モール円・主応力計算機

平面応力 σx/σy/τxy から主応力・最大せん断応力・von Mises 相当応力を算出しモール円を描画

クイックガイド

平面応力 σx / σy / τxy(MPa)を入れると、モール円を描画して主応力 σ1/σ2・最大せん断応力 τmax・von Mises 相当応力 σ_eq を一発算出。許容応力を入れると安全率も色分け判定する。

例示シナリオ

応力入力

引張を正、圧縮を負で入力。τxy は工学慣習で時計回りを正。主応力方向 θp の出力値域は (−90°, +90°]。

計算結果

第1主応力 σ1

96.06 MPa

第2主応力 σ2

23.94 MPa

最大せん断応力 τmax

36.06 MPa

主応力方向 θp

28.15°

モール円中心 C

60.00 MPa

モール円半径 R

36.06 MPa

von Mises 相当応力 σ_eq

86.60 MPa

降伏条件の判定基準(平面応力・σ3=0)

モール円

σ (MPa)τ (MPa)Cσ1σ2A(σx,−τxy)B(σy,+τxy)
C = 60.00 MPa, R = 36.06 MPa主応力方向 θp = 28.15°

円上の赤点A(σx,−τxy)/B(σy,+τxy)が入力応力状態。σ軸との交点(緑点)が主応力 σ1/σ2。 円の半径 R が最大せん断応力 τmax にそのまま対応する。

本ツールは材料力学の学習・設計検討の補助を目的とし、平面応力(σ3=0)・線形弾性・等方均質材料を仮定する。実際の部品設計は JIS/ISO 規格、材料試験値、3次元応力解析を総合して判断すること。計算結果の利用は自己責任で。
不具合・ご要望はお気軽に@MahiroMemoまで

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軸を「σxだけ」で見て大丈夫?という話

曲げとねじりが同時にかかる軸の付け根。σxは許容応力の半分しかないのに、なぜか現場で折れた——そんな話を材料力学の授業で聞いたことがないだろうか。原因は単純で、σxだけを見ていたからだ。実際に破壊を決めるのは、応力テンソルを回転させて現れる最大の主応力von Mises相当応力である。

モール円はその「回転させた先の応力」を一枚の図にまとめる道具だ。中心 C と半径 R を見れば、どの方向でどれだけ引張られ、どこで最大せん断が生じるかが一目で分かる。百数十年前にOtto Mohrが考案したこの幾何学的手法は、CAEが普及した今も材料力学の試験、機械設計技術者試験、実務の検算で現役だ。

このツールは σx / σy / τxy をMPaで入れると、主応力 σ1/σ2、最大せん断応力 τmax、主応力方向 θp、von Mises相当応力 σ_eq を即座に計算し、モール円そのものをSVGで描画する。教科書片手にatan2の符号で迷ったことがある人にこそ触ってほしい。

なぜ作ったのか

きっかけは、後輩が「モール円ってエクセルで組もうとしたらatan2の符号で30分ハマった」とぼやいていたことだった。自分も学生時代に同じところで止まった覚えがある。教科書の式は tan(2θp) = 2τxy/(σx−σy) で、そのままatanを取ると第2象限と第4象限の区別がつかず、主応力の第一方向が90°ずれる。さらに「せん断応力の符号規約」は教科書ごとに流派が分かれていて、日本語の解説サイトをいくら漁っても納得のいく記述が見つからない。

既存ツールを探してみると、英語圏には大学の課題用ウィジェットがいくつかあるが、日本語でSVGを動的に描いてくれるモール円ツールはほぼ皆無だった。海外サイトは軸ラベルが英語で、符号規約も右ねじ系前提の説明しかない。学生や若手エンジニアがまず触るべき「可視化できる検算ツール」が日本語には足りていない——そう感じて作り始めた。

もうひとつの動機は、自分の/beam-strengthとの連携だ。あちらは単軸応力の梁しか扱えない。ねじりが入った瞬間に「σxだけ」では判定できなくなる。そこの空白を埋める相棒として、応力テンソル状態を入力すれば即座に平面応力の全像を返す計算機が必要だった。CAEを回すほどでもない設計検討、教科書問題の検算、ひずみゲージの実測値整理——そんな「CAEと手計算の隙間」に差し込むツールを目指している。

既存の/vector-composition-2dは1点の力の合成、/bolt-failureはボルト単品の引張・せん断モードを扱うが、応力テンソルそのものを可視化する日本語ツールはこれで初めてのはずだ。

ドメイン基礎解説

平面応力 とは何か

「平面応力」とは、厚さ方向(z方向)の垂直応力 σz とせん断応力 τxz、τyz がゼロと仮定できる二次元の応力状態だ。薄い板や薄肉管のように、厚さが小さく z方向に拘束が効かない部材でよく使う近似。板の表面にひずみゲージを貼って測れるのも、まさにこの平面応力だ。

この仮定のもとでは、応力状態は σx、σy、τxy の3つだけで完全に決まる。残りの応力成分(σz=0, τxz=0, τyz=0)は自動的に決まる。教科書の問題の9割はこの平面応力モデルで書かれている。

主応力 とは(主応力 求め方)

同じ応力状態でも、注目する微小面の向きによって σ と τ の値は変わる。たとえば x方向に引張った試験片の中央を考えると、x軸に垂直な面には σ=σx、τ=0 が乗るが、45°傾けた面には σ=σx/2、τ=σx/2 が乗る。同じ点の応力状態なのに、面の向きを変えるだけで値が変わる——これが応力がテンソルである所以だ。

「主応力」とは、その面を回転させていったときせん断応力 τ がゼロになる方向で見た垂直応力のこと。どんな平面応力状態でも必ず τ=0 になる方向が2つ存在し、そこでの σ が最大と最小を取る。それぞれを第1主応力 σ1、第2主応力 σ2 と呼ぶ。

幾何学的に言えば、テンソルが座標変換に対して「回転しない基底」で表現されたときの対角成分が主応力だ。線形代数で言う固有値そのもの。だから3行3列の応力テンソル行列を対角化すれば主応力は求まるが、平面応力なら2x2で済み、モール円の幾何で一気に解ける。

モール円 とは(モール円 書き方)

モール円は、平面応力 (σx, σy, τxy) を (σ, τ) 平面上に描いただ。ルールはシンプル:

中心 C = (σx + σy) / 2
半径 R = √( ((σx − σy)/2)² + τxy² )
σ1 = C + R(円と σ 軸の右交点)
σ2 = C − R(円と σ 軸の左交点)
τmax = R(円の上下端の τ 値)

元の状態点は (σx, −τxy) と (σy, +τxy) の2点で、これを結ぶと円の直径になる(符号規約は工学慣習の右回り正)。円を描いてしまえば、あとは「σ軸との交点を読めば主応力」「円の上端の高さを読めば最大せん断応力」と、すべて定規で測れる。この"代数を幾何で解く"のが、1882年にOtto Mohrが発表したこの手法の真骨頂だ。Wikipedia: モール円も参考になる。

von Mises 相当応力の導出

主応力が分かったら、次は「これで壊れるか?」を判断したい。降伏条件にはいくつか流派があるが、延性金属でもっとも広く使われるのがvon Mises基準だ。平面応力(σ3=0)の場合:

σ_eq = √( σ1² − σ1·σ2 + σ2² )

この式は元の σx, σy, τxy でも書け、展開すると σ_eq² = σx² + σy² − σx·σy + 3·τxy² と等価になる。せん断項に3倍の係数がかかる点がポイントで、ねじりだけを受ける軸では σ_eq=√3·τ となり、単軸引張の √3 倍のダメージに相当する。

実務での重要性

単軸応力だけで設計する落とし穴は、「ねじりやたわみが加わった瞬間、σxは変わっていないのに実際には降伏に近づいている」ことだ。たとえば プーリの付いた伝動軸を考えてみる。曲げで σx=80 MPa、ねじりで τxy=30 MPa だったとすると、σxだけ見れば降伏応力 S25C(約280 MPa)の28%しか使っていない。ところが σ_eq を計算すると約86.6 MPa——σxより8%大きい。さらに応力集中係数を掛けると軽く2倍になる。疲労破壊はこの σ_eq を基準にした応力振幅で進むため、σxで判定すると寿命を過大評価してしまう。

実務では主応力方向も重要だ。疲労き裂は主応力方向に対して垂直に進展する。ねじり主体の軸では θp≈45° なので、螺旋状にき裂が入っていく。現場で折れた軸の破面が斜めに走っていたら、それはねじりが主成分だった証拠だ。

法規・規格の世界では、JIS B 8265(圧力容器の構造 — 一般事項)や高圧ガス保安法の技術基準が相当応力の上限を定めている。プラント配管設計で使うJIS B 8270、B 8285系も最大主応力説あるいは相当応力説を明示して上限値を指定する。JSME機械設計便覧でも疲労線図の基準応力は σ_eq を採用しており、「単軸引張しか見ない設計」は規格違反に直結する。

材料試験のデータも降伏応力・引張強さが単軸引張で測定される以上、多軸応力下で使うときは必ず相当応力に換算する必要がある。それを怠ると、試験値の数字を信じて設計したのに現場で折れた——という事故の王道パターンにハマる。設計検討では「まずσ_eqを計算し、許容応力と比較する」を癖にしたい。

活躍する場面

曲げとねじりを同時に受ける伝動軸——キー溝付近の付け根で σx(曲げ)と τxy(ねじり)が合流する。σxだけで判定すると寿命を誤る代表例。

圧力容器の胴——内圧による周方向応力 σθ と軸方向応力 σz の二軸引張に、製造時の溶接残留応力や熱応力が重なる。相当応力基準での検討が必須。

溶接継手のルート部——溶接線方向の σx と直交方向の σy、ルートに残るせん断 τxy が同時に作用し、疲労き裂の起点になりやすい。主応力方向を知れば、ビード配置や補強方向の手がかりになる。

材料力学の宿題・試験——教科書問題は大抵 σx=60, σy=20, τxy=30 のような整数値で出る。手計算でモール円を書いたあとツールで検算すれば、回答と計算過程の両方を確認できる。機械設計技術者試験の筆記対策にも有効だ。

ひずみゲージ測定結果の整理——三軸ひずみロゼットで測った値を応力に換算したあと、主応力と最大せん断応力を読む。実測値の妥当性チェックに使える。

基本の使い方

ステップ1: 上部の入力欄に σx・σy・τxy をMPaで入れる。引張を正、圧縮を負、工学慣習で時計回り(右回り)のせん断を正で入力する。初期値 σx=80, σy=40, τxy=30 は代表的な曲げ+ねじりの組み合わせだ。

ステップ2: 例示シナリオボタン(単純引張・純せん断・二軸引張・引張+せん断)を押すと、その応力状態が流し込まれ、結果とモール円が即更新される。まずはここで挙動を掴むのがおすすめ。

ステップ3: 必要に応じて許容応力 σ_allowを入れる。入力するとその下に安全率(σ_allow / σ_eq)がStatusCardで色分け表示される(緑=2以上で十分安全、黄=1〜2で要検討、赤=1未満で危険)。結果はコピーボタンでクリップボードに転記できるため、報告書や計算書に貼るのも早い。

具体的な使用例・検証データ

実際にツールに数値を入れて検証した6ケースを載せる。いずれも「入力 → 結果 → 解釈」の3点セットで構成した。

ケース1: 単純引張(σx=100, σy=0, τxy=0)

引張試験片の中央断面そのもの。

項目
中心 C50 MPa
半径 R50 MPa
σ1 / σ2100 / 0 MPa
τmax50 MPa
θp
σ_eq100 MPa

単軸応力では σ1 がそのまま σx に、σ2 がゼロになる。モール円は τ 軸と原点で接し、直径が σx。最大せん断応力は σx の半分で、45°方向に生じる(だから引張試験片は45°方向で塑性すべり線が入る)。σ_eq = σx は、単軸引張と直接比較する降伏基準の原点だ。

ケース2: 純せん断(σx=0, σy=0, τxy=50)

薄肉円筒のねじり、または純粋な剪断を受けるリベット。

項目
中心 C0 MPa
半径 R50 MPa
σ1 / σ2+50 / −50 MPa
τmax50 MPa
θp45°
σ_eq86.60 MPa

σx=σy=0 でも主応力は ±τxy として現れるのがポイント。モール円は原点を中心にした半径 50 の円になる。主応力方向は 45°(π/4)で、ねじれたガラス棒に螺旋状のき裂が入る理由がここで腑に落ちる。σ_eq = √3·τ ≈ 86.60 はvon Mises基準の有名な結果で、「純せん断の 50 MPa は単軸引張 86.60 MPa 相当のダメージ」を意味する。

ケース3: 引張+せん断(σx=80, σy=40, τxy=30, σ_allow=150)

曲げとねじりが同時にかかる伝動軸の典型。

項目
中心 C60 MPa
半径 R36.06 MPa
σ1 / σ296.06 / 23.94 MPa
τmax36.06 MPa
θp28.15°
σ_eq86.60 MPa
安全率 σ_allow/σ_eq1.73

σx=80 と小さめの値なのに、σ1 は 96.06 まで跳ね上がる。σ_eq は 86.60 で、σx の 1.08 倍。許容応力 150 MPa を入れると安全率 1.73(黄色=要検討)が出る。余裕があるようで、実は規格で安全率 2 以上を要求するケースではアウトだ。主応力方向 θp=28.15° は x軸から時計回りに 28° の方向に最大引張が発生していることを意味する。ここに疲労き裂が直交方向(118°方向)に進展する。

ケース4: 等方応力(σx=σy=100, τxy=0 — 退化ケース)

内圧を受ける球殻の中央、あるいは静水圧のような状態。

項目
中心 C100 MPa
半径 R0 MPa
σ1 / σ2100 / 100 MPa
τmax0 MPa
θp不定(—)
σ_eq100 MPa

モール円が1点に退化する特殊ケース。半径ゼロ、すべての方向が主方向(主応力方向は不定)。ツールは内部で DEGENERATE_EPS = 1e-9 を閾値にしてこれを検出し、θp を「—」表示に切り替え、バナーで「等方応力のため主応力方向は不定」と警告する。最大せん断応力がゼロなのも重要で、延性金属はすべり変形しないため、等方応力だけでは理論上降伏しない(実際には破壊靭性に依存する)。

ケース5: 圧縮+せん断(σx=−60, σy=−20, τxy=25)

圧縮側にあるキー溝付近の応力をイメージ。

項目
中心 C−40 MPa
半径 R32.02 MPa
σ1 / σ2−7.98 / −72.02 MPa
τmax32.02 MPa
σ_eq約 68.37 MPa

両方の主応力が負(圧縮)になる領域。σ_eq は単軸圧縮換算で 68.37 MPa。圧縮側であっても延性金属は von Mises で等方的に扱えるが、脆性材料(鋳鉄・コンクリート)では最大主応力説のほうが整合する点に注意。鋳鉄軸の場合、σ1=−7.98 MPa よりも圧縮強さとの比較が重要になる。モール円は σ 軸の負側に描かれ、半径 32.02 の円が中心 −40 に座る。

ケース6: 二軸引張+せん断(σx=150, σy=80, τxy=40)

内圧と外力トルクを同時に受ける圧力容器の胴。

項目
中心 C115 MPa
半径 R53.15 MPa
σ1 / σ2168.15 / 61.85 MPa
τmax53.15 MPa
θp24.41°
σ_eq約 147.31 MPa

σx=150 だけ見れば一般構造鋼 SS400(降伏 235 MPa)で余裕に見えるが、σ1 が 168.15 まで上がり、σ_eq=147.31 で SS400 の許容応力(約 157 MPa)にギリギリ迫る。設計値として危険信号。JIS B 8265の相当応力基準で計算すれば、ここで板厚アップか材質変更の判断に入る。ツールに σ_allow=157 を入れると安全率 1.07 が赤黄境界で表示され、「要検討」バナーが出る設計になっている。

仕組み・アルゴリズム

候補手法の比較(行列対角化 vs モール円幾何)

平面応力の主応力を求める方法は大きく2つある。ひとつは応力テンソル行列を対角化する方法だ:

σ = | σx   τxy |
    | τxy  σy  |

この2x2対称行列の固有値を解くと、特性方程式 λ² − (σx+σy)λ + (σx·σy − τxy²) = 0 から主応力が出る。2次方程式の解の公式そのものだ。固有ベクトルを求めれば主応力方向も得られるが、数値計算では符号と象限のハンドリングが面倒になる。

もうひとつがモール円の幾何手法で、今回採用した方法。C = (σx+σy)/2R = √(((σx−σy)/2)²+τxy²) を計算し、σ1/σ2 を C±R として読む。主応力方向は atan2(2τxy, σx−σy) の半分を取るだけ。最大の利点は「atan2 が 4象限を正しく返す」ことで、atan(2τxy/(σx−σy)) を使うと σx−σy の符号を別途判定する必要があるのに対し、atan2 は一発で正しい象限を返してくれる。

行列対角化と数学的には等価だが、モール円幾何のほうがコード量が圧倒的に少なく、バグの混入余地が小さい。しかも計算結果がそのまま可視化(円の中心と半径)に使えるため、SVG描画との親和性が高い。このツールでは後者を採用した。

実装の肝: atan2 と θp の主値

主応力方向の計算で最大のハマりどころが atan2 の主値範囲だ。以下がコアの計算フロー:

const center = (sx + sy) / 2;
const radius = Math.sqrt(((sx - sy) / 2) ** 2 + tau ** 2);
const sigma1 = center + radius;
const sigma2 = center - radius;
const tauMax = radius;
const isDegenerate = radius < DEGENERATE_EPS;
const thetaPRad = isDegenerate
  ? 0
  : 0.5 * Math.atan2(2 * tau, sx - sy);
const thetaPDeg = thetaPRad * 180 / Math.PI;
const sigmaEq = Math.sqrt(sigma1 ** 2 - sigma1 * sigma2 + sigma2 ** 2);

Math.atan2(y, x) の戻り値は (−π, π] の範囲で、これを半分にするので θp は (−π/2, π/2] すなわち主値 (−90°, 90°] になる。この範囲は「最大主応力が乗る方向を x軸から反時計回りに測った角度」として十分で、σ1 と σ2 が 90° 直交するという主応力の性質を踏まえれば、もう片方は自動で決まる。

退化ケース(radius < DEGENERATE_EPS = 1e-9)は事前に検出して θp を 0 にし、UIで「—」表示にすり替える。σx=σy, τxy=0 のとき atan2(0, 0) はJavaScriptで 0 を返すが、これは数学的に不定なのでUIで明示的に警告する設計にした。

SVG viewBox の動的スケーリング

モール円のSVG描画では入力値の大きさが 10〜1000 MPa まで幅広く変わるため、固定 viewBox だと円が小さすぎたり画面外に飛び出したりする。動的スケーリングのロジックはこうだ:

pad = max(R * 0.35, 20)
spanMax = max(|σ1|, |σ2|, R) + pad
scale = viewSize * 0.45 / spanMax

spanMax は「σ軸上で一番端まで伸びた距離」+ 余白。それを viewBox の半分(0.45倍)で割り、残り5%を余白として残す。こうすると入力値が 10 MPa でも 1000 MPa でも、円が常に画面中央に適度な大きさで収まる。pad = max(R*0.35, 20) と固定値の下限を持たせているのは、R=0 の退化ケースで spanMax=0 による 0除算を防ぐためだ。

計算例: ケース3 をステップバイステップ

σx=80, σy=40, τxy=30 を上式に流し込む:

C  = (80 + 40) / 2 = 60
R  = √(((80 − 40)/2)² + 30²)
   = √(20² + 30²)
   = √(400 + 900)
   = √1300
   ≈ 36.0555
σ1 = 60 + 36.0555 = 96.0555
σ2 = 60 − 36.0555 = 23.9445
τmax = 36.0555
θp = 0.5 · atan2(2·30, 80 − 40)
   = 0.5 · atan2(60, 40)
   = 0.5 · atan(60/40)     // 第1象限なので atan で一致
   = 0.5 · atan(1.5)
   = 0.5 · 0.9828 rad
   = 0.4914 rad
   ≈ 28.15°
σ_eq = √(96.0555² − 96.0555·23.9445 + 23.9445²)
     = √(9226.66 − 2299.97 + 573.34)
     = √7500.03
     ≈ 86.6025

最後の σ_eq = √7500 ≈ 86.60 は σx² + σy² − σx·σy + 3·τxy² = 6400 + 1600 − 3200 + 2700 = 7500 とも一致する。元の σx, σy, τxy 表現でも主応力経由の表現でも、同じ値に収束するのが von Mises 相当応力の内部整合性だ。検算の際はこの2つの式を両方計算して一致することを確認すると、符号ミスや展開ミスを潰せる。

他ツールとの違い

モール円をSVGで描画しながら主応力・最大せん断応力・von Mises 相当応力まで一気通貫で見せる日本語のインタラクティブツールは、調べた限りほぼ見当たらない。英語圏には大学のJavaアプレットや古いFlash版が残っているが、日本語で σ1 σ2 τmax θp σ_eq を同時に出すWebアプリは空白地帯だった。

ありそうで無かったのは、「表示だけ」か「計算だけ」に分かれていたせいだ。Wikipediaの図は美しいけれど値を差し替えられない。市販CAE(SolidWorks SimulationやAnsys)はフル3次元解析が前提で、「ちょっと手元で確認したい」には重すぎる。教科書付属のExcelテンプレは数式は載っていても図が無い。だからこのツールは、図と数値を同じ画面で同時に動かせることに振り切った。

同サイト内の他ツールとも役割が違う。/beam-strength は梁の単軸曲げ応力と安全率を扱うが、せん断との合成までは踏み込まない。/vector-composition-2d は力ベクトルの合成を扱うが、応力テンソル(向きを持つ2階テンソル)ではない。/bolt-failure は引張とせん断の組合せを破壊モード別に判定するが、主応力方向 θp までは出さない。本ツールは**「応力テンソル状態そのもの」を幾何学的に可視化する**ポジションに立っている。

教科書の手計算、CAEの3次元解析、そしてこのツール。3つを使い分ければ、設計レビューの説明が一段深くなる。

豆知識・読み物

モール円を考えた男、オットー・モール

モール円の発案者は19世紀ドイツの構造エンジニア、Otto Christian Mohr(1835-1918)。1882年に発表された論文で、応力テンソルの固有値問題を「円を描く」という図式的な方法に翻訳してみせた。当時は電卓もコンピュータも無い時代。行列の対角化を紙と鉛筆でやるのは手間だったから、定規とコンパスで主応力が読み取れる方法は革命的だった。

モール自身は橋梁設計と構造力学の教科書で名を残した人物で、同時期に発表した「モールの定理(たわみ角法)」も現代の構造解析で生きている。ちなみに1882年のオリジナル論文はドイツ語の Civilingenieur 誌に載っている。現代の材料力学教科書はほぼ全てこの図式を採用しており、百数十年前の発想が今もエンジニアリング教育の定番であり続けている。

τ軸は上向き?下向き?流派が分かれる話

教科書を何冊か並べると、モール円の τ 軸の向き が本によって違うことに気づく。日本の機械系教科書は τ 軸を下向きに正 にとる流派が多い。これだと、物理空間で角度 θ だけ回転した断面が、モール円上でも同じ向きに 2θ 回転する。図と物理空間の対応が取りやすい利点がある。

一方、ヨーロッパの地盤工学系や古いアメリカの構造系の教科書は τ 軸を上向きに正 にとる。こちらは数学的なデカルト座標系と一致するため、数式処理と親和性が高い。結果の値は同じだが、せん断応力の符号の扱いだけが流派で変わる。本ツールは上向き正・工学慣習(時計回りせん断を正)を採用し、Wikipediaの Mohr's circle 英語版と合わせている。

教科書を併読するときは、冒頭の符号規約を必ず確認すること。符号を見落とすと、主応力方向 θp が15°ずれて答え合わせが合わなくなる。古典的な落とし穴だ。

Tips

1. 手計算で検算するクセを付ける

プロジェクトで重要な応力解析をやるときは、ツールの結果を鵜呑みにせず、一度は電卓で C = (σx+σy)/2R = sqrt(((σx−σy)/2)² + τxy²)σ1 = C+R を叩いて確認する。特に符号が怪しいとき、手計算と一致すれば安心して次の工程に進める。

2. 主応力方向はひずみゲージ貼付方向と対応させる

θp は応力測定に直結する。3軸ひずみゲージ(45°ロゼット)を貼って主ひずみから主応力を逆算するとき、ツールが出す θp は物理空間で同じ向きを指す。実験で求めた θp と設計時のツール出力が合えば、解析モデルの妥当性検証になる。

3. von Mises とトレスカを使い分ける

本ツールは von Mises(エネルギー説)で σ_eq を出すが、延性材料の一般的な設計では σ_eq ≤ σ_allow で十分。ただしトレスカ(最大せん断応力説)は σ1 − σ2 ≤ σ_allow で判定するため、純せん断では von Mises より15%厳しい値になる。安全側に振りたい設計レビューではトレスカで再確認する癖を付けると良い。ツールの τmax(σ1 − σ2)/2 なので、2·τmaxσ_allow を比べればトレスカ判定になる。

4. 退化ケース(等方応力)の挙動を知っておく

σx = σy かつ τxy = 0 の等方応力では、モール円が点に退化して 主応力方向が不定 になる。ツールは isDegenerate フラグで検出し、θp を「—」表示にする。物理的にはすべての方向が主方向で、回転しても応力状態が変わらない(流体の静水圧と同じ)。設計現場で遭遇することは少ないが、球形圧力容器の内部などで近い状態が現れる。

5. 高応力警告を無視しない

主応力が 500 MPa を超えると警告が出る。一般構造鋼(SS400 の降伏 245 MPa、S45C の降伏 343 MPa)の降伏応力を超える領域で、もはや線形弾性の前提が怪しい。高張力鋼や特殊合金を使うか、断面を見直すか、どちらかの判断が必要。警告を見たら迷わず材料を上げるか形状を変える。

FAQ

平面応力と平面ひずみの違いは?

**平面応力(Plane Stress)**は、板厚方向に自由に変形できる薄い板の状態。σz = τxz = τyz = 0 と仮定する。本ツールはこの仮定で動いている。薄板の面内荷重、穴あき板の応力集中、折板などが該当する。

**平面ひずみ(Plane Strain)**は、板厚方向に拘束されて変形できない状態。εz = γxz = γyz = 0 と仮定し、σz = ν(σx + σy) が生じる。長いトンネル断面、ダム、厚肉円筒などが該当する。

どちらを選ぶかで σ3 の扱いが変わるため、3次元の von Mises を出したいときは別計算が必要になる。本ツールは平面応力前提なので、厚肉や拘束が強い構造では別途 σz を評価してから相当応力を計算してほしい。

3次元応力への拡張は?

3次元の一般応力状態では主応力が σ1 ≥ σ2 ≥ σ3 の3つ存在し、モール円も3つ描かれる(大・中・小の同心でない3円)。計算は応力テンソル [[σx, τxy, τxz],[τxy, σy, τyz],[τxz, τyz, σz]] の固有値問題になり、3次方程式を解く必要がある。

本ツールは平面応力(σ3 = 0)までの対応。3次元対応はロードマップに入っているが、UI上で6成分入力を直感的に扱うのが難しく、現時点ではCAE(Ansys、Abaqus、SolidWorks Simulation等)に任せる方が実務的。学習用途なら本ツールで2次元の感覚を掴んでから3次元に進むのがおすすめ。

なぜ `τxy` の符号で `θp` が変わる?

主応力方向の式 θp = 0.5·atan2(2τxy, σx−σy) を見れば分かる。atan2 の第一引数が 2τxy なので、τxy の符号がそのまま θp の符号に反映される。物理的には、せん断の向きが反転すれば主応力軸も反対側に傾く、という素直な話だ。

教科書によっては tan(2θp) = 2τxy / (σx−σy) と書かれ、atan の2値性を手作業で解決する必要があるが、本ツールは atan2 を使っているため σx = σy のとき(分母ゼロ)も正しく ±45° を返す。この実装の細かな違いが、符号で迷わない安心感につながっている。

σ3 = 0 仮定の限界は?

平面応力の仮定は薄板・面内荷重で十分な精度を出すが、以下の場合は破綻する。

  • 厚肉円筒の内圧: 内面の半径方向応力 σr が無視できない。厚肉ラメの公式で3次元的に解く必要がある
  • 穴あき板の縁: 穴の近傍で3次元的な応力集中が生じる。有限要素法が必須
  • 溶接継手のルート: 溶け込み不良やアンダーカットで局所的に3軸応力が発生
  • 圧入・焼きばめ: 接触面で3軸圧縮が生じる

σ3 = 0 が成り立たない場合は、本ツールで出した σ_eq過小評価になることがある。設計レビューでは必ず「平面応力と見なせる範囲か」を最初に判断してほしい。

von Mises とトレスカ、どちらを使うべき?

延性材料の設計では von Mises(エネルギー説)が一般的。実験データとの一致度が高く、JSME 機械設計便覧や JIS B 8265(圧力容器)でも採用されている。

より安全側に振りたいときはトレスカ(最大せん断応力説)。純せん断では von Mises より15%厳しい判定になり、クリティカルな部品や疲労が懸念される場合に使われる。

本ツールは von Mises を表示するが、2·τmax を見ればトレスカでも判定できる。両方で確認する習慣を付けておけば、安全側と実用側の両視点から設計をチェックできる。脆性材料(鋳鉄・セラミックス)では最大主応力説(σ1 ≤ σ_allow)を使うので、そちらはツールの σ1 を直接見ること。

計算結果はどこかに送信されている?

すべての計算はブラウザ内で完結する。入力した応力値がサーバーに送られることは無い。社内検討中の機密数値でも安心して使ってほしい。プライバシー・データ保存の全般方針は /about にまとめている。

まとめ

モール円は19世紀の図式法が現代のエンジニアリング教育で生き残っている稀有な例だ。行列の対角化を「円の半径と中心」に翻訳することで、主応力・最大せん断応力・主応力方向が一目で読み取れる。本ツールは教科書の手計算と3次元CAEの隙間を埋め、ブラウザ上で応力テンソル状態を可視化する場所になる。曲げとねじりが同時にかかる軸、圧力容器の胴、溶接継手のルート部。単軸応力だけ見ていては気づけないリスクを、モール円と von Mises 相当応力で捉えてほしい。

関連ツールもあわせてどうぞ。単軸曲げの安全率なら 梁の安全審判員、2次元の力合成なら 2次元ベクトル合成ツール、ボルトの引張・せん断組合せなら ボルト強度・破断モード診断。設計レビューの引き出しが一段深くなるはずだ。

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Mahiro

Mahiro Appの開発者。モール円の atan2 符号で後輩と一緒に30分ハマった経験が原点。SVGで円と主応力マーカーを同時に描けば、符号規約の流派問題もその場で潰せると分かった。

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