カタログの「曲げ 6,130N」だけを見て、ピニオンの歯面を先に傷めた
ガントリーの横行軸を伸ばすことになった。ボールねじは長くなるほど危険速度が下がり、速度を落とすしかない。そこでラック&ピニオンに切り替える。ラックは継いでいけば何mでも伸ばせるので、長い軸ではよくある判断だ。
KHK のカタログから SCM440 調質・m2 の切削ラックを選び、寸法表の許容伝達力の欄を見る。曲げ強さは 6,130N。搬送物の推力は千数百N だから、何倍も余裕がある——そう判断して図面を出した。
半年後、点検でピニオンの歯面に細かい穴が並んでいるのが見つかる。歯車屋さんの言うピッチングだ。見直すと、同じ表の歯面強さの欄は 1,760N。しかも表の値はラック単体のもので、相手のピニオンは同じ材料でも曲げでラックより弱い。こういう見落とし、一度はやったことがあるよね。
このツールは、搬送質量・傾斜・摩擦・外力と速度・加速時間から必要推力を出し、モジュール・歯数・歯幅からピニオン軸のトルクと回転数を、減速比を入れればモーター軸のトルクまでを一度に返す。歯の強さは JGMA 401-01(曲げ)と JGMA 402-01(歯面)の式で、ピニオンの曲げ・ラックの曲げ・歯面の3つの許容推力と安全率を並べ、同じ歯数・歯幅で足りる最小のモジュールも出す。
なぜ作ったのか——推力から歯の強さまでが一続きにならなかった
ラック&ピニオンの選定に要る情報は、あちこちに散らばっている。推力の式はサーボモーターの選定資料に、歯の強さは KHK の技術資料に JGMA の式として載っているが、許容応力の表は kgf/mm² のままで、係数表を6つ7つ引き直さないと1つの値にならない。モーター軸へ換算するときは、また別の紙に戻る。条件を1つ変えるたびに、この往復を最初からやり直すことになる。
メーカーの選定ソフトもある。KHK にはラック&ピニオン選定ソフト GRSW があり、条件を入れると自社のラックとピニオンの組合せを最大3組まで提案してくれる。ただ、使えるのは登録ユーザーで、選べるのは KHK の製品、搬送速度は 5m/s までだ。手元の既存ラックを流用できるか、他社品と比べてどうか、という問いにはそのまま答えられない。
いちばん引っかかったのは、カタログの許容伝達力が「ラック単体」の値だという点だ。KHK のラック KRF2(SCM440 調質・m2・歯幅20mm)のカタログ条件、つまり相手30歯・100rpm・両方向・安全率1.2でこのツールを回すと、ラックの曲げの許容円周力は 6,142.6N で、カタログの 6,130N にほぼ重なる。ところが同じ材料・同じ条件の30歯ピニオンは 5,005.6N しかない。ラックの81.5%だ。歯の形が違うからで、ラックのカタログ値どおりに推力をかけると、ピニオンが先に安全率を割る。
しかも、このラックとピニオンの組で本当に先に効くのは曲げではなく歯面だった。同じ条件で歯面の許容円周力は 1,579.6N。曲げの4分の1ほどしかない。ピニオンの曲げ・ラックの曲げ・歯面の3つを同じ画面に並べ、いちばん小さいものを許容推力として推力と比べる。それが一画面でできないと、冒頭のような見落としは何度でも起きる。そう考えてこのツールを作った。
ラック&ピニオンの基礎——定規の目盛りを歯車で送る
ラックは、歯数を無限大にした歯車だと考えると分かりやすい。歯車の半径をどこまでも大きくしていくと、円周はやがて直線になる。その直線の歯がラックで、かみ合う小さい歯車がピニオンだ。ピニオンを1回転させると、ラックはピッチ円の円周ぶんだけ進む。定規の目盛りを歯車の歯で1つずつ送っていくような仕組みだ(Wikipedia「ラック・アンド・ピニオン」)。
ピッチ円直径 d = m × z [mm](m: モジュール、z: ピニオンの歯数)
1回転の移動量 L = π × d = π × m × z [mm]
ピニオン回転数 n = v × 60000 / (π × d) [rpm](v: 送り速度 m/s)
m2.5・20歯なら d = 50mm、1回転の移動量は 157.08mm。2m/s で送るとピニオンは 763.9rpm で回る。ボールねじのリードにあたる量が、ラック&ピニオンでは π·m·z になると覚えておけばいい。
ラックピニオン 推力 計算——加速・重力・摩擦・外力の足し算
ラックの歯にかかる力は、可動部を動かすのに要る推力そのものだ。上り方向へ加速するときがいちばん大きい。
加速時の推力 F = M·a + M·g·sinθ + μ·M·g·cosθ + Fe
等速時の推力 F = M·g·sinθ + μ·M·g·cosθ + Fe
a = v / t(0 から最高速度まで t 秒の台形加速)、g = 9.80665 m/s²
θ: 傾斜角(0 = 水平、90 = 垂直)、μ: 走行抵抗の摩擦係数、Fe: 加工反力などの外力
200kg を水平に 2m/s まで 0.4秒で加速すると、a = 5m/s²(0.51G)。慣性の分 M·a が 1,000N、リニアガイドの摩擦(μ0.01)が 19.61N で、加速時の推力は 1,019.61N になる。等速になると 19.61N しか要らない。水平軸の推力はほとんどが加速の分だ。
垂直軸では様子が変わる。50kg を 1m/s まで 0.2秒で持ち上げると、重力の分 490.33N に加速の分 250N が乗って 740.33N。等速でも 490.33N が残り、止まっていても同じ力がかかり続ける。
ラックピニオン トルク 計算——ピッチ円の半径が腕になる
推力はピッチ円上の接線方向の力(円周力)なので、ピニオン軸のトルクは「推力 × ピッチ円の半径」だ。
ピニオン軸トルク T = F × d / 2000 [N·m](F: N、d: mm)
モーター軸トルク Tm = T / (i × η)、モーター回転数 nm = n × i
(i: 減速比、η: 減速機の効率)
上の 1,019.61N を d = 50mm のピニオンで受けると 25.49N·m。減速比5・効率0.9の減速機を挟めばモーター軸は 5.665N·m・3,820rpm になる。モジュールや歯数を小さくすれば d が縮んでトルクは下がるが、回転数が上がり、歯も弱くなる。ここが選定の綱引きだ。
歯車 曲げ強さ JGMA——歯の根元は片持ち梁
歯1枚は、根元を固定された短い片持ち梁と見なせる。先端寄りに円周力がかかると、根元のすみ肉に曲げ応力が集まる。これが繰り返されて根元から割れるのが曲げの破損だ。JGMA 401-01 は、この根元の応力を次の形で出す(KHK 歯車技術資料「曲げ強さ計算式」)。
σF = Ft × YF × Yε × KV × KO / (b × m) [MPa]
YF: 歯形係数、Yε = 1/εα: かみ合い率係数、KV: 動荷重係数、KO: 過負荷係数
b: 歯幅 [mm]、m: モジュール
許容値 = σFlim × KL(寿命係数)、両方向の負荷なら さらに × 2/3
歯形係数 YF は「歯の形がどれだけ根元の応力を増やすか」を表す。ピニオン20歯で 2.804、ラックでは 2.063。ラックの歯は両側の歯面がまっすぐ根元に向かって広がる台形なので、同じモジュールでも根元が太く、YF が小さい。冒頭でピニオンのほうが曲げで弱かったのはこのためだ。かみ合い率 εα は同時にかみ合う歯の対の平均数で、20歯のピニオンとラックで 1.769。1.0を超える分だけ、2対で荷重を分け合う時間がある。
JGMA の許容応力の表は kgf/mm² で書かれているので、9.80665 を掛けて MPa にする。SCM440 調質の σFlim 32kgf/mm² は、両方向なら 32 × 9.80665 × 2/3 = 209.21MPa だ。
歯面強さとピッチング——ヘルツの接触応力で決まる
歯面どうしは線で接していて、その接触部は弾性変形でわずかに押しつぶされた細い帯になる。帯の中の圧力(ヘルツの接触応力)が繰り返されると、表面のすぐ下から疲労き裂が育ち、小さな破片がはがれて穴になる。これがピッチングで、歯は折れないまま、騒音・振動・送りのむらとして表に出る。JGMA 402-01 の式は、ラックとのかみ合いでは歯数比の項 (u+1)/u が1になり、ピニオン側の寸法だけで書ける(KHK 歯車技術資料「歯面強さ計算式」)。
σH = ZH × ZE × √( Ft × KV × KO × KHβ / (d × b) × 1/(ZL·ZR·ZV)² )
ZH: 領域係数、ZE: 材料定数係数、KHβ: 歯すじ荷重分布係数
許容値 = σHlim × KHL(寿命係数)。σHlim はピニオンとラックの低いほう
曲げとの大きな違いは、応力が力の平方根で効くことだ。裏返すと、許容できる力は許容応力の2乗に比例する。歯面を硬化して σHlim を上げると、許容推力はその2乗で上がる。また σHlim は「接する2面のうち柔らかいほう」で決まるので、ラックだけ焼入れしても、ピニオンが生材なら歯面は強くならない。
往復運動では曲げの許容値を2/3にする理由
ガントリーのように往復する軸では、行きの加速でピニオンの歯の片面が押され、行きの減速(制動)では反対の面が押される。歯の根元から見ると、引張と圧縮が入れ替わる両振りの曲げになり、片側からだけ押される場合より疲労に厳しい。JGMA 401-01 はこの場合、σFlim を2/3にして使うと定めている。歯面のほうは、押される面がそれぞれ別なので減らさない。
ラック 許容伝達力 だけでは足りない——実務で効く5つのつまみ
JGMA 401-01 は曲げの安全率を少なくとも1.2、402-01 は歯面の安全率を少なくとも1.15 とするよう求めている。問題は、その安全率が条件しだいで大きく動くことだ。既定の条件(200kg・水平・2m/s を0.4秒・m2.5・20歯・歯幅25mm・ピニオン SCM440 調質・ラック S45C 高周波焼入れ・4級・両方向・寿命1000万回以上)を基準に見ていく。
(a) 先に効くのは歯面。 基準の条件で3つの許容円周力を並べると、ピニオンの曲げ 5,287.3N、ラックの曲げ 4,491.6N、歯面 1,116.0N。安全率は 6.22・5.29・1.20 で、曲げには5倍以上の余裕があるのに、歯面は目標の1.15 をわずかに上回るだけだ。曲げの値だけで選ぶと、この差の分だけ歯面が足りなくなる。
(b) 寿命の回転数。 寿命中のピニオンの回転数を「10万回前後」にすると、歯面の寿命係数 KHL が1.0から1.3 に上がり、歯面の許容円周力は 1,116.0N から 1,886.0N になる。係数が2乗で効くので1.69倍だ。最小で足りるモジュールも m2.5 から m2 に下がる。逆に言えば、寿命を「分からないから短めに」と入れると、歯面の余裕を過大に見積もる。
(c) 精度等級と速度。 動荷重係数 KV は精度等級と周速で決まる。4級・2m/s の KV 1.3 を2級にすると 1.1 に下がり、歯面の許容円周力は 1,318.9N、安全率は 1.31 になる。研削ラックの値段が効いてくるのはここだ。
(d) 衝撃。 被動側に中程度の衝撃があるとして過負荷係数 KO を1.25 にすると、歯面の許容円周力は 892.8N に下がり、推力 1,019.61N を下回って許容超えになる。最小のモジュールは m3 に上がる。
(e) モジュールを1段。 m2・歯幅20mm から m2.5・歯幅25mm に上げると、歯面の許容円周力は 714.2N から 1,116.0N へ1.56倍になる。歯面はピッチ円直径と歯幅の積で効くので、両方がモジュールに比例して伸びると、モジュールの2乗で上がる。
もう1つ、垂直・傾斜の軸ではブレーキを忘れない。50kg の垂直軸なら、止まっていても重力の分 490.33N(ピニオン軸 9.807N·m)がかかり続ける。ラック&ピニオンはボールねじより逆に回されやすく、停電や非常停止でモーターの保持力が抜ければそのまま落ちる。歯の強さに目が向いていると見落としやすいが、実害がいちばん大きいのはこちらだ。
ラック&ピニオンの選定計算が要る現場
長ストロークのガントリー。 数mを超える横行軸では、ボールねじの危険速度やたわみが先に効いてくる。ラック&ピニオンへ切り替える段で、モジュール・歯幅・ピニオン歯数を決め、モーターと減速機の容量をまとめて当たりを付けたい場面だ。
搬送台車。 重い台車を低い加速度で動かす使い方では、推力の多くが走行抵抗になる。車輪の摩擦係数と台車質量を入れれば、加速時と等速時の推力の比がそのまま見え、モーターの連続トルクの見積もりにつながる。
垂直の昇降軸。 重力が常にかかるので、加速時・等速時・停止時の推力がすべて大きい。保持に要る力とピニオン軸トルクが同時に出るので、ブレーキの検討に渡す数字がそろう。
既存ラックの流用可否。 設備の改造で搬送物が重くなった、タクトを詰めて加速時間を短くしたい、という場面。いまのラックとピニオンの材料・モジュール・歯幅を入れて、新しい条件で3つの安全率がどう動くかを確かめる。メーカーを問わず入れられるので、型番が古くて選定ソフトに載っていないラックにも使える。
基本の使い方——3ステップで推力から判定まで
ステップ1: 搬送条件を入れる。 搬送質量(可動台・治具・ワーク、載っていればモーターも)、傾斜角、走行抵抗の摩擦係数、最高速度と加速時間を入れる。加工反力やケーブルベアの抵抗があれば外力の欄に、無ければ空欄でよい。加速時・等速時・減速時の推力が出る。
ステップ2: 歯車の寸法と材料を選ぶ。 モジュール(m1〜m8)、ピニオンの歯数、歯幅、ピニオンとラックそれぞれの材料を選ぶ。ピッチ円直径・1回転の移動量・ピニオン回転数とピニオン軸トルクが出る。減速比と効率を入れれば、モーター軸のトルクと回転数も出る。減速比を空欄にすれば、モーター側の値は出さずに歯車側だけを見られる。
ステップ3: 使用条件を選んで判定を読む。 精度等級、負荷の衝撃、負荷の向き(往復なら両方向)、寿命中のピニオンの回転数、目標の安全率を選ぶ。ピニオンの曲げ・ラックの曲げ・歯面の安全率と許容推力が表示され、どれで決まっているかと判定、同じ歯数・歯幅で足りる最小のモジュールが並ぶ。条件によっては、保持ブレーキや切下げについての注記が添えられる。
ラックピニオン 選定 計算の使用例——9ケースで見る判定の分かれ目
ここからは、条件を変えて結果を読んでいく。共通の前提は、断りがなければリニアガイドの摩擦係数0.01・精度4級・均一負荷・両方向・寿命1000万回以上・目標安全率 SF1.2/SH1.15。
ケース1: 水平ガントリー 200kg(既定の条件)
- 入力: 200kg・水平・2m/s を0.4秒で・m2.5・20歯・歯幅25mm・ピニオン SCM440 調質・ラック S45C 高周波焼入れ・減速比5・効率0.9
- 結果: 加速時の推力 1,019.61N に対し許容推力 1,116.0N(歯面で決まる)で許容内。安全率はピニオンの曲げ 6.22・ラックの曲げ 5.29・歯面 1.20。ピニオン軸 25.49N·m・763.9rpm、モーター軸 5.665N·m・3,820rpm。最小で足りるモジュールは m2.5
- 解釈: 歯面の余裕は目標1.15 に対してわずか。歯面の許容値はピニオン側(SCM440 調質の σHlim 79kgf/mm²)で決まっていて、ラックの高周波焼入れ(90kgf/mm²)は生かされていない
ケース2: ケース1から m2・歯幅20mm に下げる
- 入力: ケース1のモジュールを m2、歯幅を20mm に
- 結果: 推力は 1,019.61N のまま、許容推力は 714.2N(歯面)で許容超え。歯面の安全率 0.96 に対し、曲げは 3.98・3.38 とまだ余裕がある。同じ20歯・歯幅20mm なら m3 で足りる
- 解釈: 曲げだけ見れば m2 で通ってしまう典型例。ピニオン軸トルクは 20.39N·m に下がるが、モーター回転数は 4,775rpm に上がる
ケース3: 垂直軸 50kg
- 入力: 50kg・垂直・1m/s を0.2秒で・m2・20歯・歯幅20mm・ピニオンもラックも SCM440 調質・減速比5
- 結果: 加速時の推力 740.33N(うち重力 490.33N)、等速時 490.33N、下りで減速するときは −740.33N で制動側。許容推力 928.5N(歯面)で許容内、安全率は 7.13・9.69・1.29。保持に要る力は 490.33N、ピニオン軸で 9.807N·m。モーター軸は加速時 3.290N·m・等速時 2.179N·m・2,387rpm
- 解釈: 垂直なので摩擦の項は消え、重力が等速時にも残る。歯は足りていても、停止中に 9.807N·m を保持できるブレーキが別に要る
ケース4: 搬送台車 1t
- 入力: 1,000kg・水平・車輪の摩擦係数0.05・1m/s を1秒で・m4・20歯・歯幅40mm・ピニオン S45C 調質・ラック S45C 生材・精度5級・中程度の衝撃・寿命100万回前後・減速比20
- 結果: 加速時の推力 1,490.33N(うち走行抵抗 490.33N)、等速時 490.33N。許容推力 1,577.6N(歯面)で許容内、安全率は 8.50・9.63・1.18。ピニオン軸 59.61N·m・238.7rpm、モーター軸 3.312N·m・4,775rpm
- 解釈: 加速度は 0.10G と穏やかでも、生材のラックでは歯面がぎりぎり。歯面の許容値はラック側(σHlim 52.5kgf/mm²)で決まっている。寿命100万回前後で寿命係数に助けられている点も覚えておきたい
ケース5: 傾斜30°・外力ありの送り軸
- 入力: 300kg・傾斜30°・摩擦係数0.1・外力500N・0.5m/s を0.5秒で・m3・20歯・歯幅30mm・減速比は空欄
- 結果: 加速時の推力 2,525.78N(重力の分 1,471.0N・加速の分 300N・摩擦の分 254.78N・外力 500N)、等速時 2,225.78N、下りで減速するとき −1,016.21N。許容推力 2,089.1N(歯面)で許容超え、歯面の安全率 1.05。同じ20歯・歯幅30mm なら m4 で足りる。保持に要る力は 1,471.0N(44.13N·m)。モーター側の値は出ない
- 解釈: 加速の分はわずか300N で、等速でも 2,225.78N が残る。加速時間を延ばしても許容推力には届かないので、モジュールか材料で解く条件だ
ケース6: ピニオンの材料だけを替える(生材 → 高周波焼入れ)
- 入力: 100kg・水平・2m/s を0.4秒で・m2.5・20歯・歯幅25mm・ラック SCM440 調質+歯面高周波焼入れ。ピニオンを S45C 生材と S45C 歯面高周波焼入れで比べる
- 結果: 推力はどちらも 509.81N。生材のピニオンでは許容推力 492.9N(歯面)で許容超え、歯面の安全率 1.13、最小のモジュールは m3。高周波焼入れのピニオンでは許容推力 1,448.4N で許容内、歯面の安全率 1.94、m1.25 まで下げられる
- 解釈: どちらも歯面の許容値はピニオン側で決まっている。ラックをいくら硬くしても、柔らかいピニオンが足を引っ張る。σHlim が 52.5 から 90kgf/mm² に上がると、許容推力は2乗で効いて2.94倍になる
ケース7: 12歯の小さいピニオン(切下げ)
- 入力: ケース1の条件で m3・12歯・歯幅30mm
- 結果: d = 36mm、ピニオン軸 18.35N·m・1,061rpm、モーター 5,305rpm。歯形係数 3.466、かみ合い率 1.701。許容推力 797.1N(歯面)で許容超え、最小のモジュールは m4。17歯未満なので切下げの注記が添えられる
- 解釈: 歯数を減らすとトルクは下がるが、ピッチ円直径が小さくなるうえ、歯幅との比 b/d が 0.83 に広がって歯すじ方向の当たりが偏る(KHβ比 1.372)。曲げの安全率は 6.97 と十分でも、歯面で落ちる
ケース8: 1万kg を2G で加速する(m8 でも不足)
- 入力: 10,000kg・水平・4m/s を0.2秒で(2.04G)・m2・20歯・歯幅20mm
- 結果: 加速時の推力 200,981N に対し許容推力 663.2N。安全率は 0.019・0.016・0.066。同じ20歯・歯幅20mm では m8 まで上げても足りない。モーター軸 893.2N·m・9,549rpm
- 解釈: モジュールの選び方ではなく、条件そのものを見直す段階。加速度を下げる、ピニオンを複数並べて荷重を分ける、歯幅を広げる、といった構成の変更が要る
ケース9: 浸炭焼入れどうしなら曲げが先に効く
- 入力: 100kg・水平・2m/s を0.4秒で・m3・40歯・歯幅30mm・ピニオンもラックも SCM415 浸炭焼入れ
- 結果: 推力 509.81N に対し許容推力 12,304.4N で、決めているのはピニオンの曲げ。ラックの曲げは 14,352.9N、歯面は 15,709.0N。安全率は 28.96・33.78・6.38。m1 まで下げても足りる
- 解釈: 歯面を浸炭で十分に硬くすると(σHlim 164kgf/mm²)、ようやく曲げが先に効くようになる。「歯面が先」はあくまで調質・高周波焼入れの範囲での話だ
9ケースを並べると、調質や高周波焼入れの組合せでは、曲げに何倍もの余裕があっても歯面で判定が決まることが多い。歯面を何で決めているか(ピニオン側かラック側か)を読むのが、材料を選ぶいちばんの近道になる。
仕組み——JGMA 401-01/402-01 をカタログと同じ物差しで
候補にした3つの手法
| 手法 | 長所 | 採らなかった/採った理由 |
|---|---|---|
| ルイスの式 σ = Ft/(b·m·Y) | 式が短く、歯形係数 Y だけで済む | かみ合い率・動荷重・寿命・両方向の負荷を持たず、歯面は別の材料定数になる。カタログ値と比べられない |
| JGMA 401-01/402-01 | KHK・ミスミが標準歯車とラックの許容伝達力をこの式で出し、計算条件も公表している | 採用。カタログ値と同じ物差しで比べられる |
| ISO 6336 | 国際規格で係数が細かい | 係数の種類が多く、入力が設計図面レベルになる |
決め手は、カタログの数字を再現できるかどうかだ。再現できれば、カタログの条件と自分の条件の違い(相手歯数・速度・寿命・衝撃)だけが結果の差になる。
計算の流れ
1. 推力 Facc(加速時)・Frun(等速時)・Fdec(下りで減速するとき・符号付き)
2. 寸法 d = m·z、1回転の移動量、ピニオン回転数、ピニオン軸・モーター軸のトルク
3. 係数 YF(ピニオン・ラック)、εα → Yε、KV(等級と周速)、KO、KL・KHL、KHβ比
4. 許容応力 ピニオン曲げ・ラック曲げ = σFlim × g × (両方向 2/3) × KL
歯面 = min(σHlim ピニオン, σHlim ラック) × g × KHL
5. 許容円周力(目標安全率で割り戻す)
曲げ = 許容応力 × b × m / (YF × Yε × KV × KO × SF)
歯面 = (許容応力 / (SH × ZH × ZE))² × d × b × C / (KV × KO × KHβ比)
6. 許容推力 = 3つの最小。Facc ≦ 許容推力 なら許容内
7. 推奨モジュール: m1 から m8 まで同じ歯数・歯幅で 4〜6 を繰り返し、足りる最初の値
強さの判定には加速時の推力だけを使う。下りで減速するときの推力は −M·a − 重力の分 + 摩擦 + 外力で、摩擦と外力が運動を妨げる向きに働くぶん、大きさは必ず加速時以下になるからだ。既定の条件でも、加速時 1,019.61N に対して減速時は −980.39N だった。
材料定数係数 ZE は、JGMA 402-01 の構造用鋼どうしの ZM = 60.6√(kgf/mm²) を √g 倍して 189.77√MPa とした。ISO の値 189.8 と同じだ。推奨モジュールの走査では、b/d が1.2 を超えるモジュールは表の範囲外なので飛ばす。動荷重係数は周速で決まり、周速はモジュールによらないので、走査の間は同じ KV を使う。
既定の条件をステップごとに追う
ケース1(200kg・2m/s を0.4秒・m2.5・20歯・歯幅25mm)の中間値を順に並べる。
推力 a = 5m/s²、Facc = 1,019.61N、Frun = 19.61N、Fdec = −980.39N
寸法 d = 50mm、1回転 157.08mm、763.9rpm、ピニオン軸 25.490N·m
係数 YF ピニオン 2.8040 / ラック 2.0630、εα 1.7688(Yε 0.5653)
KV 1.3(4級・周速 1〜3m/s)、KO 1.0、KL 1.0、KHL 1.0
b/d 0.5000 → KHβ比 1.1341
許容応力 ピニオン曲げ 209.21・ラック曲げ 130.76・歯面 774.73 MPa
(σFlim 32/20、σHlim 79/90 kgf/mm²。歯面はピニオン側の 79)
応力 σF ピニオン 33.620・ラック 24.735、σH 643.93 MPa
安全率 6.223 / 5.286 / 1.203
許容円周力 ピニオン曲げ 5,287.3N・ラック曲げ 4,491.6N・歯面 1,116.0N
判定 許容推力 1,116.0N(歯面)≧ 1,019.61N → 許容内、推奨 m2.5
歯形係数は図を読まずに計算する
JGMA の歯形係数 YF は、本来は図10.1 のグラフから読む。グラフ読みでは歯数ごとに誤差が入るので、基準ラック工具(歯元のたけ 1.25m・歯先の丸み 0.375m)で創成した歯形を求め、30°の接線が歯元のすみ肉に接する点で危険断面を取る方法で計算している。ラックの YF は歯数を極端に大きくした極限として出す。
この実装で KHK 技術資料の計算例(20歯・転位 +0.15 と 40歯・転位 −0.15、m2)を解くと、YF は 2.5683 と 2.5353、かみ合い率係数は 0.61895。資料の 2.568・2.535・0.619 と4桁で一致した。歯数の全域で合っているかは、ミスミの高周波焼入れ平歯車(m1〜m2・15〜100歯の計40点)の許容トルクから σFlim を逆算して確かめた。同じモジュールの中で、周速1m/s 以下どうし・1m/s 超どうしの逆算値が ±0.4% に収まり、1m/s を境に KV の 1.0→1.1 に相当する1.10倍の段差が出る。m1.5・m2 の1m/s 以下は 15.35kgf/mm² で、表記の 23.0 × 2/3 = 15.33 と合う。歯数によって逆算値がずれないので、歯形係数の歯数依存は JGMA の図と一致していると言える。
曲げはカタログを0.5%以内で再現する
KHK のラックの計算条件(相手30歯・ピニオン100rpm・両方向・均一負荷・SF1.2)で、曲げの許容伝達力を再現した結果がこれだ。
| 型番(材料・等級) | カタログ | このツール | 差 |
|---|---|---|---|
| KRF2(SCM440 調質・4級) | 6,130N | 6,142.6N | +0.21% |
| KRF5(同) | 38,300N | 38,391N | +0.24% |
| KRG1(SCM440 調質・研削1級) | 1,530N | 1,535.6N | +0.37% |
| SRF2-H(S45C 高周波焼入れ・5級) | 3,480N | 3,490.1N | +0.29% |
| SRF4-H(同) | 13,900N | 13,960N | +0.43% |
合わせるうえで効いたのは2点。KHK が書いている σFlim は片方向の値で、両方向の2/3 を掛けて使う(掛けないと1.5倍ずれる)。もう1つ、焼入れラック SRF-H は5級なので、100rpm・30歯の周速でも KV が 1.1 になる。これを入れて初めて一致する。
歯面はまとめた係数で保守側に置いた
歯面強さの式には、潤滑油係数 ZL・粗さ係数 ZR・潤滑速度係数 ZV と歯すじ荷重分布係数 KHβ が入る。どれもカタログの条件ごとに図を読む値で、粗さ係数は中心距離でも変わる。設計初期にこれを全部入力させるのは現実的でないので、(ZL·ZR·ZV)²/KHβ を1つの係数 C にまとめた。
KHK のラック5系列25型番(KRGF-H・KRG・KRF・SRF-H・SR、m1〜m5)のカタログ歯面強さから C を逆算すると、0.660〜1.056 に散らばる。系列別には KRGF-H 0.768〜0.771、KRG 1.053〜1.056、KRF 0.697〜0.790、SRF-H 0.688〜0.725、SR 0.660〜0.754 で、モジュールが小さいほど小さい。このツールは最小の SR1(S45C 生材・m1)の 0.660 をさらに下回る 0.65 を一律に使う。どの型番でもカタログ値以下に出る保守側の置き方だ。
その代わり、仕上げのよいラックほど控えめに外れる。KRF2 の条件では 1,579.6N(カタログ 1,760N・−10.3%)、SRF2-H では 1,863.7N(2,000N・−6.8%)、研削の KRG1 では 394.9N(641N・−38.4%)になる。研削ラックを使うなら、歯面の結果はカタログ値と並べて読むのがいい。
歯幅の違いは KHβ の比で補正する。C を逆算したカタログ条件の b/d は 1/3(歯幅10m ÷ 30歯のピッチ円直径30m)なので、片持ち支持の表の KHβ(b/d) を KHβ(1/3) = 1.3667 で割った比を掛ける。b/d が 1/3 より小さいときは1で止め、保守側を崩さない。ケース1の b/d 0.5 では 1.1341、ケース7の 0.83 では 1.372 になった。
ラックピニオン 選定 計算 ― 選定ソフト・カタログ・歯車強度計算との違い
ラック&ピニオンを決める道具は、大きく3種類ある。
1. メーカーの選定ソフト。 代表は KHK のラック&ピニオン選定ソフト GRSWだ。継ぎ合わせ用のラック(両端面加工品)から長さの組み合わせまで選ぶので、KHK の製品で型番まで決めたいなら頼りになる。利用条件と製品・速度の制約は、作った理由の節で触れたとおりだ。
2. カタログの許容伝達力の表。 相手歯数30・ピニオン100rpm・繰返し1000万回以上・均一負荷・両方向という決まった条件で計算した値で、カタログ自身も「任意に設定した使用条件で計算した参考値なので、実際の条件で強度計算をしてほしい」と書いている。表を引くだけでは、自分の条件に直したときの値は分からない。
3. 汎用の歯車強度計算。 小歯車と大歯車の歯数を入れ、トルクと回転数から曲げと面圧を出す形が多い。サイト内の歯車強度計算(曲げ・面圧)もそうで、ルイスの式とヘルツの接触応力で歯車どうしを判定する。ラックの推力からは入れないし、式が違うので、同じ歯車でもこのツールの値とは一致しない。
このツールは、メーカーを問わない入力(モジュール・歯数・歯幅・材料・精度等級)で、推力 → ピニオン軸トルク → 歯の強さ(ピニオンの曲げ・ラックの曲げ・歯面の3つ)→ モーター軸 → 足りる最小のモジュール、を一画面で通す。カタログの計算条件そのものを変えられるのが要点で、寿命の回転数・衝撃・精度等級・片方向か往復かを、自分の装置の値に置き換えて読み直せる。速度の入力範囲は 10m/s まで取ってある。
関連ツールとの役割分担は次のとおり。
- ギアモジュール計算: 歯先円直径・歯底円直径・中心距離などの寸法。ピニオンの外形を図面に起こすとき
- 歯車強度計算(曲げ・面圧): ピニオンの手前にある減速歯車段の強さ。ラック側の判定には使わない
- サーボモーター選定ツール: このツールが出すモーター軸のトルク・回転数を受けて、慣性モーメント比やデューティまで含めてモーターを決める
- ホールディングブレーキ選定計算: 上下軸にブレーキが要るかどうかの考え方と、ブレーキの選び方を確かめる
- リニアガイドの荷重・寿命計算ツール: 同じ搬送軸の案内側。加減速の慣性力がブロックにどう配分されるか
- エンコーダ分解能・位置決め精度計算: 駆動方式にラックピニオンを選べ、モジュールとピニオン歯数から位置決めの分解能を出せる
- ボールねじ選定計算: ストロークが短い軸の代替。長い軸で危険速度や座屈に引っかかるなら、ラック&ピニオンに戻ってくる
豆知識 ― ラックの語源と、1974年の規格が今も現役な話
ラックは「棚」、ピニオンは「小さな櫛」
英語の rack は、中世オランダ語の rec(枠・骨組み)にさかのぼり、「引き伸ばす」を意味する rekken と同じ根を持つ。物を並べる棚のラックも、人を引き伸ばす中世の拷問台のラックも同じ単語で、歯を刻んだ棒の意味はそこから派生した。
ピニオンはフランス語の pignon からの借用で、こちらは peigne(櫛)に「小さいもの」を表す -on が付いた形だ(Wiktionary: pignon)。歯が並んだ小さな車を、櫛に見立てたわけだ。スペイン語の piñón も同じ系統で、フランス語では自転車のスプロケットも pignon と呼ぶ。棚の上を小さな櫛が転がっていく、と思うと、あの機構がずいぶん身近に見えてくる。
1974年の規格が、今もカタログの数字を作っている
曲げ強さの JGMA 401-01 は1974年、歯面強さの JGMA 402-01 は1975年の制定だ。50年近く前の業界規格だが、KHK の総合カタログはラックの許容伝達力をこの2つの式で計算しており、選定上の注意には「回転数の単位(rpm)と応力の単位(kgf/mm²)は計算式で使用する単位に合わせている」とわざわざ断ってある。SI 単位に切り替わった後も、許容応力の表は kgf/mm² のまま残っているということだ。
負荷の衝撃の分類表にも歴史が見える。KHK の技術資料に載っている被動機械の負荷分類表は、備考に「AGMA 151.02 を参照して作成した」とあり、アメリカ歯車工業会の分類を下敷きにしている。クレーンやエレベータは「均一負荷」、ホイストは「中程度の衝撃」に分類されているのが面白いところで、同じ吊り上げでも機械の種類で級が分かれている。
精度等級は「旧JIS」の数え方のまま
動荷重係数の表は、JIS B 1702:1976 の精度等級で引くようにできている。旧 JIS は0〜8級の9等級だったが、1998年に ISO に合わせた JIS B 1702-1 へ改正され、0〜12の13等級になった。新旧の数字が混ざらないよう、新しい等級には頭に N を付けて「N8級」のように呼ぶ決まりになっている(KHK 技術資料: 平歯車及びはすば歯車の精度)。
ラックはさらに事情が違う。KHK のラックの精度は JIS ではなく、JIS を参考に自社で決めた KHK R 001 の1〜8等級で管理されている。ピッチの誤差は温度で変わるので、評価は製品温度20℃・底面基準で行う、と注記まで付いている。長い鋼の棒の上でマイクロメートルを議論するのだから、温度を決めないと話が始まらない。
ラックは突き当てても継げない
ラックの長さが足りなければ継ぎ足す。KHK の型番末尾が F の製品は両端面を加工してあり、継ぎ合わせて好きな長さにできる。ただし KHK の歯車 Q&A によると、端面どうしを突き当てただけではピッチは合わない。組み立てるときに、継ぎ目をまたいで短いラックを上からかみ合わせる「合わせラック」などの方法でピッチをそろえる。
ちなみに、型番の「1000」は呼びの長さで、SRF2-1000 の実際の全長は理論値で 1005.31mm だという。ピッチは π × モジュールなので、歯の数で切りそろえると端数が出る。移動距離をきりのいい数字にしたい装置向けに、ピッチそのものを整数にした CP(サーキュラーピッチ)ラックが用意されているのも、この割り切れなさの裏返しだ。
ラックピニオン 計算のTips ― 暗算の目安と測り方
1回転の移動量は「モジュール × 歯数 × 3.14」
式は基礎の節のとおりで、暗算なら「モジュール × 歯数 × 3」に5%足せばほぼ合う。KHK の Q&A が例に挙げている m3・20歯なら約188.5mm だ。ピニオンを転位しても歯数とピッチは変わらないので、1回転の移動量も変わらない。転位で減速比やストロークの換算をやり直す必要はない。
寿命の回転数は、ストロークと往復回数から見積もる
寿命の欄が分からなければ、次の式でざっと数える。
ピニオンの回転数 ≒ ストローク ÷ 1回転の移動量 × 2(往復)× 1日の往復回数 × 稼働日数
ストロークが長く1日に何千回も往復する搬送軸なら、1000万回は数年のうちに届くことが多い。逆に、段取り替えのときだけ動く軸や試験装置は、10万回前後に収まることもある。見積もりが境目に来たら、少ないほうの区分を選ばずに多いほうへ倒しておくと安全側になる。
摩擦係数は押して測る
実機があるなら、プッシュプルゲージで台車をゆっくり一定の速さで押し、動き出した後の値を読む。その力を「質量 × 9.8」で割れば摩擦係数になる。動き出す瞬間は静止摩擦で大きく出るので、その値は読まない。ケーブルベアを付けた状態で測ると、その抵抗も含んだ値になる。そのときは外力の欄に同じ抵抗を入れて二重に数えないようにしたい。
既存ラックのモジュールは10ピッチ分で測る
流用したいラックの型番が分からないときは、ノギスで10ピッチ分の長さを測り、10 × 3.14 で割る。1ピッチを測るより誤差が10分の1になる。並歯なら全歯たけはモジュールの2.25倍なので、歯の高さでも検算できる。測ったピッチが5mmや10mmのようにきりのいい数字なら CP ラックで、モジュールは CP ÷ π になる。選択肢にちょうど合うモジュールが無いので、1段小さいモジュールで見れば安全側の目安になる。
よくある質問(FAQ)
カタログに「N8級」と書いてある歯車は、精度の欄でどれを選べばいい?
精度の欄は、動荷重係数の表が使っている旧 JIS(JIS B 1702:1976)の等級だ。N の付いた新 JIS の等級とは区分が違うので、正確な換算はできない。KHK の技術資料では、おおよその目安として「新 JIS の等級 = 旧 JIS の等級 + 4」と紹介されており、N8級なら旧4級あたりが目安になる。ただし目安が当てはまらない部分も多く、厳密に知りたいなら日本歯車工業会の JGMA/TR0001(新旧 JIS 歯車精度の規格値対比表)で確かめてほしい。ピニオンとラックで等級が違うときは、悪いほうを選ぶ。
m1 や m1.25 の結果は、JGMA の適用範囲に入っているのか?
JGMA 401-01 が適用範囲として挙げているのは、モジュール1.5〜25mm、周速度25m/s以下、回転数3600rpm以下だ。m1・m1.25 はこの範囲の外になる。それでも選べるようにしているのは、KHK が m1 のラックのカタログ値を同じ式で出しているからで、上の仕組みの節で触れたとおり、その曲げの値も再現できている。とはいえ規格の適用範囲外の外挿であることに変わりはないので、小さいモジュールで判定がぎりぎりなら、メーカーの許容値と合わせて確かめてほしい。
速度を上げたら、精度等級についてのエラーが出た
動荷重係数の表は、精度が粗い等級ほど高い周速度の欄が空いている。このツールでは、4級は8m/sまで、5級は5m/sまで、6級は3m/sまでしか動荷重係数が定まらず、それを超える速度を入れると結果を出さずにその旨を表示する。1〜3級は入力範囲の10m/sまで定まっている。速度を下げるか、精度等級を上げれば計算できる。高速の軸で粗い歯車を使うと、規格の表にすら載らない領域に入るということでもある。
寿命の回転数は、ラック側の判定にも同じ値が使われるのか?
使われる。寿命の欄は「ピニオンの各歯がかみ合う回数」として入れてもらい、その区分の寿命係数をピニオンの曲げ・ラックの曲げ・歯面のすべてに当てている(係数の値は材料の硬さで変わる)。実際には、ラックの1枚の歯はピニオンが上を通過するときにしかかみ合わないので、ピニオンの歯よりかみ合う回数はずっと少ない。ラック側を多めの回数で見ていることになるので、判定は安全側に寄る。
減速時の推力も表示されるのに、強さを判定しないのはなぜ?
減速時の推力の大きさは加速時を超えないからで、理由は計算の流れの節に書いた。減速時の値は判定ではなく、モーターの使い方を読むために出している。マイナスなら、モーターが制動する側に回る(回生する)という意味で、その旨の注記が添えられる。回生抵抗やドライバの容量を考えるときの手がかりとして使ってほしい。傾斜・上下の軸では、下りで減速するときの値になる。
はすばラックや、転位したピニオンにも使える?
使えない。前提は、転位なし・圧力角20°・並歯の平歯車のラックとピニオンだ。はすばラックは歯の向きが斜めで荷重のかかり方が変わり、転位したピニオンは歯形係数が変わるので、どちらも値がずれる。歯数を17未満にすると、転位なしでは歯元が削られる(切下げ)ことを知らせる警告が表示される。その場合は歯数を増やすか、正の転位を検討し、転位後の寸法はギアモジュール計算で確かめてほしい。
社内の装置の仕様を入れても大丈夫?
大丈夫だ。計算はすべてブラウザの中で行っていて、入力した質量・速度・歯車の諸元や計算結果をサーバーに送ることはない。装置の名前や顧客名を入れる欄も無い。結果をコピーして設計メモや選定書に貼る場合も、クリップボードに入るだけで外部には出ない。
まとめ
ラック&ピニオンは、推力・トルク・歯の強さ・モーターを一続きで見て初めて「足りる」と言える。このツールで歯の強さと最小モジュールを押さえたら、周辺は次のツールで固めてほしい。
- ピニオンの寸法と転位はギアモジュール計算
- 減速歯車段の強さは歯車強度計算(曲げ・面圧)
- モーター軸のトルクと回転数から先はサーボモーター選定ツール
- 上下軸のブレーキの考え方はホールディングブレーキ選定計算
- 案内側の荷重と寿命はリニアガイドの荷重・寿命計算ツール
- 位置決めの分解能はエンコーダ分解能・位置決め精度計算
- 短いストロークならボールねじ選定計算と比べてみるといい
計算結果やカタログ値との食い違いに気づいたら、お問い合わせページから知らせてもらえるとありがたい。
Mahiro
Mahiro Appの開発者。KHK のラックのカタログ値を再現しようとして、σFlim が片方向の値で、往復なら計算のときに2/3を掛けると気づくまで、計算が1.5倍ずれたまま半日悩んだ。
運営者情報を見る