ヒートパイプ設計 限界熱流束シミュレーター

毛細管/音速/沸騰/エントレインメントの4限界を同時計算し、実用限界と必要本数を逆算

作動流体・ウィック・寸法・姿勢を指定すると、毛細管/音速/沸騰/エントレインメントの4限界を同時計算。支配限界と必要本数を自動判定する。

外径

蒸発部 Le

断熱部 La

凝縮部 Lc

0°(水平
0.7(標準0.7推奨)
支配限界毛細管限界実用限界 167.8 W(= Q_min × 0.7)
必要 1 本

毛細管限界 Q_c

239.7 W

音速限界 Q_s

1,821.6 W

沸騰限界 Q_b

244.6 W

エントレインメント限界 Q_e

799.9 W

推定 ΔT

2.0 ℃

蒸発−凝縮・ウィック熱抵抗のみ

外径 → 内径

8.0 → 7.0 mm

蒸気空間径 D_v

6.0 mm

A_v = 28.3 mm²

有効長 L_eff

70 mm

全長 100 mm

Chi・Dunn&Reay の簡易式での概算。実機性能はウィックばらつき・非凝縮ガス等で±20〜40%変動する。メーカー実測データを最終選定に使うこと
不具合・ご要望はお気軽に@MahiroMemoまで

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📘 ヒートパイプ・熱設計の参考書

関連ツール

ノートPCを分解したとき、CPUの上から伸びる銅の細いパイプを見たことがあるだろうか

薄くて軽い、まるで普通の銅棒みたいなあのパーツ。でもあれ、中身は真空で、ほんの少しの水が封入されている。そしてCPUの発熱でその水が蒸発し、冷却フィン側で凝縮して戻り、毛細管の力で蒸発部に戻っていく。このサイクルが1秒間に何千回と起き続ける。それがヒートパイプだ。

銅の棒なら熱伝導率は約400W/(m·K)。けれどヒートパイプの等価熱伝導率は10,000〜100,000W/(m·K)。銅の実に100倍以上の熱輸送能力を、ただの細いパイプが発揮している。ノートPCが薄くなれたのも、宇宙ステーションが放熱できるのも、EVのパワー半導体が溶けないのも、この小さな相変化デバイスのおかげだ。

ただし万能ではない。ヒートパイプには毛細管限界・音速限界・沸騰限界・エントレインメント限界という4つの物理壁がある。このどれかを超えた瞬間、ヒートパイプは突然「ただの細い銅棒」に戻る。設計者が本当に知りたいのはここだ。「このパイプ、何Wまで運べる?何本並べる必要がある?」その答えを、たった数秒で出すツールを作った。

なぜ作ったのか

きっかけは機械設計の実務で、某メーカーのノートPC熱設計をレビューしたときだ。ヒートパイプをφ6mmで2本通していたが、「これで本当に35W運べるのか」を誰も定量的に答えられなかった。メーカーのカタログには「35W対応品」と書いてある。でも姿勢は?作動流体の温度は?ウィック構造は?条件が違えば限界熱流束は半分にも倍にもなる。

そこで計算しようとしたら、愕然とした。無料のWebツールが存在しない。Chi(1976)の理論式もDunn & Reayの教科書も持っているが、4限界それぞれの式を電卓で叩くと、物性値の線形補間だけで30分かかる。そのうえで姿勢補正・ウィック透過率・水力半径を入れて最小値を取る。1条件の計算で小一時間。条件を変えて再計算すると、また30分。これを繰り返していて、「これWebツールで一発にできたら100倍速い」と痛感した。

既存の情報源を調べ尽くした。Wikipediaには概念解説のみ。古河電工・Cooler Master・エヌ・テックなどメーカーの技術資料はPDFで散在しており、横断検索できない。学術論文は式は揃っているが計算機能はなく、Excelテンプレートを配布している大学サイトも水だけ・姿勢補正なしなど、実機で使える水準のものが見当たらなかった。

だから作った。6種類の作動流体(水/エタノール/メタノール/アセトン/水銀/ナトリウム)の物性を温度別にデータベース化し、3種類のウィック構造(メッシュ/グルーブ/焼結)の実測値ベースの透過率を持たせ、4限界を同時計算して支配限界を色分けする。姿勢補正・必要本数逆算・用途プリセット(ノートPC/サーバー/LED/パワー半導体)まで実装した。このツールで、熱設計の1次検討は入力30秒・計算瞬時で終わる。

ヒートパイプとは何か/4つの限界

ヒートパイプの基本原理 — 相変化を利用した熱輸送

ヒートパイプは、真空にした密閉パイプ内で作動流体の蒸発と凝縮を繰り返すことで熱を運ぶデバイスだ。構造は極めてシンプルで、銅やアルミのパイプの内壁にウィック(毛細管構造)を貼り付け、ごく少量の水などを封入して真空引きしただけ。それだけで銅の100倍の熱伝導能力を持つ。

仕組みを第一原理から説明する。パイプの一端(蒸発部)を発熱体に密着させると、中の水がその温度で沸騰する。ただし真空中なので、100℃ではなく60℃程度でも沸騰する(真空では水の沸点が下がるため)。蒸発した水蒸気は、パイプのもう一端(凝縮部)へ向かって猛烈な速度で流れる。凝縮部は放熱フィンなどで冷やされているので、そこで水蒸気が液体に戻る(凝縮する)。

戻った液体はどうやって蒸発部に帰るか? ここでウィックの出番だ。ウィックはティッシュペーパーが水を吸い上げるのと同じ毛細管現象で、重力に逆らっても液体を引っ張り上げる。この循環が秒間数千回起き続ける。蒸発で熱を奪い、凝縮で熱を放出する潜熱輸送は、銅の固体内伝導(フォノン輸送)より桁違いに効率がよい。詳細はWikipediaのヒートパイプ解説も参照。

4つの限界 — ヒートパイプが突然ダメになる瞬間

ヒートパイプは一定の熱量までは素晴らしく機能するが、ある閾値を超えると突然性能が崩壊する。その閾値を作る4つの物理限界を説明する。

毛細管限界(Capillary Limit): ウィックが液体を引っ張り上げる力には上限がある。蒸発部が液不足になり、局所ドライアウトが起きる。小径・長尺・細密ウィックほど厳しく、常温域(室温〜100℃)では最も頻繁に支配する限界。毛細管圧 P_cap = 2σ/r_c(σ: 表面張力, r_c: 細孔半径)と、粘性抵抗・重力抵抗のバランスで決まる。

音速限界(Sonic Limit): 蒸気がパイプ内を音速で流れ始めると、それ以上流量を増やせない。低温起動時や金属流体(水銀・ナトリウム)で問題になる。水のノートPC用途ではまず発生しない。蒸気速度 v_sonic = √(γR_vT_v/(2(γ+1))) で計算される。

沸騰限界(Boiling Limit): 蒸発部の熱流束が高すぎると、ウィック内に気泡が詰まって液の供給が止まる。フライパンを強火にしすぎた状態と同じ。蒸発部熱流束 q = Q/(π D L_e) が閾値を超えると発生する。径を大きくするか蒸発部を長くするかで緩和する。

エントレインメント限界(Entrainment Limit): 蒸気流が強すぎると、対向する液体をしぶきとして吹き飛ばしてしまい、液の戻りが阻害される。風呂の排水で水面が巻き込まれる現象の逆を想像してほしい。水力半径の小さいウィック(焼結)では発生しにくく、グルーブ構造で顕在化しやすい。

この4つの限界のうち最小値が、そのヒートパイプの実用限界だ。ツールでは4つすべてを同時計算し、どれが支配しているかを赤字で表示する。

等価熱伝導率が銅の100倍という事実

銅の熱伝導率は約400W/(m·K)。アルミで237W/(m·K)。これだけでも金属の中ではトップクラスだが、ヒートパイプは**10,000〜100,000W/(m·K)**という桁違いの等価熱伝導率を実現する。なぜそんなことが可能なのか。

答えは潜熱だ。銅の熱伝導は格子振動(フォノン)や自由電子による熱エネルギーの拡散で起こる。一方ヒートパイプは、水が蒸発するときに1g当たり約2,260J(80℃で2,309kJ/kg)もの潜熱を奪い、凝縮するときに同じ熱を吐き出す。この巨大なエネルギーパケットを、蒸気の猛速な対流で運ぶ。固体の拡散と流体の対流では、後者が圧倒的に速い。

この能力こそがノートPCを薄くできた理由だ。厚さ15mmのノートPCのCPU熱(20〜45W)を筐体端まで運ぶのに、銅板では面積が足りない。ヒートパイプなら外径6mmでも35Wを軽々と運べる。Apple製のMacBook Proは近年、ヒートパイプを拡張したベーパーチャンバー(平面状ヒートパイプ)を採用しており、M1/M2チップの40W級TDPを静音で処理している。

宇宙でも活躍している。国際宇宙ステーション(ISS)は無重力環境だが、ヒートパイプは毛細管力で動くため重力に依存せず機能する。アンモニアを作動流体とした巨大ヒートパイプが太陽電池パネルや機器ラックの排熱を放熱ラジエータまで運ぶ。地上設備では、北極圏のパイプラインを凍結させないための永久凍土保護ヒートパイプ(アラスカパイプライン)もある。

EV(電気自動車)のSiCパワーモジュール(1kW超の発熱)、LEDヘッドランプの10W級LED、5Gサーバーの200W級CPU、いずれもヒートパイプまたはベーパーチャンバーに依存している。もし等価熱伝導率が銅並みだったら、これらのデバイスは今の大きさには収まらない。

ヒートパイプが活躍する場面

ノートPC/タブレットの筐体熱設計: CPU 20〜45W、GPU 20〜60Wをφ4〜8mmのヒートパイプ1〜3本で処理。薄型化の要。

サーバー・データセンターのCPU冷却: Xeonや EPYCの100〜250W TDPをφ8〜10mmヒートパイプ複数本で熱拡散。近年は水冷と併用の「液浸冷却ハイブリッド」も登場。

LEDヘッドランプ・高輝度LED照明: 50〜100Wの高輝度LEDモジュールは発熱が集中するため、φ3〜6mmの短尺ヒートパイプで筐体全体に熱を拡散。自動車用はメタノール封入が主流。

人工衛星・宇宙機の熱制御: ISS・気象衛星・探査機でアンモニア/プロピレンヒートパイプが機器ラックと放熱パネルを接続。無重力下では重力補助が使えないため、全面的に毛細管力頼み。

パワー半導体モジュール: EV/HV車のSiC/GaNインバータ、鉄道車両のIGBTモジュールは数百W〜kW級。大径ヒートパイプ(φ10〜16mm)+水冷プレートの複合構成が一般的。

原子力・高温プロセス: 500〜800℃域ではナトリウム・水銀を作動流体としたヒートパイプが原子炉制御棒の冷却や太陽熱集熱器で使われる。

基本の使い方

ステップ1: 用途プリセットを選ぶ。「ノートPC」「サーバーCPU」「LEDヘッドランプ」「パワー半導体」のうち近い構成を選ぶ。カスタムなら全パラメータを自由入力できる。

ステップ2: 作動流体と温度を設定。水/エタノール/メタノール/アセトン/水銀/ナトリウムから選択。温度範囲外を選ぶと警告が出る。物性値は温度で自動補間される。

ステップ3: 寸法とウィックを入力。外径・蒸発部長さ(Le)・断熱部長さ(La)・凝縮部長さ(Lc)・ウィック種別(メッシュ/グルーブ/焼結)を入れる。肉厚とウィック厚は外径の1/16で自動算出(典型値)。

ステップ4: 姿勢と必要熱量を入力。傾斜角0°=水平、+90°=蒸発部が上(毛細管圧で引き上げる最悪ケース)、-90°=蒸発部が下(重力補助)。輸送したい熱量Wと設計裕度(推奨0.7)を入れれば、支配限界・実用限界・必要本数が一瞬で出る。

具体的な使用例 — 6ケースで動作確認

すべて本ツールで検証済みの入力と結果。読者が自分で同じ値を入れれば同じ結果が出る。

ケース1: ノートPC用 CPU冷却(水φ8水平)

入力: 水60℃ / φ8×100mm / Le=30, La=40, Lc=30 / 焼結ウィック / 水平 / 必要熱量50W / 裕度0.7

結果: 毛細管限界 Q_c=239.7W, 音速限界 Q_s=1821.6W, 沸騰限界 Q_b=244.6W, エントレインメント Q_e=799.9W → 支配=毛細管、実用限界=167.8W、必要本数=1本

解釈: 常温水のヒートパイプは毛細管限界で律速される典型例。φ8×100mmなら1本で50Wは余裕。サーバーからノートまで同一構成が使える。

ケース2: 同構成で蒸発部を真上に(姿勢劣化)

入力: ケース1と同じ寸法で、傾斜角+90°(蒸発部が凝縮部より上)、必要熱量150W

結果: 毛細管限界 Q_c=204.8W(14%低下)、実用限界=143.4W、必要本数=2本

解釈: 同じパイプでも姿勢次第で能力が下がる。P_grav=ρ_L×g×L×sin(90°)=983.2×9.80665×0.1=964Paが毛細管圧6620Paから差し引かれるため、駆動圧が減る。ノートPCを縦に立てて使う設計なら必ずこの補正を入れるべき。

ケース3: ノートPC向けプリセット(φ6小径)

入力: notebook-pcプリセット = 水70℃ / φ6×100mm / Le=30, La=30, Lc=40 / 焼結 / 水平 / 必要熱量35W

結果: Q_c=158.0W, Q_s=1671.7W, Q_b=244.6W, Q_e=559.9W → 支配=毛細管、実用限界=110.6W、必要本数=1本

解釈: 薄型ノートでφ6は主流。1本で35W輸送は余裕あり。実際のノートPCで2本使われるのは、CPU+GPUを同時に冷却する都合または冗長性確保のため。

ケース4: サーバーCPU冷却(水φ8大型)

入力: server-cpuプリセット = 水80℃ / φ8×150mm / Le=40, La=50, Lc=60 / 焼結 / 水平 / 必要熱量125W

結果: Q_c=202.3W, Q_s=4129.4W, Q_b=326.1W, Q_e=1142.9W → 支配=毛細管、実用限界=141.6W、必要本数=1本

解釈: 80℃で水の物性がさらに改善し、沸騰限界も高くなる。φ8×150mm 1本で125W運べる計算だが、実際のサーバーCPUクーラーは4〜6本並列にして熱拡散性を確保する。単本能力ではなく接触面の均一性が狙い。

ケース5: パワー半導体モジュール(水φ10グルーブ)

入力: power-moduleプリセット = 水90℃ / φ10×200mm / Le=50, La=70, Lc=80 / グルーブ / 水平 / 必要熱量250W

結果: Q_c=198.8W, Q_s=9826.8W, Q_b=305.7W, Q_e=742.3W → 支配=毛細管、実用限界=139.2W、必要本数=2本

解釈: グルーブウィックは透過率Kが高い(1e-9)が細孔半径が大きく(r_c=5e-4)、結果として毛細管圧が低い。高熱量には向くが細かな持ち上げには弱い。EVインバータなど重量級では2〜4本並列が一般的。

ケース6: LEDヘッドランプ(メタノール細径メッシュ)

入力: led-headlampプリセット = メタノール75℃ / φ4×80mm / Le=20, La=30, Lc=30 / メッシュ / 水平 / 必要熱量12W

結果: Q_c=12.5W, Q_s=2882.3W, Q_b=20.4W, Q_e=109.8W → 支配=毛細管、実用限界=8.8W、必要本数=2本

解釈: 細径ヒートパイプは断面積A_wが小さく能力が落ちる。φ4で12Wは限界ギリギリで、裕度0.7を適用すると2本必要。メタノールは水より潜熱が小さい(約1000kJ/kg)ので、同寸法なら水より能力が低い。自動車用は振動と低温起動の都合でメタノール/エタノール採用が多い。

仕組み・アルゴリズム — 4限界式の導出と計算例

候補手法の比較

ヒートパイプの限界熱流束を計算する理論は複数ある。Chi(1976)のモデルDunn & Reay(1994)の教科書式Faghri(1995)の詳細モデル、CFD数値解析(ANSYS Icepak等)。本ツールはChiのモデルをベースにDunn & Reayの補正を加えた実用式を採用した。

理由は3つ。(a) 4限界をすべて解析式で扱える、(b) 物性値さえあれば電卓レベルで検算可能、(c) メーカーの実測値と±20〜40%の誤差に収まることが各種文献で確認されている。FaghriモデルやCFDは高精度だが設計1次検討には重すぎるし、Web上で動かすのに向かない。精密評価は最終的に実機測定で担保する前提。

実装詳細 — 4つの式

寸法の導出:

L_eff = L_e/2 + L_a + L_c/2(有効長、両端部を半分ずつカウント)

D_wo = D_o - 2×t_wallD_v = D_wo - 2×t_wick(蒸気空間径)

A_v = π/4 × D_v²(蒸気断面積)、A_w = π/4 × (D_wo² - D_v²)(ウィック断面積)

4限界の基本式:

// 毛細管限界
P_cap = 2σ / r_c                      // 毛細管圧
P_grav = ρ_L × g × L_total × sin(θ)   // 重力損失
Q_c = (ρ_L × L_v × K × A_w / (μ_L × L_eff)) × (P_cap - P_grav)

// 音速限界
R_v = R / M                           // 蒸気の比気体定数
v_sonic = √(γ × R_v × T_v / (2(γ+1)))
Q_s = A_v × ρ_v × L_v × v_sonic

// 沸騰限界(簡易近似、ΔT_sup=5℃を使用)
Q_b = 2π × L_e × λ_eff × ΔT_sup / ln(r_i / r_v)

// エントレインメント限界
Q_e = A_v × L_v × √(ρ_v × σ / (2 × r_hs))

ウィック透過率Kは実測値ベース。メッシュ#150で3e-10 m²、焼結銅粉末で5e-11 m²、軸方向グルーブで1e-9 m²。これらの値はChi(1976)および各社メーカー公表値の平均。細孔半径r_cもメッシュ1e-4m、焼結2e-5m、グルーブ5e-4mと構造依存。

計算例 — 水60℃φ8焼結のQ_c算出

具体的な数値で追跡する。ケース1(水60℃ / φ8×100mm / 焼結 / 水平)で、毛細管限界 Q_c=239.7Wを導く手順。

1. 寸法: D_o=8mm, 肉厚 t_wall=8×1/16=0.5mm → D_wo=7mm, ウィック厚 t_wick=0.5mm → D_v=6mm

2. 断面積: A_w = π/4 × (0.007² - 0.006²) = π/4 × (4.9e-5 - 3.6e-5) = 1.021×10⁻⁵ m²

3. 有効長: L_eff = 30/2 + 40 + 30/2 = 70mm = 0.07m

4. 水60℃物性: ρ_L=983.2 kg/m³, L_v=2.3586×10⁶ J/kg, σ=0.0662 N/m, μ_L=4.67×10⁻⁴ Pa·s(全て温度線形補間)

5. 焼結ウィック: K=5×10⁻¹¹ m², r_c=2×10⁻⁵ m

6. 毛細管圧: P_cap = 2σ/r_c = 2×0.0662/2e-5 = 6620 Pa(水平なのでP_grav=0)

7. 能力計算:

Q_c = (ρ_L × L_v × K × A_w) / (μ_L × L_eff) × P_cap
    = (983.2 × 2.3586e6 × 5e-11 × 1.021e-5) / (4.67e-4 × 0.07) × 6620
    = 1.1840e-6 / 3.269e-5 × 6620
    = 0.03621 × 6620
    = 239.7 W

これが支配限界(239.7W < 244.6W沸騰 < 799.9Wエントレインメント < 1821.6W音速)なので、実用限界は239.7×0.7=167.8W。50W運ぶには1本でOK、という判定になる。手計算20分、ツールで数秒。計算は同じだが所要時間が桁違いに減る。

他の設計ツール・文献との違い

ヒートパイプの設計情報を探すと、たどり着く先は主に3種類に分かれる。ひとつは伝熱工学の教科書(Chi「Heat Pipe Theory and Practice」や Dunn & Reay「Heat Pipes」)で、式は載っているが数値を入れて試すには紙と電卓が要る。もうひとつは Cooler Master・古河電工・エヌ・テックといったメーカーの製品カタログで、すでに完成したヒートパイプの熱輸送量が表で示されているが「自分の条件で本当に足りるか」を試算できない。最後はFEM/CFDの熱解析ソフト(ANSYS Icepak、FloTHERM、COMSOL等)だが、ヒートパイプを「等価熱伝導率の固体ブロック」として扱うモデルが主流で、4限界の一つに引っかかって駆動しない条件でも高い熱輸送量を示してしまう。

このツールは、教科書の式をそのままブラウザ上で回せる無料Webツール。しかも毛細管・音速・沸騰・エントレインメントの4限界を同時に算出し、どれが支配しているかを即座に表示する。初期検討で「φ6 の水ヒートパイプ1本で35W 行けるか?」を10秒で判断できる点が、カタログ参照やFEMにはない価値だ。

住み分けとしては、初期構想から試作前までが本ツールの領域。試作後はメーカー実測データで補正し、量産設計段階で FEM/CFD に渡す、という流れを想定している。仕様の簡易式は±20〜40%の誤差が前提なので、最終選定には必ずメーカーQAを併用してほしい。

豆知識

ヒートパイプの原理は意外と古い。1942年にアメリカのGM(General Motors)研究所の Richard S. Gaugler が冷蔵庫用熱移送装置として特許を出願しているのが最古の記録とされる(Wikipedia - Heat pipe)。ただし当時は注目されず、実用化が始まったのはロスアラモス国立研究所の George Grover が1964年に再発明し「Heat Pipe」と命名してからだ。

最初の本格的応用先は宇宙だった。アポロ計画では月着陸船の電子機器冷却にヒートパイプが採用され、重力が弱い環境で毛細管力だけで熱を運べる特性が評価された。国際宇宙ステーション(ISS)のラジエーター系にはアンモニア作動の大型ヒートパイプが数十本並び、軌道上で発生する数十kWの熱を宇宙空間に捨てている。地上では気にならない凍結起動(Frozen Startup)という現象が宇宙では深刻で、作動流体が固化した状態から加熱して復帰させる際、液が凍って蒸気が流れず逆流ショックを起こすことがある。このため宇宙用は加熱プロファイルをミリワット単位で制御する。

製造工程も独特だ。銅管の片端を圧着し、ウィックを内挿した後、真空ポンプで10⁻⁵ Pa まで引いて作動流体(脱気済の純水)を微量注入する。注入量はパイプ内容積の数%と極めて少ない。最後にヘリウムリークテストで密封性を確認して完成。1本あたり数十円から数百円で量産されているが、このプロセスのどれが崩れても性能が半減するシビアさを持つ。

設計Tips

  • 真上向き(蒸発部上、θ=+90°)は避ける。 水φ8で水平なら240W出ても、真上向きでは重力と毛細管圧が拮抗し、64mm以上の長さで駆動しなくなる。どうしても必要ならベーパーチャンバーか重力補助式サーモサイフォンに設計を切り替える
  • 迷ったら銅粉末焼結ウィック。 メッシュやグルーブより高価だが、毛細管圧を最大化でき、姿勢自由度が高く、曲げ加工後の性能低下も少ない。量産ノートPCの9割はこのタイプ
  • 径は6〜8mmが主流。 10mm以上にすると沸騰限界が支配し始め、径を増やしても熱輸送量が伸びない。熱量を稼ぐなら径より本数で解く
  • L/D比(長さ/径)が10以下だと性能が出にくい。 熱抵抗に占める蒸気流の圧損が相対的に大きくなるため。φ6なら60mm以上、φ8なら80mm以上の長さが有効レンジ
  • 斜め下向き(θ=-30°程度)は性能が伸びる。 重力補助で毛細管圧に加算されるので、固定姿勢で使える製品なら意図的に倒す設計も検討する

よくある質問

ヒートパイプの寿命はどのくらい? 真空封入と作動流体の管理が適切なら20年以上もつとされる。製品カタログでは10万時間(約11年)を寿命目安としているメーカーが多い。劣化要因は主に2つ。ひとつは水素透過による非凝縮ガスの蓄積(特に水×銅系)で、凝縮部に溜まって有効長を縮める。もうひとつは作動流体の分解で、高温長時間使用でメタノールが分解し不凝縮ガスが発生するケース。設計時は温度を適用範囲上限の80%以下に抑えると寿命を延ばしやすい。
曲げ加工してもいいの? 問題ないが制限がある。業界の経験則では曲げ半径は外径の3倍以上が目安。φ6なら R18mm 以上、φ8なら R24mm 以上。これより小さいと内部のウィックが潰れて毛細管流路が途切れる。焼結ウィックはメッシュより曲げ耐性が高い。曲げた部位の熱輸送量は直管比で5〜15%低下するのが一般的で、本ツールの計算結果にそのマージンを織り込むと現実に近づく。
非凝縮ガスが混入するとどうなる? 凝縮部の末端に溜まり、その分だけ有効な凝縮長が縮む。具体的には Lc が実質短くなり、熱抵抗が上がってΔTが増加する。軽度ならパイプ全体は動くが凝縮部先端が常温近くなり「冷えない領域」が発生。重度になると可変コンダクタンス状態(Gas-Loaded Heat Pipe、GLHP)と呼ばれる熱量により動作長が変わる挙動になる。製造時の真空封入品質で決まるため、ユーザー側で対処する手段は基本的にない。
真空断熱パネル(VIP)との違いは? 真逆のデバイス。真空断熱は熱を通さない(断熱性能で勝負)のに対し、ヒートパイプは熱を通しやすくする(等価熱伝導率で勝負)。構造は似ていて両方とも真空封入だが、ヒートパイプは作動流体を入れて相変化で熱を運ぶ。同じ銅の塊でも、中身が「真空のみ」なら断熱材、「真空+水」ならヒートパイプに化ける。熱を運びたいのか遮りたいのかで選択が分かれる。
ベーパーチャンバーはヒートパイプと同じ式で計算できる? 基本原理は同じだが形状が平面2次元になるため、本ツールの1次元モデルでは精度が落ちる。参考値程度に見て、詳細はFEMかメーカー提供の実測データを使うのが安全。概算として「ヒートパイプを平面に束ねた相当品」と考え、放熱面積ベースで熱輸送量を見積もる手もあるが、蒸気の2次元流れで有効熱抵抗が下がるため実機は予測より良い値が出る傾向がある。

まとめ

ヒートパイプは見た目は銅の細いパイプでも、中では毛細管・音速・沸騰・エントレインメントという4つの限界が同時に効いている。どれか一つでも引っかかると一気に駆動しなくなるから、4限界を横並びで見て支配要因を特定することが設計の第一歩。本ツールで初期検討を10秒で済ませたら、周辺の放熱設計に移ろう。ヒートシンク選定はヒートシンク放熱設計、制御盤に組み込むなら制御盤 熱計算、隣接部材の熱拡散は熱伝導シミュレーター、半導体デバイスの熱抵抗ならLDOレギュレータ熱設計が連動して使える。

設計の詰まりや追加したい限界モデルがあればお問い合わせから気軽に連絡してほしい。

M

Mahiro

Mahiro Appの開発者。機械設計の実務でノートPC熱設計をレビューしたとき、ヒートパイプの能力を定量的に出せなかった悔しさが、この4限界同時計算ツールの原動力になった。

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