拘束度法 溶接残留応力推定

継手板厚・拘束長・入熱から拘束度RFと残留応力・角変形を推定

佐藤邦彦の拘束度法に基づき、溶接継手の残留応力比 σR/σy と角変形 θ を推定するツール。PWHT要否のラフ判定に。

シナリオプリセット

入力条件

推定結果

残留応力比 σR/σy12.4%σR = 40.1 MPa
低応力
σR / σy12.4%

拘束度 RF

6,592 N/mm/mm

角変形 θ

0.011°

推定残留応力 σR

40.1 MPa

母材降伏点 σy

325 MPa

本ツールは Satoh/Masubuchi の古典的拘束度式による定性評価ツールです。実際の残留応力は溶接条件・多層盛・PWHT・冷却速度に強く依存し、定量評価には FEM 熱弾塑性解析または X 線応力測定が必要です。学習・ラフスタディ用途でご利用ください。

不具合・ご要望はお気軽に@MahiroMemoまで

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溶接したら反った、割れた――その原因を数値で追えるか

溶接が終わった瞬間、じわりと鋼板が弓なりに反る。あるいは翌朝、ビード脇に一本の亀裂が走っている。溶接に携わったことがある人なら、一度は経験したことがあるはずだ。

変形や割れの原因は「残留応力」。溶接の入熱で局所的に膨張した金属が、周囲の拘束を受けたまま冷却・収縮するとき、引張の内部応力が閉じ込められる。この応力は目に見えず、非破壊検査でも直接測れないから厄介だ。

「いまの継手条件で、どの程度の残留応力が残るのか」をラフに見積もる手法として、佐藤邦彦らが提案した拘束度法がある。板厚・拘束長・ヤング率だけで拘束度 RF を算出し、そこから残留応力比 σR/σy を推定する。このツールは、その拘束度法の計算を1画面で完結させるシミュレーターだ。


なぜ作ったのか――論文の数式を「触れる」ものにしたかった

拘束度法の原典は1970年代の日本溶接学会論文で、佐藤邦彦・益田純一(Masubuchi)らの研究に遡る。式自体は RF = E × h / LσR/σy = 1 - exp(-RF/RF₀) の2本だけで、電卓でも計算できる。

ところが実際に手計算しようとすると、地味に面倒なことが多い。材料ごとにヤング率と降伏点を引っ張ってくる必要があるし、角変形の推定式も絡めると計算ステップが増える。論文PDFを開いて式を確認し、Excelに打ち込み、単位を揃えて……という作業を毎回やるのは現実的ではない。

既存のツールを探しても、拘束度法に特化したWebアプリはほぼ見当たらなかった。FEMソフトなら熱弾塑性解析で高精度な残留応力分布を得られるが、「板厚25mm・拘束長200mmだと残留応力はどのくらい?」という感覚的な問いに答えるには重すぎる。

だからこそ、材料を選んで板厚・拘束長・入熱を入れるだけで瞬時に結果が出るツールが欲しかった。論文の式を「読む」のではなく「触れる」ものにして、パラメータを動かしたときの挙動を体感できるようにしたかった。それがこのツールの出発点だ。


拘束度とは何か――溶接残留応力を決める「継手の硬さ」

拘束度 RF の定義と意味

溶接継手には、溶接線方向と直交方向に「動きにくさ」がある。板厚が厚ければ周囲の剛性が高く、薄ければ柔らかい。拘束長が短ければ変形の逃げ場がなく、長ければ応力が分散される。

この「継手がどれだけ変形を拘束するか」を定量化したのが拘束度 RF(Restraint Factor / Restraint Intensity)だ。佐藤邦彦(Satoh)が提唱した定義では:

RF = E × h / L

E : ヤング率 [MPa]
h : 板厚 [mm]
L : 拘束長(溶接線から拘束端までの距離)[mm]

単位は N/mm/mm(= MPa/mm)。たとえばヤング率 206,000 MPa の鋼で板厚 10mm・拘束長 500mm なら:

RF = 206000 × 10 / 500 = 4,120 N/mm/mm

直感的にいえば、RF は「溶接線の単位長さ・単位収縮あたりに発生する反力」を表す。値が大きいほど継手は「硬く」、溶接金属の自由な収縮を強く妨げる。

Satoh 式による残留応力比の推定

拘束度が分かれば、残留応力がどの程度まで蓄積されるかを推定できる。佐藤が提案した経験式は:

σR / σy = 1 - exp(-RF / RF₀)

σR : 残留応力 [MPa]
σy : 母材の降伏点 [MPa]
RF₀ : 臨界拘束度(鋼では約 50,000 N/mm/mm)

この式は、RF が十分大きくなると残留応力が降伏点に漸近するという物理的事実をよく表現している。RF が小さい(柔らかい継手)場合は σR/σy は低く抑えられ、RF が大きい(硬い継手)場合は降伏点の80%、90%と高くなっていく。

たとえるなら、ゴムバンドで両端を引っ張りながら冷ますようなものだ。ゴムが柔らかければ(RF が小さい)収縮に追随して応力は逃げるが、鋼のクランプで固定すれば(RF が大きい)収縮できない分だけ引張応力が溜まる。

角変形 θ の推定

残留応力と並んで問題になるのが角変形(Angular Distortion)だ。板の表裏で温度差が生じると、冷却後に板が「く」の字に折れ曲がる。渡辺・佐藤の簡易式は:

θ [rad] = 0.025 × Q / h²

Q : 溶接入熱 [kJ/mm]
h : 板厚 [mm]

入熱が大きいほど、板厚が薄いほど角変形は大きくなる。薄板に高入熱で溶接すると角変形が顕著になるのは、現場の経験とも一致する。

参考: 日本溶接協会 — 溶接用語解説Wikipedia — 残留応力(英語)


残留応力を見逃すと何が起きるか

低温割れ(遅れ割れ)のリスク

高張力鋼の溶接で最も怖いのが低温割れだ。残留応力・水素・硬化組織の3条件が揃うと、溶接後数時間から数日で割れが発生する。残留応力が降伏点に近いほど割れ感受性は跳ね上がる。

JIS Z 3158「y形溶接割れ試験」は、拘束度の異なる試験片で低温割れ感受性を評価する規格だ。ここでも拘束度が評価軸になっていることからわかるように、拘束度と残留応力の関係を把握しておくことは割れ防止の第一歩になる。

疲労寿命の低下

残留応力は疲労寿命にも直結する。引張残留応力が存在すると、繰返し荷重の平均応力が実質的に上昇し、疲労限度が低下する。国土交通省の「鋼道路橋の疲労設計指針」でも、溶接継手の疲労等級は残留応力の存在を前提に設定されている。

SM490 で拘束度 RF が 25,000 N/mm/mm を超えるケースでは、残留応力が降伏点の40%超に達する(後述のケース3参照)。この水準の引張残留応力が作用点付近に残っていれば、設計で想定した疲労寿命を大幅に下回る可能性がある。

PWHT(溶接後熱処理)の要否判断

圧力容器や原子力機器では、JIS B 8265 や ASME Section VIII に基づいて PWHT の要否を判断する。その判断基準のひとつが「残留応力の水準」だ。拘束度法で残留応力比 σR/σy が 0.8 を超えるような条件では、PWHT を省略すべきではない。

逆にいえば、拘束度法で残留応力が低いことを確認できれば、不必要な PWHT を避けてコストを削減できる。「やるべきか、やらなくていいか」の判断材料として、ラフな見積もりには十分な実用性がある。


こんな場面で拘束度法が活きる

  • 鉄骨仕口部の設計段階 — 柱梁接合部のダイアフラム溶接は高拘束になりやすい。板厚と拘束長を入力して、予熱温度の検討材料にできる
  • 造船ブロック組立 — 厚板の突合せ溶接が多い造船では、ブロックごとの拘束条件が異なる。入熱と板厚を変えながら角変形量を比較し、逆ひずみ量の見積もりに使える
  • 圧力容器の PWHT 検討 — 板厚が厚く拘束長が短い胴板の周継手は高拘束。残留応力比を確認して PWHT の要否を判断する初期スクリーニングに
  • 大学・高専の溶接工学演習 — 拘束度法の式を実際の数値で動かしながら、パラメータと結果の関係を体感する教材として

基本の使い方 — 3ステップで残留応力を推定

ステップ1: 母材を選ぶ

SM400・SM490・SS400・SUS304 から母材材質を選択する。ヤング率と降伏点が自動で設定される。

ステップ2: 継手条件を入力する

板厚 h [mm]、拘束長 L [mm]、溶接入熱 Q [kJ/mm] の3つを入力する。拘束長は溶接線から拘束端(リブ・補剛材・固定端など)までの距離を意味する。

ステップ3: 結果を確認する

拘束度 RF、残留応力比 σR/σy、推定残留応力 σR [MPa]、角変形 θ [°] が即座に表示される。残留応力比が高い場合は PWHT や予熱の検討を促す警告が出る。


具体的な使用例 — 条件を変えて比較する6ケース

ケース1: SM490 薄板・長い拘束長(低拘束)

項目
母材SM490(σy=325 MPa, E=206,000 MPa)
板厚 h10 mm
拘束長 L500 mm
入熱 Q1.5 kJ/mm

結果: RF = 4,120 N/mm/mm、σR/σy = 0.0791(7.9%)、σR = 25.71 MPa、θ = 0.0215°

拘束長が板厚の50倍と長く、継手は十分に柔らかい。残留応力は降伏点の8%未満で、PWHT は不要と判断できる水準だ。角変形も 0.02° とほぼ無視できる。

ケース2: SM490 厚板・長い拘束長(低拘束・厚板)

項目
母材SM490(σy=325 MPa, E=206,000 MPa)
板厚 h20 mm
拘束長 L1,000 mm
入熱 Q2.5 kJ/mm

結果: RF = 4,120 N/mm/mm、σR/σy = 0.0791(7.9%)、σR = 25.71 MPa、θ = 0.0090°

板厚が倍になっても、拘束長も倍になれば RF は同じ 4,120。残留応力も同一だ。一方、角変形は板厚の二乗に反比例するため、ケース1の半分以下に抑えられている。厚板化は角変形抑制に効果的であることがわかる。

ケース3: SM490 厚板・短い拘束長(高拘束)

項目
母材SM490(σy=325 MPa, E=206,000 MPa)
板厚 h25 mm
拘束長 L200 mm
入熱 Q3.0 kJ/mm

結果: RF = 25,750 N/mm/mm、σR/σy = 0.4025(40.3%)、σR = 130.81 MPa、θ = 0.0069°

拘束長が短いため RF が一気に 25,750 まで跳ね上がった。残留応力は降伏点の40%超。SM490 + 高拘束の組み合わせでは低温割れ感受性が高くなるため、予熱と入熱管理が必須の条件だ。ツールでも警告が表示される。

ケース4: SM400 中板・中拘束

項目
母材SM400(σy=235 MPa, E=206,000 MPa)
板厚 h12 mm
拘束長 L600 mm
入熱 Q1.0 kJ/mm

結果: RF = 4,120 N/mm/mm、σR/σy = 0.0791(7.9%)、σR = 18.59 MPa、θ = 0.0099°

RF はケース1・2と同じ 4,120 だが、降伏点が SM400 の 235 MPa であるため、推定残留応力は 18.59 MPa と低い。低強度鋼ほど残留応力の絶対値は小さくなる。低入熱のため角変形も 0.01° 未満で問題ない。

ケース5: SS400 中板・短拘束・中入熱

項目
母材SS400(σy=245 MPa, E=206,000 MPa)
板厚 h16 mm
拘束長 L300 mm
入熱 Q2.0 kJ/mm

結果: RF = 10,987 N/mm/mm、σR/σy = 0.1973(19.7%)、σR = 48.34 MPa、θ = 0.0112°

RF が 10,000 超。残留応力は降伏点の約20%で、直ちに問題にはならないが、疲労設計を行う部材であれば無視できない水準だ。拘束長を 600mm に伸ばせれば RF は半減し、残留応力比も大幅に低下する。

ケース6: SUS304 薄板・中拘束・低入熱

項目
母材SUS304(σy=205 MPa, E=193,000 MPa)
板厚 h6 mm
拘束長 L400 mm
入熱 Q0.8 kJ/mm

結果: RF = 2,895 N/mm/mm、σR/σy = 0.0562(5.6%)、σR = 11.53 MPa、θ = 0.0318°

SUS304 はヤング率が鋼より低い(193,000 MPa)ため、同じ板厚・拘束長でも RF が小さくなる。残留応力は降伏点の6%弱でごく低い。ただし薄板+入熱 0.8 kJ/mm の組み合わせで角変形が 0.032° とケース1-5より大きい点に注目。ステンレス薄板では残留応力よりも角変形が支配的な問題になることが多い。


仕組みとアルゴリズム — 拘束度法の理論背景

候補手法の比較

溶接残留応力を推定する手法は大きく3つある。

手法精度計算コスト入力の手軽さ
FEM 熱弾塑性解析数時間〜数日低(メッシュ・溶接条件詳細が必要)
固有ひずみ法中〜高数分〜数時間中(固有ひずみデータが必要)
拘束度法(Satoh式)低〜中即座高(板厚・拘束長・材料のみ)

FEM は最も高精度だが、モデル構築とメッシュ分割に専門知識と時間がかかる。固有ひずみ法は弾性 FEM の枠組みで残留応力を再現できるが、固有ひずみの入力データが必要だ。

拘束度法を採用した理由は明確で、「板厚・拘束長・材料の3パラメータだけで瞬時に結果が得られる」こと。設計初期段階での感度分析やスクリーニングに最適な手法だ。定量的な精度は FEM に劣るが、「この条件は危なそうか、大丈夫そうか」の判断には十分な実用性がある。

実装の計算フロー

本ツールの計算は以下の4ステップで実行される。

// 1. 材料テーブルから物性値を取得
const { E, yield: sigmaY } = materialTable[material];

// 2. 拘束度 RF を算出
const RF = E * h / L;

// 3. 残留応力比を Satoh 式で推定
const stressRatio = 1 - Math.exp(-RF / 50000);
const sigmaR = stressRatio * sigmaY;

// 4. 角変形を渡辺・佐藤式で推定
const thetaRad = 0.025 * Q / (h * h);
const thetaDeg = thetaRad * 180 / Math.PI;

ここで RF₀ = 50,000 N/mm/mm は鋼の突合せ継手に対する代表値として採用している。文献によっては 30,000〜80,000 の範囲で報告されており、継手形状(T継手、十字継手など)や溶接パス数で変動する。本ツールでは突合せ継手を想定し、佐藤の原典に近い 50,000 を固定値としている。

計算例: ステップバイステップ

SM490・板厚 25mm・拘束長 200mm・入熱 3.0 kJ/mm の場合:

Step 1: 物性値
  E = 206,000 MPa, σy = 325 MPa

Step 2: 拘束度
  RF = 206,000 × 25 / 200 = 25,750 N/mm/mm

Step 3: 残留応力
  σR/σy = 1 - exp(-25,750 / 50,000)
        = 1 - exp(-0.515)
        = 1 - 0.5975
        = 0.4025(40.3%)
  σR = 0.4025 × 325 = 130.81 MPa

Step 4: 角変形
  θ = 0.025 × 3.0 / (25²)
    = 0.075 / 625
    = 0.00012 rad
    = 0.00012 × 180/π
    = 0.0069°

RF が 25,750 と高いため、残留応力は降伏点の約40%。角変形は板厚が厚いため 0.007° とごく小さい。このケースでは変形よりも残留応力(低温割れリスク)が主たる懸念となる。

RF₀ の物理的意味

Satoh 式の 1 - exp(-RF/RF₀) は、拘束度が上がるにつれて残留応力が降伏点に飽和していく挙動をモデル化している。RF₀ は「残留応力が降伏点の約63%に達する拘束度」に相当する(1 - exp(-1) ≈ 0.632)。

RF₀ の値は溶接条件・継手形状に依存し、佐藤の実験データでは突合せ継手の鋼で 30,000〜80,000 の範囲が報告されている。本ツールでは中央値的な 50,000 を採用しているが、T継手や多パス溶接では異なる値が適切になる場合がある。

参考: 佐藤邦彦「溶接における拘束応力と割れ」溶接学会誌, Vol.40, No.2 (1971)Masubuchi, K. — Analysis of Welded Structures (Pergamon, 1980)

溶接残留応力の推定ツール、他にあるの?

残留応力を扱うツールは意外と少ない。大きく分けると3つのカテゴリがある。

FEM 熱弾塑性解析ソフト(Abaqus, SYSWELD, MSC Marc 等)。温度履歴から応力場を高精度に予測できるが、モデル構築とメッシュ設定に数日かかるのが普通。ライセンス費も年間数百万円規模で、ちょっと検討したい段階では重すぎる。

Excel 自作シート。拘束度式そのものは単純なので、個人でスプレッドシートを作っている技術者も多い。ただし材料テーブルの管理が属人化しやすく、別の人が使おうとすると前提条件が分からない。入熱の単位換算ミスも起きがち。

本ツール(拘束度法 溶接残留応力推定)。佐藤邦彦の拘束度式に絞り、母材選択・板厚・拘束長・入熱を入れるだけで RF、残留応力比、角変形が一発で出る。FEM ほどの精度は求めない代わりに、設計初期のラフスタディや教育用途で即使えるのが強み。さらに 溶接変形シミュレーター で変形量を深掘りしたり、溶接入熱計算ツール で入熱値を先に確定させてから本ツールに流す、といった連携が可能。同じサイト内で溶接設計のワークフローを一気通貫で回せる点が、単発の Excel シートにはない利点だ。


佐藤邦彦と拘束度研究の系譜

溶接残留応力の定量化に最も大きく貢献した研究者の一人が、東京大学の佐藤邦彦(Kunihiko Satoh)だ。1960 年代から 70 年代にかけて、溶接継手の拘束度と残留応力の関係を体系的に実験・理論化し、「拘束度法」という設計手法の基盤を築いた。彼の研究は MIT の益子知治(Koichi Masubuchi)との国際共同研究に発展し、造船・橋梁分野で世界的に引用されている。

拘束度 RF の概念がなぜ画期的だったかというと、複雑な溶接構造の応力状態をたった1つのスカラー量に圧縮した点にある。板厚 h とヤング率 E は材料で決まり、拘束長 L は継手設計で決まる。この3つの比 E×h/L だけで、残留応力が降伏点の何%まで達するかを見積もれる。実験データとの対応も良好で、RF₀(臨界拘束度)を材料ごとにフィッティングすれば、鋼種が変わっても同じ枠組みで議論できる。

参考: Koichi Masubuchi - Wikipedia

角変形の推定式 θ = k×Q/h² も、渡辺・佐藤らの実験式として知られている。入熱 Q が大きいほど、板厚 h が薄いほど角変形が増大するという直感に合致した形で、現場の品質管理でも広く使われている。この式は突合せ溶接の単層パスに対する近似だが、多層盛りでは各パスの角変形が蓄積するため、パス数を掛ける簡易拡張もある。

日本溶接協会(JWES)が発行する溶接技術者向けテキストにも、拘束度法は必ず登場する。溶接管理技師の試験範囲にも含まれており、現場技術者にとっては「知っていて当然」の基礎理論。ただし、論文の式を暗記しているだけで実際に数値を入れて計算したことがない、という人も多いのが実情だ。このツールは、そうした「理論は知っているけど手を動かしていない」層にこそ使ってほしい。


拘束度と残留応力を下げる実務テクニック

  • 拘束長 L を大きくとる -- 最も直接的な方法。仮付け間隔を広げる、治具の配置を工夫するなどして、溶接線方向の自由膨張を確保する。本ツールで L を変えてみると、RF がどれだけ下がるか一目瞭然。ただし、拘束長を広げすぎると溶接中のルートギャップ変動が大きくなるため、開先精度とのバランスが必要だ
  • 入熱を適正範囲に抑える -- 角変形 θ は入熱 Q に比例する。パス間温度管理と合わせて、1パスあたりの入熱を下げれば変形も抑えられる。溶接入熱計算ツール で電流・電圧・速度から入熱値を確認し、本ツールに持ち込むと効率的
  • PWHT(溶接後熱処理)の要否を早期判断する -- 本ツールで σR/σy が 0.8 を超える条件が出たら、PWHT を検討するタイミング。JIS B 8285(圧力容器の溶接後熱処理)では板厚に応じた PWHT 条件が規定されており、早い段階で把握しておけばスケジュールへの影響を最小化できる
  • 予熱で低温割れリスクを低減する -- 高拘束(RF > 20,000 N/mm/mm 程度)かつ高強度鋼(SM490 以上)の組み合わせでは、予熱温度の設定が重要になる。溶接冷却時間計算ツール で t8/5 冷却時間を確認し、硬化組織の生成を防ぐ
  • 溶接順序の最適化 -- 対称溶接やバックステップ法で残留応力の偏りを緩和できる。拘束度法だけでは溶接順序の効果を定量化できないが、溶接変形シミュレーター と併用すれば、変形量の比較で間接的に評価可能

よくある質問

RF₀ = 50,000 N/mm/mm という値はどこから来ている?

佐藤邦彦らの実験データから、一般構造用鋼(SM400 クラス)に対してフィッティングされた値だ。文献によっては 30,000〜80,000 の範囲で報告されており、鋼種・継手形式・溶接条件で変動する。本ツールでは汎用的な 50,000 を採用しているが、特定の鋼種で厳密に評価したい場合は、該当する論文の RF₀ 値と比較して補正してほしい。

多層盛り溶接にも使える?

本ツールの拘束度式は単層パスの突合せ溶接を前提としている。多層盛りの場合、各パスで拘束条件が変化し、先行パスの残留応力が後続パスで再分布するため、単純には適用できない。ただし、角変形についてはパス数を掛けた簡易推定が実務で使われることもある。多層盛りの詳細評価には FEM 熱弾塑性解析が必要だ。

T継手や隅肉溶接でも計算できる?

現時点では突合せ溶接を想定した拘束度式のみ実装している。T継手・十字継手では板の面外剛性が拘束度に大きく影響し、RF = E×h/L の単純式では過小評価になる可能性がある。将来的に T 継手向けの拘束度補正係数を追加する予定だが、現状では突合せ継手のラフスタディ用途に限定して使ってほしい。

入力データがサーバーに送信されることはある?

すべての計算はブラウザ内の JavaScript で完結しており、入力データがサーバーに送信されることは一切ない。板厚・拘束長・入熱といった設計パラメータは端末内で処理され、ページを閉じれば消える。社内の設計データを入力しても情報漏洩のリスクはない。

SUS304 で残留応力が特に問題になるのはなぜ?

SUS304(オーステナイト系ステンレス鋼)は一般構造用鋼に比べて熱膨張係数が約 1.5 倍、熱伝導率が約 1/3 と、溶接時の温度勾配が大きくなりやすい。その結果、同じ拘束条件でも残留応力が高くなる傾向がある。さらに SUS304 は応力腐食割れ(SCC)の感受性が高く、引張残留応力が SCC の駆動力になるため、残留応力の管理がより重要になる。


まとめ -- 拘束度法で溶接設計の初手を固める

拘束度法は、板厚・拘束長・入熱という3つのパラメータから溶接残留応力と角変形をすばやく見積もれる古典的かつ実用的な手法。FEM に進む前のスクリーニングや、PWHT 要否の初期判断に最適だ。

本ツールと合わせて、溶接変形シミュレーター で変形量の詳細検討、溶接入熱計算ツール で入熱値の確定、溶接冷却時間計算ツール で t8/5 の確認を行えば、溶接設計の初期検討を一気通貫でカバーできる。

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Mahiro

Mahiro Appの開発者。溶接割れの報告書を書くたびに、拘束度法の論文を引っ張り出していた元・品質管理担当

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