ワーストケースだけ見ていた頃の自分に渡したいツール
「設計時にワーストケースで通したのに、量産で1000個に3個ガタが出る」——機械設計の現場では、こういう齟齬が普通に起きる。WC法で全部 ±公差を単純加算すると過大設計になる一方、実際の量産品はガウス分布に近いから、もっと狭い範囲に集中する。逆にWC法で OK 判定が出ても、Cpkが1.0切ってたら工程改善コストがじわじわ効いてくる。
このツールは寸法チェーンに対してワーストケース/RSS/モンテカルロ10万試行を同時に走らせ、合成すきま・Cpk・ppm不良率・部品ごとの寄与度ランキングまで一気に出す。10万個量産したとき何個が許容範囲を外れるか、どの部品の公差を絞れば歩留まりが何倍改善するか、をブラウザだけで判定できる。
WC・RSS・MCの3つを並べて見ることで初めて、「設計の安全マージン」と「量産歩留まり」の両方を同じ画面で議論できるようになる。
なぜ作ったのか
最初に作ったのは /tolerance-stack という単純なWC/RSSツールだった。1次元の寸法チェーンに対して累積公差を出すだけのシンプルなもので、「組立後のすきまが正か負か」を判定する用途には十分だ。だが量産フェーズに入ると、これだけでは足りないことを痛感した。
きっかけは、ある量産プロジェクトでRSS法では3σで余裕があったのに、出荷検査で0.3%が不良になった件。原因を追ってみたら、射出成形品の1部品だけが正規分布じゃなく一様分布に近いばらつき方をしていて、RSSのガウス前提が崩れていた。さらにその部品が量産第2ロットから平均値が0.05mmシフトしていて、Cpkが1.0を切っていた。RSS単独では見えない問題だった。
商用の Sigmetrix CETOL や Dimensional Control Systems の 3DCS には当然モンテカルロが入っているが、ライセンス費用は年間数十万〜百万円規模。中小の設計現場で気軽に回せるものじゃない。Excelマクロを自作する手もあるが、10万試行を回すと数十秒固まるし、ヒストグラムや寄与度ランキングまで自前で組むのは骨が折れる。
「RSSとモンテカルロを同じ画面で並べて、分布種別と平均シフトまで指定できる無料ツール」が欲しかった。寄与度ランキングまで出せば、改善すべき部品が一目で分かる。Cpkとppmが量産不良率と直結するから、品質会議の数値根拠としても使える。これが本ツールを作った理由だ。
ワーストケース/RSS/モンテカルロ——3つの公差解析法
ワーストケース法(WC)とは何か
WC法は最もシンプルで保守的な手法だ。「全部品が同時に最悪値を取る」と仮定して公差を単純加算する。
wcMax = Σ(direction==plus ? nominal+plus : -(nominal+minus))
wcMin = Σ(direction==plus ? nominal+minus : -(nominal+plus))
たとえ話で言うと、5人で待ち合わせをするときに「全員が遅刻する最大時間の合計」を待ち合わせ時刻のバッファに使うようなもの。安全だけど現実的じゃない。実際は誰かは早く着くから、トータルでは見積もりほど遅くならない。
部品が増えると WC幅は線形に増加する。15部品で各 ±0.05mm なら WC幅は ±0.75mm(合計1.5mm)になる。これを許容範囲に収めようとすると、各部品の公差を厳しくするか、設計を作り直すしかなくなる。
RSS法(√和の二乗根)とは何か
RSS(Root Sum Square)法は「各部品が独立な正規分布に従う」と仮定して、分散の和の平方根で合成する。
sigma_i = (plus + |minus|) / 6 # ±3σ仮定
sigma_total = sqrt(Σ sigma_i²)
range3sigma = ±3 × sigma_total
なぜ √和なのか。確率論では「独立な正規分布の和の分散は分散の和」になる。つまり Var(X+Y) = Var(X) + Var(Y)。標準偏差で言えば σ(X+Y) = √(σ_X² + σ_Y²) になる。
WC法と比べると、部品数が増えても合成σは √N に比例する程度しか増えない。15部品 各 ±0.05mm なら、σ_i=0.0167、σ_total=√(15×0.0167²)≈0.0645、RSS3σ=±0.194mm。WC幅±0.75mmの約1/4だ。
ただし RSS法は 正規分布前提 という強い仮定が入る。射出成形のように分布が偏っていたり、量産で平均値がシフトしたりすると過小評価する。詳しくは「RSSが過小評価する条件」も参照。
モンテカルロ法(MC)とは何か
MC法は数式に頼らず、各部品の分布から実際に乱数サンプルを生成して、組立後の合成すきまを試行毎に計算する手法だ。10万試行回せば、合成すきまの分布が「ヒストグラム」として直接得られる。
for n in 1..N:
for each part:
value_i = sample_from(distribution_i)
gap_n = Σ(direction==plus ? value_i : -value_i)
collect samples → mean, stddev, percentile, ppm
MC法の最大の強みは 分布種別を尊重できる こと。正規・一様・三角・歪正規それぞれに対応すれば、射出成形の偏ったばらつきも、量産シフトも、忠実に再現できる。RSSが「全部品が完璧な正規分布」を仮定するのに対し、MCは現実のばらつき方をそのまま入れられる。
Cpk(工程能力指数)と ppm
Cpkは「規格中心からの平均値のズレ」と「工程ばらつき」の両方を評価する指標だ。
USL = targetGap + gapTolerancePlus # 規格上限
LSL = targetGap + gapToleranceMinus # 規格下限
Cpk = min((USL - mean) / (3σ), (mean - LSL) / (3σ))
なぜ min を取るかというと、平均が規格中心からズレていると、片側だけが先に規格外に出るから。両側のうち厳しい方で評価しないと、不良率を見誤る。
ppm(parts per million)は100万個のうち何個が規格外になるかを示す。MC試行で規格外サンプル数をカウントし、試行数で割って 1e6 を掛ける。Cpk=1.33 なら理論上 63ppm、Cpk=1.0 なら 2700ppm(0.27%)程度になる。
量産不良 1ppm の差が10万円〜数千万円を動かす
ppm 100倍の差は何個の差か
10万個量産する案件で考えてみる。ppm=100 なら不良10個、ppm=10000 なら不良1000個。差は100倍、絶対数で990個。1個あたり手直しコストが3000円なら、その差は約297万円。リコールが発生すれば回収費用が一気に1000万円〜数千万円のオーダーになる。
設計時に 30分かけて公差解析をやり直して ppm を1/100 にできるなら、投資対効果は圧倒的だ。「設計のひと手間 vs 量産後のリカバリ」の比較で、後者は10倍〜100倍のコストになる。
Cpk 1.33 / 1.67 の意味
工業界では Cpk≥1.33 が「合格ライン」、Cpk≥1.67 が「優良ライン」とされる。自動車業界の AIAG(Automotive Industry Action Group)SPC マニュアルでは、新規工程は Cpk≥1.67 が要求されることが多い。
Cpk が 1.0 を切ると ppm が一気に膨らむ。たとえば Cpk=0.83 なら ppm≈12000(1.2%不良)。10万個量産で1200個の不良——これが「設計時にRSSだけ見て安心して量産に入った」結果だ。MC+Cpkまで見ておけば、製造前に「Cpk 1.0 切ってる、要工程改善」とアラートを出せた。
WC法だけだと過大設計になる
逆方向の問題もある。WC法だけで設計すると、過大すぎる安全マージンを持ってしまう。15部品の機構で WC合成±0.75mmを許容範囲±0.3mmに収めようとすると、各部品の公差を 1/3 に絞る必要がある。これは加工精度を 3倍に上げることを意味し、製造コストが平均で2〜5倍に跳ね上がる。
RSS/MCで「実際は ±0.2mm に95%入る」と分かれば、現状の公差で十分。コストを増やさずに歩留まり目標を達成できる。
JIS B 0405-1991(普通公差)や JIS B 0419(普通幾何公差)も、もともとは「全部品が同時に最悪値を取らない」前提で級分けされている。つまり実務的には RSS/MC ベースの考え方が標準なんだ。
活躍する場面
量産前の最終DR(デザインレビュー):試作で OK でも、量産10万個では何ppm 不良が出るかを事前に見積もる。Cpk 1.33 ライン未達なら設計か工程の見直しを起票する。
設計の感度分析:「どの部品の公差を絞れば最も効くか」を寄与度ランキングで定量化する。経験と勘ではなく、変動の支配要因に基づいて改善対象を選ぶ。
サプライヤー選定の根拠資料:「この公差水準なら ppm はこの値」と数値で示し、製造コストとの妥当性を交渉する。一様分布のサプライヤーと正規分布のサプライヤーで Cpk がどう変わるかも比較できる。
品質会議での原因分析:出荷検査で不良率が上振れしたとき、「平均シフト」「分布種別の想定違い」のどちらかをMC で再現してみる。実測ヒストグラムとシミュレーションを重ねれば、原因仮説の妥当性を検証できる。
基本の使い方(3ステップ)
- 解析モードと部品データを入力:「3手法比較/RSSのみ/モンテカルロのみ」を選び、寸法チェーンを構成する部品を最大15個まで追加する。各部品にラベル・公称寸法・+公差・-公差・方向(plus=外側に効く/minus=内側に効く)・分布種別・想定Cpk・平均シフトを入れる。
- 目標すきまと許容差を入力:targetGap(公称すきま)と gapTolerancePlus/Minus を入れると、Cpk と ppm が算出される。これらを空にすると統計値(平均・σ・パーセンタイル)のみが出る。
- 結果を読み解く:WC範囲・RSS±3σ・MC平均σ・Cpk・ppm・寄与度ランキング・改善示唆・ヒストグラムが同時に出る。Cpk と ppm が目標未達なら、寄与度TOP3の部品を10/20/30%絞った場合の予測 ppm を見て改善方針を決める。
6ケースの公差解析ウォークスルー
ケース1:2部品シンプル(A50±0.1[+] - B20±0.05[-])
最も基本的な減算チェーン。
nominalGap = 50 - 20 = 30 mm
WC幅 = (50+0.1) - (20-0.05) - ((50-0.1) - (20+0.05)) = 0.30 mm
σ_A = 0.2/6 = 0.0333, σ_B = 0.1/6 = 0.0167
σ_total = √(0.0333² + 0.0167²) = 0.0373
RSS3σ = ±0.112 mm
モンテカルロσ ≈ 0.0373 mm(理論値と一致)
解釈:targetGap=30, ±0.2 で Cpk=0.2/(3×0.0373)=1.79、ppm≈8。WC幅(±0.15)は許容範囲(±0.2)内、RSS3σ(±0.112)も余裕がある優秀な設計。
ケース2:5部品線形チェーン(H80 - 軸10 - ベ20 - スペ15 - ナ30)
実機での典型的な軸組。各 ±0.05 が4部品、ハウジングのみ ±0.1。
nominalGap = 80 - 10 - 20 - 15 - 30 = 5 mm
WC幅 = (0.1×2) + (0.05×2)×4 = ±0.30 mm(合計0.60)
σ_H = 0.0333, σ_他4部品 = 0.0167 ずつ
σ_total = √(0.0333² + 4×0.0167²) = 0.0471
RSS3σ = ±0.141 mm
モンテカルロσ ≈ 0.0471 mm
解釈:targetGap=5, ±0.3 で Cpk=0.3/(3×0.0471)=2.12、ppm≈0。WC(±0.30)はギリギリ通るがRSS(±0.141)では大幅に余裕。寄与度はハウジングが約50%(σ²=0.00111 vs σ²合計=0.00222)。
ケース3:1部品のみ(警告ケース)
parts = [単独部品 50±0.1]
警告:「部品が1個のみではチェーン解析の意味が薄い」
nominalGap = 50, WC=±0.1, RSS3σ=±0.1(同じ値になる)
解釈:1部品では WC と RSS が一致する。チェーン解析は2部品以上で意味を持つ。警告を確認したら部品を追加する。
ケース4:同軸度3軸連結(位置度応用)
各軸が同方向(plus)に ±0.02mm の偏心を持つ場合。
nominalGap = 0+0+0 = 0 mm
WC幅 = ±0.06 mm(最大偏心の合計)
σ_i = 0.04/6 = 0.00667, 3部品
σ_total = √(3 × 0.00667²) = 0.01155
RSS3σ = ±0.0346 mm
モンテカルロσ ≈ 0.01155 mm
解釈:WC では±0.06のズレを覚悟する必要があるが、3軸が独立にばらつくとMC では±0.0346 に95%が収まる。「3軸全部が同方向に最大偏心」する確率は 0.027% 程度しかない。位置度の半径方向統計はより複雑なので、本ツールは1次元近似として使う。
ケース5:射出成形2型番混在(uniform+normal)
部品A型1:nom=40, ±0.15, uniform分布(公差幅内で均等にばらつく)
部品B:nom=30, ±0.1, normal分布
nominalGap = 40 - 30 = 10 mm
σ_A(uniform) = 0.30/√12 = 0.0866
σ_B(normal) = 0.20/6 = 0.0333
σ_total = √(0.0866² + 0.0333²) ≈ 0.0928
RSS3σ予測 ≈ ±0.278(ただし合成は厳密には正規にならない)
モンテカルロσ ≈ 0.093 mm(分布形状を尊重)
解釈:uniform分布は σが正規より大きい(同じ公差幅でも標準偏差が大きい)。一様分布をRSSの正規前提で扱うと過小評価する典型例。MC を回すとヒストグラムが正規よりやや平坦になり、Cpk=±0.4/(3×0.093)≈1.43 と低めに出る。改善示唆では型1の公差絞り込みが最優先と分かる。
ケース6:15部品大規模(WC vs RSS の差が顕著)
parts = 15部品 × 各 ±0.05mm(全て同じ)
WC幅 = ±0.75 mm(合計1.5mm)
σ_i = 0.10/6 = 0.0167 ずつ
σ_total = √(15 × 0.0167²) = 0.0645
RSS3σ = ±0.194 mm
モンテカルロσ ≈ 0.0645 mm
WC幅 / RSS3σ = 0.75 / 0.194 ≈ 3.87倍
解釈:部品数が増えるほど WC法は過大評価する。15部品では WC が RSS の約4倍。許容範囲±0.3mm の場合、WC では NG(±0.75)だが RSS/MC では余裕で OK(±0.194、Cpk=1.55)。WC法だけで設計すると公差を1/2.5に絞る必要があり、加工コストが跳ね上がる。RSS/MCで適正値に落とし込むと製造コストを大幅削減できる。15部品超では本ツールの警告も出る。
仕組み・アルゴリズム
候補手法の比較表
| 手法 | 保証範囲 | 前提条件 | 部品増加への耐性 | 計算速度 |
|---|---|---|---|---|
| WC | 100%(理論上) | なし(決定論的) | 線形に悪化(部品×公差) | 即時 |
| RSS | 99.73%(±3σ仮定) | 全部品が独立な正規分布 | √N で穏やか | 即時 |
| MC | サンプル分布次第(10万試行で95%CI±0.6%) | 分布種別を指定する必要あり | 部品増加にほぼ非依存 | 10万試行で~50ms |
3手法は排他ではなく 併用 が正解。WCで上限保証、RSSで近似値、MCで分布形状を尊重した精密値、と役割分担する。
分布種別の使い分け
// 正規分布:機械加工部品(Box-Muller法でN(μ,σ)を生成)
function sampleNormal(mean: number, sigma: number): number {
const u1 = Math.random(), u2 = Math.random();
return mean + sigma * Math.sqrt(-2 * Math.log(u1)) * Math.cos(2 * Math.PI * u2);
}
// 一様分布:射出成形・プレスのばらつきが大きい場合
function sampleUniform(min: number, max: number): number {
return min + Math.random() * (max - min);
}
// 三角分布:中央値に集中する加工(手仕上げ・選別後)
function sampleTriangular(min: number, max: number, mode: number): number {
const u = Math.random();
const f = (mode - min) / (max - min);
return u < f
? min + Math.sqrt(u * (max - min) * (mode - min))
: max - Math.sqrt((1 - u) * (max - min) * (max - mode));
}
// 歪正規分布:量産シフトを表現(α=2 で右に歪む)
function sampleSkewedNormal(mean: number, sigma: number, alpha: number): number {
// ... skew-normal の実装
}
機械加工は基本「正規」、射出成形やプレスは「一様」または「歪正規」、選別後の部品は「三角」が経験則。実測データがあれば、ヒストグラムの形状から判定できる。
Cpk の導出と min を取る理由
Cpu = (USL - mean) / (3σ) # 上側余裕
Cpl = (mean - LSL) / (3σ) # 下側余裕
Cpk = min(Cpu, Cpl)
なぜ min か。平均が規格中心と一致していれば Cpu=Cpl だが、平均がシフトすると片側が先に規格外に出る。たとえば LSL=4.7, USL=5.3, mean=5.05, σ=0.05 の場合、Cpu=(5.3-5.05)/0.15=1.67、Cpl=(5.05-4.7)/0.15=2.33。実際の不良はUSL側で先に出るので、Cpk=1.67 で評価する。両側の悪い方を取らないと、不良率を過小評価する。
寄与度ランキングの計算
contribution_i = sigma_i² / Σ sigma_j² × 100%
分散の加法性に基づく。ある部品の公差を半分にすると σ_i が半分、σ_i²が1/4 になり、合計分散がその分減る。寄与度TOP1 が60%なら、その部品の公差を半分にするだけで合成σが約 √(1-0.45)≈0.74倍 まで縮む(45%の分散削減)。改善対象を選ぶ際の最重要指標になる。
改善示唆ロジック
TOP3部品 × {10%, 20%, 30%} 絞込
→ それぞれで sigma_i' を再計算
→ MC を回し直して新しい ppm を予測
→ 「部品X を 20% 絞ると ppm が 1234 → 56 になる」と表示
寄与度ランキングと改善示唆を組み合わせると、「どの部品をどれだけ絞れば、どの程度改善するか」がワンビューで分かる。設計レビューでの議論材料として強力だ。
ヒストグラム(30ビン)
MC試行で得たサンプル配列を min から max まで30等分し、各ビンに含まれるサンプル数をカウントする。SVGでバー描画し、USL/LSL の縦線、MC平均の緑線、WC範囲の薄赤バンド、RSS±3σの薄黄バンドを重ねる。視覚的に「どこまで規格内に収まっているか」「どの方向にシフトしているか」が直観的に把握できる。
他ツールとの違い(公差解析 比較)
公差解析の世界には、商用CADプラグインから手作りExcelまで多様な選択肢が存在する。本ツールがどう位置づけられるかを、3つの代表的な選択肢と比べて整理した。
Sigmetrix CETOL(商用・有料)との違い CETOLはCADモデルの幾何情報から自動的に寸法チェーンを抽出し、3D解析まで対応する高機能ツールだ。ただし年間ライセンス費用は数百万円規模で、量産設計の現場でも使えるのは限られた大企業に絞られる。本ツールは1次元寸法チェーンに限定する代わりに、ブラウザだけで完結し、初期費用ゼロで同等の統計解析(RSS+モンテカルロ+Cpk+寄与度)を実行できる。
Excel手計算との違い Excelでも公差積み上げは書ける。ただし、(1)20行を超えると数式管理が破綻する、(2)分布種別を切り替える仕組みが面倒、(3)モンテカルロは VBA か Python 連携が必要、(4)寄与度ランキングと改善示唆は手作業、という4つの壁に当たる。本ツールは最大15部品×4分布×10万試行を1クリックで処理し、寄与度と改善示唆まで自動で返す。
tolerance-stack(同サイト・1次元単純WC/RSS)との違い 本サイト内の /tolerance-stack は1次元の単純なワーストケース/RSS計算に特化したツールで、設計初期の素早い干渉判定に使う想定だ。一方で本ツールは、(1)4種類の分布(normal/uniform/triangular/skewed-normal)を部品ごとに切り替え可能、(2)モンテカルロ10万試行で実態に近い分布を再現、(3)Cpk・ppm不良率・寄与度ランキング・改善示唆まで踏み込む、という違いがある。設計初期はtolerance-stackで素早く確認し、量産前検証では本ツールで深掘りする、という使い分けが現実的だ。
特に「4分布を選べる無料ツール」はWebではほぼ皆無で、射出成形と機械加工が混在するアセンブリの解析にはこの差が大きく効く。
豆知識・読み物(公差解析の歴史と統計的背景)
RSS法が過小評価する3つの条件
RSSは便利な近似だが、万能ではない。次の3条件のいずれかが当てはまるとき、RSSは実際の不良率より楽観的な値を返す。
- 部品数が少ない(n=2-3): 中心極限定理の収束が弱く、合成分布が正規分布から外れる。RSSの「ガウス近似」が成立しない
- 分布が大きく偏っている: 一様分布や歪正規分布が混在すると、RSSが仮定する
σ=T/6が崩れる - 部品間に相関がある: 同一サプライヤーから同一ロットで仕入れた部品は、寸法が連動して変動する。RSSは独立性を仮定しているため過小評価する
このような条件下では、モンテカルロ法に切り替えて分布を直接サンプリングするのが正解だ。
Six Sigma との関係
Six Sigma(6σ)はモトローラが1980年代に提唱した品質管理思想で、Cpk=2.0 すなわち ±6σ の品質水準を指す。これは100万個に2個(0.002ppm)の不良率に相当する。同じく自動車業界で広く使われる Cpk=1.33(±4σ)は約63ppm、Cpk=1.67(±5σ)は約0.6ppmとなる。本ツールが Cpk と ppm を同時表示するのは、この対応関係を直感的に確認できるようにするためだ。
WC法は「保証」、RSS/MCは「確率的設計」
ワーストケース法は「全部品が同時に最悪値を取っても問題ない」設計を保証する。一方でRSS/モンテカルロは「99.7%の組立で問題ない」という確率的設計だ。自動車のブレーキ系統や航空機の安全部品は人命に直結するためWC寄り、消費財や量産家電はコスト最適化のためRSS/MC寄りで設計するのが業界の慣行となっている。
「±3σ」仮定の根拠
正規分布で±3σの範囲には全データの99.73%が収まる。本ツールが σ=T/6(公差幅 = ±3σ = 6σ範囲)と仮定しているのは、この99.73%基準を採用しているからだ。設計図面の公差表記は通常「99%以上の部品が収まる範囲」を意味するため、±3σ仮定は実務との親和性が高い。
統計的公差解析の歴史
統計的公差解析は1960年代に米国の機械工学者が「製造ばらつきは正規分布に近い」と気づいたことから始まり、RSS法として実用化された。1990年代に入りPCの計算能力向上とともにモンテカルロ法が普及し、2000年代以降のCAD統合ツール(Sigmetrix、CETOL、3DCSなど)の登場で3D解析まで広がった。今やWebブラウザだけで10万試行のシミュレーションができる時代になり、個人設計者でも量産前検証が手に届く範囲になっている。
Tips(公差解析を実務で使いこなす5つのコツ)
- 寄与度TOP3を絞ると劇的に改善する: 不良率が下がらないとき、全部品の公差を一律に厳しくするのは非効率だ。寄与度ランキングで上位3部品の公差を10-30%絞るだけで、ppm不良率が桁違いに下がるケースが多い。本ツールの「改善示唆」を活用してほしい
- 分布種別の選び方の目安: 機械加工部品は
normal(正規分布)、射出成形品やプレス品はuniform(一様分布)寄り、選別後の良品はtriangular(三角分布)、量産シフトが大きい部品はskewed-normal(歪正規分布)を選ぶのが実務感覚だ - 量産シフトは meanShift で表現する: 工具摩耗や型摩耗で寸法が長期的にドリフトする現象は、各部品の
meanShift入力で再現できる。例えば+0.02を入れれば、平均が公称値より0.02mmずれた量産後期の状態をシミュレーションできる - 試行数は10万で十分: モンテカルロの試行数を100万に増やしても、ppm不良率の精度向上は数%以内にとどまる一方、計算時間は10倍に増える。量産前検証では10万試行が時間効率と精度のスイートスポットだ
- ppmとCpkが矛盾するときは分布が非正規のサイン: Cpkが1.33でもppmが100を超えるなら、合成分布が正規分布から大きく外れている可能性が高い。一様分布や歪正規分布が混在している部品構成を疑ってほしい
FAQ(公差解析 よくある質問)
WC法(ワーストケース)とRSS法(モンテカルロ含む)はどちらを使えばいい?
部品の役割で使い分けるのが基本だ。自動車のブレーキ系統や航空機部品など人命に直結する安全部品は、絶対に干渉してはならないため WC法 で設計する。一方で家電や消費財など量産品で「99.7%の組立で問題なければ良い」と割り切れる場合は RSS法 や モンテカルロ法 を使う。判断に迷うときは本ツールの「3手法比較」モードで両方の結果を見比べ、コストと安全性のトレードオフを定量評価するのが現実的だ。
Cpk がマイナス値になった、なぜ?
合成分布の平均値が規格範囲(USL/LSL)の外に出ているサインだ。Cpkは「平均から最も近い規格端までの距離 ÷ 3σ」で計算するため、平均が範囲外にあると分子がマイナスになる。原因は (1)部品の公称寸法設計ミス、(2)meanShiftの入れ方が不適切、(3)目標すきまの設定が現実的でない、のいずれかが多い。設計の見直しが必須となる。
モンテカルロの試行数は何回が適切?
10万試行で十分というのが実務感覚だ。本ツールの既定値も10万に設定している。試行数を増やすと統計的誤差は1/√Nで減るが、10万→100万に増やしても誤差は1/√10倍(約3.2分の1)にしかならず、計算時間は10倍に増える。量産前検証ではこのトレードオフが10万付近で最適となる。試行回数の目安: 1万=ざっくり傾向確認、10万=実用検証、100万=学術論文レベル。
2D解析(位置度の半径方向)には対応している?
本ツールは1次元寸法チェーンのみに対応している。位置度の半径方向や同軸度の2D/3D解析は、ベクトル合成と相関を考慮した別アプローチが必要だ。例えば穴位置の ±X方向公差 と ±Y方向公差 を合成する場合、両者が独立なら半径方向の合成公差は √(σx² + σy²) で求めるが、製造プロセスによっては相関が無視できない。今後のアップデートで2D版を追加予定なので、それまでは1次元に分解して各方向ごとに解析することを推奨する。
「平均シフト(meanShift)」とは何?
量産時に発生する平均値のずれを再現するための入力だ。実際の量産では、工具摩耗・型摩耗・原材料ロット差・季節温度差などにより、寸法の平均値が公称値から少しずつドリフトする現象が起きる。例えば射出成形品で型が摩耗してくると寸法が0.02mmほどプラス側に偏っていく、というケースだ。meanShift=+0.02 と入力すれば、その部品の平均値が公称値より0.02mm大きい状態でモンテカルロが実行され、長期的な歩留まり予測に役立つ。
計算結果は外部に送信される? 機密設計データを入れても大丈夫?
すべての計算はブラウザ内で完結する。部品データ・公差・モンテカルロ試行結果はサーバーに送信されない。ページを閉じるとデータは消える。社外秘の量産設計データを入力しても問題ない設計になっている。
まとめ
公差解析シミュレーター(RSS+モンテカルロ+Cpk)は、量産設計者が「何ppm不良が出るか」を設計段階で可視化するための無料ツールだ。WC/RSS/モンテカルロの3手法を同時計算し、Cpk・ppm・寄与度ランキング・改善示唆まで自動で返す。設計初期の素早い干渉判定には /tolerance-stack も併用してほしい。本ツールへの要望や不具合報告は /contact からお気軽に連絡してほしい。