鉄道高架の手すりが30年もつ理由は、たった100μmの亜鉛皮膜にある
通勤で使う駅、ほぼ毎朝触れる手すり。塩害が叩く沿岸の駅でも、銀色のままで赤さびを噴いている個体は意外と少ない。あれは塗装ではない。溶融亜鉛めっきという、鋼を浴に漬けて100μm前後の亜鉛膜をくっつけたものだ。たった100μm。コピー用紙より薄い金属層が、鋼鉄を30年守る。
ただ「亜鉛めっき」とひと括りにしても、現場で出てくる名前はバラバラだ。電気亜鉛、溶融亜鉛、ジンクリッチペイント、ダクロタイズド、ジオメット。図面に「HDZT55」と書かれていても、新人には何を意味するか分からない。付着量で書く図面と膜厚で書く図面が混在する。「770g/m²って何μm?」を電卓で叩く時間が、設計部の隠れたコストになっている。
このツールは、その換算と寿命予測を一発で済ませる。付着量↔膜厚の双方向変換、JIS H 8641:2021 の等級判定、ISO 9223 の腐食環境別寿命予測、そして「15年もたせたい」から逆引きで必要膜厚を出すモード。5方式の比較表も同じ画面で出る。
なぜ作ったのか
きっかけは、ある屋外鋼構造の見積で「電気亜鉛めっき 13μm」と図面に書かれていたことだ。屋外、しかも沿岸寄りの工場敷地。電気亜鉛13μmが何年もつかと聞かれ、即答できなかった。亜鉛協会の資料を引っ張ってきて、ISO 9223 の腐食速度表とにらめっこしながら「C3 で 1μm/年だから、13÷1×0.5≒6.5年」と弾いた。後日「C3 屋外なら溶融亜鉛 HDZT49 にすべきだった」と判断したが、その電卓作業が地味に痛かった。
加えて、JIS H 8641 が 2021 年に大改正されたのも頭が痛かった。亜鉛密度が長らく 7.14 g/cm³ で習った人間にとって、改正後の 7.2 g/cm³ は「770g/m²÷7.2=106.9μm」と暗算できなくなった節目だ。等級表記も HDZ35 系から HDZT35-77 へと文字数が増え、「HDZT70 は母材 12mm 以上ないと付かない」というディテールも増えた。これを毎回 PDF を開いて確認するのはしんどい。
そして決定打は、ジンクリッチ・ダクロタイズド・ジオメットの違いを問われたときだった。同じ「亜鉛系」でも防食メカニズムが微妙に違い、内部腐食速度の係数が異なる。営業マンの口頭説明とメーカーカタログを突き合わせても、横並びの寿命比較表はどこにも無かった。「自分が欲しいのは 5 方式の寿命を一画面で並べる比較ツールだ」と気付いた瞬間に作り始めた。
亜鉛めっきとは何か — 犠牲陽極と環境腐食速度の基礎
犠牲陽極作用:鉄より先に錆びる金属
亜鉛めっきの防食原理は塗装と本質的に違う。塗装は「水と酸素を物理的にブロックする壁」だが、亜鉛は犠牲陽極として「鉄より先に自分が錆びる」ことで母材を守る。亜鉛と鉄が同時に水に触れたとき、イオン化傾向の高い亜鉛が優先的に酸化される。母材の鉄は電子を受け取る側(陰極)に回り、結果的に錆びない。
これが何を意味するかというと、傷で母材が露出しても、周囲の亜鉛が「身代わり」として腐食を受け持つ。塗装は傷から錆が広がる(フィルム下腐食)が、亜鉛めっきは傷の周囲が白く粉を吹く程度で、鉄は露出したままでも長期間赤くならない。鉄道高架の手すりが多少すり減っても銀色のままなのは、この自己修復的な機能のおかげだ。
5 方式の根本的違い
「亜鉛系」は呼び方が紛らわしいが、製造法と被膜構造で 5 種類に分かれる。
電気亜鉛めっき 電解で亜鉛を析出。 3-25μm。屋内向け、寸法精度高い
溶融亜鉛めっき 鉄を 450℃ の溶融亜鉛浴に浸漬。 40-200μm。屋外定番
ジンクリッチ 亜鉛粉を樹脂に分散させた塗料。 40-80μm。重防食用
ダクロタイズド 亜鉛フレーク + クロム酸の焼付。 4-12μm。水素脆性無し
ジオメット ダクロタイズドの六価クロム除去版。 4-10μm。RoHS 対応
電気亜鉛と溶融亜鉛は「純亜鉛皮膜」だが膜厚が一桁違う。ジンクリッチは厳密にはめっきではなく塗料だが、亜鉛 80% 以上を含むので犠牲陽極作用は同じ。ダクロタイズド/ジオメットは亜鉛フレークが鱗のように重なる構造で、薄膜でも内部腐食が遅い特徴がある。
ISO 9223 環境分類と JIS の対応
腐食環境はISO 9223で C1〜CX の 6 段階に分類される。亜鉛の年間腐食速度はそれぞれ C1=0.05、C2=0.4、C3=1.0、C4=3.0、C5-M=6.0、CX=12.0 μm/年。屋内事務所が C1、屋内湿潤や屋外田園が C2、屋外工業が C3-C4、海岸飛沫帯が C5-M、極限環境(重海洋)が CX だ。同じ亜鉛 50μm でも、C1 なら 500 年、CX なら 4 年。この 100 倍以上の差が、設計判断を左右する。
JIS H 8641:2021 は溶融亜鉛めっきの等級規格で、HDZT35〜HDZT77 まで 6 段階。数字は最小付着量を 10 で割った値で、HDZT77=770g/m² の意味だ。一方 JIS H 8617 は電気亜鉛めっきの規格で、Ep-Fe/Zn 5/CM2 のような表記になる。両者は同じ亜鉛だが密度の使い分けに微妙な歴史があり、改正版では 7.2 g/cm³ で統一されている。
実務での重要性 — 早期破綻の代償
「めっき仕様の選定ミス」は致命的事故にこそ繋がりにくいが、メンテナンスコストとして 10 年単位で跳ね返る。海岸の鋼構造で電気亜鉛 13μm を使った例では、わずか 1-2 年で全面赤さびに至り、再塗装の足場代だけで初期工事費を超えた事例が報告されている。亜鉛協会の防食指針でも「飛沫帯(C5-M)には電気亜鉛は不適」と明記されている。
JIS H 8641 等級の読み間違いも頻発する。HDZT70 は最小付着量 700g/m²(97μm)だが、母材厚さ 12mm 未満では物理的にこの厚みが付かない。図面に「板厚 4.5mm、HDZT70 指定」と書くと、めっき業者は等級不適合の通知をせざるを得ない。発注側がこれを知らないと、「規格通り処理した」のに納入時に等級が下がっていて手戻りになる。
逆引き設計の重要性も無視できない。「30 年もたせたい」という要求から必要膜厚を逆算すると、C3 屋外田園では 60μm(HDZT49 相当)、C5-M 海岸では 180μm が必要という結論になる。180μm は単一のめっきとしては実用範囲外で、ジンクリッチ重防食塗装との併用が事実上必須だ。これをカタログ確認で気付くと、見積段階で防食仕様の方針転換ができる。
活躍する場面
M10 ボルトの調達仕様
機械組立で使う M10 強度区分 8.8 のボルト。屋外設置なら電気亜鉛では数年で白さび→赤さびに至るので、溶融亜鉛 HDZT35(35μm 相当)が標準選択になる。本ツールで 35μm/C3 を入力すれば「予想寿命 17.5 年」と出る。ボルト交換サイクルの根拠資料になる。
鋼製手すりの仕様確定
駅舎の屋外手すりで「30 年メンテナンスフリー」を要求された場合、C3 屋外で 60μm(HDZT49 相当)が必要。これを逆引きモードで一発確認できる。
駅舎・倉庫の鋼構造
C3 屋外工業環境で 30 年寿命を狙う駅舎屋根トラス。HDZT77(770g/m²、約 107μm)を指定すれば実用 53 年の余裕値が出る。母材厚さは梁主材なら 16mm 以上で問題なくクリア。
海洋ジャケット構造
C5-M 海岸飛沫帯で 15 年。180μm 必要、ジンクリッチペイント+トップコートの重防食しか実質選択肢が無いことが分かる。
自動車部品
エンジン周辺ボルト、足回り部品。ダクロタイズド/ジオメットの 8μm が定番で、水素脆性懸念のある高張力ボルトに採用される。RoHS 対応はジオメット必須。
基本の使い方
- 計算モードを選ぶ — 「5方式比較」「単一方式詳細」「寿命→膜厚逆引き」の 3 モード。最初は単一方式詳細でツールに慣れるとよい
- 方式と入力値を入れる — 5 方式から選択。膜厚 μm か付着量 g/m² のどちらかで入力。図面表記に合わせる
- 環境を選ぶ — ISO 9223 の C1〜CX。屋内事務所は C1、屋内湿潤・屋外田園は C2、屋外工業は C3-C4、海岸は C5-M、重海洋は CX
- 結果を読む — 単一モードでは付着量・膜厚・JIS 等級・予想寿命・前処理要件・失敗モードが表示される。比較モードでは 5 方式が並ぶ表が出る
- 逆引きを試す — 目標寿命 15 年などを入力すれば、必要膜厚と推奨方式が自動で出る
具体的な使用例
ケース1:駅舎構造 HDZT77 / C3 屋外田園
入力:mode=単一方式詳細、方式=溶融亜鉛、入力単位=付着量、値=770g/m²、環境=C3、母材厚=16mm。
結果:膜厚=770÷7.2=106.9 μm、JIS 等級=HDZT77、予想寿命=106.9÷(1.0×1.0)×0.5=53.5 年。
解釈:駅舎屋根トラスとして十分な余裕。母材 16mm で HDZT77(最低必要 16mm)も適合。実用 50 年クラスの安心仕様で、塗装併用は不要。
ケース2:電気亜鉛 8μm + 三価光沢クロメート / C2 屋内湿潤
入力:mode=単一方式詳細、方式=電気亜鉛、入力単位=膜厚、値=8μm、環境=C2、クロメート=光沢三価。
結果:付着量=8×7.2=57.6 g/m²、膜厚=8.0 μm、予想寿命=8÷(0.4×1.0/1.0)×0.5=10.0 年。
解釈:屋内倉庫の小ねじ用途として標準的。三価光沢クロメート(lifeFactor=1.0)込みで 10 年。これより長寿命を狙うなら有色三価(×1.5)か膜厚増、屋外なら溶融亜鉛への切り替えが必要。
ケース3:海岸 15 年逆引き / C5-M, hot-dip 基準
入力:mode=寿命→膜厚逆引き、方式=溶融亜鉛、環境=C5-M、目標寿命=15 年。
結果:必要膜厚=15×6.0×1.0÷0.5=180 μm、必要付着量=180×7.2=1296 g/m²。
解釈:1296g/m² は JIS H 8641 の最大等級 HDZT77(770g/m²)を大きく超える。単一の溶融亜鉛では達成困難で、ジンクリッチ重防食塗装との併用や、HDZT77 + エポキシ塗装オーバーコートの 2 層構成が現実解になる。
ケース4:屋外田園 30 年逆引き / C3, hot-dip 基準
入力:mode=寿命→膜厚逆引き、方式=溶融亜鉛、環境=C3、目標寿命=30 年。
結果:必要膜厚=30×1.0×1.0÷0.5=60 μm、必要付着量=432 g/m²。
解釈:432g/m² は HDZT49(490g/m²)相当でクリア。母材厚さ 5mm 以上あれば付く。30 年メンテナンスフリーが現実的に達成できる範囲で、駅舎・体育館・橋梁付帯部材の標準仕様として通用する。
ケース5:ジンクリッチ 60μm / C4 工業中度
入力:mode=単一方式詳細、方式=ジンクリッチ、入力単位=膜厚、値=60μm、環境=C4。
結果:付着量=60×7.2=432 g/m²、膜厚=60.0 μm、予想寿命=60÷(3.0×0.7)×0.5=14.3 年。
解釈:ジンクリッチは内部腐食係数 0.7 が効くため、純亜鉛 60μm より 1.4 倍長持ちする。C4 工業中度なら 14 年保つので、橋梁支承部や鋼管杭の被覆として使える。失敗モードは付着不良(delamination)なので、Sa2.5 ブラスト前処理が品質の鍵。
ケース6:ジオメット 8μm / C5-M 海岸
入力:mode=単一方式詳細、方式=ジオメット、入力単位=膜厚、値=8μm、環境=C5-M。
結果:付着量=8×7.2×0.5=28.8 g/m²、膜厚=8.0 μm、予想寿命=8÷(6.0×0.3)×0.5=2.2 年。
解釈:ジオメットは亜鉛フレーク+バインダーの複合被膜なので密度係数 0.5 を掛けて付着量を出す(純亜鉛 8μm の半分)。8μm の薄膜なのに海岸で 2 年もつのは、内部腐食係数 0.3(純亜鉛比 3 倍長持ち)の効果。それでも C5-M では実用に耐えない。自動車のエンジン周辺ボルトで使うのは飛沫が直接当たらない部位だからで、シャシーの直接曝露部には向かない。RoHS 必須でかつ海岸という条件なら、ジオメット+トップコート 2 層が現実解。
仕組み・アルゴリズム
付着量↔膜厚換算の根拠
JIS H 8641:2021 改正版で亜鉛密度は 7.2 g/cm³ に統一された。それ以前の 7.14 g/cm³ から微妙に上方修正されたのは、純度向上と測定法の精度改善による。換算式は次の通り。
mass [g/m²] = thickness [μm] × 7.2
thickness [μm] = mass [g/m²] ÷ 7.2
770g/m² を 7.2 で割れば 106.9μm、これが HDZT77 の実質膜厚になる。1μm=10⁻⁶ m、1 m² 当たり 10⁻⁶ m³ の体積に密度 7.2 g/cm³(=7.2×10⁶ g/m³)を掛けると 7.2 g、これを μm 単位に焼き直すと 7.2 g/m²/μm が出る。
ISO 9223 腐食速度の出典
ISO 9223:2012 大気腐食性分類では、亜鉛の年間腐食速度を環境クラスごとに中央値で規定している。
C1 (very low) : 0.05 μm/年 屋内事務所
C2 (low) : 0.4 μm/年 屋内湿潤、屋外田園
C3 (medium) : 1.0 μm/年 屋外工業、沿岸軽度
C4 (high) : 3.0 μm/年 屋外工業、沿岸中度
C5-M (very high) : 6.0 μm/年 海岸飛沫帯
CX (extreme) : 12.0 μm/年 重海洋・極限
実機ではこの 0.5 倍〜 2 倍の幅があるが、設計基準値として中央値を採用するのが国際慣行。
寿命予測式と 0.5 補正の根拠
理論寿命は単純に「膜厚÷腐食速度」だが、これは平面均一腐食を仮定した値。実構造物では端部・溶接ビード・水溜まり・補修部の局部腐食が支配的なので、実用寿命は理論値の半分程度に補正する。
function calculate(
mode: Mode,
process: Process,
thickness: number,
environment: Environment,
chromateType: ChromateType
): Result {
const PRACTICAL_FACTOR = 0.5;
const ZINC_DENSITY = 7.2; // g/cm³
const corrosionRate = CORROSION_RATE[environment]; // μm/年
const internalFactor = PROCESS_SPEC[process].internalCorrosionFactor;
const chromateFactor = process === "electro"
? CHROMATE_FACTOR[chromateType]
: 1.0;
const effectiveCorrosionRate =
corrosionRate * internalFactor / chromateFactor;
const expectedLife =
thickness / effectiveCorrosionRate * PRACTICAL_FACTOR;
return { expectedLife, /* ... */ };
}
5 方式比較の中央値選定
比較モードでは「もし同じ環境で実用範囲の中央値を使ったら何年もつか」を 5 方式並列で出す。電気亜鉛 14μm、溶融亜鉛 120μm、ジンクリッチ 60μm、ダクロタイズド 8μm、ジオメット 7μm の中央値で寿命を弾けば、コストと寿命のトレードオフを一目で比較できる。
計算例:HDZT77 / C3 屋外の寿命
入力: 膜厚 106.9 μm(=770/7.2)、環境 C3
ステップ1: 腐食速度 = 1.0 μm/年(ISO 9223 C3)
ステップ2: 内部係数 = 1.0(溶融亜鉛)
ステップ3: 実効腐食速度 = 1.0 × 1.0 = 1.0 μm/年
ステップ4: 理論寿命 = 106.9 ÷ 1.0 = 106.9 年
ステップ5: 実用寿命 = 106.9 × 0.5 = 53.5 年
53.5 年は「設計基準として 50 年想定で組める」という判断材料になる。実機ではこれより短い/長いケースが両方あるが、設計時の意思決定根拠としては十分な精度だ。
他ツールとの違い
亜鉛めっきの膜厚や寿命を調べたいとき、最初に当たるのは亜鉛協会の防食指針PDFやJIS H 8641:2021の規格本文だ。これらは情報源としては一級品だが、「自分のケースに当てはめて何μm必要か」を即座に出すには表をめくり続ける必要がある。さらに溶融亜鉛と電気亜鉛、ジンクリッチ、ダクロタイズド、ジオメットを横並びで比較した資料はメーカーのカタログに散在しており、付着量と膜厚の換算もメーカーごとに数値が微妙に違って戸惑う。
メーカーサイトの解説は自社製品の優位性を強調するため、相対比較として読み取りにくいのも実務での悩みだ。「ジオメットは長寿命」と書かれていても、ではC3屋外で何年なのか、HDZT55とどちらが先に破綻するのか、までは書いていない。
このツールは5方式を同じ ISO 9223 腐食速度・同じ 7.2g/cm³ 換算で並べ、JIS H 8641:2021の等級判定と母材厚さチェックを同時に行う。さらに /conversion-coating-selector で電気亜鉛のクロメート種別を絞り込み、/galvanic-corrosion で異種金属接触腐食の追加リスクを確認し、/paint-system-selector で塗装併用が必要な場合の塗装系を選定するという連携が可能だ。亜鉛めっきだけで完結する案件は実務では少なく、化成処理・電位差・塗装まで通しで判断できるツール群を意図して整備している。
豆知識
七色クロメートが消えた理由
電気亜鉛めっきといえば「七色クロメート(黄色がかった虹色)」を思い浮かべるベテラン技術者は多い。あの独特の干渉色は六価クロムを使ったクロメート処理で出ていた色だが、2003年以降のEU RoHS指令と自動車のELV指令で六価クロムが規制され、自動車部品から段階的に消えた。代替として登場したのが三価クロメートで、現在の有色クロメートは黄色〜淡い干渉色程度に留まる。古い図面に「七色クロメート指定」が残っていたら、ほぼ確実に三価クロメートへの読み替えが必要だ。
ジオメットという商標の由来
「ジオメット」は固有名詞でフランスのノフメタル社(NOF Metal Coatings)の商標だ。一般名詞ではないため、規格や仕様書には「亜鉛・アルミニウムフレーク系防錆コーティング」と書かれることもある。同種の処理にダクロタイズド(旧モートン社→現NOF)があり、こちらも商標。クロムフリー化が進んだ第3世代以降の製品はジオメット500/600と呼ばれ、自動車のシャシー部品やボルトで標準仕様化されている。
溶融亜鉛のFe-Zn合金層
溶融亜鉛めっき断面を顕微鏡で見ると、鉄母材から外側へ向かってΓ層(ガンマ)、δ₁層(デルタワン)、ζ層(ゼータ)、η層(イータ=純亜鉛)と段階的に組織が変化する。Γ層とδ₁層は鉄と亜鉛の合金で硬度が高く、外側のη層が柔らかい純亜鉛だ。この合金層が溶融亜鉛めっきの密着性と長寿命の根拠で、電気亜鉛めっきには存在しない。屋外で30年以上もつのは、表層η層が腐食しても下層のζ層・δ₁層が犠牲陽極として鉄を守り続けるからだ。
亜鉛の犠牲陽極作用
亜鉛が鉄を守るのは標準電極電位の差で説明できる。亜鉛は約-0.76V、鉄は約-0.44V。水分があると亜鉛が先に酸化されて電子を放出し、鉄は還元側に置かれて腐食しない。これが「犠牲陽極作用」あるいは「ガルバニック保護」と呼ばれる現象で、めっき表面に小さな傷がついても亜鉛が溶け出して傷の鉄部分を保護する。ただし亜鉛が消費されきれば保護は終わるため、膜厚が寿命を決める。詳しくは Wikipedia: Galvanization も参照。
Tips(防食設計の現場知)
- HDZT70は12mm板厚以上が必要: JIS H 8641:2021では等級ごとに必要母材厚さが定められている。HDZT70を取りたければ12mm、HDZT77は16mm以上の板厚が必要。3〜5mmの薄板にHDZT70を指定しても物理的に付かないため、図面で薄板にHDZT77を要求するのは規格違反だ。
- 電気亜鉛は屋外不適: 電気亜鉛めっきの実用膜厚は3〜25μm。C3屋外で寿命2〜10年程度が現実で、屋外で20年以上を求めるなら溶融亜鉛またはジンクリッチ重防食塗装に切り替えるのが筋。「コスト優先で電気亜鉛を屋外へ」は数年で再施工コストが膨らむ典型的な失敗パターン。
- ジオメットはネジ部寸法に注意: ダクロタイズド・ジオメットは焼付け工程で膜が硬化するため、ボルト・ナットの締結トルク係数や有効ねじ径に影響する。ネジ部の追加塗布はピッチ精度に直接効くので、JIS B 1051相当の締結試験データをメーカーから取得して設計する。
- 白さびは初期段階の腐食生成物: 白さびは亜鉛酸化物(ZnO)や塩基性炭酸亜鉛で、それ自体が次の腐食を遅らせる保護膜として機能する。赤さび(鉄酸化物)が出始めたら基地金属まで腐食が進行している証拠で、補修塗装かやり直しのタイミング。白さびを見つけて即不良判定するのは過剰反応。
- クロメート発色を見て三価/六価を区別: 現代の三価クロメートは光沢〜淡い黄色程度。鮮やかな虹色や深い黄金色が出ていたら六価の可能性を疑う。RoHS/ELV対象案件で六価が混入すると認証取消リスクがあるため、ロット受け入れ時に色見本との照合を欠かさないこと。
FAQ
白さびが出たら不良品として返品すべき?
返品判断は早計だ。白さびは亜鉛酸化物が主成分で、めっき面が大気と反応して生じる初期段階の腐食生成物。それ自体が次の腐食進行を緩やかにする保護皮膜として働く側面もある。判断基準は「赤さびが出ているか」「機能要件を満たすか」の2点で、赤さびが見えた時点で基地金属まで腐食が進行しているサイン。白さびのみで母材の腐食痕がなければ清掃・再塗装で対応できることが多い。納入直後の白さび発生は梱包内の結露・湿気が原因のことも多く、保管環境改善で再発防止可能。
電気亜鉛めっきと溶融亜鉛めっきは何が違う?
製法・膜厚・寿命のすべてが違う。電気亜鉛は電解液中で電気化学的に亜鉛を析出させる処理で、膜厚は3〜25μm、表面が滑らかで寸法精度を要する精密部品向き。屋内環境での寿命は数年〜十数年。一方、溶融亜鉛めっきは450℃前後の溶融亜鉛浴に浸漬して付着させる処理で、膜厚は40〜200μm、Fe-Zn合金層が形成されて密着性と長寿命を両立する。屋外で30〜50年もつ。ボルト・小物精密部品なら電気亜鉛、構造鋼材・手すり・屋外金物なら溶融亜鉛、というのが基本の住み分け。本ツールでは両方の寿命を同条件で比較できる。
クロメートの色(光沢・有色・黒)で耐食性は変わる?
変わる。一般的に有色クロメート(黄色味のある三価)が最も白さび発生を遅らせ、本ツールでも寿命倍率1.5を採用している。光沢クロメート(無色透明寄り)は1.0、黒クロメートは1.3、クロメート無しは0.7と、見た目の違いで実際の耐食性能差が出る。ただし三価有色クロメートと六価有色クロメートは耐食性に差があり、現代の三価有色は六価と比べて20〜30%劣るとされる。RoHS/ELV対応では三価しか選択できないため、屋外用途や長寿命要求では電気亜鉛にクロメートを重ねるよりも、溶融亜鉛やジンクリッチ重防食を最初から選ぶのが堅い。
七色クロメートが消えた理由は?
EU RoHS指令(2003年公布、2006年施行)と自動車ELV指令(2003年施行)で六価クロムが規制対象になったため。六価クロムは発がん性が指摘される物質で、めっき排水・廃材経由で環境放出されるリスクが大きい。自動車・家電・電子機器の輸出ではRoHS/ELV準拠が事実上の必須要件となり、国内サプライヤーも追随して三価クロメートへ全面移行した。古い図面で「七色クロメート」「ユニクロ六価」の指定が残っている場合、現代では受注できないか、三価への読み替えが必要。読み替え時は寿命倍率の差(六価有色1.8相当→三価有色1.5)を考慮した再評価をすること。
JIS H 8641:2021改正の主なポイントは?
2021年改正の最大の変更点は、付着量と膜厚の換算密度を 7.14g/cm³ から 7.2g/cm³ に統一したこと。これにより同じ付着量g/m²から計算した膜厚μmが微妙に変わる。HDZT55(550g/m²)の換算膜厚は旧版約77μm、新版約76.4μmで実害は小さいが、過去図面と新規図面の混在ロットでは整合性に注意。等級表記は HDZT35/49/55/63/70/77 の6段階に整理され、母材厚さ別の必要等級表も明確化された。本ツールは新版の7.2g/cm³基準で換算しており、旧図面の数値と微差が出る場合は改正前後の差分であることを覚えておくとよい。
ジンクリッチペイントは亜鉛めっきと何が違う?
ジンクリッチは塗料の中に金属亜鉛粉末を高濃度で配合した塗装系で、めっき(金属反応皮膜)ではない。亜鉛粉末同士が電気的に接続されている限り犠牲陽極として機能し、傷部の鉄を保護する。膜厚は40〜80μmが標準で、Sa2.5レベルの素地調整(ブラスト処理)が前提。利点は現場施工が可能で、巨大構造物(橋梁・タンク・プラント鋼構造)にも適用できること。欠点は塗膜剥離リスクと施工品質ばらつき。本ツールでは内部腐食係数を0.7として、同じ膜厚なら溶融亜鉛より約30%寿命が短くなる扱いだ。
まとめ
亜鉛めっきの方式選定は、膜厚・付着量・JIS等級・腐食環境・寿命要求の5次元を同時に判断する作業だ。本ツールは ISO 9223 と JIS H 8641:2021 を共通土台に据えて、5方式を即時比較できるようにした。電気亜鉛めっきを選んだら次は /conversion-coating-selector でクロメート種別を確定し、異種金属と接触する設計なら /galvanic-corrosion でガルバニック腐食リスクをチェック、長寿命が必要で単一めっきでは届かないケースは /paint-system-selector で塗装系を重ねる。防食設計はめっき単体で完結しない、というのが現場の実情。気付いたバグや改善要望は問い合わせフォームから気軽に送ってほしい。
Mahiro
Mahiro Appの開発者。JIS H 8641:2021改正後の7.2g/cm³換算と5方式の寿命比較を一画面でこなしたくて作ったツール。電気亜鉛13μmを屋外指定する図面に泣かされた経験から、逆引きモードを最初に入れた。
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