービン翼, ρ=998, μ=0.001, D=1000mm, d=333mm, n=200rpm

Step 1: d = 0.333 m, n = 3.333 rps
Step 2: Re = 998 × 3.333 × 0.333² / 0.001
           = 998 × 3.333 × 0.1109 / 0.001
           = 368,891
Step 3: Re ≧ 10000 → 乱流
Step 4: Np = 5.0(タービン翼の乱流定数)
Step 5: P = 5.0 × 998 × 3.333³ × 0.333⁵
           = 5.0 × 998 × 37.04 × 0.004053
           = 756.6 W
         Motor = 756.6 / 0.85 / 1000 = 0.890 kW
Step 6: v_tip = π × 0.333 × 3.333 = 3.49 m/s

遷移域の対数補間がこのツールの実装上のポイントだ。Re = 10 と Re = 10,000 の2点を結ぶ対数直線で Np を求めることで、Np-Re 曲線のなだらかな遷移を近似している。厳密な実験曲線とは多少のずれがあるが、翼型ごとに両端の値(K/10 と NpTurb)が実験的に確定しているため、概算としては十分な精度が得られる。

参考: 撹拌槽 - Wikipedia

メーカー製ツール・海外計算サイトとの違い

撹拌動力を計算できるツールは他にも存在する。メーカー各社が自社製品向けに提供するWeb計算ツール、海外の"Agitator Power Calculator"系サイト、そしてExcelの自作シート。それぞれに弱点がある。

メーカー製ツールは、当然ながら自社の翼型しか計算できない。パドル翼とタービン翼で動力がどう変わるか、横並びで比較したいのに、A社のサイトでパドルを計算し、B社のサイトでタービンを計算し……というたらい回しになる。しかも多くは会員登録やカタログ請求が必須で、ちょっと概算したいだけなのにハードルが高い。

海外の計算サイトは翼型を横断できるものもあるが、UIが英語で単位系がインチ・ガロン基準だったりする。SI単位で入力したいのにいちいち換算するのは面倒だし、換算ミスのリスクも増える。遷移域の補間方法が不明瞭なサイトも少なくない。

Excel自作シートは自由度が高い反面、数式の検証が属人化しがち。担当者が異動すると「この数式の根拠は何?」となるパターンはプラント設計あるある。

本ツールは5種の翼型を同一画面で切り替えられ、SI単位(mm・Pa·s・rpm)でそのまま入力可能。層流〜乱流の自動判定と遷移域の対数補間もブラックボックスにせず、計算ロジックを公開している。スケールアップ計算まで一画面で完結する点が、既存ツールにはない強みだ。

撹拌の歴史と翼型の進化

人類が「かき混ぜる」という行為を工業化したのは意外と古い。18世紀の醸造業では木製の櫂(かい)で麦汁を撹拌していたし、19世紀の化学工業の発展とともに、動力駆動の撹拌機が登場した。

初期の撹拌翼はシンプルなパドル(平板)型。構造が単純で製造しやすいが、高粘度流体では軸周辺しか混ざらない「ドーナツ流れ」が問題になった。この課題を解決したのが、1930年代にラシュトン(Rushton)が体系化したディスク付きタービン翼だ。ディスクが放射方向の流れを強制的に生み出し、混合効率が飛躍的に向上した。ラシュトンタービンは今でも化学プラントの標準翼型として広く使われている。ラシュトンタービンの詳細(Wikipedia)

一方、高粘度流体(ポリマー溶液・食品ペーストなど)向けには、タンク壁面に沿って回転するアンカー翼や、ヘリカルリボン翼が発展した。d/D比が0.95前後と大きく、壁面付近の滞留層を掻き取るように混合する。

近年注目されているのがMIG翼(Intermig)やMaxblend翼といった広幅翼だ。従来の翼型では難しかった「低回転・低動力で広範囲を混合」を実現し、省エネルギー撹拌のトレンドを牽引している。化学工学会の撹拌技術に関する解説

面白いのは、動力数Npという無次元数の概念が確立されたのが1950年代の永田進治(Nagata)の研究だということ。日本人研究者の功績が、世界中の撹拌動力計算の基盤になっている。本ツールが採用しているNagata法も、まさにこの研究に端を発している。

撹拌機 選定と動力計算のTips

1. d/D比は翼型ごとの推奨範囲を守る

タービン翼ならd/D = 0.3〜0.5、アンカー翼なら0.90〜0.98が一般的な範囲。範囲外でも計算は可能だが、Np-Re相関の信頼性が落ちる。本ツールでd/D比が0.2未満または0.95超になると警告が出るので、参考にしてみて。

2. スケールアップは「等翼先端速度」を基本に

ラボ機(1L)からパイロット機(100L)、さらに実機(10,000L)へスケールアップする際、「等動力数」「等翼先端速度」「等レイノルズ数」の3基準がある。実務では等翼先端速度が最もバランスが良いとされる。剪断力の目安が維持されるため、乳化や分散系のスケールアップに特に有効だ。ただし、ガス吸収や固体懸濁が主目的の場合は等動力数基準が適切なこともある。目的に応じて使い分けよう。

3. 翼先端速度で撹拌の「激しさ」を把握する

回転数だけでは撹拌の強さは分からない。翼径200mmで300rpmと、翼径500mmで300rpmでは、先端速度が3.14 m/s vs 7.85 m/sと大きく異なる。先端速度が10 m/sを超えると「高速撹拌」、20 m/sを超えるとキャビテーションのリスクが出てくる。本ツールの翼先端速度表示を活用して、適正範囲に収まっているか確認しよう。

4. モータ出力は軸動力の1.2〜1.5倍を目安に

本ツールはモータ・減速機の総合効率を85%として必要モータ出力を算出している。実際のモータ選定では、さらに起動時の過負荷(液面が高い状態での起動など)を考慮して、計算値の1.2〜1.5倍のモータを選定するのが安全側の設計。特に高粘度流体では起動トルクが定常時の2〜3倍になることもあるので要注意だ。

5. 遷移域(Re = 10〜10,000)は要注意ゾーン

層流でも乱流でもない遷移域は、Npの値が大きく変動する領域。本ツールでは対数補間で滑らかにNpを算出しているが、実際の流れはバッフルの有無やタンク形状に大きく依存する。遷移域に入った場合は、計算値に±30%程度の余裕を見込んでおくと安心だ。

撹拌動力計算のよくある質問

邪魔板(バッフル)の有無で動力はどのくらい変わる?

乱流域では、バッフルの有無で動力が2〜5倍変わることがある。バッフルなしのタービン翼では中央に渦(ボルテックス)が形成され、見かけ上の動力が低下する。一方、バッフル付きでは渦が抑制されて強い乱流が発生し、動力数Npが本来の値に近づく。本ツールの計算値はバッフル付き(完全乱流)の標準条件を前提としている。バッフルなしの場合は、計算値の50〜70%程度を目安にするとよい。

レイノルズ数の層流・乱流の境界値はなぜ撹拌では10と10,000なの?

管内流れの層流・乱流境界がRe = 2,300付近なのに対し、撹拌のレイノルズ数は定義式が異なる(Re = ρnd²/μ)。回転体周りの流れは管内流れとは流動パターンが根本的に違うため、臨界レイノルズ数も異なる。Re < 10では粘性力が完全に支配的な層流、Re > 10,000では慣性力が支配的な完全乱流となる。この境界値はNagataをはじめとする多くの研究者の実験データに基づいて確立されたもの。

非ニュートン流体(シャンプーやケチャップなど)にも使える?

現時点では非ニュートン流体には対応していない。非ニュートン流体では剪断速度によって粘度が変化するため、「見かけ粘度」をどの剪断速度で評価するかが問題になる。一般的にはMetzner-Otto法(剪断速度 = Ks × n、Ksは翼型依存の定数)で見かけ粘度を求め、その値を使ってReを計算する手法がある。将来のアップデートで対応を検討中だが、現状では見かけ粘度を自分で算出し、「カスタム」流体として粘度欄に入力することで近似計算は可能だ。

入力した流体データや計算結果はサーバーに送信される?

一切送信されない。すべての計算はブラウザ上(クライアントサイド)で完了する。入力値や計算結果がサーバーに保存・送信されることはないので、社外秘の流体データや開発中の製品情報を入力しても問題ない。ブラウザを閉じればデータは消える。

多段翼(翼を2段・3段に設置)の場合はどう計算すればいい?

本ツールは単段翼を前提としている。多段翼の場合、翼同士の干渉により単純に「1段分の動力 × 段数」とはならない。一般的な目安として、翼間距離が翼径d以上離れていれば干渉は小さく、段数倍でおおむね近似できる。翼間距離がd未満の場合は、0.8〜0.9倍の補正係数を掛ける実務的な方法もあるが、正確な値はメーカーへの確認を推奨する。

まとめ — 撹拌動力計算を設計の出発点に

撹拌機の動力計算は、翼型選定・モータ選定・スケールアップのすべてに影響する設計の要だ。本ツールでは5種の翼型を横断比較でき、層流〜乱流の自動判定からスケールアップ計算まで一画面で完結する。概算段階での「あたり付け」に活用してみてほしい。

機械設計の関連ツールとして、鋼材断面のコンシェルジュ(断面性能・重量計算)梁の安全審判員(曲げ応力・たわみ・安全率シミュレーター)ボルト強度・破断モード診断も用意している。撹拌機のフランジ締結や架台の強度検討とあわせて利用してみて。


不具合の報告や機能リクエストはX (@MahiroMemo)からどうぞ。

M

Mahiro

Mahiro Appの開発者。Nagata法のNp-Re曲線を手計算していた頃、翼型を変えるたびにExcelのシートを作り直すのが本当に面倒だった。

運営者情報を見る

© 2026 撹拌機 動力計算シミュレーター