モーターの軸が「ねじれて戻らない」夜、計算機を開いた
深夜のテスト室で、試作機のモーター軸が「カチッ」と鳴った瞬間、位置決め精度が 0.05mm ほどズレていた。触ってみると、軸が目視では分からないレベルでねじれたまま戻っていない。慌てて設計書を見返したら、最大せん断応力 τmax は許容値の半分以下、十分安全なはず。でも剛性、つまり単位長さあたりのねじり角 θ/L は一度も計算していなかった。「応力だけ見て軸を設計する」——材料力学の教科書の最初に書いてある戒めを、そのまま踏んだ夜だった。
このツールは、その反省から生まれた。軸形状を選び、トルクと寸法と材料を入れるだけで、τmax と θ と θ/L と安全率が同時に出る。応力と剛性を一枚の画面で判定できる。円軸だけでなく中空軸・矩形軸に対応し、材料プリセットは機械設計の現場で頻出する S45C、SS400、SUS304、A5052、C3604 を用意した。単位も N·m / kgf·m / kgf·cm の 3 種を切替できる。あの夜、このツールが手元にあったら 30 秒で「剛性不足」に気づけたはずだ、と心から思っている。
なぜ作ったのか——既存ツールは円軸止まり
ねじり応力計算のWebツールはいくつか存在する。ただ、ほとんどが円軸の τ = 16T/(πd³) しか持っていない。中空シャフトに対応していても、矩形軸(バー状のトーションスプリングや機械部品に頻出)には触れていない。矩形軸の正確解は双曲線関数の無限級数になるため、手計算が難しく、Timoshenko の『Strength of Materials Part II』に載っている α/β 係数表を引く必要がある。その表は日本語のWebにはほとんど転がっていない。
筆者自身、Kindle 書籍『現場で使える機械設計ノート(第2冊)』を執筆している途中、読者向けの補助ツールとして「矩形軸のねじり計算機」を探した。見つからなかった。矩形軸の α/β を公開している英語サイトはあったが、日本語ユーザー向けに単位を切り替えられて、材料プリセットまで含めて一画面で完結するものは皆無だった。だから作った。Timoshenko の表を内部に埋め込み、a/b 比で線形補間するロジックを実装し、6つの材料を選べるドロップダウンを載せた。結果、円軸・中空軸・矩形軸の 3 形状を同じインターフェースで扱える計算機になった。
もう一つの動機は、θ/L という「単位長さあたりねじり角」の指標を前面に出すこと。機械設計便覧には「精密機械の主軸で 0.25°/m 以下」という経験則が載っているが、この数値を直接出してくれるWebツールは少ない。τmax が許容内でも θ/L が過大なら、工作機械や計測器では使い物にならない。冒頭の失敗は、まさにこの見落としだった。
軸のねじり・断面二次極モーメントとは何か
軸のねじりと せん断応力
机の上のゴム消しゴムを両手で挟んで、逆向きにひねってみると、消しゴムが少しねじれて戻る。この「ねじる力」がトルク T(単位 N·m)、「ひねられた角度」がねじり角 θ だ。消しゴム内部では、円周方向に滑るような力——せん断応力 τ——が発生している。軸の表面付近が一番大きく滑ろうとするため、せん断応力は軸の中心で 0、外周で最大値 τmax となる。これは直感的にも理解しやすい。中心の繊維はほとんど動かず、外側の繊維ほど大きくねじれるからだ。
断面二次極モーメント Ip とは
軸がねじりにどれだけ耐えられるかを決める幾何学的な指標が、断面二次極モーメント Ip(polar moment of inertia)だ。記号は Ip または J。断面の各点の「中心からの距離の2乗」を断面全体で積分したもので、単位は mm⁴。円軸の場合は積分が綺麗に解けて、次の式になる。
Ip = π · d⁴ / 32 [mm⁴]
直径 d の 4 乗に比例する点がポイント。直径を 2 倍にすると Ip は 16 倍になる。だから細い軸を太くするだけで、ねじり剛性が劇的に上がる。中空軸の場合は、外径 d と内径 d1 を使って Ip = π·(d⁴-d1⁴)/32 となる。中身が空でも外径付近の素材がしっかり残っていれば、中実軸と比べてさほど剛性は落ちない。これが「中空シャフトで軽量化できる」カラクリだ。
円軸の τmax と θ
断面二次極モーメント Ip が分かれば、最大せん断応力とねじり角は次の古典式で求まる。
τmax = T · r / Ip [MPa] (r = d/2 は外周半径)
θ = T · L / (G · Ip) [rad] (L は軸長、G はせん断弾性係数)
せん断弾性係数 G は材料の「ねじりにくさ」を表す値で、炭素鋼で約 79〜82 GPa、アルミで約 26 GPa、黄銅で約 38 GPa。同じ寸法でも材料を A5052 にすると、鋼に比べて 3 倍ねじれる。ヤング率 E とポアソン比 ν から G = E/(2(1+ν)) で計算される関係にあるが、実務では材料データシートの G 値を直接使う。
矩形軸で単純式が使えない理由——Saint-Venant のねじり
では、断面が四角い矩形軸(長辺 a、短辺 b)はどうか。単純に極モーメントを積分してしまうと、実際のせん断応力分布と大きくズレる。なぜなら、矩形断面をねじると断面が平面のまま留まらず、反り変形(warping) を起こすからだ。これを厳密に扱うのが Saint-Venant のねじり理論で、解は双曲線関数の無限級数になる。そこで Timoshenko は実務向けに、a/b 比ごとの係数 α と β を表で与えた。
τmax = T / (α · a · b²)
J = β · a · b³ (ねじり剛性、Ip 相当)
θ = T · L / (G · J)
a/b = 1(正方形)で α=β=0.208、a/b = 2 で α=0.246, β=0.229、無限大(薄板)で α=β=1/3=0.333。本ツールは a/b を線形補間で計算している。参考: Wikipedia: Torsion constant
実務での重要性——τ_allow と θ/L の両方を見る理由
ねじりを扱う現場では、2 つの異なる壁を同時に越えなければならない。1 つは強度(許容せん断応力)、もう 1 つは剛性(単位長さあたりねじり角) だ。
強度側——τ_allow 超過は疲労破壊の起点
τmax > τ_allow になると、静的には破壊しなくても、繰り返し荷重で必ず疲労亀裂が発生する。特に軸はキー溝や段付きで応力集中係数 Kt = 2〜3 が掛かるため、見かけの τmax は許容値の 1/2 程度で運用するのが定石だ。JIS B 8265「圧力容器の構造」や機械設計便覧では、S45C 調質材の静ねじり許容せん断応力を 160 MPa 程度、疲労を考慮する用途では 80〜100 MPa に落として設計する。SS400 で 90 MPa、SUS304 で 110 MPa、アルミ A5052 で 60 MPa——本ツールの材料プリセットはこの慣用値を採用している。許容超過で軸が折れた事故は過去にも多く、産業機械の主軸破損は工場停止と損害賠償に直結する。
剛性側——0.25°/m という経験則
もう 1 つの壁が、単位長さあたりのねじり角 θ/L だ。応力は余裕でも、軸が大きくねじれると工作機械の加工精度が落ち、サーボモーター駆動では位置決めが狂う。機械設計便覧には「精密主軸で θ/L ≤ 0.25°/m、一般動力軸で 0.5〜1.0°/m」という経験則が載っている。この数値は歴史的に Stodola や Timoshenko の教科書に由来するもので、現代でも多くの工作機械メーカーが採用している。
同じトルクでも材料で剛性が 3 倍違う
具体感を持つために 1 つ比較してみよう。同じ φ30 の軸に 100 N·m のトルクを掛けたとき、S45C(G=82 GPa)なら θ = 0.44°、アルミ A5052(G=26.4 GPa)だと θ = 1.36°。3 倍以上ねじれる。応力 τmax は材料に依らず 18.86 MPa で同じだが、剛性は桁違いに落ちる。「軽量化のためアルミに替えたら加工精度が崩壊した」という失敗談は、この剛性差を事前に計算しなかったケースが多い。本ツールは材料を切り替えた瞬間に θ/L が再計算されるので、この手の見落としを防げる。
活躍する場面——3 分で判定したいとき
モーター軸の径決定。サーボモーターのカタログに「定格トルク 2.39 N·m」と書いてあるが、直結する軸径を何 mm にすればいいのか。τmax と θ/L の両面で判定したい。
中空シャフトの軽量化。同じ強度を保ったまま質量を減らすには、外径 d と内径 d1 をどう取れば良いか。中実 φ30 を φ32/φ22 の中空にすると、質量は半分弱、剛性はどれだけ落ちるか——本ツールで 2 パターン計算して比較できる。
矩形バーのねじり。トーションバーサスペンションや大型機械のねじり剛性部材で、断面を丸にせず矩形にすることがある。矩形軸の計算は Timoshenko の表が必要で、手計算が億劫な分野だ。
減速機の中間軸チェック。入力側と出力側のトルクが違う多段減速機で、中間軸のねじり剛性を段ごとに確認したい場面。材料プリセットを切替えながら短時間で比較できる。
技術士試験・機械設計技術者試験の問題演習。過去問の数値をそのまま入れて答え合わせに使える。
基本の使い方——3 ステップ
1. 軸形状を選ぶ。 円軸/中空軸/矩形軸のセグメントボタンから選択する。選んだ形状に応じて寸法入力欄が自動で切り替わる。
2. 寸法とトルクを入れる。 円軸なら直径 d、中空軸なら外径 d と内径 d1、矩形なら長辺 a と短辺 b。続いて軸長 L、トルク T を入力する。トルクの単位は N·m / kgf·m / kgf·cm から選べるので、古い図面の kgf·cm 表記もそのまま使える。
3. 材料を選ぶ。 SS400 / S45C / SUS304 / A5052 / C3604 プリセットから選択すると、せん断弾性係数 G と許容せん断応力 τ_allow が自動で入る。許容値を独自の値で上書きしたい場合は、下の入力欄に直接入力すれば安全率が再計算される。結果カードには Ip, Zt, τmax, θ, θ/L, 安全率が並び、安全率は緑/黄/赤の StatusCard で一目判定できる。
具体的な使用例——6 ケースで感覚を掴む
Case 1: 円軸 φ30 S45C 100 N·m——軸設計の定番
入力: 円軸 d=30mm、L=500mm、T=100 N·m、材料 S45C(G=82 GPa, τ_allow=160 MPa)
結果: Ip=79521.56 mm⁴、Zt=5301.44 mm³、τmax=18.86 MPa、θ=0.4393°(0.007668 rad)、θ/L=0.8787°/m、安全率 8.48
解釈: S45C の許容値 160 MPa に対して応力は 1 割強、安全率 8 超の余裕。ただし θ/L は 0.88°/m で、精密主軸の基準 0.25°/m を大幅に超える。動力軸としては十分だが、加工精度を要求する用途では剛性不足。
Case 2: 中空軸 φ50/φ40 SS400 200 N·m——軽量化の効果を確認
入力: 中空軸 d=50mm、d1=40mm、L=800mm、T=200 N·m、材料 SS400(G=79.3 GPa, τ_allow=90 MPa)
結果: Ip=362264.90 mm⁴、Zt=14490.60 mm³、τmax=13.80 MPa、θ=0.3191°、安全率 6.52
解釈: 中実 φ50 と比較すると質量は約 36% 減(断面積比)、Ip は約 26% 減で済む。同じ外径のまま中身をくり抜いたことで、剛性をほぼ維持しながら軽量化できている。SS400 の汎用許容値 90 MPa 対比で応力 13.8 MPa は余裕があり、回転機の主軸として適切。
Case 3: 矩形軸 40×20 A5052 50 N·m——Timoshenko の表を使う
入力: 矩形軸 a=40mm、b=20mm、L=300mm、T=50 N·m、材料 A5052(G=26.4 GPa, τ_allow=60 MPa)
結果: a/b=2 より α=0.246, β=0.229、Ip ≈ 73280 mm⁴、τmax=12.70 MPa、安全率 4.72
解釈: 矩形軸の τmax は円軸と違って短辺 b の中央で発生する。同じ断面積の円軸と比べると、矩形はねじり効率が悪く、τmax が大きくなる傾向がある。A5052 の許容値 60 MPa なら安全率 4.7 でまだ余裕。ただしアルミなので剛性は鋼の約 1/3、位置決め用途には別途検討が必要。
Case 4: kgf·m 単位の入力——古い図面互換
入力: 円軸 d=30mm、L=500mm、T=10 kgf·m(≈98.07 N·m)、材料 S45C
結果: τmax=18.49 MPa、安全率 8.65
解釈: kgf·m → N·m の換算係数は 9.80665。Case 1 の 100 N·m とほぼ同じ条件だが、トルクが 2% 弱小さいため応力も比例して下がる。年代物の機械図面で kgf·cm や kgf·m 表記を見ることは今でも多く、単位換算のミスはそのまま設計ミスに直結する。本ツールは単位切替で自動換算するので、変換ミスを排除できる。
Case 5: S45C vs A5052 の剛性比較——材料変更の落とし穴
入力: 円軸 d=30mm、L=500mm、T=100 N·m で、材料だけ S45C と A5052 を切替
結果(S45C, G=82 GPa): τmax=18.86 MPa、θ=0.4393°、θ/L=0.8787°/m、安全率 8.48
結果(A5052, G=26.4 GPa): τmax=18.86 MPa、θ=1.3646°、θ/L=2.7292°/m、安全率 3.18
解釈: τmax は材料に依らず同じ(幾何学的な値)だが、θ は G の比に反比例して 3.11 倍に膨らむ。A5052 にすると許容応力は下がり(60 MPa)、剛性も激減する。「軽量化のためアルミ化」は簡単に言えても、剛性要求のある軸では事前計算が必須。θ/L が 2.73°/m になるのは、精密主軸ではもちろん、通常の動力軸でも避けたい水準。
Case 6: 伝達動力 P=5 kW, n=1500 rpm → T≈31.83 N·m——動力から軸径を決める
入力: 伝達動力 5 kW、回転数 1500 rpm から T = 9550·P/n = 31.83 N·m。円軸 d=25mm、L=500mm、材料 S45C
結果: Ip = π·25⁴/32 ≈ 38349.52 mm⁴、τmax ≈ 10.38 MPa、θ ≈ 0.2900°、θ/L ≈ 0.5800°/m、安全率 15.42
解釈: 一般的な 3 相誘導電動機 5 kW(4P)の出力軸トルクに近い値。φ25 の S45C 軸なら応力的には 15 倍以上の余裕。θ/L も 0.58°/m で、一般動力軸の基準(0.5〜1.0°/m)にちょうど収まる。軸径を 1 段下げて φ22 にしても強度は保つが、剛性と共振周波数を検討する必要がある。動力から軸径を決める第一歩として、このパターンの計算は頻出する。
仕組み・アルゴリズム——Timoshenko テーブル補間と単位変換の実装
候補手法の比較——矩形軸の扱い
矩形軸のねじり応力を計算する手法には、大きく 3 つの選択肢がある。(1) Saint-Venant 級数解: 双曲線関数の無限級数で厳密。ただし実装が重く、収束判定も必要。(2) FEM: 最も正確だが計算コストが高く、Webツールには不向き。(3) Timoshenko 係数テーブル: a/b 比ごとに α/β を与えた実務近似。線形補間で精度と計算コストのバランスが良い。
本ツールは (3) を採用した。理由は、(a) 機械設計便覧・JIS ハンドブック・Shigley の教科書がすべて同じ表を載せており、設計実務のデファクト標準であること、(b) 級数解と比べて a/b ≤ 10 の範囲では誤差 1% 以内、(c) ユーザーの入力から 1 ms 以内に結果が出る。
実装詳細——計算フロー
入力から結果までの処理は以下の順で進む。
// 1. 単位変換: トルクを N·mm に揃える
if (torqueUnit === 'N·m') T_Nmm = T_input * 1000;
else if (torqueUnit === 'kgf·m') T_Nmm = T_input * 9806.65;
else T_Nmm = T_input * 98.0665; // kgf·cm
// 2. 材料定数: せん断弾性係数 G を GPa → MPa へ
G_MPa = G_GPa * 1000;
// 3. 形状別の Ip / τmax 計算
if (shape === 'circle') {
Ip = Math.PI * d ** 4 / 32;
r = d / 2;
tauMax = T_Nmm * r / Ip;
} else if (shape === 'hollow') {
Ip = Math.PI * (d ** 4 - d1 ** 4) / 32;
r = d / 2;
tauMax = T_Nmm * r / Ip;
} else { // rect
const { alpha, beta } = interpolateTimoshenko(a / b);
Ip = beta * a * b ** 3;
tauMax = T_Nmm / (alpha * a * b ** 2);
}
// 4. ねじり角と安全率
thetaRad = T_Nmm * L / (G_MPa * Ip);
thetaDeg = thetaRad * 180 / Math.PI;
thetaPerMeter_degPerM = thetaDeg / (L / 1000);
safetyFactor = tauAllow / tauMax;
Timoshenko の補間テーブルは次の通り。
| a/b | 1.0 | 1.5 | 2.0 | 3.0 | 6.0 | 10.0 | ∞ |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| α | 0.208 | 0.231 | 0.246 | 0.267 | 0.299 | 0.312 | 0.333 |
| β | 0.141 | 0.196 | 0.229 | 0.263 | 0.299 | 0.312 | 0.333 |
a/b が正方形(=1)なら α=β=0.208、細長い薄板(→∞)で α=β=0.333 に漸近する。物理的には、正方形のとき応力が 4 隅に集中し中央で 0 に近いため効率が悪く、薄板に近づくほど応力分布が単純なせん断流れに近づいて効率が良くなる——と理解できる。
計算例——Case 1 の手計算
Case 1 を 1 ステップずつ追ってみる。入力は φ30、L=500 mm、T=100 N·m=100000 N·mm、G=82 GPa=82000 MPa。
Ip = π · 30^4 / 32
= π · 810000 / 32
= 79521.56 mm^4
r = 30 / 2 = 15 mm
τmax = T · r / Ip
= 100000 · 15 / 79521.56
= 1500000 / 79521.56
= 18.86 MPa
θ = T · L / (G · Ip)
= 100000 · 500 / (82000 · 79521.56)
= 50000000 / 6520767920
= 0.007668 rad
= 0.007668 · 180 / π
= 0.4393°
θ/L = 0.4393° / 0.5 m = 0.8787°/m
SF = τ_allow / τmax = 160 / 18.86 = 8.48
ツールの結果と完全に一致する。単位変換さえ間違えなければ、電卓でも 2 分で検算できる。よく失敗するのは「G を GPa のまま使ってしまう」「トルクを N·m のまま式に入れる」の 2 パターン。本ツールはすべて内部で N·mm と MPa=N/mm² に揃えているので、単位混乱の事故は起きない。参考: Wikipedia: Torsion (mechanics)
他ツールとの違い|ねじり応力 計算 ツールを選ぶ決め手
Web上のねじり計算ツールは数多いが、大半は円軸と中空軸までで止まる。矩形軸のねじりを扱おうとすると Timoshenko の α/β 係数表を自分で引き、a/b 比を線形補間し、N·m と N·mm の単位を手計算する必要が出てくる。そこでブラウザを行き来するうちに、元の設計目的を見失う。本ツールはそのストレスを一掃した。
他ツールとの主な違いは次のとおりだ。
- 円軸・中空軸・矩形軸を1画面で切替。SegmentButtons をタップするだけで
Ipの計算式が切り替わる - Timoshenko テーブルを内蔵。a/b = 1.0〜10.0 の範囲を線形補間し、a/b > 10 は無限大近似に固定
- 材料プリセット5種類(SS400 / S45C / SUS304 / A5052 / C3604)。G と τ_allow の両方を持ち、選ぶだけで安全率判定まで届く
- トルク単位切替(N·m / kgf·m / kgf·cm)。古い図面や旧単位系の資料をそのまま入力できる
- ねじり角を rad / deg / deg/m の3形式で同時出力。実務の剛性規制値 0.25°/m と即比較可能
当サイトの梁の安全審判員は曲げ単独、モール円・主応力計算機は応力状態の合成が得意。本ツールはねじり単独の深掘りに振っている。曲げとねじりを同時に受ける伝達軸では、3つを行き来して設計値を詰めるのが王道だ。
豆知識・読み物|ねじり設計の歴史と名設計
トーションバーサスペンションという芸術
自動車のサスペンションには、金属棒を「ねじる」ことで路面の衝撃を吸収する方式がある。トーションバーサスペンションだ。コイルばねの代わりに直径20-30mmの鋼棒を使い、その一端を車体に固定、もう一端にアームを取り付ける。車輪が上下するとアームが回転し、棒は文字どおり「ねじられる」。ばね定数は G·Ip/L で決まるため、棒の長さ・直径・材料だけで乗り心地が調整できる。国産車では旧三菱パジェロや旧プレジデントが採用し、砂漠のラリーカー・軍用車両では今も定番だ。コイルばねと違って床下を水平に通せるから、車内空間を広く取れるのも美点。Wikipedia: トーションビーム式サスペンションも参照してみてほしい。
Saint-Venant のねじり問題
矩形軸の τmax がなぜ T·r/Ip で求まらないのか。その答えを1855年に数学的に解き明かしたのが、フランスの数学者 Adhémar Jean Claude Barré de Saint-Venant だ。彼は「非円形断面をねじると、断面が平面のまま回転するのではなく、軸方向に凹凸が生じる」という現象(反り変形、warping)を発見し、偏微分方程式として定式化した。Timoshenko の α/β 係数表は、Saint-Venant の解を級数で展開し、実用的な形にまとめたものだ。機械工学の教科書に出てくる「ねじり=ただのひねり」という直感は円軸でしか成り立たない。矩形軸では断面がゆがむ、と知ると設計の見方が変わる。
ロケットエンジンのターボポンプ軸
宇宙ロケットの液体燃料エンジンは、毎分数万回転するターボポンプで燃料と酸化剤を燃焼室に送り込む。その軸は巨大なトルクを受けるが、同時に遠心力による引張応力、熱膨張による圧縮応力、軸受荷重による曲げ応力が重畳する。単純な τmax = T·r/Ip では済まず、モール円で主応力を合成し、von Mises 相当応力で疲労寿命を評価する必要がある。設計者はねじり単独のツールで τmax を出したあと、モール円ツールに値を渡して合成応力をチェックする。本ツールもそのフローを前提に作った。
Tips|ねじり設計の実務ノウハウ
- 伝達動力からトルクを求める式: 回転機械の軸径決定では、モーター出力 P [kW] と回転数 n [rpm] から
T [N·m] = 9550·P/nで一発換算できる。たとえば 5kW / 1500rpm なら T ≈ 31.8 N·m だ。この式は動力伝達軸の初期検討で最もよく使う - キー溝のある軸は応力集中係数で割増し: キー溝の底部は応力集中係数
Ktが 2.0〜3.0 に達する。ツールで出したτmaxに Kt を掛けてから許容値と比較するのが実務の流儀。JIS B 1301 のキー寸法を引用すること - 静ねじりと疲労ねじりで安全率を分ける: 片方向トルクの静ねじりなら SF ≥ 2 で十分だが、正逆繰り返しの疲労ねじりでは SF ≥ 4〜6 が目安。出力軸・継手・変速機の中間軸は正負が入れ替わるので要注意
- 中空軸で軽量化するときは内径比 0.7 が目安: 同じ外径で
d1/d = 0.7にすると、Ipはほぼ1 - 0.7⁴ ≈ 0.76倍に減るだけで、質量は1 - 0.49 = 0.51倍まで減らせる。剛性損失 24% で重量半減、つまり剛性あたり質量が約2倍効率化するという計算 - 矩形軸の a/b > 10 は薄板近似に切り替える: a/b が 10 を超えると本ツールは無限大近似(α=β=0.333)で固定するが、実務では薄肉矩形の
τmax = 3T/(a·b²)とねじり定数J = a·b³/3の簡易式に切り替えた方が設計の見通しがよい
FAQ|よくある質問
矩形軸の許容せん断応力はどの規格を参照すればいい?
矩形軸単独の規格は日本にはほぼ存在しない。実務では JIS G 3101(SS材)や JIS G 4051(機械構造用炭素鋼)の引張強さから、せん断許容応力 τ_allow = 0.58·σ_allow(von Mises 基準、金属のせん断降伏応力は引張降伏の約 0.577 倍)として算出するのが一般的だ。S45C なら引張許容 σ_allow ≈ 275 MPa → τ_allow ≈ 160 MPa という計算。本ツールの材料プリセット値もこの方針で設定している。伝達軸に用いる場合は JIS B 0901 の機械加工面指示や、応力集中係数を加味してさらに 1/2 程度に割引くとよい。
中空軸は中実軸と比べて強度的に損か得か?
結論は「重量あたりの剛性では得、単純な最大応力では若干損」。同じ外径の中実軸と中空軸(内径比 0.7)を比べると、Ip は中空の方が約 24% 小さく、τmax は約 31% 増える。しかし質量は約 49% 減るので、剛性/質量比は中空軸の方が圧倒的に有利だ。航空機のプロペラ軸、自動車のプロペラシャフト、自転車のハンドルステムが中空構造なのはそのため。ただし曲げ座屈(圧潰)には弱くなるので、軸受間距離と肉厚のバランス設計が必要になる。本ツールで円軸と中空軸を切り替えて比較してみてほしい。
G = E/(2(1+ν)) で代用できる?ヤング率からせん断弾性係数を出していい?
等方性金属(炭素鋼、ステンレス、アルミ、黄銅)なら問題なく使える。鋼なら E=205 GPa、ν=0.3 → G = 205/(2·1.3) ≈ 78.8 GPa となり、本ツールの SS400 プリセット(G=79.3 GPa)とほぼ一致する。ただし CFRP・GFRP のような繊維強化樹脂、圧延銅板のような結晶配向のある材料、木材など異方性材料は式が成り立たない。これらは実測値を使うこと。なお鋳鉄も黒鉛の影響で ν が材質によって 0.20〜0.30 と幅があるため、便覧の実測値を優先した方が安心だ。
単位長さあたりねじり角 θ/L の基準値はどこから来ている?
工作機械・精密機械の軸では経験則として θ/L ≤ 0.25°/m が一つの目安になっている。この値の根拠は、1rpm の回転指令に対して軸端で生じる角度誤差を加工精度(数ミクロン/メートル)より十分小さく保つためだ。機械工学便覧の動力伝達軸設計の章には「一般機械:0.25°/m、精密機械:0.1°/m、工作機械主軸:0.05°/m」という階段状の目安が載っている。本ツールではこの 0.25°/m を参考警告ラインとして実装し、超えた場合に黄色バナーで注意喚起する。ただし絶対の規格値ではないので、最終的には設計仕様書で個別判断が必要だ。
入力した寸法やトルクはサーバーに送信される?プライバシーは大丈夫?
本ツールの計算処理はすべてブラウザ内の JavaScript で完結しており、入力したトルク・寸法・材料などの数値はサーバーに送信されない。結果のコピー機能もクリップボード API を使うだけで、外部通信は発生しない。企業の機密情報を含む設計値でも、そのまま入力して問題ない(社内規則が許す範囲で)。データは画面を閉じた時点で消える。詳細はプライバシーポリシーと運営者情報を参照してほしい。
まとめ|ねじりを押さえれば軸設計の半分は済む
軸設計では「曲げ」「ねじり」「圧縮座屈」の3つが基本軸になる。本ツールはそのうちのねじり単独を深掘りし、円・中空・矩形の3形状を1画面で比較できる。τmax と θ を同時に見て、強度と剛性の両面から軸径を決めるのが王道だ。曲げも同時に評価したいなら梁の安全審判員、ねじりと曲げが重畳する伝達軸なら本ツールの τmax をモール円・主応力計算機に渡して合成応力を確認するとよい。要望・不具合報告はお問い合わせからどうぞ。