97.92リンクと出たチェーンを、結局何リンクで発注するのか
コンベヤの駆動チェーンを設計していて、リンク数の式に数字を放り込んだら 97.92 と出た。さて、何リンクで発注するか。
チェーンは1リンク単位でしか買えない。しかも奇数リンクにすると継手にオフセットリンクが1個要る。あれは強度が落ちるので実務では「使わないのが原則」——つまり実質2リンク刻みだ。97.92 なら 98 に切り上げる。ここまでは誰でも分かる。
問題はその先だ。98リンクに丸めた瞬間、最初に決めた軸間距離600mmはもう成立しない。98リンクのチェーンが実際に掛かる軸間距離は 600.76mm になる。この 0.76mm をテンショナで吸収するのか、それとも軸の取付穴を描き直すのか。丸めの方向を1つ読み違えれば、ずれはこの桁では収まらなくなる。
このツールは、呼び番号とスプロケット歯数と仮の軸間距離を入れるだけで「計算リンク数 → 偶数に丸めた採用リンク数 → その採用リンク数に対する実軸間距離 → 仮値からの調整量」までを1画面で出す。あわせて、ポリゴナル作用による速度変動率と、JIS B 1810 の推奨判定(歯数・軸間距離・潤滑区分)も同じ画面に並べた。
メーカーのカタログは、全社がPDFのままだった
きっかけは単純で、探しても無かったからだ。
椿本チエイン、大同工業、片山チエン、RKジャパン——伝動用ローラチェーンの主要メーカーはどこも選定手順を丁寧に公開している。使用係数の表があり、伝動能力曲線があり、リンク数の式も載っている。ところが、その全部がPDFのカタログか解説ページで止まっていて、ブラウザで数字を入れると答えが出るものを1社も出していない(2026-09-19 時点)。つばき産業の計算ツールはあるが、あれは小形コンベヤチェーン専用で、伝動用ローラチェーンのリンク数計算ではない。
一方で、二輪や自転車のチェーン長を出すツールはいくらでもある。フロント何丁・リア何丁を入れれば秒で答えが返ってくる。産業機械側だけが、毎回Excelに式を手打ちして、丸めて、逆算して、という作業を各自のPCの中で繰り返している。その手打ちのExcelが、担当者が変わった瞬間に誰にも検算できないブラックボックスになるのも何度か見た。
もう1点、どのツールも解説も、ポリゴナル作用(弦動作用)に数字で触れていない。「小スプロケットは17丁以上にすること」という結論だけが独り歩きしていて、なぜ17なのかを数値で見た人がほとんどいない。17丁のときの速度変動率が何%で、15丁にすると何%に増えるのか。その差が現場で何を意味するのか。そこを埋めたかった。
だからこのツールは、リンク数を出すだけで終わらせていない。歯数を1丁動かすたびに速度変動率が何%動くかを、同じ画面で見えるようにしてある。
ローラチェーン とは何か——歯車のかみ合いを離れた2軸へ延ばす
ローラチェーン とは:滑らない巻き掛け伝動
歯車は2つの軸が近くにあるときにしか使えない。軸が離れれば中間歯車を並べることになり、軸受も台数も増える。そこで「歯車のかみ合いを、離れた2軸のあいだに延長したもの」がローラチェーンだと考えると分かりやすい。スプロケットの歯にチェーンのローラがかみ合い、そのかみ合いが軸間を渡っていく。
ベルトとの決定的な違いは、滑らないことだ。Vベルトやフラットベルトは摩擦で動力を伝えるので、過負荷になればスリップする(これは保護にもなる)。チェーンは歯とローラの形状で伝えるので、入力軸と出力軸の回転比が歯数の比に厳密に固定される。低速大トルクで、しかも回転の同期が要る用途——コンベヤの駆動軸、農機の作業部駆動、搬送装置の送り軸——がチェーンの主戦場になるのはこのためだ。詳しい構造はWikipedia「ローラーチェーン」にまとまっている。
呼び番号 とは:ピッチをインチの8分の1で表した数
ローラチェーンの寸法体系は、呼び番号という1つの数字で決まる。RS40、RS60、RS80——この数字はピッチ(ローラの中心間距離)をインチの8分の1単位で表したものだ。
ピッチ p = (呼び番号の上位桁) × 1/8 インチ × 25.4 mm/インチ
RS40 → 4 × 25.4/8 = 12.700 mm
RS60 → 6 × 25.4/8 = 19.050 mm
RS80 → 8 × 25.4/8 = 25.400 mm
ローラ径もプレート厚もピンの太さも、この呼び番号に紐づいて規格表に並んでいる。設計者が最初に決めるのは呼び番号ひとつで、そこから寸法系列が芋づる式に決まる、という構造になっている。このツールが呼び番号の選択だけでピッチを確定できるのは、この定義そのものから導けるからだ。
チェーン ピッチ円直径 求め方:正z角形の外接円で考える
スプロケットのピッチ円直径(PCD)は次の式で出る。
PCD = p / sin(180° / z) p: ピッチ [mm]、z: 歯数
この式は暗記するより、図で捉えたほうが早い。チェーンは円ではなく正z角形としてスプロケットに巻き付く。ローラ1個が多角形の頂点、ローラとローラのあいだのリンク1本が多角形の一辺にあたる。つまり「一辺の長さがピッチ p に等しい正z角形の、外接円の直径」が PCD だ。
正z角形の一辺は、外接円の半径を R とすると 2R·sin(180°/z) になる。これがピッチ p に等しいので、p = 2R·sin(180°/z) を R について解き、直径に直せば上の式がそのまま出てくる。歯数が増えるほど多角形は円に近づき、歯数が少ないほど角張る——この「角張り」が後で効いてくる。
リンク数の式は3つの項でできている
JIS B 1810:2018「伝動用ローラチェーンの選定指針」が与えるリンク数の式は、3つの項の足し算だ。
X0 = 2·a0/p + (z1 + z2)/2 + (p/a0)·((z2 − z1)/(2π))²
───── ─────────── ────────────────────────
直線部 巻き付き部 歯数差の補正
- 第1項
2·a0/p: 軸間を往復する2本の直線部。長さ a0 の直線が2本あり、それをピッチで割れば何リンク分かが出る。 - 第2項
(z1 + z2)/2: 2つのスプロケットに巻き付く部分。左右のスプロケットを合わせるとちょうど1周ぶん巻き付くので、歯数の合計の半分が巻き付きリンク数になる。 - 第3項: 歯数が違うとチェーンの直線部が軸心に対して傾き、そのぶん経路がわずかに伸びる。その補正。歯数差がゼロなら第3項もゼロになる。
第3項は歯数差が小さいうちはほとんど効かない。歯数17と51、つまり差が34もある例でも 0.93リンク分だ。だからExcelに式を写すとき、いちばん省略されやすいのがこの項になる。ところが歯数差が広がると効き方が変わる——そこは後の節で数字を出す。
リンク数を1つ間違えると現場で何が起きるか
オフセットリンクは「使わないのが原則」
チェーンは基本的に偶数リンクで閉じる。外リンクと内リンクが交互に並ぶ構造なので、奇数にするとどこかで外リンク同士・内リンク同士を継がなければならず、そのためにオフセットリンク(曲がったプレートのリンク)を入れることになる。この部分はプレートが曲げを受けるため、ストレートなリンクより強度が落ちる。だから設計側で偶数に丸めておくのが原則になる。計算値が 97.92 でも 97.05 でも、採るのは 98 だ。
2リンクの読み違いは、軸間距離が約1ピッチ動く
リンク数を2つ間違えると、実軸間距離はおよそ1ピッチぶん動く。RS60 なら 19mm、RS80 なら 25.4mm だ。汎用のチェーンテンショナのストロークは十数mm程度のものが多く、この幅は簡単に吸収範囲を超える。超えれば、モーターベースの長穴を開け直すか、駆動ユニットごと位置を変えるかになる。組立当日に判明すると、その日の据付は止まる。
逆に、丸めによる 0.76mm 程度のずれなら、テンショナのストロークのど真ん中で吸収できる。**問題は「ずれること」ではなく「ずれ量を知らずに組むこと」**だ。このツールが調整量 Δa を符号付きで出すのは、テンショナの選定とストロークの検討をその場でやれるようにするためだ。
軸間距離がピッチの30〜50倍を外れると何が起きるか
JIS B 1810 の10.1項は「適切なスプロケットの軸間距離は、使用するチェーンのピッチの30倍〜50倍である」と書いている。これを外れると次のことが起きる。
- 短すぎる(30倍未満): 小スプロケットへの巻き付き角が不足し、かみ合う歯数が減る。同じ張力でも1歯あたりの荷重が増え、歯面とローラの摩耗が早まる。始動時の衝撃も1歯に集中する。
- 長すぎる(50倍超): 自重によるたるみが大きくなり、ゆるみ側のチェーンが上下に暴れる。高速だと共振して跳ねる。アイドラかガイドレールを追加する検討が要る。
潤滑区分の読み違いは、静かに摩耗を進める
同10.2項は歯数について「最低17から最高114までの間で選定することが望ましい」とし、高速度・衝撃荷重時は「小スプロケットの歯数は、最低25とし、歯は、硬化処理を施す必要がある」と定める。そして9.1項が潤滑を4区分(手差し/滴下/オイルバス又はディスク/強制給油)に分けている。
この潤滑区分は、チェーン速度で決まる。境界を1つ読み違えて、本来は滴下給油が要る速度域を手差しで済ませると、油膜が切れてピンとブシュの摩耗が急速に進む。チェーンの伸び(実際にはピン・ブシュの摩耗によるピッチ増大)が進行すると、歯先に乗り上げて歯飛びし、最後は外れる。逆に、手差しで足りる低速域にオイルバスを組んでしまえば、そのぶんのコストとメンテ工数が丸ごと無駄になる。どちらも「速度を計算していなかった」という一点から始まる。
こういう場面で開いてほしい
減速機の出力からコンベヤ駆動軸へ掛けるとき。 いちばん多い構成だ。減速機の出力回転数が決まっていて、コンベヤ側の必要回転数から歯数比を決め、あとはリンク数と軸間距離を確定させる。上流の必要動力をベルトコンベヤ設計計算ツールで出し、モーターの実回転数を誘導モーター 同期速度・すべり計算で確認してから、ここへ持ってくる流れになる。
既設機の改造で、軸間距離が動かせないとき。 ベースが溶接済みで軸の位置が変えられない、という条件は現場では珍しくない。この場合は歯数のほうを振って、実軸間距離が既設の寸法に乗る組み合わせを探すことになる。歯数を1丁ずつ変えて調整量 Δa を見比べる、という探し方ができる。
低速大トルクで、歯車だと大きくなりすぎるとき。 減速比3〜6を1段で取ろうとすると歯車はかなり大径になるが、チェーンなら軸を離したまま取れる。減速比が大きくて大スプロケットが114丁を超えるようなら、そこは歯車や多段減速の出番になる。
保全でチェーンを交換するとき。 手元の使用中チェーンが何リンクなのか、図面が残っていないケースがある。呼び番号と歯数と実測した軸間距離を入れれば、必要なリンク数がその場で分かる。
基本の使い方(3ステップ)
① 呼び番号とスプロケット歯数を入れる。 RS25 から RS120 まで8種類から選ぶと、ピッチが自動で決まる。歯数は小・大それぞれを整数で入力する。逆に入れても自動で入れ替えて計算するので、どちらがどちらか迷わなくていい。
② 仮の軸間距離を入れる。 ここには設計上の希望値をそのまま入れればいい。この値はリンク数を決めるための仮値で、リンク数を偶数に丸めたあとに実軸間距離が逆算し直されて表示される。設計寸法として図面に落とすのは、この逆算された値のほうだ。仮値からの調整量も符号付きで出るので、テンショナのストロークに収まるかがその場で判断できる。
③ 回転数は空欄でもいい。 小スプロケットの回転数を入れると、チェーン速度・速度の振れ幅・JIS の潤滑区分が追加で出る。入れなくても、リンク数・実軸間距離・PCD・減速比・速度変動率はすべて表示される。レイアウトだけ先に固めたい段階では空欄のまま使い、駆動条件が決まってから回転数を足す、という順序で構わない。
結果の下には、スプロケット2つとチェーンの側面図が出る。小スプロケットは歯数ぶんの正多角形として描いてあるので、チェーンが円ではなく多角形に巻かれていることが目で確認できる。
具体的な使用例(6ケース)
以下はすべて、実装した計算エンジンに同じ入力を与えて得た出力だ。
ケース1:コンベヤ駆動(RS60・17/51丁・仮軸間600mm)
入力: 呼び番号 RS60(ピッチ19.05mm)/小17丁・大51丁/仮の軸間距離 600mm/小スプロケット回転数 200 min⁻¹/1列/一般用途
結果: 計算リンク数 97.92 → 採用98リンク。実軸間距離 600.76mm(調整量 +0.76mm)。軸間はピッチの31.5倍で適正。減速比3.00、PCD は小103.67mm・大309.45mm。速度変動率1.70%、チェーン速度1.08m/s、速度の振れ幅0.018m/s。潤滑は滴下給油の区分。
解釈: いちばん標準的な構成。調整量が1mm未満なので、テンショナどころか長穴の遊びで吸収できる。速度変動率1.70%は、JIS が推奨する17丁ちょうどの値だ。この1.70%が「許容される角張り」の基準線になる。
ケース2:小型搬送(RS40・15/30丁)— 15丁の代償が数字で出る
入力: RS40(12.70mm)/小15丁・大30丁/仮軸間400mm/300 min⁻¹/1列/一般
結果: 計算リンク数 85.67 → 採用86リンク。実軸間距離 402.08mm(+2.08mm)。軸間31.7倍で適正。減速比2.00、PCD 小61.08mm・大121.50mm。速度変動率 2.19%、チェーン速度0.95m/s。歯数判定は「JIS 推奨の17丁を下回る」。
解釈: 省スペースのために15丁を選んだ構成。リンク数も軸間距離も何の問題も無いが、速度変動率がケース1の1.70%から2.19%へ、3割近く増えている。この0.5ポイントの差が、低速なら「多少カタつく」で済み、高速なら振動と騒音になる。歯数を削るときは、削った代償がこの数字に出ると思っておくといい。
ケース3:農機・汎用の2列(RS50・19/38丁・2列)
入力: RS50(15.875mm)/小19丁・大38丁/仮軸間700mm/200 min⁻¹/2列/一般
結果: 計算リンク数 116.90 → 採用118リンク。実軸間距離 708.78mm(+8.78mm)。軸間44.6倍で適正。減速比2.00、速度変動率1.36%、チェーン速度1.01m/s、滴下給油の区分。多列係数 1.7。
解釈: 調整量が +8.78mm あるので、ここはテンショナのストロークを確認しておきたい水準だ。多列係数1.7は「1列の伝動能力に掛ける係数」で、2列にしても伝動能力が2倍にはならない(列によって張力配分が均等にならないため)。多列にしてもリンク数と軸間距離は1列と完全に同じという点も、実務では地味に効く。列数だけ変えても結果の数字が動かないのは不具合ではない。
ケース4:高速・衝撃の3列(RS80・25/50丁・500 min⁻¹)
入力: RS80(25.40mm)/小25丁・大50丁/仮軸間1000mm/500 min⁻¹/3列/高速・衝撃用途
結果: 計算リンク数 116.64 → 採用118リンク。実軸間距離 1017.33mm(+17.33mm)。軸間40.1倍で適正。減速比2.00、PCD 小202.66mm・大404.52mm。速度変動率0.79%、チェーン速度 5.29m/s、速度の振れ幅0.042m/s。潤滑は オイルバス以上。多列係数2.5。歯数判定は適正(高速用途の下限25丁ちょうど)。
解釈: チェーン速度5.29m/s は、この呼び番号の区分2上限(1.14m/s)を大きく超えている。手差しや滴下では持たず、オイルバスか強制給油が要る領域だ。調整量 +17.33mm は汎用テンショナのストロークを超える可能性があるので、設計寸法を 1017.33mm 側で描き直すほうが素直だろう。歯数25丁は高速用途の最低ラインで、JIS はここに「歯の硬化処理」も併せて要求している。
ケース5:軸間が短い例(RS80・17/34丁・仮軸間500mm)
入力: RS80(25.40mm)/小17丁・大34丁/仮軸間500mm/100 min⁻¹/1列/一般
結果: 計算リンク数 65.24 → 採用66リンク。実軸間距離 509.72mm(+9.72mm)。軸間は ピッチの20.1倍で「短い」判定。減速比2.00、PCD 小138.23mm・大275.28mm。速度変動率1.70%、チェーン速度0.72m/s、滴下給油の区分。
解釈: 装置の外形に合わせて軸間を詰めた結果、JIS 推奨の30倍を大きく下回った例。歯数も速度も潤滑も問題ないので、リンク数の計算だけ見ていると気づかない。短い軸間は巻き付き角の不足に直結するので、ここは黄の注意として画面に出る。禁止ではないが、寿命の見積もりは楽観しないほうがいい。太いRS80を短い軸間で使うと、こうなりやすい。
ケース6:等歯数で調整量ゼロ(RS50・21/21丁・仮軸間611.1875mm)
入力: RS50(15.875mm)/小21丁・大21丁/仮軸間611.1875mm/回転数は空欄/1列/一般
結果: 計算リンク数 98.00ちょうど → 採用98リンク。実軸間距離 611.1875mm、調整量 0.0mm。軸間38.5倍で適正。減速比1.00、PCD は両方106.51mm。速度変動率1.12%。回転数が空なので、チェーン速度・振れ幅・潤滑区分は表示されない。
解釈: 2つの狙いがある1件。ひとつは等歯数(減速比1.00)——増速も減速もせず、離れた2軸を同期させる継手代わりの使い方で、このとき第3項がゼロになり式が単純化する。もうひとつは「計算値がちょうど偶数になったらそのまま採る」こと。98.00 に対して100へ上げてはいけない。結果、調整量が厳密に0になり、仮の軸間距離がそのまま設計値になる。回転数を空にしてもリンク数・軸間距離・速度変動率が出ることも、この例で確認できる。
仕組み:JIS の式をどう実装したか
手法の選択:f3 の表を引くか、閉形式に展開するか
JIS B 1810 の原文は、リンク数を X0 = 2a0/p + (z1+z2)/2 + f3×p/(2a0) の形で与え、f3(軸間距離係数)を歯数差ごとの表で参照させる。実装の選択肢は2つあった。
- 規格の f3 表をそのまま配列で持つ
- f3 の定義から閉形式に展開する
採ったのは2だ。f3 は歯数差だけで決まる量で、f3 = (z2 − z1)² / (2π²) という関係が成り立つ。実際、歯数差10で 5.0661、20で 20.2642、30で 45.5945、40で 81.0569 と、表の値と厳密に一致する。これを代入すると第3項は (p/a0)·((z2−z1)/(2π))² になり、表を持たずに書ける。表は値が丸めて掲載されるため、表を引く実装は丸め誤差が入る。閉形式なら入らない。表のメンテも要らない。
実軸間距離の逆算も同じ考え方をした。採用リンク数 X から a を求めるのは、反復計算(a を仮定して X を出し、合うまで動かす)でもできるが、実は X0 の式は a について2次方程式に帰着するので閉形式で厳密に解ける。
A = 2·X − (z1 + z2)
D = A² − (8/π²)·(z2 − z1)²
a = (p/8)·( A + √D )
順算 → 偶数丸め → 逆算の往復を5組の歯数で検算したところ、逆算した a を順算の式に戻すと X が厳密に再現した。反復を使わないので、収束判定も反復回数の上限も要らない。
実装の肝:偶数丸めに許容誤差を引く理由
一見どうでもいい細部だが、ここを外すと2リンク間違う。
計算リンク数 X0 を偶数へ切り上げるとき、素直に書けば Math.ceil(X0) になる。ところが、X0 が数学的にはちょうど 96 になるはずの入力で、浮動小数点演算の結果が 96.00000000000001 になるケースが実在する。RS25・10/10丁・仮軸間273.05mm がそれだ。素の Math.ceil はこれを 97 に上げ、偶数化でさらに 98 になる。2リンク=12.7mm の過剰が、何のエラーも出さずに静かに混入する。
const EPS = 1e-9;
let X = Math.ceil(X0 - EPS); // ← EPS を引く
if (X % 2 !== 0) X += 1;
有効な入力域を走査したところ、この型の浮動小数点ケースは3885件見つかった。珍しい事故ではなく、遅かれ早かれ誰かが踏む。だから許容誤差を引いてから切り上げる。
もうひとつ、逆算の閉形式には落とし穴がある。この式は数学的には常に解けてしまう。たとえば RS80・100/100丁・仮軸間100mm を入れると a = 101.6mm という値を返すが、この2つのスプロケットは PCD 半径がそれぞれ404mmあり、完全に重なっている。判別式 D の符号でこれを弾こうとしても無駄で、有効入力域13万点あまりを走査して D が負になる点は0件だった(つまり D<0 のガードはデッドコードになる)。代わりに a ≤ (PCD小 + PCD大)/2 で物理的な干渉を直接チェックしている。通常の設計には当たらない(RS60・17/51丁・仮軸間600mm で余裕は2.91倍ある)。
計算例:RS60・17/51丁・仮軸間600mm を手で追う
p = 19.05mm, z1 = 17, z2 = 51, a0 = 600mm
第1項 2·600/19.05 = 62.992126
第2項 (17+51)/2 = 34.000000
第3項 (19.05/600)·((51−17)/(2π))² = 0.929698
X0 = 97.921824
→ 切り上げて98(偶数なのでそのまま採用)
A = 2·98 − 68 = 128
D = 128² − (8/π²)·34² = 16384 − 937.02 = 15446.98
a = (19.05/8)·(128 + √15446.98) = (19.05/8)·252.2859 = 600.755768mm
Δa = 600.755768 − 600 = +0.755768mm
この構成では第3項が 0.93 しかないので、省いても答えは 98 のまま変わらない。ところが歯数差を広げると話が変わる。RS40・20/120丁・仮軸間900mm では第3項が 3.57リンクになり、省略すると X0 が 215.31 ではなく 211.73 になって、採用リンク数は 216 ではなく 212——4リンクの差だ。軸間距離に直すと 904.52mm と 878.45mm で、26mm の食い違いになる。「小さいから無視できる」と「結果を変えない」は別だ。第3項の省略は、歯数差の大きい減速比で必ず牙をむく。
ポリゴナル作用の式は、規格ではなく幾何から来ている
このツールが出す速度変動率について、出どころをはっきりさせておく。
δ = 1 − cos(180° / z) z: 小スプロケットの歯数
この式は JIS B 1810 には記載が無い。規格本文には速度変動率もポリゴナル作用も出てこないし、チェーン速度の上限値も書かれていない。この式は、前半で見た「チェーンは正z角形として巻き付く」という幾何から直接導かれる帰結だ。
多角形に巻き付くということは、チェーンを引き上げる有効半径が一定でないことを意味する。ローラが頂点にあるときの半径は外接円の R、辺の中点にあたる位相では R·cos(180°/z) まで縮む。スプロケットが等速で回っていても、チェーンの直線部の速度はこの2つの半径のあいだで周期的に振れる。その振れ幅の比が 1 − cos(180°/z) だ。
数字にすると、なぜ JIS が17丁以上を推すのかが見える。
| 小スプロケット歯数 | 速度変動率 δ |
|---|---|
| 11丁 | 4.05% |
| 13丁 | 2.91% |
| 15丁 | 2.19% |
| 17丁 | 1.70% |
| 25丁 | 0.79% |
| 40丁 | 0.31% |
17丁がちょうど1.7%付近にあたる。歯数を減らすと変動率は加速度的に増え、増やしても25丁を超えたあたりから見返りが小さくなる。JIS の「17〜114」という帯は、この曲線の使いどころをうまく切り取っている。規格の数字を暗記するのではなく、曲線の形で理解しておくほうが、17丁を割る判断を迫られたときに効く。
定数はどこから来ているか、そして何を出さないか
このツールが持つ判定値は、いずれも JIS B 1810:2018 の本文に文章として書かれているものを採っている。多列係数の1.7と2.5は「2列チェーンの伝動能力は、1列チェーンのPd値に1.7を乗じ、3列チェーンの伝動能力は同じく2.5を乗じて選定する」という本文の記述そのままだ(4列の記載は本文に無いので、選択肢に入れていない)。歯数の17〜114と高速時の25丁は10.2項、軸間距離の30〜50倍は10.1項。潤滑区分の境界は附属書B.6 の v = 2.8·p^(−0.56)(区分1の上限)と v = 7.0·p^(−0.56)(区分2の上限)から計算している。区分3(オイルバス又はディスク給油)と区分4(強制給油)の境界式は取得できなかったので、そこは「オイルバス以上」とまとめてある。
そして、伝動能力(何kWまで送れるか)はこのツールでは出さない。これは実装をサボったのではなく、意図的な判断だ。伝動能力の計算はメーカーごとのPd値と、その元になる JIS B 1801:2020 の最小引張強さの表に依存する。この表を一次資料で確認しようとしたが、公開されている本文では表の中身が画像になっていてテキストとして検証できなかった。孫引きした数値を「規格値」として並べるのは、このサイトでは禁じ手にしている。検証できない数値は載せない——そのぶん、呼び番号が伝えられる動力に足りるかは、メーカーの伝動能力曲線と使用係数で確認してほしい。このツールが引き受けるのは、幾何(リンク数・軸間距離・PCD・速度)と JIS の推奨判定までだ。
メーカーの選定PDFや二輪向けツールとどう違うのか
前半で触れたとおり、チェーン選定の手順書はメーカー各社がPDFで丁寧に出している。ここでは、そのPDFや既存のWeb計算機と、このツールの守備範囲がどこで分かれるかだけを整理しておく。
1つめは、対象を産業機械の動力伝動用ローラチェーンに絞ってあること。 「チェーン 長さ 計算」で出てくるツールの大半は二輪・自転車向けで、主題は丁数を変えると速度と回転数がどう動くか、というところにある。リンク数を偶数に丸める話も、丸めたあとに軸間距離を逆算し直す話も出てこない。当サイトでも二輪はスプロケット丁数変更シミュレーターが担当していて、このツールとは入力欄からして噛み合わない。減速機の出力軸からコンベヤの駆動軸へ、という産業機械側の構図だけをこちらで扱う。
2つめは、丸めた「あと」まで出すこと。 手元の計算表やPDFの式は、計算リンク数 X0 を出したところで止まっているものが多い。だが設計図に落とすときに要るのは、偶数に丸めた採用リンク数と、それに対応する実際の軸間距離のほうだ。このツールは丸め前の値と採用値を並べ、仮の軸間距離から何mm動くかを符号付きで出す。テンショナのストロークに収まるかどうかは、この数字を見ないと判断できない。
3つめは、ポリゴナル作用による速度変動率を常に併記すること。 回転数が空欄でも表示される——歯数だけで決まる量だからだ。「小スプロケットは17丁以上」という推奨だけが数字として独り歩きしている状態に対して、その根拠になっている量を同じ画面に置いておきたかった。
役割分担も書いておく。滑ってよく、静かさと安さが要るならベルト伝動計算ツール。位置決めや同期が要るならタイミングベルト選定計算。軸間が近くて減速比を1段で大きく取りたいならギアモジュール計算。チェーンはその中間にいて、離れた2軸を滑らせずに、しかも歯車より安く結びたいときの選択肢になる。
豆知識:A系とB系、同じ番号でも寸法が違う
呼び番号の数字がピッチをインチの8分の1で表していることは前半の解説で扱った。ここでは、そのインチ刻みがどこから来て、どこで枝分かれしたかの話をする。
末尾の0には意味がある。 ローラチェーンを最初に規格化したのはアメリカで、ANSI/ASME B29.1 の系列(いわゆるA系)では、番号の上位の桁が8分の1インチ単位のピッチを、末尾の1桁が種別を表す。0が標準、1が軽量形、5がローラの無いブシュチェーンだ(Roller chain - Wikipedia)。現場で目にする番号がどれも0で終わっているのは、標準形しか使っていないからで、桁が足りないわけではない。
B系は16分の1インチ刻み。 一方、ヨーロッパ発のB系(06B・08B・10B…)は、同じインチ基準でありながら16分の1刻みで番号を振っている。つまり「8」という同じ数字が、A系では8/8インチ、B系では8/16インチを意味する。ピッチにして倍の開きだ。逆に、B系の08BとA系の40は、どちらも2分の1インチでピッチが一致する。ただし一致するのはピッチだけで、ローラ径もリンク内幅もプレート厚も別々に決められているので、部品としては互換しない。輸入機の図面に「08B-1」とあるのを見てRS80を手配すると、まるで違うものが届く。
ポリゴナル作用を歯形で逃がした別系統もある。 サイレントチェーンは、リンクのプレートそのものが歯の形をしていて、ローラではなくプレートの側面でスプロケットの歯面に乗る。多角形に巻き付くこと自体は変わらないが、歯から歯へ乗り移るときの段差が小さく、ローラチェーンより静かに回る。自動車のカム駆動に長く使われてきたのはこの静粛性が理由で、一度ゴムのタイミングベルトに置き換わったあと、耐久性と軸方向の寸法の小ささを買われて再び主流に戻った経緯がある(タイミングチェーン - Wikipedia)。産業機械の一般的な動力伝動でローラチェーンが主流なのは、価格と入手性がまるで違うからだ。
ついでに言うと、自転車のチェーンも2分の1インチピッチで、数字の上ではA系の40と同じ土俵に乗る。けれど幅も強度も別物で、規格の系統がそもそも違う。数字が同じというだけで話を進めると、たいてい痛い目に遭う。このツールが産業機械側に閉じているのも、同じ理由からだ。
Tips:暗算の目安と、現場での測り方
リンク数は第2項までで当たりが付く。 式の頭の2項、つまり軸間距離の往復をピッチで割った値と、両スプロケットの歯数の平均を足すだけで、たいていの構成は正解の1リンク以内に入る。
X ≈ 2a/p + (z₁ + z₂)/2
第3項は歯数差の2乗に比例するので、減速比が2〜3倍程度なら丸めの中に埋もれてしまう。歯数差が大きく開く構成でだけ効いてくるから、暗算値とツールの「計算リンク数(丸め前)」を見比べて、差が1リンクを超えたところで暗算は諦める、という付き合い方でよい。
既設チェーンのリンク数は外リンクだけ数えて2倍する。 ローラチェーンは外リンクと内リンクが必ず交互に並ぶので、ピンの頭が見えている側のプレートを一周数えて2倍すれば総リンク数になる。全部数えようとすると必ずどこかで見失う。数え終わった値は偶数になるはずで、奇数が出たらオフセットリンクが1つ入っていると思っていい。
軸間距離は軸の外側同士を測って、軸径の平均を引く。 中心間距離を直接測る手段は現場にはない。2本の軸の外側から外側までをスケールで測り、そこから両軸の直径の平均を引けば中心間距離になる。軸径が違っていても平均でよい。
最初の当たりはピッチの40倍に置く。 軸間距離をこれから決められる立場なら、ピッチの40倍から始めるといい。推奨帯のちょうど真ん中に落ちるので、あとから歯数を多少動かしても帯の外へは出ていかない。
よくある質問(FAQ)
計算リンク数がちょうど偶数で出た。念のため次の偶数まで足しておくべきか
足さなくていい。丸め前の値がちょうど偶数なら、その値がそのまま採用リンク数になり、仮の軸間距離からの調整量は0mmと表示される。仮に2リンク足すと、前半の実務の節で触れたとおり軸間距離はおよそ1ピッチ分伸びることになり、テンショナで吸収するにもストロークを余計に食う。チェーンでは「念のため長め」が効かない——余った長さはたるみとして現れ、たるみは負荷変動で暴れる原因になる。ツールが偶数だと言っているなら、その値で発注してよい。
リンク数を1つ減らして軸間を詰めたい。奇数リンクでもいいのか
原則としてやめたほうがいい。奇数にするにはオフセットリンクを1つ入れることになり、前半で触れたとおりその部分だけ強度が落ちる。このツールが常に偶数へ切り上げるのもそのためで、奇数の選択肢は初めから出していない。どうしても詰めたい場合は、リンク数ではなく歯数を1〜2丁動かして調整するほうが素直だ。歯数を変えれば計算リンク数も実軸間距離も一緒に動くので、何通りか入れて比べてみてほしい。それでも収まらないなら、軸の取付位置を描き直すか、テンショナを追加する判断になる。
回転数を入れないとリンク数も出ないのか
出る。回転数は任意入力で、空欄のままでも採用リンク数・実軸間距離・調整量・ピッチ円直径・減速比、そしてポリゴナル作用による速度変動率まで表示される。速度変動率は歯数だけで決まる量なので、回転数がなくても計算できるからだ。回転数を入れると、これに加えてチェーン速度・速度の振れ幅・潤滑区分が出る。範囲外の回転数を入れてしまったときも、この速度まわりの3つが出なくなるだけで、リンク数と軸間距離はそのまま使える。回転数がまだ決まっていない構想段階でも、チェーンの長さだけ先に押さえられる。
伝動能力(何kWまで送れるか)は出ないのか
出していない。理由は前半の仕組みの節で説明したとおりなので、ここでは実務的にどうすればいいかだけ書く。選んだ呼び番号が必要な動力に足りるかどうかは、メーカーが公表している伝動能力曲線——小スプロケットの回転数を横軸に、伝達できるkWを縦軸に取ったグラフ——で判断してほしい。そのとき、モーターの軸出力をそのまま当てるのではなく、駆動側と被動側の特性から決まる使用係数を掛けた値で読むこと。多列にするなら、このツールが表示する多列係数を1列の伝動能力に掛けて比べる。幾何と推奨判定まではこちらで、能力の可否はカタログで、という分担になる。
入力した歯数や軸間距離はどこかに送信されているのか
送信していない。計算はすべて閲覧しているブラウザの中で完結していて、入力値がサーバーへ送られることも、保存されることもない。ページを閉じれば何も残らない。検討中の機番や軸間距離は社外に出せない情報であることが多いので、この点はツールを作るときの前提にしている。裏を返すと、入力内容はページを離れた時点で消えるので、検討結果を残したいときは結果のコピー機能でテキストに書き出して、手元の設計メモに貼り付けておいてほしい。
まとめ
チェーンのリンク数は、偶数に丸めた瞬間に軸間距離が動く。その動いた先の数字まで出すのがこのツールの役目で、あわせてJIS B 1810の推奨判定と、17丁という推奨の根拠になっている速度変動率を1画面に並べた。呼び番号と歯数と仮の軸間距離さえあれば、あとは読むだけになる。
同じ2軸を結ぶのに別の要素を検討するなら、同期が要るときはタイミングベルト選定計算、滑ってよくて静かさと安さを取るならベルト伝動計算ツールを見てほしい。二輪の丁数を変えたときの速度変化はスプロケット丁数変更シミュレーターが担当していて、こちらは産業機械側だけを扱っている。
計算が合わない、こういう入力を足してほしい、といった要望があればお問い合わせページから教えてほしい。
Mahiro
Mahiro Appの開発者。コンベヤの駆動チェーンを1リンク数え間違えて、現場でテンショナが目いっぱいになっているのを見たことがある設計者。あれ以来、リンク数は必ず偶数に丸めてから軸間距離を計算し直す癖がついた。
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