板厚6mmの軟鋼をCO2半自動で突合せ溶接——電流は何アンペアにすればいい?
現場で溶接機の前に立ったとき、「この板厚と材質なら電流いくつだっけ?」と迷った経験は誰にでもあるだろう。ベテランなら体に染みついた感覚で条件を出せるけれど、それでも溶接法を変えたり材質が違ったりすると手が止まる。メーカーの条件表はPDFで何十ページもあるし、JIS規格を引くのも面倒だ。
溶接条件セレクターは、溶接法(TIG / MIG / 被覆アーク / 半自動CO2)・母材(軟鋼・ステンレス・アルミ)・板厚・継手形態の4つを選ぶだけで、推奨電流・電圧・溶接速度・ワイヤ径・パス数・入熱量を一括で表示するツールだ。スマホからでもワンタップで条件が引ける。もう分厚い条件表をめくる必要はない。
なぜ「溶接条件セレクター」を作ったのか
きっかけは、現場で溶接法が変わるたびに条件表を探し回る手間だった。
パナソニック、ダイヘン、神戸製鋼——メーカーごとに推奨条件表はあるけれど、フォーマットがバラバラで横断比較ができない。TIGの条件を見たければこのPDF、CO2ならあっちのカタログ。しかも多くの条件表は「ワイヤ径ごと」に整理されていて、「板厚と継手から逆引き」する構成になっていない。実務で知りたいのは「この板厚・この継手ならワイヤ径も含めて全部教えてくれ」なのに、そこに辿り着くまでに何ステップも必要になる。
もう一つの不満は、入熱量が自動計算されないことだ。溶接条件を決めたら、次に気になるのは入熱量。入熱過大なら変形やHAZ軟化のリスクが上がるし、ステンレスなら鋭敏化(粒界腐食)も怖い。電流・電圧・速度を決めた後にわざわざ電卓を叩くのは二度手間だ。
溶接法4種を横断で比較でき、板厚と継手を入力すれば棒径から入熱量まで一括で出る。そんなツールが欲しかった。だから自分で作った。
溶接条件とは何か——電流・電圧・速度の三要素と入熱量
溶接条件 早見表の前に知るべき基礎
溶接条件とは、溶接する際に設定する電気的・機械的なパラメータの総称だ。料理にたとえるなら、「火加減」「鍋の温度」「加熱時間」に相当する。火が強すぎれば焦げ、弱すぎれば生焼け。溶接も同じで、条件が適切でなければ溶込み不良やオーバーヒートが起きる。
核となるのは以下の三要素だ。
- 溶接電流(A): 溶融プールの大きさと溶込み深さを決める最重要パラメータ。電流が大きいほど入熱が増え、溶込みが深くなる
- アーク電圧(V): アーク長とビード幅に影響する。電圧を上げるとアークが長くなり、ビード幅が広がる一方で溶込みは浅くなる傾向がある
- 溶接速度(mm/min): 単位長さあたりの入熱を左右する。速度が遅いほど入熱が増え、ビードが太くなる
入熱量 計算の基本式
三要素を統合した指標が入熱量(heat input)だ。JIS Z 3001で定義されている。
入熱量 Q (kJ/mm) = 60 × 電圧(V) × 電流(A) / 溶接速度(mm/min) / 1000
たとえば200A・26V・350mm/minなら、Q = 60 × 26 × 200 / 350 / 1000 = 0.89 kJ/mm。この値が大きいほど母材への熱影響が大きくなる。
溶接法ごとの特性
溶接法によって電流・電圧・速度の「取れる範囲」がまったく異なる。
| 溶接法 | 電流域 | 速度域 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| TIG(GTAW) | 50〜250A | 50〜200 mm/min | 低速・高品質。薄板やステンレスに強い |
| MIG(GMAW) | 60〜350A | 200〜600 mm/min | 高速・アルミやステンレスに多用 |
| 被覆アーク(SMAW) | 50〜270A | 100〜300 mm/min | 屋外現場の定番。シールドガス不要 |
| 半自動CO2(GMAW-CO2) | 80〜400A | 200〜500 mm/min | 鉄骨・造船で最も普及 |
ワイヤ径・棒径と電流の関係
溶接電流の推奨範囲は、使用するワイヤ径(または溶接棒径)で決まる。ワイヤ径が太いほど高電流に耐え、溶着量が増える。逆に薄板に太いワイヤを使うと溶け落ちの原因になる。このツールでは板厚からワイヤ径を自動選定し、そのワイヤ径に対応する電流範囲を返す仕組みだ。
溶接条件が設計・施工でなぜ重要なのか
入熱過大がもたらすリスク
入熱量が大きすぎると、溶接部周辺の熱影響部(HAZ: Heat Affected Zone)が軟化し、母材の強度を下回る。特に高張力鋼(HT材)では、HAZ軟化によって設計上の耐力が確保できなくなるケースがある。建築基準法施行令第67条では鉄骨接合部の強度を母材以上と規定しており、入熱管理はその前提条件だ。
ステンレス鋼(SUS304など)では事態がさらに深刻になる。入熱過大で600〜800℃の温度帯に長時間さらされると、クロム炭化物が粒界に析出して鋭敏化が起きる。鋭敏化した溶接部は粒界腐食を引き起こし、配管なら漏洩事故につながる。ステンレスの溶接では入熱量2.5 kJ/mm以下が一つの目安とされる。
入熱不足もまた危険
逆に入熱が小さすぎれば溶込み不良だ。突合せ溶接でルート部が融合していないと、外観は問題なくても内部欠陥として残り、超音波探傷(UT)で不合格になる。やり直し溶接のコストは初回施工の3〜5倍とも言われ、入熱不足は工程遅延と追加コストの直接原因になる。
溶接検査と条件記録
WPS(溶接施工要領書)には電流・電圧・速度・入熱量の許容範囲が明記される。溶接士はこの範囲内で施工し、記録を残す義務がある。条件がWPSの範囲外だった場合、たとえ外観が良好でも不合格扱いになることがある。事前に適切な条件を把握しておくことは、品質管理の第一歩だ。
溶接条件セレクターが活躍する4つの場面
1. 鉄骨工事の溶接条件出し
鉄骨ファブリケーターでは、柱・梁の溶接条件をWPSに落とし込む作業が日常だ。板厚とジョイント形式を入れれば推奨条件が即座に出るから、条件表を引く時間を大幅に短縮できる。
2. 配管溶接の条件確認
プラント配管ではTIGルートパス+被覆アーク積層という組み合わせが多い。材質がSUS304か軟鋼かで電流が変わるから、材質を切り替えるだけで条件が比較できるのは便利だ。
3. 造船・重工の多層盛り溶接
板厚19mm、25mmといった厚板の多層盛り溶接では、パス数の見積もりが工数計画に直結する。このツールなら板厚を入力するだけでパス数の目安が出る。
4. DIYで溶接を始めた個人
100V半自動溶接機を買ったけど、3mmの鉄板に何アンペアで溶接すればいいか分からない。そんなとき板厚と溶接法を選ぶだけで推奨電流が分かる。
基本の使い方——3ステップで推奨条件を取得
ステップ1: 溶接法と母材を選ぶ
画面上部のセグメントボタンで溶接法(TIG / MIG / 被覆アーク / 半自動CO2)と母材(軟鋼 / ステンレス / アルミ)を選択する。
ステップ2: 板厚と継手形態を入力
板厚を数値入力し(0.5〜50mm)、継手形態(突合せ / すみ肉 / T継手 / 重ね)を選ぶ。
ステップ3: 推奨条件を確認・コピー
推奨電流・電圧・溶接速度・ワイヤ径・パス数・入熱量が一括表示される。入熱量には安全判定(適正 / 高入熱 / 入熱過大)も付く。「条件をコピー」ボタンでクリップボードに保存し、WPSや施工記録に貼り付けられる。
具体的な使用例——6ケースで検証
ケース1: 半自動CO2・軟鋼6mm・突合せ
鉄骨工事で最も多い組み合わせ。
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 推奨電流 | 200〜350 A |
| 推奨電圧 | 24〜32 V |
| 溶接速度 | 200〜500 mm/min |
| ワイヤ径 | 1.2 mm |
| パス数 | 1 |
| 入熱量 | 1.32 kJ/mm |
入熱量1.32 kJ/mmは「適正」範囲(0.5〜3.0 kJ/mm)。軟鋼6mmなら1パスで問題なく溶着できる。鉄骨のフランジ・ウェブ接合で標準的な条件だ。
ケース2: TIG・ステンレス(SUS304)3mm・突合せ
ステンレス配管やサニタリー機器の薄板溶接。
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 推奨電流 | 51〜94 A |
| 推奨電圧 | 10〜11 V |
| 溶接速度 | 50〜200 mm/min |
| ワイヤ径 | 1.6 mm |
| パス数 | 1 |
| 入熱量 | 0.37 kJ/mm |
入熱量0.37 kJ/mmは「低入熱」寄りだが、ステンレス3mmのTIG溶接としては妥当な値。入熱を抑えることで鋭敏化リスクを回避できる。2.5 kJ/mmを大きく下回っており安全側だ。
ケース3: 被覆アーク・軟鋼19mm・突合せ(多層盛り)
厚板の現場溶接。多層盛りが必要になる。
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 推奨電流 | 130〜200 A |
| 推奨電圧 | 25〜28 V |
| 溶接速度 | 100〜300 mm/min |
| ワイヤ径(棒径) | 4.0 mm |
| パス数 | 3 |
| 入熱量 | 1.31 kJ/mm |
19mmは被覆アークの1パス上限(9mm)を超えるため、3パス(ルートパス3mm + 積層2パス×8mm)の多層盛りになる。入熱量1.31 kJ/mmは適正範囲で、軟鋼なら問題ない水準。
ケース4: MIG・アルミ(A5052)5mm・突合せ
アルミフレームや船舶の構造溶接。
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 推奨電流 | 138〜288 A |
| 推奨電圧 | 21〜28 V |
| 溶接速度 | 200〜600 mm/min |
| ワイヤ径 | 1.0 mm |
| パス数 | 1 |
| 入熱量 | 0.79 kJ/mm |
アルミは熱伝導率が高いため、軟鋼より約15%高い電流が必要になる(材質係数1.15)。入熱量0.79 kJ/mmは適正範囲。5mmなら1パスで溶着可能だ。
ケース5: 半自動CO2・軟鋼3mm・すみ肉
薄板のすみ肉溶接。ブラケット取り付けなどに多い。
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 推奨電流 | 72〜162 A |
| 推奨電圧 | 18〜22 V |
| 溶接速度 | 200〜500 mm/min |
| ワイヤ径 | 0.9 mm |
| パス数 | 1 |
| 入熱量 | 0.40 kJ/mm |
すみ肉の継手係数(0.9)により、突合せより電流が約10%低く設定される。板厚3mmの薄板でも0.9mmワイヤなら溶け落ちのリスクが低い。入熱量0.40 kJ/mmは適正範囲の下限付近で、薄板に対して安全側の条件だ。
ケース6: TIG・アルミ8mm・すみ肉
厚板アルミのすみ肉溶接。多層盛りが必要になるケース。
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 推奨電流 | 124〜207 A |
| 推奨電圧 | 13 V |
| 溶接速度 | 50〜200 mm/min |
| ワイヤ径 | 2.4 mm |
| パス数 | 4 |
| 入熱量 | 1.05 kJ/mm |
8mmはTIGの1パス上限(6mm)を超えるため、4パス(ルートパス2mm + 積層3パス×2.5mm)の多層盛り。アルミ×TIGの厚板では予熱(100〜150℃程度)を併用すると溶込みが安定する。入熱量1.05 kJ/mmは適正範囲だが、パス間温度管理に注意が必要だ。
仕組み・アルゴリズム——条件算出ロジックの全貌
手法比較: ルックアップ方式 vs 回帰式方式
溶接条件の算出には大きく2つのアプローチがある。
- ルックアップテーブル方式: 板厚・ワイヤ径ごとに電流・電圧の推奨値を表に持つ。メーカーの条件表と同じ考え方。精度は高いがデータ量が膨大になる
- 回帰式方式: 電流・電圧を板厚やワイヤ径の関数として近似する。データ量が少なく、中間値の補間が自然にできる
本ツールではハイブリッド方式を採用した。ワイヤ径の選定はルックアップテーブル(板厚で引く)、電流範囲はワイヤ径からのルックアップ、電圧は電流からの回帰式で算出する。これにより、テーブルの信頼性と回帰式の柔軟性を両立している。
計算フロー
`
Step 1: ワイヤ径決定
wireRodDia = wireRodTable[process] のうち thicknessMax >= 板厚 の最初のエントリ
Step 2: 電流範囲 currentMin = currentByRodDia[process][wireRodDia].min × materialFactor × jointFactor currentMax = currentByRodDia[process][wireRodDia].max × materialFactor × jointFactor
Step 3: 電圧範囲 TIG: V = 10 + 8 × clamp(thickness / 20, 0, 1) MIG: V = 14 + 0.05 × I SMAW: V = 20 + 0.04 × I CO2: V = 14 + 0.05 × I
Step 4: パス数 thickness <= singlePassMax → 1パス それ以外 → ceil((thickness - rootPass) / layerThickness) + 1
Step 5: 入熱量
Q = 60 × V_mid × I_mid / speed_mid / 1000 (kJ/mm)
`
計算例: 半自動CO2・軟鋼6mm・突合せ
Step 1: wireRodTable[co2] → thicknessMax=9 ≥ 6 → dia = 1.2mm Step 2: currentByRodDia[co2][1.2] = {min:200, max:350} materialFactor(mild-steel) = 1.0, jointFactor(butt) = 1.0 → currentMin = 200 × 1.0 × 1.0 = 200 A → currentMax = 350 × 1.0 × 1.0 = 350 A Step 3: voltageMin = 14 + 0.05 × 200 = 24 V voltageMax = 14 + 0.05 × 350 = 31.5 → 32 V Step 4: 6mm ≤ singlePassMax(co2)=12 → passes = 1 Step 5: I_mid = (200+350)/2 = 275 A V_mid = (24+32)/2 = 28 V speed_mid = (200+500)/2 = 350 mm/min Q = 60 × 28 × 275 / 350 / 1000 = 1.32 kJ/mm
材質係数と継手係数
材質係数はステンレス0.85(熱伝導率が低く少ない電流で溶融する)、アルミ1.15(熱伝導率が高く多くの電流が必要)。軟鋼は基準値の1.0。継手係数は突合せ1.0、すみ肉0.9、T継手0.95、重ね0.85。すみ肉や重ねでは溶着断面積が小さいため、突合せより電流を下げる設計になっている。
他の溶接条件ツールとの違い — 4溶接法横断×入熱量自動算出
溶接条件を調べる手段は他にもある。パナソニックやダイヘンなど溶接機メーカーのFAQページ、あるいは溶接棒メーカーのカタログ裏面。それぞれ有用だが、いくつか不満がある。
メーカーFAQ/カタログとの違い
- メーカーの条件表は自社製品に最適化されていて、溶接法をまたいだ比較ができない。「TIGとCO2でどっちが入熱を抑えられるか」を知りたいとき、2社分のPDFを並べて換算する羽目になる
- 本ツールはTIG・MIG・被覆アーク・半自動CO2の4溶接法を同一UIで横断できる。同じ板厚・母材で溶接法だけ切り替えれば、条件の差が一目でわかる
Excel条件表との違い
- 現場で自作のExcel条件表を使っている人も多い。ただ、スマホで開くとセルがつぶれて読めない
- 本ツールはスマホ表示を前提に設計している。現場のスマホからタップ3回で条件が出る
入熱量の自動算出
- 一般的な条件表は電流・電圧・速度を示すだけで、入熱量(kJ/mm)まで計算してくれない。本ツールは Q = 60 × V × I / speed の式で入熱量を自動算出し、適正範囲の判定まで表示する。ステンレスの鋭敏化リスクや厚板の変形リスクを、数値で即座に把握できる
パス数の自動算出
- 多層盛りが必要な厚板で「何パス必要か」を概算してくれるツールは意外と少ない。本ツールはルートパス+積層パスのロジックで推奨パス数を自動計算する
溶接条件にまつわる豆知識 — CO2溶接が日本で普及した理由とTIGの語源
なぜ日本ではCO2半自動溶接がこれほど普及したのか
世界的にはMIG溶接(アルゴン+CO2混合ガス)が主流だが、日本では純CO2シールドの半自動溶接が圧倒的に多い。理由は経済性。CO2ガスはアルゴンの約1/5の価格で、鉄骨・造船・橋梁など大量溶接の現場ではコスト差が効いてくる。1960年代に日本の溶接ワイヤメーカーがCO2専用フラックス入りワイヤを開発し、スパッタの多さという弱点を克服したことも普及の追い風になった。日本溶接協会の統計によると、国内の溶接消費材の約6割がCO2系という報告もある。
TIG溶接の名前の由来
TIGは「Tungsten Inert Gas」の略。タングステン電極と不活性ガス(アルゴンやヘリウム)を使う溶接法だ。タングステンの融点は約3,422℃で、金属元素の中で最も高い。この耐熱性のおかげで電極が消耗しにくく、精密な溶接が可能になる。ちなみにアメリカではGTAW(Gas Tungsten Arc Welding)と呼ぶのが正式名称で、TIGはヨーロッパ・日本で広く使われる通称。Wikipedia: Gas tungsten arc weldingに詳しい解説がある。
「溶接電流」と「アーク電圧」の関係は独立ではない
半自動溶接では電流を上げると自動的にアーク電圧も上がる傾向がある。これは定電圧特性の溶接電源では、ワイヤ送給速度(≒電流)が上がるとアーク長が変化し、電圧もそれに追従するため。本ツールの電圧計算式 V = 14 + 0.05 × I はこの関係を近似的に表現したものだ。
溶接条件セレクターを使いこなすTips
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溶接法を切り替えて入熱量を比較する — 同じ板厚・母材・継手のまま溶接法だけ切り替えると、TIG/MIG/被覆アーク/CO2それぞれの入熱量の違いが一目でわかる。ステンレス薄板で入熱を抑えたいならTIG一択だと数値が教えてくれる
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ビード外観で電流の過不足を見分ける — 推奨電流の範囲内でも実際のビードが凸型なら電流不足、扁平で広がりすぎなら電流過大のサイン。本ツールの推奨範囲の「下限寄り」か「上限寄り」かをビードの形状で判断しよう
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風速5m/s以上ではシールドガスが流される — 屋外溶接でブローホールが多発するなら風のせいかもしれない。防風対策なしでの溶接は条件以前の問題。特にTIG・MIGはガスシールドの安定性が品質を左右する
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厚板の多層盛りでは層間温度に注意 — パス数が多い場合、層間温度が上がりすぎると入熱過大と同じ影響が出る。本ツールの入熱量判定が「高入熱」と出たら、層間温度管理(一般に150-250℃以下)を徹底する
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結果コピー機能でWPS(溶接施工要領書)の下書きに使う — 推奨条件をコピーしてExcelやドキュメントに貼り付ければ、WPS作成の初期値として活用できる。あくまで目安なので、試験溶接で最終確認すること
よくある質問(FAQ)
Q: TIG溶接とMIG溶接はどう使い分ける?
TIGは薄板(0.5-6mm程度)の精密溶接に向いている。溶接速度は遅いが、ビード外観が美しく入熱を低く抑えられる。ステンレス配管や食品機器など外観・耐食性が重要な用途で選ばれる。一方MIGは中板以上(3mm-)で生産性が求められる場面に向く。アルミの溶接ではMIGが主力だ。本ツールで同じ母材・板厚を入力し、TIGとMIGを切り替えると速度・入熱の差を具体的に比較できる。
Q: パス数が多いと溶接にどんな影響がある?
パス数が増えると施工時間とコストは当然増える。ただし1パスあたりの入熱は下がるため、溶接変形やHAZ(熱影響部)の軟化を抑えられるメリットがある。厚板の突合せ溶接で変形を最小化したい場合は、あえてパス数を増やして1パスあたりの入熱を抑える戦略が有効。逆に生産性を優先するなら、許容入熱の範囲内でパス数を減らす方向に条件を調整する。
Q: 予熱が必要になる板厚の目安は?
軟鋼(SS400)では板厚25mm以上、高張力鋼(SM490等)では板厚19mm以上で予熱が推奨される場合が多い。ただし炭素当量(Ceq)や溶接入熱量によっても変わるため、一概には言えない。JIS Z 3101(溶接施工方法の確認試験方法)やWES(日本溶接工学会規格)を参照してほしい。予熱温度の算出には予熱温度計算ツールを使うと、Ceqベースで必要予熱温度を具体的に確認できる。
Q: ツールの計算結果と実際の溶接条件が合わないのはなぜ?
本ツールの推奨値はJIS規格やメーカー推奨値をベースにした一般的な目安だ。実際の溶接では、溶接姿勢(下向き・横向き・立向き・上向き)、開先形状、ルートギャップ、使用するワイヤ銘柄、電源の特性によって最適条件が変わる。特に姿勢の影響は大きく、立向き溶接では下向きの70-80%程度に電流を落とすのが一般的。推奨範囲の中で試験溶接を行い、ビード形状と溶込みを確認しながら条件を追い込むのが正しい手順だ。
Q: 入熱量の数値はどこまで信用できる?
本ツールの入熱量は推奨電流・電圧・速度の中央値から Q = 60 × V × I / speed で算出した概算値。実際の溶接では瞬時電流・電圧が変動するため、正確な入熱量は溶接モニタリング装置で測定する必要がある。ただし「この条件帯ならおおむね何kJ/mm」という目安としては十分実用的で、入熱管理が必要な現場(ステンレス、高張力鋼)での事前検討に活用できる。詳しい入熱計算は溶接入熱量計算ツールも参照してほしい。
まとめ — 溶接条件の「迷い」をなくす
溶接条件セレクターは、溶接法・母材・板厚・継手を選ぶだけで推奨電流・電圧・速度・パス数・入熱量を一括表示するツールだ。4溶接法を同一画面で横断比較でき、入熱量の安全判定まで自動で出る。
条件を決めた後は、関連ツールも活用してほしい。溶接部の強度を検証するなら溶接強度計算ツール、厚板や高張力鋼の予熱判定には予熱温度計算ツール、入熱量を詳細に計算するなら溶接入熱量計算ツール。繰返し荷重がかかる部位なら溶接疲労寿命計算ツールで疲労評価を、溶接変形が心配なら溶接変形予測ツールで事前シミュレーションができる。
不具合や要望があれば、X (@MahiroMemo)から気軽に教えて。