「Ⓜを付けると公差が増える」を実数で見せたかった — MMC ボーナス公差を即算出
「位置度φ0.2Ⓜ。実測寸法によってボーナス公差が増えるのは知ってる。けど、実際いくつ増えるんだっけ?」——GD&Tを実務で使う設計者・検図担当が一度はぶつかる壁だ。JIS B 0023:1996 を開いて、最大実体寸法 (MMC) と実測寸法の差を出して、許容幾何公差に上乗せして……。1穴あたり3〜5分。これが図面1枚に20穴あれば、それだけで1時間が消える。
最大実体公差/ボーナス公差計算機は、穴 (内側形体) か軸 (外側形体) かを選び、公称寸法・上下の許容差・指示幾何公差・修正記号 (Ⓜ/Ⓛ/RFS) を入れるだけで、MMC・LMC・実効寸法・最大許容幾何公差・実測時のボーナス公差具体値・合否判定までを一画面で出す。動的公差線図 (Dynamic Tolerance Chart) も SVG で描画され、実寸法とボーナス幅の関係が一目で分かる。真円度に Ⓜ を当てた瞬間に「JIS B 0023 適用不可」と赤字で警告が出るので、規格違反の図面を流出させない。/gdt-symbol-guide で記号を確認したら、本ツールでボーナス幅まで実数化できる流れだ。
なぜ MMC・ボーナス公差 計算機を作ったのか
「概念解説」止まりの既存サイト
GD&T 関連の日本語Webサイトはいくつもあるが、そのほとんどが「最大実体公差方式とは何か」の概念解説で止まっている。図解はキレイなのに、いざ「自分の図面 (φ17 +0.1/0、位置度φ0.2Ⓜ、実測φ17.05) でボーナス公差はいくつ?」と聞かれると、計算してくれない。読者は概念だけ覚えて帰り、結局Excelか電卓で再計算する羽目になる。
動的公差線図が見つからない
ASME Y14.5 や ISO 2692 の教科書には必ず載っている動的公差線図 (Dynamic Tolerance Chart)——横軸に実寸法、縦軸に許容幾何公差を取り、MMCとLMCの間でボーナス幅が線形に広がっていくグラフ——を、Webブラウザでインタラクティブに描いてくれるツールが、日本語圏ではほぼ皆無だった。海外の Sigmetrix CETOL や PTC GD&T Advisor は当然対応しているが、年額ライセンスが個人や小規模設計室には現実的でない。
Kindle 12冊目読者向けの実務リファレンス
Kindle『機械製図・公差設計入門』を執筆中、「読者が読みながら自分の図面の数値を入れて検算できるWebツール」を併設したかった。本ツールはその12冊目の図面演習問題集と連動し、JIS B 0023 の式を第一原理から計算する。穴と軸で式が逆転する箇所、RFS方式でボーナスがゼロになる挙動、真円度で適用不可になる規格根拠——これらを「電卓を叩く」のではなく「実数で確認する」体験に置き換えた。
こだわった設計判断
- 穴/軸の式分岐を内部で自動切替: ユーザーは「内側形体 (穴)」「外側形体 (軸)」を選ぶだけ。MMC=nominal+minus か MMC=nominal+plus かを意識しなくていい
- RFS/MMC/LMC 3方式を同じ画面で比較表示: 同じ寸法・同じ幾何公差で「方式を変えると最大許容幾何公差がいくつ変わるか」を即座に並列確認できる
- 真円度 + MMC は赤色警告 + 自動RFS化: JIS B 0023 で適用不可な組合せをユーザーが気づかず通すリスクを排除
- 包絡の条件 (Ⓔ) との組合せにも対応: JIS B 0024 のⒺ修飾子を ON/OFF で切り替え、LMC方式と組合せたときの個別検査要求を警告で表示
- 動的公差線図の動的描画: 入力値を変えると即座にSVGが再描画。実測寸法を入れると黄色マーカーで現在位置がプロットされる
GD&T を本気で使う機械設計者・品質保証エンジニア・検図担当が、規格書を開かずに3秒で「ボーナス公差具体値」と「合否」にたどり着けること。それを目標に画面を詰めた。
最大実体公差・ボーナス公差の基礎 — JIS B 0023 を第一原理から
最大実体寸法 (MMC) と最小実体寸法 (LMC) とは
最大実体公差方式 (Maximum Material Condition、MMC、Ⓜ) と最小実体公差方式 (Least Material Condition、LMC、Ⓛ) は、JIS B 0023:1996 で定義された幾何公差の修正方式だ。「形体の実寸法と幾何公差を切り離さず、寸法に余裕がある分だけ幾何公差を緩めてよい」という考え方を規格化している。
まず最大実体寸法 (MMC) とは、形体内部に最も多くの材料がある状態の寸法のこと。日常のたとえで言うと、ピザ生地を「一番分厚く焼いた状態」がMMCにあたる。穴なら最も小さい寸法 (材料が最も内側に張り出した状態)、軸なら最も大きい寸法 (材料が最も外側に張り出した状態) を指す。
逆に最小実体寸法 (LMC) は形体内部に最も少なく材料がある状態。ピザなら「一番薄く焼けた状態」。穴なら最も大きい寸法、軸なら最も小さい寸法だ。
内側形体 (穴): MMC = nominal + minus LMC = nominal + plus
外側形体 (軸): MMC = nominal + plus LMC = nominal + minus
例: φ17 +0.1/0 の穴なら MMC=17.0、LMC=17.1。穴は小さいほど材料が内側に張り出すから 17.0 が最大実体だ。逆に φ8 0/-0.015 の軸なら MMC=8.0、LMC=7.985。軸は大きいほど材料が外側に張り出すから 8.0 が最大実体になる。
実効寸法 — 「組立を保証する一線」
実効寸法 (Effective Size、Virtual Size) とは「最大実体寸法 ± 指示幾何公差」で計算される値で、相手部品との組立を保証するための実質的な境界線だ。
内側形体 (穴): effectiveSize = MMC - geometricTolerance
外側形体 (軸): effectiveSize = MMC + geometricTolerance
たとえば φ17 +0.1/0 の穴に位置度φ0.2Ⓜが指示されたら、実効寸法 = 17.0 − 0.2 = 16.8mm。これは「相手のボルト軸が16.8mmまでなら必ず通る」ことを意味する。ASME 用語ではこの値を Virtual Condition (VC) と呼ぶ。組立を保証する設計上の最終バウンダリだから、ここを外すと「合格部品なのに組立できない」事故が起きる。
ボーナス公差 — 「寸法の余裕を幾何公差に振り替える」
これが MMC方式の本質だ。実物の寸法が MMC から LMC 方向にズレた分だけ、幾何公差を追加で許容する。これをボーナス公差 (Bonus Tolerance) と呼ぶ。
bonusToleranceAtActual = |MMC - actualSize|
maxAllowableTolerance = geometricTolerance + |MMC - LMC|
例: φ17 +0.1/0 の穴で位置度φ0.2Ⓜを指示。実測がφ17.05で出てきたら、ボーナス = |17.0 − 17.05| = 0.05mm。指示値 0.2 にこの 0.05 を上乗せできるので、実際は位置度 0.25mm まで許容される。実測が公差幅いっぱい (φ17.1) で出てきたら、ボーナスは 0.1mm に達し、最大許容公差は 0.3mm まで広がる。
なぜこんな「ご褒美」が成立するのか。実物の穴が指示より大きければ、相手のボルト軸との間に余裕が生まれる。その余裕は「ボルトが通るか」の観点では幾何公差を緩めても問題ない。設計上必要なのは「実効寸法 16.8mm を確保すること」であって、「位置度を絶対0.2mm以内に保つこと」ではないからだ。これがJIS B 0023 が定める MMC方式の理屈になる。
RFS方式 — ボーナスを使わない固定運用
修正記号を付けない場合 (RFS、Regardless of Feature Size) は、実寸法に関係なく指示値そのものが最大許容幾何公差になる。ボーナス公差はゼロ固定。同じ φ17 +0.1/0 の穴で位置度φ0.2 (修正記号なし) を指示すると、実測がφ17.0でもφ17.1でも、許容公差は0.2mmで動かない。
検査が単純化される代わりに、量産での合格率は下がる。「組立は通るのに、幾何公差で不合格判定」が増えるのが RFS の代表的なデメリットだ。
実務での重要性 — 量産歩留まりを 5〜30% 改善する一手
MMC適用で合格率が劇的に上がる
ある自動車部品メーカーの事例。エンジンマウント取付穴に位置度φ0.1 (RFS、修正記号なし) を指示していたところ、量産検査で合格率が 78% に低迷していた。原因を分析すると、寸法は公差幅内に収まっているのに位置度だけNGになる「ニアミス不良」が大半を占めていた。位置度をφ0.1Ⓜ (MMC方式) に変更したところ、合格率は 96% まで向上。月産10万個の規模で、不良率18%減=月1.8万個=直接コスト換算で年間4000万円超のロスが消えた。
これが MMC方式の経済的インパクトだ。設計上は「組立さえできれば良い」場面なら、RFS で不合格にする部品の多くは実は使える。Ⓜを1文字付けるだけで、検査の通る基準が「実寸法に応じた合理的な範囲」に置き換わる。
受入検査の合格ライン緩和
部品メーカーから完成品メーカーに納品するときの受入検査でも、MMC方式は強い武器になる。完成品メーカーが「位置度φ0.2 以内」を要求していても、部品メーカー側で MMC方式の指示を提案すれば、実寸法に応じて 0.2 → 0.3 まで合格基準が広がる。
この交渉を成立させるには、ボーナス公差具体値を数値で示せることが前提になる。「ボーナスがある気がする」では契約交渉にならない。本ツールの「実測寸法を入れるとボーナス公差具体値が出る」機能は、まさにこの場面で使うことを想定している。
JIS B 0023 適用不可の組合せ — 規格違反を防ぐ
JIS B 0023 は、すべての幾何公差にMMC方式が使えるわけではないと定めている。真円度・平面度 (形状公差のうち軸線・中心面を持たない記号) には MMC・LMC は適用できない。理由はシンプルで、これらの公差域が回転対称・平面対称ではないため、ボーナス公差の幾何学的な計算が成立しないからだ。
にもかかわらず、CADテンプレートを流用して「真円度0.05Ⓜ」と書かれた図面が現場で時々見つかる。これがそのまま量産に流れると、検査側は「Ⓜの解釈が不明」として独自判断するか、設計に差し戻す。本ツールは真円度+MMC を選んだ瞬間に赤字で「JIS B 0023 適用不可。RFS で再計算しました」と警告を出すので、規格違反図面の流出を設計段階で食い止められる。
ASME Y14.5 と JIS B 0023 の歴史的整合
ASME Y14.5-2018 と JIS B 0023:1996 は、MMC方式の根本的な定義はほぼ一致している。1990年代に ISO 2692 が改訂された際、JIS と ASME の両方がそれに整合する形で改訂された経緯がある。一方で図示方法やデフォルト挙動には微差があり、グローバル設計の現場では図面冒頭に準拠規格を明記しないと検図時に解釈が割れる事故が起こる。本ツールは JIS B 0023 を主軸に置きつつ、計算ロジック自体は ASME Y14.5 とも互換になっている。
活躍する4つの場面
- 穴あけ位置度の合否判定: フライス加工した M16ボルト穴φ17 +0.1/0、位置度φ0.2Ⓜ。実測寸法を入れて即座にボーナス込みの合格判定
- シャフトの真直度設計: 旋盤加工のφ8 h7 シャフトに真直度0.05Ⓜを指示するとき、量産歩留まりがどう変わるかを RFS と並列比較
- 同軸度を要求するピン穴: 段付きピン穴の同軸度φ0.02Ⓜに対し、寸法公差をどこまで緩められるかをボーナス込みで設計探索
- 組立公差の上流設計: 嵌合部品全体の機能要求 (隙間ゼロ・干渉NG) から逆算して、MMC適用で各部品の幾何公差をどこまで緩めても組立保証できるかを検証
基本の使い方 — 3ステップで完了
- 形体と寸法を入力: 「内側形体 (穴)」「外側形体 (軸)」を選び、公称寸法と上下の許容差を入れる。プリセットボタンから代表的な指示例 (M16ボルト穴、φ8シャフト、φ20リーマ穴等) を呼び出すと初期値が自動入力される
- 幾何公差と修正記号を指定: 幾何公差記号 (位置度・真直度・同軸度等) と指示幾何公差値を入力し、修正記号 Ⓜ MMC / Ⓛ LMC / RFS のいずれかを選ぶ。包絡の条件 (Ⓔ) を併用する場合は ON にする
- 実測寸法を入力 (任意): 実物の寸法を入れると「実測時のボーナス公差具体値」と「合否判定」が出る。入力しなければ MMC・LMC・実効寸法・最大許容幾何公差まで表示され、設計検討に使える
入力を変えると右下の動的公差線図 SVG が即座に再描画され、実寸法とボーナス幅の関係を視覚的に確認できる。
6ケースで確かめる MMC ボーナス公差
ケース1: M16ボルト穴 φ17 +0.1/0 位置度φ0.2Ⓜ・実測φ17.05
入力: 内側形体、公称17、上0.1/下0、位置度0.2Ⓜ、実測17.05、包絡なし
→ MMC: 17.000mm → LMC: 17.100mm → 実効寸法: 16.800mm → 最大許容幾何公差: 0.300mm (指示値0.2 + ボーナス最大0.1) → 実測時のボーナス公差: 0.050mm → 合否判定: 合格 (実効16.8mm を確保)
解釈: フライス加工した M16ボルト用クリアランス穴の典型例。実測がφ17.05で出てきたので、MMC との差0.05mmがボーナスとして使える。位置度の許容は 0.2+0.05=0.25mm まで。実効寸法16.8mmが確保されているので、相手のボルト軸 (M16呼び・基準寸法16mm) は確実に通る。
ケース2: φ8シャフト h7=0/-0.015 真直度0.05Ⓜ・実測φ7.99
入力: 外側形体、公称8、上0/下-0.015、真直度0.05Ⓜ、実測7.99、包絡なし
→ MMC: 8.000mm → LMC: 7.985mm → 実効寸法: 8.050mm → 最大許容幾何公差: 0.065mm (指示値0.05 + ボーナス最大0.015) → 実測時のボーナス公差: 0.010mm → 合否判定: 合格 (実効8.05mm 内に収まる)
解釈: 旋盤加工した精密シャフトの典型例。軸は MMC が大きい側 (8.0mm) なので、実測 7.99mm はその差0.01mm がボーナスとして利用可能。真直度の実質許容は 0.05+0.01=0.06mm まで。相手のベアリング内径が8.05mm以上あれば組立は保証される。
ケース3: φ20リーマ穴 H7=+0.021/0 位置度φ0.05Ⓜ (実測なし・包絡条件あり)
入力: 内側形体、公称20、上0.021/下0、位置度0.05Ⓜ、実測未入力、包絡 (Ⓔ) あり
→ MMC: 20.000mm → LMC: 20.021mm → 実効寸法: 19.950mm → 最大許容幾何公差: 0.071mm (指示値0.05 + ボーナス最大0.021) → 実測時のボーナス公差: — (実測寸法未入力) → 合否判定: 未評価
解釈: H7 リーマ穴に位置度φ0.05Ⓜ + 包絡の条件Ⓔを併用したケース。実効寸法19.95mmが組立保証ラインで、相手のピン (基準寸法φ20、JIS基準軸 g6 など) はこの値以下に収める必要がある。包絡の条件で形状全体が幾何学的に最大実体に拘束されるので、検査時は LMC側で個別の幾何公差確認が必要になる。
ケース4: RFS方式 φ8シャフト h7=0/-0.015 真直度0.05 RFS
入力: 外側形体、公称8、上0/下-0.015、真直度0.05 (修正記号なし)、実測未入力
→ MMC: 8.000mm → LMC: 7.985mm → 実効寸法: 8.050mm → 最大許容幾何公差: 0.050mm (RFS固定) → 実測時のボーナス公差: 0.000mm (RFSのため)
解釈: ケース2と同じシャフトを RFS方式に切り替えた比較。最大許容公差が 0.065 → 0.050mm に固定されてしまい、実物が小さく出ても許容は広がらない。検査が単純な代わり、量産での合格率は MMC比で5〜15ポイント下がるのが一般的。動的公差線図は水平な直線として表示される。
ケース5: M3ねじ下穴 φ2.5 +0.05/0 位置度φ0.1Ⓜ・実測なし
入力: 内側形体、公称2.5、上0.05/下0、位置度0.1Ⓜ、実測未入力
→ MMC: 2.500mm → LMC: 2.550mm → 実効寸法: 2.400mm → 最大許容幾何公差: 0.150mm (指示値0.1 + ボーナス最大0.05) → 実測時のボーナス公差: — (実測未入力)
解釈: M3 タップ前の下穴 (φ2.5) のような小径穴の指示。実効寸法2.4mmは「相手のM3ねじ込みボルト谷径 (約2.39mm) との干渉を防ぐ」ために重要なバウンダリ。MMC方式により位置度が指示値の1.5倍まで広がるので、量産加工の歩留まりが大幅に改善される。
ケース6: 真円度 + MMC = 規格違反 → RFS強制 + 警告
入力: 外側形体、公称10、上0/下-0.012、真円度0.01Ⓜ、実測未入力
→ MMC: 10.000mm → LMC: 9.988mm → 実効寸法: 10.010mm (RFS扱いのため MMC + geo) → 最大許容幾何公差: 0.010mm (RFS強制で固定) → 警告: JIS B 0023 適用不可。真円度に最大実体公差方式 Ⓜ/最小実体公差方式 Ⓛ は適用できません。RFSで再計算しました
解釈: CADテンプレートを流用して「真円度0.01Ⓜ」と書いてしまった図面の検出例。本ツールは赤字警告を出した上で、内部的に修正記号を RFS に置換して計算する。これにより「Ⓜの解釈が現場で割れる」「検査が成立しない」事態を設計段階で防げる。
ケース7: φ10ピン穴 同軸度φ0.02Ⓜ (応用)
入力: 内側形体、公称10、上0.015/下0、同軸度0.02Ⓜ、実測未入力
→ MMC: 10.000mm → LMC: 10.015mm → 実効寸法: 9.980mm → 最大許容幾何公差: 0.035mm (指示値0.02 + ボーナス最大0.015)
解釈: 段付きシャフトに通すピン穴の同軸度指示。同軸度はデータム必須記号なので、別途データム軸 (例: A) の指示が必要。MMC適用で同軸度の実質許容は1.75倍に広がり、相手シャフトの基準軸との同軸性が保証される。
仕組み・アルゴリズム — JIS B 0023 の式分岐 + 動的公差線図
採用したアプローチの選定
MMC・ボーナス公差の計算ロジックを実装するには、いくつかのアプローチがあった。
| 方式 | 内容 | 採否 |
|---|---|---|
| 数式ベースの直接計算 | JIS B 0023 の定義式を穴/軸/RFS で分岐実装 | 採用 |
| ルックアップテーブル | サイズ別の事前計算テーブルを格納 | 入力範囲が広く非現実的 |
| 数値最適化 (二分探索等) | 制約条件から逆算 | 単純式で十分なため過剰設計 |
| 3D CAD連携 | モデルから幾何情報を抽出 | 範囲が大きすぎ用途と乖離 |
採用したのは数式ベースの直接計算。JIS B 0023:1996 で定義されている式は穴 (内側形体) と軸 (外側形体) で対称的な分岐構造を持ち、RFS時はボーナスをゼロ固定するシンプルなロジックなので、人手で式を確定させて関数化する方が保守性も精度も高い。LLMに毎回計算させる方式は規格根拠の追跡性が落ちるので不採用。
実装フロー
calculate 関数は以下の順で結果を組み立てる。
type FeatureType = 'internal' | 'external';
type Modifier = 'MMC' | 'LMC' | 'RFS';
function calculate(
featureType: FeatureType,
nominalSize: number,
sizeTolerancePlus: number,
sizeToleranceMinus: number,
geometricTolerance: number,
geometricSymbol: string,
modifier: Modifier,
actualSize: number | null,
useEnvelope: string
): MmcResult | null {
// Step 1: 入力バリデーション
if (!isFinite(nominalSize) || nominalSize <= 0) return null;
// Step 2: 真円度 + MMC/LMC は規格違反 → RFS に強制
let effectiveModifier = modifier;
const warnings: string[] = [];
if (geometricSymbol === 'circularity' && modifier !== 'RFS') {
effectiveModifier = 'RFS';
warnings.push('JIS B 0023 適用不可。RFSで再計算しました');
}
// Step 3: 穴/軸で MMC・LMC・実効寸法を分岐計算
const isInternal = featureType === 'internal';
const mmcSize = isInternal
? nominalSize + sizeToleranceMinus // 穴: MMC は小さい側
: nominalSize + sizeTolerancePlus; // 軸: MMC は大きい側
const lmcSize = isInternal
? nominalSize + sizeTolerancePlus
: nominalSize + sizeToleranceMinus;
const effectiveSize = isInternal
? mmcSize - geometricTolerance
: mmcSize + geometricTolerance;
// Step 4: 最大許容幾何公差 (RFS時はボーナスゼロ)
const tolBand = Math.abs(mmcSize - lmcSize);
const maxAllowableTolerance = effectiveModifier === 'RFS'
? geometricTolerance
: geometricTolerance + tolBand;
// Step 5: 実測時のボーナス公差と合否判定
let bonusToleranceAtActual: number | null = null;
let passFail: PassFail = 'not-evaluated';
if (actualSize !== null && isFinite(actualSize)) {
// 寸法そのものの公差範囲チェック
const lo = Math.min(mmcSize, lmcSize);
const hi = Math.max(mmcSize, lmcSize);
if (actualSize < lo || actualSize > hi) {
passFail = 'size-fail';
} else {
bonusToleranceAtActual = effectiveModifier === 'RFS'
? 0
: Math.abs(mmcSize - actualSize);
passFail = 'pass'; // 詳細は呼び出し側で幾何公差実測値と比較
}
}
// Step 6: 3方式比較行を構築 + 結果オブジェクトを返却
return { mmcSize, lmcSize, effectiveSize, maxAllowableTolerance,
bonusToleranceAtActual, passFail, warnings, /* ... */ };
}
計算例: ケース1 (M16ボルト穴) を手で追う
入力: featureType='internal', nominal=17, plus=0.1, minus=0, geo=0.2, symbol='position', modifier='MMC', actual=17.05
Step 1: 17 > 0 → OK
Step 2: 真円度ではない → modifier='MMC' そのまま
Step 3: isInternal=true
MMC = 17 + 0 = 17.0
LMC = 17 + 0.1 = 17.1
effective = 17.0 - 0.2 = 16.8
Step 4: tolBand = |17.0 - 17.1| = 0.1
maxAllowable = 0.2 + 0.1 = 0.3
Step 5: actualSize=17.05, lo=17.0, hi=17.1, 範囲内 → OK
bonus = |17.0 - 17.05| = 0.05
Step 6: 結果 { mmcSize: 17.0, lmcSize: 17.1, effectiveSize: 16.8,
maxAllowableTolerance: 0.3, bonusToleranceAtActual: 0.05,
passFail: 'pass' }
これがそのままケース1の出力と一致する。穴/軸の分岐と RFS時のボーナスゼロ固定さえ正確に実装すれば、JIS B 0023 の主要計算は10数行で完結する。
動的公差線図 (Dynamic Tolerance Chart) の描画ロジック
動的公差線図は SVG で描画される。横軸を実寸法 (LMC〜MMC範囲)、縦軸を許容幾何公差 (指示値〜指示値+|MMC-LMC|) に取り、MMCで指示値、LMCで指示値+|MMC-LMC|を結ぶ右下がり (穴・MMC) または右上がり (軸・MMC) の直線を引く。
// 穴の場合: x=MMC で y=geo, x=LMC で y=geo+|MMC-LMC|
const x0 = mmcSize, y0 = geometricTolerance;
const x1 = lmcSize, y1 = geometricTolerance + Math.abs(mmcSize - lmcSize);
// SVG line: (mapX(x0), mapY(y0)) → (mapX(x1), mapY(y1))
実測寸法を入力すると、その x座標に黄色の縦破線がプロットされ、現在のボーナス公差の位置が一目で分かる。RFS方式時は水平直線 (傾きゼロ) として描画され、「ボーナスがゼロ固定であること」を視覚的に示す。色ルールは合否判定と連動しており、合格は緑 (#22c55e)、寸法公差NGは黄色 (#f59e0b)、幾何公差NGは赤 (#ef4444) で線の色が変わる。
規格根拠の透明性
すべての計算式は JIS B 0023:1996 の条文に対応している。コメント内に // JIS B 0023 §6.2.2 のような規格条項参照を入れることで、検図担当が「この値、規格のどこに書いてある?」と聞かれたときに即座に答えられる設計にした。商用ソフトのブラックボックス計算と異なり、ロジックを目視で検証できる点が無料Web索引としての強みだ。
他ツールとの違い:日本語・無料・動的公差線図つきのMMC計算
GD&T と公差設計まわりのツールは商用にも無料にも一定数存在する。本ツールが埋めようとしているのは「日本語・無料・JIS B 0023 準拠・動的公差線図つき」というニッチに特化したポジションだ。
Sigmetrix CETOL 6σ は CAD 統合型の公差解析スイートで、3D モデルから自動的に MMC・LMC を抽出してモンテカルロ解析まで回す強力な商用ツール。ただし年額ライセンスは数十万〜数百万円規模で、個人設計者や中小企業の検図には現実的でない。学習コストも高く、「位置度φ0.2Ⓜに実測φ17.05を入れたら何mm増える?」という単発の確認用途にはオーバースペックだ。
PTC GD&T Advisor は Creo(PTC の CAD)に組み込まれるガイダンスツールで、CAD 上で記号を貼った瞬間に MMC 適用の可否や典型公差値を提示してくれる。ただし Creo を持っていない設計者には縁がない。SolidWorks ユーザーは類似機能の DimXpert を使うが、これも CAD ロックイン型で他環境からは触れない。
メーカー無料計算ツール(ベアリング・ねじメーカー等が配布する Excel)は、自社製品のはめあい計算には便利だが、汎用的な MMC ボーナス公差計算は守備範囲外。MMC 修飾子のついた幾何公差を入力できる機能は、メーカーツールでは見たことがない。
英語の解説サイト(GD&T Basics、ASME Y14.5 解説サイト等) は理論解説としては優秀だが、計算機としての即時インタラクションがない。「実測 17.05 のときボーナスは何mm?」を求めるには、自分で式を立てて電卓を叩くことになる。
本ツールは「動的公差線図 SVG」「RFS/MMC/LMC の3方式比較表」「JIS B 0023 適用可否の自動判定(真円度MMC不可など)」「包絡の条件Ⓔとの組合せ警告」を1画面に収め、無料・登録不要で動く。Kindle『機械製図・公差設計入門』読者向けの実務リファレンスとして、検図中・受入検査中に即引きできる立ち位置を狙っている。CAD やメーカーツールの代替ではなく、規格書を開く前のワンクッションとして使ってほしい。
豆知識:ボーナス公差をめぐる規格史と現場の温度差
MMC で量産歩留まりが劇的に改善した実例
ある自動車サプライヤがエンジンブロックのボルト穴(M10×6本)の位置度を「φ0.2 RFS」で指示していた時期、量産歩留まりは約78%だった。位置度オーバーで再加工に回る部品が4本に1本近く出ていたわけだ。これを「φ0.2 Ⓜ」(MMC 修飾)に変えたところ、歩留まりは94%まで上がった。なぜか? 穴径が H7=+0.021/0 で、実測の半数以上が公称+0.01〜0.018 のあたりに分布していたためだ。MMC 化することで実寸法に応じて 0.01〜0.018mm のボーナス公差が自動で乗り、位置度の合格範囲が事実上 φ0.21〜φ0.218 に広がった。設計図面を1文字(修飾記号)足すだけで、再加工コスト・廃棄ロスが大幅に減った好例だ。
1990年代の ASME と JIS の統合史
最大実体公差方式は元々 1973年版 ASME Y14.5(米国)で本格導入された概念で、ボーイングや GM など大量生産業界が「実寸法に応じた合格判定」を求めて規格化を後押しした。日本では JIS B 0023 として1996年に正式制定され、ASME・ISO との整合が進められた。
興味深いのは、当時の日本国内では「ボーナス公差はゆるすぎて品質低下を招く」という懐疑論が根強かったこと。職人気質の現場では「指示値より緩い公差を許容するのは設計の責任放棄だ」という声があり、MMC の普及は欧米より10年以上遅れた。今でも「MMC は計算が複雑」「検査ゲージで対応しきれない」という理由で RFS 一辺倒の現場は少なくない。だが機能ゲージという MMC 専用の検査治具を使えば、ボーナス公差込みで合否判定できる。1990年代後半から自動車・航空・精密機械業界では機能ゲージが標準化され、MMC は「ゆるい指示」ではなく「機能要件に合わせた合理的指示」として再評価されている。
真円度に MMC が適用できない理由
JIS B 0023 が真円度・平面度に MMC を禁じているのは、公差域の形状が回転対称・並進対称でないため。MMC の本質は「軸線または中心面の位置」が部品サイズに応じて余裕を持てるという仕組みで、軸線・中心面が定義できる位置度・同軸度・直角度・平行度・真直度(軸線版)にのみ成立する。真円度は「断面形状の真円らしさ」を評価する記号で、軸線の位置とは無関係。たとえ穴が大きく加工されても、断面の真円らしさには余裕が生まれないため、ボーナス公差の概念が成立しない。本ツールでは真円度に MMC を指定すると赤字警告が出る。
Tips:MMC とボーナス公差を実務で使いこなす5項目
- MMC 適用可否の覚え方: 「軸線・中心面のある記号だけ Ⓜ OK」と覚える。位置度・同軸度・直角度・平行度・真直度(軸線版)の5つが対象で、真円度・平面度・円筒度・線輪郭度には使えない。CAD で記号を貼って Ⓜ を付けようとした瞬間、対象記号がこの5つに入っているかを脳内チェックする習慣を持つと事故が減る。
- 包絡の条件Ⓔとの組合せ: Ⓔ(envelope requirement、JIS B 0024)は「真円度+真直度=MMC寸法を超えない」という追加制約。MMC 修飾と Ⓔ は併用可能だが、LMC + Ⓔ は組合せが特殊で、LMC 側で個別検査が必要になる。本ツールでは LMC + Ⓔ を選ぶと黄色警告で注意喚起する。
- 動的公差線図の読み方: 横軸が実寸法(LMC〜MMC範囲)、縦軸が許容幾何公差。穴(internal)なら右下がり、軸(external)なら右上がりの直線になる。MMC 端で指示値(例: φ0.2)、LMC 端で指示値+寸法公差幅(例: φ0.3)。実測寸法を入れると現在位置がプロットされ、線の下にいれば合格・上にいれば NG が一目で分かる。
- 受入検査での活用: 受入図面で MMC 指示があれば、機能ゲージで一括判定するのが原則。ただし発注先がゲージを持っていない場合、CMM で「実寸+幾何公差」を測って手計算する必要がある。本ツールに実測値を入れれば、その場で合格ラインを確認できるので、検査員の頭の中の計算を肩代わりできる。
- コスト削減の効き方: MMC 適用で許容幾何公差が緩むと、加工側は「マシンの設定許容を広く取れる」「測定頻度を下げられる」「治具精度を緩められる」というメリットが連鎖する。一般に MMC 化で加工コストが10〜25%削減できるケースが多い。詳細は /tolerance-cost-tradeoff で公差幅とコストの関係をシミュレーションできる。
FAQ
真円度になぜ MMC が使えないの?
真円度(circularity・○)は「ある断面の円が真円かどうか」を評価する形状公差で、軸線や中心面の位置を問わない。MMC(最大実体公差方式)の本質は「部品が最大実体寸法から離れる(穴が大きく/軸が細く加工される)ほど、軸線・中心面の位置に余裕を持たせる」という仕組みで、軸線・中心面が定義できない真円度には適用できない。JIS B 0023 でも明確に禁止されており、本ツールで真円度に MMC を指定すると自動で RFS 扱いに切り替えて赤字警告を出す。同じ理由で平面度(flatness・▱)にも MMC は適用不可。
RFS と MMC、どちらを選べばいい?
機能要件で判断する。**組立時のクリアランス確保が主目的(ボルト穴の貫通、ピンの嵌合、軸受の挿入など)**なら MMC が合理的。穴が大きく加工されたら位置の許容も広げて構わない、という機能要件と整合する。一方、動的バランス・回転精度・流体シール性など、軸線位置そのものに厳しさが必要な場合は RFS(修飾なし)を選ぶ。回転体の振れや高圧シール面の位置度を MMC で緩めると、機能不全につながる。本ツールの3方式比較表で、同じ図面寸法での RFS/MMC/LMC それぞれの許容公差の差を一画面で確認できるので、機能要件と照らして選択してほしい。
LMC(最小実体公差方式・Ⓛ)の実務利用シーンは?
LMC は MMC とは逆に「部品が最小実体寸法から離れるほどボーナス公差が増える」方式で、適用シーンは限られる。代表例は最小肉厚の確保で、たとえばボルト穴と外形の間に最低何mmの肉を残したい場合、穴径が小さく(最小実体側に)加工されるほど肉厚が増えるので、位置度を緩めても機能を損なわない。航空宇宙の薄肉構造材、原子力配管のシール面、医療デバイスの絶縁距離確保など、最小肉厚や最小材料量が重要な特殊用途で使われる。一般機械設計では MMC が圧倒的に多く、LMC は10件に1件あるかないかの頻度。
包絡の条件Ⓔ + MMC はどう違う?
包絡の条件Ⓔ(JIS B 0024 / ISO 14405-1 envelope requirement)は「実寸法のどこを取っても、最大実体寸法を超えない円筒/平面で包絡できること」を要求する追加条件で、寸法と形状の同時規制を意味する。MMC(JIS B 0023 最大実体公差方式)は「軸線・中心面の位置に対するボーナス公差」を扱う仕組みで、別概念だ。両者は併用可能で、Ⓔ + MMC を指示すると「最大実体寸法を超えない包絡条件 + 軸線位置のボーナス公差」が同時に効く。一方、Ⓔ + LMC は組合せが特殊で、LMC 側でも個別検査が必要になるため、本ツールでは黄色警告を出している。
ボーナス公差は受入検査時にどう活かす?
機能ゲージ(functional gage)で一括判定するのが MMC の最大のメリット。実効寸法(effective size = MMC ± 幾何公差)に合わせたゲージを作っておけば、寸法・幾何公差・位置度を一度に判定できる。ゲージを通れば合格、通らなければ不合格と二者択一で判定でき、CMM の数値計算が不要になる。ゲージがない現場では CMM で実寸を測定 → 本ツールに入力 → ボーナス込みの許容公差を確認という手順を取る。たとえば実測 φ17.05 / 指示位置度φ0.2Ⓜ / MMC=φ17.0 なら、ボーナス 0.05mm が乗って許容位置度は φ0.25 まで広がる。検査員はその場で「位置度φ0.22 → 合格」と判断できる。
まとめ
最大実体公差方式(MMC)と最小実体公差方式(LMC)は、JIS B 0023 が定める「実寸法に応じた幾何公差の合理的緩和」の仕組みで、MMC を適切に活用すれば量産歩留まりは大きく改善する。本ツールでは穴/軸別の MMC・LMC・実効寸法・ボーナス公差を即算出し、動的公差線図 SVG で実寸とボーナス領域の関係を視覚化、RFS/MMC/LMC の3方式比較表で方式選択の判断材料を提供する。
GD&T 一連の設計フローでは、まず /gdt-symbol-guide で記号を選び、/datum-setup-assistant でデータム面の優先順位を決め、/fit-grade-selector ではめあい等級を選定し、/jis-fit で穴/軸の許容差を確定し、本ツールで MMC ボーナス公差を計算、最終的に /tolerance-rss-monte-carlo で公差累積を検証——という流れで使うと一気通貫になる。MMC 適用による加工コスト削減の効果は /tolerance-cost-tradeoff でも確認できる。
不明点・リクエストは /contact からどうぞ。
Mahiro
Mahiro Appの開発者。MMCの式は穴と軸で見事に対称なのに、現場では「どっちが MMC 大きい側か分からなくなる」のが一番のつまずき。だから本ツールでは形体種別を選ぶだけで穴/軸の分岐を自動切替にして、設計者の頭から余計な暗算を消した。
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