層せん断力の次に詰まる「δ/h」を、1画面で終わらせる
Ai分布で各階の層せん断力 Qi までは出たのに、そこから先の「層間変形角 δ/h」で手が止まる。構造一級の製図試験、意匠から構造に回ってきた物件、耐震診断の検算。どの現場でも、δ = Q/K と δ/h ≤ 1/200 という短い式の前で、Excelシートを作り直すハメになるのが定番の風景だ。
このツールは、層せん断力 Qi・階高 hi・層剛性 Ki を入れると、各階の δ・δ/h・1/N表記・検定比・OK/NG判定を一気に返す。剛性は直接入力モードと、柱本数・断面二次モーメントから K = Σ(12EI/h³) で自動算出する簡易算定モードの2本立て。許容値は原則 1/200、帳壁追従可のとき 1/120 をワンタップで切替。
/seismic-base-shear で出した Qi はそのまま取り込める。つまり、Ai分布 → 層せん断力 → 層間変形角、という二次設計の一本道が、3ページを渡り歩くだけで完結する。
なぜ層間変形角チェッカーを作ったのか
層間変形角の検定は、建築基準法施行令82条の2に一行で書かれているだけの、ごく短い条文だ。けれど実務に落とすと、途端に面倒になる。
きっかけは、Ai分布計算ツール(/seismic-base-shear)を公開したあと、「ここで出した Qi の次は、どのツールを使えばいい?」という問い合わせがぽつぽつ届いたことだ。正直にいうと、答えられなかった。無料のWebツールで層間変形角を検定できるものを、自分も知らなかった。
有償の一貫構造計算プログラムは、当然 δ/h を出してくれる。SS7、SEIN、BUS といった定番だ。だがそれは、モデルを全て組んでからの最終確認のフェーズ。設計の早い段階で「この規模・この剛性で δ/h は通りそうか?」を概算したい場面では、本格ソフトは重すぎる。そういう概算フェーズで、エクセルを自作するか、書籍の事例式を手計算で追うか、の二択になっていた。
構造一級の受験対策でも同じ悩みがあった。過去問で Ai分布と保有水平耐力は出題されるが、層間変形角の数値計算練習は、解答例を読むしかない。自分で数値を変えて「この剛性だと何階でNGになるか」を試す、いわゆる感覚を掴む練習が、手計算だと続かない。
無料で、ブラウザだけで、数値を変えて即答してくれる。そんなツールが無いなら自分で作ろう、と決めた。設計の概算、診断の検算、資格試験の練習。この3つで使えることを条件に、入力を最小限に絞り、δ/h の 1/N 表記まで併記したのが本ツールだ。
層間変形角 とは — 施行令82条の2 を第一原理から読む
層間変形角(そうかんへんけいかく、英: story drift angle)とは、地震時に各階の床が水平方向にどれだけ「ずれた」かを、階高で割った無次元量だ。
具体例で考えたい。2階建ての建物を、横から見たときの変形を想像してほしい。地震で横揺れを受けると、1階の柱が斜めに傾き、2階の床が1階の床より右に δ₁ だけずれる。同じ揺れで2階の柱も傾き、屋根は2階床より δ₂ だけずれる。この δ₁、δ₂ を層間変位(story drift)と呼び、その階の階高 h₁、h₂ で割ったものを層間変形角と呼ぶ。
δ/h = 層間変位 ÷ 階高 (無次元)
単位は無次元だが、実務では「1/200」「1/120」のように分数で表記する習慣がある。1/200 とは、階高400cmの階なら δ は 400/200 = 2cm まで許される、という意味だ。
施行令82条の2 の構成
建築基準法施行令第82条の2は、二次設計(許容応力度等計算)における層間変形角の検定を定めた条文で、およそ次のように構成されている。
- 地震層せん断力
Qiに対して各階に生じる層間変形角を求める δ/hが 1/200 以下であること(原則)- ただし、帳壁(ちょうへき)・窓枠・その他の部材に損傷が生じないことが確かめられた場合は 1/120 まで緩和できる
条文のテキストはe-Govの建築基準法施行令で確認できる。たった3行の条文だが、その裏で「剛性をどう評価するか」「ねじれはどうするか」という実務的な議論が大量にぶら下がる。
1/200 と 1/120 の使い分け — 帳壁追従性能 とは
1/200 は「内装の損傷を防ぐ」値として歴史的に定着した数字だ。ALC板・押出成形セメント板・乾式間仕切壁などの一般的な非構造部材は、層間変形 1/200 程度までは損傷なく追従できる、という経験則に由来する。
1/120 は緩和規定で、帳壁やカーテンウォールが明確に「追従可」と設計された場合にだけ使える。スライド式の目地、ロッキング構法の外壁パネル、伸縮ジョイントの入った間仕切など、変形追従のディテールが組まれていないと1/120は適用できない。
層剛性 Ki の定義
層剛性とは「その階を横に単位長さ(1cm)変位させるのに必要な水平力(kN)」のこと。単位は kN/cm。一般には各階の柱頭・柱脚の支持条件、梁の剛性、耐力壁やブレースの寄与を含む複雑な量で、一貫ソフトではフレーム解析で求める。
本ツールが使う簡易式は、柱の両端が梁で剛に拘束された理想状態での剛性 12EI/h³ を柱本数で合計したものだ。剛性の上限値に相当し、実設計では梁剛性や接合部剛性による低減が必要になる。詳しくは§8で扱う。
参考: Wikipedia「層間変形角」。
実務での重要性 — 層間変形角を誤るとどうなるか
層間変形角を舐めると、構造計算書のやり直しだけでは済まない事態になる。
非構造部材の損傷事例
2011年東北地方太平洋沖地震では、主要構造体は無事でも、内装・設備・帳壁が大破した事例が多数報告されている。とくに被害が集中したのは δ/h が 1/150〜1/100 程度まで応答した建物群で、スプリンクラー配管の破断、天井の脱落、ALC板のはらみ出しが相次いだ。いずれも人身事故に直結する被害で、「構造躯体は持ったが建物は使えない」ことの深刻さを露わにした。
国土交通省の震災関連資料や、日本建築学会の被害調査報告書は、1/200 という原則値が「建物の継続使用性(リジリエンス)」を担保するための最低限の基準であることを繰り返し述べている。
法令違反のリスク
施行令82条の2を満たさない設計は、確認済証が下りない。しかも建築主事の審査で見つからず施工された場合、発覚すれば既存不適格ではなく、はっきり違反建築物として取り扱われる。設計者の懲戒処分、保険の不担保、賠償請求。どれも数千万円単位の話になる。
剛性率 Fes との関係
層間変形角が各階でバラつくと、剛性率 Rs が小さい階(軟階)が生まれる。Rs = Rsi / R̄s が 0.6 を下回る階があると、二次設計で Fes(剛性率・偏心率による割増係数)が発動し、その階の必要保有水平耐力が最大1.5倍に跳ね上がる。つまり δ/h の不揃いは、そのまま下の階の柱を太らせる経済的インパクトにつながる。
設計感覚の校正
中層RC造なら、おおむね 1/400〜1/500(変形角0.002〜0.0025)に収まるのが標準的。S造は柔らかく、1/200〜1/300(0.0033〜0.005)が普通域。木造ラーメンや細長いS造ブレースレス構造では、簡単に 1/100 を超えてしまう。この肌感覚を持っているかどうかが、初動の計画段階で「このプランは成立するか」を判断する分水嶺になる。
活躍する場面
二次設計ルート1/2 の判定
ルート1(層間変形角検定のみ)とルート2(剛性率・偏心率も含む)の分かれ目は、まさにこの δ/h の分布にある。早い段階で検定比と剛性率を眺めれば、「ルート1で通せるか、ルート2相当の補強が要るか」を即決できる。
既存建物の耐震診断
耐震診断のIs値評価とは別に、既存建物の応力検討で δ/h を出すと、Is値が閾値を下回る建物の実際の変形像が見える。「Is=0.4 だから補強」という形式判断から、「1階の δ/h が 1/80 まで行く。制振ダンパーで半減させれば 1/160 で保有水平耐力増強よりも経済的」といった戦略的判断に進める。
改修設計の事前検討
既存鉄骨造の用途変更で、積載荷重が増えて地震力が1.2倍になる場面。旧設計の Ki に新 Qi を入れれば、どの階で検定比が1を超えるかが一瞬で分かる。補強が本当に必要か、どの階の柱を増やすか、を初日に判断できる。
構造一級・二級の受験対策
試験本番で層間変形角の検定計算を解く場合、手計算に頼ると10分はかかる。ツールで正解値を先に掴んでから、自分の手計算との差を確認する。逆算で感覚を磨く学習法に向く。
基本の使い方(3ステップ)
- 階数
n・層せん断力Qi・階高hiを入力。Qiとhiはカンマ区切りで、上階 → 下階 の順に並べる。2階建てで屋根2階 90kN、1階 180kN なら「90,180」。 - 層剛性を入力。直接入力モードなら
Ki(kN/cm)をカンマ区切りで。簡易算定モードなら柱本数・Ix・Eを入れるとK = n × 12EI/h³で自動算出される。 - 許容値を選ぶ。原則は 1/200。帳壁に追従性能が確保された場合のみ 1/120 を選択。
入力後、各階の δ・δ/h・1/N表記・検定比・OK/NGが表で出る。総合判定と、最大検定比の階、最大 δ/h の値も自動表示される。/seismic-base-shear を先に使って Qi を出しておけば、ワンクリックで取り込める。
具体的な使用例・検証データ
Case 1: RC造 2階建て(Direct剛性、OK)
入力: 階数=2、Q=90.54,180 kN、h=350,400 cm、K=300,500 kN/cm、基準=1/200
| 階 | Q (kN) | h (cm) | K (kN/cm) | δ (cm) | δ/h | 1/N | 検定比 | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2階 | 90.54 | 350 | 300 | 0.3018 | 0.000862 | 1/1160 | 0.172 | OK |
| 1階 | 180 | 400 | 500 | 0.3600 | 0.000900 | 1/1111 | 0.180 | OK |
最大 δ/h = 0.000900(1/1111)、検定比が最大の階=1階、総合=OK。検定比0.18ということは、地震力が5倍を超えても層間変形角は通る。中層RC造の典型的な剛性余裕の姿だ。
Case 2: S造 単層工場(Simplified剛性、OK)
入力: 階数=1、Q=200 kN、h=400 cm、柱6本 H-400×200×8×13(Ix=23,700cm⁴)、E=20,500 kN/cm²、基準=1/200
Simplified 計算: K = 6 × 12 × 20500 × 23700 / 400³ = 546.58 kN/cm。
| 階 | Q (kN) | δ (cm) | δ/h | 1/N | 検定比 | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1階 | 200 | 0.3659 | 0.000915 | 1/1093 | 0.183 | OK |
単層の鉄骨工場。ブレースは未考慮で柱モーメントだけで層剛性を見ても、検定比0.18で通る。実施工場ではブレースが入るのでさらに余裕が大きい。
Case 3: S造 3階建てオフィス(Direct剛性、OK)
入力: 階数=3、Q=120,240,340 kN、h=400,400,450 cm、K=420,520,620 kN/cm、基準=1/200
| 階 | δ (cm) | δ/h | 1/N | 検定比 | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|
| 3階 | 0.2857 | 0.000714 | 1/1400 | 0.143 | OK |
| 2階 | 0.4615 | 0.001154 | 1/867 | 0.231 | OK |
| 1階 | 0.5484 | 0.001218 | 1/821 | 0.244 | OK |
1階の階高が他より100cm高い階高不整形の例。それでも Ki を増やしているので検定比は0.24に収まる。剛性率は概ね揃っており Fes の発動も無い。
Case 4: 低剛性 S造2階(制振装置検討例、NG)
入力: 階数=2、Q=140,280 kN、h=400,400 cm、K=80,120 kN/cm、基準=1/200
| 階 | δ (cm) | δ/h | 1/N | 検定比 | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2階 | 1.750 | 0.004375 | 1/229 | 0.875 | 注意 |
| 1階 | 2.333 | 0.005833 | 1/171 | 1.167 | NG |
1階で検定比1.17、NG。剛性を上げるか、制振ダンパーで応答を3割減らすか、の検討に入る。オイルダンパー導入で Qi を8割(112, 224 kN)まで低減できれば、1階の δ/h は 0.004667(1/214)、検定比0.933で救済できる。実務では補強コスト対ダンパーコストの比較資料を作る場面だ。
Case 5: 木造 2階建て(Direct剛性、OK)
入力: 階数=2、Q=30,60 kN、h=270,280 cm、K=40,60 kN/cm(耐力壁含む実効剛性)、基準=1/200
| 階 | δ (cm) | δ/h | 1/N | 検定比 | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2階 | 0.750 | 0.002778 | 1/360 | 0.556 | 適 |
| 1階 | 1.000 | 0.003571 | 1/280 | 0.714 | 適 |
木造2階建て(延床120m²・2階床25kN×0.2≒耐震等級2相当)。柱だけで計算すると簡易算定で K は 8kN/cm程度にしかならず δ/h が 1/80 級になってしまうが、筋交い・構造用合板の耐力壁を含めた実効剛性を直接入力モードで与えると1/280まで収まる。木造は剛性の大半が耐力壁由来である現実が数字で見える。
Case 6: 倒壊域警告(δ/h > 1/50)
入力: 階数=2、Q=250,500 kN、h=400,400 cm、K=30,50 kN/cm、基準=1/200
| 階 | δ (cm) | δ/h | 1/N | 検定比 | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2階 | 8.333 | 0.02083 | 1/48 | 4.167 | NG(倒壊域) |
| 1階 | 10.00 | 0.02500 | 1/40 | 5.000 | NG(倒壊域) |
δ/h が 1/50(=0.02)を超えると、ツールは赤警告を出す。これは大地震時の終局変形の目安で、これを超えると柱のP-δ効果と塑性ヒンジの進展で倒壊するリスクが急増する水準。設計を根本から見直す合図だ。
仕組み・アルゴリズム — δ=Q/K と 12EI/h³ の由来
層剛性の定義 — なぜ δ = Q/K なのか
層間変形角の計算式はひとことで δi = Qi / Ki と書ける。剛性の定義が「単位変位を生じさせる力」、つまり K = Q/δ だから、両辺を入れ替えれば δ = Q/K になる、というごく単純な話だ。
この式は、各階を1本のばねと見なす「層モデル(shear building model)」の前提に立っている。本物の建物は柱・梁・壁が複雑に絡んだ多自由度系だが、層間変形角の検定では「各層は水平方向のばねとして独立に振る舞う」と単純化する。施行令82条の2 が暗黙に前提にしているモデルでもある。
剛性算定の3つの候補手法
- 手計算の剛性マトリクス法: 柱・梁・壁の剛性を集めて層剛性を逆算。正確だが手間が膨大。
- 一貫ソフトのフレーム解析: SS7・SEIN 等が採用。最終設計の本命だが、概算フェーズには重い。
- 簡易剛性算定式
K = Σ(12EI/h³): 柱の両端を梁で剛に拘束した理想状態での剛性。誤差は出るが、計画段階の概算と大小比較に十分。
本ツールは 1 と 3 を選べる構成にした。1 は「直接入力モード」で、設計者が別途計算した Ki を入れる。3 は「簡易算定モード」で、柱本数・Ix・E から自動算出する。
なぜ 12EI/h³ なのか
両端固定の柱に水平力 P が作用したとき、先端の水平変位は梁の曲げ剛性の重ね合わせで次のように導かれる(詳細は構造力学の教科書参照)。
δ = P × h³ / (12 × E × I)
∴ K = P / δ = 12 × E × I / h³
この 12EI/h³ が、1本の柱が作る剛性の理論最大値だ。柱本数 n 本を並列につなぐと、剛性は足し算で n × 12EI/h³ になる。たとえば S造 H-400×200(Ix=23,700 cm⁴)が6本、h=400cm、E=20,500 kN/cm² なら:
K = 6 × 12 × 20500 × 23700 / 400³
= 6 × 12 × 20500 × 23700 / 64,000,000
≈ 546.58 kN/cm
Case 2 の値と一致する。
実設計値との乖離
簡易算定値は「梁を完全剛」と仮定しているので、実際の層剛性より高めに出る。典型的な乖離は次のとおり。
- 梁剛性有限: 実際の梁は柔らかく、柱頭のモーメント拘束が完全ではない。層剛性は0.5〜0.8倍に低下する。
- 柱脚固定度: RC造の根巻き柱脚、S造の露出柱脚は半固定扱い。さらに0.6〜0.9倍。
- 耐力壁・ブレース: これらは逆に剛性を増加させる。モデルに含めないと過小評価。
実務では一貫ソフトで求めた正確な Ki を直接入力モードに入れるのが王道。簡易算定モードは、ルート1成立の見込み判定、用途変更時の影響把握、資格試験の数値練習、といった概算用途に限定するのが賢明だ。
許容値と検定比
δ/h を許容値 allow で割ったものを「検定比」と呼ぶ。
checkRatio = (δi / hi) / allow
allow = 0.005 (Strict, 1/200)
allow = 0.00833 (Relaxed, 1/120)
検定比1.0が合否境界。本ツールは 0.5 以下を「余裕あり」、0.5〜0.85 を「適」、0.85〜1.0 を「注意」、1.0超を「NG」として色分けし、設計余裕度の粒度を一段細かく表示する。施行令は合否しか判定しないが、実務では「注意」ゾーンを拾えることが設計改善の早期着手につながる。
他ツールとの違い(差別化)
層間変形角を扱う計算機は市販の一貫構造計算プログラムに組み込まれているのが普通で、無料のWebツールとしては意外と空白地帯になっている。一次設計までのAi分布や層せん断力を算出する解説ページはいくつかあるけれど、そこから先の「で、層間変形角は? OK? NG?」を即答してくれる入口が見当たらなかった。
このツールの核は2つ。1つめは /seismic-base-shear からの Qi 直接連携。地震層せん断力ツールで計算した結果をlocalStorage経由でそのまま取り込めるので、電卓で転記する手間がない。Aiから δ/h まで1本の導線で繋がる。
2つめは 簡易剛性算定モード。柱断面(H-400×200 などのプリセット or カスタム Ix)と柱本数、階高だけで K = Σ(12EI/h³) を内部計算する。予備検討の段階では梁剛性を細かく入れる前にザッと変形角を当たりたいことが多いので、この「ラフ検算レーン」を正規ルートとして用意してある。
もちろん本設計は一貫計算プログラム(BUS、SS、Super Build/SS3 等)で詰めるべきだけれど、基本計画の段階・耐震診断のラフ検算・学習用の検算には過剰なスペックになりがち。シンプルな入口がほしかった、というのが作り手としての動機。
豆知識・読み物
1/200 はどこから来たのか
建築基準法施行令82条の2に出てくる「1/200」という数字、実は非構造部材の追従限界から逆算されている。内装壁・ALC板・タイル・サッシといった部材は、フレームの層間変形にどこまで追従できるかで限界が決まる。湿式のタイル・モルタル仕上げは 1/200 を超えるとひび割れが顕著になるという実験データが戦後の建築研究所・各大学の実験で蓄積され、それが法令に反映されたという経緯。
乾式の ALC 板や押出成形セメント板(ECP)、金属カーテンウォールなど「追従可能」と判定できる仕上げに限って 1/120 まで緩和されるのが「ただし書き」の考え方。
層間変形角と応答加速度
層剛性 K を下げると固有周期が伸び、応答加速度は一般に小さくなる。ただし層間変位 δ = Q/K は大きくなる。つまり 「柔らかい建物は揺れにくいが変形が大きい」 というトレードオフ。制振装置(オイルダンパーや鋼材ダンパー)はこの変形エネルギーを熱に変換して吸収することで、剛性を下げずに変形も抑えるという一石二鳥を狙う仕掛けになっている。
海外基準との比較
米国の ASCE 7 では層間変形角の許容値をリスクカテゴリ別に定めており、一般建築物で 0.020(1/50)、ハザード用途で 0.015(1/67)といった値が使われる。日本の 1/200 と比べるとかなり緩い印象だが、これは 日本が二次設計まで含めた二段階設計の体系なのに対し、米国は応答低減係数Rで弾性応答を除算する単一段階設計という前提の違いによる。数値だけを並べて「日本は厳しい」と論じるのは早計。
Tips(実務のコツ)
- 帳壁が乾式工法なら 1/120 を検討:ALC・ECP・金属サイディングなど、ロッキングクリップで追従するタイプの外装仕上げなら 1/120 が許される。ただし設計図書に「帳壁追従性の確認」を明記すること。
- ブレース構造は簡易剛性では足りない:柱の曲げ剛性だけの
12EI/h³はラーメン構造向け。ブレース付き架構は軸剛性EA/L cosθが支配的になるので、Directモードで直接Kを入れるか、手計算で合算する。 - RC の初期剛性と剛性低下:RC造は
Ecを使うが、地震時は断面の剛性低下(ひび割れ後)を考慮して 0.5〜0.7倍に低減するのが実務。本ツールは初期剛性ベースなので、NGギリギリの場合は低減を織り込むと危険側になる可能性に注意。 - 最上階より中間階がNGになることが多い:Ai分布で上階ほど
Qi/Wiは大きくなるが、階高と柱剛性の組み合わせ次第で中間階が一番きつくなるケースも珍しくない。結果テーブルで「検定比が最大の階」を必ず確認する。 - 改修前後の比較に使える:既存建物の
QiとKiを入れた後、補強後の想定剛性で再計算すれば改修効果が数値で見える。制振装置の効果検討の一次ふるいとして有用。
FAQ
Q1: 1/200 と 1/120 はどう使い分ける?
原則は 1/200(施行令82条の2本文)。1/120 は同条ただし書きで「建築物の部分に著しい損傷が生ずるおそれのない場合」に適用可能。具体的には外壁・内装・サッシ・仕上げ材が層間変形に追従できる構造(乾式ALC板のロッキング工法、金属カーテンウォールのスウェイ機構など)の場合に限る。設計図書にその旨を明記し、帳壁ディテールで追従性能を確保することが前提。迷ったら 1/200 で検定する のが無難。1/120 を使う場合は構造設計者が帳壁メーカーと追従性能を個別に確認する責任が生じる。
Q2: 簡易剛性 `12EI/h³` は実設計値とどれくらいずれる?
12EI/h³ は柱頭・柱脚ともに完全固定を仮定した値。実際のラーメン架構では梁剛性が有限なので柱頭が回転し、剛性はこれより小さくなる。経験的にはラーメン架構で 0.5〜0.8倍程度が目安。梁剛性が柱剛性より十分大きい(梁スパンが短く断面も大きい)場合は 0.7〜0.8、梁が細く長いスパンだと 0.4〜0.5 まで落ちることも。本設計は D値法やフレーム解析 で精算する。本ツールは一次ふるい・感度チェック用と割り切ってほしい。
Q3: ねじれ変位はどう扱えばいい?
本ツールは重心と剛心が一致した対称建物の並進変形のみを算定する。平面的に偏心がある建物(L字型プラン、片側にコア集中、など)では、ねじれによる各柱の追加変位が生じる。施行令では偏心率 Fe で評価し、Fe > 0.15 だと必要保有水平耐力に割増しがかかる。層間変形角としては、ねじれの影響を含めた重心変位ではなく、最外縁の柱の変位で検定するのが安全側。ねじれ評価は別途、重心・剛心の座標計算と偏心率チェックを行う必要がある(本ツールの評価範囲外)。
Q4: 保有水平耐力計算との関係は?
層間変形角検定は一次設計(許容応力度設計)の枠内で、中程度の地震(C0=0.2相当)に対する使用性・修復性を担保するチェック。一方、保有水平耐力計算は二次設計で、大地震(C0=1.0相当)時の倒壊防止を担保する別レベルの検定。両者は独立した検定で、片方が OK でももう片方が NG になり得る。ルート2・ルート3の選定では、本ツールの層間変形角と、Fes(剛性率・偏心率による割増係数)・保有水平耐力 Qu を組み合わせて判定する。本ツールは前段階の絞り込みに使い、二次設計本体は一貫計算プログラムで行うのが実務。
Q5: Qi を自分で計算したい場合は?
Ai分布と地震層せん断力の算定は /seismic-base-shear で完結する。建物重量(各階の Wi)、地域係数 Z、用途係数 I、振動特性係数 Rt、標準層せん断力係数 C0 を入れると各階の Qi が出るので、本ツールに取り込んで使う流れが標準ルート。
まとめ
層間変形角の検定は、一次設計の締めくくりであり二次設計の入り口でもある重要なマイルストーン。Qi / Ki という単純な割り算の裏に、非構造部材の追従性能・帳壁ディテール・偏心率・剛性率といった多層の判断が絡む。本ツールで 「今の設計、1/200 で通るか」 を 30秒で当たって、通らなければ剛性の見直しか制振装置の検討へ進むという使い方が効率的。
入力フローで連動する関連ツールもあわせて活用してほしい:
- /seismic-base-shear — Ai分布・地震層せん断力
Qiの算定。本ツールへ直接インポート可能 - /column-buckling — 柱の座屈検討。大変形後の安定性確認にセットで使う
質問・バグ報告・「こんな検定機能がほしい」という要望があれば お問い合わせ からどうぞ。構造設計者のリアルな現場感を反映できるほど、このツールは鋭くなる。