同じ「FA-130RA」なのに、無負荷回転数が2つ出てきた
工作用のギヤボックスに付いていたモーターの素性を調べようとして、手が止まった。「FA-130RA」で出てくる公式の性能表に、無負荷回転数 9,100rpm と書いてあるものと、12,300rpm と書いてあるものの両方がある。どちらもマブチモーターの資料で、誤植ではない。違うのは型番の末尾だけだ。-2270 は定格 1.5V・停動トルク 2.55mN·m、-18100 は定格 3V・停動トルク 3.53mN·m。外形も品番も同じなのに、中の巻線が別物なので特性が丸ごと入れ替わる。
しかも本当に知りたかったのは、回転数のほうではなかった。この箱を動かすのに要るトルクに対して、このモーターは何 mN·m まで出せるのか。性能表に載っている停動トルク 2.55mN·m は、そのまま「出せるトルク」として使ってよい数字なのか。5つの数字をいくら睨んでも、そこは書いていない。
このツールは、カタログの5値——定格電圧・無負荷回転数・無負荷電流・停動トルク・停動電流——を入れるだけで、トルクを横軸にした回転数・電流・出力・効率の4曲線を引き、最大出力点と最大効率点がそれぞれどこにあるのかを数値で出す。手元の個体が -2270 なのか -18100 なのかさえ分かれば、残りは全部決まる。
なぜ作ったのか — 停動トルクを「出せるトルク」と読んで焼いた
「DCモーター T-N曲線」で調べると、解説は山ほど出てくる。メーカーの技術ガイドも設計ガイド系のブログも、式と性能線図の読み方は丁寧に書いてある。ところが、手元の数字を入れて自分のモーターの曲線を引ける自動計算ツールは、調べた範囲で1つも無かった。読んで理解したあと、それを自分の部品で確かめる場所が無い。
この「確かめる場所が無い」は、思っているより効く。最大出力点と最大効率点が別の場所にあることは、どの解説にも書いてある。けれど文字で読んだだけだと、頭の中では両者がなんとなく同じ辺りに並んで居座ったままになる。自分の手持ちのモーターの数字として2つの点が別々の位置に出てきて、はじめて別物として分かれる。
自分の場合は、分かれる前に一度焼いた。工作用ギヤボックスの減速比を決めるとき、停動トルク 2.55mN·m を「このモーターが出せるトルク」として計算に入れた。減速比を掛ければ必要トルクは足りる計算になり、実際に動きもした。数分後にモーターが熱くなって止まった。停動トルクというのは回転数ゼロの点の値で、そこは曲線の中で最も電流が流れ、最も発熱する場所だった。連続で使ってよい範囲がそのはるか手前にあることを、このとき初めて数字で知った。
もう1つ、ずっと引っかかっていたのが単位だった。マブチの性能表は停動トルクを mN·m と g·cm の2列で併記している。FA-130RA-2270 なら 2.55mN·m と 26g·cm。メモに「26」とだけ書き写すと、あとからどちらの列だったのか分からなくなる。この2つは約10.2倍違うので、取り違えたまま減速比を決めれば設計が丸ごとずれる。この読み違いを、入力された数字の側から自動で検出できないか——それがこのツールの出発点になった。
DCモーターの特性はなぜ直線になるのか——逆起電力から第一原理で
DCモーター 特性 とは — 成り立っている式は2本しかない
永久磁石界磁のブラシ付きDCモーターは、外から見れば端子が2本あるだけの部品だ。中では磁石の作る磁界の中で電機子(回転するコイル)が回り、整流子とブラシが電流の向きを切り替え続けている(直流整流子電動機)。この部品について成り立つ関係は、驚くほど少ない。電気の側が1本、機械の側が1本、それだけだ。
電気の側はこう書ける。
V = I·R + Ke·ω
V : 端子電圧 [V]
I : 電流 [A]
R : 巻線抵抗 [Ω]
Ke : 逆起電力定数 [V/(rad/s)]
ω : 角速度 [rad/s]
加えた電圧 V のうち、巻線抵抗 R で I·R ぶんが熱として落ち、残りが Ke·ω と釣り合う。この Ke·ω が逆起電力だ。回っているコイルは同時に発電機でもあるので、自分の回転速度に比例した電圧を自分で作り、それが電源電圧に逆向きに立ちはだかる。
たとえるなら、速く走るほど自動で強く効くブレーキが付いた自転車のようなものだ。止まっている間はブレーキがまったく効かないので、電源電圧のすべてが I·R に回って電流は最大になる。回るほど自分でブレーキを握り込み、自分の電流の通り道を細くしていく。回転数が上がるほど電流が減っていくのは、この一人相撲の結果だ。
トルク定数 逆起電力定数 — 本来は同じ数のはずが、少しずれる
機械の側の1本はもっと単純で、トルクは電流に比例する。
T = Kt·(I − I0)
Kt : トルク定数 [N·m/A]
I0 : 無負荷電流 [A]
無負荷電流 I0 を引いているのは、軸受けとブラシの摩擦を回すぶんの電流が先に取られてしまうからだ。軸に何も付けずに回してもモーターは電流を食う。その取り分を超えたぶんだけが、外へ出せるトルクになる。
ここで Kt がトルク定数、さきほどの Ke が逆起電力定数になる。おもしろいのは、この2つは SI 単位で書くと同じ数になるはずだという点だ。電気入力のうち熱にならなかったぶん (Ke·ω)·I が、そのまま機械出力 T·ω になるので、両辺の ω が消えて T = Ke·I が残る。つまり Kt と Ke は同じ係数の別の顔でしかない。だからカタログの5値から別々に復元した Kt と Ke がひどく食い違っていたら、疑うべきは式ではなく入力した数字のほうだ。このツールが両方を別々に出して差を表示しているのは、そのためになる。
T-N曲線 読み方 — 回転数も電流もトルクの1次関数になる
上の2本を連立し、係数をカタログの5値で書き直すと、こうなる。
N(T) = N0 · (1 − T / Ts)
I(T) = I0 + (Is − I0) · T / Ts
N0 : 無負荷回転数 [rpm] Ts : 停動トルク [mN·m]
I0 : 無負荷電流 [A] Is : 停動電流 [A]
どちらもトルク T の1次関数、つまり直線だ。性能線図で回転数と電流がまっすぐな線で描かれているのは、図を簡略化しているからではなく、このモデルの上で本当に直線になるからだった。回転数は無負荷回転数 N0 から右下がりに落ちてゼロへ、電流は無負荷電流 I0 から右上がりに増えて停動電流 Is へ。両端の4つの数字が決まれば、線は引ける。
停動トルク とは — 曲線のいちばん右にある「回らない点」
その直線の右端、回転数がゼロになる点のトルクが停動トルク Ts だ。軸を押さえつけて回らなくした状態で、モーターが出しているトルクにあたる。このとき回転していないので逆起電力はゼロ、電流を止めるものが巻線抵抗しか無く、Is = V / R がそのまま流れる。しかも回転数がゼロということは機械出力もゼロで、入力した電力は全部が熱になる。停動トルクは「出せる最大のトルク」ではあっても、「使ってよいトルク」ではまったくない。ここが曲線の中で最も発熱が激しい点になる。
出力と効率だけは直線にならない
残りの2つは直線から外れる。出力は P = T·ω なので、右下がりの直線にトルクを掛けた形、つまり上に凸の放物線になる。頂点は必ず両端の真ん中の T = Ts/2 で、ここは機種によらない。
効率は η = P / (V·I) で、分母の電流もトルクとともに増えていくので、出力とはまた別の形の曲線になる。極大は放物線の頂点より左、つまり軽い負荷の側に寄る。最大出力点と最大効率点が別の場所に立つのは、この分母の違いから来ている。記号の体系(N0・I0・Ts・Is・Pmax・ηmax)はマブチモーターの技術ガイド「モータ性能に関する基礎知識」の性能用語一覧に合わせてあるので、手元のカタログの列名とそのまま突き合わせられる。
この数値を読み違えると何が起きるか
停動トルクを「出せるトルク」と読むと、数分で焼ける。 FA-130RA-2270 の停動トルク 2.55mN·m は、回転数0・電流2.20A の点の値だ。無負荷の 0.20A に対して11倍の電流が、出力ゼロのまますべて熱になる。連続して使ってよいのは最大効率点の 0.591mN·m まで——カタログに載っている数字の 23% でしかない。減速比を停動トルク基準で決めると、計算上は成立して実際に動きもするが、動いたまま巻線が温度を上げ続ける。
停動電流が、駆動素子と電源の定格を決める。 RS-380PH-4045 の停動電流は 18A ある。定格 6V での無負荷電流は 0.56A しかない。FET やモータードライバを「無負荷電流の少し上」で選ぶと、起動した瞬間——回転数がまだゼロで逆起電力が立っていない一瞬——にこの 18A に近い電流が流れて素子が飛ぶ。ヒューズの定格も、配線の太さも、電池の放電電流も、同じ数字で決まる。素子側の損失計算はMOSFETスイッチング損失計算機の担当だが、そこに入れる電流値の出どころはモーターの停動電流だ。
電圧を上げると、回転数と一緒に停動電流も増える。 定格 1.5V の FA-130RA-2270 を単3電池2本の 3.0V で回すと、無負荷回転数は 9,100 → 19,110rpm と2.1倍になる。ここまでは嬉しい話だが、同時に停動電流も 2.20 → 4.40A へ倍増し、最大出力は 0.608 → 2.68W まで跳ね上がる。回転数だけ見て電圧を上げると、駆動回路と電源が先に音を上げる。
温度が上がると、カタログ値そのものが動く。 銅の抵抗は約 0.393%/℃ で増えていく(電気抵抗率)。巻線が 20℃ から 60℃ に上がれば抵抗は約16%増え、Is = V/R で決まる停動電流も、それに比例する停動トルクも、そのぶん下がる。カタログの数値は常温で測ったもので、連続運転して熱くなったモーターは、カタログより弱い。ぎりぎりで成立させた設計が、温まった途端に止まるのはこれが理由だ。
どれも、止まるか焼けるかしてから初めて分かることばかりだ。カタログの5つの数字の段階で気づけるかどうかが、そのまま部品代の差になる。
こういう場面で出番がある
工作・教材でギヤボックスの減速比を決めるとき。 モーターをプリセットから選び、減速比と減速機効率を入れると、出力軸の停動トルク・無負荷回転数・最大効率点トルクが出る。読むべきは最大効率点トルクのほうで、そこが連続で押し続けられる上限になる。減速比そのものは減速機選定計算ツール、ウォームを使うなら効率の値をウォームギア効率・セルフロック判定で先に出しておくと、この欄に入れる数字が決まる。
ロボコン・自作ロボットで、そのモーターで足りるかを確かめるとき。 ロボットアーム 必要トルク計算が出した必要トルクを、こちらの出力軸トルクと突き合わせる。トルクの単位を kgf·cm に切り替えれば、換算を挟まずに同じ土俵で比べられる。
モータードライバと電源を選ぶとき。 見るのは停動電流と、負荷点の消費電力だ。前者が素子とヒューズの定格、後者が電池の持ち時間を決める。
手元にあるジャンクのモーターの素性を知りたいとき。 型番が読めなくても、実測した5値を直接入力に写せば、そこから先の曲線は全部引ける。Kt と Ke の差の表示が、測り間違いの検出を兼ねる。
基本の使い方
① モーターを選ぶ。 マブチモーター公式の特性表から取った7機種(FA-130RA-2270 / FA-130RA-18100 / RE-140RA-2270 / RE-260RA-2670 / RE-280RA-2865 / RS-380PH-4045 / RS-380PH-3270)から選ぶと、定格電圧・無負荷回転数・無負荷電流・停動トルク・停動電流の5欄が一度に埋まる。手元のカタログの数字を使うなら「直接入力」を選んで5つを写す。
② トルクの単位を合わせる。 停動トルクの欄の隣で mN·m / g·cm / N·m / kgf·cm を選ぶ。ここで重要なのは、単位を切り替えても入力欄の数字は変換されないこと。これは「26 と書いてあった数字が、どちらの列だったのかを言い直す」操作なので、勝手に換算してしまうと読み違いそのものを検出できなくなる。
③ 任意欄は、入れた分だけ結果が増える。 負荷トルク・使用電圧・減速比・減速機効率の4つは空のままでよく、その状態でも特性線図・最大出力点・最大効率点・モーター定数はすべて表示される。負荷トルクを入れればそのときの回転数・電流・効率と運転域の判定が、使用電圧を入れれば曲線がどこへ動くかが、減速比と効率を両方入れれば出力軸の値が、それぞれ足されていく。減速比だけ、効率だけでは出力軸は出ない(片方だけで効率100%を仮定しないため)。
実際の数値で見る——マブチ7機種と境界の9ケース
以下の数値は、いずれもツールに同じ入力を与えたときの出力そのままだ。表示桁に合わせて丸めてある。
ケース1|FA-130RA-2270 をそのまま — 2つの点が2倍以上離れる
- 入力: 1.5V / 9,100rpm / 0.20A / 停動トルク 2.55mN·m / 停動電流 2.20A、任意欄はすべて空
- 結果: 最大出力点 1.275mN·m・4,550rpm・0.6075W/最大効率点 0.5907mN·m・6,991.87rpm・0.4325W・効率 43.4711%(そのときの電流 0.6633A)/巻線抵抗 0.6818Ω・Kt 1.275mN·m/A・Ke 1.43096mV/(rad/s)
- 解釈: このツールがいちばん言いたいことが、ここに出ている。最大出力が取れるトルクは 1.275mN·m だが、効率が最高になるのは 0.5907mN·m で、2倍以上離れている。ためしに負荷トルク欄へ 1.275mN·m を入れると効率は 33.7503% と出て、最高効率 43.4711% から10ポイント近く落ちる。「いちばん力が出る使い方」と「いちばん効率が良い使い方」は、同じモーターの中の別の場所にある。
ケース2|同じモーターに 0.5mN·m の負荷 — 連続運転域に収まる
- 入力: ケース1に負荷トルク 0.5mN·m を追加
- 結果: 回転数 7,315.69rpm、電流 0.592157A、機械出力 0.383048W、消費電力 0.888235W、効率 43.1247%、判定は「連続運転域」
- 解釈: 負荷 0.5mN·m は最大効率点 0.5907mN·m のすぐ手前なので、効率 43.1247% が最高効率 43.4711% にほぼ並ぶ。消費電力 0.888235W は電池の持ち時間を見積もる側の数字で、機械出力 0.383048W との差はまるごと熱になっている。効率43%とは、入れた電力の半分以上が熱に回っているという意味でもある。
ケース3|FA-130RA-18100 — 型番末尾が変わると別のモーター
- 入力: 3.0V / 12,300rpm / 0.15A / 3.53mN·m / 2.10A、負荷トルク 1.0mN·m
- 結果: 最大出力点 1.765mN·m・1.13671W/最大効率点 0.744465mN·m・9,705.97rpm・44.9403%/負荷点 8,815.58rpm・0.702408A・効率 43.8096%、判定は「短時間運転域」/Kt 1.81026・Ke 2.16273 で差 −16.2977%
- 解釈: ケース1と同じ FA-130RA でも、最大出力は 0.608W から 1.137W へ上がり、連続で押せる上限である最大効率点トルクも 0.5907 から 0.744465mN·m へ広がる。型番の末尾が違うだけで、設計に使う数字が丸ごと入れ替わるということだ。なお Kt と Ke の差 −16.2977% はこの機種の公式値から素直に出た値で、正常帯(20%以内)として表示される。小型の金属ブラシ機ではこのくらいずれるのが普通になる。
ケース4|FA-130RA-2270 を 3.0V で回す
- 入力: ケース1に使用電圧 3.0V を追加(定格 1.5V の2倍、メーカー公表の使用電圧範囲の上限)
- 結果: 無負荷回転数 19,110rpm、停動電流 4.40A、停動トルク 5.355mN·m、最大出力 2.6791W
- 解釈: 無負荷回転数も停動トルクも 2.1倍、停動電流はちょうど2倍、最大出力は 0.6075W から 2.6791W へ動く。この欄には定格時の値が併記されるので、どの数字がどれだけ動いたかを並べたまま読める。伸びるのは回転数と出力だけではない、というのがこの並びの要点だ。
ケース5|RE-280RA-2865 に 58:1 のギヤボックス
- 入力: 3.0V / 9,200rpm / 0.16A / 12.7mN·m / 4.70A、負荷トルク 6.0mN·m、減速比 58、減速機効率 65%
- 結果: 出力軸の停動トルク 478.79mN·m、出力軸の無負荷回転数 158.621rpm、出力軸の最大効率点は 74.5794mN·m・133.913rpm/モーター側の負荷点は 4,853.54rpm・2.30488A で「短時間運転域」
- 解釈: 出力軸の停動トルク 478.79mN·m は、そのまま読むとかなり強く見える。だが連続で押し続けられるのは最大効率点側の 74.5794mN·m のほうだ。必要トルクを 478.79 と突き合わせて「余裕がある」と判断するのは、ケース1の構図を減速機ごしに繰り返しているだけになる。
ケース6|RS-380PH-4045 に 11.6mN·m — メーカー公表値そのものを踏む
- 入力: 6.0V / 12,500rpm / 0.56A / 77.5mN·m / 18.0A、負荷トルク 11.6mN·m
- 結果: 回転数 10,629.0rpm、電流 3.17037A、効率 67.8764%、判定は「連続運転域」/計算上の最大効率点は 11.6201mN·m・10,625.8rpm・3.1749A・12.9301W・67.8764%
- 解釈: 入力した 11.6mN·m は、マブチが公表している AT MAXIMUM EFFICIENCY 列のトルクそのものだ。そこへ負荷を置くと、負荷点の効率がツールの出した最高効率とぴたりと重なる。メーカーの表とこのモデルが同じ点を指している、という確認がそのまま画面に出る。Kt と Ke の差も +0.0618728% と、ほぼゼロになる(カーボンブラシ機の特徴)。
ケース7|同じモーターに 60mN·m — 過負荷域では出力が減って電流だけ増える
- 入力: ケース6の負荷トルクを 60.0mN·m に変更
- 結果: 回転数 2,822.58rpm、電流 14.0619A、機械出力 17.7348W、効率 21.0199%、判定は「過負荷域」
- 解釈: 最大出力点(38.75mN·m)での 25.3618W に対して、負荷を重くしたのに出力は 17.7348W へ減っている。一方で電流は 3.17A → 14.06A へ増え続ける。過負荷域とはこういう場所で、「重くすればもっと力が出る」という直感がここで完全に裏切られる。減った出力ぶんの電力は、すべて巻線で熱になっている。
ケース8|単位の取り違え — 26 を mN·m として入れる
- 入力: 1.5V / 9,100rpm / 0.20A / 停動トルク 26.0(単位は mN·m のまま)/ 2.20A ※ 本当は 26 g·cm = 2.55mN·m
- 結果: Kt 13.0mN·m/A(Ke の 9.08倍)、Kt−Ke差 +808.479%、計算上の最高効率 443.234% /効率の表示は伏せられ、単位取り違えの警告が出る
- 解釈: g·cm の列の数字を mN·m として入れると、桁が約10.2倍ずれる。回転数や電流の表示だけ見ていると「それらしい数字」が並んでしまうが、Kt と Ke の比較がこれを一撃で捕まえる。効率 443% という物理的にありえない値が出た時点で、効率系の表示は伏せる仕様にしてある。
ケース9|負荷が停動トルクに届いた — 回らない
- 入力: ケース1に負荷トルク 2.55mN·m(停動トルクちょうど)
- 結果: 回転数 0rpm、電流 2.20A、機械出力 0W、消費電力 3.3W、効率 0%、判定は「停動(回らない)」
- 解釈: 軸が止まったまま 2.20A が流れ続け、消費電力 3.3W がまるごと熱になる。数秒で巻線温度が上がるのはこのためだ。なお同じ「効率0%」でも負荷トルク0のときは異常ではなく、そちらは入力電力 0.3W がすべて摩擦損に消えているだけになる。停動と無負荷は、効率の数字だけでは見分けがつかない。
仕組み——5値だけで曲線が決まる理由と、メーカー公表値での検証
どのモデルを使うかで3つ迷った
候補は3つあった。①線形モデルは、電機子回路を V = I·R + Ke·ω、トルクを T = Kt·(I − I0) と置く素直な形で、カタログの5値だけで係数がすべて決まる。②電機子反作用とブラシ電圧降下を織り込んだ非線形モデルは実機の高電流域により近いが、補正に要る係数がカタログに載っておらず、実測しないと決まらない。精度を装うだけになるので採らなかった。代わりに、ずれの大きさそのもの(Kt と Ke の差)を結果として画面に出すことにした。モデルの弱点を隠さず、読者が判断できる情報に変える扱いだ。③R・L・J を入れた過渡モデルは起動時間や加減速が出せるが、インダクタンス L と慣性モーメント J はカタログに無く、役割もステッピングモーター加減速シミュレーターと重なる。
採用は①。決め手は後述の検証が通ったことだった。
実装フロー
// 1) カタログ5値から定数を復元
R = V / Is // 巻線抵抗 [Ω]
ω0 = 2π · N0 / 60 // 無負荷角速度 [rad/s]
Kt = Ts / (Is − I0) // トルク定数 [mN·m/A]
Ke = (V − I0·R) / ω0 // 逆起電力定数 [V/(rad/s)]
// 2) 最大出力点(機種によらず必ず停動トルクの半分)
maxPowerTorque = Ts / 2
maxPowerSpeed = N0 / 2
maxPowerOutput = (Ts × 1e−3) · ω0 / 4
// 3) 最大効率点(η を電流で微分して0と置くと閉形式が出る)
I* = √(I0 · Is)
T* = Ts · (I* − I0) / (Is − I0)
N* = N0 · (1 − T*/Ts)
ηmax = (T* × 1e−3)·(2π·N*/60) / (V · I*) × 100
I* = √(I0·Is) が効率の極大を与えるのは、効率を電流で微分して0と置くと、電流に比例して増えていく巻線の電圧降下 I·R と、電流が増えるほど相対的に薄まる一定の機械損(無負荷電流のぶん)が釣り合う点が残るからだ。その釣り合いの位置が、ちょうど両端の電流 I0 と Is の幾何平均になる。
FA-130RA-2270 で手を動かす
R = 1.5 / 2.20 = 0.6818 Ω
ω0 = 2π × 9100 / 60 = 952.99 rad/s
Kt = 2.55 / (2.20−0.20) = 1.275 mN·m/A
Ke = (1.5 − 0.20×0.6818) / 952.99 = 1.4310 mV/(rad/s)
I* = √(0.20 × 2.20) = 0.6633 A
T* = 2.55 × (0.6633−0.20) / 2.00 = 0.5907 mN·m
N* = 9100 × (1 − 0.5907/2.55) = 6,991.9 rpm
P* = 0.5907e−3 × (2π×6991.9/60) = 0.4325 W
ηmax = 0.4325 / (1.5 × 0.6633) × 100 = 43.47 %
Ke は 1.4310mV/(rad/s)、カタログ表記に合わせると 0.14985V/1000rpm。Kt を SI に直すと 1.275×10⁻³N·m/A なので、Ke との差は −10.90% になる。理論上は一致するはずの2つが1割ずれるのは、ブラシの接触電圧降下が 1.5V という低い電源電圧に対して無視できないためだ。
山場——メーカーが公表している最大効率点と突き合わせる
ここまでは机上の式でしかない。検証は、マブチが性能表に載せている AT MAXIMUM EFFICIENCY 列(回転数・電流・トルク・出力の4値)と、5値だけから計算した最大効率点を突き合わせることで行った。
| 型番 | 計算値(回転数 / 電流 / トルク / 出力) | メーカー公表値 |
|---|---|---|
| FA-130RA-2270 | 6,991.9rpm / 0.6633A / 0.5907mN·m / 0.4325W | 6,990 / 0.66 / 0.59 / 0.43 |
| FA-130RA-18100 | 9,706.0 / 0.5612 / 0.7445 / 0.7567 | 9,710 / 0.56 / 0.74 / 0.76 |
| RE-140RA-2270 | 6,154.0 / 0.6641 / 0.6583 / 0.4242 | 6,150 / 0.66 / 0.66 / 0.42 |
| RE-260RA-2670 | 5,040.0 / 0.6400 / 0.9800 / 0.5172 | 5,040 / 0.64 / 0.98 / 0.52 |
| RE-280RA-2865 | 7,766.9 / 0.8672 / 1.9782 / 1.6090 | 7,770 / 0.87 / 1.98 / 1.61 |
| RS-380PH-4045 | 10,625.8 / 3.1749 / 11.6201 / 12.9301 | 10,630 / 3.17 / 11.6 / 12.9 |
| RS-380PH-3270 | 14,106.7 / 2.2760 / 13.0327 / 19.2525 | 14,110 / 2.28 / 13.0 / 19.2 |
7機種すべて、4値とも誤差1.1%以内で一致した(最大は RE-140RA-2270 の1.01%、他は0.6%以下)。これが意味するのは、メーカー自身がこの線形モデルで性能表を組んでいる、ということだ。つまり「カタログの5値さえあれば、残りの数字は全部出る」という本ツールの前提は、推測ではなくメーカーの表そのものが裏付けている。手元のモーターが7機種のどれでもなくても、同じ書式の性能表さえあれば同じ精度で曲線が引ける。
定数はどこから来たか
プリセット7件は、2026-09-16 にマブチモーター公式の「特性・外観図」PDF(FA-130RA など)と、公式の製品検索ページから直接取った。第三者サイトからの孫引きはしていない。
Kt と Ke の差を「正常」とみなす帯を 20% にしたのには理由がある。公式値で計算した7機種の実測は、FA-130RA-2270 が −10.90%、FA-130RA-18100 が −16.30%、RE-140RA-2270 が −8.91%、RE-260RA-2670 が −4.22%、RE-280RA-2865 が −7.00%、RS-380PH-4045 が +0.06%、RS-380PH-3270 が +0.52%。金属ブラシの小型機ほど負に大きく、カーボンブラシの RS-380PH では1%を切る。最初は15%で線を引こうとしたが、それだと FA-130RA-18100 の公式値(−16.30%)が誤警告になってしまう。正しい入力が警告になるしきい値は使いものにならないので、20%まで広げた。一方の単位取り違えは +808% という桁で出るため、その上に置いた 60% の線で確実に捕まる。
g·cm から mN·m への係数 0.0980665 は、標準重力加速度 9.80665m/s² から一意に決まる値だ(1gf·cm = 0.0980665mN·m)。マブチの性能表が併記している2列がこの係数でぴったり一致することも、7機種すべてで確認した。
簡略形を使わなかった理由
最高効率の近似式として ηmax = (1 − √(I0/Is))² がしばしば紹介される。手軽だが、これは Kt と Ke が完全に一致するときだけ正しい。RS-380PH-4045 のように差が +0.06% の機種では 67.876% に対して 67.834% と 0.04 ポイント差で済むが、Kt が Ke より1割低い FA-130RA-2270 では 48.789% と 43.471% で 5.3 ポイントもずれる。工作用の小型機ほどずれが大きいので、実装では簡略形を採らず、上のフローどおり P* と入力電力から毎回計算している。
他のツール・解説との違い
前半で触れたとおり、DCモーターの T-N 特性を扱う日本語の情報は「解説」に寄っている。海外には RC 向けの motor calculator がいくつかあるが、あれは Kv 値から回転数を出すブラシレス向けで、停動トルクと停動電流を軸に据えたブラシ付きの5値モデルとは別物だ。日本の模型・工作カタログに多い g·cm 表記をそのまま受け取れるものも、探した範囲では無かった。国内の設計ガイド系ブログは概念解説が中心で、入力欄を持つものは無い。
このツールにあって解説記事に無いのは、次の3つ。
- 最大出力点と最大効率点を、同じ図の別の縦線として描く。重なっていないことは文章でも書けるが、どれくらい離れているかは自分のモーターで図を引かないと分からない。
- トルク定数 Kt と逆起電力定数 Ke を別々に出して並べる。理論上一致するはずの2つを突き合わせれば、カタログ値の写し間違いがその場で分かる。
- 使用電圧を変えたときの曲線の移動を数値で出す。「電圧を上げれば速くなる」で終わらせず、無負荷回転数・停動電流・停動トルク・最大出力が何になるかまで出す。
関連ツールとの役割分担も書いておく。ミニ四駆 速度・ギア比計算機は回転数から速度を出す側で、トルクを持っていない。こちらが「何 mN·m まで出せるのか」を補うと両側がつながる。ロボットアーム 必要トルク計算は要るトルク、こちらは出せるトルクで、突き合わせて初めて「そのモーターで足りるか」が決まる。サーボモーター選定ツールとステッピングモーター加減速シミュレーターは方式そのものが違うモーターの担当。減速機効率の欄に入れる値は、ウォームならウォームギア効率・セルフロック判定側で出せる。
豆知識——型番の末尾4桁が示すもの
末尾の数字は「巻線仕様」のコード
FA-130RA-2270 の「2270」、RS-380PH-3270 の「3270」は、シリーズ名の飾りではなく巻線仕様を表す枝番だ。冒頭で触れた FA-130RA の -2270 と -18100 の違いがまさにこれで、外形も寸法も同じなのに、入れるべき数字は5つとも別物になる。
これは模型店で地味に困る。「FA-130」とだけ書かれたパッケージで売られている個体は、末尾が分からないとこのツールに入れる値も決まらない。パッケージが残っているなら末尾まで含めた型番を拾い、マブチモーターの特性・外観図(公式PDF)で自分の行を選ぶ。1枚のPDFに複数の巻線仕様が並んでいるので、末尾まで一致する行を探す作業になる。
同じ型番で公表値が2つある例
RS-540SH はもっと極端だ。マブチ公式の工作用モーターのページに載っている性能表では、無負荷回転数が 7.2V で 15,800rpm。ところがメーカー発行の RS-540SH-7520 のデータシートでは、同じ 7.2V で 23,400rpm。約1.5倍違うが、どちらかが誤っているのではなく末尾まで見れば別の巻線仕様というだけの話だ。
このツールのプリセットに RS-540SH が無いのは、この食い違いが理由だ。型番の末尾まで一致しない数値を「RS-540SH」の名前で並べると、手元の個体と取り違える人が必ず出る。RC の定番機種なので入れたかったが、名前だけで選べる状態にするほうが害が大きい。
g·cm がいまも残っている理由
トルクの単位に g·cm(正確には gf·cm)が使われ続けているのは、重量キログラム系の名残だ。1 gf·cm = 0.0980665 mN·m という半端な係数は標準重力加速度から一意に決まる(換算の中身そのものは前半の解説のとおり)。
面白いのは、マブチの性能表がいまも mN·m と g·cm の2列を併記し続けていることだ。国内の工作・模型の現場が g·cm の感覚で育っている一方、海外向けの資料は SI で書く必要がある。どちらかに統一した瞬間、片側の読者が数字を読めなくなる。併記は親切だが写し間違いの原因でもある——という二面性を抱えたまま、数十年残っている単位だ。
使いこなしのコツ
どの値を設計のどこに効かせるかは前半の実務の節で扱ったので、ここは手を動かすときの目安だけ4つ。
1. 最大出力は電卓なしで桁が掴める
Pmax[W] ≒ Ts[mN·m] × N0[rpm] / 38,200
FA-130RA-2270: 2.55 × 9,100 / 38,200 = 0.6075 W
(ツールの計算値 0.607505 W)
Ts·ω0/4 を rpm のまま書き直しただけの式だが、プリセット7機種すべてで誤差0.2%以内に収まる。カタログを眺めながら「この機種は1Wも出ないな」と即断できる。
2. 手元のモーターの5値は、測れる順に埋めていく
無負荷回転数と無負荷電流は、電池と電流計があればそのまま測れる。停動電流は一瞬だけ軸を押さえて読む——数秒以上押さえると焼ける。厄介なのは直接測りにくい停動トルクで、Kt = Ke と仮定してツールの Kt−Ke 差がゼロになるまで停動トルク欄を動かすと、その値が理論上の停動トルクになる。
3. 効率が落ち始める位置は、回転数より電流で見るほうが速い
最大効率点の電流 √(I0·Is) は無負荷電流と停動電流の相乗平均で、暗算しやすい。運転中の電流計がこの値を大きく超えていたら連続運転域を出ている。回転数を測るよりずっと手軽だ。
4. 減速機効率が分からないときの打ち切り
樹脂の多段ギヤボックスなら 70% で実用上そう外れない。平歯車1段は 95〜98%。幅が大きいのはウォームで、条進角と摩擦係数で大きく動くので、ウォームギア効率・セルフロック判定で実際の値を出してから入れたほうがいい。
よくある質問
カタログに無負荷電流が載っていない。どうすればいい?
定電圧電源が使えるなら実測が早い。軸に何も付けない状態で定格電圧を加え、電流計を直列に入れて読むだけだ。回し始めは少し高く出るので、数秒待って落ち着いた値を取る。実測できない場合は、Kt = Ke と仮定して逆算する手がある。停動トルク・停動電流・定格電圧・無負荷回転数の4つが分かっていれば、無負荷電流を動かして Kt−Ke 差がゼロになる点を探せばよい。ただし金属ブラシの小型機では元々 Kt が低めに出るので、あくまで目安だ。なお、プリセットの値も手元のカタログ値を直接入力に入れればいつでも置き換えられる。
Kt と Ke が10%ずれていると出た。カタログを写し間違えたのか?
写し間違いではない可能性が高い。この2つが理論上一致するはずの理由と、実機でずれる理由は前半の解説と仕組みの節で扱っている。ここで見てほしいのは表示のほうだ。差が20%以内なら「整合している」という青の情報として出る仕様なので、その表示が出ているかぎりカタログ値は正しく読めている。20〜60%なら「要確認」として黄色で出て、転記ミスか無負荷電流の桁(mA と A)を疑うよう促される。60%を超えると「単位取り違えの疑い」として赤になり、「Kt は Ke の◯倍」という倍率表記に切り替わる。帯の境界の根拠は前半の仕組みの節にある。10%の差は、いちばん広い青の帯の内側だ。
ブラシレスモーターの Kv 値を入れてもいい?
使えない。Kv は「1V あたり何 rpm 回るか」を表す回転数側の定数で、このツールが入力に取る停動トルク・停動電流とは別の量だ。それ以前に、ブラシレスは3相の通電と進角制御が絡むので、2端子で電圧と電流だけを見る線形モデルには乗らない。ステッピングも脱調という別の限界がある。ツール側も「永久磁石界磁のブラシ付きDCモーター専用」という免責を常時表示している。ブラシレスや産業用サーボならサーボモーター選定ツール、ステッピングならステッピングモーター加減速シミュレーター、ドローン用の BLDC ならドローン飛行時間・推力計算機のほうが合っている。
乾電池で回したら、計算どおりの電流が流れない
このモデルは定電圧電源を前提にしている。乾電池には内部抵抗があり、大きな電流を引くほど端子電圧そのものが落ちるので、停動電流のような大電流はそもそも出ない。マブチの性能表も「乾電池使用時」と「定電圧電源使用時」で別の数値を載せているほどで、計算が外れているのではなく電源が別物だという話だ。実測に近づけたいなら、回っている状態で端子電圧を測り、その値を定格電圧の欄に入れて計算し直すとよい。ツール側にも常時この旨の注記が添えられている。
入力したモーターの値は、どこかに送られる?
送られない。計算はすべてブラウザの中で完結していて、入力した5値も負荷トルクも減速比も、サーバーへ送信していないし保存もしていない。ページを閉じれば何も残らない。コピーボタンで出力されるテキストも、手元のクリップボードに入るだけだ。プリセットの7機種はページに埋め込まれた定数データで、選んでも外部への通信は発生しない。社外に出せない試作機のカタログ値でも、そのまま入れて構わない。
まとめ
カタログの5値——定格電圧・無負荷回転数・無負荷電流・停動トルク・停動電流——さえあれば、そのモーターの曲線は全部決まる。押さえるべきは2点。最大出力点と最大効率点は別の場所にあること、停動トルクは「出せるトルク」ではなく回らなくなる限界だということ。
必要なトルク側から詰めるならロボットアーム 必要トルク計算、減速比を決めるなら減速機選定計算ツール、回転数から走行速度に落とすならミニ四駆 速度・ギア比計算機、停動電流に耐える駆動素子を選ぶならMOSFETスイッチング損失計算機へ。
手元のモーターで計算が合わない、この機種をプリセットに入れてほしい、といった要望があればお問い合わせページから教えてほしい。
Mahiro
Mahiro Appの開発者。工作用ギヤボックスの減速比を停動トルク基準で決めてモーターを焼いたことがある。カタログの5値から曲線を引けるようにしたのは、その二度目を自分が踏まないためでもある。
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