締めたはずのクランプハブが、軸の上で回っていた
タイミングプーリーをスリット付きのクランプハブで軸に留め、六角穴付きボルトをカタログどおりのトルクで締めた。試運転は問題なし。ところが起動と停止を何百回か繰り返すうちに、プーリーとエンコーダの位相がじわじわずれていく。ハブを外してみると、軸の表面に周方向の擦り傷がきれいに一周付いていた。こういう経験、一度はあるよね。
キーを使わない締結は、ボルトの締付け力を摩擦に変えてトルクを伝える。だから「何N·mまで滑らないか」は、ボルトの太さと本数、締付けトルク、軸とハブの摩擦係数、そしてハブが軸をどれだけ均一に抱えるかで決まる。このうち最後の一つが、カタログにも教科書にもはっきり書かれていない。
このツールは、二つ割りハブ・一体型スリットのクランプカラー・摩擦締結具の3形式について、ボルトの条件から軸を押す力と伝達できるトルク・スラストを出し、必要トルクに対するすべりの安全率まで一度に計算する。押付けの不確かさは低減係数 η という1つの数字にまとめ、その既定値の根拠もあわせて示す。
教科書の式で倍半分ずれた ― 割りハブの計算ツールを作ったきっかけ
最初は手計算で済ませるつもりだった。機械設計の定番教科書、R.S. Khurmi『A Textbook of Machine Design』には、割り筒で2本の軸を抱え込む clamp coupling(compression coupling)の伝達トルクの式が載っている。面圧が一様だと仮定して、
T = (π² / 16) × μ × db² × σt × n × d
ボルト径 db、ボルトの許容引張応力 σt、ボルト本数 n、軸径 d。これに手元の二つ割りハブ(片側1本・計2本)を当てはめ、n=2 と入れた。出てきた値を、一様面圧のつり合いから自分で立て直した式と比べると、ちょうど半分しかない。
原因は n の数え方だった。Khurmi の clamp coupling は2本の軸を1つの割り筒でつなぐ継手で、n は継手全体のボルト総本数。割り筒の長さ L を2本の軸で分け合うので、軸1本が受け持つのは n/2 本・長さ L/2 になる。軸1本に付く割りハブに流用するなら、n にはハブのボルト本数の2倍を入れなければならなかった。式に問題があるわけではなく、「継手」の式を「ハブ」に使うときに読み違えやすい、という話だ。
もう一つ迷ったのが摩擦係数と面圧の分布だった。例題は μ=0.3 で計算していて、「μ は0.3としてよい」という注記もある。けれど乾燥した鋼どうしでも0.3が出るとは限らず、油が残れば0.1前後まで下がる。面圧が一様という仮定も、ハブの内径と軸の間にすき間があれば成り立たない。どちらも結果を倍半分動かす。
メーカーのカタログは、自社のシャフトカラーやクランプハブの許容トルク・保持力を型番ごとに載せている。それはそれで頼りになるが、自分で図面を引く汎用の割りハブには当てはまらないし、摩擦係数や締付けトルクといった前提も表の外にある。ボルトの条件から割りハブの伝達トルクを出し、前提の幅まで見せてくれる日本語の計算ツールは見つからなかった。
このサイトには、平行キーを照査するキー溝強度チェッカー、スプライン強度計算シミュレーター、しめしろから伝達トルクを出す圧入・締りばめ しめしろ計算がある。軸とハブの締結として、割りハブ・クランプカラーは4つ目にあたる。同じ軸径・同じハブ幅で並べて比べたかった、というのが作った理由だ。
摩擦締結の基礎 ― ボルトの力が伝達トルクになるまで
摩擦締結 とは
キーやスプラインは、軸とハブの「形」を噛み合わせてトルクを伝える。これに対して摩擦締結は、ハブで軸を強く握り、接触面の摩擦だけでトルクを伝える。溝を切らないので軸が弱らず、ハブを軸上の好きな角度・好きな位置で固定できる。代わりに、伝えられるトルクは握る力と摩擦係数の積で頭打ちになる。
摩擦の基本はクーロンの法則で、面を押す力の総量 N に対し、滑り出すまでに耐えられる力は μN。この摩擦力が軸の表面で円周方向に働くと、半径 d/2 の腕でトルクになる。軸方向に働けばスラストを支える。
伝達トルク T = μ × N × d / 2 [N·m](N は kN、d は mm)
伝達スラスト Fa = μ × N [kN]
クランプカラー 締付け力 ― ボルト1本が出す力
ボルトの締付け力 F は、締付けトルク T からトルク係数 K を介して求める。
F = T / (K × d_b) [kN](T は N·m、d_b はねじの外径 mm)
Fy = Sp × As / 1000 [kN](保証荷重)
K は無処理の鋼ボルトで0.2前後、油を塗ると0.15前後。As はねじの有効断面積で、JIS B 1082 の値を使う。Sp は強度区分ごとの保証荷重応力で、12.9 なら 970MPa。たとえば M6-12.9 は As=20.1mm² なので保証荷重は19.497kN、その70%の13.648kN を狙うと締付けトルクは16.38N·m になる。
割りハブ 伝達トルク 計算 ― 軸を押す力 N をどう出すか
難しいのは、ボルトの力 F から軸を押す力の総量 N を出すところだ。二つ割りハブでは、半割り1個をボルト(片側 n 本×両側)が合計 2nF の力で軸に押しつける。この 2nF は、軸を押す圧力の「ボルト方向の成分」を全部足したものとつり合う。ここが要で、圧力がどう分布するかによって、同じ 2nF でも圧力の総量、つまり摩擦に効く N が変わる。
| 面圧の分布 | 圧力の総量(半割り2個) | 一様面圧との比 η |
|---|---|---|
| 一様面圧(全周で均等に当たる) | 2π·n·F | 1 |
| 余弦分布(中央が強く、割り面に向かって弱まる) | 16·n·F/π | 8/π² ≒ 0.81 |
| 線接触(半割りの中央の線だけで当たる) | 4·n·F | 2/π ≒ 0.64 |
線接触が下限になる理由は、つり合いから出る。圧力のボルト方向成分は、圧力に cosθ(θ は中央の線から測った角度)を掛けたもの。cosθ は1を超えないので、成分の合計 2nF を作るのに圧力の総量が最小になるのは、全部が θ=0、つまり中央の線に集まったときだ。そのとき総量は半割り1個で 2nF になり、これより小さくはなりようがない。一様面圧なら総量は半割り1個で π·n·F なので、比は 2/π。ハブの内径が軸よりわずかに大きいと、実際に線接触に近い当たり方になる。
一体型スリットは、荷造りバンドと同じ
一体型のクランプカラーは、リングに切り割りを1か所入れ、そこをボルトで締める。荷造りのバンドを締め上げると、荷物は全周からまんべんなく押されるよね。それと同じで、切り割りのボルト n 本の力 nF がリングの張力として全周に回る、と見ると、圧力は p = nF/(r·L)(r は軸の半径、L はハブ幅)で一様になり、総量は 2π·n·F。式の形は二つ割りの一様面圧と同じになる。
ただし実際のリングは曲がりながら締まるので、切り割りの反対側まで張力が届かず、押す力が逃げる。こちらは理論では下限が決まらないので、実測から見積もるしかない。
トルクとスラストは同じ摩擦を分け合う
はすば歯車やねじ送りでは、トルクと同時に軸方向の力(スラスト)が掛かる。軸の表面で働く摩擦力は、円周方向と軸方向を合わせて μN を超えられない。トルクのために使った分だけ、スラストに回せる分が減るわけだ。この関係は円(摩擦円)で表せて、すべらない条件と安全率は次のようになる。
(Treq / T)² + (Fa_req / Fa)² ≦ 1
SF = 1 / ( Ks × √( (Treq / T)² + (Fa_req / Fa)² ) )
Treq・Fa_req は必要なトルクとスラスト、Ks は起動や衝撃の割増し(使用係数)。スラストが無ければ SF = T/(Ks·Treq) に戻る。
すべりが設計に効いてくる理由と、締結方式の使い分け
摩擦締結が滑ると何が起きるか。まず位相がずれる。タイミングプーリーやカムなら、それだけで装置の動きが狂う。次に、微小なすべりを繰り返す面ではフレッチング摩耗が進み、赤茶色の摩耗粉が出て締付けがさらに抜ける。最後に軸の表面に傷が残り、ハブを付け直しても同じ位置では握れなくなる。軸の交換となれば、部品代より段取りの手間が重い。
摩擦係数が0.05下がるだけで判定が逆転する
軸に防錆油が残ったまま組むと、μ は0.15から0.10前後まで下がる。伝達トルクは μ に比例するので2/3になる。既定の条件(二つ割り φ20・M6-12.9 片側1本・η=0.64)では、伝達トルクが82.32N·m から54.88N·m に下がり、必要トルク40N·m・使用係数1.5に対する安全率は1.372から0.915に落ちて「すべる」側に転ぶ。組立て前に脱脂するかどうかが、計算上の余裕をまるごと動かす。
締付けトルクを上げれば解決、とはならない
足りないならもっと締めればいい、と考えがちだが、締付け力はボルトの保証荷重で頭打ちになる。M5-8.8 の保証荷重相当のトルクは8.24N·m で、10N·m で締めても締付け力は保証荷重の8.236kN から増えない。実物ではボルトが降伏して伸び、締付け力はかえって落ちる。トルクで稼げないなら、ボルトを太くする・本数を増やす・形式を変える、のどれかになる。
キー・スプライン・圧入・割りハブ・摩擦締結具
軸とハブの締結には、得意なことの違う選択肢がいくつかある。
| 方式 | 強み | 弱み |
|---|---|---|
| 平行キー | 形で噛み合うので確実。分解も容易 | キー溝で軸の断面が欠け、応力集中で軸が弱る。位相は溝の位置で決まる |
| スプライン | 歯で荷重を分け合い、大きなトルクを伝える | 軸・ハブとも加工が高くつく |
| 圧入(締りばめ) | 部品が増えず、伝達トルクも大きい | 分解しにくく、抜くと面が荒れて同じしめしろが出にくい |
| 割りハブ・クランプカラー | 位相と軸方向の位置を自由に合わせられ、着脱できる | 伝達トルクが摩擦係数と締付けに左右される |
| 摩擦締結具(パワーロック等) | キーレスで大きなトルク。位相も自由 | 部品単価が高く、ハブ側に収める寸法が要る |
キーとの比べ方にも注意がいる。JIS B 1301 は平行キーの寸法表に「適応する軸径」を載せているが、注(3)で、これはキーの強さに対応するトルクから求めた一般用途の目安だとしている。表の軸径に合うキーなら必要トルクを伝えられる、という保証ではない。
既定の条件で比べると、二つ割りの伝達トルク82.32N·m に対し、同じ φ20・長さ20mm の平行キー 6×6(S45C)の許容トルクは面圧で決まって75.0N·m。M6 を2本締めただけの割りハブが、キーとほぼ同じ1.10倍のトルクを持つ。摩擦締結は頼りないと思われがちだが、条件を押さえればキーと同じ土俵で比べられる。
割りハブ・シャフトカラーの計算が要る場面
- タイミングプーリー・カップリングの位相合わせ: モーターとエンコーダやカムの位相を現物で合わせてから締めたいとき、キー溝だと位置が決まってしまう。割りハブなら任意の角度で締められるが、そのぶん伝達トルクを数字で押さえておく必要がある。
- シャフトカラー・ストッパーの抜け止め: 軸受の押さえや、直動軸の端のストッパー。ここで効くのはトルクではなくスラストだ。必要トルクを空欄にしてスラストだけ入れれば、軸方向にどこまで耐えるかを見られる。
- エンコーダ・センサドグの固定: φ6〜φ10 の細い軸に小さなクランプカラーで留めるケース。伝えるトルクは小さいが、M3・M4 は締付けトルク自体が小さく、締めすぎて保証荷重を超えやすい。
- 既設のキー付きハブをキーレスにしたいときの当たり付け: 溝の無い軸に付け替えたい、溝加工を省きたい、という検討の初期段階。同じ軸径・長さの平行キーと比べた倍率が出るので、割りハブで足りるのか、摩擦締結具まで要るのかの見当がつく。
クランプカラーのトルク計算の使い方(3ステップ)
- 形式を選び、軸とボルトを入れる: 二つ割り・一体型スリット・摩擦締結具から形式を選び、軸径とハブ幅、ボルトの呼び径(M3〜M24)・強度区分(8.8/10.9/12.9)・本数を入れる。二つ割りの本数は軸の片側に並ぶ本数(反対側にも同じ本数がある)、一体型は切り割りを締める本数だ。ハブ幅は空欄でもよく、その場合は平均面圧とキーとの比較を出さない。
- 締付けと摩擦の前提を確かめる: 締付けトルクを空欄にすると、保証荷重の70%に相当する標準トルクで計算する。トルク係数 K(既定0.2)、低減係数 η(二つ割り0.64・一体型0.4。形式を切り替えると既定値に戻る)、摩擦係数 μ(既定0.15)は、組立ての条件に合わせて見直す。
- 負荷を入れて安全率を読む: 必要トルクと、同時に掛かるスラストがあればそれも入れ、使用係数(一様な負荷1.0、中程度の衝撃1.5、大きな衝撃2〜3が目安)を決めると、伝達トルク・伝達スラストとすべりの安全率、判定が表示される。必要トルクもスラストも空欄なら、安全率は出さずに伝達能力だけを示す。
摩擦締結具を選んだときは、ボルト側の入力の代わりにカタログの許容伝達トルクと許容スラストを入れる。許容スラストが空欄なら 2×許容トルク÷軸径 で換算し、換算した旨が注記される。
10ケースで見るクランプハブの伝達トルクとすべりの安全率
特記の無い限り、トルク係数 K=0.2、摩擦係数 μ=0.15、強度区分は12.9。
ケース1: 既定の二つ割り(φ20・M6 片側1本)
- 入力: 二つ割り、軸径20mm、ハブ幅20mm、M6-12.9 片側1本(計2本)、締付けトルク空欄、η=0.64、必要トルク40N·m、使用係数1.5
- 結果: 標準トルク16.38N·m で締付け力13.648kN(保証荷重19.497kN の70%)。軸を押す力54.88kN、伝達トルク82.32N·m、伝達スラスト8.232kN、平均面圧43.67MPa。すべりの安全率1.372で「すべらない」
- 解釈: 必要トルクに使用係数を掛けた60N·m に対して、1.37倍の余裕がある。同じ φ20・長さ20mm の平行キー 6×6 は75.0N·m なので、この割りハブはキーの1.098倍にあたる
ケース2: 全周で当たると仮定した上限(η=1)
- 入力: ケース1で η=1
- 結果: 軸を押す力85.75kN、伝達トルク128.63N·m、平均面圧68.24MPa、安全率2.144
- 解釈: ハブの内径と軸がぴったり合い、全周で均等に当たったときの理論上限。ケース1との差(82.32→128.63N·m)が、当たり方という目に見えない要素の幅だ。精度よく仕上げたハブでも、この値をそのまま設計に使うのは楽観的すぎる
ケース3: ミスミの実測と突き合わせる(一体型 φ20・M6)
- 入力: 一体型スリット、軸径20mm、ハブ幅15mm、M6 1本、締付けトルク12.87N·m(ミスミの試験の締付けトルク)、η=0.4
- 結果: 締付け力10.725kN、伝達スラスト4.043kN、伝達トルク40.43N·m。η=1 にすると伝達スラスト10.108kN、伝達トルク101.08N·m
- 解釈: 同じ寸法のスリット型セットカラー(内径20・幅15・M6)の実測の最大スラスト荷重は10.4kN。既定の η=0.4 だと実測の39%、η=1 なら97%でほぼ一致する。内径16mm以上の一体型では、既定値がかなり安全側に倒れているとわかる
ケース4: 小径では実測が既定値に近づく(一体型 φ10・M4)
- 入力: 一体型スリット、軸径10mm、ハブ幅10mm、M4 1本、締付けトルク3.71N·m、η=0.4
- 結果: 締付け力4.637kN、伝達スラスト1.748kN、伝達トルク8.74N·m
- 解釈: 同じサイズの実測は2.0kN で、η=0.4 の計算がそれをやや下回る。ケース3とは違い、既定値が実測のすぐ下に来る。内径15mm以下では実測から逆算した η の中央値が0.47で、既定の0.4はこの帯の下側に合わせてある
ケース5: 4本締めの二つ割りにスラストが同時に掛かる
- 入力: 二つ割り、軸径40mm、ハブ幅40mm、M8-10.9 片側2本(計4本)、締付けトルク30N·m、η=0.64、必要トルク200N·m とスラスト5kN、使用係数1.5
- 結果: 締付け力18.75kN(保証荷重の61.7%)、軸を押す力150.80kN、伝達トルク452.39N·m、伝達スラスト22.62kN。トルクとスラストを合成した安全率1.349で「すべらない」
- 解釈: トルクだけなら安全率は1.51あるが、5kN のスラストが同じ摩擦を分け合うぶん1.349まで下がる。平行キー 12×8(長さ40mm)の360N·m に対しては1.257倍
ケース6: 締めすぎても伝達トルクは増えない(M5-8.8 に10N·m)
- 入力: 二つ割り、軸径20mm、ハブ幅20mm、M5-8.8 片側1本、締付けトルク10N·m、η=0.64、必要トルク40N·m、使用係数1.5
- 結果: 保証荷重相当のトルク8.24N·m を超えたので、締付け力は保証荷重8.236kN で頭打ちとして計算し、その旨が注記される。伝達トルク49.68N·m、安全率0.828で「すべる」
- 解釈: M5-8.8 の標準トルクは5.77N·m。それを大きく超えて締めても締付け力は保証荷重で止まり、実物ではボルトが伸びてかえって緩む。ボルトを M6-12.9 に上げればケース1の82.32N·m まで伸びる
ケース7: 一体型を φ30 に使ったら足りなかった
- 入力: 一体型スリット、軸径30mm、ハブ幅15mm、M6-12.9 1本、締付けトルク空欄(標準)、η=0.4、必要トルク50N·m、使用係数2.0
- 結果: 伝達トルク77.18N·m、伝達スラスト5.145kN、安全率0.772で「すべる」
- 解釈: 衝撃を見込んだ100N·m に届かない。ただ φ30 は内径16mm以上なので、実測から見ると η=0.4 はかなり安全側で、実測の帯(0.76〜1.24)が注記で示される。実機で保持力を確かめられないなら、二つ割りにするかボルトを太くするのが素直な対策になる
ケース8: 摩擦締結具をカタログ値で照査する
- 入力: 摩擦締結具、軸径40mm、許容伝達トルク500N·m、許容スラスト空欄、必要トルク200N·m とスラスト10kN、使用係数1.5
- 結果: 許容スラストは 2×500÷40 = 25kN と換算され、合成した安全率は1.179で「すべらない」。カタログの許容スラスト30kN を入れると安全率は1.280
- 解釈: スラストが無ければ、同じ締結具の安全率は1.667(必要トルク200N·m のみ)。10kN のスラストが加わるだけで1.18まで下がる。カタログに許容スラストが載っているなら、換算値よりその値を入れたほうがよい
ケース9: 軸に油が残っていた(μ=0.10)
- 入力: ケース1で μ=0.10
- 結果: 伝達トルク54.88N·m、伝達スラスト5.488kN、安全率0.915で「すべる」
- 解釈: ケース1の「すべらない」が「すべる」に変わる。摩擦係数は伝達能力をそのまま比例で動かすので、組立て前に脱脂したかどうかがそのまま判定を左右する
ケース10: φ6 のセンサ軸に小さなカラー
- 入力: 一体型スリット、軸径6mm、ハブ幅8mm、M3-12.9 1本、締付けトルク空欄(標準)、η=0.4、必要トルク1N·m、使用係数1.5
- 結果: 標準トルク2.049N·m、締付け力3.415kN、伝達トルク3.86N·m、安全率2.575。平行キー 2×2(長さ8mm)の許容トルク2.88N·m の1.341倍
- 解釈: 小径でもキーと同等以上を確保できる。ただ M3 の保証荷重相当のトルクは2.93N·m で、標準トルクとの差は1N·m 足らず。小さなトルクレンチで締め、手締めの勢いで超えないようにしたい
計算の仕組み ― 面圧のモデルを低減係数 η に押し込める
3つの候補と、採った形
押付け力の求め方には、基礎の節の表に挙げた一様面圧・余弦分布・線接触の3つの候補がある。一様面圧が最大、線接触が最小で、両者の伝達トルクは π/2 ≒ 1.57倍違う。どれか1つに決め打ちすると、モデルの選択が使い手から見えなくなる。そこで本ツールは式を一様面圧の形に固定し、分布の違いを低減係数 η に押し込めた。
N = 2π × n × F × η
// n: 二つ割りは片側の本数、一体型は切り割りの本数
// η: 二つ割り 0.64(2/π・線接触の下限)、一体型 0.4(実測から逆算)
二つ割りの既定0.64は、内径と軸のすき間がどうであっても下回らない下限なので安全側。一体型は理論で下限が決まらないので、後述の実測から決めた。
ボルト本数の数え方を固定したのも、この形にした理由の一つだ。教科書の式は継手全体の総本数、メーカーの図はハブ1個のボルト数、二つ割りの組図は片側に何本、と資料ごとに数え方が違い、そのたびに2倍・4倍のずれが入り込む。本ツールは二つ割りの n を片側の本数に統一し、計の本数を結果に添える。
計算フロー
// 1. ボルト1本の締付け力
Fy = Sp × As / 1000 // 保証荷重 [kN]
T = 入力値 ?? K × d_b × 0.7 × Fy // 空欄なら標準トルク [N·m]
F = min(T / (K × d_b), Fy) // 保証荷重で頭打ち [kN]
// 2. 軸を押す力と伝達能力
N = 2π × n × F × η // [kN]
Tcap = μ × N × d / 2 // 伝達トルク [N·m]
Facap = μ × N // 伝達スラスト [kN]
// 摩擦締結具: Tcap = カタログ値、Facap = カタログ値 ?? 2 × Tcap / d
// 3. すべりの安全率(摩擦円で合成)
SF = 1 / (Ks × √((Treq / Tcap)² + (Freq / Facap)²))
// 4. 参考: 同じ軸径・ハブ幅の平行キー(S45C)
Tkey = min(120 × b × L, 150 × (h − t1) × L) × d / 2 / 1000 // [N·m]
締付け力の出し方(保証荷重の70%・T=K·d·F)はボルト締付トルク計算の基本モードと同じで、M6-12.9・K=0.2 の13.648kN・16.38N·m が一致する。キーの寸法と許容応力(せん断120MPa・面圧150MPa)は、キー溝強度チェッカーと同じ表を使っている。
一体型の η=0.4 をミスミの実測から決めた手順
一体型の既定値には、ミスミのセットカラー概要にあるスリット型セットカラー(ボルト1本)の最大スラスト荷重の実測35サイズ(内径6〜50mm)を使った。試験は、ミスミ製の焼入れシャフトの防錆油をウエスで拭き取ってカラーを取り付け、万能試験機で圧縮してシャフトが動き始めた荷重を測ったもの。資料には、試験結果であり保証値ではないと注記されている。
各サイズの呼び締付けトルク(M3 1.61・M4 3.71・M5 7.54・M6 12.87・M8 31.2・M10 61.75N·m など)から K=0.2 で締付け力 F を出し、実測のスラスト Fa から η を逆算する。
Fa = μ × N = 2π × μ × η × F // 一体型・ボルト1本(n = 1)
η = (Fa / F) / (2π × μ) // μ = 0.15 を置いて解く
結果は0.24〜1.24と幅が広い。0.4を下回るのは2サイズだけ(φ8・M3 の0.24、φ15・M4 の0.34)で、内径15mm以下の18サイズは中央値0.47、16mm以上の17サイズは0.76〜1.24・中央値0.90と、内径を境に傾向がはっきり分かれる。既定の0.4は、35サイズのうち33サイズがこれ以上になる値だ。たとえば φ20・M6 は F=10.725kN・Fa=10.4kN から η≒1.03、φ10・M4 は F=4.6375kN・Fa=2.0kN から η≒0.46 になる。一体型の η=1 は、φ16 以上の中央値0.90に近い。
気をつけたいのは、この逆算では μ と η を分けられないことだ。式のとおり Fa/F = 2π·μ·η で、実測からわかるのは μ と η の積だけ。表の η は μ=0.15 を置いたうえでの値なので、μ を変えて計算するときは、η がその前提で決まっていることを頭に置いておきたい。
Khurmi の例題を本ツールの式で再現する
Khurmi の clamp coupling の例題は、30kW・100rpm を伝える軸径75mm の継手を、ボルト6本・σt=70MPa・μ=0.3 で設計し、ボルト径 db=22.2mm(M27 を選定)を得ている。設計トルクは2,865N·m。同じ条件を本ツールの式に通すと、次のようになる。
- ボルト1本の力: F = (π/4)×22.2²×70 = 27.09kN
- ボルト本数: 継手全体の6本を2本の軸で分けるので軸1本あたり3本、その左右で片側1.5本 → n=1.5
- 軸を押す力: 一様面圧なので η=1、N = 2π×1.5×27.09 = 255.4kN
- 伝達トルク: T = 0.3×255.4×75/2 = 2,873N·m
例題の2,865N·m と、db の丸めの差を除いて一致する。一方、総本数の6を片側の本数として n=6 と入れると4倍に出る。本数の数え方さえそろえれば、教科書の一様面圧の式と本ツールの η=1 は同じものだ。
クランプハブ・キーレス締結の計算ツールとして、どこが違うか
冒頭の「なぜ作ったのか」で触れた型番ごとの許容値表とも、一様面圧の教科書の式とも違うのは、次の4点だ。
- モデルの幅を隠さない。 既定の η で出した安全側の値と、全周で当たると見た η=1 の値を並べて出す。教科書の式の値はこの η=1 の側で、どこまで割り引くかを η として入力欄に出し、既定値の根拠も形式ごとに1行で表示する
- トルクとスラストを一度に判定する。 両者が同じ摩擦を分け合うものとして、すべりの安全率を1つに合成する。片方ずつ比べてどちらも「足りている」と読む見落としが起きない
- 締めすぎを頭打ちにする。 締付け力が強度区分の保証荷重を超えたらそこで止めて計算し、警告を出す
- 摩擦締結具と平行キーを同じ画面で並べる。 パワーロックのような摩擦締結具はカタログの許容値を入れれば同じ式で安全率が出て、ハブ幅を入れれば同じ軸径・長さの平行キー(S45C)との比も出る。割りハブで足りるのか、キーや締結具に替えるべきかを、入力を打ち直さずに比べられる
キーの寸法選定はキー溝強度チェッカー、締付け力のばらつきやねじ面・座面の摩擦の内訳はボルト締付トルク計算、軸径そのものは軸径選定シミュレーターに任せ、このツールは「摩擦でどこまで回せるか」に絞った。標準締付けトルク(保証荷重の70%・K=0.2)はボルト締付トルク計算の基本モードと同じ置き方なので、行き来しても締付け力が食い違わない。
シャフトカラーの保持力をめぐる小話——止めねじ、リングばね、「キーレス」
止めねじのカラーから、クランプ型へ
シャフトカラーの元祖は、軸に止めねじを直接ねじ込む一体のリングだ。英語版 Wikipedia の Shaft collar によると、最初に量産されたのは工場の天井を走るラインシャフト用で、角頭の止めねじが外に突き出していた。回る軸の上で作業者の服を巻き込む危険があり、1910〜1911年ごろに頭が沈む六角穴付きの止めねじが実用化されて、それを使った「安全カラー」が業界標準になった。六角穴付きのねじが広まるきっかけの一つが、このカラーだった。
ただ止めねじは先端を軸に食い込ませるので軸を傷める。そこで出てきたのが、ねじで輪そのものを締めて摩擦で留めるクランプ型で、同じ記事は止めねじ型の2倍近い保持力としている。
「二つ割りは約1割強い」の読み方
米 Stafford は製品概要で、二つ割りのクランプカラーは一体型より保持力が約10%大きいと書いている。ボルトが倍になるのに1割しか増えないのは一見妙だが、一体型の1本のボルトの張力は輪を伝って全周に回り、二つ割りの左右のボルトと同じ押し方をする(摩擦締結の基礎を説明した節の、荷造りのバンドの理屈)。残る1割は、上の Wikipedia の記事が書くとおり、一体型では締めていない側が輪を開いておこうとし、その分ボルトの力が食われるためと読める。なおツールの既定の η が形式で違うのはこの比ではなく下限の取り方の違いで、理由は上の「計算の仕組み」の節のとおりだ。
摩擦締結具はくさびとリングばね
パワーロックに代表される摩擦締結具は、内輪と外輪を円すい面で重ねた構造をしている。ボルトを締めると円すい面どうしが押し込まれ、軸方向の締付け力が半径方向の押付け力に変わる。くさびを打ち込むと横に大きな力が出るのと同じ理屈だ。ドイツ語版 Wikipedia の Spannsatz(摩擦締結具)の項は、この輪を「リングばね(Ringfeder)の形をした輪」と説明している。リングばねは円すい面で交互に重ねた輪を押し込み、摩擦で衝撃を吸収するばねで、鉄道車両の緩衝器の定番だ。同じ項には、円すいの角度を浅くして、ボルトを緩めても自然には外れない型があることも書かれている。
「キーレス」という呼び方
日本では摩擦締結具を「キーレス」と呼ぶことが多い。キー溝を切らない、という引き算の名前だ。ドイツ語の分類は直截で、Welle-Nabe-Verbindung(軸とハブの結合)の項では、キーやスプラインのように形で回すものを Formschluss(形で閉じる結合)、圧入・クランプハブ・摩擦締結具のように摩擦で回すものを Kraftschluss(力で閉じる結合)と分けている。後者の分類なら、割りハブは圧入や摩擦締結具と同じ棚に並ぶ。
割りハブを暗算と現物で詰めるコツ
- 伝達トルクは係数ひとつで暗算できる。 kN×mm がそのまま N·m になるので、単位の換算は要らない
伝達トルク[N·m] ≒ 係数 × n × F[kN] × d[mm] ÷ 2
係数 = μ × 2π × η
既定の二つ割り(μ=0.15・η=0.64)でおよそ 0.6
既定の一体型 (μ=0.15・η=0.4) でおよそ 0.4
- 締付け力の下限で見たいなら、締付けトルクを0.75倍して入れる。 ツールの注意書きにもあるとおり、トルク法では軸力が±25%程度ばらつく。締付け力は締付けトルクに比例するので、標準トルク(または実際に締めるトルク)の0.75倍を入れれば下限側の伝達トルクが出る
- 本数を増やすより、径を1サイズ上げるほうが効く場面が多い。 片側1本を2本にすれば押す力は2倍だがハブ幅が要り、2本を3本にしても1.5倍だ。標準トルクで締めるなら締付け力は有効断面積 As に比例するので、M5→M6 で 14.2→20.1mm²(約1.4倍)、M6→M8 で 20.1→36.6mm²(約1.8倍)になる。強度区分を10.9から12.9に上げても保証荷重応力は830→970MPaで約1.17倍にとどまる。径を上げたらトルクレンチの容量とハブの肉厚は確かめておく
- μ を現物で確かめるなら、回すより押す。 所定のトルクで締めたカラーをプッシュプルゲージや分銅で軸方向に押し、動き出した力を読む。静的には「伝達トルク ≒ 動き出したスラスト × d/2」で、ツールの伝達スラストがその値に合うように μ を合わせれば、その面のすべりやすさを取り込める。軸の表面は量産と同じ状態(油を拭くだけか、脱脂するか)にそろえる
- 打ち切りどころは上限と既定値の間。 二つ割りなら、η=1(一様面圧)の値の欄を「必要トルク×使用係数」と比べる。上限でも届かないなら摩擦だけでは足りないので、ボルトか形式を変えるか、キーや摩擦締結具に切り替える。既定の η で安全率が1を超えていれば余裕側だ。現物で確かめる価値があるのは、その間に入ったとき
割りハブ・クランプカラーの計算でよく出る疑問
メーカーのカタログの保持力より小さく出るのはなぜ?
カタログ値は、その製品をその会社の条件(焼入れした軸、油を拭き取った面など)で試験した結果で、ミスミも Stafford も保証値ではないと断っている。このツールの既定の η は理論の下限か実測のばらつきの下側に置いてあるので、同じ締付けトルクでもカタログ値より小さめに出るのが普通だ。差の大きさは使用例のミスミ実測と突き合わせたケースを見てほしい。製品が決まっていてカタログの許容トルクを採るなら、形式を摩擦締結具(カタログ値で判定するモード)にして許容値を直接入れれば、同じ合成の式で安全率が出る。
キーと併用したら、キーの許容トルクと足し算していい?
足さないほうがいい。キーとキー溝の間には、はめあいの分だけわずかなすき間があることが多く、負荷が小さいうちは摩擦だけで回り、滑りかけてから初めてキーが当たる。逆にキーがきつく入っていれば、摩擦が働く前にキーが受ける。どちらがどれだけ受け持つかは当たり方と各部の剛性で決まり、単純な和は危険側になる。併用するなら、どちらか一方だけで必要トルクを持つように設計する。結果に出る平行キーとの比較の1行は、どちらで受けるかを選ぶための目安で、合計値ではない。
アルミのハブやカラーでも使える?
式そのものは材質を問わないが、既定値の裏付けは鋼だ。一体型の η の根拠にしたミスミの試験は S45C 相当のカラーと焼入れした軸の組み合わせで、Stafford の保持力の試験表は、アルミ(2024)のカラーではねじの締付けトルクを鋼の50%に下げ、保持力も50%になるとしている。アルミなら、メーカー指定の下げたトルクを締付けトルク欄に入れ、ハブ幅を入れて出る平均面圧がアルミの許容面圧に収まるかも確かめてほしい。結果は目安として扱い、実機で保持力を確かめたい。
起動・停止を繰り返す軸や、衝撃が掛かる軸でも判定できる?
見ているのは静的なすべりだけで、繰返しや衝撃で少しずつずれていく微小すべりは計算していない。ツールの中でできる対処は、起動・停止の衝撃の大きさを使用係数に見込んで入れることまでだ。英語版 Wikipedia の Shaft collar の項も、クランプ型は一定の荷重には強いが衝撃荷重では位置がずれることがある、としている。軸方向の抜け止めを確実にしたいなら、軸に浅い溝を切り、二つ割りのカラーを溝の底径で締めて段付きの肩のように当てる方法がある(Stafford も同じ方法を挙げている)。回転方向に確実さが要るなら、キーとの比較を見てキーに替えることも考えたい。
入力した軸径やボルトの条件は、どこかに送られる?
送られない。計算はすべて閲覧しているブラウザの中で行っていて、入力値をサーバーへ送ったり保存したりはしていない。ページを閉じれば入力も消える。結果のコピーも手元のクリップボードに写すだけだ。社外に出せない設計値でも、そのまま入れてかまわない。
まとめ——摩擦でつなぐ締結を、ほかの締結と同じ物差しで
割りハブ・クランプカラーの伝達トルクは、ボルトの締付け力・摩擦係数・押し付け方(η)の掛け算で決まる。このツールは安全側の既定値と η=1(一様面圧)の値を並べ、すべりの安全率まで一度に出す。キーで受けるならキー溝強度チェッカー、大きなトルクを歯で受けるならスプライン強度計算シミュレーター、締りばめで受けるなら圧入・締りばめ しめしろ計算と比べてほしい。締付け力の内訳はボルト締付トルク計算、軸そのものの太さは軸径選定シミュレーターで確かめられる。
気になる点や追加してほしい条件があれば、お問い合わせページから知らせてほしい。
Mahiro
Mahiro Appの開発者。スリット付きのクランプハブでプーリーの位相がずれた経験から、教科書の式とミスミの実測を突き合わせて、押付け力の不確かさを低減係数 η にまとめた。
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