地震層せん断力計算ツール

Ai分布・Ci・Qi・ベースシア係数を施行令88条+告示1793号準拠で一括算定

建物諸元と各階重量から、Ai分布・Ci・Qi・ベースシア係数Cbを施行令88条+告示1793号の略算法に従って一括算定する。

建物諸元

地震条件

第二種(普通)Tc=0.6

各階重量・階高

カンマ区切り。階数と個数が一致する必要あり

計算結果

ベースシア係数 Cb0.200= Z×Rt×C0
標準

固有周期 T

0.270 秒

= H×(0.02+0.01α)

振動特性係数 Rt

1.000

Tc=0.6秒

総重量 ΣWi

1,300.0 kN

各階 Ai・Ci・Qi 一覧(下階→上階)

Wi上(kN)αiAiCiQi(kN)
3300.00.23081.5520.310493.13
2800.00.61541.1970.2393191.47
11,300.01.00001.0000.2000260.00
計算根拠: 施行令88条+告示1793号の略算法(一次設計範囲)

本ツールは略算法による一次設計用の地震層せん断力を算定するもの。保有水平耐力計算・時刻歴応答解析・偏心率/剛性率の判定は含まない。実設計では必ず有資格者の確認と一貫構造計算プログラムでの検証を行うこと。

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地震で建物が受ける横向きの力、実はこうやって決まる

「地震層せん断力」と言われても、初めて構造計算に触れる人にはピンと来ない。でも確認申請の計算書を開けば、必ず最初の数ページに出てくる数値だ。建物の各階に地震でどれだけの水平力が効くか、そのすべての根っこになる量である。

このツールは、建物の高さ・階数・構造種別・各階重量を入れるだけで、固有周期 T、振動特性係数 Rt、Ai 分布、層せん断力係数 Ci、層せん断力 Qi、そしてベースシア係数 Cb まで一気に算出する。建築基準法施行令88条と告示1793号の略算法をそのまま実装しているから、一貫構造計算プログラムの結果と突き合わせる検算用途にも使える。

入力は全部でたった7項目。構造種別をSからRCに切り替えた瞬間に T が変わり、Rt と Ai 分布がリアルタイムで再計算される。「この建物、一次設計でどれくらいのベースシアになるんだろう?」という素朴な疑問に、30秒で答えが出る。構造一級の受験対策でも、木造3階の確認申請前の概算でも、既存建物の耐震診断の叩き台でも、まずここで感覚をつかんでほしい。

なぜ作ったのか

きっかけは、構造設計を学び始めた人の「SS7や BUS に触る前に、Ai 分布ってどういう感じで効くのか手を動かして体感したい」という声だった。商用の一貫計算ソフトはライセンスが数十万〜百万円クラスで、学生や若手の独学には手が出ない。かといって Excel で Ai を実装しようとすると、α の累積方向(上から下か、下から上か)でミスが出やすく、1/√α の発散も扱いにくい。

解説サイトも多いが、どれも手計算の式を並べるだけで、数値を入れ替えて「構造種別が変わると T がこう動く」「地盤が III になると Rt はどう下がる」という感覚的な理解にはつながりにくい。告示1793号の条文を眺めても、Rt の3分岐(T≤Tc、Tc<T≤2Tc、T>2Tc)が頭に入ってこない。

そこで、告示の式をそのまま JavaScript に書き起こして、入力欄を触るたびに Ai 分布と Qi テーブルが更新される画面を作った。Kindle で書いた『建築構造設計入門』の読者に「本を片手に数字を動かしてみて」と渡せる無料の計算機がほしかったのも大きい。特別な差別化機能は盛らず、施行令88条+告示1793号の文字通りの計算を、ブラウザで即座に回せる——それだけを目指した。結果として、構造一級の受験生から、設計事務所の検算用途まで、いろんな層に使ってもらえるツールになった。

地震層せん断力 とは — Ai 分布・Rt・Co・Z の意味

地震層せん断力とは何か

地震が来ると、建物の各階に慣性力が働く。ある階より上に乗っている全部の重量を、その階が地面に向かって押し返す力——それが層せん断力 Qi だ。2階建ての家なら、1階の柱全体は「1階+2階の重量 × 横加速度」を受け持つ。5階建てなら、2階の柱は「2階〜屋上まで」を、屋上階の柱は「屋上だけ」を受け持つ。要は、上に乗っているものの重さ×どれくらい揺れるか の掛け算になる。

このうち、どれくらい揺れるかを決めるのが層せん断力係数 Ci だ。

Ci = Z × Rt × Ai × C0

4つの係数の積で表され、それぞれ意味が違う。

  • Z(地域係数): その土地で想定される地震動の強さを 0.7〜1.0 で補正する。東京・大阪・愛知は 1.0、沖縄は 0.7。
  • Rt(振動特性係数): 建物の固有周期 T と地盤の周期 Tc の関係で決まる。短周期(剛な建物)は Rt=1.0、長周期になると Rt が下がる。共振のしやすさを反映した係数。
  • Ai(層せん断力分布係数): 建物の下の方は小さく、上に行くほど大きくなる「横揺れの鞭のような分布」を表す。最下層は必ず 1.0、最上階は 1.5〜3.0 くらいになる。
  • C0(標準せん断力係数): 一次設計で 0.2、保有水平耐力計算(二次設計)で 1.0。要するに「設計用の倍率」。

施行令88条+告示1793号の条文構造

建築基準法施行令88条が「地震層せん断力係数を求めなさい」と定義し、具体的な T・Rt・Ai の算定式を告示1793号(昭和55年建設省告示第1793号)が示す、という二段構えになっている。施行令88条の条文は短いが、告示1793号は技術的な式が細かく、実務上はこちらを参照することの方が多い。

例えるなら、建物を上下が固定された長い棒と考え、地面を揺さぶったときに棒全体がしなる様子を想像してほしい。根元に近いほど振幅が小さく、先端ほど大きく揺れる。Ai 分布はまさにその「上に行くほど大きく揺れる」効果を、重量分布と固有周期から算定する式になっている。

数式で書くとこうだ。

T  = H × (0.02 + 0.01 × α_structure)   // α: S=1.0, RC/SRC/Wood=0.7
Tc = {I: 0.4, II: 0.6, III: 0.8}       // 地盤種別別の第2種固有周期
Rt = 1                                 if T ≤ Tc
   = 1 - 0.2 × (T/Tc - 1)²             if Tc < T ≤ 2Tc
   = 1.6 × Tc / T                      if T > 2Tc
αi = (i 階から上の重量和) / ΣW
Ai = 1 + (1/√αi - αi) × 2T / (1 + 3T)
Ci = Z × Rt × Ai × C0
Qi = Ci × weightAbove

告示1793号の原文は e-Gov 法令検索 で「昭和55年建設省告示第1793号」を検索すれば読める。構造設計者なら一度は原文に目を通しておきたい(建築基準法施行令88条 も併せて確認)。

実務での重要性

一次設計用の層せん断力が小さすぎると何が起きるか。部材の許容応力度設計に必要なせん断力が足りず、柱・梁・壁の断面が過少になる。結果、中規模地震でもひび割れ・残留変形が出る。検査済証は取れても、実地震で痛む建物になってしまう。耐震等級1に必要な水平力は「建築基準法を満たす最低限」であり、ここを削ると後で取り戻しが効かない。

逆に大きすぎると、部材重量が過大になり、基礎への鉛直荷重が増える。RC 柱なら鉄筋量が増え、工事費が跳ね上がる。適正な Qi を求めることは、構造の安全性とコストの両輪のバランスを決める作業だ。

具体例を挙げる。既存不適格建物の耐震診断で Is 値を計算する際、分母に Qi が入る。同じ建物でも地盤種別を誤って I→II→III と設定すると、Tc が変わって Rt が変わり、Qi が 1〜2 割ズレる。Is 値が 0.6 を超えるか下回るかで耐震補強の要否が決まるから、入力の 1 段階が工事費数千万円の差になる。

法令面でも、2000年の品確法以降、住宅性能表示制度の耐震等級 2・3 は基準法の 1.25 倍・1.5 倍と定義されている(住宅性能表示制度)。つまり Ci・Qi の計算は単なる計算ではなく、等級認定の根幹。入力と結果を他人に説明できる状態で押さえておかないと、設計瑕疵や性能不足のリスクにつながる。

現場の一次設計で C0=0.2 を切ろうとするケースは原則ない(施行令88条の下限)。このツールでは C0<0.2 を入れた場合に黄色警告を出すようにしてある。うっかり塔屋や PH の補正で標準より下げてしまうケースを予防する目的だ。

活躍する場面

1. 構造一級建築士の学科・製図対策: Ai の式を暗記するだけでは合格しない。数字を変えながら「T を長くすると Rt と Ai がどう動くか」を体で覚える必要がある。このツールで 5〜10 パターン触ると、過去問の計算問題が一気に解けるようになる。

2. 木造3階建ての確認申請前チェック: 令46条の壁量計算と別に、令82条ルート1の一次設計 Qi を求めるときに便利。壁量で OK でも耐力壁線の偏心があると層せん断力が不足するので、概算でも早い段階で見ておきたい。

3. 小規模 S 造(100〜500㎡の店舗・倉庫): 一貫計算ソフトを使うまでもない規模で、ルート1-2(許容応力度等計算)の検算に。

4. 既存建物の耐震診断の初期段階: Is 値を算定する前に、一次設計ベースシアの感覚値をつかむのに使える。診断ソフトに入力する前のセルフチェックに。

5. 中堅設計者の勉強会・OJT: 後輩に「Ai 分布って結局なに?」を説明するときに、画面を見せながら数値を動かせば 5 分で伝わる。

基本の使い方

Step 1: 建物諸元を入力する. 軒高さ H(m)・階数 n・構造種別(RC / S / SRC / 木造)を入力。H と構造種別から固有周期 T が自動算定される。S 造なら H×0.03、RC/SRC/木造なら H×0.027 が出る。

Step 2: 地震条件を選ぶ. 地域係数 Z を都道府県プリセットから選択(東京なら 1.0)、地盤種別を I/II/III から、標準せん断力係数 C0 を一次設計(0.2)か二次設計(1.0)から選ぶ。これで Rt と Cb(ベースシア係数)が決まる。

Step 3: 各階重量 Wi を上階→下階の順にカンマ区切りで入れる. 例えば 3 階建てで屋根 300kN、2 階 500kN、1 階 500kN なら 300,500,500。階数 n と配列長が一致すると、Ai・Ci・Qi のテーブルが表示される。最下層の Qi がベースシア Q1 になる。

ここまでで数十秒。結果をコピーして計算書に貼り付けたり、Qi を「層間変形角チェッカー」へエクスポートして次の検討に渡したりできる。

具体的な使用例

ケース①: S造3階建て・普通地盤(東京・一次設計)

入力: H=9m、n=3、S造、地盤II、Z=1.0、C0=0.2、W=300,500,500(上階→下階、kN)

結果:

  • T = 0.270秒、Tc = 0.6秒 → T ≤ Tc なので Rt = 1.000
  • ベースシア係数 Cb = 0.200、総重量 ΣW = 1,300kN
  • 各階(下→上): 1階 Ai=1.000 Ci=0.200 Qi=260.00kN / 2階 Ai=1.197 Ci=0.239 Qi=191.47kN / 3階 Ai=1.552 Ci=0.310 Qi=93.13kN

解釈: S造で軒高さ 9m は典型的な中層オフィス/店舗。T が短いので Rt は減じられず、最下層は C0 そのままの 0.2。3階の Ai が 1.55 まで伸びていて、上階ほど大きな水平力が効くことがわかる。

ケース②: RC2階建て・硬質地盤(Z=0.9 の地域)

入力: H=6m、n=2、RC造、地盤I、Z=0.9、C0=0.2、W=400,600(上階→下階、kN)

結果:

  • T = 0.162秒、Tc = 0.4秒 → T ≤ Tc なので Rt = 1.000
  • Cb = 0.180、ΣW = 1,000kN
  • 各階: 1階 Ai=1.000 Ci=0.180 Qi=180.00kN / 2階 Ai=1.258 Ci=0.226 Qi=90.54kN

解釈: 硬質地盤(工学的基盤に近い)では Tc=0.4s と短いが、RC の T は 0.162s とさらに短く、Rt は 1.0 のまま。Z=0.9 が効いて Cb が 0.18 に下がっている。東北北部・北海道の一部地域でよくある条件。

ケース③: S造5階建て・普通地盤(T=Tc ギリギリ)

入力: H=18m、n=5、S造、地盤II、Z=1.0、C0=0.2、W=300,400,500,500,500

結果:

  • T = 0.540秒、Tc = 0.6秒 → T < Tc、Rt = 1.000(T=2Tc=1.2 からはまだ遠い)
  • Cb = 0.200、ΣW = 2,200kN
  • 各階(下→上): 1階 Ai=1.000 Qi=440.00kN / 2階 Ai=1.150 Qi=391.14kN / 3階 Ai=1.333 Qi=319.99kN / 4階 Ai=1.600 Qi=223.95kN / 5階 Ai=2.060 Qi=123.60kN

解釈: 中層 S 造ビル。T=0.54s で Tc=0.6s の直下、Rt 減衰の一歩手前。5階の Ai が 2.06 まで伸びており、屋上階の地震力が最下層の倍以上になっていることがわかる。

ケース④: RC5階建て・軟弱地盤(Z=1.0)

入力: H=15m、n=5、RC造、地盤III(軟弱)、Z=1.0、C0=0.2、W=400,500,600,600,600

結果:

  • T = 0.405秒、Tc = 0.8秒 → T < Tc、Rt = 1.000
  • Cb = 0.200、ΣW = 2,700kN
  • 各階(下→上): 1階 Ai=1.000 Qi=540.00kN / 2階 Ai=1.130 Qi=474.70kN / 3階 Ai=1.287 Qi=386.24kN / 4階 Ai=1.511 Qi=272.07kN / 5階 Ai=1.896 Qi=151.67kN

解釈: 軟弱地盤では Tc が 0.8s と長いため、RC で T=0.405s でも Rt=1.0 を維持。地盤 II なら Rt が減じられ始める T 帯だが、地盤 III ではまだ余裕がある。つまり軟弱地盤の方が中低層建物には厳しく働く。

ケース⑤: S造10階建て・高層気味(Rt<1.0 領域)

入力: H=35m、n=10、S造、地盤II、Z=1.0、C0=0.2、W=200,300,350,400,400,450,450,500,500,500

結果:

  • T = 1.050秒、Tc = 0.6秒 → Tc < T ≤ 2Tc(=1.2)なので Rt = 1 - 0.2×(1.050/0.6 - 1)² = 0.8875
  • Cb = 0.177、ΣW = 4,050kN
  • 最下層 Qi ≒ 718.88kN、最上階 Ai=3.252 Ci=0.577 Qi=115.45kN

解釈: 高さ 35m になると T が 1.05s まで伸び、Rt が 0.89 まで下がる。つまり最下層の Cb は 0.2 ではなく 0.177 に。ここが「固有周期が長くなると揺れにくくなる」という Rt の効果。ただし上階の Ai は 3.25 まで伸び、トップヘビーな挙動になる。高層建物で屋上階の設計が効いてくる理由の一端。

ケース⑥: 木造2階建て・戸建て規模

入力: H=6m、n=2、木造、地盤II、Z=1.0、C0=0.2、W=200,400(上階 200kN、下階 400kN)

結果:

  • T = 0.162秒、Tc = 0.6秒 → Rt = 1.000
  • Cb = 0.200、ΣW = 600kN
  • 各階: 1階 Ai=1.000 Ci=0.200 Qi=120.00kN / 2階 Ai=1.305 Ci=0.261 Qi=52.20kN

解釈: 典型的な木造 2 階建て住宅サイズ。Cb=0.2 そのまま、屋根軽量化の効果で総重量も小さい。令46条の壁量計算と突き合わせて、必要壁量が充足しているか確認する用途に使える。

仕組み・アルゴリズム

候補手法の比較: なぜ告示1793号の略算法を直接実装したか

地震層せん断力を求める手法は、実は複数ある。

  1. 等価静的法(告示1793号): 本ツールの実装。固有周期 T を略算式で求め、Rt・Ai を掛け合わせる。確認申請レベルで最も一般的。
  2. モード分解法(固有値解析 + 応答スペクトル): 多自由度系を固有モードに分解し、各モードの応答を SRSS 合成する。高層・不整形建物で必須。
  3. 時刻歴応答解析: 実地震波を直接与えて数値積分。60m 超や免震・制振建物で要求される。

一次設計・ルート1〜2 の範囲では①で十分というのが基準法の立て付けで、確認申請の 99% は①で処理される。モード分解は一貫計算ソフトが裏で回すが、入力と結果を追うのが難しく、手計算との突き合わせが効きにくい。本ツールは「条文通りの略算法を、どこの項が効いたか見える形で」提供することを狙ったので、①の直接実装にした。

実装詳細

計算フローは以下の通り。

// 1. 固有周期 T の略算
const alpha = structureType === "S" ? 1.0 : 0.7;
const T = H * (0.02 + 0.01 * alpha);

// 2. 地盤種別から Tc を取得し、Rt を分岐計算
const Tc = { I: 0.4, II: 0.6, III: 0.8 }[groundType];
const Rt = T <= Tc
  ? 1.0
  : T <= 2 * Tc
    ? 1 - 0.2 * Math.pow(T / Tc - 1, 2)
    : 1.6 * Tc / T;

// 3. 各階の Ai 分布を計算(下から上へ)
const W_total = weights.reduce((a, b) => a + b, 0);
const storyResults = [];
for (let story = 1; story <= n; story++) {
  const idxTopDown = n - story;
  const weightAbove = weights.slice(0, idxTopDown + 1)
                            .reduce((a, b) => a + b, 0);
  const alphaI = weightAbove / W_total;
  const Ai = 1 + (1 / Math.sqrt(alphaI) - alphaI) * 2 * T / (1 + 3 * T);
  const Ci = Z * Rt * Ai * C0;
  const Qi = Ci * weightAbove;
  storyResults.push({ storyNo: story, weightAbove, alphaI, Ai, Ci, Qi });
}

ポイントは3つ。(a) weights は上階→下階の順で入力させる——これは告示1793号の表記に合わせている。内部で逆順参照するより、ユーザーに自然な順で入れてもらった方がミスが少ない。(b) αi は必ず最下層で 1.0 になる——全重量を自分で支えるから当然。この性質を単体テストで担保している。(c) Ai の式に 1/√αi が入るため αi→0 で発散するが、最上階でも αi≥W_top/W_total なので実用上問題ない。ただし storyCount=1 の場合は Ai=1.0 で分岐処理する。

計算例: S造3階建てのステップバイステップ

ケース①の値で手計算を追う。

  1. T = 9 ×(0.02 + 0.01 × 1.0) = 9 × 0.03 = 0.270 秒
  2. Tc = 0.6(地盤II)→ T ≤ Tc なので Rt = 1.000
  3. W_total = 300 + 500 + 500 = 1,300 kN
  4. 1階: weightAbove=1300, α₁=1.0, A₁=1 + (1/√1 - 1) × 2×0.27/(1+3×0.27) = 1 + 0 = 1.000、C₁=1.0×1.0×1.0×0.2=0.200、Q₁=0.2×1300=260.0 kN
  5. 2階: weightAbove=800, α₂=0.6154, 1/√0.6154=1.2747、A₂=1 + (1.2747-0.6154) × 2×0.27/1.81 = 1 + 0.6593 × 0.2983 = 1.1967、C₂=0.2393、Q₂=191.47 kN
  6. 3階: weightAbove=300, α₃=0.2308, 1/√0.2308=2.0812、A₃=1 + (2.0812-0.2308) × 0.2983 = 1 + 1.8504 × 0.2983 = 1.5522、C₃=0.3104、Q₃=93.13 kN

テストベクトルの数値と完全に一致。ツール上でも同じ値が出るよう実装している。

他ツールとの違い

「Ai分布 計算」で検索して出てくるページは、ほとんどが手計算の解説記事か、Excelテンプレートのダウンロードだ。SS7やBUSといった一貫構造計算ソフトは強力だが、年間ライセンス料が数十万円単位。確認申請レベルの略算を試したいだけの学生や独学勢にはハードルが高い。

このツールは施行令88条+告示1793号の略算法に範囲を限定した上で、以下の点で差別化している。

  • Ai分布のステップ表示: 累積重量αi → Ai → Ci → Qi を階ごとに表形式で出す。どこで数値が跳ねるかが一目で分かる。PDF資料の式を眺めるだけでは掴めない「上階が急激に大きくなる感覚」を数字で体験できる
  • 地域係数Zのプリセット: 都道府県別のZ値を選択肢で用意。条文の別表を引く手間を省く
  • 地盤種別でTcを自動切替: I/II/III を選ぶだけで Tc=0.4/0.6/0.8 が切り替わり、Rt の場合分け境界が自動で変わる
  • Qi 配列のクリップボード出力: 層間変形角チェックや保有水平耐力の検算に値を手動転記する必要がない
  • 一次/二次設計のC0ワンタップ切替: C0=0.2(一次)と C0=1.0(二次)を同じ条件のまま比較できる

有料ソフトの代わりではない。実務の検算・学習・Kindle『建築構造設計入門』読者の手元演習ツールとしての立ち位置。有資格者の一貫プログラムを置き換える意図はまったくない。

豆知識・読み物

Ai分布はいつ・なぜ生まれたか

Ai分布の係数式は1981年(昭和56年)の新耐震設計法で導入された。それ以前の旧耐震では「震度法」と呼ばれる方式で、全階一律の水平震度をかけていた。ところが1978年の宮城県沖地震で、上層階の被害が下層階より目立つ事例が多発。上に行くほど揺れが増幅するという、物理学的にはずっと知られていた事実が実務に反映されたのがこの改正だった。

Ai式の元になったのは、建築研究所(現・国研)の大崎順彦らによる応答解析研究。無数の地震波と建物モデルで弾性応答計算を行い、「下層から上層への層せん断力比が1+(1/√αi - αi) × 2T/(1+3T) で近似できる」という結論に至った(新耐震設計法についての解説 - 国土交通省)。分母の 1+3T は固有周期の影響をならすための補正項で、T=0で Ai=1/√αi、T→∞で Ai=1 に収束する。短周期ほど上階が大きく揺れる、という実測傾向に合う。

修正Ai(Fes)と保有水平耐力

実務では Ai だけでは足りず、**Fes(形状特性係数)**で剛性率・偏心率を考慮した割増をかける。偏心率Re>0.15 のねじれやすい建物、剛性率Rs<0.6 の「やわい階」を持つ建物はFeやFsで1.0〜1.5の割増を加算。これは保有水平耐力計算(二次設計)で登場する補正で、一次設計のAi分布とは別の階層にある。本ツールはFesを扱わないが、二次設計まで踏み込むときに必要になる概念として覚えておきたい(日本建築学会 保有水平耐力計算指針)。

略算Tと固有値解析の誤差

固有周期Tをh×(0.02+0.01α)で略算するのはあくまで近似。実建物での固有値解析結果と比べると、略算Tは1〜2割短めに出る傾向がある。Tが短い=Rtが大きい方に振れる=層せん断力が安全側、という理由で略算が許容されている。長周期建物や免震構造では固有値解析必須。

Tips

  1. 各階重量の入力順序は上階→下階で統一: 屋上ペントハウスがある場合は最上行に入れる。屋上が小さくても、ここが Ai分布の頂点に立つので無視しない
  2. 塔状比(H/B)が4を超える場合は要注意: 塔状比の大きい建物は転倒モーメントが効くため、Ai分布だけでは評価しきれない。時刻歴応答解析を別途検討する
  3. 地下階は原則としてAi分布の対象外: 地下は周囲の地盤に拘束されるためAi=1として扱い、本ツールでは地上階のみ入力する。地下水平震度は別条文(施行令88条4項)
  4. 一次→二次の切替で係数が5倍: C0を0.2から1.0に変えるとQiも5倍。二次設計は「保有水平耐力が必要保有水平耐力を上回るか」を確認するもので、層せん断力Qiそのものを部材設計に使うわけではない
  5. 重心ズレがある建物は Fe で割増: 本ツールはFeを扱わないが、平面が整形でないときは最低でもFe=1.15程度の割増を手計算で乗じてからQiを使うこと

FAQ

Q1. このツールで保有水平耐力計算はできる?

できない。本ツールは一次設計(許容応力度設計)用の地震層せん断力 Qi を算出するところまで。保有水平耐力 Qu は各部材の終局強度と塑性ヒンジ形成を追う非線形解析が必要で、一貫構造計算プログラム(SS7、BUS、SNAPなど)での計算が前提になる。本ツールの出力Qiはその入力条件を確認するための検算用途に留まる。

Q2. 一次設計と二次設計のC0はどう使い分ける?

C0=0.2(一次設計)は許容応力度設計用。短期荷重として建物が「壊れない」レベルを設計する。C0=1.0(二次設計)は保有水平耐力計算用で、「倒壊しない」レベルを確認する。ルート1〜3の判定で使い分けるが、4号建築物や小規模S造などはC0=0.2のみで済むケースも多い。告示1791号の必要保有水平耐力式 Qun = Ds × Fes × Qud の Qud がここでいうC0=1.0のQiに相当する。

Q3. 告示1793号の最新版はどこで確認できる?

国土交通省の法令DBで原文を確認できる(建設省告示第1793号 e-Gov法令検索)。2000年の改正で Ai分布式と Rt 式が現行の形に整理され、その後数次の改正を経ている。本ツールは最新改正時点の式に準拠しているが、告示改正時には必ず一次ソースを確認してほしい。

Q4. 略算Tと固有値解析のTはどちらを使うべき?

確認申請レベルの一次設計なら略算T(h×0.02〜0.03)でよい。略算Tは実測より短めに出るため Rt が大きく=Qi が大きく(安全側)算出される。固有値解析の結果を使うのは、長周期建物や免震構造で略算が明らかに適用外のとき、あるいは経済設計のために精算したいときに限られる。ただし固有値解析Tを採用した場合、Rtは告示1793号の式にそのまま代入する。

Q5. 各階重量 Wi には何を含める?

固定荷重(躯体・仕上げ)+地震時積載荷重(施行令85条)。積雪荷重は多雪区域で別途0.35×Pを加算。屋上の高架水槽・空調機・ソーラーパネルなどの重量物も忘れず含める。間仕切壁は固定荷重扱いが一般的。間違いやすいのは倉庫・図書室など積載荷重の大きい用途で、事務室(1800 N/m²)と倉庫(2900 N/m²)では地震用積載荷重(0.6倍〜)にも差が出る。

Q6. Z=1.0でない地域はどう選べばいい?

地域係数Zは建築基準法施行令88条+告示1793号の別表に定められた都道府県・市町村別の値。東京・大阪・愛知など主要都市はZ=1.0、東北北部・北海道の一部はZ=0.9、北海道内陸はZ=0.8、沖縄はZ=0.7。プリセットから該当する値を選ぶか、地方自治体の都市計画情報で確認する。自治体によっては条例でZを割増しているケースもあるので注意。

まとめ

Ai分布・Rt・ベースシア係数Cb を手計算で追うとミスが出やすい。このツールで数値感覚を掴んだ上で、一貫構造計算プログラムでの検算や学習に使ってほしい。

関連ツールもあわせてどうぞ。基礎の接地圧確認は /bearing-capacity、部材の曲げ検定は /beam-strength、鋼材断面の性能確認は /section-weight、鉄筋量の概算は /rebar-calc、あと施工アンカー引抜きは /anchor-strength。確認申請直前の型枠側圧チェックなら /formwork-pressure が便利だ。

数値の解釈や追加機能の要望はお気軽に お問い合わせ から。

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Mahiro

Mahiro Appの開発者。構造一級の学科で Ai分布をつまずいた経験から、T と Rt と Ai がどう連動するかを画面で触れるものを作った。条文を眺めるより手を動かす方が早い。

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