読み値は取れた。で、シムは何ミリ足せばいいのか
ダイヤルゲージをマグネットベースで固定し、リムとフェースをそれぞれ0度・90度・180度・270度でぐるっと一周させる。ここまでは体で覚えた手順で、慣れれば10分もかからない。問題はその先だ。手帳に書き写した4つの数字——リム上下・フェース上下・リム左右・フェース左右のTIR(総振れ)——を、「モーターの前脚は何ミリシムを足せばいいのか」「後脚は?」「水平方向はどっちにどれだけ動かす?」という現場が欲しい答えに変換する段になると、急に電卓とにらめっこの時間が始まる。
式自体は難しくない。オフセットはTIRを2で割るだけ、角度ずれはTIRをフェース径で割るだけだ。だが鉛直・水平をそれぞれ独立に計算し、前脚・後脚それぞれの距離を掛けて足し合わせ、そのうえ回転数別の許容値と照らし合わせるとなると、手計算では符号ミスや掛け算違いが起きやすい。「シムを足すつもりが、符号を読み違えて逆に抜いてしまった」というような事故は、現場では笑い話では済まない。本ツールは、その4つの読み値と寸法・回転数を入れるだけで、モーターの前脚・後脚それぞれのシム量と水平移動量、そして「良好」か「要調整」かの判定までを一括で返す。
なぜ作ったのか — 手書きの計算表と、符号ミスという落とし穴
カップリングの芯出し作業は、レーザー式アライナー(本体だけで数十万円)があれば読み値を測るだけで自動的にオフセット・角度ずれ・シム量まで計算してくれる。だが、中小規模の工場やメンテナンス会社の保全現場では、そこまでの投資に踏み切れず、今も昔ながらのダイヤルゲージと電卓、手書きの計算表で芯出しを行っているところが多い。
リム&フェース法自体の理屈は決して難しくない。オフセット=TIR÷2、角度ずれ=TIR÷フェース径という比例計算だけだ。ただ、鉛直方向と水平方向をそれぞれ独立に計算し、さらに距離の異なる前脚・後脚という2点に投影する段になると、扱う数字は一気に8個前後まで増える。手書きの計算表に読み値を書き写しながら電卓を叩いていると、符号の意味を都度確認するだけで神経を使うし、「シムを足すつもりが、符号を逆にとらえて抜いてしまった」というようなケアレスミスも起こりやすい。
このツールは、その「読み値を入れてから、前脚後脚のシム量が出るまで」の面倒な手計算部分を肩代わりする。将来的には『設備保全の計算入門』という書籍の核となるアプリの一つとして位置づけており、既に公開している振動診断ツール(ISO 10816)や軸受寿命計算ツールと合わせて、保全担当者が現場で使える計算の道具箱を少しずつ揃えていくつもりだ。
リム&フェース法とは — 芯ずれ(ミスアライメント)の正体
芯出し計算の基本 — シムで直すオフセットと角度ずれ
2本の回転軸をカップリングで継ぐとき、双方の軸中心線がぴったり一直線に並んでいれば芯ずれはない。だが実際の据付では、多かれ少なかれ何らかのズレが生じる。このズレ方には大きく2種類ある。
イメージしやすいのは、2本のホースを継手で繋ぐ場面だ。1つ目は「オフセット(平行偏心)」——2本のホースの向きは平行なのに、中心の高さや左右位置がずれている状態。2つ目は「角度ずれ(アンギュラー)」——ホースが平行ではなく、角度をつけたまま繋がっている状態。回転するたびに継手が周期的に曲げられる分、角度ずれのほうが振動への影響が大きくなりやすい。実際の軸継手ではこの2種類が同時に、しかも鉛直方向・水平方向それぞれ独立の量で発生する。だから測定すべき数値は「鉛直のオフセット」「鉛直の角度ずれ」「水平のオフセット」「水平の角度ずれ」の4つになり、芯出し計算はこの4つをシムの厚みと水平移動量に変換する作業ということになる(軸同士をつなぐ機械要素全般についてはWikipedia: 軸継手に詳しい)。
リムアンドフェース法 とは — ダイヤルゲージで何を測るか
芯ずれを実測する手法はいくつかあるが、その代表格が「リムアンドフェース法(Rim and Face Method)」だ。固定されている側の軸(多くの場合ポンプ側)にダイヤルゲージのマグネットベースを固定し、可動側の軸(モーター側)についているカップリングの外周面(リム)と端面(フェース)に測定子を当てる。可動側の軸をゆっくり回転させながら、複数の回転角度でダイヤルゲージの針の振れを読み取り、最大値と最小値の差——これをTIR(Total Indicator Reading、総振れ)と呼ぶ——を記録する。
リム側のTIRからは軸中心がどれだけ平行にずれているか(オフセット)が、フェース側のTIRからは軸がどれだけ角度をつけてずれているか(角度ずれの傾き)が分かる。この2つを鉛直方向・水平方向それぞれについて測るので、入力は「リム上下」「フェース上下」「リム左右」「フェース左右」の4つになる。計算式はシンプルな比例計算だ。
オフセット(mm) = リムTIR ÷ 2
角度ずれの傾きθ = フェースTIR ÷ フェースゲージ回転径
角度ずれ(mm/100mm) = θ × 100
リムTIRを2で割るのは、TIRが「振れの全幅(最大−最小)」であり、軸中心からのズレ量はその半分だからだ。角度ずれは、フェース面についたダイヤルゲージの測定子が描く円の直径(フェースゲージ回転径)に対して、フェースのTIRがどれだけの傾きになっているかを比で表している。
符号の意味 — なぜ+/-の解釈を自分で決める設計なのか
実務で最初につまずきやすいのが符号の扱いだ。本ツールは、入力する4つの読み値(リム上下・フェース上下・リム左右・フェース左右)の符号を「そのまま機械を+方向に補正する必要がある量」として扱う設計を採用している。あなたがダイヤルゲージのゼロ点を設定して読み取った符号を、計算の途中で勝手に反転させることはしない。
鉛直方向は分かりやすい。+の値は「シムを足して機械を持ち上げる方向」、−の値は「シムを抜いて機械を下げる方向」と決まっている。一方、水平方向の+/-がどちらの向き(作業者から見て手前か奥か)を意味するかは、ダイヤルゲージの取付方向やゼロ点の取り方という現場の測定手順に依存するため、本ツール側で一律に決めることができない。だからこそ、自社の測定手順の中で「+はこちら向き」という解釈をあらかじめ統一しておく必要がある。一度ルールを決めてしまえば、読み取った符号をそのまま入力するだけで、frontFootShimMm・rearFootShimMmといった前脚・後脚の補正方向まで一貫して計算される。
なぜこの数値が大事か — 芯ずれ放置のツケと回転数の壁
芯出し不良のまま運転を続けると、軸受・シールの異常摩耗や振動の増加という形で兆候が現れ、放置すればカップリングの疲労破断や軸そのものの曲がりにまで進行する。早期に気づけば軸受1個の交換で済むが、手遅れになるとカップリング交換・軸受交換・場合によっては軸の交換までが連鎖し、計画外停止による生産損失を含めると被害額は一桁上がる。実際、振動シビアリティ判定(ISO 10816-3)でC/Dゾーンの異常判定が出たとき、原因を突き詰めると芯出し不良に行き着くケースは少なくない。
見落とされがちなのが、許容値が回転数によって大きく変わるという点だ。本ツールが参照する許容値テーブルでは、1000rpm相当ではオフセット0.13mm・角度0.09mm/100mmまで許容されるのに対し、3600rpmでは0.04mm・0.03mm/100mmとおよそ3倍厳しくなる。回転数が上がるほど、同じ角度ずれでも単位時間あたりの繰返し曲げ応力の回数が増え、疲労の進行が早まるためだ。標準例(1800rpm)では鉛直オフセット0.10mmが許容値0.08mmを超えて「要調整」と判定されるが、もし同じ読み値でも0.03mm程度に収まっていれば許容値の半分以下で余裕を持って「良好」になる——この境目のシビアさを体感できるのが本ツールの狙いの一つだ。
なお、この許容値は法律で定められた数値ではない。日本の労働安全衛生法体系にも、ボイラーや圧力容器のように具体的な数値基準を定めた条文はあるが、シャフトアライメントの許容値そのものを義務付ける条文は見当たらない。実務では、本ツールが採用しているような英語圏で広く使われるANSI系の許容値早見表や、石油化学プラントの機械据付で参照されるAPI RP 686(Machinery Installation and Installation Design)のような業界の推奨プラクティスが、事実上の判断基準として使われている。また本ツールの許容値は、スペーサーを挟まない直結型のショートフレキシブルカップリングを前提としており、中間軸カップリングではメーカーがより緩い値を示していることが多い。カップリングメーカーや軸受メーカーが独自の許容値を指定している場合は、当然そちらを優先すべきだ。
芯出し作業のこんな場面で使う
新設備の据付時: 新品のモーターやポンプを基礎に据え付けたとき、試運転前の芯出し作業で読み値を入力し、規定の許容値内に収まっているかその場で確認する。
ポンプ・モーター交換後: 故障した機器を新品に交換した直後は、旧機とまったく同じ据付状態にはならない。交換後の芯出しでシム量・水平移動量を計算し直す場面で使う。
振動値の悪化を調査するとき: 定期点検で振動値が上昇し、ISO 10816のC/Dゾーン判定が出たとき、芯出し不良を疑って読み値を測り直し、実際にどれだけズレているかを数値で確認する。
レーザーアライナーを持たない中小工場で: 高価なレーザー式アライナーを導入していない現場では、ダイヤルゲージと本ツールの組み合わせが芯出し作業の主力になる。測定さえできれば、計算はスマホ1台で完結する。
基本の使い方
ステップ1: ダイヤルゲージでリム・フェースそれぞれの上下・左右のTIR(総振れ)を測定する。固定側の軸にダイヤルゲージを取り付け、可動側(モーター側)のカップリング外周(リム)と端面(フェース)を回しながら読み取る。
ステップ2: 読み取った4つのTIR値と、フェースゲージ回転径、カップリング面から前脚・後脚までの距離、運転回転数を入力する。
ステップ3: 前脚・後脚のシム量(+=追加/-=抜き)と水平移動量、そして回転数別許容値と照合した判定(良好/要調整/芯出し完了状態)を確認する。要調整の場合は、どちら方向にどれだけ動かせばよいかがそのまま読み取れる。
具体的な使用例・検証データ
実装済みのツールに実際に入力して得られる数値を、8つのケースで確認していく。芯出しが完了した状態から始め、良好・要調整の判定が分かれる境界例、そして計算式が破綻しないか確かめる極端な例まで、易しい順に並べた。
ケース1: 芯出し完了状態——全読み値がゼロ。 入力: リム上下=0mm、フェース上下=0mm、リム左右=0mm、フェース左右=0mm、フェースゲージ径100mm、前脚150mm、後脚400mm、1800rpm。 結果: 前脚・後脚のシム量、水平移動量、現状偏心・角度ずれのすべてが0.00。判定は「芯出し完了状態」(緑)。 解釈: 4つの読み値がすべてゼロ、つまり軸は完全に一直線ということだ。isAlignedがtrueになり、通常の「良好」ではなく専用の「芯出し完了状態」ラベルに切り替わる。エラー扱いではなく、芯出しが完了した状態としてそのまま表示される。
ケース2: 良好例①——小さな読み値(1800rpm)。 入力: リム上下=0.06mm、フェース上下=0.03mm、リム左右=0.04mm、フェース左右=0.02mm、フェースゲージ径100mm、前脚200mm、後脚500mm、1800rpm。 結果: 前脚シム量+0.09mm・後脚シム量+0.18mm・前脚水平+0.06mm・後脚水平+0.12mm。現状偏心(鉛直0.03mm・水平0.02mm)・角度ずれ(鉛直0.03mm/100mm・水平0.02mm/100mm)。判定は「良好」(緑)。 解釈: 1800rpmの許容値(オフセット0.08mm・角度0.05mm/100mm)に対し、最大オフセット0.03mm・最大角度ずれ0.03mm/100mmともに半分以下で余裕がある。薄いシムを1〜2枚足すだけで済む、実務上ほぼ理想的な状態だ。
ケース3: 標準例——アプリを開いたときの初期値(1800rpm)。 入力: リム上下=0.20mm、フェース上下=0.10mm、リム左右=-0.10mm、フェース左右=0.05mm、フェースゲージ径100mm、前脚150mm、後脚400mm、1800rpm。 結果: 前脚シム量+0.25mm・後脚シム量+0.50mm・前脚水平+0.025mm・後脚水平+0.15mm。現状偏心(鉛直0.10mm・水平-0.05mm)・角度ずれ(鉛直0.10mm/100mm・水平0.05mm/100mm)。判定は「要調整」(赤)。 解釈: 1800rpmの許容値(オフセット0.08mm・角度0.05mm/100mm)を鉛直オフセット・鉛直角度ずれとも超過している。前脚+0.25mmに対し後脚はその倍の+0.50mm——カップリングから遠い後脚のほうが大きく持ち上げる必要がある。この初期値は、ツールを開いた瞬間に要調整の判定まで即座に出るという体験をそのまま再現している。
ケース4: 角度ずれのみ許容値を超える例(3600rpm)。 入力: リム上下=0.05mm、フェース上下=0.05mm、リム左右=0mm、フェース左右=0mm、フェースゲージ径100mm、前脚100mm、後脚300mm、3600rpm。 結果: 前脚シム量+0.075mm・後脚シム量+0.175mm。現状偏心(鉛直0.025mm)・角度ずれ(鉛直0.05mm/100mm)。判定は「要調整」(赤)。 解釈: 3600rpmの許容値はオフセット0.04mm・角度0.03mm/100mm。オフセット0.025mmはクリアだが、角度ずれ0.05mm/100mmが許容値を超える。オフセットが合格でも角度ずれ単独で不合格になりうる例で、片方の数値だけ見て安心してはいけないことが分かる。
ケース5: オフセットのみ許容値を超える例・全読み値マイナス(1500rpm)。 入力: リム上下=-0.30mm、フェース上下=-0.06mm、リム左右=-0.20mm、フェース左右=-0.09mm、フェースゲージ径150mm、前脚180mm、後脚520mm、1500rpm。 結果: 前脚シム量-0.222mm・後脚シム量-0.358mm・前脚水平-0.208mm・後脚水平-0.412mm。現状偏心(鉛直-0.15mm・水平-0.10mm)・角度ずれ(鉛直-0.04mm/100mm・水平-0.06mm/100mm)。判定は「要調整」(赤)。 解釈: マイナスのシム量は「シムを抜く」方向を意味する。1500rpmの許容値(オフセット0.09mm・角度0.07mm/100mm)に対し、オフセット0.15mmは超過だが角度ずれは0.06mm/100mmで許容内。ケース4とは逆に、今度はオフセット側単独で不合格になるパターンだ。全読み値が負値でも符号反転なしにそのまま計算される。
ケース6: 良好例②——補間許容値との比較(1000rpm)。 入力: リム上下=0.10mm、フェース上下=0.08mm、リム左右=0.06mm、フェース左右=0.04mm、フェースゲージ径200mm、前脚120mm、後脚350mm、1000rpm。 結果: 前脚シム量+0.098mm・後脚シム量+0.19mm・前脚水平+0.054mm・後脚水平+0.10mm。判定は「良好」(緑)。 解釈: 1000rpmはテーブルに直接の値がなく、900rpm(0.15mm/0.10mm/100mm)と1200rpm(0.10mm/0.08mm/100mm)を直線補間した0.13mm・0.09mm/100mmを使う。現状の偏心・角度ずれともこの補間許容値の半分以下で、低速回転では余裕を持って合格しやすいことが分かる。
ケース7: 鉛直・水平とも許容値超過・混合符号(3000rpm)。 入力: リム上下=0.15mm、フェース上下=0.10mm、リム左右=-0.05mm、フェース左右=-0.02mm、フェースゲージ径125mm、前脚100mm、後脚600mm、3000rpm。 結果: 前脚シム量+0.155mm・後脚シム量+0.555mm・前脚水平-0.041mm・後脚水平-0.121mm。現状偏心(鉛直0.075mm・水平-0.025mm)・角度ずれ(鉛直0.08mm/100mm・水平-0.016mm/100mm)。判定は「要調整」(赤)。 解釈: 3000rpmの許容値はオフセット0.06mm・角度0.04mm/100mm。鉛直+側・水平-側と符号が逆向きでも、どちらも絶対値で超過している。後脚までの距離が600mmと長いため、前脚+0.155mmに対し後脚は+0.555mmまで跳ね上がる。距離が離れるほど角度ずれの影響が積み重なる例だ。
ケース8: 極端な入力でベース見直し警告が出る例(3600rpm)。 入力: リム上下=1.50mm、フェース上下=1.20mm、リム左右=0mm、フェース左右=0mm、フェースゲージ径40mm、前脚300mm、後脚2500mm、3600rpm(範囲ガードの境界を確かめる極端な組み合わせ)。 結果: 前脚シム量+9.75mm・後脚シム量+75.75mm。現状偏心(鉛直0.75mm)・角度ずれ(鉛直3.00mm/100mm)。判定は「要調整」に加え黄色の「ベース・据付の見直し推奨」警告が表示される。 解釈: フェース上下1.20mm÷フェース径40mm=角度の傾きθ0.03と大きく、後脚距離2500mmを掛けると75.75mmという非現実的なシム量になる。3600rpmの許容値に対しオフセットは約19倍、角度ずれは実に100倍の超過だ。前脚・後脚とも5mmの閾値を大きく超えるためneedsBaseReviewがtrueになり、シム調整の範囲外——基礎・据付そのものを疑うべき警告が出る。実務でここまでの組み合わせに遭遇することはまずないが、計算式が閾値を超えても破綻しないことを確かめる境界ケースだ。
8つのケースを並べると、良好・要調整・芯出し完了を分けるのは単一の指標ではなく、鉛直・水平それぞれのオフセットと角度ずれ、計4つの値のうち絶対値が最大のものだと分かる。そのどれか1つでも回転数別許容値を超えれば、ほかがどれだけ良好でも判定は要調整になる。
仕組み・アルゴリズム
候補手法の比較 — リム&フェース法とリバースインジケータ法
軸の芯ずれをダイヤルゲージで測定する手法には、大きく2つの流儀がある。
ひとつは本ツールが採用する「リム&フェース法」。固定側の軸にダイヤルゲージを1台取り付け、可動側のカップリングのリムとフェースを測定するだけで完結する。取り付けがシンプルで、ダイヤルゲージ1台あれば中小工場でもすぐ実施できる一方、フェース側の角度ずれの分解能はフェースゲージ回転径の大きさに制約される。
もうひとつが「リバースインジケータ法」。固定側・可動側の両方の軸にダイヤルゲージを取り付けて互いを測定し合う手法で、フェース径に依存せず高精度な角度ずれを求められるが、ゲージ2台と複雑な治具が必要になる。本ツールは、より手軽なリム&フェース法をまず実装し、リバースインジケータ法は今後の対応候補としている。
実装フロー
計算は次の4段階で進む。
// 1. オフセット(平行偏心)をリムTIRから求める
const offsetVerticalMm = rimVertical / 2;
const offsetHorizontalMm = rimHorizontal / 2;
// 2. 角度ずれの傾きθをフェースTIRとフェースゲージ回転径から求める
const thetaVertical = faceVertical / faceDiameter;
const thetaHorizontal = faceHorizontal / faceDiameter;
const angleVerticalMmPer100 = thetaVertical * 100;
const angleHorizontalMmPer100 = thetaHorizontal * 100;
// 3. オフセットと角度ずれを前脚・後脚それぞれの距離に投影する
const frontFootShimMm = offsetVerticalMm + thetaVertical * distFront;
const rearFootShimMm = offsetVerticalMm + thetaVertical * distRear;
const frontHorizontalMm = offsetHorizontalMm + thetaHorizontal * distFront;
const rearHorizontalMm = offsetHorizontalMm + thetaHorizontal * distRear;
// 4. カップリング位置でのオフセット・角度ずれを回転数別許容値と比較
const maxOffsetMm = Math.max(Math.abs(offsetVerticalMm), Math.abs(offsetHorizontalMm));
const maxAngleMmPer100 = Math.max(Math.abs(angleVerticalMmPer100), Math.abs(angleHorizontalMmPer100));
const isGood = maxOffsetMm <= toleranceOffsetMm && maxAngleMmPer100 <= toleranceAngleMmPer100;
判定に使うのは、脚に投影したあとのシム量ではなく、投影する前の「カップリング位置でのオフセット・角度ずれ」だという点に注意したい。業界の許容値表がカップリング位置の値を基準に作られているためで、本ツールもその基準に合わせている。
計算例 — 標準例(1800rpm)を手で追う
標準例の入力(リム上下0.20mm・フェース上下0.10mm・フェース径100mm・前脚150mm・後脚400mm)で、実際に数字を追ってみる。
まずオフセット=0.20÷2=0.10mm。次に角度ずれの傾きθ=0.10÷100=0.001(無次元)。これを×100すると角度ずれ0.10mm/100mmになる。前脚シム量はオフセット+θ×前脚距離=0.10+0.001×150=0.25mm、後脚シム量は0.10+0.001×400=0.50mm。ツールの出力(前脚+0.25mm・後脚+0.50mm)とぴったり一致する。カップリングから遠い後脚のほうが、同じ角度ずれでも大きな補正量になるのは、θに距離を掛ける式の構造上当然の帰結だ。
シャフトアライメントの基礎や芯ずれの分類は Wikipedia: Shaft alignment に詳しい。
保全クラスタの中で、唯一「据付作業そのもの」を支援するツール
mahiroAppsには回転機械の保全に関わるツールが他にもいくつかある。振動シビアリティ判定は振動速度RMSからA/B/C/Dゾーンを判定し、ベアリング寿命計算は荷重・回転数からL10寿命を算出し、動バランス計算は回転体の許容残留アンバランス量を求める。ポンプ運転点計算や電動機始動電流シミュレーターも、運転中の挙動や条件を数値で扱う点は同じだ(それぞれのリンクは記事末尾のまとめに置いた)。
本ツールはこれらと立ち位置が違う。振動・寿命・バランスが「今動いている、あるいはこれから動かす機械の状態」を計算するのに対し、本ツールが数値化するのは機械を止めて行う「芯出し作業そのもの」——ダイヤルゲージの読み値から、次にどれだけシムを足す・抜くかという、作業者の手の動きに直結する数値だ。例えば標準的な読み値(1800rpm運転)を入れると、前脚に+0.25mm・後脚に+0.50mmのシムを追加すべきという答えが、その回転数の許容値(オフセット0.08mm・角度0.05mm/100mm)との比較つきで返る。保全クラスタの中でも、運転状態の診断ではなく据付・修理の作業手順そのものを支援する、数少ないツールになっている。
調べた範囲では、リム&フェース法のシム量・水平移動量・許容値判定までを1本で完結させる無料のWeb計算ツールは見当たらなかった。現場の選択肢は、熟練者が独自に作った手書きの計算表を使うか、数十万円するレーザーアライナーを導入するかの二択に近い。ダイヤルゲージと電卓の間にあった空白を埋める位置づけで作った。
ダイヤルゲージとリム&フェース、そして熱間伸びという別の課題
ダイヤルゲージ(インジケータ)は、わずかな軸方向の変位をラックとピニオンで針の回転角に変換し、0.01mm単位の動きを読み取れるようにした精密測定器だ。工作機械の芯出しや平行度・真円度の確認など、ミクロン単位のずれを目で確認する手段として100年近く使われている(参考: Dial indicator(Wikipedia))。
「リム&フェース法」という名前は、測る場所そのものを指している。リム(rim)はカップリングの外周面、フェース(face)は端面のことで、外周を測って平行方向のずれ(オフセット)を、端面を測って角度方向のずれ(アンギュラー)を、それぞれ別の面から拾う。測定対象の違いがそのまま手法の名前になっている。
1990年代以降、レーザー光とセンサーで芯ずれを自動計算するレーザーアライメント装置が普及し、プラントや専門業者ではダイヤルゲージ式から置き換わりつつある。それでも中小の保全現場でダイヤルゲージ式が使われ続けているのには理由がある。レーザー式の機材は数十万円する専用機であるのに対し、ダイヤルゲージとマグネットスタンドは安価で扱いやすく、停電中の現場でも読み値だけは取れる。あとは計算だけの問題になる——そこを電卓や手書きの表ではなく、本ツールに任せてほしいという発想だ。
高温で運転する機械には、もう一つ別の課題がある。蒸気タービンや大型圧縮機のように運転中に軸受台やケーシングが熱膨張する機械では、停止時(コールド)と運転時(ホット)で軸の高さや向きがわずかに変わる。そのためこうした機械の芯出しでは、あえて停止時にオフセットを持たせておく「コールドオフセット」という実務手法が使われることがある。本ツールは停止時の比例計算のみを扱っており、この熱間伸びの補正は今後の検討課題として残している。
芯出し作業をスムーズに進めるコツ
- 水平移動を先に、鉛直シム調整はそのあとに。 水平方向のずれを先に追い込んでおくと、鉛直のシム調整で水平がまたずれ直すという手戻りが減る
- シムは薄いものを何枚も重ねるより、できるだけ少ない枚数で構成する。 重ね面が増えるほど沈み込み誤差が蓄積し、計算どおりの厚みが出にくくなる
- +/-の向きは作業前に一度決めたら、最後まで統一する。 ダイヤルゲージの取付方向やゼロ点は現場ごとに違うため、途中で基準がぶれると計算結果ごと信頼できなくなる(マイナスの結果はシムを抜く方向を意味する)
- 「要調整」と出たら、まず現状のシム厚みを記録してから作業に入る。 作業後に「調整前がどうだったか」が分からなくなるのを防げる
- 高温で運転する機械は、停止時の計算だけで終わらせない。 熱間伸びを考慮した目標値が別途必要になる場合があるため、蒸気タービンなど高温機械では専門的な検討を追加したい
よくある質問(FAQ)
なぜ+/-の意味を自分で決める必要があるの?
ダイヤルゲージの取付方向やゼロ点の取り方は現場ごとに異なり、「上下・左右のどちらが+か」を一律に決めることができないためだ。本ツールは、入力する4つの読み値の符号を「そのまま機械を+方向に補正する必要がある量」として扱う設計にしている。自社の測定手順の中で+/-の意味を統一しておけば、計算結果はそのまま正しく機能する。
リバースインジケータ法には対応している?
現在はリム&フェース法のみに対応している。リバースインジケータ法は両軸にダイヤルゲージを取り付けて測定する別の手法で、対応は今後の検討課題としている。
回転数別の許容値が、カップリングメーカーの指定値と違う。どちらを優先すればいい?
本ツールの許容値は、ショートフレキシブルカップリング(直結・スペーサーなし)を対象にした一般的な整備目安であり、参考値として扱ってほしい。カップリングメーカーや軸受メーカーが個別の許容値を指定している場合は、そちらを優先する。なお中間軸(スペーサー)カップリングの場合は、一般により緩い許容値が示されることが多い。
運転中の熱間伸び(サーマルグロース)は考慮される?
考慮されない。本ツールは停止時(コールド)の読み値をそのまま比例計算する静的な計算のみを扱っている。高温で運転する機械のコールドオフセット目標値の算出は、今後の検討課題として残している。
入力した読み値はどこかに送信される?
されない。リム・フェースの読み値や距離、回転数といった入力はすべてブラウザ内のJavaScriptだけで計算しており、サーバーへの送信・保存は行っていない。検討中の設備情報を入力しても、外部に漏れる心配はない。
まとめ——読み値を入れれば、シム量と判定まで一直線に
リム&フェース法の読み値さえ測ってしまえば、シムの厚みも水平移動量も、良好/要調整の判定も、本ツールが一度に返してくれる。振動が気になるなら振動シビアリティ判定、ベアリングの余寿命は軸受寿命計算、ポンプの運転点はポンプ運転点計算、モーター始動時の挙動は電動機始動電流シミュレーター、回転体の不釣り合いは動バランス計算もあわせてどうぞ。気づいた点があればお問い合わせページから知らせてほしい。
Mahiro
Mahiro Appの開発者。ダイヤルゲージと電卓で芯出しをしていた頃、シムを足すつもりで抜いてしまい測り直しになった経験がある。符号を機械的に処理させたかったのが、このツールを作った一番の動機だ。
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