銘板は1730rpm、カタログの表は1800rpm。この70rpmの正体
モーターの銘板を覗き込むと「3.7kW 60Hz 1730 r/min」と刻印されている。ところがメーカーのカタログで4極機の回転数欄を見ると1800rpmと書いてある。この70rpmの差は測定誤差なのか、それとも意味のある数字なのか。現場で一度は引っかかるポイントだよね。
答えは後者だ。1800rpmは固定子がつくる回転磁界そのものの速度、いわゆる同期速度。1730rpmは実際に軸が回っている速度。この差こそが誘導電動機がトルクを生むための必須条件で、専門用語では「すべり」と呼ぶ。割合にすると (1800−1730)/1800 = 3.89%。汎用三相誘導電動機の定格すべりはおおむね1〜6%に収まるから、1730rpmという半端な数字はごく標準的な4極機の銘板値ということになる。
誘導モーター 同期速度・すべり計算は、周波数と極数からこの2つの回転数を出す順引きに加えて、銘板のrpmしか手元にないときに極数とすべりを逆算する逆引きモードを備えたツール。すべり周波数、二次側の電力配分、定格トルクまで1画面で読める。
極数ではなく銘板rpmから出発したかった
世の中の解説はすべて「順方向」だった
このツールを作る前、同期速度の計算式を調べて出てくるページを片っ端から見た。どれも判で押したように Ns = 120f/P から始まる。周波数と極数を入れれば同期速度が出る、という順方向だ。式としては正しい。ただ、現場の状況とは順序が逆だった。
保全の現場でモーターの前に立ったとき、手元にある情報は何か。銘板だ。銘板には出力kW、電圧、電流、周波数、そして定格回転数 r/min が書いてある。ところが極数はほとんどの銘板に書かれていない。書いてあるのはむしろ「1730」という結果の方で、知りたい「4極」という原因の方が空欄になっている。順方向の計算式を持っていても、入力すべき極数が分からないから使えない。
実際、更新機種の選定で「今ついてるモーターは何極ですか」と聞かれ、銘板写真をにらみながら電卓を叩いた経験がある。1730rpm、60Hz。3600で割ると…いや違う、1800に近いから4極か。この程度の暗算でも、ポンプ室で汗をかきながらやると自信が持てない。ましてや490rpmや3450rpmのような見慣れない値だと、候補を一つずつ潰していく必要がある。
逆引きを核に据えた
そこで、極数候補(2/4/6/8/10/12極)それぞれの同期速度を全部計算し、銘板値に最も近いものを選ぶ処理をツール側に持たせた。これが逆引きモード。銘板のrpmと周波数を入れるだけで、極数・すべり・すべり周波数が同時に出る。
ついでに、電験三種で必ず問われる「二次入力:二次銅損:機械出力=1:s:(1−s)」の電力配分と、定格トルク T = 9550 × kW / N も同じ画面に出すことにした。すべりを求める場面と、そのすべりが何を意味するかを考える場面は地続きだからだ。回転数だけ出して終わりのツールにはしたくなかった。
同期速度とすべりとは何か — 誘導電動機の第一原理
回転磁界と同期速度 — 120f/P はどこから来るのか
三相誘導電動機の固定子には、120度ずつ位相のずれた三相交流が流れる巻線が配置されている。この3組の巻線がつくる磁界を合成すると、大きさが一定のまま空間をぐるぐる回る磁界になる。これが回転磁界だ。モーターの中で物理的に何かが回っているわけではなく、磁界のピーク位置が次々に隣の巻線へ移っていくことで「回っているように見える」。
たとえるなら、駅前の電光掲示板を流れる文字。LEDそのものは動かないのに、点灯位置が順に移ることで文字が右から左へ流れて見える。回転磁界も同じで、電流のピークが巻線を順番に移っていくことで磁界が円周上を移動する。
この回転磁界の速度が同期速度だ。1極対(N極とS極のペア=2極)の巻線なら、電流が1周期進むあいだに磁界はちょうど1回転する。つまり毎秒 f 回転。1分あたりに直すと 60f 回転。極数が増えると1周期あたりの磁界の移動角度が反比例して小さくなるので、極対数 p で割る。極数 P = 2p なので次のようになる。
Ns = 60 × f / p = 60 × f / (P/2) = 120 × f / P [rpm]
f : 電源周波数 [Hz]
P : 極数(2, 4, 6, 8, 10, 12 …)
p : 極対数 = P / 2
分子の120は「60秒×2」に由来する。魔法の定数ではなく、単位換算と極対数の変換が一つにまとまっただけの数字だ。この式から、60Hzの4極機は 120×60/4 = 1800rpm、50Hzの同じ4極機は 120×50/4 = 1500rpm になる。同じモーターでも東日本と西日本で回転数が300rpm違うのは、この式の f が変わるからだ。
すべりとは何か。ゼロだとトルクが出ない理由
回転子(ローター)は、この回転磁界に引きずられて回る。ただし回転磁界と同じ速度までは絶対に到達しない。ここが誘導電動機の核心だ。
かご形回転子は、鉄心に埋め込んだ導体バーの両端を短絡環でつないだ構造をしている。回転磁界が回転子を追い越すとき、導体バーは磁束の変化を受けて誘導起電力を生じ、閉回路なので電流が流れる。その電流と磁界の相互作用(フレミングの左手の法則)でトルクが発生する。
ここで仮に回転子が回転磁界と同じ速度まで加速したとする。すると回転子から見た磁界は静止して見え、磁束の変化がゼロになる。変化がなければ誘導起電力もゼロ、電流もゼロ、トルクもゼロ。加速する力を失うので必ず減速する。つまり電動機として運転している限り、回転子は必ず回転磁界より遅い。この必然的な速度差を同期速度で割ったものがすべりだ。
s = (Ns − N) / Ns (無次元)
s[%] = (Ns − N) / Ns × 100 (百分率)
Ns : 同期速度 [rpm]
N : 実回転数 [rpm]
エスカレーターを逆走しながら少しずつ上る状況に近い。完全に静止したら(=同期速度に達したら)足を動かす理由がなくなり、上向きの力も消える。誘導電動機のトルクは「わずかに追いつけていない」ことそのものから生まれている。
始動の瞬間は N = 0 なので s = 1(100%)。負荷が増えて回転数が落ちるとすべりは大きくなり、無負荷に近づくとすべりは小さくなる。汎用三相誘導電動機の定格すべりは1〜6%程度で、小容量機ほど大きめ、大容量機ほど小さめになる傾向がある。
すべり周波数 fs = s·f が意味するもの
回転子の導体が実際に感じる磁束の変化の周波数を、すべり周波数と呼ぶ。回転磁界と回転子の相対速度が Ns − N = s·Ns なので、周波数もそのまま s 倍になる。
fs = s × f [Hz]
始動時(s = 1)は fs = f で電源周波数そのもの。定格運転時は s が数%なので fs は数Hz以下まで下がる。60Hzで4極・すべり3.89%なら fs = 0.0389 × 60 = 2.334Hz。回転子の鉄損がほとんど問題にならないのは、定格運転中の回転子内部が実質的に数Hzの低周波世界だからだ。ベクトル制御インバータが「すべり周波数制御」という名前で内部的に扱っているのも、この fs にほかならない。
すべりが負になる領域 — 誘導発電機
外部から機械的に回されて N > Ns になると、s は負になる。回転磁界に対して回転子が先行するため、トルクの向きが反転して制動トルクとなり、機械エネルギーを電源側へ返す。これが誘導発電機、あるいは回生制動の領域だ。風力発電機や、下り坂を降りるクレーン・エレベーターの巻上機で日常的に起きている。本ツールはすべりに負値を入れても計算を止めず、回生領域として結果を出す。
極数を取り違えると何がずれるのか
回転数の誤認は流量・風量計算まで連鎖する
極数の判定を1段間違えると、同期速度は大きく飛ぶ。60Hzなら4極が1800rpm、6極が1200rpm。1.5倍の差だ。ポンプやファンの世界では、この回転数差が相似則を通じて性能値へ増幅されて効いてくる。
流量 Q ∝ N (回転数に比例)
揚程 H ∝ N² (回転数の2乗)
軸動力 P ∝ N³ (回転数の3乗)
回転数が1.5倍なら、流量は1.5倍、揚程は2.25倍、軸動力は 1.5³ = 3.375倍。4極機と6極機を取り違えたまま「同じモーターに交換した」つもりでいると、軸動力の見積りが3倍以上ずれる。過負荷でサーマルが飛ぶか、逆に能力不足で流量が出ないかのどちらかになる。
もっと身近なのが50Hz機と60Hz機の混同だ。同じ4極でも同期速度は1500rpmと1800rpm、比にして1.2倍。軸動力は 1.2³ = 1.728倍 になる。50Hz地域で使っていたファンを60Hz地域へ移設しただけで軸動力が約73%増える計算で、モーターは定格を超える。50Hz専用機の銘板に「60Hz使用不可」と書かれていることがあるのは、電圧と磁束の関係だけでなくこの軸動力の増加が理由の一つだ。
インバータ導入時の周波数設定を外さないために
インバータで省エネを狙う場合も同じ話が効く。風量を80%に絞りたいなら周波数を80%にすればよく、軸動力は 0.8³ = 0.512、つまり約半分になる。これがファン・ポンプのインバータ化が省エネに直結する理由だ。ただし出発点の同期速度を間違えていると、目標回転数から逆算した設定周波数がまるごとずれる。60Hz・4極機を50Hz・4極機と誤認して周波数を設定すると、風量が20%過剰になったまま「省エネしたつもり」の運転が続く。
電験三種での 1:s:(1−s)
学習の面でも、すべりは避けて通れない論点だ。第三種電気主任技術者試験の機械科目では、二次入力・二次銅損・機械出力の比が 1 : s : (1−s) になるという関係が繰り返し出題される。すべりが13%なら二次入力の13%が回転子の抵抗で熱になっているという意味で、効率の話に直結する。式を丸暗記して臨むと数値がひっくり返るが、具体的な数字で何度も出力を眺めると腹落ちしやすい。本ツールが計算のたびにこの比を表示しているのは、そのためだ。
銘板の前、試験問題の前、インバータ設定の前
設備保全での銘板判読。ポンプ室やファン室で銘板の前に立ち、周波数とrpmを入れるだけで極数が出る。更新機種の選定書に「4極・1730rpm」と書くための根拠がその場で取れる。
インバータ導入時の回転数見積り。40Hzで運転したら何rpmになるのか、すべり周波数はどこまで下がるのかを事前に把握できる。目標風量から必要周波数を逆算する前段の確認に使える。
電験三種・エネルギー管理士の学習。Ns = 120f/P と s = (Ns−N)/Ns を数字で何度も往復し、電力配分 1 : s : (1−s) を同時に眺められる。過去問の数値を入れて答え合わせに使うのが早い。
モーター更新時の互換性チェック。旧機が50Hz・1440rpm、新機が60Hz・1730rpmといった組み合わせで、同期速度がどれだけ変わるかを即座に比較できる。負荷側の許容回転数を超えないかの一次判断になる。
工業高校・高専・大学の実験レポート。実測回転数からすべりを算出し、負荷の増減でどう変化したかを整理する用途。回生領域まで扱えるので、発電機動作の実験にも対応する。
3ステップで使う
1. 計算モードを選ぶ。極数が分かっているなら順引き(極数・すべり → 回転数)、銘板の定格回転数しか分からないなら逆引き(銘板rpm → 極数・すべり)を選ぶ。銘板プリセットを選べば、汎用三相3.7kW・高速ポンプ5.5kW・低速ブロワ11kWなど代表的なモーターの値が一括で入る。
2. 周波数と、モードに応じた値を入れる。電源周波数は商用なら東日本50Hz・西日本60Hz、インバータ運転なら設定周波数を入れる(1〜400Hzまで受け付ける)。順引きでは極数とすべり%、逆引きでは銘板の定格回転数rpmを入力する。定格出力kWは任意入力で、入れると定格トルクが追加表示される。空欄でも他の結果は問題なく出る。
3. 結果を読む。同期速度・実回転数・すべり・すべり周波数・極数が並び、速度バーで同期速度に対する実回転数の位置とすべり分の幅が視覚化される。電動機領域なら電力配分 1 : s : (1−s) も表示。逆引きモードでは極数欄に「逆引きによる推定値」と注記が付く。結果はワンタップでコピーできる。
実際に計算した8ケース
以下はすべてツールに同じ値を入れて得た出力。順引き・逆引き・インバータ運転・高すべり・回生領域・境界の同値ケースまで一通り並べた。
ケース1: 汎用三相 60Hz・4極・すべり3.89%(順引き)
入力 モード順引き / f = 60Hz / P = 4極 / s = 3.89% / 定格出力 3.7kW
結果 Ns = 1800rpm、N = 1729.98rpm、fs = 2.334Hz、T = 20.4251N·m、電力配分 1 : 0.0389 : 0.9611
解釈 冒頭で触れた「銘板1730rpm」の正体がこれ。120×60/4 = 1800 の同期速度に対し、3.89%だけ遅れて1729.98rpmになる。銘板は10rpm単位に丸めて1730と刻印されている。すべりは標準域なので判定は緑。
ケース2: 銘板 60Hz・1730rpm から極数を逆算(逆引き)
入力 モード逆引き / f = 60Hz / N = 1730rpm / 定格出力 3.7kW 結果 P = 4極(推定)、Ns = 1800rpm、s = 3.8889%、fs = 2.3333Hz、T = 20.4249N·m 解釈 極数候補それぞれのすべりは、2極(Ns = 3600)で51.94%、4極(1800)で3.8889%、6極(1200)で−44.17%、8極(900)で−92.22%。絶対値が最小の4極が採用される。ケース1と対になっており、順引き⇔逆引きが同じモーターを指していることが確認できる。
ケース3: 高速ポンプ 60Hz・3450rpm(逆引き)
入力 モード逆引き / f = 60Hz / N = 3450rpm / 定格出力 5.5kW 結果 P = 2極(推定)、Ns = 3600rpm、s = 4.1667%、fs = 2.50Hz、T = 15.2246N·m 解釈 3450rpmという値を見て即座に「2極」と答えられる人は多くない。ツールなら候補を総当たりして2極(Ns = 3600)を返す。出力5.5kWと大きいのにトルクは15.2N·mしかない。高速機は同じ出力でもトルクが小さいという特徴が出ている。
ケース4: 低速ブロワ 50Hz・960rpm(逆引き)
入力 モード逆引き / f = 50Hz / N = 960rpm / 定格出力 11kW
結果 P = 6極(推定)、Ns = 1000rpm、s = 4.00%、fs = 2.00Hz、T = 109.4271N·m
解釈 6極機は 120×50/6 = 1000rpm。同じ11kWを4極50Hz(1440rpm)で回すとトルクは 9550×11/1440 = 72.95N·m なので、6極は約1.5倍のトルクを出していることになる。ベルトやカップリングの選定で効いてくる差だ。
ケース5: インバータ運転 40Hz・4極(順引き)
入力 モード順引き / f = 40Hz / P = 4極 / s = 4.17% / 定格出力 3.7kW
結果 Ns = 1200rpm、N = 1149.96rpm、fs = 1.668Hz、T = 30.7272N·m
解釈 ケース1と同じ4極機を40Hzで回した状態。同期速度は1800→1200rpmに縮み、すべり周波数も2.334→1.668Hzへ比例して下がる。トルクは20.43→30.73N·mと増えるが、これは T = 9550×kW/N の N が小さくなったことによる値で、実機では低速域の冷却能力低下を別途考える必要がある。
ケース6: 高すべり 60Hz・8極・すべり13%(順引き・定格出力は空欄)
入力 モード順引き / f = 60Hz / P = 8極 / s = 13% / 定格出力は未入力 結果 Ns = 900rpm、N = 783rpm、fs = 7.80Hz、電力配分 1 : 0.13 : 0.87 解釈 二次入力の13%が二次銅損として回転子で熱になっている状態。汎用機の1〜6%を大きく超えるのでツールは高すべり警告を出す。高すべり形の特殊機(クレーン・打抜きプレス用など)か、銘板値・周波数の入力ミスを疑う場面だ。定格出力を空欄にするとトルク欄は表示されず、0N·mのような誤解を招く値は出ない。
ケース7: 回生領域 60Hz・4極・すべり−2.5%(順引き)
入力 モード順引き / f = 60Hz / P = 4極 / s = −2.5% / 定格出力 3.7kW
結果 N = 1845rpm、Ns = 1800rpm、fs = −1.50Hz、T = 19.1518N·m、回生領域フラグON
解釈 同期速度1800rpmを45rpm上回っている。外部から回されている状態で、誘導発電機(回生制動)として動作する。すべり周波数も負の符号のまま表示する。この領域では 1 : s : (1−s) が 1 : −0.025 : 1.025 という電動機の関係式として成立しない比になるため、電力配分行そのものを非表示にしている。
ケース8: 境界の同値ケース 60Hz・1440rpm(逆引き)
入力 モード逆引き / f = 60Hz / N = 1440rpm / 定格出力は未入力
結果 P = 4極(推定)、Ns = 1800rpm、s = 20.00%、fs = 12.00Hz
解釈 逆引きの意地悪ケース。4極なら (1800−1440)/1800 = +20.00%、6極なら (1200−1440)/1200 = −20.00% で、すべりの絶対値が完全に一致する。ツールは電動機領域(s > 0)を優先する規則で4極を採るが、20%は汎用機の域を外れるため確信度の注意も同時に出る。実際は50Hz機(1500rpm相当)の銘板を60Hzで読んだ、といった入力ミスの可能性が高い。
仕組みと設計判断
逆引きの候補探索 — なぜ「すべりの絶対値が最小」なのか
逆引きモードの中身は総当たりだ。極数候補 2/4/6/8/10/12極それぞれについて同期速度とすべりを計算し、最も筋の通る1つを選ぶ。
POLE_CANDIDATES = [2, 4, 6, 8, 10, 12]
for P of POLE_CANDIDATES:
Ns_P = 120 * f / P
s_P = (Ns_P - N) / Ns_P * 100
polesUsed = argmin_P |s_P|
同値なら s_P > 0(電動機領域)を優先
なお同値なら極数の小さい方
|s| > 20% なら極数を特定できないとして null を返す
採用の判定基準には2つの候補があった。ひとつは「N より大きい最小の Ns を選ぶ」方式。誘導電動機は必ず同期速度より遅く回るのだから、銘板値をぎりぎり上回る同期速度が正解のはず、という発想だ。実装も単純になる。
これを捨てた理由は、逆引きに60Hz・1850rpmを入れてみると分かる。この値は4極の同期速度1800rpmを50rpm超えている。「N より大きい最小の Ns」方式だと4極は候補から外れ、次に大きい2極(Ns = 3600rpm)が選ばれてしまう。そのときのすべりは48.61%で、現実の誘導機ではまず出ない値だ。
一方「すべりの絶対値が最小」方式なら、2極の48.61%より4極の−2.7778%の方が小さいので4極が選ばれ、すべり周波数は−1.6667Hz、回生領域として正しく判定される。回生中のクレーン巻上機やインバータの減速中に実測した回転数を入れたとき、素直な答えを返すのはこちらだ。
逆引き 60Hz・1850rpm の候補比較
2極: Ns = 3600rpm → s = (3600−1850)/3600 = +48.61%
4極: Ns = 1800rpm → s = (1800−1850)/1800 = −2.7778% ← |s| 最小
同値のタイブレークと、特定できないときの打ち切り
すべりの絶対値が2つの極数で完全に一致することがある。ケース8の60Hz・1440rpmがそれで、4極が+20.00%、6極が−20.00%。この場合は「s > 0(電動機領域)を優先し、なお同値なら極数の小さい方」という規則で4極に決める。誘導電動機が電動機として使われる頻度の方が圧倒的に高い以上、迷ったら電動機側に倒すのが実務的だからだ。
逆に、どの極数を選んでもすべりが大きすぎる場合は答えを返さない。閾値は |s| ≦ 20%。たとえば60Hzで300rpmを入れると、最も近い12極でも Ns = 120×60/12 = 600rpm で s = (600−300)/600 = 50% になる。この場合は極数を特定できない旨を表示し、減速機付き(ギヤードモーター)の出力軸回転数を入力した可能性を案内する。銘板に「1/6 減速」と併記されたタイプで実際に起きる勘違いだ。
順引きモードのすべり入力範囲も同じ ±20% に揃えてある。順引きで入力できる組み合わせは必ず逆引きでも解けるので、2つのモードのあいだに「順引きでは計算できるのに逆引きでは弾かれる」というデッドゾーンが生じない。
二次入力:二次銅損:機械出力 = 1:s:(1−s) の導出
回転子(二次側)に磁気的に受け渡される電力を二次入力 P2 とする。二次側で消費される抵抗損(二次銅損)を Pc2、残って軸から取り出される機械出力を Pm とすると、機械損・鉄損を無視した理想化のもとで次が成り立つ。
P2 = Pc2 + Pm
回転子に誘起される起電力は相対速度に比例するので、二次入力のうちすべりに相当する割合がそのまま二次銅損になる。つまり Pc2 = s × P2。残りが機械出力なので Pm = (1 − s) × P2。3つを P2 で割って比の形にすると次のようになる。
P2 : Pc2 : Pm = 1 : s : (1 − s)
ケース6の8極・すべり13%なら 1 : 0.13 : 0.87。二次入力の13%が回転子で熱になり、87%だけが軸から出てくる。すべりが大きい運転が回転子の発熱を招く理由が、この一行で説明できる。ケース1の3.89%なら 1 : 0.0389 : 0.9611 で、損失は4%弱に収まる。なおこの関係式は電動機領域でのみ意味を持つため、すべりが負のときは表示しない設計にした。
定格トルクの係数9550について
トルクは T[N·m] = 9550 × 出力[kW] / 回転数[rpm] で計算している。この9550は角速度換算 60000/(2π) に由来し、厳密には9549.30。9550を使うと0.007%だけ大きく出るが、JIS規格の解説もメーカーカタログも揃って9550を採用しているため、照合しやすさを優先してこちらに合わせた。
最後に、計算例としてケース2を最初から追ってみる。銘板60Hz・1730rpm・3.7kWのモーターだ。
1) 極数候補ごとの同期速度と すべり
2極: Ns = 120×60/2 = 3600rpm → s = +51.94%
4極: Ns = 120×60/4 = 1800rpm → s = +3.8889% ← |s| 最小
6極: Ns = 120×60/6 = 1200rpm → s = −44.17%
8極: Ns = 120×60/8 = 900rpm → s = −92.22%
2) 極数を4極に確定 → Ns = 1800rpm、s = 3.8889%
3) すべり周波数
fs = 0.038889 × 60 = 2.3333Hz
4) 電力配分
1 : 0.038889 : 0.961111
5) 定格トルク
T = 9550 × 3.7 / 1730 = 20.4249 N·m
銘板の数字2つ(周波数と回転数)だけで、ここまで一気に埋まる。手計算なら候補ごとに割り算を4回、そのあとすべりを4回計算して比較する必要があるところを、入力2つに置き換えたのがこのツールの中身だ。
他ツールとの違い — 銘板のrpmから極数を逆算できるか
メーカーの技術解説は「順方向」で止まっている
モーターメーカーの技術資料も、Webで見つかる同期速度の電卓も、扱っているのはほぼ Ns = 120f/P の順方向だけだ。周波数と極数を入れれば同期速度が出る。それはそれで正しいのだが、現場で手元にあるのは極数ではなく銘板に刻印された定格回転数だ。1730、1440、3450、960 — この数字から逆に極数とすべりを求める道具が、探してもほとんど見つからなかった。だからこのツールは順引きと逆引きを対等なモードとして持たせ、銘板が油で汚れて極数欄が読めないという保全現場の状況をそのまま入口にした。
電力配分と回生領域まで面倒を見る
既存の電卓が持たない要素があと2つある。ひとつは 二次入力 : 二次銅損 : 機械出力 = 1 : s : (1−s) の電力配分表示。電験三種で頻出しながら、回転数の電卓とは別ページで解説されがちな論点だ。60Hz・8極・すべり13%なら 1 : 0.13 : 0.87 と表示され、二次入力の13%が回転子で熱になっていることが数字で見える。もうひとつは負のすべりへの対応。同期速度より速く回る誘導発電機・回生制動の領域を、入力エラーで撥ねずに注記付きで計算する。60Hz・実測1850rpm を逆引きすれば 4極・すべり −2.7778% と出る。
関連ツールとの役割分担
回転数まわりの計算は、このツール1本で完結させるつもりはない。始動電流と始動方式の比較は電動機始動電流シミュレーター、慣性モーメントと加減速から容量を決めるのはサーボモーター選定ツール、複数台の合計から契約電力を出すのは需要率・契約電力計算ツール、遅れ力率の改善量を求めるのは力率改善コンデンサ計算機の守備範囲だ。このツールが引き受けるのは「その1台が毎分何回転で回り、同期速度からどれだけ遅れているか」に絞ってある。
誘導モーターの数字にまつわる豆知識
極数に奇数が存在しない理由
N極だけの磁石は作れない。固定子巻線に電流を流せば必ずN極とS極が対で生まれる。だから極数は 2, 4, 6 … と必ず偶数になり、3極や5極の誘導電動機は原理的に存在しない。このツールの極数が選択式になっているのも、自由入力にすると奇数を打ててしまうからだ。
東日本50Hz・西日本60Hzという世界的にも珍しい分断
明治期、東京電燈がドイツAEG製の50Hz発電機を、大阪電燈がアメリカGE製の60Hz発電機を導入した。そのまま各々の系統が拡大し、富士川・糸魚川あたりを境にした周波数の分断が固定化した(商用電源周波数)。この選択の影響は今も現役で、同じ4極モーターでも同期速度は50Hzで1500rpm、60Hzで1800rpm。工場を東から西へ移設した途端にファンの風量が変わる、という話の根っこはここにある。
銘板の単位は rpm ではなく r/min
定格回転数は設計者がきりの良い値を決めたのではなく、定格負荷をかけたときに実際に回る速度の実測に基づく値だ。すべりは回転子抵抗や負荷条件から決まる結果なので、銘板の数字が半端になるのは必然といえる。ついでに言うと、銘板の単位表記は rpm ではなく r/min や min⁻¹ がJIS・SIの流儀。現場では rpm と読み書きされるが、図面や仕様書では r/min を見かけることのほうが多い。
使いこなしのTips
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銘板が読めないときは周波数を両方試す: 逆引きで妥当な極数が出ないときは、まず周波数の選択を疑う。50Hz と 60Hz を切り替えて、すべりが1〜6%の常識的な範囲に収まるほうが正解であることが多い。それでも解けないなら減速機付き(ギヤードモーター)の出力軸回転数を読んでいる可能性が高い。
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すべりで負荷率をざっくり読む: 低すべり領域では、すべりは発生トルクにほぼ比例する。銘板が60Hz・1730rpm(定格すべり3.8889%)のモーターを実測して、逆引きで出たすべりが定格の半分程度なら、負荷率もおおむね半分と当たりがつく。回転計1本で負荷状態を推し量れる、現場で効くテクニックだ。
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極数が変わるとトルクの桁が変わる: 60Hz・2極・3450rpm の5.5kWポンプは定格トルク15.2246N·m、50Hz・6極・960rpm の11kWブロワは109.4271N·m。低速機ほど同じ出力でも大きなトルクを出す。軸径やキー・カップリングの選定は回転数を見ずに kW だけでは決められない。
よくある質問
すべりがゼロにならないのはなぜ?
すべりゼロ、つまり回転子が回転磁界とまったく同じ速度で回る状態では、回転子の導体を横切る磁束の変化がなくなる。変化がなければ誘導起電力も回転子電流も発生せず、トルクもゼロになる。トルクが出なければ摩擦や風損で減速し、必ずわずかに遅れる。誘導電動機は「遅れているからこそトルクが出る」機械であり、すべりゼロは理論上の到達点でしかない。実機は無負荷でも0.1〜1%程度、定格負荷の汎用機で1〜6%程度のすべりを持つ。本ツールで順引きにすべり0を入れると計算自体は通るが、トルクが発生しない理想状態である旨の注記が出る。
逆引きで「極数を特定できません」と出るのはなぜ?
2〜12極のどの候補で計算しても、すべりの絶対値が20%を超えてしまう場合にこの表示になる。原因は主に3つ。ひとつは電源周波数の選択ミスで、50Hz機の銘板値を60Hzで解こうとしているケース。ふたつめは減速機付きモーターの出力軸回転数(数十〜数百rpm)を入力しているケースで、この数字はモーター本体の回転数ではないため極数は求まらない。みっつめは単に桁の打ち間違い。まず周波数を切り替えて再計算し、それでも解けなければ銘板の「r/min」欄と減速比の欄を見直してほしい。
すべりが負になる(同期速度より速く回る)とどうなる?
誘導発電機、あるいは回生制動の領域に入る。実務でこれが起きるのはエレベーターの下降、コンベアの下り勾配、インバータの減速中、そして風力発電機だ。本ツールは負のすべりをエラーにせず、すべり周波数も符号付きのまま計算する。ただし 二次入力 : 二次銅損 : 機械出力 = 1 : s : (1−s) は電動機領域の関係式なので、この領域では表示を止めている。負のすべりでは 1 : −0.025 : 1.025 のような比になり、物理的な意味を持たないためだ。
インバータで周波数を上げれば回転数はいくらでも上がる?
同期速度そのものは Ns = 120f/P のとおり周波数に比例して上がる。ただし出せるトルクは別問題だ。V/f一定制御では電圧と周波数の比を保ったまま加速するが、電圧は電源電圧が頭打ちになる基底周波数(通常は商用の50Hzまたは60Hz)までしか上げられない。それを超える領域では電圧が一定のまま周波数だけが上がるため磁束が弱まり、発生トルクはおおむね周波数に反比例して低下する。本ツールは同期速度を計算するが、必要なトルクが得られるかは判定しない。60Hzを超える設定で注意が表示されるのはこのためだ。軸受・冷却ファン・機械側の許容回転数の上限も別途確認してほしい。
入力した銘板の値はどこかに送信される?
されない。周波数・極数・すべり・定格回転数・定格出力のすべてはブラウザ内のJavaScriptで計算しており、サーバーへ送る通信は一切行っていない。入力値の保存もしていないので、ページを閉じれば何も残らない。社内設備の型式や台数が推測できるような数字を扱う場面でも、そのまま入力して問題ない。
まとめ
銘板の r/min を起点に、同期速度・すべり・すべり周波数・極数・定格トルク・電力配分までを一画面で読み切れるようにした。順引きは学習と設計検討に、逆引きは現場の銘板判読に使ってほしい。
始動電流とブレーカー容量の検討には電動機始動電流シミュレーター、加減速を伴う位置決め用途の容量選定にはサーボモーター選定ツール、複数台をまとめた契約電力の算定には需要率・契約電力計算ツール、遅れ力率の改善量を求めるには力率改善コンデンサ計算機が使える。
不具合や改善要望があれば、お問い合わせページから気軽に教えてほしい。
Mahiro
Mahiro Appの開発者。電験三種の勉強で 1:s:(1−s) を丸暗記して間違え、ポンプ室で銘板の1730rpmとにらめっこして極数を暗算した経験から、順引きと逆引きを対等に並べたツールにした。
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