多層盛パス数計画ツール

開先断面積と堆積速度から必要パス数・層構成を逆算

開先断面積と堆積速度から必要パス数と層構成を逆算。WPSの初期計画に使える。

代表ケース(クリックで流し込み)

板厚・開先

V/X は全開先角、レ/K は片側ベベル角

溶接パラメータ

MAG=90 / CO2=88 / SAW=95-98 / 被覆=65

計算結果

必要パス数 N4パス
4層
推奨層構成: 4パス / 4層(1層1パス)
1パス入熱量 Q1.23kJ/mm
適正

開先断面積 A

81.7 mm²

合計入熱量

4.90 kJ/mm

1パス堆積量

52.7 g/min

1パス堆積断面

23.99 mm²

層数(目安)

4 層

1層≦3mm基準

ワイヤ質量

0.713 kg/m

溶着効率補正込

本ツールはWPS設計の初期検討用の参考値です。WFSと電流の関係は消耗品・電源特性で変動します。実際の施工は実機テストピースで堆積量を計測し、WPS認証試験の結果に従ってください。
不具合・ご要望はお気軽に@MahiroMemoまで

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📘 溶接施工・WPS作成の参考書

厚板のWPSを書くとき「パス数どう決める?」で止まる問題

SM490Bの25mm鋼板、V開先で裏当てなし、溶接法はMAG。このスペックを前にWPS(溶接施工要領書)を書き始めると、必ずどこかで手が止まる。開先断面積、電流、電圧、溶接速度、ワイヤ径、溶着効率——ここまでは数値を並べればいい。問題は「何パスで積み上げるか」だ。

電卓で開先断面積を出し、別の電卓で堆積量を出し、割り算してパス数を求める。さらに1パスあたりの入熱量を計算して鋼種の許容範囲と照らす。手順は決まっているのに、数字を3〜4つ並べて転記するだけで15分かかる。慣れた人でも時々間違える。

このツールは、板厚と開先条件と溶接パラメータをひとつの画面に入力するだけで、開先断面積・1パス堆積量・必要パス数・推奨層構成・1パスあたりの入熱量・合計入熱量・ワイヤ質量までまとめて返す。WPS原案を10分で形にするための計算ドラフトだ。

なぜ作ったのか:単機能ツールをつなぎ合わせる面倒さ

溶接関係の電卓はWebにいくつもある。開先断面積だけを出すもの、WFS(ワイヤ送り速度)だけを返すもの、入熱量だけを扱うもの——どれも正しく動く。ただ、WPSを書く側からすると3つのツールを行き来しながら数字を転記する作業がいちばん重い。どれかひとつでも入力を打ち間違えると辻褄が合わなくなる。

既存の溶接設計ツールを触っていて特に感じたのが、「堆積量とパス数を結びつけていない」ツールの多さだった。堆積量 [g/min] を出して終わり、あるいはWFS [m/min] を返して終わり。そこから先は「まあ現場で調整してね」に任されている。しかし現場の溶接士は、事前にパス数が決まっていないとトーチの動かし方を決められない。WPSを書く技術者が埋めるべき余白なのに、ツールは教えてくれない。

もうひとつの動機は、入熱量との整合性チェックを忘れがちなことだ。パス数だけ計算して「4パスでいけます」と書いても、1パスあたり 5.5 kJ/mm の入熱量ではSM490の適正範囲(一般に3〜4 kJ/mm)を超える。設計審査で差し戻される典型パターンだ。だから今回のツールでは、パス数と1パス入熱量を同じ画面で同時に見せるようにした。パス数が減れば入熱量が増える関係は、数字を並べて初めて直感的に掴める。

自分自身、過去に設計審査で「パス数の根拠は?」と聞かれ、現場任せの曖昧な数字を書いていたことを反省して、最終的に1つのツールにまとめた。既存の単機能ツールを否定するつもりはない——目的が違うだけだ。このツールは「WPSを一気通貫で書き切る」ことに特化している。

多層盛 とは:開先断面積と堆積速度の幾何学

多層盛(マルチパス)の基本

厚板の突き合わせ溶接で、1回のトーチ走査で全断面を埋めようとすると、溶融池が重力で垂れ下がる・溶け込み不足で欠陥ができる・入熱が過大になりHAZ(熱影響部)の結晶粒が粗大化する——などの問題が起きる。そこで開先の断面を複数の小さな溶接ビードに分けて順に積み上げるのが多層盛(マルチパス)だ。例えるなら、深い穴をスコップ1杯ずつ埋めていく作業に近い。一気にコンクリートを流し込むと気泡が入り、硬化後に割れる。少しずつ打って締め固めるから、均質な鉄の塊になる。

1層あたりの盛り高さは経験的に3mm前後が上限と言われる。それ以上厚く盛ると、次の層の熱で下層が再溶融しきらずに未融合欠陥を残しやすい。板厚12mmならおよそ4層、25mmなら8〜9層という感覚だ。

開先断面積 A の幾何学

開先形状によって断面積の式が変わる。ルートギャップ g、ルートフェース f、開先角度 θ、板厚 t とすると、代表的な式は以下になる(有効厚 teff = t - f)。

V開先:  A = teff² × tan(θ/2) + g × t
X開先:  A = (teff²/2) × tan(θ/2) + g × t
レ開先: A = (teff²/2) × tan(θ) + g × t
K開先:  A = (teff²/4) × tan(θ) + g × t

V開先は三角形2つぶん、X開先はその半分が上下対称に分かれる形。レ・K開先は片側だけベベル加工する片側開先で、T継手や柱梁仕口によく使われる。いずれもルートギャップ g × t の矩形部分が加算される。

堆積速度 DR(溶着速度)の物理

溶接でワイヤが溶けて母材に積もる速度は、おおむねワイヤ送り速度 WFS とワイヤ断面積の積で決まる。半自動溶接のWFSは電流に線形比例する近似式が使え、ワイヤ径 d [mm] に対して係数 k を使って次のように表せる。

WFS [m/min] = k × I
k: φ0.9=0.060 / φ1.2=0.030 / φ1.6=0.015

ここに鋼の密度 7.85 g/cm³ を掛けると、グロスの堆積質量速度 DR_gross [g/min] が求まる。さらに溶着効率 η を掛けた DR_net が実際に母材側へ移行する溶着量だ。MAGで90%、CO2で88%、SAWで95〜98%、被覆アーク(SMAW)で65%程度が目安。詳細な原理はWikipedia「ガスメタルアーク溶接」を参照。

1パスで埋められる開先断面積 A_pass は、DR_net を鋼の密度で割って体積速度に戻し、溶接速度 v で割れば出る。

A_pass [mm²/長さ] = (DR_net / ρ_steel) / v
必要パス数 N = ceil(A_g / A_pass)

この一連の計算が多層盛パス数計画の幹となる。

実務での重要性:パス数を外すと何が起きるか

パス数過少の最大のリスクは溶込み不足と未融合だ。1パスで開先全体を埋めようとすれば、ビード厚が3mmを超え、次の層の再溶融が届かないまま止まる。探傷検査で指示が出て溶接やり直しになれば、1箇所の手戻りで半日は飛ぶ。JIS Z 3104(鋼溶接継手の放射線透過試験)の等級分類で第3類以下に落ちれば、強度区分ごと見直しが必要になる。

逆にパス数過多入熱量の過大化と変形の増大につながる。パスを細かく刻んで電流を下げれば1パス入熱は抑えられるが、総入熱量(パス数 × 1パス入熱)はあまり変わらず、場合によっては増える。結果として板が面内に引けて反りが出る。25mm厚の長尺部材で5mmの反りが出れば組立現場で直角出しが不能になり、ジャッキとガスバーナで矯正する羽目になる。

SM490以上の高張力鋼では、1パスあたりの入熱量が鋼種の推奨範囲(おおむね3〜4 kJ/mm)を超えるとHAZ軟化や低温割れの懸念が出る。日本溶接協会の溶接入熱管理指針でも鋼種別に推奨範囲が示されている。パス数を決めるときは「開先を埋められるか」だけでなく「1パス入熱が鋼種許容を超えないか」の両方を同時に見る必要がある。

さらに、パス数はワイヤ消費量の見積もり精度にも直結する。1m溶接するのに必要なワイヤ質量は開先断面積 × 鋼密度 / 溶着効率で出るが、パス数が大きくブレれば作業時間の見積もりも狂う。工数計算 → 見積 → 工程表という下流工程にまで影響する。

実務感覚としては、板厚12mmなら3〜4パス、25mmなら8〜10パス、32mmなら10〜12パスが標準的な落としどころ。この感覚から大きく外れる計算結果が出たら、入力条件(溶接速度・電流・開先角度)のどこかに無理があると疑うべきだ。

活躍する場面

WPS原案作成(製缶工場・鉄骨工場)

受注物件の鋼種・板厚・開先仕様から、WPS第1案を数分で作る。板厚違いのバリエーション展開(12mm・16mm・25mm・32mmなど)もプリセットを切り替えるだけで一気に埋められる。

溶接施工管理検定の学習・実務研修

WES特別級・1級の受験者が「計算問題の数値感覚」を掴むのに使える。出題される開先断面積と堆積速度の関係を、手計算ではなく数値を変えながら繰り返し確認できる。

現場の変更対応・異例承認

元の設計から板厚や溶接速度が変わった時、パス数と入熱量の再計算がすぐできる。異例承認の書類を出すときに根拠数値を添付しやすい。

見積・工数計算

ワイヤ質量とパス数から溶接時間・消耗品費を概算できる。1m溶接あたりのワイヤ消費量は、歩掛り計算の基礎データとして使える。

基本の使い方

  1. 板厚と開先条件を入力: 板厚・開先形状(V/X/レ/K)・開先角度・ルートギャップ・ルートフェースを入力。代表的な条件は画面上部のプリセットボタンから流し込める。
  2. 溶接パラメータを入力: 電流・電圧・溶接速度・ワイヤ径・溶着効率を入力。溶接法に迷ったらMAGは90%、CO2は88%、SAWは95%を目安に。
  3. 結果を確認: 必要パス数と推奨層構成がハイライトで表示される。1パス入熱量が 3.0 kJ/mm を超えたら黄色、5.0 kJ/mm を超えたら赤の警告が出る。整合性に違和感があれば溶接速度を調整する。

具体的な使用例

ケース1: 12mm V60° MAG φ1.2(一般鉄骨・最頻出)

入力: 板厚12mm, V開先60°, g=2, f=2, I=220A, V=26V, v=280mm/min, φ1.2, η=90%。

結果: 開先断面積 81.74 mm², 1パス堆積量 52.73 g/min, 1パス堆積断面積 23.99 mm², 必要パス数4パス, 1パス入熱 1.23 kJ/mm, 合計入熱 4.90 kJ/mm, ワイヤ質量 0.713 kg/m。

解釈: 鉄骨工場の主力条件。4パス・4層構成が素直な落としどころ。1パス入熱 1.23 kJ/mm はSM400〜SM490どちらでも十分に適正範囲内。ワイヤ消費は1m溶接で約0.7kg(20kgペール缶1本で28m溶接できる)。

ケース2: 25mm X60° SAW φ1.6(大型構造・サブマージアーク)

入力: 板厚25mm, X開先60°, g=3, f=3, I=350A, V=32V, v=400mm/min, φ1.6, η=95%。

結果: 開先断面積 214.72 mm², 1パス堆積量 78.71 g/min, 1パス堆積断面積 25.07 mm², 必要パス数9パス, 1パス入熱 1.68 kJ/mm, 合計入熱 15.12 kJ/mm, ワイヤ質量 1.774 kg/m。

解釈: 橋梁・ボイラなどの大型溶接構造物で使うSAW自動溶接の典型。X開先で裏表から同時にアクセスできるので断面積が抑えられる。9パス構成だが、1パスの断面積が25 mm²と大きいのでSAWの生産性が生きる。総入熱15 kJ/mm は多層の累積値なので、母材側はパス間冷却で平準化される。

ケース3: 8mm V60° MAG φ1.2(薄板・3パスで完了)

入力: 板厚8mm, V開先60°, g=2, f=2, I=180A, V=24V, v=300mm/min, φ1.2, η=88%。

結果: 開先断面積 36.78 mm², 1パス堆積量 42.19 g/min, 1パス堆積断面積 17.91 mm², 必要パス数3パス, 1パス入熱 0.86 kJ/mm, 合計入熱 2.59 kJ/mm, ワイヤ質量 0.328 kg/m。

解釈: 薄板の標準的な3パス構成。ルート・中間・仕上げの3段構えで、変形を抑えながら仕上がりビードを整える。1パス入熱 0.86 kJ/mm は低めで、薄板の熱変形リスクを下げられる。

ケース4: 20mm レ45° MAG φ1.2(T継手・柱梁仕口)

入力: 板厚20mm, レ開先45°, g=2, f=2, I=280A, V=30V, v=350mm/min, φ1.2, η=88%。

結果: 開先断面積 202.00 mm², 1パス堆積量 65.62 g/min, 1パス堆積断面積 23.88 mm², 必要パス数9パス, 1パス入熱 1.44 kJ/mm, 合計入熱 12.96 kJ/mm, ワイヤ質量 1.802 kg/m。

解釈: 鉄骨造の柱梁仕口で多用されるレ開先のT継手。板厚の割に断面積が大きく出るのが片側開先の特徴で、9パスと多くなる。電流280Aは φ1.2 ワイヤの実用上限(約350A)の範囲内で、パス入熱も適正。

ケース5: 32mm K45° SAW φ1.6(厚板・鏡板仕様)

入力: 板厚32mm, K開先45°, g=3, f=3, I=420A, V=34V, v=380mm/min, φ1.6, η=95%。

結果: 開先断面積 306.25 mm², 1パス堆積量 94.44 g/min, 1パス堆積断面積 31.66 mm², 必要パス数10パス, 1パス入熱 2.25 kJ/mm, 合計入熱 22.55 kJ/mm, ワイヤ質量 2.531 kg/m。

解釈: 圧力容器の鏡板付根溶接を想定した厚板K開先。SAWの大電流(420A)で1パス断面積31 mm²を確保して10パスでまとめる。1パス入熱 2.25 kJ/mm は高張力鋼でもギリギリ適正範囲内。ワイヤ消費1m当たり2.5kgで、20kgペール缶で8m溶接しか取れないことに注意。

ケース6: 16mm V70° MAG φ1.2(中厚板・開先広め)

入力: 板厚16mm, V開先70°, g=2, f=2, I=260A, V=28V, v=320mm/min, φ1.2, η=90%。

結果: 開先断面積 169.24 mm², 1パス堆積量 62.31 g/min, 1パス堆積断面積 24.81 mm², 必要パス数7パス, 1パス入熱 1.37 kJ/mm, 合計入熱 9.56 kJ/mm, ワイヤ質量 1.476 kg/m。

解釈: 開先角度を60°→70°に広げると断面積が1.2倍になり、パス数も4パス→7パスへ増える。角度を広げれば溶接士のトーチアクセスは楽だが、ワイヤ消費も時間も跳ね上がる。「角度を10°広げるとワイヤ消費が1.5〜2割増える」という感覚を掴むのに良い比較ケース。

仕組み・アルゴリズム

候補手法の比較:経験式 vs 実測式 vs シミュレーション

溶接堆積量を推定する方法は大きく3つある。

手法精度入力の手軽さこのツールでの採否
経験式(電流 × 係数)±10〜15%電流・ワイヤ径のみ採用
消耗品メーカーのWFS実測表±5%メーカー・銘柄特定が必要不採用(汎用性で劣る)
FEM熱伝導シミュレーション±3%入力・設定が膨大不採用(WPS初期検討に過剰)

採用したのは経験式。WPS原案作成の初期検討が目的なので、±10〜15%の誤差を許容しても入力の手軽さを優先した。精密な値が必要な本採番WPSでは、実機テストピースで堆積量を直接計測してWFSを較正する運用を前提にしている。

実装詳細:計算フロー

Step 1: 開先断面積 A_g を形状別に計算
  V:     A_g = (t-f)² × tan(θ/2) + g × t
  X:     A_g = (t-f)²/2 × tan(θ/2) + g × t
  レ:    A_g = (t-f)²/2 × tan(θ) + g × t
  K:     A_g = (t-f)²/4 × tan(θ) + g × t

Step 2: WFS を電流から推定
  k_current: φ0.9=0.060 / φ1.2=0.030 / φ1.6=0.015
  WFS [m/min] = k_current × I

Step 3: 堆積量 DR_net [g/min]
  DR_gross = WFS × 6.165 × d²
           (6.165 = 1000 × π/4 × 7.85×10⁻³; 単位換算係数)
  DR_net   = DR_gross × η

Step 4: 1パス堆積断面積 A_pass [mm²/長さ]
  DR_vol   = DR_net / 0.00785  // 鋼の密度 [g/mm³]
  A_pass   = DR_vol / v

Step 5: 必要パス数 N
  N = max(1, ceil(A_g / A_pass))

Step 6: 入熱量とワイヤ質量
  Q         = (I × V × 60) / (v × 1000)  // kJ/mm per pass
  totalQ    = Q × N                       // kJ/mm total
  wireMass  = A_g × 0.00785 / η          // kg/m

エッジケース処理として、g + f ≥ t のときは開先断面積が負になるため null を返却(「ルートギャップ+ルートフェースが板厚以上」のエラー表示)。N = 1 かつ t > 12mm のときは「厚板を単層で埋める計算結果ですが多層化を検討」の警告を出す。

計算例:12mm V60° MAG のステップバイステップ

入力: t=12, θ=60, g=2, f=2, I=220, V=26, v=280, d=1.2, η=0.90

Step 1: 開先断面積
  teff = 12 - 2 = 10
  A_g = 10² × tan(30°) + 2 × 12
      = 100 × 0.5774 + 24
      = 57.74 + 24 = 81.74 mm²  ✓

Step 2: WFS
  WFS = 0.030 × 220 = 6.60 m/min

Step 3: 堆積量
  DR_gross = 6.60 × 6.165 × 1.44 = 58.59 g/min
  DR_net   = 58.59 × 0.90 = 52.73 g/min  ✓

Step 4: 1パス堆積断面積
  DR_vol   = 52.73 / 0.00785 = 6716.6 mm³/min
  A_pass   = 6716.6 / 280 = 23.99 mm²  ✓

Step 5: 必要パス数
  N = ceil(81.74 / 23.99) = ceil(3.41) = 4 パス  ✓

Step 6: 入熱量とワイヤ質量
  Q        = (220 × 26 × 60) / (280 × 1000) = 1.23 kJ/mm  ✓
  totalQ   = 1.23 × 4 = 4.90 kJ/mm  ✓
  wireMass = 81.74 × 0.00785 / 0.90 = 0.713 kg/m  ✓

経験式の係数 k_current は、日本溶接協会・各消耗品メーカーの実測データを平均した値を採用している。銘柄やメーカーが特定できる場合は、カタログ値で再較正することを推奨する。

他ツールとの違い

多層盛の計画を担当するツールは世に出回っているが、ほとんどが「開先断面積を出す電卓」か「入熱量だけを出す電卓」の単機能だ。開先→堆積速度→パス数→層構成→入熱量というWPS作成で本当に必要な流れを1画面で完結させているのは、このツールの強みだ

既存の表計算シートを見てきたが、大きく2つの不満があった。

  1. WFS(ワイヤ送り速度)を手入力させるタイプは、現場担当者が電流から逆算できず止まる。本ツールはワイヤ径ごとの k_current 係数(φ1.2なら0.030 m/min/A)で自動換算する
  2. 開先断面積だけを計算するタイプは、パス数を決めるのに堆積速度を別ツールで出す手間がかかる。本ツールは板厚×開先×電源設定を入れれば終わり

さらに、同サイトの /weld-heat-input で鋼種別の許容入熱量を確認し、/welding-filler-consumption でワイヤ発注量を詰められる。単機能を横断せず、WPS設計の初期検討から材料手配までを同じ用語・同じ定数で繋げるのがこのツール群の設計思想だ。入熱量の閾値(3.0 / 5.0 kJ/mm)も3ツールで統一しているので、数字の読み替えで迷わない。

豆知識・読み物

パス順が変形を決める

多層盛は「何パス積むか」より「どの順に積むか」で最終形状が大きく変わる。代表的な手法はこの3つだ。

  • ブロック溶接法:溶接線を数ブロックに分割し、各ブロック内で多層盛を完結させてから次へ移る。冷却時間を確保でき、長物の角変形を抑える
  • スキップ溶接法:溶接線の途中を飛ばしながら、離れた位置を先に溶接する。収縮力を分散させて縦収縮を減らす
  • 対称溶接法:X開先で表裏を交互に積む。左右対称・上下対称で角変形を相殺する

JISの溶接施工標準(JIS Z 3801)やWES(日本溶接協会規格)でも、厚板の多層盛では対称溶接が推奨されている。

1層3mmルールの由来

本ツールは「1層の最大高さ=3mm」を推奨値として採用している。これは経験則だが、2つの背景がある。

  1. アーク長の制御限界:1層が4mmを超えるとビード表面が凸になり、次パスでスラグ噛み込みが起きやすい
  2. 溶接熱サイクルの健全性:1パス堆積量が多いほど冷却速度が遅くなり、特にSM490以上の高張力鋼ではHAZ軟化が進む

WES 7000系の溶接検定試験でも、1層3mmを逸脱するとビード外観不良で減点対象になる。このツールは層数を Math.ceil(板厚 / 3) で算出するので、検定試験の練習用WPSとしても使える。

Tips

  • 層間温度を意識する:多層盛は各パス後に冷却を待つのが基本。SM490の場合、層間温度の上限は250℃程度が目安。赤外線放射温度計で測ると早い
  • 1層1パスは狭開先の鉄則:狭開先(V30°など)では層幅が狭く、1層1パスで積まないとスラグ噛みが起きやすい。本ツールで層数とパス数が一致していれば、1層1パス構成になる
  • φ1.2で400A超は要検討:φ1.2ワイヤの実用上限は約350A。それ以上はワイヤ溶け落ちが不安定になるので、φ1.6への切り替えを推奨
  • SAWの効率は95%以上:サブマージアークは外気遮断でスパッタがほぼ無いため溶着効率が非常に高い。手計算時に90%で見積もるとワイヤ発注量が過大になる
  • 対称溶接でパス数を偶数に:X開先や両面溶接では、パス数を偶数にして表裏対称に積むと角変形が小さくなる。奇数になった場合は裏側に1パス追加して調整するのが現場の定石

FAQ

パス数が過少だと何が起きる? 1パスあたりの溶着断面積が大きくなり、入熱過大で溶込み不足(ルート融合不良)やHAZ軟化が起きる。特にSM490以上の高張力鋼では、1パスの入熱が5kJ/mmを超えると低温割れリスクが急増する。本ツールで `heatInputPerPass > 5.0` の赤警告が出たら、溶接速度を下げるか電流を落としてパスを増やすこと。
開先角度を狭くすれば材料費が減る? 原理的には正しい。V60°→V45°で開先断面積は約30%減り、ワイヤ質量も同率で減る。ただし狭開先は溶接トーチの角度確保が難しく、ルート融合不良が起きやすい。φ1.2ワイヤなら最小50°、φ1.6なら最小40°が現場の実用下限。本ツールで角度を狭めてパス数の変化を確認しつつ、実機テストピースで融合を確認するのが堅実だ。
計算された必要パス数と実際のWPSが合わないことがあるけど? 本ツールは経験式(WFS = k × I)で堆積速度を概算している。実機では電源特性・シールドガス組成・ワイヤメーカーで±15%程度ばらつく。**この誤差を踏まえ、WPS認証試験では±1パス前後の余裕を見るのが一般的**。1パス100mm以上の長物では、試験ピースで堆積量を実測して本ツールの溶着効率を微調整すると精度が上がる。
X開先とV開先、どちらが得? 同じ板厚ならX開先のほうが断面積が約半分になり、ワイヤ・工数とも削減できる。ただしX開先は両面溶接が必須で、片面しかアクセスできない現場(箱内部・円筒外側など)では使えない。板厚25mm超の突合せでは、両面アクセス可ならX、片面のみならV(もしくは裏波溶接)が定石。本ツールで両方を計算して比較できる。
溶着効率を決める根拠は? JIS Z 3001の溶接用語では溶着効率を「溶着金属質量 / 消費ワイヤ質量」と定義する。MAGは約90%、CO2は約88%、サブマージアーク(SAW)は95-98%、被覆アーク(SMAW)は65%前後がJIS Z 3312付属書や各メーカーのカタログ値と整合する。フラックス入りワイヤ(FCAW)はスラグ発生量が多く、80-85%になる点に注意。
層間温度の管理はどこまで厳密に? SM400クラスなら200℃、SM490なら250℃、高張力鋼(HT780など)なら150℃前後が上限目安。層間温度が上限を超えると、前層が再加熱されて軟化する。本ツールの合計入熱量(`totalHeatInput`)が15 kJ/mmを超える場合、層間温度の管理計画を [/weld-preheat](/weld-preheat) で別途立てておくと安心。

まとめ

多層盛のパス数は「開先断面積 ÷ 1パス堆積断面積」で決まる単純な構造だ。しかし堆積速度は電流から逆算、層構成は1層3mmの経験則、入熱量は鋼種ごとの許容範囲——と、判断材料が重なり合うのが厄介なところ。本ツールは幾何計算と電気パラメータを1画面にまとめ、WPS原案を数秒で作れるようにした。

関連ツールで工程全体をカバーできる。

不明点や機能要望はお問い合わせから。現場の事例を反映して精度を高めていく。

M

Mahiro

Mahiro Appの開発者。WPSで「パス数の根拠は?」と問い詰められた経験から、開先・堆積・入熱の三連立をひとつの画面にまとめた。実機テストピースで較正しながら使ってほしい。

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