「M20、何本並べればいいんだっけ」で止まる数分をなくす
継手リストのセルにボルト本数を打ち込もうとして、手が止まる。大梁の継手に400kNのせん断力が来る。F10TのM20、ウェブ添板は両面。……で、1本あたり何kN持つんだったか。
高力ボルトの許容せん断耐力は、表を1枚引けば分かる。分かるのだが、その表が肝心なときに手元にない。鋼構造設計規準は本棚の奥、社内標準図はサーバーのどこか。結局ブラウザで「高力ボルト 許容耐力」と打ち込んで、上位に出てきたPDFの数字をそのまま割り算に放り込む。放り込みながら「この数字、本当に規準の値だよな?」という小さな後ろめたさが残る。その数分と、その後ろめたさをまとめて消したくて作ったのがこのツールだ。
作用せん断力と荷重期間を入れ、ボルト種別・呼び径・摩擦面数を選ぶ。それだけで1本あたりの許容せん断耐力、必要本数、切り上げで生じる余裕率、さらに最小ピッチ・最小縁端距離・標準孔径の配置目安まで一度に出る。図面の本数がすでに決まっているなら、実配置本数を入れれば検定比で逆向きに確かめられる。表を探しに行く前に、答えの当たりが付く。
なぜ作ったのか — 拾ってきた耐力値が5%大きかった
きっかけは、自分が一度きれいに引っかかったことだ。
高力ボルトの必要本数は、突き詰めれば「1本あたりの許容耐力で割って切り上げる」だけの計算になる。難しいのは割り算ではなく、割る数を確定させるところだ。そこで検索して式を拾った。出てきたのは qa = 0.3 × 設計ボルト張力 N0 × 摩擦面数 という形。M20なら設計ボルト張力165kN、掛けて49.5kN。もっともらしい。
だがこれは誤りだった。0.3を掛ける相手は基準張力 T0であり、これは応力度で単位が N/mm²(F10Tなら500)。設計ボルト張力は文字どおりボルトを締め付ける力で、単位は kN(M20なら165)。名前が似ているうえ、質が違う。始末が悪いのは、基準張力に呼び径断面積を掛けると M20 で157.08kN になり、設計ボルト張力165kN と数字がすぐ隣に並ぶことだ。掛ける相手を取り違えても、出てくる答えは「それらしい」桁と大きさに収まってしまう。
しかも外れる向きが悪い。公表されている許容耐力表(F10T・長期・1面摩擦)は M16=30.2 / M20=47.1 / M22=57.0 / M24=67.9 kN だが、誤式で計算すると M16で+5.4%、M20で+5.0%、M22で+7.9%、M24で+5.2%と、すべて過大=危険側にずれる。5%は「まあ誤差」で流せる大きさで、しかも本数を1本減らす方向に効く。気づかなければ気づかないまま図面になる種類の間違いだ。
正しい式で組み直すと、公表表の4サイズすべてに小数第1位まで一致した。この一致を確認できたとき、これは自分だけの手元メモで終わらせるべきではないと思った。
もうひとつの動機は、以前作った機械設計向けのボルト強度診断ツールにある。あちらは軸のせん断・引張・ねじ山せん断のどのモードで壊れるかを見るもので、ボルトが「力を受けて壊れる部材」であることが前提だった。ところが建築の摩擦接合はまったく別の体系で、ボルト軸はそもそもせん断を受けない。同じ「ボルトの計算」という言葉で括られながら、考え方が根っこから違う。この違いを混ぜずに扱える専用のツールが要る、と考えた。
高力ボルト摩擦接合とは — 限界状態は「切れる」ではなく「すべる」
高力ボルト 許容耐力 の正体 — ボルトはせん断で力を伝えていない
最初に、直感に反する事実から入る。高力ボルト摩擦接合では、ボルトの軸はせん断力を伝えていない。
普通ボルトなら話は素直だ。2枚の板を重ねてボルトを通し、板を横に引っ張ると、ボルトの軸が孔の内側に押されて曲がり、やがて軸がせん断で切れる。力の伝達経路はボルト軸そのものだ。
高力ボルトは違う。ボルトを非常に強い力で締め付け、板同士を強烈に押しつける。押しつけられた面には摩擦が生じ、その摩擦だけで板の間の力を伝える。ボルト軸は孔の中で遊んでいて、板に触れてすらいない。
たとえ話にすると分かりやすい。紙を2枚重ねて机に置き、上から指で強く押さえる。そのまま上の紙を横に引いてもずれない。指の力を弱めるとある瞬間にずるっとずれる。ずれない限界は、指で押す力と紙同士の滑りにくさで決まっていて、指の太さで決まっているわけではない。高力ボルトの摩擦接合はまさにこれで、押さえる指が「締め付けられたボルト」に当たる。
だから限界状態は「ボルトが切れる」ではなく「面がすべる」になる。この違いが、設計式の形をそのまま決めている。
摩擦接合 計算 の式 — 0.3の中身は「すべり係数÷安全率」
すべりに対する耐力は、締付け力とすべり係数(摩擦係数に相当)の積で決まる。ただし設計のたびに締付け力を追いかけるのは煩雑なので、日本建築学会『鋼構造設計規準』はこれを応力度の形に整理している。
高力ボルト摩擦接合の許容せん断応力度は、基準張力 T0 に荷重期間の係数を掛けた値として与えられる。
許容せん断応力度 fs = 荷重期間係数 × 基準張力 T0 [N/mm²]
長期 fs = 0.3 × T0 短期 fs = 0.45 × T0
F10T・S10T : T0 = 500 → 長期 150 / 短期 225
F8T : T0 = 400 → 長期 120 / 短期 180
この 0.3 がどこから来たのかを知っておくと、数字の意味が一気に立体になる。内訳は すべり係数0.45 ÷ 安全率1.5 = 0.3。摩擦面を赤錆状態またはブラスト処理したときに確保できるすべり係数0.45を出発点に、そこへ長期の安全率1.5を見込んだ値が0.3だ。つまり許容せん断応力度の中には、最初から安全率1.5が織り込まれている。短期(地震時・暴風時)は0.45で、長期のちょうど1.5倍になる。
この応力度に呼び径断面積を掛け、さらに摩擦面数を掛けると、ボルト1本あたりの許容せん断耐力になる。
呼び径断面積 A = π·d²/4 [mm²]
M16 = 201.06 M20 = 314.16 M22 = 380.13 M24 = 452.39
1本あたり耐力 qa = fs × A × 摩擦面数 m / 1000 [kN]
たとえば F10T・M20・長期・2面摩擦なら 150 × 314.159265 × 2 / 1000 = 94.24778 kN になる。あとは作用せん断力をこの値で割り、切り上げれば必要本数だ。
摩擦面が2面なら耐力はそのまま2倍になる
摩擦面数は式の中で単純な掛け算として効く。理由も単純で、力を伝える摩擦面が2つあるからだ。
H形鋼のウェブ継手を思い浮かべると分かりやすい。ウェブの両側に添板を当てて締め付ければ、母材と添板が接する面はウェブの表と裏で2面。片側だけに添板を当てる納まりなら1面。指で押さえる紙の例でいえば、押さえた紙が3枚重ね(間の摩擦面が2つ)か2枚重ね(1つ)かの違いになる。摩擦面が2つあれば、すべりに抵抗する面が単純に倍になる。
一般的な大梁のウェブ継手・フランジ継手は両面添板の2面摩擦が標準で、ガセットプレートに部材を1枚重ねるような納まりが1面摩擦になる。1面摩擦を2面摩擦にできれば耐力は倍、必要本数は半分——本数を減らす手として、これがいちばん効きが大きい。
呼び径断面積を使う理由と、法令が決める配置寸法
もうひとつ間違えやすいのが断面積だ。使うのは 呼び径断面積 π·d²/4(M20なら314.16mm²)であって、ねじ部の有効断面積(M20なら245mm²)ではない。摩擦接合ではボルト軸がせん断を受けるわけではないので、「危険断面はねじ部」という機械設計の発想がそのままは通らない。規準が呼び径断面積を基準として許容せん断応力度を定めている、というのがそのまま理由になる。
そして本数が決まっても、それを並べる寸法には法令の縛りがある。建築基準法施行令第68条は、高力ボルト相互間の中心距離を径の2.5倍以上とすること(第1項)、高力ボルト孔の径はボルト径より2mmを超えて大きくしてはならないこと(第2項)を定めている。これは目安ではなく法令上の要求だ。一方、実務でよく使う「標準ピッチは径の3倍」は施工性を見込んだ目安であって、法令値ではない。最小縁端距離は日本建築学会の鋼構造設計規準が定めており、せん断縁・手動ガス切断縁と、圧延縁・自動ガス切断縁とで2つの値を持つ。切断面が荒いほど割裂に対する信頼度が下がるため、前者のほうが大きな値になる。
本数を外すと何が起きるか — すべりの進み方と断面欠損
本数が足りないと、設計荷重の段階で摩擦面がすべる。すべりは一気に破壊するわけではなく、段階を踏んで進む。まず摩擦が切れて板が相対移動し、孔のクリアランス分だけずれてボルト軸が孔の内側に当たる。ここで接合は摩擦接合ではなく支圧接合として振る舞い始める。すべった瞬間に継手の剛性が落ちるため、変形が進み、骨組全体の応力分布が設計時の想定と変わる。想定と違う場所に応力が集まった結果として、別の部材が先に効き始める——という連鎖が起きうる。地震時にこれが起こると、期待した降伏機構が成立しなくなる。
逆に本数が過大でも実害はある。ボルトが増えれば継手長さが伸び、添板も母材もボルト孔の数だけ断面が欠損する。有効断面が減れば継手部の引張検定が厳しくなり、皮肉なことに継手を強くしようとして母材側を弱める。加えて添板が大きくなって鋼材量が増え、現場の締付け本数がそのまま施工手間と工期に乗る。1継手で数本の差でも、建物1棟の継手数を掛ければ効いてくる。
配置寸法を外した場合はもっと直接的だ。ピッチが径の2.5倍を下回る、孔径が径+2mmを超える——これらは施行令第68条に反するので、精度や品質の問題ではなく違法になる。図面の段階で潰しておくべき類の話だ。
数値感覚として、この計算で効く比率は式の形から直接読める。短期は長期のちょうど1.5倍(0.45·T0 ÷ 0.3·T0)。2面摩擦は1面摩擦のちょうど2倍。許容耐力は呼び径の2乗で効くので、M16→M24で1本あたり2.25倍、M20→M22で1.21倍、M22→M24で約1.19倍。F8TはF10Tの0.8倍(400/500)。つまり径を1段上げても耐力は2割前後しか伸びないのに対し、1面摩擦を2面摩擦にできれば一気に2倍になる。本数を減らしたいときにどこから手を付けるか、この比率が答えを出してくれる。
荷重期間の効き方も押さえておきたい。400kN・長期・F10T・M20・2面摩擦なら必要5本。応力が倍の800kNになっても、短期なら許容せん断応力度が1.5倍の225N/mm²になるため、必要本数は6本にしか増えない。応力が2倍だから本数も2倍、とはならない。だからこそ長期と短期は別々に計算し、本数の多いほうを採る必要がある。
こんな場面で開く
継手リストを描く前に本数の当たりを付ける。 応力表から継手位置のせん断力を拾い、径と摩擦面数を選んで必要本数を出す。表を探しに行かずに、その場で当たりが付く。
図面の本数が持つか逆向きに確かめる。 実配置本数を入れると検定比が出る。「M20を6本並べてあるが、この応力で足りているか」を、必要本数を求め直さずに一発で判定できる。
径を上げるか本数を増やすか比べる。 応力が増えたとき、M20を1段上げてM22にするのと、本数を1本増やすのとで、どちらが納まりよく効くかを数字で比較できる。呼び径の2乗で効くという感覚が実際の本数として見える。
1面摩擦を2面摩擦にできないか検討する。 本数が膨らんだとき、まず疑うのは納まりだ。1面摩擦のまま本数で押し切るのか、添板を両面に回して半分にするのかを、同じ画面で切り替えて比べられる。
めっき部材でF8Tを使うときの耐力低下を見積もる。 ボルト種別をF8Tにすると許容耐力が0.8倍になり、本数がどれだけ増えるかが即座に分かる。溶融亜鉛めっき摩擦面のすべり係数低下は別途の検討が必要だが、その前段の当たりとして使える。
使い方は3ステップ
① 作用せん断力と荷重期間を入れる。 継手位置のせん断力をkNで入力し、長期(固定荷重+積載荷重)か短期(地震時・暴風時)を選ぶ。長期と短期は別々の応力なので、それぞれの値で2回計算するのが正しい使い方だ。
② ボルト仕様を選ぶ。 ボルト種別(F10T/S10T/F8T)、呼び径(M16/M20/M22/M24)、摩擦面数(1面/2面)を選ぶと、1本あたり許容せん断耐力・必要本数・余裕率が出る。あわせて最小ピッチ・標準ピッチ目安・最小縁端距離(せん断縁/圧延縁)・標準孔径の配置目安も表示される。
③ 実配置本数で検定比を確かめる。 図面の本数が決まっているなら実配置本数を入れる。検定比が余裕あり(0.9以下)/余裕小(1.0以下)/本数不足(1.0超)の3段階で判定される。空欄のままなら必要本数の逆算だけが表示される。
迷ったら F10T・M20・2面摩擦から始めるといい。大梁ウェブ継手でいちばんよく使う組合せで、そこから径や摩擦面数を振ってみると各パラメータの効き方が体で分かる。
使用例10ケース — 入力・結果・次の一手
ケース1: 大梁ウェブ継手の典型。 400kN・長期・F10T・M20・2面摩擦 → 1本あたり94.2kN、必要5本、合計471.2kN、余裕率17.8%。内訳は許容せん断応力度150N/mm² × 断面積314mm² × 2面。もっとも標準的な条件で、5本を1列に並べるか2列にするかは添板寸法と縁端距離で決める。余裕率17.8%は切り上げで生まれた余りで、応力が少し増えても持つ。
ケース2: 同じ組合せを短期で見る。 800kN・短期・F10T・M20・2面摩擦 → 許容せん断応力度が1.5倍の225N/mm²になり、1本141.4kN、必要6本、余裕率6.0%。ケース1と並べると、応力が2倍でも必要本数は5本→6本にしか増えないことが読み取れる。長期5本・短期6本なので、この継手は6本で決まる。長期だけ見て決めてはいけない典型例だ。
ケース3: 1面摩擦の小継手。 150kN・長期・F10T・M16・1面摩擦 → 1本30.2kN(公表許容耐力表の値と一致)、必要5本、合計150.8kN、余裕率0.53%。切り上げがぎりぎりで効いた状態で、作用せん断力があとわずかでも増えれば6本になる。設計を進めるうちに応力が数kN増えることは珍しくないので、この余裕率を見たら最初から6本で計画しておくほうが安全だ。
ケース4: 大荷重をM24で受ける。 2000kN・短期・F10T・M24・2面摩擦 → 1本203.6kN、必要10本、余裕率1.79%。同時に最小ピッチ60mm・標準ピッチ72mm・最小縁端距離44mm(せん断縁)と配置寸法も大きくなる。10本を並べるのに必要な継手長さが添板と母材に収まるか、本数を出した直後に寸法側の検討へ移る必要がある。
ケース5: 小径・1面摩擦で本数が膨らむ。 700kN・長期・F10T・M16・1面摩擦 → 1本30.2kN、必要24本で「継手形式の再検討」判定。ここで本数を24本のまま押し通すのは筋が悪い。同じ条件を2面摩擦に変えれば1本60.3kNとなり12本まで減る。あるいはM24・2面摩擦なら1本135.7kNで6本だ。本数が20本を超えたら、並べ方ではなく継手形式そのものを疑う。
ケース6: F8Tにすると本数が増える。 400kN・長期・F8T・M20・2面摩擦 → 許容せん断応力度が0.3×400=120N/mm²になり、1本75.4kN、必要6本。ケース1と1項目しか変えていないのに5本→6本だ。基準張力が0.8倍になれば耐力も0.8倍で、その分は本数で埋めるしかない。めっき部材でF8Tを選ぶ場合は、この増加を織り込んで継手長さを見ておく。
ケース7: 実配置6本で余裕あり。 400kN・長期・F10T・M20・2面摩擦・実配置6本 → 合計許容耐力565.5kN、検定比0.71で「OK(余裕あり)」。必要本数5本に対して図面が6本なので、当然余裕がある。この状態なら応力の見直しや施工誤差を吸収できる。5本に減らして材料を詰めるという判断もあるが、ケース10の余裕率を見てから決めたい。
ケース8: 実配置5本で余裕小。 450kN・長期・F10T・M20・2面摩擦・実配置5本 → 必要本数も5本、合計471.2kN、検定比0.95で「OK(余裕小)」。必要本数ちょうどを配置すると検定比は必ず1.0以下になるが、余裕は切り上げの端数分しかない。この0.95という数字は「規準上は成立、ただし伸びしろなし」を意味する。応力の取り方に見直しの余地がないかを確認しておきたい水準だ。
ケース9: 実配置4本で不足。 400kN・長期・F10T・M20・2面摩擦・実配置4本 → 合計377.0kN、検定比1.06で「NG(本数不足)」。このとき必要本数側の判定は「標準的な継手で納まる(5本)」のままで、検定比だけが赤になる。2つの判定がちぐはぐに見えるが、これが正常な出方で、「必要なのは5本だが図面は4本」という意味になる。1本追加するか、径を上げるかの判断へ進む。
ケース10: 判定が切り替わる境界。 600kN・長期・F10T・M16・1面摩擦 → 必要20本で「標準的な継手で納まる」。作用せん断力を620kNに増やすと必要21本となり「継手形式の再検討」に反転する。応力が20kN(3%強)増えただけで判定が変わるわけで、境界付近では応力の丸め方ひとつで印象が変わる。20本前後まで来たら、判定の色にかかわらず継手形式の見直しを検討したほうがいい。
仕組み — 3つの計算方式を比べて規準どおりの式に決めた
候補は3つあった
① 公表の許容耐力表を静的テーブルで持つ方式。 呼び径・荷重期間・摩擦面数ごとの許容耐力を表として実装に埋め込む。実務で使われている表そのものなので信頼性は高いが、表の値は丸められている。丸め値をそのまま持つと、内訳(応力度×断面積)を画面に出したときに掛け算が合わなくなる。ユーザーが検算したときに数字が閉じないのは、計算ツールとして致命的だ。
② 設計ボルト張力に0.3を掛ける方式。 qa = 0.3 × N0 × m の形。検索でよく見かける式で、単位が kN のまま話が進むので直感的に見える。しかしこれは §2 で書いたとおり誤りで、公表表と突き合わせると全サイズで過大になる。
| 呼び径 | 誤式 0.3×N0 | 規準どおり 0.3·T0·A | 差 |
|---|---|---|---|
| M16 | 0.3 × 106 = 31.8 kN | 30.16 kN | +5.4% |
| M20 | 0.3 × 165 = 49.5 kN | 47.12 kN | +5.0% |
| M22 | 0.3 × 205 = 61.5 kN | 57.02 kN | +7.9% |
| M24 | 0.3 × 238 = 71.4 kN | 67.86 kN | +5.2% |
(F10T・長期・1面摩擦)。公表表の値は 30.2 / 47.1 / 57.0 / 67.9 kN なので、規準どおりの式は4サイズすべて一致し、誤式はすべて危険側にずれる。
③ 基準張力に係数を掛け、呼び径断面積に乗じる規準どおりの方式。 これを採用した。断面積を丸め値ではなく π·d²/4 で毎回計算するのがポイントで、こうすると M16 で 150 × 201.06193 × 1 / 1000 = 30.159 kN となり、公表表の30.2kNと表示上ぴったり一致する。丸め値の201mm²を使うと30.15kNとなり、わずかにズレる。式から計算するほうが、表を持つより表と合う——という逆説的な結果になった。
計算フロー
① 呼び径断面積 A = π·d²/4 [mm²]
② 許容せん断応力度 fs = 期間係数(0.3 / 0.45) × T0(500 / 400)
③ 1本あたり許容耐力 qa = fs × A × 摩擦面数 m / 1000 [kN]
④ 必要本数 n = ceil(Q / qa) [本]
⑤ 合計許容耐力 Rn = n × qa [kN]
余裕率 = (Rn / Q − 1) × 100 [%]
⑥ 検定比(任意入力) r = Q / (実配置本数 × qa)
⑦ 配置目安(呼び径のみで決まる)
最小ピッチ = 2.5d(施行令68条1項) 標準ピッチ = 3d(目安)
標準孔径 = d + 2(施行令68条2項) 最小縁端距離 = 規準の2値
④で切り上げるため、必要本数で配置すると必ず余りが出る。これが余裕率で、ケース3の0.53%のように極小になることもあれば、ケース1の17.8%のようにまとまって出ることもある。余裕率は安全率ではなく「切り上げのおつり」なので、大きいから安心・小さいから危険という読み方はしない。ただし小さいときは応力の増加に弱いので、1本足しておく判断材料にはなる。
⑦の配置目安は呼び径だけで決まる。逆にゲージ(材軸直角方向のボルト間隔)はH形鋼のフランジ幅やウェブせいといった母材の断面寸法で決まる量なので、呼び径からは出せない。だからこのツールは出力しない。
ステップバイステップ計算例
ケース1(大梁ウェブ継手の典型)を順に追う。
入力: Q = 400 kN・長期・F10T・M20・2面摩擦
① A = π × 20² / 4 = 314.159265 mm²
② fs = 0.3 × 500 = 150 N/mm²
③ qa = 150 × 314.159265 × 2 / 1000 = 94.24778 kN
④ n = ceil(400 / 94.24778) = ceil(4.2441) = 5 本
⑤ Rn = 5 × 94.24778 = 471.238898 kN
余裕率 = (471.238898 / 400 − 1) × 100 = 17.81 %
⑦ 最小ピッチ 50mm(2.5d) / 標準ピッチ 60mm(3d)
標準孔径 22mm(d+2) / 最小縁端距離 34mm(せん断縁)・26mm(圧延縁)
M20の標準ピッチ60mmは、鉄骨の継手リストで実際に使われている値と一致する。式から出した数字が現場の慣行と噛み合うのを見ると、係数の出所が正しいことが実感として確かめられる。
表引きと一貫ソフトの、あいだを埋める道具
高力ボルトの必要本数を出す手段は、実務ではだいたい2つに分かれている。許容耐力表を引いてExcelで割り算し切り上げるか、一貫構造計算ソフトの継手設計機能に任せるかだ。
表引きは速いが、表が手元にないと止まるし、転記を間違えても誰も教えてくれない。検索で拾った数値はもっと危うい。ネット上には設計ボルト張力に0.3を掛けた値が流通していて、公表表と比べるとM20で5.0%、M22では7.9%大きい。しかも危険側に外れる。
一貫ソフトは断面欠損も保有耐力接合も面倒を見てくれるが、本数の当たりを付けるだけの用途には重すぎるし価格の桁が違う。継手リストを描くdetailerや図面を確認する施工管理の手元にあるとは限らない。
このツールはその中間を狙っている。規準の式から1本あたりの許容せん断耐力を組み立てて必要本数を逆算し、図面の本数を入れれば検定比まで返す。ブラウザだけで逆算と検算の両方向が回る。
ボルトまわりの他ツールとは守備範囲が違う。偏心荷重を受けるボルト群で1本ごとの分担せん断力を求めたいなら、それは応力解析なのでボルトパターン荷重解析ツールの領分だ。機械設計のボルトが引張・せん断・ねじ山のどのモードで壊れるかを見たいなら、3モードの安全率を返すボルト強度・破断モード診断が対応する。このツールは規格の許容耐力表から必要本数を逆算する設計選定に特化していて、同じ「ボルト」でも解析・破壊モード判定・員数選定という別のレイヤーにいる。
このほか、締付けトルクと軸力の関係はボルト締付トルク計算、継手を溶接に置き換えるなら溶接強度計算シミュレーター、継手を検討する前段の部材断面は鋼材断面のコンシェルジュ、柱脚のアンカーボルト本数は露出柱脚・ベースプレート設計ツールが受け持つ。
「0.3」の正体と、ピンテールが折れる理由
安全率1.5は、はじめから式に埋まっている
長期の許容せん断応力度に出てくる係数0.3は、天から降ってきた数字ではない。すべり係数0.45を安全率1.5で割った値だ。
0.45(すべり係数) ÷ 1.5(安全率) = 0.3
つまり摩擦接合の許容耐力は、実際にすべり出す力の3分の2の水準にあらかじめ抑えてある。ここが読み方の勘所で、検定比1.0は「いま壊れる」ではなく「規準どおりぎりぎり成立している」を意味する。安全率を二重に掛けて0.3にさらに1.5を見込む、といった扱いは過剰になる。同じ理屈で、すべり係数0.45を式にもう一度掛けるのも誤りだ。0.3のなかにすでに入っている。
ピンテールが落ちた本数を数えれば検査が終わる
S10T(トルシア形高力ボルト)は、シャーレンチで締めていくと先端のピンテールがねじ切れて落ちる。この破断が規定の張力が入った合図になり、ピンテールが残っていないかを見るだけで締付け検査が視覚的に完了する。トルクレンチを1本ずつ当ててナット回転量を追う六角高力ボルトに比べ、現場の手間が段違いに軽い。それでいて基準張力は500 N/mm²でF10Tと同じ、許容せん断耐力も完全に同一だ。性能ではなく、締付けと検査のやり方で選ぶボルトだと言える。
きれいに塗ってはいけない、赤錆のままが正しい
摩擦接合の摩擦面は、あえて赤錆を発生させたまま(自然発せい)にするか、ブラスト処理をする。塗装してしまうとすべり係数0.45が確保できない。丁寧に塗った面ほど滑る、という直感に反する話だ。溶融亜鉛めっき面もすべり係数が0.40に下がるため、同じ式では扱えない。
名前が似ているだけの、まったく別の量
基準張力T0(F10Tで500 N/mm²)と設計ボルト張力N0(M20で165 kN)は別物だ。T0は応力度、N0はボルトの有効断面積に降伏点の0.75を乗じて決めた「実際に締め付ける力」で、施工時の管理値にあたる。厄介なのは、M20でT0×呼び径断面積を計算すると157.08 kNになり、設計ボルト張力165 kNとかなり近い値が出てしまうこと。掛ける相手を間違えても「それらしい」数字になるので、間違いに気づけない。ちなみにボルト孔が呼び径+2mmまでしか許されないのも、すべった後の移動量を抑えるためで、根拠は建築基準法施行令第68条にある。ボルトの規格そのものは日本鋼構造協会の資料にあたるとよい。
本数を減らす・確かめるためのTips
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本数が多いと感じたら、まず摩擦面数を疑う: 1面摩擦を2面摩擦にできれば耐力はちょうど2倍。呼び径を1段上げてもM20→M22で1.21倍、M22→M24で約1.19倍にしかならない。添板を両面に当てられないかを先に見たほうが、効きは圧倒的に大きい。
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長期だけを見て決めない: 許容せん断応力度は短期が長期のちょうど1.5倍だが、地震時のせん断力もそれ以上に増えることが多い。長期と短期でそれぞれ計算し、本数の多い方を採る。同じM20・2面摩擦でも、長期400kNなら5本、短期800kNなら6本と結果が入れ替わる。
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検定比は0.9を切らせておく: 実配置本数を入れて検定比が0.95のような値だと、許容内でも余裕が1割を切っている。継手のせん断力は上位の応力解析の前提に左右されるうえ、ボルト1本の不具合も吸収できない。
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ピッチ2.5倍と孔径+2mmは法令、標準ピッチ3倍は目安: 前者は施行令第68条の規定で下回れば違法になる。後者は工具のクリアランスを見た慣習値なので、納まりの都合で多少動かして構わない。この区別があると狭い継手で悩む時間が減る。
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縁端距離は縁の加工方法で変わる: M20ならせん断縁・手動ガス切断縁で34mm必要だが、圧延縁・自動ガス切断縁なら26mmでよい。添板の幅が足りないとき、切断方法を変えるだけで解決することがある。
よくある質問(FAQ)
F10TとS10Tで必要本数は変わるのか
変わらない。どちらも基準張力T0が500 N/mm²なので、1本あたり耐力から必要本数、余裕率まで全部が同じ値になる。違うのは締付けと検査の方法だけで、F10Tはトルクレンチとナット回転量、S10T(トルシア形)はシャーレンチとピンテール破断で管理する。耐力が下がるのはF8Tのほうで、基準張力400 N/mm²なのでF10Tの0.8倍になる。
設計ボルト張力に0.3を掛ければいいのでは?
それは誤りで、しかも危険側に外れる。0.3を掛ける相手は基準張力T0という応力度であって、設計ボルト張力N0という力ではない。M20で試すと 0.3 × 165 = 49.5 kNとなるが、公表されている許容耐力表の値は47.1 kN(F10T・長期・1面摩擦)で、5.0%過大になる。M22ではずれが7.9%まで開く。本ツールは規準どおり qa = 許容せん断応力度 × 呼び径断面積 × 摩擦面数 / 1000 で計算しており、M16=30.2 / M20=47.1 / M22=57.0 / M24=67.9 kNという公表表の4サイズすべてと一致する。
有効断面積ではなく呼び径断面積を使うのはなぜか
摩擦接合ではボルト軸がせん断を受けて切れるわけではないからだ。有効断面積はボルトが引張やせん断で破断するかを見るときの断面積であり、規準は摩擦接合の許容せん断応力度を呼び径断面積(軸部の公称断面積・π·d²/4)を基準に定めている。なお本ツールは断面積を表の丸め値ではなく式から毎回計算している。丸め値201 mm²を使うとM16で30.15 kNとなり、公表表の30.2 kNとわずかにずれるためだ。
引張力も同時に働く継手はどう扱えばいいのか
本ツールの対象外なので、別途の検討が必要になる。ボルトに引張力が作用すると導入張力が実質的に減ってすべり耐力が下がるため、せん断だけで検定した本数では足りなくなる。同様に、母材と添板のボルト孔による断面欠損、孔まわりの支圧、継手部の曲げ、保有耐力接合の確認も対象外だ。このツールが返すのは摩擦接合のせん断に対する必要本数の当たりであり、継手の設計は構造設計者が構造計算書全体との整合を見て確定するものになる。
入力した応力やボルト仕様はどこかに保存されるのか
保存されない。計算はすべてブラウザの中で完結していて、入力した作用せん断力もボルト仕様も外部に送信していない。ページを閉じれば入力内容は消えるので、実際の物件の応力値をそのまま入れても構わない。結果を残したいときはコピーボタンで1行テキストとして書き出せる。
まとめ
高力ボルト摩擦接合の必要本数は、基準張力に係数を掛けて呼び径断面積と摩擦面数を乗じれば求まる。表を探しに行かなくても、作用せん断力とボルト仕様を入れるだけで逆算と検定比の両方が出せる。
継手まわりを続けて詰めるなら、偏心を受けるボルト群の分担せん断力はボルトパターン荷重解析ツール、機械ボルトの破断モード判定はボルト強度・破断モード診断、締付けトルクと軸力の関係はボルト締付トルク計算が使える。継手を溶接に置き換える検討には溶接強度計算シミュレーター、前段の部材断面は鋼材断面のコンシェルジュ、柱脚のアンカーボルトは露出柱脚・ベースプレート設計ツールへ。気づいた点や要望があればお問い合わせページから聞かせてほしい。
Mahiro
Mahiro Appの開発者。鉄骨の継手リストを描きながら、検索で拾った式で出した許容耐力が公表表より5%大きいと気づいて青くなったことがある。基準張力と設計ボルト張力は数字がすぐ隣に並ぶぶん、取り違えても計算が破綻せず、そのまま図面になってしまう。
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