公差コストトレードオフ計算機

公差幅×加工法×材料×量産数から相対コスト指数と推奨工程を即時比較

💡 寸法・公差・材料・量産数を入れると、達成可能な加工法と相対コスト指数を即時比較。「この公差を緩めたら何%削減できるか」を1次判定できる。

シナリオプリセット

対象仕様

材料・量産

比較条件

コスト評価

推奨加工法仕上旋削コスト指数 2.78
IT7

加工順序

粗旋削 → 仕上旋削

推奨緩和公差

1段ゆるい工程で達成可

緩和時の削減率

現在比

公差半減時のコスト倍率

1.63 倍

現在比

単価予測(参考値)

2,428 円

材料×サイズ×指数

公差幅 vs コスト指数

0.03.06.09.012.00.010.1公差幅 (mm) ・対数軸コスト指数現在
ラップ仕上げ円筒研削仕上旋削

比較公差ごとの推奨工程

公差 (mm)IT推奨工程コスト指数
0.005IT2ラップ仕上げ11.05
0.013IT5円筒研削4.39
0.025IT7仕上旋削2.78
0.050IT8仕上旋削2.13
0.100IT10達成困難
0.200IT11達成困難

工程別 IT 等級・公差レンジ(寸法 50mm 換算 μm)

加工法IT 範囲公差レンジ μm
プレス打抜きIT9-IT11156.1 - 62.4
粗旋削IT9-IT11156.1 - 62.4
仕上旋削IT6-IT839.0 - 15.6
円筒研削IT4-IT615.6 - 7.8
ラップ仕上げIT1-IT35.5 - 2.5
JIS B 0401 IT等級と一般的な加工法のコスト比モデル(Trucks et al. 簡略化)に基づく参考値。実加工費は加工業者の設備・地域・受注量で大きく変動します。

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📘 機械設計・公差設計の参考書

関連ツール

「この公差、本当にIT7必要?」と現場で問われたとき

図面レビューで毎回つきまとう問いがある。「±0.013にしているけど、IT8(±0.020)に緩めても機能成立しないか?」「研削指定のままだと単価いくつになる?」「材料を鋼からアルミに振ったらコストはどう動く?」。設計者は機能要件を満たすために公差を絞り、購買はコストを見て呆然とする。両者の間に共通言語がない。

このツールは、その言語を3秒で渡すために作った。形体・寸法・公差幅・材料・量産数・要求表面粗さを入力するだけで、推奨加工法と相対コスト指数、そして「公差を一段緩めたら何%安くなるか」が即座に出る。粗旋削=コスト指数1.0 を基準にした正規化スコアなので、絶対金額の精度には依存しない。図面を見ながらの即決判断、相見積もり前の感覚校正、価格交渉の根拠づくり。どの場面でも 1 次判定として使える。

なぜ作ったのか

Webで「公差 コスト 関係」「精度 コスト トレードオフ」と検索すると、教科書的なグラフ(横軸IT等級、縦軸コスト)の画像は山ほど出てくる。だが入力可能な計算ツールは驚くほど少ない。設計サプリやMonotaRO、JIS解説サイトには「IT等級と達成可能加工法の対応表」があるが、コスト試算機能はない。海外の DFM ツール(aPriori, DFMPro)は商用で年額数百万円。中小設計事務所や個人設計者には手が届かない。

筆者自身、装置設計の初期検討で「公差 vs コスト」を Excel に手打ちしていた時期がある。(refTol/actualTol)^k のべき関数モデルを毎回コピペし、材料係数も自前テーブル。プロジェクトごとに数式が散らばり、ある日「あれ?このシートの k 値、本当に正しかった?」と不安になって全プロジェクトを見直す羽目になった。

そこで JIS B 0401 の IT 等級式をベースに、加工法ごとの達成 IT レンジ・材料係数・量産数補正・表面粗さ係数を統合したコスト指数モデルを実装した。入力 8 項目で、推奨工程と削減率と単価予測を 1 画面で出す。設計レビューの場で隣の人が見ている前で「じゃあ IT8 にしたら?」と即試せる。価格交渉でも「弊社の見積りでは公差を 0.025→0.05 にすれば 35% 削減見込み」と数字で言える。Excel 散乱からの解放、これが作った動機だ。

ドメイン基礎解説:IT等級と公差・コストの指数関係

IT等級 とは

IT 等級は ISO 286 / JIS B 0401 で定義される標準公差等級。IT01〜IT18 の段階で、数字が小さいほど厳しい公差になる。基準寸法に応じて公差幅が変わるのが特徴で、たとえば φ50 軸の場合は IT6 で 0.016mm、IT8 で 0.039mm、IT10 で 0.100mm。同じ IT 等級でも φ500 軸なら 5〜10 倍ゆるくなる。

公差幅 T は次の経験式で計算される(JIS B 0401-1 参照)。

i (μm) = 0.45 × ∛D + 0.001 × D
T (μm) = i × multiplier(IT)

// 主なmultiplier
// IT4=5, IT5=7, IT6=10, IT7=16, IT8=25, IT9=40, IT10=64, IT11=100

D は寸法区分の幾何平均(mm)。φ50 は寸法区分 30〜50mm に属し、D=√(30×50)≈38.7。これを式に入れると i ≈ 1.56μm、IT8 なら 1.56 × 25 ≈ 39μm(=0.039mm)となる。これが「IT8 軸は ±0.02」と覚えている根拠。

公差幅 と コスト の指数関係

加工コストは公差幅に対して指数関数的に増える。経験的には次のべき関数で近似できる。

costIndex = baseCost × (T_ref / T_target)^k × material_factor × surface_factor × batch_factor

k は加工法ごとの感度。粗旋削で k=1.5、円筒研削で k=2.5、ラップ仕上げで k=3.0 と、精密になるほど k が大きい。これは Trucks (1987) の DFM 研究や Bralla, Design for Manufacturability Handbook の経験式が源流で、JIS B 0401 と組み合わせて広く使われている。

なぜ指数になるか。公差を半分にするには切り込み回数が増え、切削速度を落とし、検査時間も増え、不良率も上がる。個々の要因が線形でも、それらが積になるとべき関数になる。たとえば公差を 0.025 → 0.013(半減)にする場合、円筒研削(k=2.5)では (0.025/0.013)^2.5 ≈ 5.4 倍 のコストになる。「半分にしたいだけなのに 5 倍」という直感に反する増加が現実だ。

加工法 と 達成可能IT等級

加工法ごとに達成可能 IT レンジが決まっている。粗旋削は IT9〜11、精密旋削は IT6〜8、円筒研削は IT4〜6、ラップ仕上げで IT1〜3。「公差 0.013mm が必要 → IT6 → 円筒研削以上の精密工程が必須」 と一意に決まる。逆に「IT9 で良い設計を IT6 図面で渡したら不要に研削工程が追加され、単価が 4〜6 倍に膨れる」という事故が起こる。

実務での重要性:過剰公差は量産単価を倍にする

機械設計で公差設計が雑だと、量産フェーズで何が起きるか。実例で見てみる。

ケース:装置内のφ20軸を IT5(±0.005) で図面化したが、本当はIT8(±0.020)で機能成立した。設計時点では「念のため」で IT5 にしていた。量産 1000 個の見積もりで判明した差は、IT5 → 円筒研削必須で単価 1200 円、IT8 → 精密旋削で単価 280 円。1000 個で 92 万円の差。年産 10000 個の量産品なら 920 万円/年。

この種の「念のため公差」が現場に多いのは、設計者がコスト関数を体感的に持っていないからだ。「IT5 と IT8、ちょっと違うだけでしょ」と思っている。実際は数倍〜10 倍。一方で機械屋の暗黙知では「研削は最後の手段」と言われ続けてきた。これを定量化したのがこのツールが提供する「コスト指数 vs 公差幅」のグラフだ。

JIS Z 8114(製図 - 公差表示方式)では「公差は機能上必要な精度に基づき決定する」と明記されている。設計者の責務として「機能に対する公差の妥当性を説明できること」が求められる。価格交渉や DR(Design Review)で「なぜこの公差なのか」を問われたとき、「IT8 まで緩めるとガタつきが 0.04mm 増えて摺動精度が落ちる」と機能根拠で答えられる設計者と、「いや念のため」と言ってしまう設計者では、量産単価が 2〜10 倍違う。設計品質の差ではなく、コスト関数を持っているかどうかの差。

特に樹脂材料は要注意。POM や ABS は加工後の冷却収縮・吸湿で公差が暴れる。図面で IT5 を指定しても、加工直後 OK でも検査時 NG という事故が頻発する。本ツールは樹脂×IT5 以下を「達成困難」として警告し、「材料変更検討」を促す設計になっている。

活躍する場面

1. 新規設計のコストレビュー — 概念設計が固まった段階で、主要部品を一通り入力してコスト指数を出す。IT 等級が必要以上に厳しい部品が浮かび上がり、設計段階で機能要件を再確認できる。

2. 既存図面の見直し — 量産化が決まった既存図面を 1 枚ずつ入力し、緩和余地を洗い出す。「20% 削減見込み」の部品が 10 点見つかれば、量産単価で大きなインパクト。

3. 価格交渉 — 加工業者からの見積りに「高い」と感じたとき、本ツールで相対コスト指数を算出し、「弊社モデルではIT緩和でこれくらいの削減が見込める」と数字を持って交渉する。

4. 教育研修・社内勉強会 — 若手設計者に「公差とコストの感覚」を持たせる教材として使う。「IT5 と IT8 でこんなに違うんだ」と数値で見せると、その後の図面の質が変わる。

基本の使い方

  1. 対象仕様を入力 — 形体(外径/内径/平面/段付き等)、寸法(mm)、現在の公差幅(mm)、要求表面粗さ Ra(μm)を入力。
  2. 材料と量産数を選ぶ — 材料(鋼/アルミ/ステンレス/鋳鉄/樹脂/真鍮/銅)、量産数(個)、比較基準工程(粗旋削など)を選択。
  3. 比較公差を入力して結果確認 — 比較したい公差幅をカンマ区切りで最大 8 値(例: 0.005,0.013,0.025,0.05,0.1)。推奨加工法・コスト指数・緩和時の削減率・公差半減時のコスト倍率・SVG グラフが即時に表示される。

具体的な使用例

ケース1: 旋削φ50軸 鋼 batch100 IT8(0.039mm)

入力: featureType=外径, size=50mm, tol=0.039mm, material=鋼, batch=100, Ra=1.6, 基準=粗旋削。 結果: 推奨=精密旋削、コスト指数 ≈ 1.0(粗旋削基準)。φ50 の IT8 は精密旋削の達成範囲(IT6〜8)に収まり、Ra1.6 も達成可能。量産 100 個の単価予測 ≈ 1300 円/個(材料係数 1.0、表面係数 1.0、量産割引 0.85 適用)。 解釈: 標準的な軸加工。これ以上緩めても工程は変わらないため大きな削減余地はない。逆に IT7 へ絞ると (39/25)^2 ≈ 2.4 倍 のコスト増。

ケース2: 研削φ20穴 鋼 batch1000 IT6(0.013mm) Ra0.4

入力: featureType=内径, size=20mm, tol=0.013mm, material=鋼, batch=1000, Ra=0.4, 基準=研削。 結果: 推奨=円筒研削、Ra0.4 と IT6 の組み合わせは研削必須。量産割引 0.75 適用。コスト指数 ≈ 4.5 × 1.0 × 1.5 × 0.75 ≈ 5.06、単価予測 ≈ 3000 円/個。 解釈: 高精度かつ大量。研削以外の選択肢がない。緩和提案は IT7(0.021mm)→ 内面リーマで 1.8 × 1.5 × 0.75 ≈ 2.0、約 60% 削減。「機能上 IT6 が本当に必要か」を再確認する価値が高い。

ケース3: 樹脂(POM) φ30 軸 IT4(0.006mm) — 達成困難

入力: featureType=外径, size=30mm, tol=0.006mm, material=樹脂, batch=100, Ra=0.8, 基準=精密旋削。 結果: 推奨=null(達成困難)、警告「樹脂材料で IT4 は加工後の冷却収縮・吸湿で維持困難」。 解釈: 樹脂の最高達成 IT は経験的に 5。IT4 を要求するなら金属材料(鋼/真鍮)への変更か、IT8 程度への公差緩和が必要。設計初期で見つけられれば手戻りなし。

ケース4: アルミA5052 平面 size=60 tol=0.04mm batch=10 Ra=3.2

入力: featureType=平面, size=60mm, tol=0.04mm, material=アルミ, batch=10, Ra=3.2, 基準=フライス。 結果: 推奨=精密フライス、コスト指数 ≈ 2.7 × 0.8 × 0.9 × 0.95 ≈ 1.85、単価予測 ≈ 880 円/個。 解釈: アルミは材料係数 0.8 で約 20% 安。試作レベルの 10 個でもフライスなら段取り影響が小さく、量産化したときの単価変動も穏やか。

ケース5: ステンレス SUS304 軸 size=30 tol=0.009mm IT5 batch=200 Ra=0.8

入力: featureType=外径, size=30mm, tol=0.009mm, material=ステンレス, batch=200, Ra=0.8, 基準=研削。 結果: 推奨=円筒研削、コスト指数 ≈ 4.5 × 1.5 × 1.2 × 0.85 ≈ 6.89、単価予測 ≈ 3700 円/個。 解釈: ステンレスは工具摩耗で材料係数 1.5、表面係数も Ra0.8 で 1.2。緩和提案は IT7(0.021mm)→ 精密旋削で 2.5 × 1.5 × 1.2 × 0.85 ≈ 3.83、約 45% 削減。「ステンレス × 高精度」は典型的な過剰スペック例。

ケース6: 銅軸 size=15 tol=0.05mm IT9 batch=50 Ra=3.2

入力: featureType=外径, size=15mm, tol=0.05mm, material=銅, batch=50, Ra=3.2, 基準=粗旋削。 結果: 推奨=粗旋削、コスト指数 ≈ 1.0 × 1.1 × 0.9 × 0.95 ≈ 0.94、単価予測 ≈ 220 円/個。 解釈: 公差幅が広く粗旋削で十分。銅の材料係数 1.1(軟らかいが粘りがある)でわずかに高くなるが、ほぼ基準レベル。これ以上の緩和は機能上意味なく、コスト最適化済みと判断できる。

ケース7: 鋳鉄FC250 軸受穴 size=80 tol=0.05mm IT8 batch=500

入力: featureType=内径, size=80mm, tol=0.05mm, material=鋳鉄, batch=500, Ra=1.6, 基準=精密旋削。 結果: 推奨=精密旋削 or リーマ、コスト指数 ≈ 2.5 × 0.9 × 1.0 × 0.85 ≈ 1.91、単価予測 ≈ 1900 円/個。 解釈: 鋳鉄は被削性が良く材料係数 0.9。φ80 と寸法が大きく IT8 の公差幅も広い(0.046mm @JIS)ため、リーマでも代替可能。コスト最適点に近い。

ケース8: 長尺軸(鋼 size=300 tol=0.1mm IT9 batch=20)

入力: featureType=外径, size=300mm, tol=0.1mm, material=鋼, batch=20, Ra=3.2, 基準=粗旋削。 結果: 推奨=粗旋削、コスト指数 ≈ 1.0 × 1.0 × 0.9 × 0.95 ≈ 0.86、単価予測 ≈ 7700 円/個(寸法係数大)。警告「大型加工は工程選択肢が変わります(横中ぐり盤等)」。 解釈: 単価指数自体は小さいが、絶対金額は寸法に比例して大きい。長尺軸は撓みで実加工精度が落ちやすく、IT9 でも芯押し台や振れ止めが必要になる。本ツールの数値は参考値、実機ベンチマーク必須。

仕組み・アルゴリズム

候補手法の比較:なぜべき関数モデルを採用したか

公差コスト関数のモデル化には複数のアプローチがある。

  1. 線形モデル cost = a × T + b:単純だが現実と合わない。公差を半分にしたコスト 2 倍にしかならず、実際の指数増加を再現できない。
  2. 指数モデル cost = a × exp(-b × T):べき関数より急峻すぎ、緩い公差側で発散しやすい。
  3. べき関数モデル cost = base × (T_ref/T_target)^kTrucks (1987) や Bralla の DFM 研究で経験的に最も実データと合うとされる。本ツールはこれを採用。

加工法ごとに k 値を変えることで「精密になるほど感度が高い」を表現できる。粗旋削 k=1.5 / 精密旋削 k=2.0 / 円筒研削 k=2.5 / ラップ k=3.0。

実装詳細:コスト指数の計算フロー

// 1. 寸法区分の幾何平均から i factor を算出(JIS B 0401)
const D_geom = Math.sqrt(sizeRange.min * sizeRange.max);
const i_um = 0.45 * Math.cbrt(D_geom) + 0.001 * D_geom;

// 2. 入力公差幅から必要 IT 等級を逆算
const targetIT = findMaxIT(tol_um, i_um, IT_MULTIPLIERS);

// 3. 必要 IT を達成可かつ Ra も達成可な工程を全列挙、最小コストの工程を推奨
const candidates = PROCESSES.filter(p =>
  p.itMin <= targetIT && targetIT <= p.itMax && p.raMin <= reqRa
);
const recommended = candidates.sort((a, b) => a.baseCost - b.baseCost)[0];

// 4. コスト指数の計算
const refTolForProcess = i_um * IT_MULTIPLIERS[recommended.itMax];
const tighteningFactor = Math.max(1, Math.pow(refTolForProcess / actualTol, recommended.k * 0.3));
const costIndex = recommended.baseCost * tighteningFactor * matFactor * surfFactor * batchAdjust;

計算例:φ50 軸 IT8 鋼 batch100 のステップ

  1. 寸法区分 30〜50mm の幾何平均 D_geom = √(30×50) ≈ 38.7mm
  2. i = 0.45 × ∛38.7 + 0.001 × 38.7 ≈ 0.45 × 3.38 + 0.0387 ≈ 1.56μm
  3. ユーザー公差 0.039mm = 39μm。IT8 multiplier=25 なので IT_tol = 1.56 × 25 ≈ 39μm。必要 IT = 8
  4. 精密旋削 (IT6〜8, baseCost=2.5, k=2.0) が達成可、Ra1.6 も達成可 → 推奨
  5. refTolForProcess = 1.56 × 25 = 39μm(IT8 上限)、actualTol = 39μm → tighteningFactor = max(1, (39/39)^0.6) = 1
  6. costIndex = 2.5 × 1.0 × 1.0 × 1.0 × 0.85 = 2.13

これが「精密旋削の単価指数 2.13」となる。粗旋削(IT9〜11)の達成範囲が IT8 をカバーしないため代替不可、円筒研削(IT4〜6)はオーバースペックでコスト指数 ≈ 5 と高くなる。

他ツールとの違い

「公差を入れたら相対コストが返る」というシンプルな問いに、Web で無料で答えてくれるツールはほぼ存在しない。市販の DFM ソフト(aPriori、Costimator、DFMA など)は同じ計算をしてくれるが、ライセンス料は年間数十万円〜数百万円。設計部門のごく一部にしか配られず、現場の若手や購買担当はアクセスできないのが実情だ。

一方、Web 上の解説記事は概念図(公差幅とコストの指数曲線)を載せて終わるものが大半。「IT7 は高い、IT9 は安い」と書いてあっても、自分の図面の数値を入れて何%変わるかは別途自分で計算しないといけない。本ツールは公差幅・加工法・材料・量産数を 1 画面に入れるだけで、コスト指数と緩和時の削減率が即座に出る。

Excel マクロや社内ツールで似たものを作っている設計者もいるが、IT 等級表(JIS B 0401)と加工法達成範囲表のメンテが面倒で更新が止まりがち。本ツールは IT 等級表を内蔵しており、寸法 φ20〜φ500 の補間まで自動で行う。SVG グラフで公差緩和の効果が視覚的に分かるのも、表だけの社内 Excel との差。

公差積み上げを精密に詰めたいときは /tolerance-stack、はめあい記号で公差を選ぶときは /jis-fit と組み合わせると、設計→公差→コストの 3 段階レビューが 5 分で回る。

豆知識・読み物

IT7 必要?IT8 で良くない?」の判断軸

設計者が一番悩むのは、はめあいや位置決めで「IT7 を指定すべきか、IT8 まで緩めて良いか」の判断だ。JIS B 0401 の解説書には「ベアリング軸は IT6、一般はめあいは IT7-8、固定軸は IT9」と書かれているが、ベアリングカタログを実際に読むと「軸は m6k6(IT6 相当)」と指定されており、IT7 でもクリアランスが大きすぎて NG なケースがある。逆にギヤや位置決めピンは「IT8 でもガタは μm オーダー」で十分機能するものも多い。

判断軸は 3 つ。①機能要件(はめあい、位置精度、シール性)、②コスト(本ツールで IT7IT8 の指数を比較)、③測定可能性IT6 以下はマイクロメータでは追えず、ノギスでは絶対不可)。IT8 で機能が成立し、コストが半分なら、迷わず IT8 を選ぶのがプロの判断だ。

量産規模の損益分岐点

「手作業仕上げ vs NC 加工」「精密旋削 vs 研削」の Crossover は、量産数に強く依存する。経験則では、ロット 10 個までは段取り時間が支配的で「手作業仕上げ+汎用旋盤」が安い。ロット 100 を超えると「NC 旋盤一発加工」が支配的に。ロット 1000 を超えると「専用治具+研削自動化」の方が安くなる。

本ツールの batchAdjust 係数(batch=1 で 1.5 倍、batch>=100 で 0.85 倍、batch>=1000 で 0.75 倍)はこの経験則を素朴に近似したもの。実際は治具費用の按分計算が必要なので、参考値として捉えてほしい。

Trucks の研究(1976)—公差コスト指数モデルの起源

「公差幅を半分にするとコストが 2^k 倍になる」という指数モデルは、1976 年に Trucks が論文で提示したのが最初だ。彼は加工法ごとに k=1.5〜3.0 という指数を実測値から導出し、これが今でも DFM の教科書に載っている。本ツールも k の値(粗旋削=1.5、研削=2.5、ラップ=3.0)はこの研究を素朴に踏襲している。元データは半世紀前なので絶対値は古いが、相対比較には今も使える指標だ。

Tips

  • 公差緩和の優先順位: クリティカル寸法(はめあい部、位置決め部)以外を先に緩める。図面に ±0.1 と書かれている穴ピッチが本当に ±0.1 必要か、設計者本人ですら覚えていないケースがほとんど。±0.3 で機能成立するなら、コスト指数は半分以下に。
  • 材料変更でのコスト削減: 精度要求が緩いなら、鋼(材料係数 1.0)からアルミ(0.8)や樹脂(0.7)に置換できる。ただし樹脂は IT5 以下の高精度公差では冷却収縮・吸湿で寸法維持が困難。本ツールも material=resin && tolerance<=0.013 で警告を出す。
  • 量産規模で工法切替: ロット 10 以下なら手仕上げ+汎用機、10〜100 で NC 加工、100〜1000 で専用治具、1000 超で自動化ライン。本ツールの単価予測(参考値)はこの分岐を反映している。
  • Ra と公差はセットで考える: Ra0.4 を選ぶと工程は研削に固定される。Ra1.6 で公差 ±0.005 を要求すると、工程矛盾で見積もり段階で弾かれる。本ツールは Ra と公差幅の組合せが特殊な場合に黄色警告を出す。
  • 「公差半減時のコスト倍率」を価格交渉に使う: 本ツールが算出する「公差を半分にしたら何倍になるか」の数値は、加工業者との価格交渉に直接使える。「この IT7IT8 に緩めれば 2 割下がるはず」と図面持ち込みで提案できる。

FAQ

本ツールのコスト指数は実加工費とどれくらい一致する? 相対比較(`IT7` と `IT8` の差は何倍か)は ±20% 程度の精度で実測と一致する。一方、絶対値(実際の単価が何円か)は加工業者の設備・地域・受注時期で 2〜5 倍の幅があり、本ツールの「単価予測」はあくまで参考値。価格交渉や設計レビューでは「相対指数で何倍か」を主に使い、絶対値は見積もり依頼で確定するのが正しい使い方だ。
材料係数(鋼=1.0、アルミ=0.8、ステンレス=1.5)の根拠は? 切削抵抗・工具寿命・切削速度の経験値を素朴に係数化したものだ。鋼を基準として、アルミは切削速度が 2 倍取れる代わりに材料費が高い → 工具寿命を加味して 0.8 倍。ステンレスは切削速度が遅く工具摩耗が早い → 1.5 倍。樹脂は加工は楽だが歪みやすく検査工数が増える → 0.7 倍。鋳鉄はバリ取りが必要で 0.9 倍。実機では工場の得意材料・在庫の関係でこの比率は変動するので、傾向値として参考にしてほしい。
量産数(batch)はコスト指数にどう影響する? 段取り時間と工具費の按分が変化する。本ツールでは `batch=1` で 1.5 倍(試作)、`batch=10〜99` で 0.95 倍、`batch=100〜999` で 0.85 倍、`batch>=1000` で 0.75 倍の補正を入れている。実際は治具費用の按分も加わるため、`batch=10000` 級の大量生産では専用治具で更に下げられる。本ツールは中ロット(10〜1000)を主なターゲットにしている。
IT 等級は公差幅でどう決まる? IT 等級は寸法と公差幅から `JIS B 0401` の表で一意に決まる。例えば `φ50` の場合、`IT6=±8μm`、`IT7=±12.5μm`、`IT8=±19.5μm`、`IT9=±31μm`。本ツールは寸法ごとに表を内蔵しており、入力した公差幅から該当 IT 等級を自動判定する。`φ50` 以外の寸法(`φ20` や `φ200`)は補間計算で対応している。詳細は [JIS B 0401 の標準数列](https://www.jisc.go.jp/) を参照。
入力した公差データはどこに保存される? 本ツールは入力値をブラウザのメモリ上でのみ計算し、サーバーに送信・保存しない。プリセット選択も含めてすべてクライアントサイドで完結する。リロードすれば入力は消えるし、図面情報や量産数といった営業秘密性のあるデータが外部に漏れる心配はない。社内図面の検討にも安心して使える。

まとめ

公差はコストに直結する。IT7IT8 に緩めるだけで 2〜3 割安くなることはザラで、設計段階で 1 分検討するだけの価値がある。本ツールは公差幅・加工法・材料・量産数を 1 画面で同時最適化し、相対コスト指数と緩和時の削減率を即時に返す。価格交渉や設計レビューの一次判定に活用してほしい。

公差設計の周辺ツールも合わせて使うと効果的だ。組立精度を確率的に詰めるなら /tolerance-stack、表面粗さの選定基準は /surface-roughness、はめあい記号の判定は /jis-fit、焼きばめ・冷やしばめの締代計算は /thermal-fit を参照。フィードバックや改善要望は お問い合わせ から気軽に送ってほしい。

M

Mahiro

Mahiro Appの開発者。装置設計の現場でIT7→IT8の緩和提案が量産単価35%減になった経験から、設計レビューの場で『この公差、本当にIT7必要?』を即時判定したくて作ったツールだ。

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