プレス金型クリアランス計算

板厚・材質からプレス抜き加工の最適クリアランス・せん断力・ストリッパー力を自動算出

プレス抜き加工の片側・両側クリアランス、せん断力(抜き荷重)、ストリッパー力、必要プレス能力を板厚と材質から自動計算。

材質・板厚

引張強さ 340 MPa / クリアランス比 58%

抜き形状

計算結果

必要プレス能力3.5 ton(せん断力 27.3 kN + ストリッパー 1.4 kN) × 安全率 1.2
小型プレス

片側クリアランス(推奨)

0.104 mm

両側クリアランス

0.208 mm

クリアランス範囲(片側)

0.080〜0.128 mm

抜き周長

62.8 mm

せん断力(抜き荷重)

27.3 kN

ストリッパー力

1.4 kN

本ツールは理論値に基づく概算です。実際の金型設計では材料ロット差・プレス精度・シャー角を考慮してください。

不具合・ご要望はお気軽に@MahiroMemoまで

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0.1mmのズレが、製品の命運を分ける

プレス抜き加工に携わっていると、こんな経験はないだろうか。同じ金型なのに、材質を変えた途端バリが増えた。板厚を0.2mm変えただけで、断面がガタガタになった。原因をたどると、だいたいクリアランスの設定に行き着く。

パンチとダイの隙間――たった0.1mm単位の世界が、製品の断面品質・金型寿命・プレス機の負荷をすべて左右する。ベテランの金型設計者なら経験則で「SPCCの1.6mmなら片側0.1mmくらい」と即答できるかもしれない。でも材質が6種類、板厚が0.1mm刻みで変わる現場では、毎回頭の中で計算するのは非効率だし、ミスの温床になる。

このツールは、材質と板厚と抜き形状を入れるだけで、クリアランス・せん断力・ストリッパー力・必要プレス能力を一括で算出する。早見表をめくる手間も、Excelを開く必要もない。

なぜこのプレス クリアランス計算ツールを作ったのか

きっかけは、ある金型設計の現場で見た光景だった。設計者がA3サイズのクリアランス早見表をデスクに貼り、材質と板厚の交差点を指でなぞっていた。その横にはExcelで自作した計算シートが開いていて、せん断力の計算式がセルに埋め込まれている。材質を変えるたびに早見表とExcelを行ったり来たり。

「これ、1画面で全部出ればいいのに」――そう思った。

Webで「プレス クリアランス 計算」と検索しても、出てくるのはPDFの技術資料か、特定メーカーの製品カタログばかり。ブラウザ上でサッと数値を入れて結果が出るツールは見つからなかった。あったとしても、せん断力まで同時に出るものはない。

金型設計者が本当に欲しいのは、クリアランスだけではない。そのクリアランスで抜いたときに必要なプレス能力がいくらなのか。ストリッパーの力はどれくらい見込めばいいのか。これらが一画面で把握できれば、設計初期の検討が格段に速くなる。

既存のExcel計算シートは便利だが、材質データの更新が属人的だし、共有しにくい。新人が入ってきたとき「あのExcelどこ?」から始まるのは、もう終わりにしたい。ブラウザさえあれば誰でも同じ結果が得られるツールを目指して、このプレスクリアランス計算機を作った。

プレス抜き加工のクリアランスとは何か

せん断加工の基本メカニズム

プレス抜き加工は、パンチ(上型)とダイ(下型)で板材を挟み込み、材料をせん断して切り離す加工法だ。ハサミで紙を切るのと原理は同じ。ハサミの2枚の刃が重なる部分が「せん断面」に相当する。

ただし、ハサミと違ってプレス加工では刃(パンチとダイ)の間に意図的な隙間を設ける。この隙間がクリアランスだ。

日常で例えるなら、クッキー型を生地に押し込む場面を想像してみて。型の外周と下の台の間にわずかな隙間があるから、きれいに型抜きできる。隙間がゼロだと型が台に食い込んで動かなくなるし、隙間が大きすぎると生地がちぎれてボロボロになる。プレス加工のクリアランスも全く同じ理屈だ。

プレス クリアランスの定義と求め方

クリアランスは「パンチとダイの片側の隙間」で定義される。穴抜き加工の場合、パンチ径がそのまま製品の穴径になり、ダイ径 = パンチ径 + 両側クリアランスとなる。外形抜きの場合はダイ径が製品寸法で、パンチ径 = ダイ径 - 両側クリアランスだ。

片側クリアランスの推奨値は、板厚に対する比率で決まる。

片側クリアランス c = t × クリアランス比率 両側クリアランス = 2c

ここで t は板厚(mm)、クリアランス比率は材質によって異なる。一般的な範囲は以下の通り。

材質引張強さ σB (MPa)クリアランス比率
SPCC(冷間圧延鋼板)3405〜8%
SPCD(絞り用鋼板)3104〜7%
SUS304(ステンレス)5206〜10%
アルミニウム A50522603〜6%
銅 C11002203〜5%
真鍮 C28013704〜7%

引張強さが大きい材料ほど、クリアランス比率も大きくなる傾向がある。硬い材料はせん断時にクラックが入りやすく、適正なクリアランスを確保しないと断面品質が著しく悪化するためだ。

せん断力(抜き荷重)の計算

抜き加工に必要なせん断力は、抜き周長・板厚・材料のせん断強さから求められる。

せん断力 F = L × t × τ τ ≈ 0.8 × σB(せん断強さ ≈ 引張強さの80%)

L は抜き周長で、丸抜きなら πD、角抜きなら 2(W+H) になる。この関係は JIS B 0001(機械製図) の基礎となるせん断理論に基づいている。

ストリッパー力と必要プレス能力

パンチが材料を貫通した後、材料がパンチに張り付く。これを引き剥がすのがストリッパーの役割で、その力はせん断力の3〜6%程度(材質による)。必要プレス能力は、せん断力とストリッパー力の合計に安全率1.2を掛けてトン換算する。

クリアランス設定を間違えると何が起きるか

バリ・カエリの発生と品質不良

クリアランスが適正範囲から外れると、真っ先に影響が出るのが断面品質だ。クリアランスが小さすぎると「二次せん断面」が発生する。これはパンチ側とダイ側から発生したクラックがうまく会合せず、断面に段差や引きちぎられた痕が残る現象。逆にクリアランスが大きすぎると、材料が引き込まれてダレ(丸み)が大きくなり、バリも増大する。

たとえば SUS304 の t=2.0mm を適正クリアランス(片側0.16mm)で抜けばきれいな断面が得られるが、片側を0.05mmに詰めると二次せん断面が目立ち、0.30mmに広げるとバリ高さが0.1mm以上になることもある。

金型寿命への影響

クリアランスが不適正だと、パンチとダイに過大な負荷がかかり、摩耗が加速する。日本金型工業会の技術資料によれば、適正クリアランスで運用した場合と比べて、クリアランス不足の金型は寿命が30〜50%短くなるとされている。金型の再研磨・交換コストは1回あたり数万〜数十万円。年間の生産量を考えれば、クリアランス設定の精度が直接コストに響く。

必要プレス能力の見積もりミス

せん断力の見積もりが甘いと、プレス機の能力不足で加工不良が起きる。最悪の場合、プレス機の過負荷で設備が損傷する。逆に過大に見積もれば、不必要に大きなプレス機を使うことになり、設備投資や電力コストが膨らむ。SPCC t=1.6mm の丸抜き φ20mm なら必要プレス能力は約3.5ton だが、SUS304 t=2.0mm の角抜き 30×20mm では10.8ton にもなる。材質と形状で3倍以上の差が出ることを、設計初期に把握しておくことが重要だ。

金型設計のこんな場面で力を発揮する

新規金型の設計初期段階

金型設計のスタート時点で、クリアランスとせん断力の概算値が必要になる。パンチ・ダイの寸法公差を決めるにも、プレス機を選定するにも、まずこの数値がないと始まらない。材質と板厚と形状を入力するだけで瞬時に結果が得られるので、設計初期の検討スピードが上がる。

材質変更・板厚変更の影響評価

既存の金型で被加工材を変更するケースは意外と多い。コストダウンでSPCCからSPCDに変えたい、耐食性を上げるためにSUS304に切り替えたい。そのとき「クリアランスはそのままで大丈夫か?」「プレス機の能力は足りるか?」を即座に確認できる。

海外工場への図面指示・技術移管

海外の協力工場に金型図面を送るとき、クリアランスの根拠を数値で示せると齟齬が減る。「SPCCの1.6mmだから片側0.104mm」と具体的に伝えられれば、現地での解釈違いによるトラブルを防げる。

見積もり段階でのプレス能力確認

営業や生産技術が顧客から図面を受け取った段階で、自社のプレス機で対応可能かを素早く判断する。必要プレス能力が一発で分かれば、見積もり回答のスピードも上がる。

基本の使い方 ― 3ステップで完了

ステップ1: 材質と板厚を選ぶ

プルダウンから被加工材を選択する。SPCC・SPCD・SUS304・アルミニウム・銅・真鍮の6種類から選べる。板厚はmm単位で数値入力。0.05mm〜30mmの範囲に対応している。

ステップ2: 抜き形状と寸法を指定する

「丸」「角」「異形(周長指定)」の3つから形状を選ぶ。丸なら抜き径、角なら幅×高さ、異形なら周長を直接入力する。

ステップ3: 結果を確認する

入力と同時に、片側クリアランス・両側クリアランス・せん断力・ストリッパー力・必要プレス能力が自動表示される。結果はコピーボタンでクリップボードに取り込める。設計資料やメールにそのまま貼り付けよう。

プレス クリアランス計算の使用例 ― 6つの材質×形状パターン

ケース1: SPCC t=1.6mm 丸抜き φ20

もっとも基本的なパターン。冷間圧延鋼板で丸穴を抜く場面だ。

  • 入力: 材質=SPCC、板厚=1.6mm、形状=丸、抜き径=20mm
  • 結果: 片側クリアランス=0.104mm、両側クリアランス=0.208mm、せん断力=27.3kN、ストリッパー力=1.4kN、必要プレス能力=3.5ton
  • 解釈: 小型プレス(5ton級)で十分に対応可能。クリアランスは片側約0.1mmで、一般的な金型製作精度で問題なく管理できる範囲。

ケース2: SUS304 t=2.0mm 角抜き 30×20

ステンレスの角穴抜き。SPCCと比べてせん断力が大幅に増加する。

  • 入力: 材質=SUS304、板厚=2.0mm、形状=角、幅=30mm×高さ=20mm
  • 結果: 片側クリアランス=0.160mm、両側クリアランス=0.320mm、せん断力=83.2kN、ストリッパー力=5.0kN、必要プレス能力=10.8ton
  • 解釈: ケース1の3倍以上のプレス能力が必要。ステンレスは引張強さが520MPaと高いため、クリアランスも板厚の8%と広めに取る必要がある。15ton級以上のプレス機を選定したい。

ケース3: SPCD t=1.0mm 丸抜き φ15

絞り用鋼板の薄板加工。自動車部品のブランク抜きなどで使われる組み合わせ。

  • 入力: 材質=SPCD、板厚=1.0mm、形状=丸、抜き径=15mm
  • 結果: 片側クリアランス=0.055mm、両側クリアランス=0.110mm、せん断力=11.7kN、ストリッパー力=0.5kN、必要プレス能力=1.5ton
  • 解釈: 非常に軽い加工。クリアランスは片側0.055mmとかなり狭いため、金型の芯出し精度がシビアになる。SPCDは絞り性を重視した鋼種なのでクリアランス比率も低め。

ケース4: アルミニウム A5052 t=3.0mm 角抜き 50×30

アルミの厚板加工。筐体パネルの角穴や放熱孔の抜きに使われる。

  • 入力: 材質=アルミニウム A5052、板厚=3.0mm、形状=角、幅=50mm×高さ=30mm
  • 結果: 片側クリアランス=0.135mm、両側クリアランス=0.270mm、せん断力=99.8kN、ストリッパー力=3.0kN、必要プレス能力=12.6ton
  • 解釈: 板厚が3mmあるため、引張強さの低いアルミでもそれなりのせん断力になる。ただしアルミはバリが出やすい傾向があるため、クリアランスの管理精度が品質に直結する。

ケース5: 銅 C1100 t=0.8mm 丸抜き φ10

電子部品のリードフレームやバスバーの打ち抜きに多い組み合わせ。

  • 入力: 材質=銅 C1100、板厚=0.8mm、形状=丸、抜き径=10mm
  • 結果: 片側クリアランス=0.032mm、両側クリアランス=0.064mm、せん断力=4.4kN、ストリッパー力=0.2kN、必要プレス能力=0.6ton
  • 解釈: 極めて軽い加工だが、クリアランスが片側0.032mmと非常にタイト。銅は軟らかく粘りがあるため、クリアランスが大きいとバリが長く伸びてしまう。精密プレスでの加工が望ましい。

ケース6: 真鍮 C2801 t=1.2mm 角抜き 25×15

装飾金具や端子類の加工でよく見る組み合わせ。

  • 入力: 材質=真鍮 C2801、板厚=1.2mm、形状=角、幅=25mm×高さ=15mm
  • 結果: 片側クリアランス=0.066mm、両側クリアランス=0.132mm、せん断力=28.4kN、ストリッパー力=1.1kN、必要プレス能力=3.6ton
  • 解釈: SPCCに近いプレス能力で加工可能。真鍮は切削性が良好な材料だが、プレス抜きではクリアランスが適正ならきれいな光沢断面が得られる。

計算の仕組みとアルゴリズム

候補手法の比較

プレス抜き加工のクリアランス算出には、大きく2つのアプローチがある。

1. 経験式(板厚比率法): 片側クリアランス = 板厚 × 材質固有の比率。シンプルで実用的。多くの金型設計現場や技術資料で採用されている方法。

2. 理論解析(有限要素法): 材料の変形挙動をFEMで解析し、クラック発生・進展をシミュレーションして最適クリアランスを求める。精度は高いが、専用ソフトウェアと材料モデルのパラメータが必要で、概算には向かない。

本ツールでは板厚比率法を採用した。理由は明快で、金型設計の初期検討段階では「概算を素早く得ること」が最優先だからだ。FEM解析は金型の詳細設計段階で必要に応じて実施すればよい。

実装している計算フロー

計算は以下の順序で実行される。

`

  1. 周長 L の算出 丸: L = π × D 角: L = 2 × (W + H) 異形: L = 入力値そのまま

  2. 片側クリアランス c c = t × (ratioMin + ratioMax) / 2 ※ ratioMin〜ratioMax の中間値を推奨値として使用

  3. 両側クリアランス = 2 × c

  4. せん断力 F F = L × t × 0.8 × σB / 1000 [kN] ※ せん断強さ τ ≈ 0.8 × 引張強さ σB

  5. ストリッパー力 Fs Fs = F × stripperRatio

  6. 必要プレス能力 = (F + Fs) / 9.80665 × 1.2 [ton] ※ 安全率 1.2 を乗じてトン換算 `

せん断強さを引張強さの80%とする近似は、金属材料のせん断強さに関する一般的な関係式 として広く受け入れられている値だ。厳密にはMisesの降伏条件から τ = σB / √3 ≈ 0.577σB だが、加工硬化や摩擦の影響を加味して実用上は0.8σBが使われる。

計算例: SPCC t=1.6mm 丸抜き φ20mm

具体的な数値で追ってみよう。

` 材質: SPCC(σB=340MPa, ratioMin=0.05, ratioMax=0.08, stripperRatio=0.05) 板厚: t = 1.6mm 形状: 丸、D = 20mm

  1. 周長 L = π × 20 = 62.83mm

  2. 片側クリアランス c = 1.6 × (0.05 + 0.08) / 2 = 1.6 × 0.065 = 0.104mm

  3. 両側クリアランス = 0.104 × 2 = 0.208mm

  4. せん断力 F = 62.83 × 1.6 × 0.8 × 340 / 1000 = 27.3kN

  5. ストリッパー力 Fs = 27.3 × 0.05 = 1.4kN

  6. 必要プレス能力 = (27.3 + 1.4) / 9.80665 × 1.2 = 3.5ton `

この結果から、5ton級の小型プレスで対応可能と判断できる。クリアランス比率の中間値(6.5%)を採用しているが、断面品質を重視するなら下限寄り(5%→0.080mm)に、金型寿命を優先するなら上限寄り(8%→0.128mm)に調整するのが実務の勘どころだ。

Excel早見表やWeb検索との違い — プレス クリアランス計算ツールの差別化ポイント

プレスのクリアランスを調べるとき、多くの人がまずやるのは「材質名 クリアランス 早見表」でWeb検索するか、社内のExcelシートを引っ張り出すことだろう。それで事足りるケースもあるが、いくつか明確な限界がある。

Excel早見表の問題点。板厚と材質の組合せが固定行で並んでいるだけなので、手持ちの板厚が表にない場合は自分で補間計算が必要になる。さらに、せん断力やストリッパー力まで一貫して出してくれるシートは少ない。結局、クリアランスを引いた後に別の計算式を手打ちする二度手間が発生する。

Web上の解説サイト。理論式は載っていても、実際に数値を入れて結果を返してくれるインタラクティブなツールはほぼ見当たらない。読んで理解して、自分で電卓を叩く必要がある。

このツールは、材質を選んで板厚と形状寸法を入れるだけで、片側・両側クリアランス、せん断力、ストリッパー力、必要プレス能力までワンストップで出力する。丸・角・異形(周長指定)の3形状に対応しているので、単純な丸抜きだけでなく異形抜きの見積もりにもそのまま使える。計算根拠も画面上で確認できるから、上司や客先への説明資料としても流用しやすい。

金型クリアランスにまつわる豆知識

ファインブランキング — クリアランスほぼゼロの世界

通常のプレス抜きではクリアランスを板厚の3〜10%程度に設定するが、ファインブランキング(精密打ち抜き) という工法ではクリアランスを板厚の0.5%以下まで極限に詰める。三方向から材料を拘束しながら打ち抜くことで、切断面がほぼ全面せん断面(光沢面)になり、二次加工なしで高精度な部品が得られる。自動車のギヤ部品やシートベルトのラッチなど、断面品質が安全に直結する部品で広く使われている技術だ。

参考: ファインブランキング — Wikipedia

クリアランスの「パーセント」は国によって違う

日本ではクリアランスを「板厚に対する片側比率」で表すのが一般的(例: SPCC t1.6で片側5〜8%)。一方、欧米の金型メーカーでは「板厚に対する両側比率」で表記するケースがある。海外の金型図面を受け取ったときに「クリアランス12%」と書いてあったら、それが片側なのか両側なのかを必ず確認しよう。片側のつもりで両側12%を適用すると、クリアランスが倍になってバリだらけの製品ができあがる。

せん断強さの経験則はどこから来たか

延性金属に広く適用される「τ ≒ 0.8σB」は、厳密にはvon Misesの降伏条件(τ = σB / √3 ≒ 0.577σB)とは異なる。降伏点ではなく破断に至るせん断強さは加工硬化を含むため、0.7〜0.85倍程度になる。実務では0.8倍が安全側かつ実用的な係数として定着している。

参考: せん断 — Wikipedia

プレス抜き加工で押さえておきたいTips

1. シャー角でせん断力を最大50%カットできる

パンチやダイの刃先に角度(シャー角)をつけると、材料を一度に全周せん断するのではなく、端から順に切り進めるようになる。これにより瞬間最大荷重を大幅に低減できる。目安として、シャー角を板厚と同じ高さに設定すると、せん断力は約50%に下がる。プレス能力がギリギリのときにまず検討してみて。

2. パンチ研磨のタイミングは「バリ高さ0.05mm」が目安

クリアランスが適正でも、パンチの刃先が摩耗すればバリは大きくなる。一般的に、バリ高さが0.05mmを超えたら研磨のサイン。SPCCで板厚1.0mm程度なら、概ね10万〜30万ショットが研磨インターバルの目安になる。研磨量は1回あたり0.1〜0.3mm程度で、パンチの有効長を管理しておくことが大切。

3. 抜き径が板厚より小さいときはパンチ座屈に注意

丸抜きで抜き径 < 板厚になると、パンチが細長い棒状になり座屈リスクが急増する。目安として、抜き径は板厚の1.0倍以上を確保するのが基本。どうしても小径抜きが必要なら、ガイドプレートでパンチを保持する、段階抜きにする、パンチ材種をハイス鋼や超硬に変更するなどの対策が要る。

4. クリアランスは「穴抜き」と「外形抜き」で寸法の持たせ方が逆

穴抜き(穴を開ける加工)ではダイ側を製品寸法にしてパンチを小さくする。外形抜き(製品を打ち抜く加工)ではパンチ側を製品寸法にしてダイを大きくする。クリアランスの数値は同じでも、どちらに寸法を持たせるかで図面の書き方がまるで変わるので要注意。

よくある質問 — 金型 クリアランス 求め方のギモン

クリアランス比率の推奨値に幅があるのはなぜ?

同じ材質でも、求める断面品質・バリ許容量・金型寿命のバランスによって最適値が変わるためだ。クリアランスを小さくすれば断面はきれいになるが、パンチ・ダイの摩耗が早まり金型寿命が短くなる。逆に大きくすると寿命は延びるが、バリやダレが増える。本ツールでは最小〜最大の中間値を推奨値として表示しているが、品質要求が厳しい場合は最小側、量産優先なら最大側に寄せるのが実務的な判断になる。

SUS304のクリアランスが他の材質より大きいのはなぜ?

SUS304はオーステナイト系ステンレスで、加工硬化が非常に大きい材料だ。引張強さが520MPa級と高く、せん断時の抵抗も大きい。クリアランスが狭いとパンチへの側圧が過大になり、カジリ(焼き付き)やパンチ折損が起きやすい。そのため、SPCCの5〜8%に対してSUS304は6〜10%と広めに設定するのが一般的。金型の表面処理(TiCNコーティングなど)を併用することも多い。

異形抜きで周長をどうやって求めればいい?

CADデータがあれば、外形線を選択して「周長計測」コマンドで一発で取得できる。CADがない場合は、形状を直線と円弧に分解して合算する。例えば、角丸長方形なら「直線部4辺の合計 + 角丸部の円弧長(= 2πr × 4/4 = 2πr)」で求められる。概算で良ければ、糸を形状に沿わせてスケールで測る原始的な方法も意外と実用的。

入力した板厚や寸法のデータはサーバーに送信される?

一切送信されない。すべての計算はブラウザ内(JavaScript)で完結しており、サーバーとの通信は発生しない。入力データはページを閉じた時点で消える。社外秘の図面寸法を入力しても情報漏洩のリスクはないので、安心して使ってほしい。

まとめ — プレス金型設計の計算をもっと手軽に

プレス抜き加工のクリアランス・せん断力・必要プレス能力は、材質と板厚と形状が決まれば理論的に算出できる値だ。このツールを使えば、早見表やExcelを引っ張り出す手間なく、ブラウザ上で即座に確認できる。

金型設計の前工程として板金展開が必要なら 板金展開計算 も活用してみて。また、曲げ工程のプレス能力を見積もりたいなら プレス曲げ荷重計算 と組み合わせると、抜き〜曲げの一連のプレス設計がカバーできる。


計算結果に関する疑問やフィードバックがあれば、お問い合わせページから気軽にどうぞ。

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Mahiro

Mahiro Appの開発者。プレス金型の設計現場で、クリアランス早見表とExcelを何度も行き来した経験から作ったツール

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