歯車強度計算(曲げ・面圧)

平歯車・はすば歯車の曲げ強度と面圧強度を同時計算。ルイス式とヘルツ面圧で安全率を判定

平歯車・はすば歯車の曲げ強度と面圧強度を同時計算。ルイス式による歯元曲げ応力とヘルツの接触応力から安全率を自動判定する無料オンラインツール。

歯車諸元

材質

σFlim=275 MPa / σHlim=700 MPa / HB 230-280

σFlim=275 MPa / σHlim=700 MPa / HB 230-280

運転条件

均一荷重 1.0 / 中衝撃 1.25 / 大衝撃 1.75

強度判定

曲げ安全率 SF2.81σF = 97.9 MPa
安全
面圧安全率 SH1.02σH = 685.2 MPa
注意

接線力 Ft

1,666.7 N

ピッチ円周速度

4.71 m/s

伝達動力

7.85 kW

本ツールは初期検討用の簡易計算です。詳細設計にはJGMA 401/402またはISO 6336に基づく計算をご使用ください。

不具合・ご要望はお気軽に@MahiroMemoまで

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📘 歯車設計の参考書・工具

歯車が壊れるのは「折れる」か「削れる」か——その境界を数値で見極める

減速機の中でギヤが欠けた。搬送ラインの歯面がピッティングでボロボロになった。歯車のトラブルは大きく2パターンに分かれる。歯元が疲労で折れるか、歯面が面圧に負けて削れるか。どちらが先に限界を迎えるかは、モジュール・歯数・材質・荷重の組み合わせで決まる。

この「どちらが先に壊れるか」を、手計算で追いかけるのはかなり面倒だ。ルイスの曲げ応力式とヘルツの接触応力式——2本の数式をそれぞれ解き、さらに許容応力と比較して安全率を出す。パラメータを1つ変えるたびに電卓を叩き直す作業は、正直つらい。

この歯車強度計算ツールは、平歯車とはすば歯車の曲げ強度・面圧強度を同時に計算し、安全率をワンタップで判定する。モジュールや歯数を変えたら即座に結果が更新されるから、「歯幅をあと5mm増やしたらどうなる?」といった設計パラメータの探索がスムーズに進む。

なぜ歯車強度計算ツールを作ったのか

歯車の強度計算をしたいとき、最初に思い浮かぶのは小原歯車工業(KHK)のGCSW(Gear Calculation Software for Web)だろう。確かに高機能だが、利用には会員登録が必要で、ちょっとした概算をサッと回したいときにはハードルが高い。CADTOOLメカニカルは本格的なソフトだが、ライセンス費用がかかる。

自分が欲しかったのは、もっと気軽に使える「初期検討用の概算ツール」だった。設計の初期段階で「この諸元でざっくり安全率はどのくらいか」「材質をS45CからSCM440に変えたら面圧はどう変わるか」——そういった比較検討をブラウザだけで完結させたい。

実務では、歯車の仕様検討は何度もパラメータを振りながら進める。モジュールを1段上げる、歯幅を広げる、材質グレードを上げる。その都度、曲げと面圧の両方を再計算して安全率を確認する。手計算だと、ルイス歯形係数Yのテーブル引きだけで時間を食われる。

もう一つの課題は、面圧強度の見落としだ。教科書ではルイス式による曲げ応力の計算を先に習うため、面圧計算を後回しにしがち。しかし実際の歯車破損はピッティング(面圧疲労)が原因であるケースも多い。曲げと面圧を常にセットで表示するツールなら、「曲げは余裕あるけど面圧はギリギリ」という状況を見逃さない。

そんな経緯で、登録不要・無料・パラメータ変更即反映の歯車強度計算ツールを作った。ルイス式とヘルツ接触応力の簡易版だが、初期検討には十分な精度を持たせてある。

歯車強度計算 とは——曲げと面圧、2つの破壊モードを知る

歯車はなぜ壊れるのか

歯車の歯は、かみ合いのたびに繰り返し荷重を受ける。金属疲労のメカニズムがそのまま当てはまる世界だ。日常で例えるなら、針金を何度も曲げると折れるのと同じ原理。歯車の場合、破壊モードは大きく2つに分類される。

歯元曲げ破壊 — 歯の根元(歯元フィレット部)に応力が集中し、疲労亀裂が進展して最終的に歯が折損する。片持ち梁に荷重をかけたときの曲げ応力と同じ考え方だ。

歯面接触疲労(ピッティング) — 2枚の歯が接触する面に繰り返しヘルツ接触応力がかかり、表面下にクラックが発生。やがて微小な穴(ピット)が生じ、面が荒れていく。最悪の場合、スポーリング(大きな剥離)に進展する。

ルイス式 歯車 — 曲げ応力の古典

歯元の曲げ応力を求める最も基本的な式が、1892年にウィルフレッド・ルイスが提唱したルイスの式だ。歯を片持ち梁と見なし、歯元断面での曲げ応力を算出する。

σF = Ft × KA / (b × m × Y × Kv)   [MPa]
  • Ft: 接線力 [N] = 2000 × T / d(T: トルク [N·m], d: ピッチ円直径 [mm])
  • KA: 使用係数(均一荷重 1.0、中衝撃 1.25、大衝撃 1.75)
  • b: 歯幅 [mm]
  • m: モジュール [mm]
  • Y: ルイス歯形係数(歯数によって決まる)
  • Kv: 速度係数(高速ほど動荷重が増えるための補正)

歯形係数Yは、歯数が少ないほど小さく(歯が薄い→応力が高い)、歯数が多いほど大きくなる。たとえばz=12ではY=0.245、z=20ではY=0.322、z=100ではY=0.447だ。

ヘルツ接触応力 — 面圧強度の基礎

歯面の接触応力は、2つの円柱が線接触するヘルツの理論に基づく。

σH = ZH × ZE × √(Ft × KA × (u+1) / (d1 × b × u × Kv))   [MPa]
  • ZH: 区域係数(標準圧力角20°で ZH ≈ 2.49)
  • ZE: 弾性係数 = √(1 / (π × ((1-ν₁²)/E₁ + (1-ν₂²)/E₂)))
  • u: 歯数比 = z₂ / z₁

鋼同士(E=206000MPa, ν=0.3)の場合、ZE ≈ 189.8 MPa^0.5。鋳鉄同士ではZE ≈ 138.7、MCナイロン同士ではZE ≈ 22.5まで下がる。弾性係数が小さい材料ほど、接触面が広がって面圧が下がるわけだ。

安全率 — 曲げと面圧の二重チェック

安全率は許容応力を計算応力で割った値:

SF(曲げ安全率)= σFlim / σF
SH(面圧安全率)= σHlim / σH

曲げ安全率SFは2.0以上が推奨、面圧安全率SHは1.3以上が目安。どちらか一方でも基準を下回れば設計変更が必要になる。「曲げはOKだけど面圧がNG」というケースは実務で頻繁に発生する。

はすば歯車の補正

はすば歯車では、ねじれ角βによる補正が加わる:

  • ねじれ角係数 Yβ = 1 - β/120(曲げ応力を下げる方向に作用)
  • 面圧ねじれ角係数 Zβ = √cos(β)(面圧を下げる方向)
  • 正面モジュール mt = mn / cos(β)(ピッチ円直径の算出に使用)

はすば歯車は同時かみ合い率が高いため、同じ諸元の平歯車より曲げ・面圧ともに有利になる。

なぜ歯車の強度計算が設計で欠かせないのか

歯車破損は「連鎖的」に被害が拡大する

歯車が1枚でも折損すると、破片が噛み込んで相手歯車も損傷し、さらにケース内の他の歯車対にも波及する。減速機の全損——つまり、ユニット丸ごと交換になるケースは珍しくない。搬送ラインが停止すれば、1時間あたりの機会損失は数十万円に達することもある。

面圧不足によるピッティングは「じわじわ」進行する

曲げ破壊は突然起きるが、ピッティングは徐々に進行する。初期段階では振動や異音として現れ、放置すると歯面が荒れてバックラッシュが増大し、最終的には伝達不能になる。定期点検で面圧設計の妥当性を確認しておくことが、突発停止を防ぐ鍵だ。

JGMAとISO規格の存在

産業用歯車の強度計算には、日本ではJGMA 401(曲げ強さ)・JGMA 402(歯面強さ)、国際的にはISO 6336が参照される。これらの規格は多数の補正係数を含む厳密な計算体系だが、初期検討の段階でフル計算を行うのは非効率だ。ルイス式とヘルツ式による概算で方向性を定め、詳細設計段階でJGMA/ISOに切り替えるのが実務的なアプローチになる。

材質選定が安全率を大きく左右する

同じ諸元の歯車でも、材質を変えるだけで安全率は劇的に変わる。S45C焼ならし(σHlim=550MPa)からSCM420浸炭(σHlim=1300MPa)に変えれば、面圧安全率は2.4倍に跳ね上がる。逆に言えば、材質選定を誤ると、いくら歯車寸法を大きくしても安全率が確保できないことがある。強度計算ツールでパラメータを振りながら、寸法と材質の最適バランスを探る必要がある。

歯車強度計算ツールが活躍する場面

  • 減速機の初期設計 — モータ出力と減速比から、モジュール・歯数・材質の組み合わせを素早く絞り込む。10パターン程度の比較検討が数分で完了する
  • 搬送装置のギヤボックス検証 — 既存設備の歯車諸元を入力し、増産による負荷増加に耐えられるかを確認する。使用係数KAを変えて感度分析するのに便利だ
  • 機械工学の学習 — ルイス式とヘルツ式の計算結果をリアルタイムで確認しながら、パラメータの影響を直感的に理解できる。教科書の演習問題の検算にも使える
  • 見積り段階の概算 — 客先から「このトルクを伝達したい」と言われたとき、即座に必要な歯車サイズと材質の目安を回答できる

歯車強度計算の基本的な使い方

ステップ1: 歯車諸元を入力する

歯車種類(平歯車/はすば歯車)を選び、モジュール・歯数(小歯車z₁/大歯車z₂)・歯幅を入力する。はすば歯車の場合はねじれ角βも指定する。

ステップ2: 材質と運転条件を設定する

小歯車・大歯車それぞれの材質をプリセットから選択。S45C(焼ならし/調質)、SCM440調質、SCM420浸炭、FC250、FCD600、MCナイロンの7種類が用意されている。続けて小歯車の回転数、入力トルク、使用係数KAを設定する。

ステップ3: 安全率を確認する

曲げ安全率SFと面圧安全率SHがステータスカードに色分け表示される。安全(緑)・注意(黄)・危険(赤)の3段階判定で、どちらの破壊モードが支配的かが一目でわかる。接線力・ピッチ円周速度・伝達動力も同時に確認できる。

歯車強度計算の具体的な使用例・検証データ

ケース1: 汎用減速機の平歯車(S45C調質)

一般的な産業用減速機を想定した標準的なケース。

入力: 平歯車 m=3, z₁=20/z₂=60, 歯幅b=30mm, S45C調質(両歯車), 1500rpm, 50N·m, KA=1.25

結果: Ft=1,666.7N, v=4.71m/s, P=7.85kW, σF=97.9MPa, SF=2.81(安全), σH=685.2MPa, SH=1.02(注意)

解釈: 曲げ安全率は2.81で十分な余裕がある。一方、面圧安全率は1.02で基準の1.3を下回っている。この条件ではピッティングが先に問題になる典型的なパターンだ。対策としては、材質をSCM440調質やSCM420浸炭にグレードアップするか、歯幅を広げて面圧を下げる。

ケース2: 高速回転のはすば歯車(SCM420浸炭)

サーボモータ直結の高速回転ケース。浸炭焼入材の高い許容面圧を活かす。

入力: はすば歯車 mn=2, z₁=25/z₂=75, 歯幅b=20mm, β=20°, SCM420浸炭(両歯車), 3000rpm, 20N·m, KA=1.0

結果: Ft=751.8N, v=8.36m/s, P=6.28kW, σF=98.3MPa, SF=4.68(安全), σH=541.3MPa, SH=2.40(安全)

解釈: 浸炭焼入材の効果で曲げ・面圧ともに大きな余裕がある。高速域(v=8.36m/s)でも安全率に問題なし。コストを抑えたい場合、SCM440調質への変更を検討する余地がある。

ケース3: 小型精密歯車(S45C焼ならし)

OA機器や計測装置に使われる小型歯車。低コストのS45C焼ならし材を想定。

入力: 平歯車 m=1, z₁=16/z₂=48, 歯幅b=20mm, S45C焼ならし(両歯車), 3000rpm, 2N·m, KA=1.0

結果: Ft=250.0N, v=2.51m/s, P=0.63kW, σF=53.4MPa, SF=3.65(安全), σH=542.1MPa, SH=1.01(注意)

解釈: 小モジュール・低トルクにもかかわらず、面圧安全率が1.01とギリギリ。焼ならし材の許容面圧σHlim=550MPaが低いためだ。調質処理(σHlim=700MPa)に変更すればSH=1.29まで改善できる。

ケース4: 大型産業用歯車(SCM440調質・大衝撃)

破砕機やミキサーなど衝撃荷重を伴う大型装置。使用係数KA=1.75の厳しい条件。

入力: 平歯車 m=5, z₁=25/z₂=100, 歯幅b=50mm, SCM440調質(両歯車), 500rpm, 500N·m, KA=1.75

結果: Ft=8,000.0N, v=3.27m/s, P=26.18kW, σF=214.3MPa, SF=1.61(注意), σH=902.5MPa, SH=0.94(危険)

解釈: 大衝撃条件(KA=1.75)の影響で、曲げ安全率は注意域、面圧安全率は0.94で危険域に入っている。SCM420浸炭への材質変更(σHlim=1300MPa→SH=1.44)か、モジュールを6に上げて歯の断面を大きくする対策が必要だ。

ケース5: 鋳鉄歯車(FC250)

コスト優先の搬送装置で使われる鋳鉄製歯車。振動減衰性に優れるが強度は低い。

入力: 平歯車 m=4, z₁=18/z₂=72, 歯幅b=40mm, FC250(両歯車), 600rpm, 80N·m, KA=1.25

結果: Ft=2,222.2N, v=2.26m/s, P=5.03kW, σF=70.3MPa, SF=1.14(危険), σH=424.2MPa, SH=0.90(危険)

解釈: 曲げ・面圧ともに危険域。FC250(ねずみ鋳鉄)は許容応力が低く(σFlim=80MPa, σHlim=380MPa)、中トルクの伝達でも限界に近い。FCD600(球状黒鉛鋳鉄)への変更でSF=2.49、SH=1.30まで大幅改善できる。鋳鉄を使う場合は余裕のある諸元設計が不可欠だ。

ケース6: 樹脂歯車(MCナイロン)

低騒音・無給油が求められる食品機械や医療機器。MCナイロン同士のかみ合い。

入力: 平歯車 m=2, z₁=20/z₂=40, 歯幅b=20mm, MCナイロン(両歯車), 500rpm, 3N·m, KA=1.0

結果: Ft=150.0N, v=1.05m/s, P=0.16kW, σF=13.6MPa, SF=2.57(安全), σH=32.2MPa, SH=3.11(安全)

解釈: 樹脂歯車は弾性係数が極端に低い(E=2900MPa)ため、接触面が大きく広がり面圧が非常に低くなる。許容応力自体は低い(σFlim=35MPa, σHlim=100MPa)が、伝達トルクも小さいため安全率は十分。ただし熱膨張や吸水による寸法変化には別途注意が必要だ。

歯車強度計算の仕組み・アルゴリズム

候補手法の比較

歯車の強度計算には主に3つのアプローチがある:

手法概要精度複雑さ
ルイス式 + ヘルツ式古典的な曲げ・面圧計算初期検討に十分
AGMA 2001 / 2101米国規格。多数の修正係数を含む中〜高
JGMA 401 / 402(≒ ISO 6336)日本歯車工業会規格。最も厳密最高

本ツールはルイス式 + ヘルツ式を採用した。理由は以下の通り:

  1. 入力パラメータが少ない — JGMA/ISOは歯面粗さ係数、寿命係数、潤滑油係数など20以上の係数を要求する。初期検討段階でこれらの値が確定していることはまずない
  2. 計算の透明性が高い — 式の意味が直感的に理解しやすく、パラメータの影響を学習しやすい
  3. 概算精度としては実用的 — 速度係数Kvにバース式を採用し、簡易ながら動荷重の影響を反映。安全率の大小関係(曲げ vs 面圧のどちらが支配的か)は、JGMA計算と概ね一致する

計算フローの詳細

1. 基本寸法の算出
   平歯車: d1 = m × z1
   はすば: mt = mn / cos(β), d1 = mt × z1

2. 接線力・速度・動力
   Ft = 2000 × T / d1
   v = π × d1 × n / 60000
   P = Ft × v / 1000
   Kv = 6 / (6 + √v)    ← Barth式

3. 曲げ応力
   Y = ルイス歯形係数テーブルから線形補間
   σF = Ft × KA / (b × m × Y × Kv)
   はすば: Yβ = 1 - β/120
   σF = Ft × KA / (b × mn × Y × Yβ × Kv)

4. 面圧
   u = z2 / z1
   ZE = √(1 / (π × ((1-ν₁²)/E₁ + (1-ν₂²)/E₂)))
   σH = ZH × ZE × √(Ft × KA × (u+1) / (d1 × b × u × Kv))
   はすば: σH にさらに Zβ = √cos(β) を乗算

5. 安全率
   SF = σFlim / σF
   SH = σHlim / σH

計算例(ステップバイステップ)

ケース1の平歯車(m=3, z₁=20, z₂=60, b=30, n=1500rpm, T=50N·m, KA=1.25, S45C調質)を例に:

d1 = 3 × 20 = 60 mm
Ft = 2000 × 50 / 60 = 1666.7 N
v = π × 60 × 1500 / 60000 = 4.71 m/s
P = 1666.7 × 4.71 / 1000 = 7.85 kW
Kv = 6 / (6 + √4.71) = 6 / 8.170 = 0.7343

Y(z=20) = 0.322(テーブル値)
σF = 1666.7 × 1.25 / (30 × 3 × 0.322 × 0.7343) = 2083.4 / 21.28 = 97.9 MPa
SF = 275 / 97.9 = 2.81

u = 60 / 20 = 3
ZE = √(1 / (π × 2 × 0.91 / 206000)) = 189.8
σH = 2.49 × 189.8 × √(1666.7 × 1.25 × 4 / (60 × 30 × 3 × 0.7343))
   = 472.8 × √(8333.5 / 3965.2)
   = 472.8 × 1.450 = 685.2 MPa
SH = 700 / 685.2 = 1.02

曲げ安全率2.81に対して面圧安全率1.02——面圧が支配的な典型例だ。この結果から「材質グレードアップ」や「歯幅増加」という次のアクションが明確になる。

GCSW・CADTOOLとの歯車強度計算ツール比較

歯車強度を計算できるツールは他にもある。代表的なものと本ツールを比較してみよう。

小原歯車工業 GCSW(GearCommandSystemWeb) は、歯車メーカーが提供する本格的な設計支援ツール。JGMA規格に準拠した高精度な計算が可能だが、利用には会員登録が必要で、自社製品の選定に最適化されている。汎用的な概算をサッと回したいときには少しオーバースペックだ。

CADTOOLメカニカル は市販の機械設計計算ソフトで、歯車に限らず軸・ばね・ボルトなど幅広い要素を網羅している。価格は数万円〜で、企業の設計部門向け。個人や学生が気軽に使えるものではない。

本ツール はルイス式とヘルツ面圧という古典的かつ信頼性の高い手法に絞り、ブラウザだけで即座に概算結果を得られる点が強みだ。登録もインストールも不要。材質プリセット7種を内蔵し、平歯車・はすば歯車の曲げ安全率と面圧安全率を同時に判定する。JGMA完全準拠ではないが、初期検討・教育用途・概算見積りには十分な精度を提供する。「まず安全率の桁感をつかみたい」という場面で最も手軽な選択肢だ。

歯車の材質選定と表面処理の勘所

浸炭焼入で面圧強度は倍近くに跳ね上がる

歯車の強度は形状だけでなく、材質と表面処理で劇的に変わる。本ツールのプリセットを見比べると一目瞭然だ。S45C(焼ならし)の許容面圧は550 MPaだが、SCM420(浸炭焼入)なら1300 MPa。同じ歯車寸法でも面圧安全率が2倍以上変わる。

浸炭焼入とは、低炭素鋼の表面に炭素を浸透させてから焼入れする処理のこと。表面はHRC 58-62という極めて高い硬さになり、歯面の接触疲労に強くなる。一方で芯部は靱性を保つため、衝撃荷重にも粘り強い。自動車のトランスミッション歯車はほぼ全数がこの処理を施されている。

参考: 浸炭 - Wikipedia

鋳鉄歯車の意外な実力

FC250(ねずみ鋳鉄)の許容曲げ応力はわずか80 MPa。鋼材の半分以下だ。しかし鋳鉄には自己潤滑性があり、黒鉛が潤滑剤の役割を果たすため、低速・低荷重の開放歯車(オイルバスなし)では意外と長持ちする。コンベヤの駆動歯車やバルブの操作歯車など、コストと振動減衰を重視する場面で今も現役だ。

MCナイロン歯車 — 騒音ゼロの代償

MCナイロンの許容曲げ応力は35 MPa、許容面圧は100 MPa。金属歯車とは桁違いに低い。その代わり、潤滑なしで静音運転が可能で、食品機械や医療機器など「油を使えない」環境で重宝する。吸水による寸法変化と熱膨張が大きいため、バックラッシュを広めに取るのがコツだ。

参考: ポリアミド - Wikipedia

歯車強度計算のTips — 設計を一段引き上げるコツ

1. モジュール選定は「歯幅 ÷ モジュール = 6〜10」を目安に

歯幅をモジュールの6〜10倍に収めるのが一般的な設計指針。これより広いと荷重分布が偏り、狭いと曲げ強度が不足しやすい。本ツールでもモジュールの10倍を超えると警告が出る。

2. 面圧が先に限界を迎えることが多い

曲げ安全率は余裕があるのに面圧安全率がギリギリ、というケースは非常に多い。面圧を改善するには、歯幅を広げる・材質を上げる・歯数比を小さくする、の3つが効果的。歯幅の増加は面圧に対して平方根で効くため、倍の歯幅にしても安全率は約1.4倍にしかならない点に注意。

3. 使用係数KAは運転条件に合わせて正直に入れる

「安全率が足りないからKAを下げよう」は危険な発想だ。均一荷重(KA=1.0)が許されるのは電動機直結のポンプやファンなど、衝撃がほぼゼロの用途に限られる。プレス機やクラッシャーなど衝撃荷重がかかる機械ではKA=1.5〜1.75を使うのが常識。

4. はすば歯車にすると曲げ・面圧の両方が改善する

平歯車からはすば歯車に変更すると、ねじれ角係数Yβ(< 1.0)とねじれ角面圧係数Zβ(< 1.0)の効果で両安全率が向上する。ただしスラスト荷重が発生するため、軸受の選定も同時に見直す必要がある。

歯車強度計算でよくある疑問

ルイス式の精度はJGMA準拠と比べてどの程度違う?

ルイス式は1892年にWilfred Lewisが提唱した古典的な手法で、歯を片持ち梁とみなして曲げ応力を求める。JGMA 401/402はこれに寿命係数・信頼度係数・荷重分布係数などを加味した精密手法だ。実用上、ルイス式の結果はJGMAに対して10〜30%程度保守的(安全側)になる傾向がある。初期検討で安全率2.0以上を確認できれば、詳細設計でJGMA準拠に進んでも問題になることは少ない。

小歯車と大歯車で異なる材質を選んでもよい?

むしろ実務では積極的に使い分ける。小歯車(ピニオン)は大歯車に比べて同じ時間あたりの噛み合い回数が多いため、疲労が早く進行する。そのため小歯車に高強度材(SCM420浸炭焼入など)を使い、大歯車は一段下の材質にするのが定石だ。本ツールでは小歯車・大歯車の材質を個別に選択できるので、この組み合わせも簡単に検証できる。

歯数12未満で警告が出るのはなぜ?

標準圧力角20°の歯車では、歯数が約14未満になるとインボリュート歯形の根元がえぐれる「アンダーカット」が発生する。アンダーカットされた歯は断面積が減り、ルイス式で想定する歯形係数Yが実態と乖離する。本ツールのルイス歯形係数テーブルは歯数12からだが、12〜13の範囲でも精度が落ちるため警告を表示している。実務では転位歯車を適用してアンダーカットを回避するのが一般的だ。

入力したトルクや材質の情報はサーバーに送信される?

一切送信されない。すべての計算はブラウザ内のJavaScriptで完結しており、サーバー通信は発生しない。入力データはページを閉じれば消える。社外秘の設計パラメータを扱う場合でも安心して利用できる。

ピッチ円周速度が20 m/sを超えると情報表示が出るのはなぜ?

本ツールの速度係数Kvはバース(Barth)式で算出している。バース式は低〜中速域(概ね20 m/s以下)で実績のある簡易式だが、高速域では動荷重の影響を過小評価する傾向がある。20 m/sを超える場合は、JGMA準拠の動荷重係数Kv(精密等級ごとの式)を使った詳細計算を推奨する。

まとめ — 歯車設計の第一歩を、ブラウザで

歯車強度計算ツールは、ルイス式とヘルツ面圧で曲げ安全率・面圧安全率を同時に判定する。モジュール・歯数・材質を入力するだけで、設計の初期段階に必要な「安全率の桁感」がつかめる。

歯車のモジュール選定には歯車モジュール計算ツール、噛み合い後の軸径検討には軸径計算ツール、軸受の寿命予測には軸受寿命計算ツールをあわせて活用してみてほしい。歯車→軸→軸受と一気通貫で検証すれば、手戻りのない設計が進められる。


不具合や要望があれば、X (@MahiroMemo)から気軽に教えて。

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Mahiro

Mahiro Appの開発者。減速機の歯車を選定していて面圧不足に気づかず、やり直した苦い経験がある

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