はめあいグレード選定アシスタント

用途・組立方法・温度・材料からJISはめあいコードを逆引き推奨

💡 用途と組立方法を選び、温度・材料・寸法を入れると、 H7/g6 や H7/k6 などのJISはめあいコードを逆引きで推奨。代替案3つ・線膨張補正・落とし穴も同時表示。

シナリオプリセット

用途・組立方法

寸法・温度・材料

設計優先度

推奨はめあい

推奨コードH7/k6寸法区分 >18 ≤30
中間ばめ

最小すきま

-15 μm

実際はしめしろ

最大すきま

19 μm

最小しめしろ

-19 μm

実際はすきま

最大しめしろ

15 μm

代替案(用途別)

コスト優先

H7/g6

すきまばめに緩める。手押し組立で部品コスト低減

精度優先

H6/k5

穴・軸とも1等級厳しく。位置精度向上

簡易組立

H7/h6

完全すきま。手で組める・分解容易

選定理由

  • 用途「中速回転(100-1000rpm)」×組立「手押し」→ 推奨マトリクスから H7/k6 を選定
  • 精度=高(IT5-6) → 推奨は JIS『常用するはめあい』の標準等級を維持。研磨仕上げ前提でさらに1等級絞りたい場合は代替案『精度優先』(H6/x5 等)を参照
  • コスト=バランス → JIS推奨をそのまま採用(コスト・精度のトレードオフは標準値)
  • 分解頻度=メンテで分解 → 推奨はそのまま。手押し圧入なら抜き工具で分解可
本ツールは JIS B 0401-2:2016 / ISO 286-2:2010 準拠 に基づく教育目的の参考情報。安全に関わる重要嵌合や量産前検証では正規規格書と試作検証を行うこと。

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📘 公差設計・はめあいの実務書

関連ツール

H7/g6 と H7/k6、結局どう選ぶの?

図面を引いていてふと手が止まる瞬間、ある。「この軸とハウジングのはめあい、H7/g6 でいいんだっけ? それとも H7/k6 のほうが安全?」——機械設計のテキストには公差表が並んでいるけれど、表の見方は教えてくれても「自分の用途でどれを選ぶか」までは答えてくれないんだよね。

このアシスタントは、用途・組立方法・運転温度・材料・寸法を入れるだけで、JIS B 0401-2:2016 が定める基本ばめあい(H7/g6H7/k6H7/u6 など)の中から最有力候補を1つ提示する。代替案も「コスト寄り」「精度寄り」「分解しやすさ寄り」の3つ並べ、選定理由と落とし穴も同時に表示。推奨コードはワンタップで /jis-fit に渡せて、すぐに上限・下限寸法まで確認できる。

「設計の現場で本当に欲しかった逆引き」を目指して作った道具だ。

なぜ作ったのか

公差ハンドブックや既存の Web ツールの多くは「コード→寸法」の一方通行になっている。H7/k6 と入れれば公差は出るけれど、「H7/k6 を選ぶべきかどうか」は教えてくれない。設計初心者の頃、先輩から「ベアリング座は k6 で、プーリは g6」と口頭で教わったまま、なぜそうなのかをずっと分からずに使っていた時期があった。

実際に困ったのは、新人がやってきて「この軸は H7/h6 にしました」と図面を持ってきたとき。ベアリング座なのに h6 だと、内輪が空回りしてフレッティング摩耗を起こす可能性が高い。でも「k6 にして」と指示するだけでは新人が次に応用できない。「なぜ k6 なのか、k6 と g6 と u6 の境目は何か」を一言で説明できる教材がほしかった。

調べてみると、JIS B 0401-2:2016 の付属書には「常用するはめあい」の推奨表が載っているが、これも「軸基準」「穴基準」のマトリクスで提示されているだけで、用途と直結する見せ方ではない。「ベアリング内輪を中速で回す」とか「位置決めピンとして恒久固定する」といった具体シーンから引ける逆引きツールが見当たらなかった。

それなら作ろう、と思ったのがきっかけ。用途・組立方法・温度・材料・分解頻度から候補を絞り、なぜその選択になるのかを4-6項目の理由で説明する。新人が一人で図面を引けるようになるための、デジタル先輩を目指している。

はめあいって何?

すきま・中間・しまりの3分類

はめあい(Fit)とは、穴と軸の組合せで生まれる「すきま」または「しめしろ」の関係を指す。日常のたとえで言えば、シャフトと穴は鍵と鍵穴の関係。緩い(すきまばめ)、ピッタリ(中間ばめ)、きつい(しまりばめ)の3パターンで使い分けると考えると分かりやすい。

JIS B 0401-2:2016 (JIS規格 ISO 286-2と整合) では、3分類を次のように定義している。

  • すきまばめ(clearance fit): どの寸法組合せでも軸が穴より小さい。回転や摺動に向く
  • 中間ばめ(transition fit): 加工バラツキ次第ですきまにもしめしろにもなり得る。位置決めや軽圧入向け
  • しまりばめ(interference fit): どの組合せでも軸が穴より大きく、必ずしめしろが残る。トルク伝達や恒久固定向け

「H7/g6」の読み方

H7/g6 のような記号は、4つの情報を一度に表現している。

  • 大文字 H → 穴の基本サイズ偏差。H は下限が公称寸法ぴったりで、公差は上方向にだけ広がる
  • 数字 7 → 穴の IT 公差等級。数字が小さいほど公差が狭い(精密)
  • 小文字 g → 軸の基本サイズ偏差。g は上限が公称寸法より少し下にあり、必ずすきまが生じる
  • 数字 6 → 軸の IT 公差等級

この組合せを公差表で引くと、たとえば公称 30mm の H7/g6 は、穴 ES=+21μm / EI=0、軸 es=-7μm / ei=-20μm。すきまは最小 7μm、最大 41μm の範囲で必ず軸のほうが小さい。

gapMin = EI - es = 0 - (-7) = +7 μm
gapMax = ES - ei = 21 - (-20) = +41 μm

H7/k6 だと軸の偏差が es=+15、ei=+2 に変わり、最小すきまが -15μm(つまり最大 15μm のしめしろ)、最大すきまが +19μm。加工バラツキ次第ですきま側にもしめしろ側にも振れる「中間ばめ」になる。

JIS と ISO の関係

JIS B 0401-2:2016 は ISO 286-2:2010 と整合済み。日本の図面で使う公差記号と、欧州・米国・中国の ISO 準拠図面で使う記号は完全に同じ。JIS 表と ISO 表で値が一致するため、海外メーカーへの図面渡しでも翻訳不要。安心して H7/g6 のまま使える。

不適切なはめあいが招くトラブル

数値の組合せを軽く考えると、現場では深刻な不具合につながる。

焼付き・組立不能

しめしろを過大に見積もると、プレス機の力が足りずに組立工程で軸が止まってしまうことがある。実際、H7/u6u6 は公称 60mm で +106 ~ +87μm のしめしろ。常温の手押しでは絶対に入らず、焼きばめ(200℃前後の加熱)か油圧プレスが必須。これを知らずに u6 を指定すると現場が止まる。

空回り・フレッティング摩耗

逆にすきまが大き過ぎると、ベアリング内輪が軸の上で微小すべりを起こし、フレッティング摩耗で軸表面が荒れる。NSK の技術カタログによれば、転動体荷重を受けるベアリング内輪は「軽い圧入が原則」。H7/g6 のような明確なすきまばめにすると、数千時間の運転で軸の表面が肌荒れし、最終的に軸交換が必要になる。

規格遵守のため

機械設計便覧や JIS B 0401-2:2016 の付属書 A には、用途別の推奨はめあいが具体的に列挙されている。図面検図でレビュアーから「JIS 推奨外の組合せだが理由は?」と問われると、答えられないと差し戻される。社内の品質基準書でも「常用するはめあいから選定すること」を明記している会社が多い。

数値感覚の例

公称 30mm のはめあいを比較すると、すきま・しめしろの量はこのくらい違う。

はめあい最小すきま最大すきま性質
H7/g6+7μm+41μm必ず緩い
H7/k6-15μm+19μm中間
H7/u6-75μm-41μm必ずきつい

たった2文字違うだけで「ガタガタ」「ピッタリ」「焼きばめ必須」まで変わる。これが公差設計の難しさだよね。

こんな場面で使える

新規設計の初期検討: コンセプト図を書く段階で、ベアリング座・プーリ嵌合部・位置決めピンなど主要部位のはめあいを一気に決めたい。9種類の用途タブから選ぶだけで全部 30 秒で確定する。

既存設計のレビュー・見直し: 古い図面で H8/h7 のような曖昧な指定が残っていることがある。「これって本当に妥当?」を5項目の入力で再評価。代替案も並ぶので「現行のままでOK」「g6 のほうが良い」が一目で判断できる。

代替材料の検討: ベアリングハウジングを鋼からアルミに変更したいとき、線膨張差で運転温度時のすきまが変化する。アシスタントは材料を選ぶだけで線膨張補正を自動計算し、補正後のすきまも提示する。

新人教育・社内研修: 「なぜ k6 を選ぶのか」を理由つきで説明する教材として活用できる。出力の「選定理由」と「落とし穴」をそのまま勉強会の資料に使える設計にしてある。

基本の使い方(3ステップ)

  1. 用途を選ぶ: 「中速回転」「位置決め」「シール部」など9種類から最も近いものを選択。プリセット5種類をワンタップで入力する手もある。
  2. 条件を入力: 組立方法(手押し/プレスばめ/焼きばめ)、運転温度の上下限、材料組合せ、基準寸法、精度・コスト優先度、分解頻度を順に指定。
  3. 結果を確認: 推奨コード(例: H7/k6)、嵌め分類(すきま/中間/しまり)、最小・最大すきま(μm)、運転温度補正後のすきま、代替案3案、選定理由、落とし穴、JIS/ISO 対応情報を一画面で確認。/jis-fit ボタンで詳細寸法へ。

6つの使用例

ケース1: ベアリング内輪×軸(中速・高精度)

入力: 用途=中速回転、組立=手押し、運転温度=20-80℃、鋼-鋼、寸法=30mm、精度=高、コスト=バランス、分解=メンテで分解。 結果: H7/k6(中間ばめ)。最小すきま -15μm(しめしろ最大15μm)、最大すきま +19μm。代表的なベアリング内輪のはめあい。軽い圧入で取り付けられ、回転中の軸-内輪の微小すべりも防止できる。

ケース2: シャフト×プーリ(低速・分解可)

入力: 用途=低速回転、組立=手押し、運転温度=15-60℃、鋼-鋼、寸法=25mm、精度=中、コスト=バランス、分解=メンテで分解。 結果: H7/g6(すきまばめ)。最小すきま +7μm、最大すきま +41μm。手で押し込めばスッと入り、分解もメンテナンスドライバーでこじれば抜ける。トルク伝達はキー溝で行うので、はめあい自体はすきまでOK。

ケース3: 焼きばめ歯車(衝撃・恒久固定)

入力: 用途=衝撃あり、組立=熱ばめ、運転温度=20-120℃、鋼-鋼、寸法=60mm、精度=中、分解=一度きり。 結果: H7/u6(しまりばめ)。最小しめしろ 72μm、最大しめしろ 121μm。常温では絶対に入らず、ハウジング側を 200℃前後まで加熱して膨張させてから挿入する。冷却後に強烈な締結力でトルク伝達が可能。

ケース4: 油圧シリンダ摺動

入力: 用途=軸方向スライド、組立=手押し、運転温度=10-70℃、鋼-ブロンズ、寸法=50mm、精度=中。 結果: H8/f7(すきまばめ・潤滑前提)。最小すきま +25μm、最大すきま +89μm。油膜を保持できる適度なすきまがあり、ブロンズ材の自己潤滑性と組合わせてシリンダ内壁の摺動部に向く。シール部の標準的な選択。

ケース5: 位置決めピン(精密・固定)

入力: 用途=精密位置決め、組立=手押し、寸法=10mm、精度=高、分解=一度きり。 結果: H7/h6(クリアランス0近傍)。最小すきま 0μm、最大すきま 24μm。穴の下限と軸の上限がぴったり接する設計で、加工バラツキ次第で軽く触れる程度。ダウエルピンや治具の位置出しに使う、ピタリと収まる「線接触」のはめあい。

ケース6: 鋼-アルミ薄肉スリーブ(150mm・高温運転)

入力: 用途=分解再組立必要、組立=手押し、寸法=150mm、材料=鋼-アルミ、運転温度=20-150℃。 結果: H7/h6 ベース+線膨張補正で警告。20℃の常温ではすきま 0-40μm 程度だが、150℃まで上昇すると鋼穴とアルミ軸の線膨張差で 約 -222μm の追加しめしろ が生まれる。

dGap = (αhole - αshaft) × D × ΔT
     = (11.7e-6 - 23.1e-6) × 150 × (150 - 20)
     = -11.4e-6 × 150 × 130
     = -0.222 mm = -222 μm

つまり常温でゆるくても、高温で焼付きを起こす危険がある組合せ。アシスタントはこのケースで「鋼-アルミは線膨張差が大きく、運転温度時のすきまが想定外に変化します」と黄色警告を出す。すきまばめのつもりが運転中にしまりばめに変わる、という典型的な落とし穴を可視化できる。

仕組み:用途×組立方法×精度の3次元写像

候補手法の比較

推奨ロジックの実装には3つの選択肢があった。

  1. プリセット選択方式: 「ベアリング座→k6」「プーリ→g6」のようにシーン名と推奨コードを直接マッピング。簡単だが、シーンの組合せが膨大になり保守困難
  2. AI 推奨(LLM 等): 自然言語で用途を入力すれば LLM が回答。柔軟だが、ハルシネーションのリスクと API コストが残る
  3. 規則ベース推奨: 用途×組立方法の2次元マトリクスから候補を引き、精度・コスト・分解頻度の3軸で補正

採用したのは3の規則ベース。JIS B 0401-2 の付属書 A「常用するはめあい」の推奨をそのまま規則化でき、計算結果が常に同じ条件で同じ答えになる(再現性が確保される)。LLM のような「なんとなく違う答え」が出ない、設計レビューに耐える透明性を優先した。

実装詳細

中核となるのは fitMatrix という Map。application__assemblyMethod をキーに、JIS 推奨の基本ばめあいを返す。

const fitMatrix = {
  "static-fix__press-fit": "H7/p6",
  "static-fix__shrink-fit": "H7/u6",
  "low-rotation__hand-press": "H7/g6",
  "mid-rotation__hand-press": "H7/k6",
  "precision-positioning__hand-press": "H7/h6",
  "axial-slide__hand-press": "H8/f7",
  "impact-load__shrink-fit": "H7/u6",
  // …
};

ここから精度・コスト・分解頻度の補正ルールが入る。

  • 精度=高 → H7H6 に格上げ(公差を1ランク絞る)
  • コスト=コスト → 1ランク緩い基本ばめあいに格下げ
  • 分解=頻繁 → 中間ばめ・しまりばめなら強制的にすきまばめへ振替

各補正の発火履歴を reasoning[] 配列に積んで、画面下部に「選定理由」として表示。新人にも「なぜこの選択になったか」が説明できる。

公差値は寸法区分テーブルから引き、

gapMinUm = EI - es;
gapMaxUm = ES - ei;

で最小・最大すきま(負ならしめしろ)を計算する。

線膨張補正

異種材料 + 高温運転のケースは追加で線膨張補正を計算する。

dGap = (alphaHole - alphaShaft) × D × (Tmax - 20)

αsteel = 11.7e-6 /K、αaluminum = 23.1e-6 /K、αbronze = 18.0e-6 /K、αstainless = 17.3e-6 /K、αresin(POM) = 110e-6 /K の代表値を内蔵。穴と軸の組合せ次第で dGap の符号が変わる。鋼穴+アルミ軸を高温にすると軸が穴より速く膨張し、すきまが減る(最悪は焼付き)。

計算例:ベアリング内輪×軸 30mm(H7/k6)

公差表(寸法 20-30mm 区分)から、

  • 穴 H7: ES=+21μm、EI=0
  • 軸 k6: es=+15μm、ei=+2μm

最小・最大すきまは、

gapMin = EI - es = 0 - 15 = -15 μm   (しめしろ最大 15μm)
gapMax = ES - ei = 21 - 2 = +19 μm  (すきま最大 19μm)

加工バラツキ次第で「軽圧入(しめしろ最大 15μm)」「軽い遊び(すきま最大 19μm)」のどちらにも振れる典型的な中間ばめ。さらに鋼-鋼で運転温度 80℃なら、

dGap = (11.7e-6 - 11.7e-6) × 30 × (80 - 20) = 0

同材なので線膨張差はゼロ、運転温度補正は 0μm。常温時の値そのままで運用できる、と表示される。

これら一連の計算を、入力5項目から1秒以内に完了し、根拠つきで提示するのがアシスタントの役割だ。

他ツールとの違い(jis-fit・thermal-fit との関係)

世の中にあるはめあい関連ツールは「コードを入れたら寸法が出る」一方通行のものがほとんどだ。本ツールが他と違うのは、用途・組立方法・温度・材料・分解頻度といった設計条件から逆算してコードを提示する点にある。

jis-fit との連携

/jis-fitH7/g6 のようなコードを入力すると詳細寸法(上限・下限・公差幅・最小最大すきま)が返ってくる検索ツールだ。本ツールで H7/k6 が推奨された後、ワンタップで jis-fit に飛ばせば、基準寸法 30mm における具体的な寸法値(軸 φ30 +0.015/+0.002、穴 φ30 +0.021/0 など)を即座に確認できる。**「条件 → コード(本ツール)→ 寸法(jis-fit)」**という設計フローを1サイトで完結させる構成だ。

thermal-fit との棲み分け

/thermal-fit は焼きばめの必要加熱温度を数値計算するツール。鋼軸を100mm膨張させるのに何℃必要か、熱膨張後のすきまはいくらか、を弾き出す。一方、本ツールは「そもそも焼きばめが適切なのか/プレスばめでいいのか/手押しでも保つのか」という手段選定を担当する。本ツールで「焼きばめが妥当」と判定されたら thermal-fit で必要温度を詰める、という二段構えで使ってほしい。

紙の早見表との違い

教科書や設計便覧の「用途別はめあい早見表」は固定行列で、温度・材料・分解頻度を加味していない。本ツールは線膨張差を毎回再計算し、樹脂や鋼-アルミなど熱膨張差が大きい組み合わせでは即座に警告を出す。動的なフィルタリングが紙では再現できない強みだ。

豆知識・読み物

JIS B 0401 の歴史

日本のはめあい規格 JIS B 0401 は1962年に初版が制定された。当時はISO規格と細部が異なる独自表現が混在していたが、1986年改訂・1998年改訂を経て徐々にISO 286と整合され、現行の JIS B 0401-2:2016 はISO 286-2:2010とほぼ完全に対応している。穴・軸の基本寸法許容差表は両規格でビット単位まで一致するため、海外図面との読み替えも問題なく行える。

なぜ H7 が「基準」になったのか

穴基準(H基準)が標準化された理由は、穴加工の精度を出しにくいという工作現場の制約にある。軸は旋盤やセンタレス研削でμm精度の修正がしやすいが、穴はリーマやボーリングで決まり、再仕上げが難しい。そこで「穴を H7(標準的な精度)で固定し、軸側を g6/h6/k6/p6…と変えて嵌合を作り分ける」という運用が20世紀半ばに定着した。リーマの規格寸法が H7 公差で量産流通したことも普及を後押しした要因だ。

IT等級の意味

公差を表す IT5IT11 の数字は International Tolerance grade の略で、数字が小さいほど公差が厳しい。IT7(H7、g6 など)は機械加工で達成可能な経済的下限とされ、まさに「基準等級」になっている。一段上の IT5/IT6 は研削仕上げが前提となりコストが急増するため、特別な精度要求がない限り H7 ベースで設計するのが王道。詳細は Engineering fit (Wikipedia) も参考にしてほしい。

Tips(実務小ネタ)

  • 穴基準(H/x)と軸基準(X/h)の使い分け: 量産現場では穴基準が圧倒的に主流。H7 リーマや H7 リングゲージが市販されているので加工・検査が安い。一方、長尺の通し軸に複数の部品を嵌める場合(搬送ローラ、複連プーリなど)は軸を h6 で1本通し、穴側を H7/F7/N7 と変える軸基準が有利になる。
  • 温度差大は2段階組立で逃がす: 鋼-アルミなど線膨張差が大きい組合せで H7/u6 のしまりばめを使う場合、室温で組んでから運転温度まで上げると熱膨張差で内部応力が暴れる。一度焼きばめで挿入 → 室温に戻す → 必要なら再仕上げ、の2段階で残留応力を最小化できる。
  • 焼きばめ温度の早見: 鋼の線膨張率は αsteel = 11.7e-6 /K。100mmの軸を ΔT = 200K(=200℃昇温)すれば約 11.7e-6 × 100 × 200 = 0.234mm = 234μm 膨張する。φ100mmの軸なら直径方向に約 470μm 膨張する計算で、典型的な u6 のしめしろ(最大80μm前後)を余裕で吸収できる。詳細計算は /thermal-fit で。
  • 表面粗さは実効しめしろを食う: 圧入時、表面の山が潰されてしめしろが目減りする。経験則では Rz × 2(穴・軸両方の合計)を実効しめしろから差し引く。Rz 6.3μm の軸を Rz 6.3μm の穴に圧入するなら約 25μm が消えるので、しめしろ設計はその分だけ厚めに見ておく。
  • 常温倉庫の検査値は当てにならない: 真冬に5℃の検査室で測ったすきまと、夏場40℃の現場のすきまは異なる。基準温度 20℃ から外れた検査では補正値を入れる癖をつけておきたい。

FAQ

H7/g6 と H7/k6 の境目はどう判定する?

回転速度と分解頻度で切り分けるのが実務的だ。100rpm 以下の低速かつメンテで分解する想定なら H7/g6(すきまばめ、軸が手で抜ける)。100〜1000rpm の中速で精度・保持力を両立したいなら H7/k6(中間ばめ、銅ハンマで打込み)。境界が曖昧なときは、本ツールで「用途」と「分解頻度」を切り替えると即座に推奨が変わるので比較してみてほしい。なお高速回転(>1000rpm)では遠心力で軸が膨らみしめしろが消えるため、H6/g5 などより厳しい等級+潤滑前提に切り替わる。

代替案3つの優先順は?(cost / precision / simple)

優先順位は simple → cost → precision がおすすめ。最初に「組立が一番ラクな案」(手押しで入る H7/h6 など)を見て、現場で実現できるか判断する。次に「コスト最小案」で量産時の加工費削減余地を確認し、最後に「精度重視案」で本命設計と比較する。本ツールでは3案すべてに rationale(採用根拠)が付くので、図面承認時に「なぜこの案を選ばなかったか」の根拠を残しやすい。

樹脂部品でのはめあい設計の注意点は?

樹脂(POM、PA6、PEEK 等)は線膨張率が金属の 5〜10倍(POMで 110e-6 /K、鋼の約9.4倍)あり、温度変化で寸法がガラリと変わる。さらに吸水・クリープ・残留応力の影響でJIS表のはめあい等級をそのまま使うと数か月後に緩む・割れるといった事故が起きやすい。実務では (1) 焼きばめは厳禁(軟化温度が低い)、(2) しめしろは金属同士の半分以下に抑える、(3) 周囲温度の年間振れ幅を必ずシミュレーション、の3点を守る。本ツールで materialPair = 鋼-樹脂 を選ぶと焼きばめ選択時に赤色警告が出るので、見落とし防止になる。

圧入力(プレス荷重)の概算は出る?

現バージョンでは圧入力(kN)は表示しない(将来拡張枠)。概算が必要な場合は厚肉円筒理論(Laméの式)で面圧を求め、F = π × D × L × p × μ(D:直径、L:接触長、p:面圧、μ:摩擦係数 0.10〜0.15)で算出する。鋼-鋼の H7/p6、φ30mm、長さ40mm、しめしろ20μmならおおむね 20〜40kN が目安。本格計算が必要なら設計便覧の厚肉円筒章を参照してほしい。

JIS B 0401-2:2016 と ISO 286-2:2010 の関係は?

両者は完全互換と考えて差し支えない。JIS B 0401-2:2016 は ISO 286-2:2010 を翻訳・整合した規格で、寸法許容差表の数値は1μm単位まで一致する。海外図面で H7/k6 と書かれていても、本ツールの推奨コードと同じ意味として読み替えられる。ただし表記順(穴/軸)と矢印記号、データム表記は規格書ごとに微差があるので、検図時はオリジナル規格書を一度確認する癖をつけたい。

まとめ

はめあい選定はベテラン勘の領域だったが、用途・組立方法・温度・材料の4条件さえ整理できれば、本ツールで初学者でも妥当な推奨コードに辿り着ける。出てきたコードはそのまま /jis-fit に渡して詳細寸法を確認、焼きばめが必要なら /thermal-fit で加熱温度を詰める、という設計フローを1サイトで完結させてほしい。図面検図や教育研修にも活用できる。改善要望や使いにくい場面があれば /contact から気軽に知らせてほしい。

M

Mahiro

Mahiro Appの開発者。新人の頃に『なぜ k6 か』を口頭で押し付けられた経験から、用途とコードを橋渡しする逆引き選定を組んだ。

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