同じ機械でも、置く台の固さで揺れ方は別物になる
洗濯機が脱水に入った瞬間、床までゴトゴト共振して家じゅうが鳴る。ブランコは、押すタイミングを合わせるだけで小さな力でどんどん振れ幅が育つ。橋の上を大勢が同じ歩調で渡ると、じわじわ横揺れが増幅していく——これらはすべて「固有振動数」という一つの物差しで説明がつく。
物には、外から叩くと必ずそこに戻ろうとする「揺れやすい速さ」がある。それが固有振動数だ。厄介なのは、機械の回転数や人の歩調がこの速さと重なった瞬間、振幅がスッと数倍〜十数倍に跳ね上がること。逆に、この速さを外しさえすれば揺れは驚くほど収まる。共振に「合わせるか」「外すか」で、機械の寿命も床の使い心地も運命が分かれる。
このツールは、ばね質量系・梁の曲げ・実測たわみという3つの入口から系の1次固有振動数 f[Hz] を求め、機械の回転数や加振周波数を入れれば「今、共振域に入っているか」までワンタップで判定する。設計の初手で共振を避けるための、一番手前の物差しだ。
なぜこのツールを作ったのか
振動まわりのツールは、実はすでにいくつか手元にあった。防振ゴムの伝達率と必要ばね定数を出す/vibration-isolator-calc、稼働中の機械の振動速度から状態を診る/vibration-severity-iso10816、ばね単体のサージングを見る/spring-design。どれも振動の「周辺」を担ってくれる。
ところが、肝心の「その系の固有振動数そのものはいくつなのか」を出すど真ん中のツールが、どこにも無かった。防振材を選ぶにも、床の歩行振動を心配するにも、危険速度を確認するにも、出発点は必ず固有振動数 f_n だ。そこが空白のまま周辺ツールだけ揃っていたのが、ずっと気持ち悪かった。
もう一つの不満は、入口がバラバラだったこと。ばね支持された機械なら f=(1/2π)√(k/m) で一発だが、鉄骨の床梁なら断面二次モーメントとスパンから f=(λ₁²/2π)√(EI/(m̄L⁴)) を叩く必要があり、機器が載れば今度はレイリー法に切り替わる。現場で自重たわみだけ測れているなら f≒15.76/√δ の概算が一番速い。同じ「固有振動数を出す」でも、手元にある情報によって使う式が丸ごと変わる。そのたびに教科書や電卓を行き来するのが面倒だった。
だから、3つの入口を1画面のモード切替に統合し、集中質量の有無で厳密係数式とレイリー法を自動で切り替え、そのまま加振周波数を入れれば共振判定まで出るようにした。ちなみに、この振動の基礎的な考え方は、材料力学の続編として別途まとめている執筆準備中のテーマでもあり、その理論部分を実務で試せる場としてもツール化している。
固有振動数とは何か
固有振動数 とは — 剛性と質量の綱引き
固有振動数(natural frequency)とは、系を外力なしで自由に振動させたとき、1秒間に何回往復するかを表す量だ。単位はHz(ヘルツ)。すべての基本になるのが、1自由度のばね質量系の式である。
f = (1 / 2π) · √(k / m) [Hz]
ここで k はばね定数(戻そうとする力の強さ=剛性)、m は質量(動きにくさ=慣性)だ。式が語っているのは、ごくシンプルな綱引きの構図である。剛性 k が大きいほど「早く元へ戻そう」とするので振動は速くなり、質量 m が大きいほど「重くて戻りにくい」ので振動は遅くなる。固い金属定規は速く「ビーン」と鳴り、重い鐘はゆっくり「ゴーン」と鳴る——この違いがそのまま k と m の比なのだ。
身近なたとえならブランコが分かりやすい。ブランコには「勝手に揺れたい周期」があり、その周期に合わせて押すと小さな力でどんどん振れる。逆に、でたらめなタイミングで押しても振れ幅は育たない。この「勝手に揺れたい速さ」こそ固有振動数だ。ワイングラスを指で弾くと決まった高さの音が鳴り、同じ高さの声を出し続けると割れることがある——あれもグラスの固有振動数に声を合わせて共振させている。
固有振動数 公式 — 角振動数ωと周期T
固有振動数 f と一緒によく登場するのが、角振動数 ω[rad/s] と周期 T[s] だ。三つは同じ現象を別の単位で見ているだけで、次の関係で結ばれている。
ω = 2π·f [rad/s] … 1秒あたりの位相の進み(ラジアン)
T = 1 / f [s] … 1往復にかかる時間
角振動数 ω は「回転として見たときの角速度」で、運動方程式を解くときに素直に出てくる。周期 T は「1回揺れるのに何秒か」で、体感に近い。回転機械では、固有振動数 f[Hz] を60倍した f×60[rpm] が1次の危険速度の目安になる(回転数=固有振動数のとき共振するため)。
梁は連続体でも「1次だけ」なら1自由度に落とせる
ばね質量系は質点1個の単純な系だが、鉄骨梁や床は無数の点が連続してつながった「連続体」で、本来は無限個の固有振動数を持つ。ただし実務で問題になるのは、たいてい一番低い1次モード(最も揺れやすい基本の揺れ方)だ。高次モードほど固有振動数が高く、外力と重なりにくい。
そこで本ツールは1次モードに的を絞る。連続体でも1次モードだけなら、そのモード形状に対応する「等価な剛性」と「等価な質量」を持つ仮想の1自由度系に縮約でき、結局は f=(1/2π)√(k/m) と同じ枠組みに乗る。梁の厳密係数 λ₁² やレイリー法の等価質量 κ·m̄L は、この「連続体→1自由度」の翻訳係数にあたる。だからモードが違っても、画面に出る答えの意味(f・ω・T・危険速度)は共通で読める。
より正確な定義や高次モードの扱いは、Wikipedia「固有振動数」やWikipedia「共振」も参照してほしい。
なぜこの数値が設計を左右するのか
固有振動数を軽く見てはいけない最大の理由は、共振に入った瞬間の振幅の増え方にある。加振周波数が固有振動数から離れているうちは、応答倍率(動的な振れ幅/静的な変位)はほぼ1倍で収まる。ところが両者が重なると、振幅を抑えるのは減衰だけになり、減衰の小さい鋼構造や機械では応答が数倍〜十数倍に跳ね上がる。同じ力で加振しているのに、周波数が合っただけで振れ幅が桁で変わるのだ。この増幅が、疲労破壊・異常騒音・機器故障の主因になる。
具体的な実害はあちこちにある。回転機械では、危険速度を素通りせず常用回転数に据えてしまうと、軸やベアリングが恒常的に大振幅で回り続け、早期に疲労破壊する。オフィスや店舗の鉄骨床では、人の歩調(およそ1.5〜2.5Hz とその倍音)が床の1次固有振動数に近いと、歩くたびに床がフワフワ揺れ、居住性のクレームや使用性(サービサビリティ)の不合格につながる。日本建築学会の「建築物の振動に関する居住性能評価指針」でも、床の固有振動数と応答加速度が評価軸になっている。配管では、内部流体の脈動やポンプの回転数が支持スパンの固有振動数と合うと、サポートが緩み溶接部が疲労で割れる。
歴史的にも、1940年のタコマナローズ橋の崩落は「風による加振と構造の応答がかみ合った」振動現象の象徴として語り継がれている(厳密には単純な共振ではなく自励振動=フラッターだが、固有振動数の設計を誤ると系が制御不能に振れうる、という教訓は共通だ)。
だからこそ、機械設計・構造設計の世界には「固有振動数を加振周波数の 0.8〜1.25倍の帯(共振域)から外へ離す」という設計原則が根づいている。逆に防振では「固有振動数を加振周波数の 1/√2 倍より低く(=振動数比 √2超)設計すれば伝達率が1を下回り防振が成立する」という指針になる。いずれも数値を一つ読み違えれば、狙って避けたはずの共振域にそのまま突っ込むことになる。固有振動数は、揺れの設計における「合否ライン」そのものなのだ。
こんな場面で活躍する
- 回転機械の据付前チェック: ポンプ・送風機・モーターを架台に載せる前に、系の固有振動数と常用回転数から求めた加振周波数を比べ、危険速度に乗っていないかを確認する。据え付けてから共振が判明すると手戻りが痛い。
- 防振架台の固有振動数設計: 防振ゴムやばねで機械を支えるとき、加振周波数の √2倍より低いところに固有振動数を落とせているか(振動絶縁域に入っているか)を先に押さえる。詳しい伝達率は防振材選定へ渡す。
- 鉄骨床・歩廊の歩行振動の事前確認: 床梁のスパン・断面・積載から1次固有振動数を試算し、歩調(1.5〜2.5Hz)と近すぎないかをチェックする。使用性トラブルを図面段階で潰せる。
- 配管・機器架台の共振回避: 流体脈動やモーター回転数に対して、支持スパンの固有振動数が近接していないかを確認し、サポート間隔や断面を決める材料にする。
- 試験勉強・学び直し: 技術士(機械部門)や機械設計技術者試験で頻出の、梁の固有振動数・危険速度・レイリー法を、数値を動かしながら体で覚える教材として。
基本の使い方(3ステップ)
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計算モードを選ぶ: 手元にある情報に合わせて「ばね質量系」「梁の曲げ」「静たわみ法」から選ぶ。ばね支持された機械ならばね質量系、鉄骨梁や床なら梁の曲げ、自重たわみだけ分かっているなら静たわみ法が近道。代表シナリオのプリセットを押せば、モードと数値が一括で入る。
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系の値を入力する: ばね質量系はばね定数 k[N/mm] と質量 m[kg]。梁は支持条件・スパン L・ヤング率 E・断面二次モーメント I・単位長さ質量 m̄ を入れ、機器が載るなら集中質量 M を追加(空欄なら分布質量のみの厳密式、入れるとレイリー法へ自動切替)。静たわみ法は実測または計算したたわみ δ[mm] を一つ入れるだけ。梁ではH形鋼プリセットで断面値をまとめてセットできる。
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固有振動数と共振判定を読む: 固有振動数 f・角振動数 ω・周期 T・危険速度の目安 rpm がすぐ出る。さらに機械の回転数や加振周波数を(Hz または rpm で)入れると、振動数比 f_ex/f_n と、共振域・共振近接・振動絶縁域・剛性支配域の判定が色つきで表示される。
具体的な使用例(7ケース)
以下は3モードすべてと、梁の厳密式/レイリー法、共振判定の全帯域をカバーする7ケースだ。数値は検算済みの計算結果をそのまま示す。
ケース① ばね質量系の基本(加振なし)
- 入力: モード=ばね質量系、ばね定数 k=100 N/mm、質量 m=50 kg、加振なし
- 結果: f=7.118 Hz、ω=44.72 rad/s、T=0.140 s、危険速度の目安 427 rpm
- 解釈: 最も素直なばね質量系。k を N/m に換算して
ω=√(1e5/50)=44.72から f=7.12Hz が出る。この機械を回転数で回すなら、およそ 427rpm 付近が1次危険速度の目安になる。まずは基準となる固有振動数を掴むケース。
ケース② モーター架台を1500rpmで加振(振動絶縁域)
- 入力: モード=ばね質量系、k=200 N/mm、m=300 kg、加振 1500 rpm
- 結果: f=4.109 Hz、加振周波数 f_ex=25.0 Hz(=1500/60)、振動数比 ρ=25/4.109=6.08 → 振動絶縁域
- 解釈: 防振支持された300kgのモーター架台。固有振動数4.1Hzに対し加振25Hzは √2 をはるかに超え、ρ=6.08 で伝達率<1 の防振が成立している理想的な状態。この域に入ったら、具体的な伝達率と必要ばね定数は/vibration-isolator-calcで詰める流れになる。
ケース③ H形鋼の片持ち梁+先端機器(レイリー法)
- 入力: モード=梁、片持ち、L=1.5 m、E=205 GPa、I=1840 cm⁴(H-200×100)、m̄=21.3 kg/m、先端集中質量 M=150 kg
- 結果: f=23.22 Hz、ω=145.89 rad/s、T=0.043 s、危険速度の目安 1393 rpm
- 解釈: 先端に150kgの機器を載せた片持ち梁。集中質量Mを入れたので厳密係数式ではなくレイリー等価質量法へ自動で切り替わり、梁自身の分布質量は等価質量 κ·m̄L に縮約される。機器を外部支持で片持ちに載せる架台の共振チェックに使う典型例。
ケース④ 単純支持の床梁+積載500kgを歩行2Hzで加振(剛性支配・準静的)
- 入力: モード=梁、単純支持、L=6 m、I=13600 cm⁴(H-350×175)、m̄=49.6 kg/m、中央集中質量 M=500 kg、加振 2 Hz(歩行)
- 結果: f=15.60 Hz、振動数比 ρ=2/15.60=0.128 → 剛性支配域(準静的・増幅小)
- 解釈: 500kgを積載した6m床梁。人の歩調2Hzに対し固有振動数15.6Hzは十分高く、ρ=0.13 で加振は固有振動数よりずっと低い。応答はほぼ静的で増幅がなく、歩行振動の心配が小さい「良好な床」と判断できる。図面段階で使用性を裏取りするケース。
ケース⑤ 両端固定の梁(高剛性で高い固有振動数)
- 入力: モード=梁、両端固定、L=4 m、I=7210 cm⁴(H-300×150)、m̄=36.7 kg/m、分布質量のみ
- 結果: f=141.23 Hz、ω=887.40 rad/s、T=0.0071 s、危険速度の目安 8474 rpm
- 解釈: 両端を剛結した梁は係数 λ₁²=22.373 と単純支持(π²≒9.87)の2倍以上で、固有振動数が跳ね上がる。同じ断面でも支持条件だけで固有振動数が大きく変わることを示す例。剛結による高剛性を狙う設計の効果確認に。
ケース⑥ 静たわみ5mmを7Hzで加振(共振域・赤)
- 入力: モード=静たわみ法、たわみ δ=5 mm、加振 7 Hz
- 結果: f=7.05 Hz、振動数比 ρ=7/7.05=0.993 → 共振域(赤)
- 解釈: 系の詳細が分からなくても、自重たわみ5mmから
f≒15.76/√5=7.05Hzと概算できる。ところが加振7Hzがほぼ真上に重なり、ρ=0.99 で完全な共振域。このまま運転すれば大振幅で増幅する危険な状態で、回転数の変更か剛性・質量の調整が必要と即座に分かる。
ケース⑦ 単純支持の分布梁を2700rpmで加振(共振近接・黄)
- 入力: モード=梁、単純支持、L=6 m、I=13600 cm⁴、m̄=49.6 kg/m、分布質量のみ、加振 2700 rpm
- 結果: f=32.71 Hz、加振 f_ex=45.0 Hz(=2700/60)、振動数比 ρ=45/32.71=1.376 → 共振近接(黄)
- 解釈: ケース④と同じ断面でも積載なし・分布のみなら固有振動数は32.7Hz。加振45Hzは共振域(0.8〜1.25)の外だが、1.25<ρ≦√2 の「共振の裾」に入っている。運転条件のばらつきや経年で固有振動数がずれると共振域へ落ちるため、余裕を持たせたい注意領域だ。
7ケースを並べると、同じ「固有振動数を出す」でも入口(ばね・梁・たわみ)と共振帯(絶縁域・準静的・共振・共振近接)で読み方が変わることが見えてくる。
仕組み・アルゴリズム
厳密係数式・レイリー法・FEMの三択でなぜこの3本立てか
固有振動数の求め方には、大きく3つの立場がある。梁の厳密係数式(オイラー・ベルヌーイ梁の境界値問題を解いた閉形式)、レイリー法(仮定したモード形状からエネルギー等価で1自由度に縮約する近似)、そしてFEMモード解析(連続体を要素分割して固有値問題を数値的に解く)だ。
FEMは任意形状・多自由度に対応でき最も汎用だが、モデル作成と計算の手間が重く、「概算で共振を避けたい設計初手」には過剰だ。一方、単純な梁やばね質量系なら閉形式の厳密係数式で十分精度が出る。梁上に機器が載る現実的なケースは、厳密解が煩雑になるためレイリー法が実用的な落としどころになる。そこで本ツールは「厳密係数式+レイリー法」を軸に、集中質量の有無で自動的に使い分ける構成にした。詳細設計はFEMや実測(打撃試験)へ引き継ぐ前提の、手前の概算役という位置づけだ。
梁の厳密係数 λ₁² の由来
分布質量のみの梁の1次固有振動数は、次の閉形式で表せる。
f = (λ₁² / 2π) · √(E·I / (m̄·L⁴)) [Hz]
E: ヤング率[Pa](GPa×1e9) I: 断面二次モーメント[m⁴](cm⁴×1e-8)
m̄: 単位長さ質量[kg/m] L: スパン[m]
係数 λ₁² は、梁のたわみの微分方程式に境界条件を課したときに現れる「振動数方程式」の第1根 β₁L の2乗だ。支持条件ごとに方程式が変わり、根も変わる。
片持ち : cos(βL)·cosh(βL) = -1 → β₁L=1.8751 → λ₁²=3.5160
単純支持: sin(βL) = 0 → β₁L=π → λ₁²=π²≒9.8696
両端固定: cos(βL)·cosh(βL) = 1 → β₁L=4.7300 → λ₁²=22.3733
この係数の違いが、ケース⑤(両端固定141Hz)とケース⑦(単純支持32.7Hz)の差を生んでいる。同じ断面・スパンでも、拘束が強いほど λ₁² が大きく、固有振動数が高くなる。
レイリー法:分布質量を等価質量に縮約する
梁に集中質量 M が載ると厳密解は一気に複雑になるので、レイリー法で近似する。考え方は「最大運動エネルギー=最大ポテンシャルエネルギー」のエネルギー等価だ。仮定したモード形状(静的たわみ形状)に沿って、梁の分布質量が持つ運動エネルギーを、集中質量位置に置いた等価質量 κ·m̄L に置き換える。すると系は集中荷重に対する曲げ剛性 k_b を持つ1自由度系に落ちる。
f = (1 / 2π) · √(k_b / (M + κ·m̄·L)) [Hz]
k_b = kb·E·I / L³ … 片持ち kb=3 / 単純支持 kb=48 / 両端固定 kb=192
κ(等価質量係数) … 片持ち 33/140 / 単純支持 17/35 / 両端固定 13/35
k_b は「集中荷重を1点にかけたときのばね定数」そのもの(例えば片持ちなら k_b=3EI/L³)。κ は仮定形状の2乗を積分して求まる係数で、片持ちなら 33/140≒0.236、つまり梁自身の全質量 m̄L のうち約24%だけが先端で効く、という意味になる。集中質量欄が空なら厳密係数式、値が入るとこのレイリー式へ自動で切り替える。両式は1次モードのどちらも妥当な推定で、差は約1.5%(レイリー法は仮定形状に基づく上界近似のため、真値よりわずかに高めに出る)。理論の背景はWikipedia「レイリー商」が参考になる。
静たわみ法 f≒15.76/√δ の導出
系の詳細が不明でも、自重によるたわみ δ が分かれば固有振動数を概算できる。自重系では静たわみが δ=mg/k すなわち k/m=g/δ の関係にあることを使い、ばね質量系の式に代入する。
f = (1/2π)·√(k/m) = (1/2π)·√(g/δ)
= (1/2π)·√(9.80665 / (δ/1000)) (δ は mm、g=9.80665 m/s²)
≒ 15.76 / √δ[mm]
係数15.76は √(9.80665×1000)/(2π)≒15.76 から出る。ケース⑥の δ=5mm なら 15.76/√5=7.05Hz だ。
計算例:片持ちH形鋼+先端質量(ケース③のステップ計算)
レイリー法の流れを、ケース③(片持ち・L=1.5m・E=205GPa・I=1840cm⁴・m̄=21.3kg/m・M=150kg)で追う。
① 単位換算 : E=205×1e9=2.05e11 Pa, I=1840×1e-8=1.84e-5 m⁴
② 曲げ剛性 : k_b = 3·E·I / L³
= 3×2.05e11×1.84e-5 / 1.5³
= 1.1316e7 / 3.375 = 3.353e6 N/m
③ 等価質量 : m_eff = M + κ·m̄·L
= 150 + (33/140)×21.3×1.5
= 150 + 7.53 = 157.53 kg
④ 角振動数 : ω = √(k_b / m_eff) = √(3.353e6 / 157.53) = 145.89 rad/s
⑤ 固有振動数: f = ω / 2π = 145.89 / 6.2832 = 23.22 Hz
最後に共通の後処理として周期 T=1/f、危険速度 f×60[rpm] を計算する。加振周波数が入力されていれば、Hz はそのまま・rpm は60で割ってHzに換算し、振動数比 ρ=f_ex/f_n を求める。この ρ を閾値 0.7/0.8/1.25/√2 の4点で区切り、剛性支配域・共振近接・共振域・振動絶縁域を判定する。ρ は低い側も高い側も安全という非単調な指標なので、単純な大小ではなく帯で読むのがポイントだ。
振動4部作での位置づけ——他ツールとの違い
固有振動数そのものを出すツールを作ったのは、手持ちの振動ツールがどれも「その先」か「その手前」ばかりを扱っていて、肝心の入口が抜けていたからだ。似た名前のツールと何が違うのか、役割で整理しておく。
- /vibration-isolator-calc(防振ゴム選定・振動絶縁)は、防振材の伝達率と必要ばね定数を出す。固有振動数が加振の
√2倍より下、つまり絶縁域に入っていることが前提のツールだ。 - /vibration-severity-iso10816(機械振動シビアリティ判定)は、すでに稼働している機械の振動速度RMSから状態を診断する。据付後の健康診断にあたる。
- /spring-design(ばね設計シミュレーター)は、圧縮コイルばね単体のばね定数と、ばね自身の固有振動数であるサージングを扱う。部品レベルの計算だ。
本アプリが受け持つのはその真ん中——「系全体の1次固有振動数はいくつか」「加振周波数と共振するか」というど真ん中の問いだ。3本はどれも固有振動数を「使う」側で、それを最初に「出す」ツールが無かった。実務ではこの順で回すと4つがひとつながりの流れになる。
固有振動数を出す(本アプリ)
→ 加振の√2倍以下の絶縁域に入っているか確認
→ 防振材を選ぶ(vibration-isolator-calc)
→ 据付後に振動を測って診断(vibration-severity-iso10816)
「系の固有振動数 → 絶縁の可否 → 防振材選定 → 稼働診断」という振動設計の4部作。その第1手を担うのがこのツールだ、と位置づけている。
揺れをめぐる小話——共振の意外な素顔
固有振動数と共振には、設計の教科書からこぼれた面白い逸話が多い。いくつか紹介したい。
タコマ橋は「共振」ではなかった。 1940年に崩落したタコマナローズ橋は、しばしば風の共振の例として語られる。だが厳密には、風で生じた渦がねじれ振動と互いに増幅し合う自励振動(フラッター)で、外力の周波数が固有振動数に一致したわけではない。共振は外から来る決まった周波数の力が固有振動数と合う現象。自励振動は構造自身が揺れることでエネルギーを取り込む別物だ。詳細はWikipediaのタコマナローズ橋の項が詳しい。
ロンドンのミレニアムブリッジは人の足で揺れた。 2000年の開通直後、歩行者の横揺れと橋の横揺れが同期し、大きく揺れて数日で閉鎖された。人が揺れに合わせて無意識に足を踏み出し、揺れをさらに増幅する同期現象だった。後から制振ダンパーを追加して解決している。
声でワイングラスを割るのも共振だ。グラスの縁を弾いたときの澄んだ音の高さが、そのグラスの固有振動数。同じ高さの声を大音量で当て続けると振幅が増幅し、ガラスの限界を超えて割れる。
材料を変えると固有振動数がどう動くかも直感に反する。同じ断面形状の梁なら、固有振動数はおよそ √(E/ρ)(ヤング率と密度の比の平方根)に比例する。
f ∝ √(E/ρ) (同じ断面形状の梁のとき)
鋼 : √(205e9 / 7850) ≒ 5110 m/s
アルミ: √(70e9 / 2700) ≒ 5090 m/s
鋼をアルミに替えるとヤング率は約1/3に落ちるが、密度も約1/3になるため、比 E/ρ はほぼ変わらず、固有振動数もほとんど動かない。軽くしても揺れの速さは同じ、というのは覚えておく価値がある。地震で建物を守る免震も、あえて建物の固有周期を長く(固有振動数を低く)ずらして、地震の揺れの周期から逃がす発想だ。共振は敵にも味方にもなる。
使いこなしのコツ(Tips)
- 加振周波数は必ず単位をそろえる。 回転数から比べるときは
rpm ÷ 60でHzに直す。1500rpmなら25Hz。ツールのrpmモードは内部でこの換算をしてから振動数比を出しているので、単位切替を間違えなければそのまま入れてよい。 - ばねの合成は並列と直列で逆になる。 防振ゴムを4個並べて機械を支えるなら並列で、合成ばね定数は
k×4(和)。ばねを縦に重ねる直列なら1/k_total = Σ(1/k)(逆数の和)で軟らかくなる。系全体の等価ばね定数を入れるのが前提なので、合成してからk欄へ。 - 梁の上の機器は集中質量Mに入れる。 単位長さ質量
m̄は梁そのものの重さ。ポンプやモーターなど載る機器は集中質量Mへ分けて入れる。Mを入れた瞬間、計算は分布質量のみの厳密式からレイリー法へ自動で切り替わる。 - 危険速度の目安
f×60は単純な回転体の1次概算。 実際の軸系は軸受剛性・ディスク位置・複数ディスクでモデル化が変わり、ジャイロ効果や遠心力も効く。重要な軸系は別途ロータダイナミクスで検討する前提の「目安」として使う。 - 防振したいなら固有振動数を加振の
√2倍より下に。 振動数比が√2(約1.41)を超えて初めて伝達率が1を下回り、防振が成立する。目安として加振周波数の1/3程度まで固有振動数を下げると、伝達率が十分小さく安定する。
よくある質問(FAQ)
固有振動数と共振周波数は同じもの?
減衰が小さい系ではほぼ同じと考えてよい。厳密には、外力を受けて振幅が最大になる共振周波数は、減衰があると固有振動数よりわずかに低くなる(減衰比 ζ に対しておよそ √(1−2ζ²) 倍)。機械や構造の減衰比は数%程度が多く、ずれは1%未満。本ツールは減衰のない無減衰固有振動数を出すが、実務の共振判定にはこれで十分だ。減衰が大きい防振ゴムなどでは差が広がる点だけ頭に置いておくとよい。
危険速度と固有振動数はどう関係する?
回転体では、回転数(1秒あたりの回転で生じる加振周波数)が系の固有振動数に一致したときが危険速度だ。固有振動数が f[Hz] なら、危険速度は f × 60[rpm]。例えば固有振動数7Hzの回転軸は、7×60=420rpm付近で共振して振れ回りが増大する。ツールは全モードで f×60 を目安として表示している。ただし実際の軸系は軸受のばね剛性やディスクの取り付け位置で値が動くので、あくまで1次の当たりをつける数字として使ってほしい。
レイリー法と厳密係数式、どちらが正しい?
1次モードならどちらも良い推定を返す。分布質量だけの梁は境界条件から導いた厳密係数式(λ₁² を使う式)が使え、梁上に機器などの集中質量が載る場合はレイリー法で梁の分布質量を等価質量 κ·m̄L に縮約する。レイリー法は仮定した変形形状に基づく上界近似で、真の値よりわずかに高めに出る性質がある。両者の差は1〜2%程度で、1次固有振動数の実用推定としてはどちらも信頼できる。集中質量の有無でツールが自動的に適切な式へ切り替わる。
この3アプローチで2次以上のモードも分かる?
いいえ、本ツールは1次モード(最も低い固有振動数)に特化している。多くの機械・架台・床の共振トラブルは1次モードで起きるため、まずここを外すのが設計の要になるからだ。2次以上の高次モード、せん断変形や回転慣性を含むティモシェンコ梁の補正、複数の集中質量が任意位置に載る系などは対象外。それらが効く精密設計では、FEMによるモード解析や打撃試験での実測を併用してほしい。
入力したデータはどこかに保存される?
入力値も計算結果も、あなたのブラウザの中だけで処理される。サーバーへの送信や外部への保存は一切行っていない。ばね定数・断面・たわみといった設計値をそのまま入れても外部に残らないので、社外秘の条件でも安心して試せる。ページを閉じれば入力は消える。結果を残したいときは「結果をコピー」ボタンでテキストを手元に控えておくとよい。
まとめ
固有振動数は、機械や構造が自ら揺れたがる速さ。それを加振周波数と重ねてしまうと共振で振幅が跳ね上がり、外せば静かに収まる。ばね質量系・梁・実測たわみの3つの入口から1次固有振動数と共振判定をワンタップで出せるのが本ツールの役どころだ。固有振動数を出したら、絶縁域かを確認して/vibration-isolator-calcで防振材を選び、据付後は/vibration-severity-iso10816で振動を診断する。ばね単体のサージングは/spring-designへ。振動設計の4部作の第1手として使ってほしい。なお、この分野を体系立てて解説する続編は執筆準備中のテーマで、振動の基礎章と連動する予定だ。使ってみて気づいた点や計算モードの要望があれば、お問い合わせから気軽に教えてほしい。
Mahiro
Mahiro Appの開発者。防振架台の据付後に共振が出て手戻りした苦い経験から、固有振動数だけは図面段階で押さえておきたいと痛感してこのツールを作った。ばね・梁・実測たわみのどれからでも同じ物差しに落とせるのが気に入っている。
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