「小梁のサイズ? いつものH-300でいいでしょ」——鉄骨造の計画で、こんな決め方に心当たりはないだろうか。柱や大梁は構造計算で丁寧に追うのに、小梁・母屋・胴縁のような二次部材は本数が多くて、1本ずつ電卓を叩く時間がない。結果、前の物件の踏襲と経験則で決まっていく。だがその断面、過剰なのか、それともギリギリなのか。根拠を聞かれて即答できる人は意外と少ない。
このツールは、スパン・負担幅(部材間隔)・設計荷重の3つを入れるだけで、必要断面係数 Z_req と必要断面二次モーメント I_req を計算し、内蔵のJIS規格断面表(H形鋼細幅系列12種・リップ溝形鋼8種)から曲げとたわみの両方を満たす最軽量断面を自動で選び出す。決定要因が強度支配なのかたわみ支配なのか、採用断面の検定比にどれだけ余裕があるのかまで、その場で数字になる。経験則の答え合わせが数秒で終わる。
なぜ作ったのか — 「荷重から断面まで」の一気通貫が無かった
このサイトには既に /section-reverse(断面逆引きツール)がある。必要な断面係数Zと断面二次モーメントIが分かっていれば、規格表から条件を満たす断面を逆引きできる。だが実務で最初に手元にあるのは「Z=460cm³必要」という数字ではなく、「スパン6m・小梁間隔2m・床荷重8kN/m²」という荷重条件だ。そこから w=q×B、M=wL²/8、Z_req=M/fb、I_req=5wL³n/384E と電卓を4回叩いてからでないと、逆引きの入口にすら立てない。この手前の計算こそ毎回必ずやるのに、ツール化されていない空白だった。
ならメーカーカタログの許容荷重表(スパン表)を見ればいいかというと、これが意外と使いにくい。表ごとに前提のたわみ制限が違う。荷重が等分布か集中か明記されていない表もある。H形鋼とリップ溝形鋼を横並びで比較できる表はまず存在しない。「この条件で最軽量なのはどれか」という一番知りたい答えに、どの表も一発では届かないのだ。
だから、荷重条件を入れたら必要性能の計算・規格表の照合・最軽量選定・検定比の確認までを一気に済ませるツールを作った。二次部材の断面選定は、いま執筆準備中の建築構造テーマでも中核に据えている論点で、原稿を書きながら「これは電卓ではなくツールでやるべき定型フローだ」と確信した領域でもある。
小梁・母屋・胴縁とは何か — 断面選定は2つの条件で決まる
小梁 断面 選定の前提 — 一次部材と二次部材の違い
建物の骨組みには役割の階層がある。柱と大梁は、建物全体の重さや地震・風に立ち向かう一次部材(主架構)。一方、小梁は床の荷重を受けて大梁に渡す部材、母屋(もや)は屋根材を受けて大梁やトラスに渡す部材、胴縁(どうぶち)は外壁材を受けて柱・間柱に渡す部材だ。共通するのは「面で受けた荷重を線で集めて、一次部材に手渡す」中継役だということ。これらをまとめて二次部材と呼ぶ。
二次部材には設計上の特徴が3つある。第一に本数が多い——工場や倉庫なら母屋・胴縁だけで数百本になる。第二に多くは単純梁として扱える——両端をボルトで留めるだけのピン接合が普通だからだ。第三に荷重の受け持ち範囲が明快——等間隔に並ぶから。この3つのおかげで二次部材の選定は定型化できる。逆に言えば、本数が多いからこそ1本あたりの無駄がそのまま鉄骨総重量に効いてくる。
負担幅 とは — 面荷重を線荷重に変える幅
床・屋根・壁に働く荷重は「1m²あたり何kN」という面荷重で与えられる。これを梁1本の計算に使うには、「その梁が面のどれだけの幅を受け持つか」を決める必要がある。それが負担幅だ。
雨樋を思い浮かべてほしい。屋根に降った雨を軒先の樋が集めて流すとき、1本の樋が受け持つのは屋根全面ではなく、隣の樋との中間線までの幅の分だけ。二次部材もまったく同じで、間隔Bで等間隔に並ぶ部材の1本は、左右それぞれB/2、合わせて幅Bぶんの面荷重を受け持つ。つまり負担幅=部材間隔。面荷重q[kN/m²]に負担幅B[m]を掛ければ、部材1mあたりの線荷重w[kN/m]が得られる。
母屋 サイズ 計算の2条件 — 強度(Z)とたわみ(I)
線荷重wが決まれば、あとは単純梁の公式で必要性能を出せる。条件は2つだ。
w = q × B // 面荷重 × 負担幅 → 線荷重 [kN/m]
M = w × L² / 8 // 単純梁・等分布の最大曲げモーメント [kN·m]
Z_req = M / fb // 強度条件: σ = M/Z ≦ fb
I_req = 5 × w × L³ × n / (384 × E) // たわみ条件: δ = 5wL⁴/384EI ≦ L/n
1つ目は強度条件。梁が曲げられると断面に曲げ応力度σが生じる。σ= M/Z が材料の許容曲げ応力度fb(SS400の長期で156N/mm²)を超えないためには、断面係数Zが Z_req=M/fb 以上必要だ。Zは「曲げに対する強さ」の指標で、壊れないための条件になる。
2つ目はたわみ条件。強度が足りても、梁が大きく垂れたら建物としては使い物にならない。単純梁・等分布のたわみ δ=5wL⁴/384EI をスパンの1/n(床小梁の慣用でL/300、母屋・胴縁でL/200)以下に抑えるには、断面二次モーメントIが I_req=5wL³n/384E 以上必要だ。Iは「曲げに対する硬さ」の指標で、快適に使うための条件になる。
なぜ両方調べるのか。モーメントはスパンの2乗で効くが、たわみはより高い次数で効く。だから短スパン・重荷重では強度が先に決め手になり、長スパン・軽荷重ではたわみが先に決め手になる。どちらが支配するかは条件次第で入れ替わるから、片方だけ調べて安心すると、もう片方でアウトになる。本ツールが Z_req と I_req を常に両方計算し、両方を満たす断面だけを候補にするのはこのためだ。
なお候補となる断面の形状や規格の基礎は Wikipedia: H形鋼 が詳しい。小梁にはH形鋼の細幅系列、母屋・胴縁には軽量鉄骨のリップ溝形鋼(C形鋼)を使うのが鉄骨造の慣用だ。
実務での重要性 — たわみの見落としは「壊れない不具合」になる
強度不足はもちろん怖い。だが設計初心者が実際に踏みやすい地雷は、たわみの方だ。強度は満たしているのにたわみが大きい梁は、壊れないまま不具合を起こす。床小梁がたわめば天井ボードのひび割れ、間仕切り上部の隙間、建具の開閉不良。屋根の梁や母屋がたわめば水勾配が消えて雨水が溜まり、水の重さでさらにたわんでまた水が溜まる——ポンディングと呼ばれる悪循環に入る。どれも構造体は無事なのに、建物としては立派なクレーム案件だ。
母屋の過小設計は雪害の定番でもある。豪雪年の屋根被害では、想定を超えた積雪で母屋が座屈した事例が繰り返し報告されている。屋根の設計積雪荷重は建築基準法施行令第86条により垂直積雪量1cmごとに20N/m²以上(多雪区域以外)。積雪30cmなら雪だけで0.6kN/m²になり、屋根の固定荷重0.3kN/m²の2倍を雪が占める計算だ。たわみの法的な位置づけとしては、建築基準法施行令第82条第四号が使用上の支障が起こらないことの確認を求め、平12建告第1459号が変形増大係数を考慮したたわみをスパンの1/250以下とする基準を示す。実務ではさらに日本建築学会の鋼構造設計規準が通常の梁でスパンの1/300以下を目安とし、仕上げへの影響が小さい母屋・胴縁ではL/200程度が慣用。本ツールのたわみ制限L/300・L/250・L/200は、この使い分けにそのまま対応する。
逆方向の実害はコストだ。「不安だから全部ワンサイズ上」とやると、鉄骨はkg単価×総重量で値段が決まる世界だから、二次部材の数%の重量増が見積にそのまま乗る。そして決定要因を知らないと対策も外す。たわみ支配の梁を高強度のSM490に鋼種アップしても、ヤング率E=205000N/mm²は鋼種によらず同じだから、たわみは1mmも減らない。効くのはIを増やすこと、つまりせいの大きい断面に変えることだ。強度支配かたわみ支配かの表示は、この「次の一手」を間違えないための情報でもある。
使いどころ — 計画の初手から検算まで
工場・倉庫・車庫の計画段階の部材拾い。仮定断面を置かないと鉄骨数量が出せないが、その仮定を経験則ではなく計算で置ける。概算見積の精度が一段上がる。
母屋・胴縁のピッチ検討。間隔を0.9mから1.2mに広げれば本数は減るが、1本あたりの負担幅が増えて断面は上がる。間隔と断面の組合せを数分で何通りも回し、総重量が最小になる割付を探せる。
増築・用途変更時の既存部材チェック。「この床、倉庫として使って大丈夫か」を、既存小梁の寸法と新しい積載荷重からその場で検算できる。
構造計算書のセルフチェック。一貫計算の出力に並ぶ二次部材の断面が過剰・過小でないか、別ルートで確かめる検算役として。
そして一級建築士受験や構造設計の学習。負担幅→線荷重→M→Z・Iという流れは構造設計の基本動作そのもので、数字を動かしながら決定要因が入れ替わる瞬間を体感できる。
基本の使い方 — 3ステップ
ステップ1: 部材用途を選ぶ。床小梁・屋根母屋・壁胴縁のセグメントを選ぶと、たわみ制限(床=L/300、母屋・胴縁=L/200)と鋼材種別(小梁=H形鋼、母屋・胴縁=リップ溝形鋼)の慣用初期値が自動セットされる。もちろん個別に変えるのも自由だ。
ステップ2: スパン・負担幅・設計荷重を入力する。設計荷重は床なら固定+積載、屋根なら固定+雪、壁なら風圧力[kN/m²]。風圧は /windpress、積雪は /snow-load で算出した値をそのまま持ち込める。許容曲げ応力度fbはSS400長期の156N/mm²が初期値(短期なら235)。迷ったら代表シナリオのプリセット5件から近いものを選び、数字だけ差し替えるのが早い。
ステップ3: 推奨断面と決定要因を確認する。JIS規格表から選ばれた最軽量断面、検定比σ/fbとδ/δallow、決定要因(強度支配/たわみ支配)が表示される。検定比が0.9を超えれば「余裕小」、0.5未満なら「余裕大」の目安も出るから、断面の据わりが一目で分かる。
具体的な使用例 — 8ケースの検証データ
以下はすべて実装済みのツールに実際の値を入れて確認した結果だ。「入力→結果→解釈」の3点セットで見ていく。
ケース1: 事務所の床小梁(定番H-300の答え合わせ)。 入力: H形鋼 / L=6m / 負担幅2m / 8kN/m²(固定約5.1+事務室積載2.9)/ L/300 / fb=156。 結果: H-300×150×6.5×9(36.7kg/m)。w=16kN/m、M=72kN·m、Z_req=461.5cm³、I_req=6585.4cm⁴。σ=149.7N/mm²でσ/fb=0.96、δ=18.27mm(許容20mm)でδ/δa=0.91。決定要因は強度支配。 解釈: 「事務所の6mスパンはH-300」という経験則が計算でも裏付けられた。ただし検定比0.96は余裕小の注意付き。荷重が確定していない基本設計段階なら、1サイズ上も頭に置きたい。
ケース2: 屋根母屋(積雪30cm)。 入力: リップ溝形鋼 / L=3m / 間隔0.9m / 0.9kN/m²(屋根固定0.3+雪30cm×20N/m²/cm=0.6)/ L/200 / fb=156。 結果: C-75×45×15×2.3(3.25kg/m)。σ/fb=0.59に対しδ/δa=0.75で、たわみ支配。δ=11.23mm(許容15mm)。 解釈: 母屋はたわみで決まる典型例。強度には4割も余裕があるのに、断面を決めているのはIの方だ。
ケース3: 壁胴縁(風圧1.2kN/m²)。 入力: リップ溝形鋼 / L=4m / 間隔0.6m / 1.2kN/m² / L/200 / fb=156。 結果: C-90×45×20×2.3(3.70kg/m)。δ/δa=0.9989。I_req=58.54cm⁴に対して採用断面のIx=58.6cm⁴、δ=19.98mm(許容20mm)。 解釈: 検定比0.999という間一髪の選定で、ツールは「余裕小」の注意を出す。風荷重の割り増しや施工誤差まで考えるなら、1サイズ上のC-100×50×20×2.3が現実的な落としどころだ。
ケース4: 倉庫の床小梁(重荷重)。 入力: H形鋼 / L=5m / 負担幅2.5m / 12kN/m²(固定4.5+倉庫積載7.5)/ L/300 / fb=156。 結果: H-346×174×6×9(41.4kg/m)。w=30kN/m、M=93.75kN·m、Z_req=601.0cm³。σ/fb=0.94の強度支配(δ/δa=0.64)。 解釈: H-350×175(49.6kg/m)ではなくH-346×174が選ばれるのがポイント。同じ「せい350クラス」でも8.2kg/m軽い。5mの小梁100本なら4トン超の差になり、鉄骨kg単価を考えれば無視できない金額だ。
ケース5: 短期荷重の検定(fb=235)。 入力: ケース1と同条件のまま、fbだけ短期許容の235に変更。 結果: 断面は同じH-300×150×6.5×9だが、決定要因がたわみ支配に反転(σ/fb=0.64 < δ/δa=0.91)。Z_req=306.4cm³まで減る。 解釈: fbを上げると強度条件だけが緩み、たわみ条件はfbと無関係だから動かない。短期検定や高強度鋼の採用でたわみが新しいボトルネックになる構図が、数字でそのまま見える。
ケース6: 最軽量選定の非単調性(リップ溝形鋼の面白さ)。 入力: リップ溝形鋼 / L=3.5m / 間隔1m / 1.9kN/m² / L/200 / fb=156。 結果: C-125×50×20×2.3(4.51kg/m)。Z_req=18.6cm³・I_req=103.5cm⁴、σ/fb=0.85の強度支配。 解釈: 実はC-100×50×20×3.2(5.50kg/m、Zx=21.3cm³・Ix=107cm⁴)も両条件を満たす。だが板厚を上げた100番より、せいを上げた125番の方が約1kg/m軽く、剛性はむしろ高い(Ix=137cm⁴)。「せいが小さいほど軽い」という直感はリップ溝形鋼では通用しない。
ケース7: 庇の母屋(過剰断面の検出)。 入力: リップ溝形鋼 / L=2m / 間隔0.5m / 0.8kN/m² / L/200 / fb=156。 結果: 表内最小のC-60×30×10×1.6(1.63kg/m)。検定比は最大でも0.35。 解釈: 最小断面でも余裕たっぷりで、ツールは「余裕大」の情報表示を出す。既に最軽量が選ばれているのだから、次の最適化は断面ではなく条件側——母屋間隔を0.5mから広げて本数を減らす方向になる。
ケース8: 内蔵表の範囲外(大梁級の荷重)。 入力: H形鋼 / L=12m / 負担幅3m / 10kN/m² / L/300 / fb=156。 結果: 該当断面なし。w=30kN/m、M=540kN·m、Z_req=3461.5cm³は表の最大H-350×175(Zx=775cm³)を大きく超える。 解釈: これはもう二次部材ではなく大梁の領域。ツールは範囲外でもZ_req・I_reqの計算値を表示し続けるから、その値を持って /section-weight で中幅・広幅H形鋼を個別検討すればいい。
8ケースを通して見ると、同じ「梁を1本選ぶ」でも、決定要因・余裕・最軽量の答えが条件次第でこれだけ動く。経験則1本ですべてをカバーするのは、やはり無理があるのだ。
仕組み・アルゴリズム — 必要性能でJIS規格表をフィルタし最軽量を選ぶ
候補手法の比較 — なぜ「規格表フィルタ方式」か
荷重条件から断面を提示する方法は大きく3つ考えられる。
1つ目はカタログの許容荷重表をそのままデータ化する方法。手軽だが、表ごとにたわみ制限や荷重条件の前提が固定されていて、条件を変えた計算ができない。2つ目は任意断面の性能を都度計算する方法。自由度は最高だが、フィレットやリップ形状まで毎回計算するのは重く、そもそも実務は規格断面から選ぶのだから自由度が過剰だ。3つ目が本ツールの採用した方式——必要性能 Z_req・I_req を計算し、JIS公称値の規格表を「Zx≥Z_req かつ Ix≥I_req」でフィルタする。条件は自由に変えられて、答えは必ず実在の断面。二次部材の選定にはこれが一番かみ合う。
最軽量選定とリップ溝形鋼の落とし穴
候補が複数残ったとき、どれを答えにするか。鉄骨のコストはおおむねkg単価×総重量で決まるから、本ツールは単位重量[kg/m]が最小の断面を選ぶ。最軽量選定はそのままコスト最小化だ。
ここに実装上の罠が1つある。H形鋼の細幅系列は軽い順に並べるとせいの順と一致するが、リップ溝形鋼は一致しない。C-125×50×20×2.3(4.51kg/m)は、せいの小さいC-100×50×20×3.2(5.50kg/m)より軽いのに、Ixは137対107で上回る。規格表を上から順に見て最初に合格した断面を返す実装だと、ケース6で重い方を答えてしまう。だから本ツールは候補を絞った後、必ず単位重量で比較して最小を採る。
内蔵断面表の出どころと検証
H形鋼はJIS G 3192の細幅系列12種(H-100×50からH-350×175まで)の公称値を収録。全12種について寸法(せい×幅×ウェブ厚×フランジ厚)とフィレット半径からの断面計算で公称値と照合済みだ(単位質量誤差0.2%以下・Ix誤差0.33%以下・Zx誤差0.25%以下)。リップ溝形鋼はJIS G 3350の8種で、角部の内半径=板厚とするモデルで代表4断面がJIS公称値と一致(誤差0.44%以下)することを確認した。規格の原文は 日本産業標準調査会(JISC) で規格番号(G 3192・G 3350)から検索できる。
計算例 — 事務所の床小梁を手で追う
ケース1をステップバイステップで再現する。ヤング率はE=205000N/mm²(鋼種共通の設計値)で固定だ。
// 入力: L=6m, 負担幅B=2m, q=8kN/m², たわみ制限L/300, fb=156N/mm²
w = 8 × 2 = 16 kN/m // 線荷重(16N/mmと数値同一)
M = 16 × 6² / 8 = 72 kN·m // 単純梁・等分布の最大モーメント
Z_req = 72×10⁶ / 156 / 10³ = 461.5 cm³ // 強度条件
I_req = 5 × 16 × 6000³ × 300 / (384 × 205000) / 10⁴
= 6585.4 cm⁴ // たわみ条件(δallow = 6000/300 = 20mm)
この2つの必要値で規格表をフィルタする。1つ手前のH-298×149×5.5×8はZx=424cm³・Ix=6320cm⁴でどちらも不足して脱落。H-300×150×6.5×9はZx=481cm³・Ix=7210cm⁴で両方合格し、合格した中の最軽量(36.7kg/m)だから採用。最後に採用断面で実際の検定比を出す。σ=72×10⁶/(481×10³)=149.7N/mm²でσ/fb=0.96、δ=5×16×6000⁴/(384×205000×7210×10⁴)=18.27mmでδ/δa=0.91。大きい方が強度側だから、この梁は強度支配——ツールの表示とぴったり一致する。
なお計算はすべて単純梁・等分布・強軸曲げの範囲で、横座屈の低減は内蔵しない(圧縮フランジの横補剛が少ない場合は、低減後のfbを入力する前提)。部材自重も設計荷重に自動加算されないから、厳密に追う場合は選定後にkg/mを面荷重に換算して足し込み、もう一度回すとよい。
どのツールをいつ使うか — 構造系ツールの役割分担
当サイトの構造系ツールは、設計フローのどの段階に立っているかで使い分ける設計になっている。
| ツール | 入力 | 出力 | 立ち位置 |
|---|---|---|---|
| 本ツール | スパン・負担幅・設計荷重 | 最軽量断面+検定比 | 荷重条件から断面を決める入口 |
| /section-reverse | 必要Z・必要I | 条件を満たす断面 | 必要性能が既に手元にあるとき |
| /section-weight | 断面寸法 | Z・I・単位重量 | 表にない断面の性能を知りたいとき |
| /beam-strength | 断面+荷重条件 | 応力度・たわみ・安全率 | 決めた断面の詳細検定 |
/section-reverse は必要Z・Iが分かっている前提の逆引き専用で、荷重条件からは入れない。本ツールは「荷重 → 必要性能 → JIS規格表フィルタ → 最軽量断面」を一画面で通す一気通貫型。ここが最大の違いだ。
上流と下流の導線も揃っている。壁胴縁なら /windpress で風圧力を、屋根母屋なら /snow-load で積雪荷重を計算し、その値を設計荷重欄に転記すればいい。逆に、本ツールで決めた断面をより詳しく検定したくなったら /beam-strength に断面と荷重を渡して応力度・安全率を確認する。計画の入口は本ツール、詰めの検定は専用ツール、という分担だ。
豆知識 — 細幅・リップ・kg売りの業界事情
H形鋼の「細幅・中幅・広幅」はどう使い分ける?
JIS G 3192のH形鋼には細幅・中幅・広幅の3系列がある。梁の仕事は強軸まわりの曲げだから、同じ重量ならせいを稼げてkg当たりの断面係数が大きい細幅が効率的。一方、柱は圧縮と二方向の曲げを受けるため、弱軸も強い広幅が向く。「梁は細幅、柱は広幅」が鉄骨造の基本文法で、本ツールの内蔵表が細幅12種なのも小梁用途に絞ったからだ。
「リップ」は局部座屈を抑える折り返し
リップ溝形鋼の「リップ」とは、フランジ先端を内側に折り返した小さな縁のこと。板厚1.6〜3.2mmの薄板断面は、圧縮側フランジの自由縁が波打つように座屈(局部座屈)しやすい。リップがこの自由縁を拘束することで座屈を抑え、薄板でも断面性能をフルに使えるようになる。軽くて留め付けやすいC形鋼が母屋・胴縁の定番になったのは、この折り返しひとつの功績が大きい。
母屋のたわみ制限がL/200と緩いのはなぜか
床小梁のL/300は、天井ボードのひび割れ・建具の開閉不良・歩行時の振動感といった「人が直接感じる不具合」を抑えるための水準。対して母屋・胴縁が受け持つ折板屋根やサイディングは変形への追従性が高く、多少たわんでも実害が出にくいためL/200が慣用になっている。ただし緩勾配屋根で水たまり(ポンディング)が心配な場合や、外装材の指定がある場合はもっと厳しくすることもある。
鉄骨は「kg売り」— 最軽量選定にこだわる理由
鉄骨加工の見積りはトン単価×総重量が基本。つまり同じ性能なら軽い断面が正義で、本ツールの選定基準が「表の順」ではなく「重量最小」なのはこのためだ。C-125×50×20×2.3(4.51kg/m)がC-100×50×20×3.2(5.50kg/m)より「せいが大きいのに軽くて剛い」という逆転は、せい順にカタログを眺めているだけでは気づきにくい。
Tips — 選定精度をもう一段上げる
- 自重を足し込む: 設計荷重に部材自重は含まれない。選定結果のkg/mを使い、
kg/m × 9.81 ÷ 1000 ÷ 負担幅[kN/m²] を荷重に加算して再計算すると精度が上がる。例えばH-300×150(36.7kg/m)・負担幅2mなら約0.18kN/m²の上乗せ。 - ピッチと断面は総重量で比較する: 部材間隔を広げれば本数は減るが1本あたりの断面は上がる。負担幅だけ変えて数ケース回し、kg/m×本数×長さの総重量で比べれば数分で答えが出る。
- たわみ支配なら高強度鋼にしても効かない: SM490に替えてもヤング率Eは205000N/mm²のまま。決定要因が「たわみ支配」なら鋼種でなく断面(I)を上げるのが正解。fbの引き上げが効くのは強度支配のときだけだ。
- 風圧・積雪は連携ツールから転記: 壁胴縁は /windpress、屋根は /snow-load で求めた値をそのまま設計荷重欄へ。荷重の根拠が明確になり、後から条件を差し替えるのも楽になる。
よくある質問(FAQ)
連続梁として設計したいが対応している?
対応していない。本ツールは単純梁・等分布のみで、曲げは常にM=wL²/8として計算する。母屋を3スパン連続で通す場合など、実際の中央曲げはこれより小さくなるため、スパン中央に関しては単純梁扱いが安全側の概算になる。ただし中間支点上の負曲げや不等スパンの影響は別途の検討が必要で、連続梁として厳密に設計するなら構造計算によること。横座屈(横倒れ座屈)は考慮される?
内部では計算しない。fb欄に横座屈を考慮した低減後の許容曲げ応力度を入力する前提だ。床小梁のようにデッキプレートやスラブが圧縮フランジを連続的に拘束していればSS400長期の156N/mm²でよいことが多いが、横補剛の少ない母屋や独立梁では鋼構造設計規準の式で低減したfbを求めて入力してほしい。内蔵表にない断面(中幅H・角形鋼管など)を使いたい
本ツールが表示する必要断面係数 `Z_req` と必要断面二次モーメント `I_req` は、候補が範囲外でも表示され続ける。この2つの値を控えて、[/section-weight](/section-weight) で候補断面のZ・Iを計算して比較するか、[/section-reverse](/section-reverse) に必要Z・Iを入れて逆引きすればいい。最終的な応力度・たわみの検定は [/beam-strength](/beam-strength) で行える。部材の自重は荷重に含まれている?
含まれていない。設計荷重は床・屋根・壁から伝わる面荷重のみとして扱う。二次部材の自重は面荷重に比べて小さいことが多いが、厳密にやるならTipsに書いた式(kg/m×9.81÷1000÷負担幅)でkN/m²に換算し、設計荷重に加算して再計算を。入力したデータはどこかに保存・送信される?
されない。計算はすべてブラウザ内(クライアントサイド)で完結し、入力値や選定結果がサーバーへ送信・保存されることは一切ない。ページをリロードすれば初期値に戻るので、残したい結果は「結果をコピー」ボタンで控えておくといい。まとめ — 荷重から断面まで最短距離で
小梁・母屋・胴縁の選定は「面荷重×負担幅 → M=wL²/8 → 強度とたわみの2条件」という定型フローだ。本ツールはその全工程を自動化し、JIS規格表から最軽量断面と決定要因まで一度に出す。壁の風圧力は /windpress、屋根の雪は /snow-load で作って入力し、決めた断面は /beam-strength で詳細検定へ。表にない断面は /section-weight と /section-reverse で個別検討できる。計画段階の部材拾いが数分で終わる感覚、まず定番の6mスパンから試してみて。
改善の要望や「この断面も表に載せてほしい」といった声は、お問い合わせページから気軽にどうぞ。
Mahiro
Mahiro Appの開発者。倉庫の見積段階で母屋のサイズ根拠を聞かれて答えに詰まった経験から、負担幅→必要Z・I→規格表照合という毎回やる定型計算を丸ごとツールに落とし込んだ。
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