柱脚のアンカーボルト、結局「何本・どの径」が正解なのか
鉄骨造の柱脚を設計するとき、最初につまずくのはたいていアンカーボルトだ。軸力だけがかかる柱脚なら、ベースプレートがコンクリートを押しつける支圧でほぼ決まる。ところが曲げモーメントが入った瞬間、話が一気にややこしくなる。「そもそもボルトに引張が出るのか、出ないのか」からして即答できない。
引張が出ないなら、アンカーボルトは位置決めのための最小配置で足りる。逆に引張が出るなら、その大きさに応じて径と本数を決めなければ、地震のときに柱脚が浮き上がる。この分岐は、軸力N と 曲げM の合力がベースプレートのどこに載るか、つまり偏心距離 e=M/N ひとつで決まる。
このツールは、その e から応力パターンを判定し、コンクリート支圧・アンカーボルト張力・必要ベースプレート厚までを一気通貫で検定する。入力は軸力・曲げ・プレート寸法・ボルト仕様だけ。応力パターンと検定比、必要本数、必要板厚がまとめて出る。
なぜ露出柱脚の一貫検定ツールを作ったのか
曲げを受ける柱脚は、まず e=M/N で応力の姿が三通りに分かれる。全断面が圧縮になるのか、片側だけ圧縮になって残りが浮くのか、それともアンカーボルトが引張を負担するのか。ここが決まって初めて、支圧・ボルト・板厚の検定に進める。
ところが実務では、この三つを別々の式で手計算していることが多い。支圧はエクセルの一枚、ボルト張力は別の紙、板厚はさらに別。それぞれは正しくても、全体像がつながらない。「今どのパターンなのか」「支圧とボルトのどちらが効いているのか」が見えないまま数字だけが並ぶ。
市販の許容荷重表は便利だが、たいてい特定メーカーの既製柱脚に紐づいている。汎用の手計算を検算したいとき、製品カタログの値をそのまま当てはめるのは危うい。
もうひとつ、作り直しの直接のきっかけになった反省がある。以前のツールでアンカーボルトの許容引張値が過大だった。ABR490 M20で長期176kN・短期264kN という値を使っていたが、これは有効断面積で割り戻すと ft≒718N/mm² に相当する。ABR490の基準強度 F=325 をはるかに超えており、出所も不明だった。そこで本ツールはJIS B 1220のF値と有効断面積から許容引張を算定し直した。露出柱脚はいま執筆準備中の建築構造テーマの中核でもあり、そこで整理した考え方をそのまま計算に落とし込んでいる。
露出柱脚とは何か — 偏心距離eで応力が3つに分かれる
露出柱脚 とは
鉄骨柱の脚部を基礎に定着する方法は、大きく三つある。ベースプレートとアンカーボルトで基礎の上面に留める露出柱脚、柱まわりを鉄筋コンクリートで巻き立てる根巻き柱脚、柱を基礎の中に埋め込む埋込み柱脚だ。このうち最も一般的で、施工も検討も手早いのが露出柱脚である。
イメージとしては、椅子の脚の下に敷く座金に近い。細い柱の力を、広いベースプレートで受け直してコンクリートに分散させる。プレートが「面」で押しつける力がコンクリート支圧、プレートを基礎に縛りつけるのがアンカーボルトだ。詳しくは鉄骨構造の解説(Wikipedia)も参考になる。
偏心距離 と断面の核
軸力 N と曲げ M は、合力が図心から e=M/N だけ離れた位置に載っていると読み替えられる。この e が、断面の「核(コア)」の中に入るかどうかで、コンクリートに引張が出るかが決まる。
長方形断面の核は、中央から両側に Lp/6 の範囲だ。合力がこの中に載っている限り、断面全体が圧縮のままでいられる。核を外れると、遠い側の縁が浮き始める。さらに e が大きくなり合力が図心から Lp/2 を超えると、もはやコンクリートだけでは曲げを受けきれず、アンカーボルトが引張を負担し始める。
e = 1000·M / N // 偏心距離 [mm](M[kN·m], N[kN])
σ = N/A ± M/W // 全圧縮のときの縁応力度
T = (M − N·(Lp/2 − dt)) / j // 引張側ボルト張力(j = Lp − 2dt)
ベースプレート 支圧の3パターン
分岐をまとめると次のとおり。
- 全圧縮(
e ≤ Lp/6): 断面全体が圧縮。縁応力度はσ = N/A ± M/Wの台形分布。アンカーボルトに引張は生じない。 - 部分圧縮(
Lp/6 < e ≤ Lp/2): 片側だけが圧縮になり、三角形分布になる。圧縮域の長さはx = 3·(Lp/2 − e)。ボルト張力はまだ0。 - 引張発生(
e > Lp/2): コンクリートの圧縮合力とアンカーボルトの引張が偶力を組んで曲げに抵抗する。純曲げ(N=0)はe=∞として、この引張発生パターンで扱う。
この一枚の物差し(e と Lp/6・Lp/2 の位置関係)で、支圧の分布形も、ボルトに引張が出るかも同時に決まる。
柱脚の検定が甘いと何が起きるか
柱脚は建物の力が最後に基礎へ抜けていく関所だ。ここの検定が甘いと、被害は局所では収まらない。
まずアンカーボルトの引張不足。地震で柱脚に大きな曲げが入ると引張側のボルトが伸び、最悪は基礎から引き抜ける。柱脚が浮き上がれば架構全体の転倒モードに直結する。逆にコンクリートの支圧不足は、ベースプレートが基礎にめり込む局部破壊を招く。ベースプレートが薄すぎれば、支圧を受けた持出し部が反り上がってアンカーボルトに応力集中し、これもボルト破断の呼び水になる。
数値の出所を確かめる大切さも、ここに直結する。冒頭で触れた過大なボルト許容値のように、根拠の怪しい数字を信じると「本数は足りているつもりで、実は足りない」という最も危険な状態に陥る。本ツールはアンカーボルトの許容引張を、JIS B 1220の基準強度 F(ABR400=235、ABR490=325)に鋼構造設計規準の許容引張応力度 ft = F/1.5(長期)・ft = F(短期)を掛け、有効断面積で算定する。許容支圧は長期 Fc/3・短期 2Fc/3 を用いる。いずれも規格・規準の裏づけがある値だ。建築基準法施行令の許容応力度の枠組み(e-Gov法令検索)と併せて確認しておきたい。
こんな場面で使う
- 鉄骨造の柱脚まわりの初期検討。アンカーボルトの径と本数の当たりを付け、ベースプレートの寸法と厚さを詰める最初の一手として。
- 既存建物の耐震診断。柱脚が現行の軸力・曲げに対して足りているか、支圧とボルトの検定比でざっと押さえる。
- 確認申請前の構造計算書の検算。一貫計算ソフトの出力を、独立した手計算モデルで裏取りする。
- ブレース架構の脚部で「引張が出るのか出ないのか」を判定する場面。偏心距離が
Lp/2を超えるかどうかが、ボルト設計の分かれ目になる。 - 一級建築士の学習や、構造設計の実務を学び始めた段階。応力パターンの分岐と一貫検定の流れを、数字を動かしながら体で覚えられる。
なお、アンカーボルト単体のコーン破壊やせん断だけを確認したいときは、後述のとおり別ツール /anchor-bolt の担当だ。
基本の使い方(3ステップ)
- 柱断面を選ぶ。H-200×200からH-400×400までのプリセットを選ぶと、柱せい・柱幅の初期値が自動で入る。カスタム値に手編集してもよい。この寸法はベースプレートの持出し長さ(柱面からプレート端までの張り出し)の算定に使う。
- 荷重とプレート・ボルト仕様を入力する。軸力
N(圧縮)、曲げM、ベースプレート長さ・幅、アンカーボルトの材質(ABR400/ABR490)・呼び径・引張側本数・縁端距離dt、コンクリートFc、長期/短期を入れる。代表シナリオのプリセット4件から一括で入れることもできる。 - 結果を読む。偏心距離から判定した応力パターン、支圧応力度と検定比、アンカーボルト張力と必要本数、必要ベースプレート厚、そして総合検定比が並ぶ。総合検定比が0.9以下なら満足、1.0超なら見直しが必要という色分けで一目で分かる。
せん断力 Q は任意入力だ。入れたときだけ、底面摩擦耐力 μN(μ=0.4)との簡易比較が追加表示される。
7つのケースで見る検定結果
実装済みの計算エンジンに、代表的な7ケースを入れて出力を確認した。入力→結果→解釈の3点セットで見ていく。数値はいずれもツールの実出力そのまま。
ケース1: 平屋倉庫の小柱脚(全圧縮)
入力: N=200kN、M=10kN·m、Lp=Bp=400mm、ABR400 M20×2本、dt=50mm、Fc24、長期。
結果: e=50mm(核 Lp/6≒66.7mm の内側)で全圧縮。支圧応力度 σc=2.19N/mm²、許容8に対し支圧検定比0.27。アンカーボルト張力は0、必要板厚20.5mm。総合検定比0.27で満足。
解釈: 曲げが小さく合力が核の中に収まるので、ボルトに引張は出ない。柱脚は支圧だけで決まる典型例で、アンカーボルトは位置決めの最小配置で足りる。
ケース2: 中層事務所の柱脚(部分圧縮)
入力: N=600kN、M=80kN·m、Lp=Bp=550mm、ABR490 M24×3本、dt=60mm、Fc30、長期。
結果: e=133.3mm(核を外れ Lp/2=275mm の内側)で部分圧縮。三角形分布の圧縮域長さは425mm、支圧応力度 σc=5.13N/mm²、許容10に対し検定比0.51。ボルト張力はまだ0、必要板厚39.2mm。総合検定比0.51。
解釈: 縁の一部が浮き始めているが、圧縮域がまだ十分に残るためボルトには引張が出ない。支圧検定比が半分ほどに上がり、板厚が効き始めるゾーンだ。
ケース3: ブレース架構の引張発生(短期)
入力: N=150kN、M=180kN·m、Lp=Bp=600mm、ABR490 M27×4本、dt=70mm、Fc30、短期。
結果: e=1200mm(Lp/2=300mm を大きく超過)で引張発生。アンカーボルト張力 T=316.3kN、1本あたり許容149.2kN・1本あたり張力79.1kN、ボルト検定比0.53、必要本数3本。支圧検定比は0.37。総合検定比0.53。
解釈: 軸力が小さく曲げが大きいブレース脚部の典型。合力が断面の外まで飛び出し、アンカーボルトが引張を負担する。ここでは支圧より引張が支配的で、ボルト検定比が総合検定比を決めている。
ケース4: 純曲げの確認(N=0・短期)
入力: N=0kN、M=100kN·m、Lp=Bp=500mm、ABR490 M24×4本、dt=60mm、Fc24、短期。
結果: e=∞(純曲げ)で引張発生として処理。アンカーボルト張力 T=263.2kN、1本あたり張力65.8kN、ボルト検定比0.57、必要本数3本、必要板厚27.3mm。総合検定比0.57。
解釈: 軸力ゼロでもツールは破綻せず、曲げ全量をアンカーボルトと圧縮合力の偶力で受ける計算になる。純曲げは引張発生の極限ケースだと分かる。
ケース5: 小プレートで支圧NG(長期)
入力: N=400kN、M=120kN·m、Lp=Bp=300mm、ABR490 M22×2本、dt=40mm、Fc21、長期。
結果: e=300mm で引張発生。支圧応力度 σc=41.4N/mm² に対し許容はわずか7、支圧検定比5.92でNG。アンカーボルト張力345.5kN、ボルト検定比2.63、必要本数6本。総合検定比5.92。
解釈: プレートが小さすぎて圧縮合力が狭い面積に集中し、支圧が許容を大幅超過している。プレート寸法・コンクリート強度・ボルト本数すべての見直しが要る危険な例だ。
ケース6: 細径・少数ボルトでボルトNG(短期)
入力: N=80kN、M=150kN·m、Lp=Bp=500mm、ABR400 M20×2本、dt=50mm、Fc24、短期。
結果: e=1875mm で引張発生。アンカーボルト張力335kN、1本あたり張力167.5kNに対し1本あたり許容57.6kN、ボルト検定比2.91でNG、必要本数6本。一方で支圧検定比は0.69と余裕。総合検定比2.91。
解釈: 支圧は足りているのに、細径ボルト2本では引張をまったく受けきれない。支圧OKでもボルトNGは起こる。総合検定比は支圧とボルトの大きい方で判定するのが正しいと分かる。
ケース7: せん断力Qを入れた摩擦チェック
ケース2にせん断力 Q=100kN を加えると、底面摩擦耐力 μN = 0.4×600 = 240kN が100kN以上あり摩擦だけで保持可(OK)。一方、ケース3に同じ Q=100kN を加えると、軸力が小さいため μN = 0.4×150 = 60kN にとどまり100kNを下回る(NG)。後者はアンカーボルトのせん断検討へ進む必要があり、ツールは /anchor-bolt へ誘導する。
軸力が大きいほど摩擦が効き、軸力の小さいブレース脚部では摩擦頼みが成立しにくい、という感覚が数字で確認できる。
仕組み — 偏心距離パターン判定と一貫計算
3つの手法を比べて選んだもの
柱脚検定のやり方には、大きく三つの選択肢がある。第一に、メーカーの許容荷重表をそのまま転記する方法。手早いが、値が特定の既製柱脚に紐づき、汎用の手計算検算には使いにくい。第二に、支圧・ボルト・板厚を都度別々の式で手計算する方法。正しくやれば妥当だが、全体像が見えず転記ミスも起きやすい。第三が本ツールの採用した方法で、偏心距離 e で応力パターンを先に確定させ、その分岐に応じて支圧・ボルト張力・必要板厚を一貫して計算する。パターンが決まれば分布形も引張の有無も自動で定まるため、入力から検定比までが一本の流れになる。
アンカーボルト許容引張はF値×有効断面積で
許容引張は、JIS B 1220の基準強度 F に基づいて算定する。ABR400は F = min(降伏点235, 0.7×引張強さ400=280) = 235、ABR490は F = min(325, 0.7×490=343) = 325。許容引張応力度は長期 ft = F/1.5、短期 ft = F。これに呼び径ごとの有効断面積 An(M20:245、M22:303、M24:353、M27:459、M30:561 mm²)を掛け、1000で割ってkNにする。
1本あたり許容引張 [kN] = ft × An / 1000
// 例: ABR490 M27 短期 → ft=325, An=459
// 325 × 459 / 1000 = 149.2 kN
以前のツールが使っていた ABR490 M20 で長期176kN・短期264kN という値は、有効断面積245mm²で割り戻すと ft≒718N/mm² に相当し、基準強度325を倍以上超える。出所不詳の過大値として不採用にした。F値×有効断面積で計算すると、ABR490 M20は長期53kN前後・短期80kN前後に落ち着く。JISの規格値は日本産業標準調査会のJIS検索で確認できる。
ベースプレート厚 t=√(3·σc·s²/fb) の導き方
必要板厚は、支圧を受けたプレートの持出し部を「片持ち板」とみなして求める。柱面からプレート端までの持出し長さを s、そこに支圧 σc が一様に作用するとして、幅1mmの帯で曲げを考える。
柱面での曲げ M = σc·s·(s/2) = σc·s²/2 // 単位幅あたり
断面係数 Z = 1·t²/6 = t²/6
曲げ応力度 = M/Z = 3·σc·s² / t² ≤ fb
→ t = √(3·σc·s² / fb)
許容曲げ fb はSS400で長期 235/1.5・短期 235。持出し長さ s は max((Bp−柱幅)/2, (Lp−柱せい)/2) を採る。以前の実装は √(6·σc·s²/fb) を使っていたが、これは曲げモーメントの係数を二重に数えており、正解より約 √2 倍過大だった。本ツールは √(3·σc·s²/fb) に補正している。
計算例: ブレース引張発生ケースを手でたどる
ケース3(N=150kN、M=180kN·m、Lp=Bp=600mm、ABR490 M27×4本、dt=70mm、Fc30、短期)をステップで追う。
① 偏心距離 e = 1000·M/N = 1000×180/150 = 1200 mm
Lp/2 = 300 mm < e → 引張発生パターン
② モーメントアーム j = Lp − 2·dt = 600 − 140 = 460 mm
③ ボルト張力 T = (M·1000 − N·(Lp/2 − dt)) / j
= (180000 − 150×230) / 460
= 145500 / 460 = 316.3 kN
④ 1本許容 = ft×An/1000 = 325×459/1000 = 149.2 kN
1本張力 = T/本数 = 316.3/4 = 79.1 kN
ボルト検定比 = 79.1/149.2 = 0.53
必要本数 = ceil(316.3/149.2) = 3 本
⑤ 圧縮合力 C = N + T = 150 + 316.3 = 466.3 kN
圧縮域 = min(3·dt, Lp − dt) = min(210, 530) = 210 mm
σc = 2·C·1000/(Bp·圧縮域) = 2×466300/(600×210) = 7.40 N/mm²
許容支圧 = 2·Fc/3 = 20 → 支圧検定比 = 7.40/20 = 0.37
⑥ 持出し s = (600−350)/2 = 125 mm, fb(短期) = 235
t = √(3×7.40×125²/235) = 38.4 mm
総合検定比 = max(0.37, 0.53) = 0.53 → 満足
偏心距離から応力パターンを決め、モーメントアームでボルト張力を出し、そこから支圧・検定比・板厚へと一本道で流れていく。この順序がそのままツールの計算フローになっている。
他ツールとの違い — 柱脚まわりのどこを見るか
柱脚まわりの検討は「何を主役に置くか」でツールが分かれる。このツールの主役はあくまで軸力Nと曲げMを受ける柱脚系の全体で、偏心距離 e=M/N から応力パターンを判定し、支圧 → アンカーボルト張力 → 必要板厚までを一続きで検定する。個々の部材や破壊モードは、それぞれ専用ツールが受け持つ。
| ツール | 守備範囲 | このアプリとの関係 |
|---|---|---|
| 本アプリ | N+Mの露出柱脚を一貫検定(応力パターン→支圧→ボルト張力→板厚) | 柱脚系全体を見る入口 |
| /anchor-bolt | アンカーボルト単体の引抜き・せん断・コーン破壊 | 本アプリで出した張力Tを渡す先 |
| /section-weight | 鋼材断面の断面性能・重量 | 柱やプレート材の断面諸元を出す |
| /secondary-beam-selector | 小梁・母屋・胴縁の断面選定 | 二次部材の当たり付け |
| /beam-strength | 梁の曲げ応力度・たわみ・安全率 | 梁本体の詳細検定 |
| /bolt-failure | ボルトの引張・せん断・ねじ山破壊の3モード | 高力ボルト接合部の破断モード |
とくに混同されやすいのが /anchor-bolt との関係だ。あちらはアンカーボルト1本の引抜き耐力・せん断耐力・コンクリートのコーン破壊といった「ボルトとコンクリートの局所」を見る。本アプリはそこには踏み込まず、柱脚に作用するN・Mから引張側ボルトが受け持つ張力Tを算定するところまでが役割。だからブレース架構で T=316kN のような大きな引張が出たら、その値を持って /anchor-bolt に渡し、コーン破壊・定着長さ・せん断を別途確認する、というバトンの受け渡しになる。本アプリの検定比が緑でも、コンクリート側の破壊で決まることは珍しくない。役割分担を頭に入れておくと検討の抜けが減る。
豆知識 — 露出柱脚をめぐる小ネタ
ABR400・ABR490の「ABR」は何の略か
アンカーボルトの規格名 ABR400・ABR490 の「ABR」は Anchor Bolt Rolled、つまり転造ねじ加工の構造用アンカーボルトを指す(JIS B 1220)。末尾の数字は引張強さの下限で、ABR400なら400N/mm²、ABR490なら490N/mm²。設計に使う基準強度Fは F=min(降伏点, 0.7×引張強さ) で決まり、ABR400は235、ABR490は325N/mm²になる。0.7を掛ける「頭打ち」があるおかげで、引張強さがそのまま許容値に直結しない点がポイント。旧来のツールでABR490 M20の許容引張を176/264kNとしていた例があったが、これは ft≒718N/mm² 相当という過大な値で、Fの上限を無視していた疑いがある。本ツールが F×有効断面積÷1000 で長期50kN台に落ち着くのは、この頭打ちを正しく踏まえているからだ。
断面の「核(kern)」が中央1/3に収まる理由
全圧縮か浮き上がりかの境目 e≤Lp/6 は、断面の核(kern)と呼ばれる領域そのもの。長方形断面で縁応力がちょうどゼロになる条件 N/A=M/W を解くと e=W/A=(bh²/6)/(bh)=h/6 になり、圧縮側・引張側あわせて中央 h/3(=全体の1/3)の帯に合力が載っていれば全面が圧縮に保たれる。傘の柄を握る位置を中心から外していくと、ある点で傘の縁が浮き始めるのと同じ感覚だ。核の内側なら地面(コンクリート)は全面で押され、外れた瞬間に縁が浮いてアンカーボルトの出番になる。
露出柱脚が「半剛接」と呼ばれるわけ
露出柱脚はピン接合でも剛接合でもなく、その中間の回転剛性を持つ「半剛接」として扱われる。載荷するとアンカーボルトが伸び、圧縮側ではコンクリートが支圧でわずかにめり込むため、柱脚が少しだけ回転するからだ。この回転剛性を厳密に評価するのは難しく、実務では認定柱脚の資料や指針の式に頼ることが多い。本ツールは回転剛性には踏み込まず、力の釣り合いだけを扱う割り切った設計になっている。座金でプレート孔まわりの支圧を分散し、二重ナット(ダブルナット)で緩みを止めるのも、この引張を確実に伝えるための地味だが効く工夫だ。
Tips — 検定をもう一段詰める
- 曲げが小さいうちは支圧が主役:
e≤Lp/6の全圧縮域ではアンカーボルトに引張が出ず、検定は支圧で決まる。この帯にいる間はボルトは最小配置でよく、径や本数を盛っても検定比は動かない。まず応力パターンを見て、どちらが効いているかを掴むのが先だ。 - 引張が出たらモーメントアームjを意識する: 引張発生パターンの張力は
T=(M·1000−N·(Lp/2−dt))/j、j=Lp−2dtで決まる。縁端距離dtを大きく取りすぎるとjが縮んでTが跳ね上がる。必要な縁端距離は確保しつつ、プレート長さLpに対してdtを過大にしないバランスが効く。Tを下げたいならLpを伸ばすのが素直な一手。 - 板厚は柱面からの持出しsで効く: 必要板厚は
t=√(3·σc·s²/fb)で、持出し長さs=max((Bp−柱幅)/2, (Lp−柱せい)/2)に対して効く。支圧に余裕を持たせようとプレートを無駄に大きくすると、そのぶんsが伸びて板厚が厚くなる。プレートは大きければよいわけではない。 - せん断は摩擦頼みにしない: 底面摩擦耐力μN(μ=0.4)は目安のチェックに過ぎない。地震時のせん断はアンカーボルトで受けるのが基本で、Q入力で摩擦不足(shearOk=false)が出たら /anchor-bolt でせん断・支圧を確認する。
よくある質問(FAQ)
引張軸力(柱脚の浮き上がり)は計算できる?
できない。本ツールは圧縮軸力Nと曲げMを受ける露出柱脚を対象としており、軸力そのものが引張(浮き上がり)になるケースは適用範囲外だ。軸力欄は圧縮を正として0以上のみを受け付ける。N=0の純曲げまでは `e=∞` の引張発生パターンとして正常に扱えるので、曲げで引張側ボルトに力が出るケースはカバーしている。柱全体が引き抜かれる状況の検討は別の枠組みが必要になる。アンカーボルトのコーン破壊やせん断は考慮される?
されない。本ツールが算定するのはアンカーボルトの「引張」だけで、コンクリートのコーン破壊・付着(定着長さ)・ボルト単体のせん断は含まれない。ここは [/anchor-bolt](/anchor-bolt) の担当だ。本ツールで引張側ボルトの張力Tと1本あたり張力を出したら、その値を持って [/anchor-bolt](/anchor-bolt) に移り、コーン破壊・定着・せん断を確認するのが正しい使い方。検定比が緑でもコンクリート側で決まることがあるため、この確認は省略しないでほしい。露出柱脚の回転剛性(半剛接)は考慮される?
考慮しない。本ツールは力の釣り合いだけを扱い、柱脚の回転剛性による応力の再配分(半剛接としての挙動)は評価しない。ピン接合・固定端の中間としての剛性評価や、それを踏まえた架構全体の応力解析は対象外だ。回転剛性を織り込んだ設計が必要な場合は、認定柱脚の資料や構造計算プログラムで別途検討することになる。本ツールはあくまで柱脚単体の応力・断面の初期検討と検算に位置づけてほしい。アンカーボルトの許容引張が思ったより小さいのはなぜ?
基準強度Fに頭打ちがあるからだ。JIS B 1220のアンカーボルトは `F=min(降伏点, 0.7×引張強さ)` で、ABR490でも325N/mm²で頭打ちになる。長期許容引張は `ft=F/1.5`、短期は `ft=F` を有効断面積に掛けて求めるため、M24・ABR490の長期でも1本あたり76kN程度に収まる。市販の許容荷重表で見かける大きな値は、認定柱脚アセンブリとしての性能や別基準に基づくことがあり、汎用のボルト単体の許容とは前提が違う。数値の出所を必ず確かめてほしい。入力したデータはどこかに保存・送信される?
されない。計算はすべてブラウザ内(クライアントサイド)で完結し、入力した軸力・曲げ・寸法や検定結果がサーバーへ送信・保存されることは一切ない。ページをリロードすれば初期値に戻る。残しておきたい結果は「結果をコピー」ボタンでテキストとして控えておくといい。まとめ — 応力パターンから板厚まで一続きで
露出柱脚の設計は、偏心距離 e=M/N で応力の姿が全圧縮・部分圧縮・引張発生の3つに分かれ、そこからコンクリート支圧・アンカーボルト張力・必要ベースプレート厚が芋づる式に決まる。このツールはその流れを一画面で通し、総合検定比と必要本数・必要板厚まで一度に出す。引張側ボルトのコーン破壊・せん断・定着は /anchor-bolt へ、柱やプレート材の断面性能は /section-weight、二次部材の選定は /secondary-beam-selector、梁本体の応力度・たわみ検定は /beam-strength へと役割を分けているので、検討段階に合わせて使い分けてほしい。露出柱脚は執筆準備中の建築構造テーマ(続編)でも中核に据えているテーマだ。計算式や適用範囲への要望は お問い合わせページ から気軽にどうぞ。
Mahiro
Mahiro Appの開発者。露出柱脚は偏心距離ひとつで応力の姿が全圧縮・部分圧縮・引張発生と変わる。旧ツールのアンカーボルト許容引張値が過大だった反省から、JIS B 1220のF値×有効断面積で引き直したのが今回の肝だ。
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