鋳造・鍛造抜き勾配計算機

砂型/ダイカスト/ロストワックス/型鍛造/自由鍛造の必要抜き勾配と寸法影響量・機械加工取り代をJIS B 0403基準で算出

砂型/ダイカスト/ロストワックス/型鍛造/自由鍛造の必要勾配と上面寸法・取り代を一発算出。5加工法を同条件で並列比較できるよ。

プリセット

計算結果

推奨抜き勾配2.0°
min 1.6° / max 3.0°
公差判定公差適合
Δ 3.49mm

抜き勾配後の上面寸法

96.51 mm

公差への影響量

3.49 mm

取り代(片側)

4.0 mm

最小許容勾配

1.6°

base × 0.8(経験則)

上限勾配

3.0°

推奨 × 1.5(浪費警告)

余分材料体積(概算)

0.3 cm³

正方断面換算

加工法別比較(同条件)

加工法必要勾配上面寸法 (mm)取り代 (mm)
砂型鋳造2.0°96.514.0
シェル鋳造1.5°97.382.5
ダイカスト0.5°99.131.0
ロストワックス0.5°99.130.5
型鍛造7.0°87.724.0

落とし穴・注意点

  • 鋳鉄は脆性があるため複雑なリブ・薄肉部の鋳放しは亀裂注意。標準勾配で離型OK

参考規格: JIS B 0403:1995 鋳造品の寸法公差及び削り代

※ 本ツールはJIS B 0403:1995 / JIS B 0405-1991 をベースとした参考値。実際の鋳鍛造設計は型抜き方向・離型挙動・冷却収縮を含む総合判断が必要なので、鋳造業者・鍛造業者の標準仕様も併せて確認してね。

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関連ツール

鋳造設計で「型から抜けない」を防ぐ最初の一手

「図面は完璧、寸法も公差も詰めた。なのに鋳造屋から『これ抜けないですよ』と電話がかかってきた」——鋳造・鍛造の設計現場で何度も繰り返されてきた失敗だ。原因のほとんどは抜き勾配(ドラフト角)の見落とし。型から製品を引き抜くために必須の角度を、CADの数値ベースだけで進めると簡単に忘れる。

このツールは、加工法(砂型・ダイカスト・ロストワックス・型鍛造・自由鍛造)と形状(高さ・底辺・形体種別)を入れるだけで、JIS B 0403基準の推奨勾配・上面寸法・公差影響量・機械加工取り代を一気に出す。「砂型FCの100×50は何度必要?」「ダイカストにシボを付けると何度足す?」という現場の問いに、5秒で答えるための計算機だ。

なぜ作ったのか

最初に困ったのは、鋳造案件を初めて担当したときだった。射出成形向けの抜き勾配ツールはWebに転がっているのに、鋳造・鍛造に特化したものが驚くほど少ない。射出成形の標準は0.5〜1°、ところが砂型鋳造は外形でも2〜3°、内形だと5°必要——この桁が違う前提を、樹脂向けツールは教えてくれない。

社内には「過去図面のEXCELメモ」があった。けれど形体ごとに高さレンジが違い、誰かが書き換えると壊れる。JIS B 0403:1995の規格本体は手元にあるが、引いて、補間して、tan計算して、加工取り代を別表で確認して……毎回30分かかる。新人にはなおさら厳しい。

「鋳造・鍛造専用」「JIS B 0403の階段型テーブルを内蔵」「上面寸法と公差を同時に出す」「シボや精密仕上げの補正もワンクリック」——この4点を満たすツールを自分で作ろうと決めた。射出成形ツールでは抜けない悩みを、設計初学者でも5秒で解けるようにしたかった。

副次的な狙いとして、tolerance-cost-tradeoffsurface-roughness といった自社の公差・表面性状ツールと連動させ、「鋳造設計→公差検討→表面性状」の一気通貫フローを作ることもある。鋳鍛造の入口で躓かないことが、後工程のコストにも効いてくる。

抜き勾配 とは何か

型から抜くために型壁面に付ける角度

抜き勾配(draft angle、ドラフト角)とは、鋳造・鍛造・射出成形などで型から製品を引き抜くときに、型壁面に付ける微小な角度のことだ。図にすると、製品の側面が垂直ではなく、抜き方向に向かってわずかに広がる(or 狭まる)形状になっている。詳しくは Wikipedia: Draft (engineering) も参照。

たとえばコップを土に押し込んで型を取り、その型に石膏を流し込むことを想像してほしい。コップの側面が完全に垂直だと、固まった石膏は型から抜けない。コップが上に向かってわずかに広がる円錐形なら、するっと抜ける。これが抜き勾配の本質だ。

JIS B 0403:1995 の規定値構造

日本の鋳造設計では JIS B 0403:1995「鋳造品 寸法公差及び削り代方式」 が事実上の標準となっている。この規格は加工法・形体種別(外形・内形)・高さレンジごとに推奨勾配を階段型テーブルで規定している。例えば砂型鋳造の外形なら以下のような構造だ。

高さ < 25mm        → 3°
25mm ≦ 高さ < 100mm → 2°
100mm ≦ 高さ        → 1°

高さが大きくなるほど勾配は小さくて済む。これは抜き距離が長いほど、わずかな角度でも先端で大きな逃げ寸法が確保できるためだ。逆に内形(凹形状)は同じ条件で外形の1.5〜2倍の勾配が必要となる。鋳造の凝固収縮で材料が型に食い込むため、抜き出し時の摩擦が大きくなるからだ。

鋳造と鍛造で勾配の大小が逆転する

直感に反するが、鋳造(凝固収縮)より鍛造(塑性変形)のほうが大きな勾配が必要になる。砂型鋳造の外形が2〜3°、ダイカストが0.5〜1°、ロストワックス精密鋳造が0.5°という小さい値なのに対し、型鍛造は5〜7°、自由鍛造は10°もの勾配が必要だ。

理由は離型時の摩擦と材料挙動の差にある。鋳造は凝固後に冷えて型から離れるが、鍛造は熱間で塑性変形させた直後に型から抜く。材料は型壁にぴたりと密着しており、離型剤(鍛造油)でも完全には逃げない。さらに自由鍛造では型の精度自体が低く、安全側に大きな勾配を取る慣習となっている。

上面寸法の幾何

抜き勾配を付けると、底辺寸法 base に対して上面寸法 top は次の式で決まる。

top = base - 2 × height × tan(angle)

底辺と上面で2箇所ずつ削るため 2 × height × tan(angle) の引き算となる。recommendedAngle が大きいほど、また height が大きいほど、上面寸法の縮みは急激に大きくなる。たとえば100mm幅×50mm高で2°なら上面96.51mm(縮み3.49mm)だが、自由鍛造の10°だと一気に20mm近く縮む。この差を体感的に掴むのが、設計力の第一歩だ。

実務での重要性

勾配不足が引き起こす型損傷と歩留まり低下

抜き勾配が不足したまま試作を進めると、最初に困るのは型抜き工程だ。砂型なら型壁が崩れて鋳型が破損する。金型(ダイカスト・型鍛造)ならイジェクターピンで強引に押し出した結果、製品にイジェクトマークが残るか、最悪の場合、型のキャビティ面に擦り傷がつき、その型は廃却となる。ダイカスト金型は1セット数百万円〜数千万円——勾配の0.5°ケチって金型が傷つけば、即座に大損害となる。

機械加工取り代の見落とし

抜き勾配は寸法精度にも直接影響する。底辺と上面で寸法が違うため、最終的に「上面側の寸法が小さすぎて公差を満たせない」事態が起きる。これを救うのが機械加工取り代だ。JIS B 0403は加工法・サイズごとに片側0.3〜10mmの取り代を推奨している。砂型鋳造の中サイズなら片側4mm——両側で8mm材料が増える。これを織り込まずに鋳造寸法を決めると、後工程で「加工しろが足りない」「取り代を増やすために鋳造寸法を作り直し」という出戻りが発生する。

規格・法令の引用

JIS B 0403:1995は「鋳造品 寸法公差及び削り代方式」、JIS B 0405-1991は「普通公差—個々に公差の指示がない長さ寸法及び角度寸法に対する公差」を規定している。図面に「鋳造公差はJIS B 0403 CT12」「機械加工はJIS B 0405 m級」と明記することで、鋳造業者・加工業者と認識を揃えられる。これを書かない図面は、業者によって解釈がブレて、納品物の精度がガチャになる。

数値感覚を磨く

砂型鋳造で外形100mm・高さ50mmなら2°が標準、つまり片側1.75mm(=50×tan2°)の縮み。これを「3.5mm太く設計しておけば原寸が出る」と即座に変換できるかどうかが、鋳造設計の経験値となる。本ツールはこの変換を自動化することで、新人でも経験者と同じスピードで設計できるようにしている。

活躍する場面

シーン1: 鋳造初回起こし 砂型鋳造で新規部品の図面を起こすとき。加工法と形状を入れて推奨勾配・上面寸法を即確認、CADモデルにそのまま反映する。

シーン2: 鍛造試作の事前検討 型鍛造でサンプル試作を発注する前。「自社のS45C 80×60なら7°必要、上面が15mm近く縮む」と分かっていれば、寸法配分の検討時間を1/5に短縮できる。

シーン3: 量産化検討(加工法比較) 「砂型→ダイカストに変更したらコストはどう変わる?」というDFM検討。本ツールは5加工法を横並び比較できるため、勾配・取り代・余分材料体積から加工法選定の判断材料を即座に得られる。

シーン4: 教育研修・新人OJT 鋳造・鍛造の教科書は分厚いが、現場で必要なのは「いまの形状の必要勾配」だけ。新人に渡せば、JIS規格を引いて補間する作業を自動化できる。Kindle読者からの「規格本を読み解く前にツールで感覚をつかみたい」というニーズにも応える。

基本の使い方

  1. 加工法を選ぶ — 砂型/シェル/ダイカスト/ロストワックス/型鍛造/自由鍛造から該当を選択。プリセットには5シナリオ(砂型FC100×50、ダイカストADC50×30、型鍛造S45C80×60、自由鍛造SUS304大型、ロストワックス精密)を用意してある。
  2. 形状寸法を入力 — 抜き方向の高さ・底辺寸法・形体種別(外形/内形/穴/リブ/ボス)を入力。形体種別で内形を選ぶと、外形の1.5〜2倍の勾配が自動適用される。
  3. 材料・仕上げ・公差を入力 — 材料・表面仕上げ(普通/精密/シボ)・要求側面公差・機械加工後仕上げの有無を選択。シボを選ぶと自動で +1.5° 追加される。

結果欄では推奨勾配・上面寸法・公差影響量・機械加工取り代・余分材料体積・公差整合判定(pass/fail)・加工法別比較が一覧で出る。コピーボタンで図面メモにそのまま貼れる形式だ。

具体的な使用例

ケース1: 砂型鋳造 普通鋳鉄FC 100×50 外形

底辺100mm×高さ50mmの普通鋳鉄部品。砂型鋳造の外形で高さ25〜100mmレンジに該当するため、推奨勾配は2°。上面寸法は 100 - 2 × 50 × tan(2°) = 96.51mm、つまり片側1.75mmずつ縮む。要求側面公差5mmに対し公差影響量3.49mmなので適合。機械加工取り代は片側4mm(中サイズ)を推奨。教科書の例題そのもののケースで、設計判断の起点として使いやすい。

ケース2: ダイカスト ADC12 50×30 外形

ダイカストアルミADC12の小型部品。底辺50mm×高さ30mm、ダイカストの外形高さ50mm未満区分で推奨1°。上面寸法は 50 - 2 × 30 × tan(1°) = 48.95mm で縮みは1.05mm。要求公差1.5mmに対し適合判定。ダイカストは砂型に比べて勾配が1/2〜1/3で済むうえ、機械加工取り代も0.5mm程度——量産化の決め手になる加工法だ。鋳放しでも公差を満たせるのが最大の利点。

ケース3: 型鍛造 S45C 80×60 外形

S45C鋼の型鍛造部品。底辺80mm×高さ60mm、型鍛造外形の高さ50mm以上区分で**推奨7°**となる。上面寸法は 80 - 2 × 60 × tan(7°) = 65.27mm、縮みは14.73mm。鋳造のケース1(縮み3.49mm)の4倍以上だ。要求側面公差8mmは大幅にオーバーするため、機械加工取り代を片側4mm程度確保する前提となる。鍛造設計初心者が最も驚く「鍛造は勾配がデカい」を実感する典型ケース。

ケース4: ロストワックス精密 SCS 30×20 外形

ステンレス鋳鋼SCS材のロストワックス(精密鋳造)。底辺30mm×高さ20mmの小物精密形状。ロストワックスは高さによらず一律0.5°、表面仕上げも「精密」のため追加角度なし。上面寸法は 30 - 2 × 20 × tan(0.5°) = 29.65mm、縮みは0.35mm。要求公差0.5mmに対し適合し、鋳放しのままでもOK。コスト高(材料費・工程数)と引き換えに、機械加工レスで部品を仕上げられるのがロストワックスの強みだ。

ケース5: 自由鍛造 SUS304 大型 120×80 外形

自由鍛造のSUS304ステンレス大型部品、底辺120mm×高さ80mm。自由鍛造は高さによらず一律10°——上面寸法は 120 - 2 × 80 × tan(10°) = 91.79mm、縮みは28.21mm。120mmの底辺が91.79mmまで縮むため、機械加工で削る量が片側14mm以上必要となる。材料歩留まりは70%程度に落ち、加工費も嵩む。本ツールは「型鍛造への変更を検討せよ」という警告を自動で出す。試作1個ならともかく、量産では型鍛造へ移すべきだと数値で示してくれる。

ケース6: 砂型鋳造 シボ加工 H=80/base=200 外形

意匠面にシボを付けた砂型鋳造部品。底辺200mm×高さ80mm、砂型外形で高さ25〜100mmレンジは基本2°だが、シボ加工で離型抵抗が増えるため +1.5° 追加して合計3.5°。上面寸法は 200 - 2 × 80 × tan(3.5°) = 200 - 9.79 = 190.21mm、縮みは9.79mm。シボの深さに応じて 0.5〜2° の幅で調整するのが現場の慣習で、深いシボ(梨地・革目模様)なら +2° 寄り、浅いシボ(マット仕上げ)なら +0.5° で運用する。意匠と離型性のバランスを数値で確認できる珍しいケースだ。

仕組み・アルゴリズム

候補手法の比較

抜き勾配の決定方式には3パターンある。(A) 業者標準テーブル(鋳造業者ごとの社内基準を使う)、(B) JIS B 0403規定値(規格値を機械的に当てはめる)、(C) 経験則ベース(設計者の勘)。本ツールは (B) JIS B 0403規定値を採用した。

理由は3つ。第一に、業者標準は業者依存で再現性がない。第二に、経験則は新人に教えにくく属人化する。第三に、JIS規格は改訂頻度が低く(1995年版が現行)、業界横断で通じる共通言語となる。なお高度な設計では業者標準も併用するため、本ツールは「JIS基準値+手動調整」の運用を想定している。

階段型テーブルの実装

JIS B 0403は加工法 × 形体種別 × 高さバケットで規定値が異なる。これをルックアップテーブルで実装した。

const draftAngleByProcessAndHeight = {
  "sand-casting__external__lt25":  3,
  "sand-casting__external__lt100": 2,
  "sand-casting__external__ge100": 1,
  "sand-casting__internal__lt25":  5,
  // ...
  "die-forging__external__lt50":   5,
  "die-forging__external__ge50":   7,
  "open-forging__external__any":  10,
};

function heightBucket(h: number, process: string): string {
  if (process === "sand-casting" || process === "shell-casting") {
    if (h < 25) return "lt25";
    if (h < 100) return "lt100";
    return "ge100";
  }
  if (process === "die-casting" || process === "die-forging") {
    return h < 50 ? "lt50" : "ge50";
  }
  return "any";
}

const key = `${process}__${normalizedFeatureType}__${heightBucket(h, process)}`;
const baseAngle = draftAngleByProcessAndHeight[key];

形体種別の holeinternal に正規化し、rib/boss/thin-tallexternal に正規化する。テーブルは加工法×外形/内形の最小バリエーションで保つことで、メンテ性を確保している。

シボ・精密補正と上面寸法

表面仕上げによる追加勾配は単純な加算で表現する。

const textureAddDeg = { normal: 0, precision: 0, textured: 1.5 };
const recommendedAngle = baseAngle + textureAddDeg[surfaceCondition];
const topDimension = baseDimension - 2 * height * Math.tan(recommendedAngle * Math.PI / 180);
const dimensionalDeviation = baseDimension - topDimension;

tan の引数はラジアンに変換する点に注意。最小許容勾配は経験式 baseAngle × 0.8、上限勾配は recommendedAngle × 1.5 と定義し、設計余裕の幅を提示する。

計算例(砂型鋳造 外形 100×50)

具体的な数値で追ってみる。

入力: process=sand-casting, featureType=external,
     height=50mm, base=100mm, surface=normal

ステップ1: heightBucket(50) = "lt100"  (25 ≦ 50 < 100)
ステップ2: key = "sand-casting__external__lt100"
ステップ3: baseAngle = 2°
ステップ4: textureAdd = 0
ステップ5: recommendedAngle = 2 + 0 = 2°
ステップ6: top = 100 - 2 × 50 × tan(2°)
              = 100 - 100 × 0.034921
              = 100 - 3.4921
              = 96.5079... → 96.51 (fixed(2))
ステップ7: deviation = 100 - 96.51 = 3.49
ステップ8: 公差5mm vs deviation 3.49 → pass

7ステップで答えが出る。各ステップは独立した規則なので、新人にも論理を説明しやすい。テーブルのキー命名 process__feature__bucket も、デバッグ時に「どのキーが引けなかったか」を即特定できる構造にしている。

他ツールとの違い

抜き勾配を計算してくれるWebツールは、実は世の中に存在する。代表格が射出成形分野の seihin-sekkei.com 系の計算機で、樹脂部品の設計者向けにドラフト角と上面寸法を出してくれる。便利なのだが、鋳造・鍛造の現場で使うと違和感があった。

第一に、プリセットがほぼ樹脂材料に偏っている。ABS・PC・PP・POMは並んでいるのに、FC(普通鋳鉄)・ADC12・S45C鍛造といった金属側のベースが選べない。第二に、抜き比 H/D > 5 への警告が緩い。樹脂は弾性回復するから多少無理でも抜けるが、鋳鉄や鍛鋼は塑性回復ゼロ・しかも収縮する。同じ感覚で設計すると型から抜けず生産が止まる。第三に、公差連動がない。要求側面公差を入れても「勾配で何mmズレるのか」を計算してくれない。

本ツールは逆方向から作った。鋳鍛造特化のJIS B 0403:1995規定値テーブルを内蔵し、砂型・シェル・ダイカスト・ロストワックス・型鍛造・自由鍛造の6プロセスをワンタップで切り替えられる。さらに dimensionalDeviation = base - top を要求側面公差と比較し、「鋳放しでは公差を満たせない/機械加工後仕上げが必須」を即座に判定する。プリセットには「砂型FC 100×50」「型鍛造S45C 80×60」「自由鍛造SUS304 大型」のように現場で頻出する組合せを並べた。

樹脂の射出成形ツールが必要なら既存ツールを使えばいい。鋳鉄・鍛鋼・アルミ鋳物・ステンレス鋳鋼を扱う設計者には、本ツールの方がプリセット選びの時間で勝てる。さらに /tolerance-cost-tradeoff と組み合わせれば「勾配を厳しくして加工取り代を削るか、緩くして公差をRC8相当で受けるか」のコスト比較まで一気通貫で回せる。

豆知識・読み物

離型剤と勾配のトレードオフ

鋳造・鍛造の型には離型剤を塗る。砂型なら離型用ワックス、ダイカストなら水溶性のシリコーン油、鍛造なら黒鉛系の高温対応剤。これを使えば理論上、抜き勾配を 0.5°程度減らせる。だが現場で勾配を削る判断はあまりされない。理由は3つある。

  1. 離型剤コスト: ダイカスト用シリコーン油は1Lあたり数千円。1ショットあたり10〜30g噴霧するため、量産規模では無視できない
  2. 残存問題: 離型剤が製品表面に残ると、塗装・メッキの密着不良を起こす。後工程で脱脂洗浄が必要になり、結局コスト相殺
  3. 再現性: 噴霧量・噴霧角度のバラツキが製品に転写されるため、勾配で物理的に余裕を取った方が安定生産できる

つまり「離型剤で勾配を減らす」は理論的には可能だが、量産品では勾配側にマージンを乗せておく方が結果的に安い、というのが業界の経験則だ。

勾配標準化の歴史

JIS B 0403:1995「鋳造品の寸法公差及び削り代」が制定されるまで、抜き勾配は工場ごとのハウスルールだった。「うちは砂型なら3°でやる」「いや2°で抜けてる」と現場の経験で決まっていて、図面に勾配を書かないことすら多かった。型師(型を作る職人)の暗黙知に頼っていた時代だ。

1995年のJIS化で「外形・内形・高さ・加工法」のマトリクス表が示され、図面で勾配を明示する習慣が広まった。背景にはCAD化と海外発注の増加がある。図面データだけで台湾・中国・インドの鋳造業者に発注するには、暗黙知では伝わらない。明示された数値が必要だった。

ちなみにISO 10135(鋳造・鍛造の抜き勾配記号)は2007年制定。日本のJIS B 0403はISOより12年早い。鋳造大国の蓄積が結晶化した規格だ。

樹脂と金属で勾配が違う理由

樹脂の射出成形は 0.5°〜1° で済むのに、砂型鋳造は 2°〜3° 必要。なぜか。決め手は冷却挙動の違いだ。

樹脂は弾性回復する。冷却収縮で型から離れる方向に縮み、自己離型に近い挙動を示す。一方、鋳鉄や鍛鋼は塑性域で凝固するので、回復ゼロ。むしろ収縮で型壁に押しつけられる場合さえある。だから物理的に型を引き抜くための逃げ角が必要になる。

ロストワックス(精密鋳造)が 0.5° で済むのは、ワックス原型→セラミック型の段階でワックス自体を溶かして抜くから。「型を引き抜く」工程がない特殊な原理ゆえに勾配が小さくて良い。原理を知ると勾配の数値の差が腑に落ちる。

Tips

  1. 型割位置で勾配の影響を最小化する — 高さ50mmの形状を勾配2°で抜くと約3.5mm細る。型割を中央に置けば上下半分ずつになり、片側1.75mmに収まる。型割の位置設計が公差の半分を決める
  2. 取り代を加味した寸法で図面を書く — 鋳放し寸法ではなく「機械加工後の仕上げ寸法 + 取り代」が型の寸法になる。砂型FCなら片側4mm、ダイカストなら1mm、これを勾配計算後の上面寸法に上乗せする
  3. シボ加工の深さで勾配を上乗せ — シボ加工は離型抵抗が増すため +1.5° が標準。深シボ(深さ0.1mm超)なら +2°、浅シボなら +0.5° で調整。本ツールの「表面仕上げ:シボ」を選ぶと自動で +1.5°
  4. 抜き比 H/D > 5 は要警戒 — リブ・ボス・細長突起で H/D が5を超えると勾配を取っても抜けない可能性がある。型割の追加(中子化)か、形状を分割して別部品にするのが現実的
  5. 加工法を変える勇気を持つ — 自由鍛造SUS304で精密形状をやろうとすると取り代が片側10mm以上になる。型鍛造に変更すれば片側4mm、コストは型費が上がるが取り代の機械加工費を下回ることが多い。本ツールの「加工法別比較」で確認

FAQ

抜き勾配が不足するとどうなる?

第一の症状は型から製品が抜けないこと。鋳造なら型損傷で1ショット数十万円の修理費、鍛造なら型寿命が半分以下に縮む。第二の症状はかじり傷で、製品表面に縦スジが入って外観不良になる。第三が寸法不安定で、無理に抜くから日によって寸法が変わる。設計段階で勾配を0.5°ケチっただけで、量産フェーズの不良率が10%以上跳ね上がるケースは珍しくない。

自由鍛造の現実的な精度はどの程度?

本ツールでは外形 10°、内形 12° を採用している。これはJIS B 0405-1991「金属プレス加工品の普通公差」と現場慣行を組み合わせた値で、120×80の形状なら片側28mm近く細る計算になる。つまりほぼ確実に機械加工後仕上げが必要。自由鍛造で「鋳放しのまま使える」のは寸法精度を要求されないハンマー素材や軸の素形材くらいで、寸法精度が必要なら型鍛造への変更を強く推奨する。

機械加工取り代はどうやって決める?

本ツールは加工法 × サイズ(小:100mm未満、中:100〜500mm、大:500mm超)でテーブル化している。砂型なら小2.5mm/中4mm/大6mm、ダイカストなら小0.5mm/中1mm/大1.5mm。これは片側の値で、両側機械加工なら2倍見る必要がある。実務では鋳造業者・鍛造業者の標準仕様が優先されるので、本ツールの値はあくまで初期検討の目安。発注時には業者に「御社の標準取り代は?」と確認してから図面を確定する。

樹脂と金属で勾配は違う?

違う。樹脂の射出成形は 0.5°〜1°、金属の砂型鋳造は 2°〜3°、自由鍛造に至っては 10°以上。理由は冷却挙動と型離れ性で、樹脂は弾性回復で自己離型に近いのに対し、金属は塑性凝固で回復ゼロ。本ツールには参考比較として「射出成形(参考比較)」を入れているが、樹脂材料の物性は未対応なので樹脂設計には不向き。樹脂は seihin-sekkei.com 系の専門ツールを使う方がプリセットの精度が高い。

シボ加工で勾配を増やす理由は?

シボ加工は型の表面に意図的に微細な凹凸をつける処理で、離型抵抗が普通仕上げの 2〜3倍 になる。普通の勾配で抜こうとするとシボ模様が型に擦れて崩れる、製品表面にスジが残る、最悪型から抜けない、といった事故になる。経験則として +1.5° を加算するのが標準で、深シボ(深さ0.1mm超)なら +2°、浅シボなら +0.5° で微調整する。本ツールの「表面仕上げ:シボ」を選ぶと自動で +1.5° が乗る。

JIS B 0403の規定値は守れば大丈夫?

規定値は最低ラインの目安であって絶対ではない。例えば砂型鋳造の外形・高さ100mm未満は2°が規定だが、複雑な内部形状やアンダーカットがあると2°では抜けないことがある。逆に単純な円筒形で離型剤を十分に塗れば1.5°でも抜ける。本ツールも min = base × 0.8max = recommended × 1.5 の幅を出しているのは、実形状に応じた調整余地を残すため。最終判断は鋳造業者の現場経験を仰ぐのが安全だ。

まとめ

抜き勾配は鋳造・鍛造設計の入口にして、最後まで悩む数値だ。0.5°ケチっただけで型損傷、3°取りすぎて材料浪費、と振り幅が大きい。本ツールはJIS B 0403:1995の規定値をベースに、6プロセスをワンタップ切替・上面寸法と公差影響を即座に判定できるようにした。

公差設計を深掘りするなら /tolerance-cost-tradeoff で勾配と加工コストのトレードオフを、表面仕上げの選定なら /surface-roughness でシボ深さと表面粗さの関係を、鋳鍛造後の組立工程まで含めるなら /thermal-fit で焼ばめ・冷ばめの寸法管理を併用してほしい。図面に勾配を書く前の数分で、量産時のトラブルを大きく減らせる。

ご意見・改善要望は お問い合わせ までどうぞ。

M

Mahiro

Mahiro Appの開発者。鋳造案件で『これ抜けないですよ』と業者から電話を受けた経験から、JIS B 0403を毎回引く手間を省くために作ったよ

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