応力拡大係数・き裂進展計算ツール

き裂の応力拡大係数KとKIC判定・Paris則の疲労き裂進展寿命を1画面で計算

き裂寸法と応力から応力拡大係数 K を計算して破壊靭性 KIC と比較判定。Paris則による疲労き裂進展の残存寿命も計算できる。

計算条件

Y=1.0・中央貫通は全長2aの半分(半長)をaとして入力

計算結果

K/KIC12.5%K=18.80 / KIC=150 MPa√m
良好(安全率2以上)

応力拡大係数 K

18.80 MPa√m

KICに対する安全率

7.98

限界き裂長さ ac

318.31 mm

この応力で許容できる最大き裂

限界応力 σc

1,196.8 MPa

このき裂で許容できる最大応力

線形破壊力学(LEFM)の代表形状の閉形式解による参考計算。Y係数は無限板・半無限板の近似値で、応力比R・き裂閉口・残留応力・板厚/温度によるKIC変動は考慮していない。C・m・KIC・ΔKthのプリセットは文献代表値。実構造物の欠陥評価はJIS/WES 2805等の規格と材料試験データに基づき専門家が行うこと。

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降伏点の1/3の応力で、船が真っ二つに割れた

第二次大戦中に米国が量産した輸送船・リバティ船は、航行中どころか停泊中にすら船体が真っ二つに割れる事故を繰り返した。作用応力は設計上まったく問題のないレベル。それでも壊れた。原因は溶接部の小さなき裂と、当時「き裂の危険度を測る物差し」が存在しなかったことだ。

応力が降伏点の1/3しかなくても、5mmのき裂がひとつあるだけで構造物は前触れなく破壊することがある。切欠きの応力集中では説明しきれないこの現象を扱うのが破壊力学で、その中心にあるのが応力拡大係数 K だ。

このツールは、き裂寸法と応力から応力拡大係数 K = Y·σ·√(πa) を計算して破壊靭性 KIC と比較判定し、さらに Paris則の閉形式積分で「あと何サイクルで限界に達するか」の残存寿命まで1画面で確認できる。非破壊検査でき裂を見つけたときの一次評価に、破壊力学の学習に、手元に置いて使ってほしい。

なぜ作ったのか — 疲労評価の「最後のピース」が空白だった

当サイトには強度・疲労まわりのツールとして 切欠きの応力集中係数計算S-N線図による疲労寿命計算 がすでにある。前者は「き裂の入口」になる切欠きの応力集中を、後者は「き裂が発生するまで」の寿命を扱う。ところが実務で本当に頭を抱えるのはその先 — 検査で「き裂が見つかってしまった後」だ。

き裂を見つけた瞬間、S-N線図は前提が崩れて使えない。応力集中係数も無力だ。き裂先端の先端半径はほぼゼロで、弾性論では応力が無限大になり Kt が定義できないから。ここから先は応力拡大係数と Paris則の世界であり、「切欠き → き裂発生 → き裂進展 → 破壊」という損傷プロセスの最終章だけが当サイトに欠けていた。

しかも国内には、K値と Paris則寿命を無料で計算できるツールがほとんど見当たらない。英語圏の計算サイトはあるが、Y係数の定義(中央貫通の a は半長か全長か)や C の単位系がサイトごとにバラバラで、ひとつ取り違えると寿命が3桁ずれる。材料プリセットと単位系を固定し、下限界判定・限界き裂長さ・有限幅補正まで一気通貫で確認できる実務向け計算機を自分で作ることにした。

破壊力学は、いま材料力学の応用テーマとして解説を準備している内容の中でも核になる章で、執筆しながら「読者が手を動かして数値を確かめられるツールが欲しい」と感じたことも直接のきっかけになっている。

応力拡大係数とは何か — き裂先端の「応力場の強さ」を測る物差し

応力拡大係数 とは — 応力集中係数では測れないものを測る

丸穴や段付き軸のような切欠きなら、底の最大応力は応力集中係数 Kt × 公称応力で見積もれる。ところがき裂は先端半径がほぼゼロの「究極の切欠き」で、弾性論に従うと先端応力は理論上無限大。どんなき裂でも無限大なら、無限大同士は比較できない。

そこで発想を変える。先端の応力そのものではなく、先端に近づくにつれて応力が強まっていく「強まり方(応力場の強さ)」で大小を比較する。この物差しが応力拡大係数 K だ。

K = Y · σ · √(π·a)   [MPa√m]

σ: き裂面に垂直な遠方の一様引張応力 [MPa]
a: き裂長さ [m](中央貫通き裂は全長2aの半分=半長)
Y: 形状係数 [-](き裂の形と位置で決まる無次元数)

単位が MPa√m という見慣れない形なのは「応力 × √寸法」の積だから。同じ応力でもき裂が長いほど K は大きく、同じき裂でも応力が高いほど K は大きい。き裂の危険度は応力だけでも寸法だけでも決まらず、この積で決まる — これが破壊力学の第一原理だ。

身近なたとえはズボンの破れ。小さな破れのあるズボンは、生地自体の強さは新品と同じなのに、少し引っ張っただけでビリッと一気に裂ける。力が裂け目の先端に集中し、破れが長いほど小さな力で進むからだ。構造物の鋼板でもまったく同じことが起きる。

参考: 応力拡大係数(Wikipedia)破壊力学(Wikipedia)

破壊靭性 KIC とは — 材料側の抵抗値との綱引き

K が「作用側」の負荷パラメータだとすれば、「材料側」の抵抗値が平面ひずみ破壊靭性 KIC。K が KIC に達すると、き裂は音速に近い速度で不安定に進展する。これが脆性破壊で、判定は K と KIC の綱引きに尽きる。

KIC は材料で桁違いに異なる。本ツールのプリセット代表値では、構造用鋼 150、高張力鋼 90、アルミ合金2024 33、SUS304 220(延性が高く JIC 換算の目安)MPa√m。強度の高い鋼ほど靭性が低くなりがち、という逆転が材料選定の面白いところだ。

形状係数 Y — き裂の置かれた場所で変わる3つの値

  • 中央貫通き裂(無限板): Y = 1.0。入力する a は全長 2a の半分(半長)である点に要注意
  • 片側縁き裂: Y = 1.12。自由表面側で開口の拘束が弱まる分の割増
  • 内部円形き裂(ペニー形): Y = 2/π ≈ 0.637。周囲を材料に囲まれ、最も条件が良い

同じ寸法・同じ応力でも、縁き裂の K は内部円形き裂の1.7倍以上になる。さらに板幅 W が有限の中央貫通き裂には √sec(πa/W) の有限幅補正を掛ける(a/W < 0.4 で良好な近似)。本ツールはこの3形状+有限幅補正をセグメントボタンで切り替えるだけで計算できる。

実務での重要性 — 前兆のない一発破壊と「限界き裂長さ」

K ≥ KIC の破壊が降伏や疲労と決定的に違うのは、前兆がないことだ。降伏なら変形が目に見えるし、疲労ならき裂の進展を検査で追跡できる。脆性破壊は最大荷重が作用したその瞬間、塑性変形をほとんど伴わずに一気に破断する。リバティ船の船体分断、貯槽・球形タンクの破裂、橋梁部材の破断 — 歴史的な脆性破壊事故はどれも「設計応力内なのに突然」起きた。

さらに厄介なのが低温脆性との複合だ。鋼の KIC は温度低下で急落する(延性脆性遷移)。夏に問題なかった設備が冬の朝に割れる、寒冷地でだけ事故が起きる、という non-intuitive なリスクがあり、リバティ船の事故も北大西洋の冬に集中していた。

実務で数値が直結するのは「き裂を見つけたとき、すぐ直すべきか、次の定修まで持つか」という判断だ。限界き裂長さ ac は「この応力で許容できる最大のき裂寸法」、Paris則の残存寿命は「ac に達するまでのサイクル数」を与える。ac = 250mm に対してき裂 5mm なら監視継続の余地があり、ac = 5mm に対して 4mm なら即時対応 — この定量的な線引きこそ破壊力学の恩恵で、国内では WES 2805(溶接継手のき裂状欠陥の評価方法)が評価体系を規定している。非破壊検査の合否判定基準の背景にも、この考え方がある。

数値の感覚をひとつ。同じ 150MPa の引張でも、構造用鋼(KIC=150)の縁き裂の限界き裂長さは 253.75mm。アルミ2024(KIC=33)では同条件で1桁以上小さくなる。材料を選んだ時点で「許されるき裂の寸法」が桁で変わる — 設計段階から破壊力学の視点を持つ意味がここにある。

き裂と向き合う4つのシーン

  1. 非破壊検査でき裂を検出したとき — UT・MT で指示が出た。報告を上げる前の一次評価として、K/KIC 比率と限界き裂長さをその場で確認する
  2. 溶接構造物の検査間隔の設定 — 溶接止端のき裂が板厚を貫通するまでのサイクル数を Paris則で見積もり、検査周期の根拠にする。すみ肉溶接の強度計算 の静的評価と併用すると溶接部の評価が両面から固まる
  3. 圧力容器・クレーン部材の欠陥許容判断 — 即時補修のコストと運転継続のリスクを天秤にかける材料として、限界き裂長さと残存寿命を並べる
  4. 学習・受験・研究 — 技術士(機械・金属部門)二次試験や機械設計技術者試験の破壊力学問題の検算、研究室での Paris則データ整理。手計算と突き合わせて式の感覚をつかむ

基本の使い方 — 3ステップ

  1. モードとき裂形状を選ぶ — 「K値・脆性破壊判定」か「疲労き裂進展寿命」かをセグメントで選び、き裂形状(中央貫通・片側縁・内部円形)を指定する。迷ったら代表シナリオプリセットをタップすれば条件一式が入る
  2. 材料と数値を入力 — 材料プリセット(構造用鋼・高張力鋼・アルミ2024・SUS304)を選ぶと KIC・C・m・ΔKth が一括セットされる。あとはき裂長さと応力(寿命モードなら応力範囲 Δσ と初期き裂長さ a0)を打ち込むだけ
  3. 判定を読む — K/KIC の3段階判定(50%未満は良好・50〜100%は注意・100%以上は脆性破壊域)、限界き裂長さ・限界応力、または残存寿命サイクル数と ΔKth 下限界判定が即時に表示される。結果はコピーボタンでそのまま検討メモに貼れる

使用例8ケース — 応力拡大係数の計算からき裂進展寿命まで

以下の8ケースはすべて、実装したツールに同じ値を入力して出力を確認済みの数値だ。

ケース1: 鋼板の縁き裂 — 良好域の典型

  • 入力: K値判定・片側縁、構造用鋼(KIC=150)、a=5mm、σ=150MPa
  • 結果: K=21.06 MPa√m、K/KIC=14.0%(良好)、安全率7.12、限界き裂長さ ac=253.75mm、限界応力 σc=1068.6MPa
  • 解釈: 脆性破壊への余裕は7倍超で静的には全く問題ない。ただし繰返し荷重があるなら話は別 — 進展寿命モードでの確認が次の一手(ケース4へ)

ケース2: 有限幅板の中央貫通き裂 — 注意域

  • 入力: K値判定・中央貫通+有限幅補正、高張力鋼(KIC=90)、a=20mm、W=100mm、σ=200MPa
  • 結果: a/W=0.2、√sec補正=1.1118、K=55.74 MPa√m、K/KIC=61.9%(注意)、ac=32.93mm、σc=322.9MPa
  • 解釈: 安全率1.61。KIC のばらつきや使用温度の低下を考えると余裕は薄い。有限幅補正で K が約11%増えており、補正を忘れると1割甘い評価になる

ケース3: アルミの内部円形き裂 — 脆性破壊域

  • 入力: K値判定・内部円形、アルミ2024(KIC=33)、a=10mm、σ=400MPa
  • 結果: Y=2/π、K=45.14 MPa√m ≥ KIC=33、K/KIC=136.8%(脆性破壊域)、ac=5.35mm、σc=292.5MPa
  • 解釈: 最も条件の良い内部き裂でも、KIC の低いアルミ×高応力では一発破壊域に入る。応力を292.5MPa未満に落とすか、き裂を5.35mm未満で管理できなければこの条件は成立しない

ケース4: 溶接止端の疲労き裂進展 — 93.9万回

  • 入力: 進展寿命・片側縁、構造用鋼(C=0.689、m=3、ΔKth=6)、Δσ=100MPa、a0=1mm、af=25mm
  • 結果: ΔK は 6.28 → 31.39 MPa√m、残存寿命 N=938,689回
  • 解釈: 1mm の止端き裂が 25mm に達するまで約94万回。1日100回の荷重繰返しなら25年超に相当する。一方 ΔK(a0)=6.28 は ΔKth=6 のすれすれ上 — 応力が少し下がるだけで「進展しない」側に入る境界条件だと分かる(ケース6)

ケース5: m=2 のカスタム材料 — 対数形式への自動分岐

  • 入力: 進展寿命・中央貫通、カスタム材料(C=5、m=2、ΔKth空欄)、Δσ=120MPa、a0=2mm、af=20mm
  • 結果: ΔK は 9.51 → 30.08 MPa√m、N=1,017,966回、ac=497.36mm
  • 解釈: m=2 は閉形式積分の分母が0になる特異点で、通常式では計算できない。ツールが対数形式に自動で切り替えるため、ユーザーは分岐を意識しなくてよい

ケース6: Δσ=50MPa なら「き裂は進展しない」 — 下限界判定

  • 入力: 進展寿命・片側縁、構造用鋼(ΔKth=6)、Δσ=50MPa、a0=0.5mm
  • 結果: ΔK(a0)=2.22 < ΔKth=6 → 「き裂は進展しない」判定(寿命計算より優先して表示)
  • 解釈: 下限界未満のき裂は疲労では成長しない。ただしこの判定は応力の増加やき裂寸法の見落としであっさり覆るため、余裕を見た運用が前提

ケース7: af 空欄 → 限界き裂長さまでの全寿命を自動計算

  • 入力: 進展寿命・中央貫通、アルミ2024(KIC=33、C=1.42、m=3.59、ΔKth=2)、Δσ=80MPa、a0=2mm、af=空欄
  • 結果: ac=54.16mm を af に自動使用、ΔK(af)=33.0(KIC と厳密一致)、N=216,675回
  • 解釈: 管理寸法を決めかねたら af は空欄でよい。「脆性破壊に至るまでの全寿命」が出る。ΔK(af) が KIC にぴったり一致するのは、限界き裂長さの定義どおりに計算が閉じている証拠

ケース8: 初期き裂が限界超え — 即時破壊域

  • 入力: 進展寿命・中央貫通、アルミ2024、Δσ=300MPa、a0=5mm、af=空欄
  • 結果: ac=3.85mm < a0=5mm → 「即時破壊域」判定、ΔK(a0)=37.60 MPa√m
  • 解釈: 繰返し回数を数える以前に、最大荷重が作用した時点で K ≥ KIC。残存寿命の計算に意味はなく、ツールは寿命表示をやめて赤警告に切り替える。即時の荷重低減・補修が必要な状態

仕組みとアルゴリズム — Paris則き裂進展計算の中身

数値積分ではなく閉形式積分を選んだ理由

Paris則 da/dN = C·(ΔK)^m から寿命を出す方法は大きく2つある。(1) き裂成長に伴う Y(a) の変化を追いかける数値積分、(2) Y 一定を仮定した閉形式積分だ。表面半楕円き裂が貫通き裂に遷移するような問題ではハンドブック解+数値積分が必要になるが、本ツールは Y が定数になる代表3形状に対象を絞っているため、閉形式で厳密に解が出る。閉形式には「af 空欄 → 限界き裂長さ ac を積分上限に自動連動」が式レベルで明快になる利点と、結果を電卓で検算できる利点もある。Y(a) 可変の数値積分は形状遷移対応と合わせて今後の拡張候補だ。

残存寿命の式の導出と m=2 の分岐

ΔK = Y·Δσ·√(πa) を Paris則に代入し、変数分離して a0 から af まで積分すると閉形式が得られる。

N = (af^(1−m/2) − a0^(1−m/2)) / (C·(Y·Δσ·√π)^m · (1−m/2))

// m = 2 のときは (1−m/2) = 0 で分母が消えるため対数形式に分岐
N = ln(af / a0) / (C·(Y·Δσ·√π)²)

m=2 ちょうどでは被積分関数が a⁻¹ になり、積分が対数に化ける — 微積分でおなじみの特異点だ。ツールは m===2 を判定して式を自動で切り替える(ケース5)。また有限幅補正をオンにしたときの限界き裂長さは Y(x)·σ·√(πx) = KIC が閉形式で解けないため、二分法(下限≈0・上限 W/2・100回反復)で数値的に解いている。

C の単位系 — 混ぜると桁が吹き飛ぶ

Paris則の C は単位系への依存が激しい。本ツールは m/cycle・MPa√m 系に固定し、入力は ×10⁻¹¹ スケール(構造用鋼なら 0.689 と入力)にした。金属の C は 10⁻¹³〜10⁻⁹ m/cycle に分布するので、この基準なら 0.01〜100 程度の扱いやすい数字に収まる。文献には mm/cycle 系や kgf・mm 系の C も混在しており、単位を確認せず代入すると寿命が3桁以上ずれる。「C を写すときは必ず単位系ごと写す」が破壊力学計算の鉄則だ。

検算例: 鋼の縁き裂 Δσ=100MPa・a0=1mm → af=25mm

ケース4の N=938,689回 を式で追ってみる。

Y = 1.12、Δσ = 100 MPa、C = 0.689×10⁻¹¹、m = 3

g    = Y·Δσ·√π = 1.12 × 100 × 1.7725 = 198.51
g³   = 7.823×10⁶
base = C·g³ = 0.689×10⁻¹¹ × 7.823×10⁶ = 5.390×10⁻⁵

a0 = 0.001 m → a0^(−1/2) = 31.623
af = 0.025 m → af^(−1/2) = 6.325

N = (6.325 − 31.623) / (5.390×10⁻⁵ × (1 − 3/2))
  = (−25.298) / (−2.695×10⁻⁵)
  = 938,689 回

分子と分母の負号が打ち消し合って正の寿命になるのが m>2 の閉形式の特徴。ΔK の端点も ΔK = Y·Δσ·√(πa) に a0・af を代入すれば 6.28 → 31.39 MPa√m となり、ツールの表示と一致する。一度この検算をやっておくと、ツールの出力を安心して使えるようになるはずだ。

疲労評価3部作の使い分け — 損傷プロセスのどこを見るか

金属部品が壊れるまでの道筋は「切欠きに応力が集中する → き裂が発生する → き裂が進展する → 破壊する」という一本のプロセスで描ける。当サイトの疲労・破壊系ツールは、この道筋に沿って役割を分担している。

  • 応力集中係数計算ツールき裂の入口。段付き軸や穴のまわりで応力が公称値の何倍に跳ね上がるかを計算する。対象は「まだき裂になっていない切欠き」で、鋭いき裂の先端には適用できない
  • 疲労寿命計算ツールき裂発生までの寿命。S-N線図と修正係数で「何回の繰返しでき裂が生まれるか」を推定する。き裂の無い健全材が前提
  • 本ツールはき裂発生後を引き受ける。すでにあるき裂が今すぐ危険か(K/KIC判定)、あと何サイクル持つか(Paris則)を評価する

使い分けはシンプルだ。設計段階で切欠き形状を検討するなら stress-concentration、疲労強度の照査なら fatigue-life、検査でき裂が見つかった瞬間から本ツール。3つ合わせて損傷プロセスの全域をカバーする。

もうひとつの違いは、そもそも国内に無料で使える破壊力学のWeb計算ツールがほとんど見当たらないこと。K値・限界き裂長さ・Paris則寿命・ΔKth判定を1画面でまとめて返すツールは、有料の解析ソフトを除けばまず選択肢がない。本ツールは執筆準備中の材料力学応用テーマ(破壊力学章)と連動するツール群のひとつで、熱応力計算ツールで求めた熱応力を作用応力σに入れてき裂評価につなぐ、といった連携もできる。

船が真っ二つに折れて生まれた学問 — 破壊力学こぼれ話

リバティ船と破壊力学の誕生。 第二次大戦中、米国は溶接構造の輸送船「リバティ船」を約2,700隻量産した。ところが1,000隻以上で船体き裂が報告され、十数隻は停泊中に船体が真っ二つに折れた。リベット構造ならき裂は板の継ぎ目で止まるが、全溶接の船体は一枚の連続体。低温の海で靭性が落ちた鋼板を、溶接欠陥から走り出したき裂が止まらずに貫いた。この事故調査がGriffithのエネルギー理論の再評価とIrwinの応力拡大係数につながり、破壊力学という学問が生まれた(リバティ船 - Wikipedia)。

ガラスのKICは構造用鋼の約1/200。 ソーダ石灰ガラスの破壊靭性は0.7〜0.8 MPa√m。本ツールのプリセットにある構造用鋼150 MPa√mと比べると約1/200だ。限界き裂長さ ac は KIC の2乗に比例するから、同じ応力で許容できるき裂は数万分の1 — 目に見えない微細な傷がそのまま限界き裂になる。ガラスカッターで浅い筋を付けるだけで狙い通りに割れるのは、この物差しで見れば当然の現象。

コメット機事故 — 疲労き裂が変えた航空機設計。 1954年、世界初のジェット旅客機デ・ハビランド コメットが相次いで空中分解した。原因は与圧の繰返しによる疲労き裂。外板の開口部の角に応力が集中し、そこから進展したき裂が客室の急減圧と空中分解を招いた(コメット連続墜落事故 - Wikipedia)。旅客機の窓が角の丸い形をしているのは、この事故の教訓だ。

現代の航空機は「き裂がある前提」で飛んでいる。 損傷許容設計(Damage tolerance - Wikipedia)では、製造時から検出限界寸法のき裂が存在すると仮定し、それが限界き裂長さに達するまでの進展サイクル数から検査間隔を逆算する。本ツールの疲労き裂進展モードでやっている計算は、まさにこの思想の入口にあたる。

評価の精度を上げるTips

  • a0 には非破壊検査の検出限界を入れると保守的: 検査で「き裂なし」でも、検出限界寸法(例: 1〜2mm)のき裂が潜んでいると仮定して残存寿命を計算すれば、「検査で保証できる寿命」が得られる。損傷許容設計と同じ考え方
  • 中央貫通き裂の a は全長の半分: 報告書の「き裂長さ30mm」が全長2aを指すなら、入力するのは a=15。ここを取り違えるとKが√2倍(約1.41倍)ずれる
  • 「き裂は進展しない」判定はぎりぎりで安心しない: ΔK(a0) は Δσ と √a0 の両方に比例する。ΔKth すれすれの判定は、増速運転や腐食によるき裂成長で簡単に覆る。ΔK(a0)ΔKth の差にどれだけ余裕があるかまで確認したい
  • KIC は板厚と温度で大きく動く: プリセットは常温・厚板(平面ひずみ)の代表値。薄板では平面応力の Kc となってさらに大きく(安全側)、鋼は低温でKICが急落する(危険側)。寒冷地の屋外設備や低温機器は低温側の実測値で評価を

よくある質問(FAQ)

K と KIC は何が違う?

K(応力拡大係数)は作用側の負荷パラメータで、応力・き裂寸法・形状から K = Y·σ·√(πa) で決まり、材料には依存しない。一方 KIC(平面ひずみ破壊靭性)は材料側の抵抗値で、破壊靭性試験で測定される物性値だ。応力と引張強さの関係と同じ「負荷 vs 抵抗」の構図で、K が KIC に達すると不安定破壊(脆性破壊)が起こる。本ツールの K/KIC 判定はこの綱引きを百分率で見せている。

応力集中係数 Kt があるのに、なぜ K で評価する必要がある?

Kt は「切欠き底の最大応力が公称応力の何倍か」という比率で、丸みのある切欠きには有効だ。ところが理想的に鋭いき裂の先端では、弾性論上の応力が無限大に発散するため、Kt そのものが定義できなくなる(何倍と言っても答えが∞になる)。そこで応力の値ではなく、き裂先端近傍の応力場の「強さ」を K という量で表し、その大小で破壊を判定するのが破壊力学の発想。切欠きは Kt、き裂は K と使い分ける。

Paris則の C と m はどこで手に入る?

一次情報は疲労き裂進展試験(ASTM E647 等)の実測データか、材料メーカー・文献の公表値。本ツールのプリセットは Barsom & Rolfe による鋼種別の保守側(進展が速い側)代表式をSI単位系(m/cycle・MPa√m)に揃えた値で、アルミ2024はDowling系の代表値を採用している。C は単位系によって桁が大きく変わる定数なので、文献値を持ち込むときは必ず単位を確認してから ×10⁻¹¹ m/cycle スケールに換算して入力する。重要な評価では実測データへの置き換えが前提だ。

中央貫通き裂の「き裂長さ a」は全長を入れる?

半分を入れる。中央貫通き裂は慣習的に全長を 2a と表記するため、本ツールの a は全長の半分(半長)。たとえば全長20mmの貫通き裂なら a=10 と入力する。片側縁き裂はき裂深さを、内部円形き裂は半径をそのまま a に入れればよい。この定義の混同はK値が√2倍ずれる代表的なミスなので、入力欄のヘルプでも明示している。

入力したき裂寸法や材料データはどこかに送信される?

送信されない。計算はすべてブラウザ内のJavaScriptで完結し、入力値がサーバーに保存・送信されることは一切ない。設備の欠陥情報のような社外に出せないデータでも、安心して試算に使える。

まとめ — き裂を見つけたら、まず物差しを当てる

き裂は「あるか、ないか」ではなく「どれだけ危険か」で扱うものだ。K = Y·σ·√(πa) と KIC の比較で現在の危険度を、Paris則の閉形式積分で残りのサイクル数を、本ツールなら1画面で確認できる。切欠きの応力集中は/stress-concentration、き裂発生までのS-N疲労評価は/fatigue-life、温度変化に起因する応力の算出は/thermal-stress-calcと組み合わせれば、損傷プロセスの入口から出口までを無料でカバーできる。

計算結果への疑問や「この形状のY係数も欲しい」といった要望は、お問い合わせから気軽にどうぞ。

M

Mahiro

Mahiro Appの開発者。溶接止端のき裂評価でParis則のCの単位系を取り違え、寿命を3桁見誤りかけた経験からこのツールを作った機械系エンジニアだ。

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