図面の小さな記号で固まってしまうあなたへ — GD&T 記号 一覧の即引きガイド
「⊕の中に書いてあるφ0.05って、結局どれくらい厳しいの?」「この記号、データムって書かなくていいんだっけ?」——機械図面を初めて任された設計者なら、一度はぶつかる壁だ。15個ある幾何公差記号は、形だけ見ても何を要求しているのか直感的には分からない。手元の規格書をめくっても、いきなり数式と図解が並んでいて、答えにたどり着く前に集中力が切れる。
GD&T記号判定ガイドは、この「記号と意味がつながらない」苦しみを最短ルートで解消するために作った索引型のWebツールだ。記号を選べばJISの定義・データム要否・典型公差値・推奨測定法・図面記入例が1画面に並ぶ。逆に「穴の位置を指示したいけど、どの記号?」という作図側の悩みにも、部品の特徴から推奨記号を逆引きできる「特徴→推奨記号」モードを用意した。JIS B 0021:2024、ASME Y14.5-2018、ISO 1101:2017の3規格に対応し、規格年度を切り替えると同心度の廃止警告まで自動で出る。図面の前で固まる時間を、ゼロにしたい。
なぜGD&T記号判定ガイドを作ったのか
規格書を「ぶ厚い辞書」として使う苦しみ
JIS B 0021、ASME Y14.5、ISO 1101——いずれも数百ページの大著で、目当ての記号にたどり着くまでに5〜10分はかかる。検図の最中に「この同軸度ってデータム要るんだっけ?」と一瞬で判断したいのに、規格書を引いて、目次を探して、該当条文を読んで、ようやく1つの疑問が解ける。これが日に何度も発生する。
しかも記号ごとに参照すべき情報は決まっている: 定義・データム要否・公差域形状・典型値・測定法・誤用例。にもかかわらず、規格書はこれらを記号別の「カード」として並べてくれていない。条項ごとに分散していて、設計者が頭の中で再構成する必要がある。
既存ツールの偏り
GD&T解説サイトはいくつもあるが、そのほとんどが「初心者向けの長文記事」か「英語の一覧表」のどちらかに偏っている。日本語で記号を選んだら即座にJIS定義・データム要否・典型公差値が並ぶ「索引型UI」がほとんど存在しない。海外のPTC GD&T Advisorのような有料ソフトはあるが、年額数十万円の世界で、新人教育や個人検図には現実的でない。
こだわった設計判断
- 2モード切替: 既存図面の解読時は「記号→意味」、新規作図時は「特徴→推奨記号」。同じツールでインプットの向きを切り替えられる
- 15記号フルカバー: 真直度から全振れまで、JIS B 0021:2024で定める全記号を網羅。マイナーな線輪郭度・対称度も省略しない
- 規格年度の切替: ASME Y14.5-2018で同心度が廃止されたという情報は、検図の現場で命取りになる。規格を選ぶだけで廃止警告が自動表示される
- applicationプリセット: 旋盤・フライス・プレス・モーター軸・精密ピン・鋳造の6種から選ぶと、その加工法で頻出する記号と典型公差値(μm単位)が同時に確認できる
- 誤用警告: 「真円度にMMC修飾子は適用不可」「同心度廃止」など、現場で本当に間違える項目を赤字で警告
検図担当者・新人設計者・品質保証エンジニアが、規格書を開かずに3秒で答えにたどり着くこと——それを目標に画面構成を詰めた。
GD&T 14+1記号の体系 — 幾何公差 記号 意味の全体像
GD&T とは — 寸法では語れない「形」の言語
幾何公差(Geometric Dimensioning and Tolerancing、GD&T)とは、部品の形・姿勢・位置・振れに対する許容範囲を、寸法公差とは別に指定する記法体系だ。寸法公差が「長さの幅」を決めるだけなのに対し、幾何公差は「面が平らか」「軸が真っ直ぐか」「穴が想定位置に来ているか」という、寸法では表現できない品質を縛る。
たとえるなら、寸法公差は「身長は170±2cm」と決めるのに対し、幾何公差は「姿勢が垂直か」「肩のラインが水平か」という、見た目の品質を別軸で要求している。両方を満たして初めて、組み立てたときに想定通り動く部品になる。
4分類で覚える — 形状・姿勢・位置・振れ
JIS B 0021:2024に定める幾何公差記号は、性格別に4つに分類できる。表で並べると一気に整理しやすい。
| 分類 | 記号数 | 含まれる記号 | データム |
|---|---|---|---|
| 形状公差 | 4 | 真直度(—)、平面度(▱)、真円度(○)、円筒度(⌭) | 不要 |
| 姿勢公差 | 3 | 平行度(∥)、直角度(⊥)、傾斜度(∠) | 必須 |
| 位置公差 | 4 | 位置度(⊕)、同軸度(◎)、同心度(◎・廃止予定)、対称度(⌯) | 必須 |
| 振れ公差 | 2 | 円周振れ(↗)、全振れ(⤨) | 必須 |
| 形状/姿勢/位置共用 | 2 | 線輪郭度(⌒)、面輪郭度(⌓) | 任意 |
合計15記号(同心度を含む)。同心度は廃止傾向のため「14+1」と数えることが多い。
ここで覚えておきたい超重要ルール: 形状公差4記号(真直・平面・真円・円筒)はデータム不要、それ以外はデータム必須または任意。図面に何かの幾何公差を入れたとき、データム指示が必要かどうかは、この分類で即判断できる。
主要記号の機能を一行で
- 真直度(—): 線が真っ直ぐかを2平行平面間で評価。シャフト軸線、平面エッジ
- 平面度(▱): 面が平らかを2平行平面間で評価。取付面、ガスケット面
- 真円度(○): ある断面の円が真円かを同心の2円間で評価。ベアリング座、横断面
- 円筒度(⌭): 真円度+真直度+平行度を統合。シャフト全長、長尺ピン
- 位置度(⊕): データム基準の理論位置からのずれを直径公差域で表現。穴・ピンの主要記号
- 同軸度(◎): データム軸と同軸かを直径公差域で評価。段付きシャフト
- 平行度(∥)/ 直角度(⊥)/ 傾斜度(∠): データムに対する角度(0°/90°/任意角)からのずれ
- 円周振れ(↗)/ 全振れ(⤨): 回転体をV台で回したときの振れ。1断面か全長かで使い分け
- 線輪郭度(⌒)/ 面輪郭度(⌓): 理論輪郭線/輪郭面からの狂い。カム・エアロフォイル・鋳造曲面
データム とは — 「測るときの基準」を図面に明示する
データムとは、幾何公差を測定するときの基準となる平面・直線・点のこと。図面では英大文字(A, B, C…)で表記し、四角枠で囲んで示す。たとえば「⊥ 0.05 A」と書かれていれば、「データムAを基準として直角度0.05mm以内」という意味だ。
姿勢公差・位置公差・振れ公差はすべてデータムが必要。なぜなら「直角」「平行」「位置」「振れ」は、何かを基準にしないと測れないから。逆に形状公差(真直・平面・真円・円筒)は形体それ自身の性質なので、データムは不要だ。
このデータムの設定を支援するツールを別に用意している(/datum-setup-assistant)。3平面データム系の優先順位や、機能的に意味のあるデータム選定を補助してくれる。
記号の誤用が招く「合格なのに不合格」現象 — 実務での重要性
検査再要求のコスト
幾何公差の指示ミスは、加工後・検査後に発覚すると致命的だ。たとえば「平面度を要求すべきところに真直度を指示」した図面を量産に流すと、加工側は線として真っ直ぐにしか測らない。実際には面全体のうねりがあるのに合格判定され、組立工程で「定盤に置くとガタつく」が初めて発覚する。再加工コストはもちろん、量産ライン停止のロスがのしかかる。
ある自動車部品メーカーの事例では、エンジンブロックの取付面に「真直度0.02」と指示してしまい、合格部品が組立工程で30%干渉した。設計者は「真直度=真っ直ぐ=平らさ」と直感的に書いたが、規格上の真直度は「線」の評価で、面のうねりは捕捉しない。正解は平面度0.02だった。
データム指示忘れによる検査不能
姿勢・位置・振れ公差にデータムを書き忘れると、検査側が「何を基準に測るか」を判断できず、検査自体が成立しない。最悪のケースでは、検査員が独自判断で適当な面をデータムに使い、設計意図と無関係な合否判定を出してしまう。これも組立工程まで来て初めて「機能不全」が発覚する。
同心度廃止の現実
ASME Y14.5-2018 で同心度(◎)は廃止された。理由は「断面中心の質量分布」を測る同心度の定義が実測困難で、実用上は位置度⊕で代替可能だから。それにもかかわらず、古い図面のテンプレートをコピーして使い続け、ASME系の海外取引先に図面を送って「この記号は使えません」と差戻される事故が後を絶たない。JIS B 0025:1998では同心度は残っているが、JIS B 0021:2024では同軸度⊚への一本化が進められている。
規格混在の罠
日本国内の図面でもJIS、ASME、ISOが混在することがある。3規格は基本的に互換性が高いが、同心度・対称度の扱い、MMC修飾子の細部、データム指示の書式が微妙に異なる。「JIS B 0021:2024」「ASME Y14.5-2018」「ISO 1101:2017」のどれを根拠にした図面なのかを表題欄で明示し、それに合わせた記号を選ぶ必要がある。本ツールは規格年度を切り替えるだけで、廃止記号や差異を警告する。
GD&T記号判定ガイドが活躍する4つの場面
- 既存図面の解読: 海外サプライヤから届いたASME図面、20年前のJIS図面、誰が描いたか分からない手書き図——どれも記号の意味を即座に確認できる。「symbol-lookup」モードで記号を選ぶだけ
- 新規作図: 「穴の位置を指示したいけど、位置度と同軸度どっち?」「鋳造面の輪郭管理は線輪郭度と面輪郭度どっち?」を「feature-to-symbol」モードで逆引き。第一候補と第二候補が並ぶ
- 検図・レビュー: 後輩や外注先が描いた図面に対し、「データム指示が抜けている」「同心度は廃止」などのチェックを瞬時に実行。15記号それぞれの「よくある誤用」が表示されるので、検図観点が標準化される
- 新人教育・社内研修: 機械系新人や中途入社の品質エンジニアに、GD&Tの全体像を教える教材として。15記号を1画面でブラウズでき、4分類の体系も即座に把握できる
基本の使い方 — 3ステップで完了
- モードを選ぶ: 既存図面の解読なら「記号→意味」、新規作図で記号を探すなら「特徴→推奨記号」
- 記号または特徴を選ぶ: モードに応じて、15種の幾何公差記号、または7種の部品特徴(穴の位置・円筒の真円・回転体の振れ等)から該当するものをドロップダウンで選択
- 適用条件を設定: 適用部品(旋盤/フライス/プレス/モーター軸/精密ピン/鋳造)、規格(JIS/ASME/ISO)、精度レベル(高/中/低)を選ぶと、JIS定義・データム要否・公差域形状・典型公差値・推奨測定法・図面記入例・よくある誤用が1画面に並ぶ
6ケースで確かめる — 幾何公差 記号 意味の使い分け
ケース1: フライス加工部品の穴位置 — 位置度(⊕)
入力: モード=記号→意味、記号=位置度、適用部品=フライス、規格=JIS B 0021:2024、精度=中(IT7-8)
→ 記号: 位置度(Position・⊕)
→ データム要否: 必須
→ 公差域の形: 円筒(直径表示)または2平行平面
→ 典型公差値: 20-100μm
→ 推奨測定法: CMM、機能ゲージ、画像測定機
→ 図面記入例: ⊕|φ0.05|A|B|C
解釈: ボルト穴パターンの位置決めに最も使われる記号。直径表示(φ)で円形公差域を指示し、データム3面(A, B, C)で完全拘束する。修飾子M(最大実体)/L(最小実体)を付けるとボーナス公差も活用できる。
注意: データム省略は致命的ミス。位置度は必ず1〜3個のデータム参照を伴う。
ケース2: フライス加工の取付面 — 平面度(▱)
入力: モード=記号→意味、記号=平面度、適用部品=フライス、規格=JIS B 0021:2024、精度=中
→ 記号: 平面度(Flatness・▱)
→ データム要否: 不要
→ 公差域の形: 2平行平面間
→ 典型公差値: 10-100μm
→ 推奨測定法: 定盤+ハイトゲージ、CMM、レーザー干渉計
→ 図面記入例: ▱|0.05|
解釈: 取付面・ガスケット面・定盤など、面そのものの平らさを評価する形状公差。データム不要なので、加工側も検査側も解釈に迷いがない。
注意: 真直度(—)と混同しないこと。真直度は「線」の評価、平面度は「面」の評価。エッジが真っ直ぐでも面全体がうねっていれば平面度はNG。
ケース3: 特徴→推奨記号で「穴の位置」を逆引き
入力: モード=特徴→推奨記号、特徴=穴の位置
→ 記号: 位置度(Position・⊕) → 第一候補: 位置度 → 第二候補: 同軸度 → 推奨理由: 穴位置の主要記号。直径表示で円形公差域を指示。同軸の関係なら同軸度
解釈: 「穴の位置を指示したい」と思ったら、第一候補は位置度⊕。同軸関係(複数の穴が1本の軸線上に並ぶ)の場合のみ同軸度◎を検討する。本モードは作図中の「どの記号を使えばいいか分からない」を即解決する。
ケース4: ASME図面で同心度を選ぶと…廃止警告
入力: モード=記号→意味、記号=同心度、適用部品=旋盤、規格=ASME Y14.5-2018、精度=中
→ 記号: 同心度(Concentricity・◎) → データム要否: 必須 → よくある誤用: ASME Y14.5-2018で廃止されたため、最新図面では使用不可
解釈: ASME系の図面で同心度を選ぶと自動で廃止警告が出る。代替は位置度⊕(直径公差域)。古い図面のテンプレートをコピー流用していて気づかずASME相手に出してしまう事故を、設計段階で食い止める。
ケース5: 旋盤シャフトの軸全長真円 — 円筒度(⌭)
入力: モード=記号→意味、記号=円筒度、適用部品=旋盤、規格=JIS B 0021:2024、精度=高(IT5-6)
→ 記号: 円筒度(Cylindricity・⌭)
→ データム要否: 不要
→ 公差域の形: 同軸の2円筒面間
→ 典型公差値: 5-20μm(高精度時)
→ 推奨測定法: 真円度測定機(軸方向走査)、CMM
→ 図面記入例: ⌭|0.02|
解釈: シャフト全長の幾何精度を一括管理する形状公差。真円度+真直度+平行度を統合した上位概念で、データム不要。ベアリングジャーナルや長尺ピンに使う。
注意: 全振れ(⤨)と混同しがち。全振れはデータム必須で「回転させたときの振れ」を見るのに対し、円筒度は「形体そのものの円筒らしさ」をデータムなしで評価する。機能要求次第で使い分ける。
ケース6: 鋳造部品の3D曲面 — 面輪郭度(⌓)
入力: モード=記号→意味、記号=面輪郭度、適用部品=鋳造、規格=JIS B 0021:2024、精度=低(IT9-10)
→ 記号: 面輪郭度(Surface Profile・⌓)
→ データム要否: 任意
→ 公差域の形: 2包絡面間(面対称)
→ 典型公差値: 100-500μm(鋳造)
→ 推奨測定法: CMM、3Dスキャナ、形状測定機
→ 図面記入例: ⌓|0.2|A|B|C
解釈: 鋳造形状やエアロフォイル全体など、3次元曲面の輪郭を一括で縛る記号。データム指示は任意で、データムなしなら形状公差、ありなら姿勢/位置公差として機能する柔軟性がある。
注意: 線輪郭度(⌒)と混同しないこと。2D輪郭線(カム断面・エアロフォイル断面)は線輪郭度、3D曲面(鋳造形状全体)は面輪郭度。鋳造×高精度(IT5-6)は通常組合せ外で、本ツールは黄色警告を出す。砂型鋳造の現実的精度はIT11-13で、機械加工の追加が前提だ。
仕組み・アルゴリズム — 索引データベース+逆引きマッピング
採用したアプローチの選定
GD&T記号の判定ガイドを実装するには、いくつかの方式が考えられた。
| 方式 | 内容 | 採用可否 |
|---|---|---|
| 静的データベース+ルックアップ | 15記号の属性を構造体配列で持ち、選択値で索引 | 採用 |
| ルールベース推論 | 「データム必須なら…」の条件分岐 | 静的データのほうが保守容易 |
| LLM質問応答 | 自然文で質問→生成 | 規格条文の正確性が担保不能 |
| CADモデル解析 | 3Dモデルから自動抽出 | 範囲が大きすぎ、本ツールの用途と乖離 |
採用したのは静的データベース+ルックアップ方式。15記号それぞれに id、nameJa、nameEn、marker、definition、datumRequired、toleranceForm、typicalRangeUm、measurementMethod、recommendedFor、notRecommendedFor、example、relatedSymbols、commonMistakes、jisQuote、category を持つ SymbolDefinition 型を定義し、配列に格納している。規格条文に紐づく情報は人手で校正しているので、LLMによる生成より精度を担保しやすい。
実装フロー
def.id が記号IDで、各属性は規格を読み込んで人手で確定済み。mode の切り替えで2系統の検索が走る。
type SymbolDefinition = {
id: string;
nameJa: string;
nameEn: string;
marker: string;
definition: string;
datumRequired: 'required' | 'optional' | 'not-required';
toleranceForm: string;
typicalRangeUm: string;
measurementMethod: string;
recommendedFor: string;
notRecommendedFor: string;
example: string;
relatedSymbols: string;
commonMistakes: string;
jisQuote: string;
category: string;
};
function calculate(
mode: Mode,
symbol: Symbol,
feature: Feature,
application: Application,
standardYear: StandardYear,
precision: PrecisionLevel
): GuideResult | null {
// Step 1: モードに応じて effectiveSymbol を決定
const effectiveSymbol = mode === 'feature-to-symbol'
? featureMappings.find(f => f.id === feature)?.primaryRecommend
: symbol;
// Step 2: 記号定義を索引
const def = symbols.find(s => s.id === effectiveSymbol);
if (!def) return null;
// Step 3: 精度レベルから典型公差値を決定(applicationプリセットでオーバーライド)
const appPreset = applicationPresets.find(a => a.id === application);
const typicalRange =
appPreset?.typicalToleranceUm ?? precisionItToleranceUm[precision];
// Step 4: 規格年度・適用条件による警告マージ
let commonMistakes = def.commonMistakes;
// ASME 2018 + concentricity の警告は別途 warnings 配列で UI 表示する
return { /* 全属性を整形して返却 */ };
}
featureMappings 配列は逆引き用のテーブルで、7つの部品特徴(平面の平坦さ・円筒外径の真円・穴の位置・2軸の同軸・角度の傾斜・回転体の振れ・輪郭の形状)に対し、第一候補(primaryRecommend)と第二候補(secondaryRecommend)の記号IDをマップしている。
計算例: 「穴の位置」を逆引き
入力: mode=feature-to-symbol、feature=hole-position、application=mill、precision=mid
Step 1: featureMappings から hole-position を検索
→ primaryRecommend = 'position'
Step 2: symbols から id='position' を検索
→ SymbolDefinition { nameJa: '位置度', marker: '⊕', datumRequired: 'required', ... }
Step 3: precisionItToleranceUm['mid'] = '20-100μm'
Step 4: standardYear='jis-2024' なので追加警告なし
Step 5: 結果オブジェクトを構築して返却
→ 出力: 記号=位置度(Position・⊕)、データム=必須、典型公差値=20-100μm、図面記入例=⊕|φ0.05|A|B|C
規格年度切替の実装
standardYear を切り替えると、同じ記号に対する解説が動的に変化する。たとえば同心度(concentricity)は、JIS-2024では「廃止予告」、ASME-2018では「廃止」、ISO-2017では「条件付き残存」と扱いが異なる。実装では UI 側の警告バナーで条件付きメッセージを差し替える形にしている。これにより、規格書を3冊横置きで照らし合わせる作業が、ドロップダウン1つで完結する。
適用条件プリセットの効き方
applicationPresets は6種(旋盤・フライス・プレス・モーター軸・精密ピン・鋳造)。各プリセットには recommendSymbols(その加工法で頻出する記号群)と typicalToleranceUm(その加工法での典型公差幅)を持たせている。たとえば鋳造を選ぶと典型公差値が100-500μmに、モーター軸を選ぶと5-30μmに即座に切り替わる。ITレベル(高/中/低)と組み合わせて、現実的なレンジを提示する。
他ツールとの違い:無料Web索引としての立ち位置
GD&T 関連ツールは世の中にいくつか存在するが、本ツールが埋めるのは「日本語・無料・記号⇔特徴の双方向索引」という空白だ。
PTC GD&T Advisor は CAD 組込み型の有料ガイダンスツールで、3D モデルから推奨記号を提案してくれる強力なソリューション。ただし英語 UI 中心で、年間ライセンス費用も個人利用には手が届きにくい。教育目的や検図中の即時参照には機能過多だ。
Misumi や THK の製品選定ツールは、特定部品(直動ガイド、ベアリング等)の選定に特化していて、GD&T 記号の横断索引には使えない。「対称度の意味だけ確認したい」「鋳造部品にどの記号を当てるべきか」といったクロスリファレンス用途には向かない。
**教科書・規格書(JIS B 0021、ASME Y14.5)**は1次情報として最も正確だが、引きにくい。記号→定義の方向は索引で辿れても、「特徴→推奨記号」の逆引きは目次を行き来する必要があり、実務中に開くには重い。
本ツールは「記号→意味」と「特徴→推奨記号」の双方向を1画面で切り替えられる点が最大の差別化ポイント。15記号すべての JIS 定義・データム要否・典型公差値・推奨測定法・誤用警告を、選択即表示する。さらに JIS 2024 / ASME 2018 / ISO 2017 の3規格切替に対応し、規格差で挙動が変わる箇所(同心度の廃止扱い等)を自動で警告する。無料 Web で日本語ネイティブ対応の GD&T 索引はほぼ皆無で、Kindle『機械製図・公差設計入門』読者向けの実務リファレンスとして設計してある。
豆知識:GD&T 記号にまつわる規格史
同心度がASME Y14.5-2018で廃止された経緯
同心度(Concentricity、◎)は長らく「データム軸線に対する断面中心の対称配置」を表す記号として使われてきたが、ASME Y14.5-2018 で正式に廃止された。理由は単純で、測定が現実的に困難すぎたからだ。同心度の検証には部品断面の質量分布中心(重心)を求める必要があり、CMM で何百点もサンプリングして数値解析する手間がかかる。一方、位置度⊕(直径公差域)は CMM の標準機能で直接測れる。「測れないものは規格として残せない」という ISO/ASME の方針転換が背景にあり、JIS B 0025 でも同軸度⊚を優先する流れに移行している。古い図面で同心度を見かけたら、原則「位置度に置き換え可能か」を検討するのが最新の作法だ。
JIS B 0021:2024 の改訂ポイント
JIS B 0021 は2024年改訂で公差記入枠の構成が ISO 1101:2017 と整合する形に変更された。具体的には全周指示記号(円マーク)の図示方法、データム文字の書き順、修飾子の記入位置などが ISO 準拠に統一されている。旧 JIS(1998年版)で書かれた図面と新 JIS の図面が混在する現場では、特に修飾子の記入位置で誤読が起こりやすい。詳細は JIS B 0021 規格本文で確認してほしい。
ISO と ASME の解釈差
同じ「位置度」でも、ISO 1101 と ASME Y14.5 では公差域の解釈が微妙に違う。ASME は MMC(最大実体公差方式)修飾子のボーナス公差計算が標準で組み込まれているのに対し、ISO はオプション扱いに近い。グローバル設計の現場では、図面冒頭に「準拠規格:ISO 1101:2017」のように明記しないと検図時に解釈が割れる事故が起きる。
Tips:GD&T 記号選定の実務メモ
- 記号選定の優先フロー:まず「データムが必要か」を判断する。不要なら形状公差4記号(真直/平面/真円/円筒)の中から選ぶ。データムが必要なら、関係性(平行/直角/任意角度/位置/同心/振れ)で絞り込む。この判断ツリーを持っておくと作図が速くなる。
- データム指示忘れの防止:CAD で記号を貼った瞬間にデータム枠が空欄のまま放置されがち。検図前に「位置・姿勢・振れ公差は必ずデータム文字(A/B/C 等)が入っているか」を一括確認する習慣をつける。
- MMC修飾子(Ⓜ)の適用範囲:軸線公差(位置度・同軸度・直角度・平行度・真直度)にのみ適用可能。真円度・平面度・真円度系の形状公差には JIS B 0023 で禁止されている。CAD のテンプレートで MMC を貼り付けるとき、対象記号が軸線系か事前に確認する。
- 典型公差値の感覚:機械加工なら IT7-8(中精度、20-100μm)が標準。鋳造は IT11-13(粗精度、100-500μm)。研削仕上げで IT5-6(高精度、5-20μm)。この3レンジの感覚があれば、過剰公差や緩すぎる公差を一目で見抜ける。
- 検図チェックリスト:(1) 全公差欄にデータムが指定されているか(形状公差を除く)、(2) 理論寸法(角度・位置)が併記されているか、(3) 廃止記号(同心度等)が残っていないか、(4) 測定方法が公差値に対して現実的か。
FAQ
データム不要で使える記号は?
形状公差4記号(真直度(—)・平面度(▱)・真円度(○)・円筒度(⌭))はデータム指示なしで使える。これらは「形体それ自体の幾何学的な狂い」を規定する記号で、他の形体との関係を示さないため。一方、姿勢公差・位置公差・振れ公差はすべてデータム必須となる。線輪郭度(⌒)と面輪郭度(⌓)はデータム任意で、形状公差として使うか姿勢/位置公差として使うかで切り替わる。
MMC修飾子(最大実体公差方式・Ⓜ)はどの記号に使える?
軸線または中心面を持つ形体に適用する記号にのみ使える。具体的には**位置度・同軸度・直角度・平行度・真直度(軸線版)**の5つ。真円度・平面度には JIS B 0023 によって禁止されている(公差域の形状が回転対称でないため、MMC のボーナス公差計算が成立しない)。本ツールでも真円度に M 修飾子を指定すると赤色警告を出すよう実装してある。
JIS / ASME / ISO の違いは何?
3規格は基本的な記号体系・公差域の定義はほぼ共通で、相互運用性は高い。主な違いは(1) 同心度の扱い(ASME 2018 で廃止、JIS でも同軸度推奨、ISO でも縮小傾向)、(2) MMC 修飾子のデフォルト挙動(ASME はボーナス公差が標準、ISO はオプション)、(3) 図示方法の細部(データム文字の書き順、全周記号の位置)。グローバル設計では図面冒頭に準拠規格を明記し、検図時の解釈差を防ぐ。本ツールでは規格セレクタで切替可能なので、対象図面に合わせて確認してほしい。
同心度(◎)は本当に使えない?
ASME Y14.5-2018 で正式に廃止されたので、ASME 系図面では使用不可と考えてよい。JIS B 0025:1998 ではまだ規格としては残っているが、実務では同軸度⊚または位置度⊕(直径公差域)で代替するのが主流。理由は測定の困難さ(断面の質量中心を求める必要がある)。古い図面の検図で同心度を見つけたら、設計意図を確認したうえで、新規改訂時に同軸度または位置度に置き換えるのが推奨アクション。
位置度の公差値はどう決めたらいい?
機能要件から逆算するのが原則。たとえばボルト穴パターンなら「ボルト径とクリアランスから許容ずれ量」を算出し、それを直径公差域(φ)として指示する。一般に機械加工 IT7-8(20-100μm)、研削 IT5-6(5-20μm)、**鋳造後機械加工なし IT11-13(100-500μm)**が目安。複数公差が累積する場合は累積公差解析が必要で、公差スタックが要件を満たすかは /tolerance-stack で検証してほしい。
まとめ
GD&T 15記号の意味・データム要否・典型公差値を、記号⇔特徴の双方向で即引きできる無料 Web 索引として実装した。JIS B 0021:2024・ASME Y14.5-2018・ISO 1101:2017 の3規格に対応し、同心度廃止のような規格差を自動警告する。図面解読・検図・作図・教育研修のいずれの場面でも、ブックマークしておけば手元のリファレンスとして機能するはず。
GD&T を実際の設計に落とし込むには、データム面の選定と公差累積の検証も欠かせない。データム面の優先順位や接触条件の決め方は /datum-setup-assistant で支援している。複数公差が積み重なる組立部品の検証には /tolerance-stack を使ってほしい。3つを組み合わせれば、GD&T の図面表記から組立精度の検証までを一気通貫で確認できる。
不明点・リクエストは /contact からどうぞ。
Mahiro
Mahiro Appの開発者。検図中に同心度(◎)の廃止に何度もハマって、3秒で答えに辿り着けるGD&T索引を作った。15記号フルカバーで、図面の前で固まる時間をゼロにしたい。
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