道路に面した窓は、水平距離が2mしかなくても採光補正係数1.0になる
確認申請の直前に、道路側のリビング窓が採光で落ちそうになったことがある。道の反対側の境界線までの水平距離は2m、窓の上には上階のバルコニーが張り出していて垂直距離は8m。採光関係比率は0.250、住居系の算定値は 0.250 × 6.0 − 1.4 = 0.100。手元の解説記事にあった「水平距離が7m以上なら1.0とみなす」には遠く及ばない——そう判断しかけて、条文を頭から読み直した。
建築基準法施行令第20条第2項の各号は、イ・ロ・ハという3つのケースを順番に置いている。7mの話はロで、その手前にイがある。「開口部が道に面する場合で、算定した数値が1.0未満のときは1.0とする」。水平距離の条件はどこにも書いていない。2mでも1.0になる。
同じ寸法のまま面する先だけ隣地に変えると、ロもハも発動せず、算定値0.100がそのまま採光補正係数になる。15m²の住宅の居室を適合させるのに必要な開口部面積は、道に面していれば2.14m²、隣地なら21.43m²。面する先が違うだけで、ちょうど10倍違う。この差を毎回手で追いたくなくて作ったのがこのツールだ。
「水平距離7m以上なら1.0」しか書いていない解説ばかりだった
採光計算を自動でやってくれる日本語のツールを探すと、実質1つしか見つからない。あとは解説記事で、式は載っているが計算はしてくれない。しかもその解説の大半が、第20条第2項各号の救済規定を「水平距離が7m(工業系5m・商業系4m)以上なら1.0」とだけ書いて、その前にあるイ——道に面する場合は距離に関係なく1.0——を落としている。狭小地や旗竿地のように道路側の離隔が取れない敷地では、この一行の有無で結論が正反対になる。
もう1つ、条文には「公園、広場、川その他これらに類する空地又は水面に面する場合にあつては、当該空地又は水面の幅の二分の一だけ隣地境界線の外側にある線」まで水平距離を測る、と書いてある。つまり公園や川に面していれば、その幅の半分を水平距離に足してよい。この加算を実装しているツールを見たことがない。幅4mの公園に面した窓なら水平距離が2m増えるので、住居系・垂直距離10mのケースで採光補正係数は0.40から1.60へ、ちょうど4倍変わる。
3つめは言葉の問題だ。「採光計算」という同じ言葉が、建築基準法の有効採光面積と、環境工学の昼光率という別々の意味で使われている。検索してもどちらが出てくるか分からず、法規の適否を知りたいのに昼光率の解説に辿り着くことが多い。
そこで独自性の核を3つに決めた。イ・ロ・ハの3分岐を全部実装すること、どの規定が効いたかを条番号つきで結果に出すこと、施行令第19条第3項の表8区分をすべて持つこと。条番号が出れば、確認申請の検討メモにそのまま貼れる。
採光補正係数とは何か——有効採光面積の考え方を第一原理から
採光補正係数 とは——窓の大きさではなく「光の入り見込み」を測る係数
採光規定が測っているのは窓の面積そのものではない。同じ大きさの窓でも、目の前に高い建物が迫っていれば入ってくる光は少なく、空が広く開けていれば多い。この当たり前を法令が数式にしたのが採光補正係数だ。窓の面積にこの係数を掛けた値を有効採光面積と呼び、実面積ではなく有効採光面積のほうで足りているかを判定する。
係数は0から3.0までの値をとる。1.0なら窓の面積がそのまま有効採光面積になり、3.0なら3倍に評価され、0なら「この窓は採光に算入できない」という意味になる。
採光関係比率 D/H は「窓辺から見上げた空の広さ」そのもの
係数のもとになるのが採光関係比率で、水平距離 D を垂直距離 H で割っただけの値だ。
- 水平距離 D … 開口部から、隣地境界線(道に面するなら道の反対側の境界線)までの水平距離
- 垂直距離 H … 開口部の直上にある建築物の各部分から、開口部の中心までの垂直距離
ここで H は軒高でも階高でもない。庇や上階バルコニーの先端から、窓の中心までの距離だ。実務でいちばん取り違えられるのがここで、階高を入れてしまうと結果がまるごとずれる。
直感的には、窓辺に立って空を見上げたときの見え方がそのまま D/H になる。真上に庇が大きく張り出していれば H が大きくなって比率は小さく、隣地まで遠く離れていれば D が大きくなって比率は大きい。つまり D/H は「窓から見える空の広さ」の代理指標だ。
α倍してβを引く理由——用途地域ごとの密集の許容度
採光関係比率に用途地域ごとの係数αを掛け、定数βを引いた値が算定値になる。
採光関係比率 = 水平距離 D ÷ 垂直距離 H
算定値 = 採光関係比率 × α − β
採光補正係数 = イ・ロ・ハを適用 → 開口部の倍率を掛ける → 上限3.0で頭打ち
有効採光面積 = 開口部の面積 × 採光補正係数
適否の判定 = 有効採光面積 ≧ 居室の床面積 × 必要割合
α・βと、あとで出てくる距離しきい値は用途地域で3通りに分かれる。
| 用途地域 | α | β | 距離しきい値 |
|---|---|---|---|
| 住居系(一低層・二低層・一中高・二中高・一住・二住・準住・田園住居) | 6.0 | 1.4 | 7m |
| 工業系(準工業・工業・工業専用) | 8.0 | 1.0 | 5m |
| 商業系・無指定(近隣商業・商業・用途地域の指定のない区域) | 10 | 1.0 | 4m |
住居系だけβが1.4で、他の2区分より0.4大きい。同じ D/H でも住居系がいちばん厳しく評価される、と読める。逆に商業系はαが10と大きいので、少し離隔が取れれば係数が一気に伸びる。密集をどこまで許すかの違いが、そのまま2つの定数に畳まれている。
有効採光面積 求め方——床面積に対する割合で判定する
有効採光面積が出たら、居室の床面積に必要割合を掛けた必要採光面積と比べる。割合は施行令第19条第3項の表で8区分に分かれている。
| 項 | 居室 | 必要割合 |
|---|---|---|
| (一) | 幼稚園・小学校・中学校・義務教育学校・高等学校・中等教育学校・幼保連携型認定こども園の教室 | 1/5 |
| (二) | 保育所・幼保連携型認定こども園の保育室 | 1/5 |
| (三) | 住宅の居住のための居室 | 1/7 |
| (四) | 病院・診療所の病室 | 1/7 |
| (五) | 寄宿舎の寝室・下宿の宿泊室 | 1/7 |
| (六) | 児童福祉施設等の寝室、保育・訓練・日常生活の便宜供与に使う居室 | 1/7 |
| (七) | (一)以外の学校の教室 | 1/10 |
| (八) | 病院・診療所・児童福祉施設等の談話室・娯楽室 | 1/10 |
割合は3値しかないので、(三)〜(六)はどれを選んでも必要採光面積は同じになる。ただし確認申請では該当する項を書き分けるので、区分自体は正しく選んでおきたい。条文そのものは e-Gov 法令検索の建築基準法施行令 で読める。
この計算を間違えるとどうなるか——確認申請での実害
採光が足りない部屋は、法律上そもそも「居室」にできない。寝室のつもりで設計した部屋が納戸やサービスルームの表記になり、用途も資産価値も変わる。図面上は同じ広さの部屋でも、居室と納戸では扱いがまるで違う。
確認申請で指摘されたときの手戻りも大きい。窓を大きくすれば済むとは限らないからだ。垂直距離 H は上階バルコニーや庇の出寸法で決まるので、採光を稼ぐために出寸法を詰めると外構やファサードの計画に波及する。水平距離 D を稼ごうとすれば建物の配置そのものを動かすことになる。採光は平面計画の最下流にあるようで、実は配置計画に直結している。
逆方向の実害もある。イ(道に面する場合)を知らずに不適合と判断して窓を過大にすると、必要のない大開口を抱えることになる。冒頭のケースがまさにそれで、道に面していれば必要な開口部面積は2.14m²、イを知らずに隣地扱いで計算すると21.43m²。10倍の窓を入れれば断熱性能も冷暖房負荷も悪化する。採光を確保しようと窓を大きくすると熱損失が増える、というトレードオフは常について回る。
令和5年4月からは、住宅の居住のための居室について、床面で50lx以上の照度を確保できる照明設備を設置する場合に必要割合が1/7から1/10へ緩和された(国土交通省 技術的助言 国住指第533号 第1)。ただしこれは無条件の緩和ではなく、確認申請図書に照明設備の設置位置と50lx以上である旨を明示する必要があり、完了検査ではシーリングローゼット等の位置を目視で確認する運用例が示されている。図面に書かずに数字だけ1/10で通そうとすると、そこで止まる。
なお、開口部面積を建具の外形寸法で取るか内法で取るか、ふすまや障子で仕切られた2室を1室とみなす扱い(第20条第1項ただし書)などは、特定行政庁・指定確認検査機関の運用によって差がある。最終判断は必ず所管の窓口で確認してほしい。
こんな場面で使う
狭小地の住宅でリビングの窓を決めるとき。 道路側と隣地側で同じ大きさの窓を入れても、有効採光面積はまったく違う。どちらの面に大きな窓を寄せるかを、感覚ではなく係数で決められる。
マンションの中住戸で隣棟間隔から逆算するとき。 建物高さが20mを超えてくると D/H が小さくなり、算定値が1.0を割る。隣棟間隔が7m以上あればロで1.0に救済されるので、「あと何m離せば救済ラインに乗るか」を先に確かめられる。
保育室や教室のように1/5が要る用途で、床面積から必要な窓を出すとき。 住宅の1/7と比べて必要採光面積が4割増しになるので、窓の割付けを早い段階で決めておきたい。
天窓を入れるかどうかで迷うとき。 天窓は算定値を3.0倍する。同じ面積の窓でも有効採光面積がどこまで伸びるのか、上限3.0に当たるのはどのあたりかを、数字で比べられる。
基本の使い方
① 用途地域と「開口部が面する先」を選ぶ。 用途地域でα・β・距離しきい値が決まり、面する先で水平距離の測り方と救済規定が決まる。ここを選ばないと以降の入力の意味が固まらないので、先頭に置いてある。
② 水平距離 D と垂直距離 H を入れる。 D は隣地境界線まで、道に面するなら道の反対側の境界線まで。公園・広場・川等に面する場合は空地の手前までを入れれば、幅の1/2が自動で加算される。H は軒高ではなく、直上の庇や上階バルコニーの先端から窓の中心まで。ここだけは断面図を見ながら入れてほしい。画面の断面図に D と H の寸法線が引いてあるので、どこからどこまでかを図で確認できる。
③ 開口部の面積・居室の種類・床面積を入れる。 有効採光面積と必要採光面積、適合/不適合、適合に必要な開口部面積まで出る。開口部面積と床面積を空のままにすれば、採光補正係数だけを先に見ることもできる。
具体的な使用例(8ケース)
以下はすべて、実装した計算エンジンに同じ入力を与えて確認した出力だ。
ケース1: 戸建住宅のリビング(住居系・隣地3m・H=6m・窓2.0m²・居室20m²) 入力 → 用途地域=住居系/面する先=隣地/D=3m/H=6m/通常の窓/開口部2.0m²/住宅の居室/床面積20m²。 結果 → 採光関係比率0.500、算定値 0.500 × 6.0 − 1.4 = 1.600、採光補正係数1.60、有効採光面積3.20m²、必要採光面積2.86m²で適合(余裕0.34m²)。適合に必要な開口部面積は1.79m²。 解釈 → いちばん多い形。算定値が1.0以上なのでイ・ロ・ハはどれも発動せず、算定値がそのまま係数になる。
ケース2: 道路に面した狭小住宅(住居系・道の反対側まで2m・H=8m・窓1.5m²・居室15m²) 入力 → 面する先=道/D=2m/H=8m/開口部1.5m²/床面積15m²。 結果 → 採光関係比率0.250、算定値0.100、しかし採光補正係数は1.00(第20条第2項第一号イ)。有効採光面積1.50m²、必要採光面積2.14m²で不適合、不足0.64m²。適合に必要な開口部面積2.14m²。 解釈 → 算定値0.100でも道に面しているので1.0とみなされる。水平距離2mという条件は一切効いていない。
ケース3: ケース2と同じ寸法で、隣地に面する場合 入力 → ケース2の面する先だけ「隣地」に変更。 結果 → 算定値0.100は同じだが、採光補正係数は0.10のまま。有効採光面積0.15m²、不足1.99m²、適合に必要な開口部面積は21.43m²。 解釈 → ここがこの記事の山場だ。D=2mは住居系のしきい値7m未満なのでロは発動せず、算定値は負ではないのでハにも当たらない。結果、0.100がそのまま係数になる。ケース2とケース3で必要な開口部面積はちょうど10倍違う。
ケース4: マンションの中住戸(住居系・隣棟7.5m・H=20m・窓3.0m²・居室30m²) 入力 → 面する先=隣地/D=7.5m/H=20m/開口部3.0m²/床面積30m²。 結果 → 採光関係比率0.375、算定値0.850、採光補正係数1.00(同号ロ)。有効採光面積3.00m²、必要採光面積4.29m²で不適合、不足1.29m²。適合に必要な開口部面積4.29m²。 解釈 → 算定値は1.0を割っているが、水平距離が7m以上あるのでロで1.0に救済される。ここでようやく「7m以上なら1.0」の話が出てくる。
ケース5: 上階が大きく張り出した窓(住居系・隣地1m・H=10m・窓2.0m²・居室20m²) 入力 → 面する先=隣地/D=1m/H=10m。 結果 → 採光関係比率0.100、算定値 0.100 × 6.0 − 1.4 = −0.800、採光補正係数0.00(同号ハ)。有効採光面積0.00m²、適合に必要な開口部面積は算出不能。 解釈 → 算定値が負で、かつ水平距離が7m未満なのでハが効き、係数は0になる。この位置の窓は採光にまったく算入できず、窓をいくら大きくしても適合しない。直せるのは窓のサイズではなく、上階の張り出しか離隔のほうだ。
ケース6: 天窓のあるロフト(住居系・隣地3m・H=6m・天窓1.0m²・居室20m²) 入力 → 開口部の種別=天窓/D=3m/H=6m/開口部1.0m²。 結果 → 算定値1.600に天窓の倍率3.0を掛けて4.800、上限3.0を適用して採光補正係数3.00。有効採光面積3.00m²。 解釈 → 1.0m²の天窓が3.00m²として評価される。ケース1の通常窓(係数1.60)と比べると、同じ算定値でも有効採光面積の伸びがまるで違う。算定値が1.0以上なら天窓はほぼ必ず上限3.0に張り付く。
ケース7: 公園に面した窓(住居系・D=3m・公園の幅4m・H=10m・窓2.0m²・居室20m²) 入力 → 面する先=公園・広場・川等/D=3m/空地の幅4m/H=10m。 結果 → 幅の1/2にあたる2.0mが加算されて採光上の水平距離5.00m、採光関係比率0.500、算定値1.600、採光補正係数1.60、有効採光面積3.20m²。 解釈 → 同じ D=3m・H=10m でも、面する先を隣地にすると採光関係比率0.300・算定値0.400で採光補正係数は0.40、有効採光面積0.80m²にしかならない。幅の1/2を加算するかどうかで4倍違う。なお公園は「道」ではないので、イによる1.0のみなしは効かない。
ケース8: 小学校の教室(住居系・隣地4m・H=8m・窓8.0m²・教室60m²) 入力 → 居室の種類=幼稚園・小中高等の教室/D=4m/H=8m/開口部8.0m²/床面積60m²。 結果 → 採光関係比率0.500、算定値1.600、採光補正係数1.60、有効採光面積12.80m²、必要割合1/5で必要採光面積12.00m²、適合(余裕0.80m²)。適合に必要な開口部面積7.50m²。 解釈 → 住宅の1/7に対して教室は1/5なので、同じ床面積でも必要採光面積が4割増える。保育所の保育室も(二)で1/5なので、同じ入力なら結果は完全に一致する。
8ケースのうち、係数を決めたのがイなのかロなのかハなのか、あるいは上限3.0なのかは、画面に条番号つきで表示される。ケース2とケース3、ケース7とその反実仮想のように、入力を1つだけ変えて並べてみるのがいちばん理解が早い。
仕組み・実装の詳細
3つの設計判断
採光補正係数は法令が計算方法そのものを定めているので、アルゴリズムの選択肢はない。判断が要るのは実装の範囲のほうで、3つあった。
1つめはイ・ロ・ハを全部持つか、距離しきい値だけの1分岐で済ませるか。1分岐で済ませれば実装は簡単だが、道路に面した狭小地で結論が正反対になる。ケース2とケース3の差がそのまま誤判定になるので、3分岐を実装した。
2つめは公園・広場・川等の幅1/2加算を持つか。条文にあるのに実装例を見ないので迷ったが、川沿い・公園前の物件では係数が4倍変わる。持つことにした。
3つめは開口部面積が空でも係数を出すか。実務でいちばん多い使い方は「係数だけ知りたい」なので、面積ブロックを切り離し、D と H が有効なら係数は常に出るようにした。開口部面積・床面積が未入力のときは適否判定のブロックだけを隠す。
計算フロー——倍率はクランプより前
// 1. 採光上の水平距離(公園・広場・川等に面する場合は幅の1/2を加算)
const effectiveDistance =
facingType === "openSpace" ? horizontalDistance + openSpaceWidth / 2 : horizontalDistance;
// 2. 採光関係比率と算定値
const lightingRatio = effectiveDistance / verticalDistance;
const rawValue = lightingRatio * alpha - beta;
// 3. 第20条第2項各号のイ・ロ・ハ(EPS = 1e-9)
let adjustedValue = rawValue;
if (facingType === "road" && rawValue < 1.0 - EPS) {
adjustedValue = 1.0; // イ: 道に面する(距離の条件なし)
} else if (effectiveDistance >= threshold - EPS && rawValue < 1.0 - EPS) {
adjustedValue = 1.0; // ロ: 水平距離が 7 / 5 / 4 m 以上
} else if (effectiveDistance < threshold - EPS && rawValue < -EPS) {
adjustedValue = 0; // ハ: 算定値が負数
}
// 4. 開口部の倍率(通常1.0 / 天窓3.0 / 幅90cm以上の縁側0.7)
const value = adjustedValue * openingFactor;
// 5. 最後に上限3.0でクランプ
const correctionFactor = value > 3.0 + EPS ? 3.0 : value;
順序で気をつけるのは2点ある。1つは**ハの条件が「1.0未満」ではなく「負数」**であること。算定値が0以上1.0未満の帯はイにもロにもハにも当たらず、0.100のような小数がそのまま採光補正係数になる。ケース3がその帯だ。ここを1.0に切り上げてしまう誤りが最も多い。
もう1つは開口部の倍率を掛けてから上限でクランプすること。条文は「各号に定めるところにより計算した数値(天窓にあつては当該数値に三・〇を乗じて得た数値…)とする。ただし、採光補正係数が三・〇を超えるときは、三・〇を限度とする」と書いているので、倍率が先でクランプが後になる。
計算例——天窓で順序が効く
ケース6を1行ずつ展開すると次のようになる。
採光関係比率 = 3 ÷ 6 = 0.500
算定値 = 0.500 × 6.0 − 1.4 = 1.600 (1.0以上なのでイ・ロ・ハは不発動)
倍率を適用 = 1.600 × 3.0 = 4.800 (天窓)
上限3.0 = min(4.800, 3.0) = 3.00 ← 採光補正係数
有効採光面積 = 1.0 m² × 3.00 = 3.00 m²
順序を入れ替えて先にクランプすると min(1.600, 3.0) = 1.600 のあと ×3.0 で4.800となり、上限を超えた値がそのまま返ってしまう。縁側(0.7倍)ではもっと分かりやすく差が出る。住居系・隣地10m・H=10m・幅90cm以上の縁側の内側なら、算定値4.600 × 0.7 = 3.220 をクランプして3.00になるが、先にクランプすると 3.0 × 0.7 = 2.10 になる。同じ条文をどちらの順で読むかだけで、採光補正係数が変わってしまう。
境界ちょうどの入力を守る
算定値は D/H という除算を経てからαを掛けβを引いた値なので、境界ちょうどを狙った入力が浮動小数点の丸めで上下にずれうる。商業系・隣地・D=2m・H=10m は算定値が 0.200 × 10 − 1.0 = 1.000 ちょうどになる組み合わせで、ここが 1.0 をわずかに下回った瞬間にロが誤発動する。採光補正係数は1.00のまま変わらないのに、表示される条番号だけが「そのまま採用」から「みなしで1.0」へ入れ替わるので、値を見ているだけでは気づけない。そこで 1.0 や 0 との比較にはすべて許容誤差1e-9を入れ、どの規定が効いたかを1つのフィールドに集約して、警告文・ステータス・断面図の分岐はすべてそのフィールドだけを見るようにした。判定を各所で書き直すと、誤差を入れた場所と入れ忘れた場所で挙動が食い違う。
定数はどこから取ったか
α・β・距離しきい値、必要割合の表8区分、天窓3.0倍と縁側0.7倍、上限3.0——このツールが持つ定数はすべて建築基準法施行令の条文そのものだ。e-Gov 法令検索の API で施行令(昭和25年政令第338号)の全文XMLを取得し、第19条第3項の表と第20条第1項・第2項(各号のイ・ロ・ハを含む)を本文から写している。50lx緩和だけは告示に基づく運用なので、国土交通省の技術的助言(国住指第533号・令和5年3月24日)の本文で確認した。解説記事からの孫引きは1つも使っていない。イを落とした解説が広く出回っている以上、二次情報を信頼する余地がなかったからだ。
既存の採光計算ツール・解説ページとどこが違うか
競合ツールと解説ページの状況は前半で触れたとおりだ。ここでは、このツールが持っていて既存のツール・解説に見当たらなかった5点を並べる。
1. イ・ロ・ハの3分岐をすべて実装している。 道に面する場合(イ)、道に面さず水平距離がしきい値以上の場合(ロ)、しきい値未満で算定値が負の場合(ハ)を別々に判定し、どれにも当たらなければ算定値をそのまま採光補正係数として使う。とくに「算定値が0以上1.0未満」の帯を1.0に切り上げないのが重要で、ここを丸めると実態より甘い結果が出る。
2. 公園・広場・川等に面する場合の「幅の1/2加算」を持っている。 条文に書いてあるのに実装を見たことがない規定だ。効き目の大きさは、使用例の公園に面した窓のケースと、同じ寸法で隣地に面した場合との対比を見てほしい。川沿いや公園前の敷地では、この加算の有無で窓の大きさが決まる。
3. 施行令第19条第3項の表を8区分すべて持っている。 住宅の1/7だけを扱うツールが多いが、教室・保育室の1/5から、その他の学校の教室・談話室の1/10まで選べる。
4. 適用した規定を条番号で出す。 「第20条第2項第一号イ(道に面するため1.0とみなす)」のように、どの規定が効いて今の値になったかが結果に並ぶ。検討メモにそのまま書き写せる形にしてある。
5. 開口部面積と床面積が空でも採光補正係数だけ出る。 実務でいちばん多いのは「この位置の係数だけ先に知りたい」で、窓の寸法も部屋の広さもまだ決まっていない段階だ。面積を入れなくても係数は返る。
自社の他ツールとの役割分担も書いておく。昼光率計算ツールは「法規はクリアしているのに暗い部屋」を扱う環境性能側で、こちらは法規側だ。同じ「採光計算」という語が指す別物で、競合ではなく上流と下流の関係にある。必要換気量計算シミュレーターは採光の隣の条文(第20条の2)を扱い、確認申請では同じ図面上で並べて検討することになる。50lx緩和を使うなら、床面の照度そのものは照度計算シミュレーターや逐点法の照度計算ツールの側で確かめる。窓を大きくして採光を稼いだぶん熱が逃げる問題は、窓断熱のツールが受け持つ。
採光の条文の周辺にある小話
50lx緩和は省エネ法の改正で入った
住宅の必要割合を1/7から1/10に下げられる緩和は、令和5年4月に施行された。根拠は国土交通省の技術的助言(国住指第533号・令和5年3月24日)で、その表題は「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律等の施行について」。採光の話なのに、動いたのは建築物省エネ法の改正だった。
なぜ省エネの改正で採光が緩むのか。窓は建物の外皮のなかで最も熱が出入りする部分だ。断熱等級を上げようとすると窓は小さくしたい。ところが採光規定は窓の面積を下から縛る。この2つが正面からぶつかっていた。そこで「昼間の明るさを窓だけで担保する必要はなく、照明で代替できるぶんは照明に任せてよい」という整理が入った。LEDが普及して照明の消費電力が桁で下がったから成立した理屈でもある。1970年代の白熱電球と蛍光灯の時代に、同じ緩和は書けなかっただろう。
「ぬれ縁を除く」がわざわざ書いてある理由
縁側の内側にある開口部は0.7倍される。この括弧書きに「ぬれ縁を除く」と明記されているのが面白いところだ。0.7倍は減点であって加点ではない。縁側の上には屋根や上階が架かっていて、そのぶん窓に届く光が削られる、という前提の補正だからだ。ぬれ縁は雨ざらしの外部縁側で、上に何も架かっていない。削るものがないので減点もしない、という理屈になる。条文が「幅九十センチメートル以上」と寸法まで書いているのも、人が通れるかどうかの話ではなく、光の通り道をどれだけ塞ぐかの話だと考えると腑に落ちる。
1/7を割っても「無窓居室」とは限らない
採光が足りないと聞くと、すぐ「無窓居室」という語が浮かぶ人もいる。だが2つは別の基準だ。施行令第111条・第116条の2が扱う「窓その他の開口部を有しない居室」のしきい値は、第20条で計算した採光に有効な部分の面積が床面積の1/20未満であること。住宅の1/7を割っても、1/20を確保していれば無窓居室ではない。
逆に1/20を割ると話が広がる。主要構造部の制限(法第35条の3・令第111条)に加えて、非常用照明の設置義務(令第126条の4)が第116条の2第1項第一号の居室を対象に含んでいる。ただし一戸建の住宅と共同住宅の住戸は非常用照明の適用除外なので、住宅ではここまで飛び火しない。事務所や店舗で地下室・中央部の部屋を計画するときに効いてくる話で、その先は非常用照明 離隔距離・照度チェッカーの守備範囲になる。
使いこなしのコツ
-
「開口部が面する先」から選ぶ。 この選択で水平距離の測り方も救済規定も変わるので、先にここを決めると残りの入力の意味が固まる。道なら反対側の境界線まで、公園なら空地の手前まで(幅の1/2はツール側で足す)、隣地なら境界線まで。順番を逆にすると、測り直しになりやすい。
-
数字を入れたら断面図と見比べる。 入力に応じて断面図が描き変わり、水平距離Dと垂直距離Hの寸法線が引かれる。自分の手元の矩計図と寸法線の引かれ方が一致しているかを見れば、Hの起点を取り違えていないか一目で分かる。
-
配置検討の段階では面積欄を空にしたまま当たる。 適否のブロックだけが引っ込むので、離隔と高さを振って係数の変化だけを見比べられる。窓の寸法も部屋の広さも決まる前から使える。
-
係数が3.0に張り付いたら離隔の検討をやめる。 上限は3.0なので、そこに到達したあとは建物を離しても壁を削っても係数は増えない。表示が3.0になったら、あとは窓面積の調整だけで詰められる。
-
コピーしたテキストには条番号が入っている。 コピーボタンで出るテキストには入力条件と結果に加えて、適用した条番号が含まれる。検討メモに貼ったとき、あとから見た人がどの規定で1.0になったのかを追える。
よくある質問
垂直距離Hはどこからどこまで測るのか
定義は前半の基礎解説のとおりで、開口部の直上にある建築物の各部分から、その開口部の中心までの垂直距離だ。実務で起点になるのは庇の先端、上階バルコニーの先端、外壁から張り出した庇状の部分など。ツールの断面図では起点に引き出し線を出しているので、自分の矩計図と見比べれば取り違えに気づける。なお直上に何も張り出していない場合でも、上階の外壁面や屋根の先端が起点になるので、Hがゼロになることはまずない。
道に面していれば、本当に距離に関係なく1.0でよいのか
施行令第20条第2項の各号はイで、開口部が道に面する場合であって算定値が1.0未満となるときは1.0とする、と定めている。このイには水平距離の条件が書かれていない。ロ(水平距離が7m・5m・4m以上)とは別建ての救済で、条文上は道に面していれば距離を問わずイが働く。実際、道の反対側までほとんど離れていない狭小地でも1.0になる——使用例の狭小住宅のケースがこの形だ。ただし、その道が建築基準法上の道路として扱われるか、2項道路のセットバック後の境界をどう見るかといった前提の判断は特定行政庁の運用による。このツールが返すのは「道に面すると入力した場合の計算結果」であって、道に面するかどうかの判断そのものではない。
開口部が複数ある部屋や、向かいに2棟ある場合はどう計算するのか
このツールは開口部1つ・対向部1組で計算する。実際の条文はどちらも複数に対応していて、開口部が複数あるときは開口部ごとに採光補正係数を出し、面積を掛けた値を合計する。対向部が複数あるときは、水平距離÷垂直距離が最も小さくなる組み合わせの値を採る。したがって窓が2つある部屋なら、このツールを窓ごとに2回使って有効採光面積を足せばよい。向かいに高さの違う建物が2棟あるなら、それぞれのD/Hを出して小さいほうの組み合わせを入力する。この合算・最小値選択の自動化は今のところ入れていない。
50lx緩和はどの居室に使えるのか
住宅の居住のための居室に限られる。条文の上では他の区分にも緩和の余地があるが、告示に基づく実際の運用は住宅の1/10のみで、このツールも居室の種類に住宅を選んだときだけチェック欄を出している。緩和の由来と申請時に要る図書は前半で扱ったとおりなので、ここでは使い方を補っておく。チェックの入切で必要採光面積が1/7の値と1/10の値を行き来し、結果の注記にどちらの割合を使ったかが残る。緩和なしで適合するのか、緩和ありでようやく届くのかを見比べておくと、照明の配置を後から動かしたときに採光の適否まで跳ね返るかどうかが先に分かる。
居室の種類を変えても必要採光面積が同じになるのはなぜか
不具合ではなく、施行令第19条第3項の表がそうなっているためだ。8区分に対して割合が3種類しかないことは前半の表のとおりで、たとえば住宅の居室と病室は同じ割合になる。ツール側は選んだ区分名と項番号を結果の注記に出すので、値が同じでもどれを選んだかは結果に残る。確認申請では該当する項を書き分けるので、割合が同じでも選択には意味がある。
開口部の面積はサッシの内法か、建具の外形寸法か
一般的な運用は建具の外形寸法による面積だが、ここは特定行政庁によって扱いが分かれる部分だ。同じ窓でも内法で取ると数パーセント小さくなり、適否が際どいケースでは結論が入れ替わりうる。ツールは入力された面積をそのまま使うので、どちらで拾った値かは入力する側で決めてほしい。あわせて、ふすまや障子など随時開放できるもので仕切られた2室を1室とみなす扱い(第20条第1項ただし書)も行政庁ごとに運用差がある。判定が僅差になったときは、数字を詰める前に所轄の窓口に取り方を確認したほうが早い。
入力した敷地や建物の情報はどこかに送られるのか
送られない。計算はすべてブラウザの中で完結していて、用途地域・隣地までの距離・建物の高さ・窓の大きさ・部屋の広さのどれもサーバーに送信していない。ページを閉じれば何も残らず、入力履歴の保存もしていない。計画中の敷地の寸法や配置は、確認申請を出すまで外に出したくない情報だ。結果を手元に残したいときはコピーボタンでテキストとして取り出せるようにしてあるので、保存先はこちらで選べる。
まとめ
採光補正係数は、開口部が面する先ひとつで結論が変わる計算だ。距離のしきい値だけを見て不適合と決める前に、道に面していないか、公園や川の幅を足せないかを確かめてほしい。このツールは適用した条番号まで出すので、判断の根拠ごと検討メモに残せる。
法規をクリアしたうえで実際に明るいかを確かめるなら昼光率計算ツール、隣の条文である換気は必要換気量計算シミュレーターが担当する。50lx緩和を使うときの照明計画は照度計算・照明台数算出ツールと照度計算シミュレーターで台数と平均照度を出し、床面のどの点で50lxを割るかは逐点法 照度計算で確かめられる。採光のために窓を大きくしたぶん熱がどれだけ逃げるかは窓断熱リフォーム省エネ効果計算で見られる。
計算が合わない、この条件にも対応してほしいといった要望があればお問い合わせページから知らせてほしい。